第23話 踏み出す勇気 #23


 開会式が終わり、ぞろぞろと一回戦ではないチームが観客席へと戻っていく。僕らは早速試合があるため、そのままコートへ向かいボールを取り出し再び対人パスをそれぞれ二人組で行った。


 「タクちゃん、いよいよだな。今日のタクちゃんはいつもよりいきいきしてるよ」

 「そうすか? 久々に観客が多いからですかね」

 「まぁ確かにギャラリーが多いとテンション上がるよなぁ」


僕と永井さんは緊張をほぐすために普段より多めに喋りながら体を温めていく。今日は気温もそこまで低くない。少し動いただけで再び汗が首元に滲んだ。


 「みんなも調子良さそうっすもんね」

 「勝利の女神が来てくれるからだろ」

 「ど、どうなんでしょうね」

 「タクちゃんはもうユカリちゃんを見つけたか?」

 「いや、それがまだなんすよね」

 「もうちょっとで試合、始まっちまうのにな。まぁこんだけ人がいりゃ、もしかしたらどこかで見てるかもしんないしな」

 「んー、そうだといいっすけどね……」


彼女が見に来てくれているのなら、僕を見つけた彼女は真っ先に僕に声をかけてくれる気がした。確信はないが、僕はまだ彼女が館内にいる気はしない。だが、もう今は試合モードに頭が切り替わっているので、彼女の存在よりも試合の方に集中している。そしてこんな状態でも集中出来ている自分を褒めたくなった。


 「まぁ決勝までには来てくれますよ。じゃあぼちぼちサーブ打ちますか」

 「そだな。向こうのキャプテンに言ってくるよ」


まずは初戦。勝つことだけを考えよう。いつ吉田さんが来ても良い報告がすぐに伝えられるように。僕は心の中に立ち込め始めた暗雲を振り払うように足を動かし、腕を動かし体を温めていく。審判の笛が鳴り、それぞれのエンドラインへ僕ら選手を並ばせた。いよいよその瞬間が近づく。高鳴る鼓動を落ち着かせるために僕は大きく深呼吸をした。隣を見ると、普段は汗が滲んだりしない永井さんのユニフォームの首元が僕と同じぐらい汗が滲んでいた。


 「まぁね、言うてもここは通過点だよ。気楽にやっていこう」

 「そうっすね。まだまだ道のりは長い」


審判が再び大きく笛を鳴らした。僕らも相手チームの選手たちも堂々と歩いていき、お互いネットの下で力強い握手を交わした。ついに僕らの試合が始まった。隣のコートで打ち合っているボールの音が普段よりも大きく聞こえた。

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