第8話 牢屋に入るバカと盗賊スキル



 俺は5日ぶりの外に出ている。


 それもこれも全てあの、のじゃロリ。トッティのせいだ。俺は最近ずっと猫とじゃれたりして時間を潰していた。自家製の糸で通称、猫釣りをしてみたり一緒にみたりと猫とずっと遊んでいたのだ。んでもって、ずっと俺は猫とイチャイチャ遊んでいたのだがトッティはここ2日帰ってきていない。


 いつも外に出て何をしているのかなんて知らないが毎日必ず夕方には帰ってきていた。なので心配になった俺は外に出ているってわけだ。


「あぶニャウ……」


「あぁごめんな」


 ちなみに猫は俺の頭に乗っかっている。

 前足の肉球でで俺のおでこをさわり、後ろ足がビローンとしている。なので衝撃には弱いのだ。すぐ落ちそうになってしまう。


 俺は抱っこしていこうと思ったのだがどうやら猫はこっちのほうが好みらしい。


「もうすぐだ」


「ニャ!」

  

 俺が向かっている場所は俺が黒歴史としている盗賊団のアジト。

 

 もしあれが残っているのであれば、おそらく近辺の人の出入りくらいはわかるはずだろう。

 もう少しでつくという道中、俺の耳にある言葉に入ってきた。


「号外だぁ〜! 号外だぁ〜!」


 号外って、新聞とかそういうたぐいのものだろうか。疑問に思った俺は好奇心に勝つことができず、トッティのことそっちのけで声がした方へと歩き進めた。


「号外だぁ〜。とうとうあの窃盗犯が捕まったぞ〜」


 売り子のような少年はねずみ色でなにか書かれている紙を配っているようだ。

 どうやら思っていた通り新聞だった。


「窃盗犯?」


「ん? お前さん知らないのか?」


 俺は売り子が言っていた言葉を無意識に口に出すと、たまたま近くにいた太っているおじさんに聞かれた。


 この騒ぎようときた。

 おそらくその窃盗犯という人物はある程度、名がしれていてこの国では有名なのだろう。

 なので俺はで太っちょにこう返す。


「あぁ。最近部屋にこもりっきりでね。新聞もとっていないから……」


「そうかそうか……。まぁ新聞の内容はさっきあの売り子が言ってたけど窃盗犯なんだが、普通の窃盗犯だったらこんなに注目されることはねぇ。こいつがなぁ。窃盗された店は次々に倒れちゃってんだ」


 太っちょはまるでドラマのベテラン刑事かのように、神妙な顔をしヒゲをさすりながら教えてくれた。ヒゲなんて薄っすらとしか生えてないけど。


「ほぉ〜ん……。倒れるのか……」


 倒れるっている言葉は、日本で言うその店が倒産したという言葉なのだろうか。

 異世界って難しい!


「にしても犯人がこんなに小っさな女の子だったとは驚きだなぁ〜……」


 太っちょは俺に号外で大きく記事となっている写真を指さしながら言ってきた。


 そうまさかの写真の人物は、見たことあるような小さな女の子だった。


「えぁ!?」


「どうした?」


 太っちょは急に変な声を出した俺を奇妙な目で見てきた。


 やばいと思った俺は慌てて口を開く。


「ん!? いや、用事を思い出してね。じゃあ俺はもう行くよ。有益な情報ありがとう」


「お、おう。どういたしまして?」


 俺はその言葉を聞いてその場を離れた。


■□■□


 わしはまた牢屋の中に入っている。

 わしだって何がなんだかわからないんじゃ。その日もいつも通り、神器探しにあけくれていたのじゃが急に黒ずくめの怖い奴らに五感すべてを奪われて気づいたらこの場所にいたのじゃ。


「よう。トッティ様。浮かない顔だな?」


 こやつはわしのるーむめいと。

 名前は知らんのじゃが、あんまり嫌いでもない。

 こやつと初めてあったとき、わしが神だと言ったらマサルとは違ってちゃんと様付けしてくれたのじゃ。 されたときは妙なテンションになったんじゃが、これが元々あるべき姿。まぁ牢屋の中だけど。


