第9話 バカが変な考察してきて困ってるんだけど



「くそ! なんでこんなことになったんだよ!」


 俺は目の前にそびえ立っている鉄格子を勢いよくけった。もちろんだが、その程度で鉄格子は折れることなく「キーン」と耳が痛くなるような音がした。そして俺は、自分の蹴った反動で少しよろめいてしまった。


「知らぬわ! お主がもっと周りを注意していればわしは、またこんな汚い牢屋の中に入ることはなかったのじゃ!!」


「まぁ、周りがあんなに囲まれていたのに気づいていなかった俺の不注意だったのは認めるけどさぁ……」


「やぁ。さっきぶりだな。君」


「うむ。元、るーむめいとよ。わしは舞い戻ってきたのじゃ!」


 トッティは俺たちと真正面にあるろう屋の中にいる、先程まで俺のことをビビっていたやつに話しかけた。

 俺は楽しそうなトッティの声を聞いて、なぜか腹が立ってしまった。まさかこれが独占欲というものなのだろうか。

 まぁそんなわけ無いか。俺がこのちびなんかに。

 俺は優しく包み込んでくれるような、お姉さんが好みなんだ。断じてロリコンではない。


「なぁ〜にが「舞い戻ってきたのじゃ!」だ! 早くここから逃げる手立てを考えろよ」


「それならお主のスキルでなんとかならんのか?」


「無理だ……。さすがにまだスキルが俺の体に馴染んでなくて、もうあのワープホールみたいのはだせない。あれ、結構小さな穴だったけど作るの頑張ったんだぞ」


「のじゃ〜……。じゃあわしらはどうすればいいんじゃ〜……」


「あぁ本当にこれは詰んだな……。潔くこのまま捕っとけばいいのかな……」


 俺とトッティは背中を壁にもたれかかりながら二人して、もう自分たちは助からないのだと未来を察していたとき。


「ニャ」


 可愛らしい鳴き声と、可愛らしい「トテトテ」という足音とともに俺たちの前に救世主が現れた。


「猫がきたのじゃ!」


 トッティは救世主を見て、手を地面に滑らせながら四つん這いで猫の方へといった。


「ニャウ! ご主人様を助けに来たのニャ!」


「そうかそうか……。ほ〜ら。わしがお主のご主人様じゃぞ〜」


 トッティは「ご主人様」という言葉に反応したのか両手を広げ、「いつでも歓迎する」ということを体全体で表現していた。

 のだが……。


「残念だったな」


 猫は迷いなく、俺の膝の上に座った。そして体におでこを擦り付けてきた。


「なぜじゃ……。なぜ拾ってきたわしのことをそっちのけで、お主の膝の上にいくのじゃぁ!!」


「ふっふっふっ……。俺とにゃんこは、お前がいない間ずっとベットの上でラブラブイチャイチャしていたんだぞ……」


「ニャ〜ウ! そうだニャ! われとご主人様はラブラブなのニャ!」


 猫は俺言ったことに同調し、膝の上で「ニャフン」とトッティのことを見下ろすように言った。

 まぁ、ニャフンとは言っていないんだけど。


「な、な、な……!! 猫が喋れるからって、人間の女を捨ててまさか獣に性の矛先がいくなんて!?」


「いやそういうことじゃないからな!」


 俺は慌ててトッティが、変な方向に「ラブラブイチャイチャ」という言葉を想像していることに気づき否定した。だが、どうやらそれはもう遅かったようだ。


「い〜や。わしは騙されんぞ。お主はさっき、「ベットの上でラブラブイチャイチャ」と言っていたのじゃ……。ということは、ベット上でいかがわしいことをしていたに決まっているのじゃ!!」


 トッティは今までにないほど饒舌に喋り、ペラペラと俺との会話で得た情報を元に俺と猫との関係を考察していた。


「ヒュ〜……お兄さん、なかなかヤルねぇ」


「お前は黙ってろ」


「ひっ……すいません」


 知らないやつに、煽られたことが気に食わなかった。


 俺はトッティの「どうだ!」と言っているような顔を見てこれはもう否定しても聞き入れてくれないだろうと思い、ため息をつく。

 そして、猫が来たからと言ってなにも進展していないこの状況をどうにかしなければと思い、口を開く。


「もうお前の誤解はとけそうにないし、もうあきらめる。それより早くここからでる手立てを考えよう」


「それならわれがこの牢屋の鍵を持ってきたのニャ!」


「なぬ!? それを早く言わんかい!!」


「ニャ……ご主人様、この小娘がわれのことを怒鳴ってきて怖いですのニャ……」

  

 ミーちゃは俺の体にスリスリと怖ように寄り添ってきた。

 こんなことされたら俺の猫愛が止まらなくなってしまう。


「よ〜しいい子だ。お前はなんにも悪くないぞ? 悪いのはこの、おバカなのじゃロリだからねぇ〜。いい子いい子」


 俺は怯えているミーちゃのことを元気づけようと、頭を撫でながら囁いた。


「お主ら、完全にできてるな」


「…………。ミーちゃが鍵を持ってきてくれたことだし、行くか」


 そうして俺たちは投獄初日にして、早くも脱獄したのであった。


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