第2話 スキルに墜ちるなんて恥ずかし!




 わしは神であるトッティ。

 つい一週間前、神界から掟を破った罰として異世界に飛ばされたのじゃ。あのマサルとかいうわしを異世界に道連れにしたあの悪魔はあれから一度もあってない。まぁ、どうせ引きこもりなんだからどこかで野垂れ死んでるのがおちなのじゃ。


 鉄格子の中にいるけどわしって案外勝ち組だったりして。


「はっはっはっ〜!」


「うるせぇ!」


「ひっ……。ごめんなさいなのじゃ」


 今わしのことを怒鳴った人族はわしが牢屋から出ないように、監視してる男。まぁそんなことわしの知ったことじゃないんじゃけど。

 

 わしはよくわからないけど、ある国に到着したら突然手と足と耳と目を隠しながらこの場所に閉じ込められて今に至るのじゃ。


 まぁ、わしって結構かわいいし? 神々しいし?

 人族が攫うっていうのは納得なんじゃが、いつも硬いパンを食べさせられてるのじゃ。もっとちゃんとした食べ物を用意してほしいものじゃ。


「はぁ〜あ。お腹すいたのじゃ」


「黙れ!」


「ひっ……。黙るのじゃ」


 わし、何も悪いことしてない。

 なんでこの人族にこんなに怒られねいといけないんじゃ……。


「ひっく……」


 わしが泣きそうになっていたとき、ドアが開くような音と同時に聞き覚えのある声が聞こえた気がした。


「どうぞ、マサル様」


「ありがとう」


 この牢屋の中からは姿は見えないのじゃが、神にわからないことはない! この声、もうひとりの声がマサルって言ってたし絶対わしのことを異世界に道連れにしてあのマサルじゃな?


 あぁ〜そういうこと。さてはあやつ、牢屋からわしのことを助けて恩をうるつもりじゃな……? 

 わしは助けられなくとも平気なんじゃがな。


「ははは……」


「ここにいる奴隷たちは、我々奴隷商会イチオシのものばかりです。特に我々が声を大にしておすすめする奴隷はこのパーティスです」


「ふむ……」


「この奴隷は翼が生えているのですが、空を飛ぶ以外は何でもできます。我々はしっかりとあっちの方の指導もしてありますので、家事から夜のお仕事まで何でもでぎす。あぁ……ちなみに、初物です」


「ほほう?」


 牢屋から顔を出してみたらマサルの姿が見えた。

 全身真っ黒な服を着てる。

 なんか見た目が変わってるけどあれ完全にマサルなのじゃ。


「おい」


 わしは考え事をしていたら、いつの間にか目の前にマサルの顔がきていた。


「な、なんじゃ」


「お前もしかして、のじゃロリか?」


「違う! わしは上位神の愛娘であるトッティじゃ!」

 

 こやつ、わしが誰かわかっててからかってるな……。未だにのじゃロリってどういう意味なのか知らないけど、バカにしてるに違いないのじゃ。


「よしこいつを買おう」


「んな!?」


 急にマサルが意味わからないことを言い出したのでわしは衝撃であ然とした。


「この奴隷はまだ商品には程遠くてですね? 同じお値段でしたらもっといい奴隷が……」


「俺は客だ。買うぞ」


「は、はっ。お買い上げありがとうございます」


 店主はマサルの威圧感のある言葉に怖気づき頭を下げた。


 え? わし、マサルの奴隷になるの?

 なんで、わしのことを神界から道連れにした悪魔の奴隷にならないといけないの……?


「嫌なのじゃ〜!!」


■□■□

 

「二人きりで話をしたい。お前は下がってろ」


「はっ。了解しました」


 わしのことを優しく扱って、温かいシチューを食べさせてくれた使用人候補一号はマサルの言葉に頭を下げ部屋から出ていった。


 なんでこやつの言いなりになっているんじゃ?

 この悪魔もといマサルはわしと違って、異世界にきて一週間で成功していたのか……?


