第3話 働かないとホームレスになっちゃうんだよ!



 異世界には何にでもある。

 魔法やスキル。

 そして、いろんな種族が和気あいあいと仲良くする。

 

 でもそれは所詮漫画やアニメの世界。現実なんてそう甘くはかった。

 魔法なんてものは異世界に来てから一度も見てないし、スキルなんて俺と同じくここに飛ばされてきた限られた人たちしかいない。ちなみに、俺以外の異世界人なんて一度も見たことないからスキルもみたことない。

 種族は言わずもがな、耳が長いエルフ。低身長でバカ酒飲みのくそジジィドワーフ。そして奴隷商会でしか見たことのないまるで天使のような白い翼が背中から生えているパーティス。

 まぁいろんな奴らがいるけどそいつらはまじで全員仲が悪いらしい。よく街で喧嘩してるの見てるからな……。あんな殺し合いみたいなのを見たら、一緒にパーティを組んで冒険!

 なんてできるはずもない。もし「冒険しようぜ!」などと口にしたら俺が殺されるかもしれない。

 本当、現実ってもんは残酷だ。


「ぐぅぅ……。マ〜サル。はら減ったのじゃ」


「ぐぅぅ……。俺もだよ」


 そう今、俺たちは二人してバカみたいに腹を鳴らしながら路地裏にもたれかかっている。

 

 なんと、ホームレスになってしまったのだ。


■□■□


 俺は例の盗賊団に「これからお前がこの盗賊団の頭になれ。俺は旅に出る。また会う日まで……さらばだ」とかっこつけて出ていった手前、一日後に「金がなくなって戻ってきました」とかいって帰ってきたら幻滅されるだろう。そんなことできない。


 じゃあどうするのか。

 見知らぬ地で放り出された二人。

 数日過ごしているで、幸い言葉は通じるということはわかっている。


「よしのじゃロリ。金稼ぎにいくぞ」


「飯!!!」


 俺はこう思った。

 奴隷商会があるのならば、そうぞくに言う冒険者ギルド。働く場所があるのではないのかと。

 そしてその予感は的中した。


「では冒険者のご登録ですね?」


「はい」


「そうなのじゃ」


「ではまず最初にお子さんから登録させてもらいます。このカードを握ってもらえるかな?」


「はぁ。握るのじゃ」


 トッティは受付嬢の言葉に呆れたようなため息をついたが反論せずそのカードを握った。

 その瞬間。

 何も書いていない銀色の冒険者カードだと言われた鉄のような板は輝き、やがてその光はなくなった。


「はい。えっと……トッティ様。たしかに冒険者ギルドへのご登録が完了しました。ようこそ。冒険者の世界へ」


「やったのじゃ〜!! じゃあわしは入り口で待ってるのじゃ」


 トッティは受付嬢から受けったカードを上げ奇声を放ちながら、嬉しそうに後ろに走っていった。


「あの……この板って何でできてるんですか?」


 俺はトッティのことなど無視し、受付嬢に問いかける。


「さぁ私はただの受付嬢なのでわからないです……。あっでも、一人の男が作り上げたとか言うのは聞いたことありますね。まぁこの板ができたのは1000年以上前なので……。って、それはギルドにある有名な噂なんですけどね」


「男……?」


 受付嬢は苦笑いしながら言ってきた。

 

 このカード作り上げたというのならばもしかしてその人物は俺と同じく、この世界に飛ばされた人物なのではないだろうか。

 どんなスキルなんだろう。まぁ1000年以上前の噂となるともうとっくにその人物は死んでいるだろうが。噂というものは確実に情報源があってこその噂だ。


「ではお次はあなたの番です」


■□■□


「お?」


 あの報酬金額……。

 うひゃー! この依頼を達成したらそ、そ、そそんなにもらえんのかじゃ!?


「わっ!」


「なんだガキ」


 わしの体は、わしより2周りぐらい大きい男が取ろうとした手にぶつかってよろけてしまった。

 

 な、なんであやつの手はわしが取ろうとしていた依頼に向かってのびているんじゃ?

 はっ! もしかしてこの男、こやつもあの依頼をねらってるんじゃな……。ちょっと情けない声が出たけどわしは屈っしないのじゃ! この依頼はわしのものじゃ!


「黙るのじゃ。チリになりたくなければ早くこの場から立ち去るのじゃ!」


「あぁん??」


 大男はしゃがみこんでちょっと動いたらおでこがあたっちゃうほどの距離にきて、わしのことを睨めつけてきた。


 わしは知らないやつから、いきなりの上から目線に睨まれたので腹が立ち、思いっきりおでこをぶつけようとした。

 だがそのとき。

 

「わっ……」


 わしの体は急に宙に浮き、後ろに下げられた。

 前にいるのは見覚えのある男の背中。マサルだ。


「いや〜はっはっはっ。本当すいません。このガキはまだ5歳で世間知らずでしてね? まだおねしょしちゃう歳なんですよ」


「な! わムグ……」


 わしはマサルが言ったありもしないことを訂正しようかと思い口を開いたが、すぐに両手で口をふさがれ喋れなくなり、口呼吸もできなくなった。

 もしわしが、日常的に口呼吸していたら死んでたところじゃぞ。この殺人未遂犯が。


「あの……とても失礼をしてしまったかもしれませんが、子供の戯言だと思ってスルーしてもらえると……」


「チッ……。ガキが調子に乗ってんじゃねぇ」


「あははは……」


■□■□


 俺はトッティを冒険者ギルドの物陰に移動させ肩を掴む。


「おい! なんであんな体格差のあるやつと喧嘩始めようとしてんだよ。そもそもお前クソ弱いくせに」


「あやつとこの依頼を取り合ってたんじゃ」


「ん? 依頼?」


 俺が疑問に思ったとき、トッティは後ろに隠していた手を勢いよく目の前にだし、小汚い紙を見せてきた。


「うむ。これを見ろ! 依頼報酬一千万の超高額報酬。村を襲う、ヨズミーヤの討伐じゃ!」

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