第5話 ギルドマスターって愉快なおじさんが多いと聞いていたんですが



 案内された部屋は、窓ガラスを除いてすべての壁が1重透明なケースに囲まれていた部屋だった。

 この部屋は、ギルドマスターの部屋というよりかはフィギアが大好きな人の部屋のようだ。


「あぁ……すまない。先に腰を掛けていてくれ。おいメア」


「はい」


「飲み物を」


「はい」


 メアと呼ばれた黒いスーツを「ビシッ」とかっこよく決めた秘書のような女性はその言葉を聞いて、部屋の隅でなにかを始めた。


「ふふふ。急に呼んだのだけれども私はまだ少し急ぎの書類が残っていてね。ちょびっと待ってて」


 俺とトッティはどこか癖がありそうなゴツい男。ギルドマスターのおじさんに言われた通り、指をさした四人がけのような大きいソファの上に隣同士で座った。


 俺とトッティは緊張で、一言も発することなく座っていた。


 そして男が言っていたとおり、それからちょっとしたら目の前に座ってきた。


「あの……俺たちのことを呼んだ要件は?」


 俺は早く話を終わらせて、金を受け取りたいと思い失礼かもしれないのだが早速聞いた。


「君は空気を読まず、早速本題に入るのだね。ふふふ……いやなに。怒ってはいないさ。私の周りにいる人たちは世間話をしてから本題に入るという話し方なのだが、君のような強引に話の手綱を握ろうとするのも嫌いじゃないよ。ふふふ」


「あぁ……それはどうも」


 俺はどう反応すればいいのかわからず、適当に流した。


「まぁ話し方なんてどうでもいいんだ。そうだな要件か……。要件はそうだな。……おしゃべりに誘っただけかな?」


「ん?」


 俺はてっきり、「君たちは強すぎる……。周りの奴らの目を気にするのなら我々の下についてくれ」とかいう重大な話だと思っていたので予想外だった。


「ふふふ……。なぜ疑問に思うんだ? 今、君たちは冒険者のなかで注目の的だろ?」


「まぁ……一応」


 たしかに冒険者登録をした日に、ヨズミーヤを倒した者をギルドマスターが気になることはわかる。


「ふふふ。謙遜は状況によって嫌味に聞こえちゃうから気おつけるんだぞ?」


「えっと……はい。そうです。俺があの有名なマサル様です」


「いや今言い方を直せとは一言も言ってないんだけど」


「あっ、すいません」


「お主バカか」

 

 トッティは俺の耳元で突っ込んできた。 

 うん。お前には一番言われたくない。

 

「ふふふ。君が噂の妹ちゃんか」

  

「妹なんかじゃないのじゃ!」


「え! そうなのかい? でも私は仲良く言い争ってたっていう噂を聞いているよ?」


「それは喧嘩じゃ!! わしとこやつは……」


「お嬢ちゃんとこの、冴えない男は……?」


「冴えない言うなし」


「姫と使用人の関係じゃ!」


「はぁ!? お前何言って……」


「そうなんだ……。じゃあ姫様。早速だけどヨズミーヤをどうやって倒したのか教えてもらえるかな?」


「おい、絶対言う……」

 

 のじゃロリが俺より前に出て喋っている、この状況がすべてが遅かった。


「あれはこの使用人のスキルによって倒されたのじゃ!!」


「はぁ〜……」


 トッティはどこか誇らしげに俺のことを指さしながら、声高らかにスキルのことを喋った。


 スキルのことを言うと何かと面倒なことになりそうだったので秘密にしたかった……。いやそんなこと、のじゃロリに知られている時点でそれは無理なことだと思っていたほうがよかったな……。


「ほほう……。スキルとな。そうかそうか……そのことについて教えてくれるかな。使用人くん?」


「使用人じゃなくて、マサルです」


「そうか。ではマサル。スキルについて詳しく教えてもらえるかな?」


 笑顔がなんか怖いよ!


「はぁ〜……わかりました。スキルっていうのは………」


 もちろん俺が別世界の人物だということや、スキルに堕ちてしまったことは省きながスキルについて喋った。


「実は、我々のギルドに何人か君と同じくスキルを持っている人がいるんだ」


「そ、そうなんですか……」


 俺は自分が言ったことに矛盾がないのか、内心めちゃくちゃ焦った。


「あぁ……そいつらはみんな超人的な力を持っていてね……。手から炎を出したり、体がカチコチに固まるやつだったり」


「へぇ〜そうなんですね」


 俺はもちろん俺以外に異世界から飛んで来た人たちがいるのだと予想していたのだが、そのスキルが人に知られているということが意外だった。

 俺は絶対自分から言うことなんてないのに。


「そうなんだ。だからスキルを持っている本人である君に聞くんだが、これは完全なる私の見解にすぎないのだがスキルっていうのは元々生まれたときから備わっているものではなく、後天的に上位的存在に与えられるものなのではないのか? そう、言ってしまえば神のような存在に」


「――――」


 俺はスキルについて、確信のつくようなギルドマスターの言葉を聞いて驚愕した。顔こそは変わらず、笑顔を作っているのだが内心は、ソシャゲの排出率が0.001%のときだったような絶望感をあじわっていた。


「まぁこんなこと聞いても知ってるわけないか」


「そ、そうですよ。まったく変なこと聞かないでくださいよ。は、ははは……」


「よし! バカな男の話に付き合ってもらって悪かったね。え〜とはい。これが君たちの報酬だ」


 ギルドマスターは俺たちと挟んでいるテーブルに、「ジャラジャラ」という硬貨が擦れる音をさせながら白くナニカがたらふく入っているような袋をおいた。


「……じゃあ。俺たちは」


■□■□


 そして俺たちは金を手に入れて、適当に人がいなさそうな宿屋の部屋を一週間借りベットが2つある部屋を手に入れ、ホームレスではなくなった。


 ふぅ〜……。

 あんな死ぬかもしれない戦いをへてなんかどっと肩の力がおりたな……。


「疲れた……」


「よし! 神器探しに行くのじゃ!」


 俺が目を閉じ一眠りしようかとしていたとき。

 トッティは一切空気を読まず、俺の耳に向かって無邪気に叫んできた。

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