「おいおい……。無視しないでくれよ?」


「もぅ、なんなのじゃ!?」


 わしはるーむめいとのほうを向いて怒鳴った。

 るーむめいとはその叫び声を聞いて、体が飛び上がったが「ニコリ」と気持ち悪い笑顔をして返してきた。


 わしはこいつと話すのが苦手なのじゃ。

 なんか……全部、先が読まれてる気がして鳥肌がたつ。


「俺はただ君が、浮かない顔だったから話だけでも聞いてあげようとしただけなんだけど……」


「それは余計なおせわじゃ!!」


「そうなの……――」


 わしに反論しようとしていたるーむめいとは、その言葉を言いかけている途中で急に口を閉ざした。


「む? そんな変な顔をしてどうしたのじゃ?」


「う、う、う、うしろ……」


「うしろ?」


「わっ!!」


 わしが疑問に思っていると、急に後ろから大きな男の声が聞こえてきた。


「のじゃ!?!?」


「はっはっはっ!!」


 男の声はわれの反応が面白かったのか、ころんだわれのことをそれはもう楽しそうに笑っている。


 われはびっくりしすぎて腰が抜けそうだったけど、なんとか立ち上がる。そして、「キッと」鋭い目つきにしびっくりさせたやつを睨めつける。


「な、なんだマサルか……ん? マサル? なんでこんなところにマサルの生首があるのじゃ? ていうかなんで喋ってるのじゃ?」


 そうあったのは今もなお笑ってる、バカな顔のマサルのような顔。胴体はない。あるのは顔だけ。

 

 どうなってるんじゃ……?

 われは何がなんだかわからず、「?」がずっと頭の中で錯乱していた。


「はっはっ……はぁ〜……。お前って、なかなかいいリアクション取るよな」


「また喋ったのじゃ!? 何なんじゃお主!?」


「……? マサルだよマサル。お前と一緒にここに来たマサルさんだぞ?」


 わしはその言葉を聞いてようやく、この顔だけの人物がマサルだということが確信した。

  

 でもなんで生首なんじゃ……?

 わしの心の中はこの顔がマサルだとわかったとしても、疑問が残るばかり。


「マサル……。お主、どどどどうやって生首で会話ができるようになったのじゃ?」


「いやこれ生首じゃなくて、ただの顔だから。実はさっきなんでかわからないけど、スキルの概要が頭の中に入ってきてね? 胴体は宿屋にあって、顔だけを宿屋とお前がいる牢屋に繋げてるんだ」


「な、なんじゃそれは……?」


 われはマサルが、またしても意味のまからないことを口早に喋っていてもう何がなんだかわからなくなっていた。


「んなこと俺に聞かれても知らんわ。というかお前。なんで窃盗なんかしたんだよ。金はたくさんあるだろ」


 マサルはわしのことを軽蔑したような目で見てきた。わしはその目を見て慌てて事実を元に反論する。


「いやそんなことしてないのじゃ!! わしは気づいたらこの場所にいて……。完全に濡れ衣なのじゃ!!」


 われは腕をブンブンと振り回し体全体を使って、自分がいかに潔白なのだと訴えかけた。


「……本当か?」


「うむうむ! 本当なのじゃ! わしは何もしてないのじゃ!! じゃからここから早く出してくれ!!」


「う〜ん……。本当……っぽいか」


「お主は、信じてくれる!?」


 わしは誰も信じてくれないと思っていたけど、やっぱりこの世界で一番かかわりがあるやつは、わかってくれるのだと安堵した。


「あぁ……いや、最初から信じてるさ。お前は窃盗なんかできないだろ。アホなんだし」


 マサルは苦笑いをしながら言ってきた。


「なぬ!?」


「よし。今出してやる」


「わしのことは無視か!?」


 わしはリアクションを取ったにもかかわらず、その言葉はさっきとは違って完全にスルーされてしまった。

 

 こやつなんなのじゃ……?

 わしはまだマサルのことをいまいちよくわかっていない。知ってるのは引きこもりだったことぐらいだ。


「……そこのお前。このことは誰にも言うなよ。監視になにか知らないかと聞かれたら、「知らない」って言えよ」


「は、はい!!」


 わしのるーむめいとはマサルから言われた言葉に反射的に肯定した。


 まぁ……普通は、いきなりなにもない空間から生首が出てきたらみんなそんな反応をするだろう。

 わしは、るーむめいとの反応を見てそう思った。


「のじゃロリ。手を掴め」


「はぁ〜……お主。なかなか、わしの扱いがわかるようになってきたんじゃの」


「……それはどうも。全然嬉しくないけど」


 そしてわしは元の宿屋に戻った。

 だが戻った先には……。


「お前たち。そこを動くな」


 わしらのことを、警備員のような黒い服の人間たちが囲んでいた。

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