「おう。これで俺らだけになったな」


 よくわからない服装、そして人格が変わったような言葉使い。

 ……さてはこやつスキルに堕ちてるな。

 しょうがない。この神である、トッティ様が底に堕ちた赤ん坊を這い上がらせてやるか。


「ちょいとお主。お主が右目につけている眼帯は何があったんじゃ?」


「あ? これか。これはただのファッションだ。周りの奴らには傷があるって言ってあるが、片目が隠されて中々かっちょいいだろ?」


「いや全然かっこよくないのじゃ」


「は?」


「ん? だからかっこよくなんかないのじゃ」


「てめぇ……」


「お主はきづいてなかろうがその姿はまるで、お主が10歳のときに書いた闇の支配者の姿と瓜二つじゃ」


「な……!」


 マサルはわしの言った言葉に目を見開いてきた。 

 あとひと押しじゃな。


「お主、そんな姿になって闇の支配者にでもなったつもりなのか?」


「……わかった」


「あぁ〜あ。死んだあとにこんな中二病丸出し姿になった子供を見る親の気持ちにもなってみるんじゃ。それはもうたまったもんじゃなかろう」


「もうわかったから! ちょっと静かにしてくれ!」


「そ、そうか」


 わしはマサルの叫び声を聞いて、口を閉じる。

 そしてマサルは叫んでから10分ぐらい頭を抱え込んでいたが口を開いた。


「ありがとう」


「いいんじゃ。いいんじゃ。感謝するぐらいだったらわしの首にある奴隷の首輪をとってもいんじゃよ?」


 わしは首にある輪っかをマサルへと見せる。


 そう! わしはただスキルに堕ちていたやつを助けたのではない! 

 この首輪はご主人となった者にしか解除できないのだ!! だから助けてやって恩を売って、首輪を解除させようという作戦なのじゃ。

 わしって天才。さすが神。


「だめだ」


「なんじゃって!?」


 わしはマサルからの言葉が衝撃的で思わずその場に飛び上がってしまった。


「な、なんでだめなのじゃ!? わしはお主をスキルから助けてやったっていうのに!?」


「そもそもスキルってなんのことだ?」


「ギクリ」


 マサルはわしのことを貫くような目つきで見てきた。


「ずぼしみたいだな」


「ず、ずぼしじゃないのじゃ!! スキルのことを説明するのは異世界飛ばす神がする仕事なんだじゃ! だから悪いのはわしじゃなくてわしらのことをここに飛ばしたあの頭がかたいおばさんが悪いんじゃ!」


「いいらか早く説明しろ」


 マサルはわしの頭を鷲掴みにしながら笑顔で顔を覗いてきた。


 も、もうスキルには堕ちてないはず……。

 ってことは本気で怒ってるの!?


「はい。喜んで教えるのじゃ」


「よろしい」 


「スキルは、異世界に飛ばされた者にのみ与えられる神からのちょっとした手助けみたいなじゃ」


「ほう手助け」


「そうじゃ。異世界に飛ばされる者たちは全員何かしら偉業を成し遂げる運命があるのじゃ。じゃから、おくられるのじゃ」


「偉業ね……。でも俺みたいにスキルに堕ちたらそんなことできないぞ?」


「お主はたまたま運が悪かっただけのじゃ。スキルに堕ちる確率は1000000分の1なのじゃよ?」


「百万分の一か……。でそんなありえないほどの確率に当たった俺のスキルは何なんだ?」


「そんなことわしに聞かれてもしるわけないのじゃ。神が与えるスキルは完全にランダム。誰かどのスキルなのかなんてスキルを宿している本人しかわからないんじゃ」


「じゃあどうやったらわかるんだ?」


「たしか神のテキストに書いてあった通りだと……。目をつぶって自分自身に問いかけてみるのじゃ」


「自分自身……」


 マサルはそうつぶやきながら目を閉じ眉間にシワを寄せている。


「……ぞく」


「なんじゃって?」


「俺のスキルは盗賊だ」


「はぇ?」


 なんじゃ? 盗賊って。

 わし、長いことたくさん異世界に人族を飛ばしていったけどそんなガラが悪そうな盗賊スキルなんて聞いたことないんじゃが。だいだいみんな善人っぽいスキルなんじゃが……。まぁそう言うスキルはあやつらの言っている言葉にするとチートスキルじゃな。

 じゃがこいつは盗賊って……。

 あぁ。だからこやつは沢山の人を従えることができたのか。でもそれってスキルの範囲を越えてる気が……。


「なんかいいな。盗賊って。聞くからに強くて機転のきく人って感じ」


 マサルは目を輝かせながらわしの方を見てきた。


「はぁ〜……」


 そうじゃ。こやつはまだ17歳のガキじゃった。おまけに引きこもっていたせいで精神年齢はまだ子供のようだときた。


「よし! おいのじゃロリ!」


「なんじゃ!?」


 マサルはいきなり立ち上がり、ドアノブに手をかけた。


 やっぱりその、ノジャロリ? 

 とか言う言葉は心の底が疼くのじゃ……。


「ここを出る。一緒にこい」


「なに言ってるんじゃ! わしは神じゃぞ! お主のような下等種族の人族となんか一緒に行くわけなかろう!」


「お前も一緒に神器を探さないと神界に戻れないんじゃないのか?」


 マサルはわしのことを呆れたような目で見てきた。


「そ、そうじゃった!」


 わしはすっかり忘れていた。


 こやつはわしのことをこの世界におろした悪魔なんじゃが、もしこやつに買われてなかったらわしはずっと牢屋の中だったかもしれない。


「ふぅ〜……」


 これは、大人の女性として決断するときじゃな。


「わかったのじゃ。ただしわしがリーダーじゃ」


「は? それはないだろ」

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