第3話 あの頃と今 #3
『急だね。どういう魂胆?』
コインランドリーで洗濯物を洗っている間に一旦アパートに帰ってきた僕はヒロキにメッセージを返した。もう少しで日を跨ぎそうな時間帯に送ったにも関わらず、ヒロキからはすぐにメッセージが返ってきた。
『別に何も考えてねえよ、久しぶりにみんなの顔が見たくなって。タクにもそんな感情無いか?』
キャプテンやクラス長をやっていたヒロキの流石の感情だ。僕にはそんな感情、湧き上がるはずがない。
『んー、あんまりないかなぁ』
『あんまりってことはゼロではないってことだよな?』
返事を返す毎にヒロキのメッセージが届く速度が早くなったので僕もそれに応えることにした。
『まぁ時間が合えば?』
『言ったな。オレが思い立ったら、すぐに行動に移すの知ってるよな』
『それはもう何年も前から知ってるよ』
『じゃあグループ作るから入ってくれ』
『へーい』
僕がメッセージを返してからしばらく返事が来なくなったので、その間に風呂を済ませて洗濯物をコインランドリーへ取りに行った。
アパートに戻りスマホを開くと、ヒロキからグループトークへの招待通知が届いていた。グループの名前は「元三年五組同窓会しません会」だった。その単純な名前を見て、不覚にも笑えてしまった。
『あの頃、仲良かったメンツを集めてみたつもり。何人参加してくれるかは分からないけど、とりあえずこれを見てるだけで楽しみになってきた』
ヒロキのメッセージを見ていると、あいつがワクワクしながらそれを作っていたのが容易に想像出来る。時間帯は相当遅いが。招待メンバーは僕を入れて十人。確かに僕が当時、楽しんで話したりしていた数少ない人たちの名前がそこに並んでいた。画面をゆっくりスクロールしていくと、一番下に記されているアカウントを見て僕の視線がそこに釘付けになった。
「吉田ユカリ……」
猫型ロボットの使うタイムマシンよりも圧倒的に速く、僕の脳内映像は当時のものへと遡っていく。彼女の姿を想像するだけで顔が熱くなった。
『よくみんなの連絡先、残ってたね』
少しずつ熱くなる感情を抑えながら、グループに参加するボタンを押して再び僕はヒロキにメッセージを返した。
『届いてるかは分かんねえけどな。とりあえず今入ってくれてるのは、今入ってくれたお前だけだよ。まぁ時間も時間だけどな』
『そりゃそうでしょ。作ったばっかりなんだから。てか、誰も参加しなかったりしてね』
『そうなったら、タクとサシで呑むだけだ。簡単な話だ』
『まぁまた何か進展あったら教えてよ。今、夜勤でしょ?忙しくないの?』
『夜中に忙しくてたまるか。消防士は大体この時間は上手いことサボってんだ』
『そっか。まぁおれはそろそろ寝ないと明日起きれないや』
『おう。悪かったなタク。遅くまで。またみんな明日には何人か行動してくれるかもしれないから、タクも空いてる時間で確認してみてくれ。正直、吉田が来てくれたら嬉しいだろ笑』
その文字を見た瞬間、ドクンと心臓が一度大きく跳ねた。平然を装いながら文字を入力していく。
『何言ってんだよ。十年以上前の話だろ』
『ハハ、冗談だよ。まぁまたすぐ連絡するよ。また空いてる時間に返してくれ』
『はーい。ヒロキも夜勤頑張ってね』
『サンキュー。ほんじゃまたな』
『うーい』
電話でした方が確実に手っ取り早いこのやりとりも、僕が苦手な事を知っているヒロキなりの配慮だと思っている。相変わらずあいつは優しい。今日は中学生に戻った夢を期待して部屋の電気を消した。窓の外から聴こえるスズムシっぽい虫の鳴き声がオルゴールのように心地よかった。僕は目を瞑ると、あっという間に夢の中へ落ちていった。
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