第2話 あの頃と今 #2
✳︎
「お疲れ様。今日もありがとうね」
「いえ。こちらこそ。じゃあアスカさん、また明日」
「はーい。いつも言うけど、ケガには気をつけてね」
「分かってますって。じゃ、失礼します」
「うん、行ってらっしゃい」
仕事を終え、僕とアスカさんだけが使う出入り口のドアを勢いよく開けた。そして、駐車場にある車に乗り込み、すぐさまアクセルを踏み込む。僕は火曜日が好きだ。仕事が夕方に終わり、それから趣味のバレーボールができるからだ。また、それだけが僕の唯一の楽しみでもある。太陽が今日も役目を終えて、寝床へ向かうように山の向こう側へ隠れていく。体育館へ着く頃にはすっかり日が落ち、月が仕事をする景色になっている。重量感のある体育館の扉をガラッと開けると、もう既にメンバーが集まっていて準備体操を始めていた。
「おぉ、タクちゃん。今日は早いな」
「上手いことお客さんが帰ってくれたので、すぐぶっ飛ばしてこれました」
「ハハ、やっぱり全国レベルは車走らせるスピードも一級品だな。違反すんなよ」
「んなことしないっすよ。さ、やりましょ」
「おう。あ、ストレッチはしろよ」
いつもは八人集まれば多い方のチーム練習も、今日は十二人以上いてゲーム形式の練習が出来そうで僕は既に気分が高まっていた。さっき仕事中に思い返していた光景が再び頭の中に浮かぶ。いつだってそうだ。バレーをする前はいつもあの景色を思い出す。あの、僕の人生のピークを。
「オッケー、そろそろやりますかぁ」
キャプテンの永井さんの声かけにより、僕らはそれぞれ二人組になりキャッチボールから体を慣らし始めた。バレーボールに触っていると、歳をとってもいつまでもこうして自分の体を思うように動かしていたいと思う気持ちが湧く。以前、それを永井さんに伝えたら六十手前の親父が全く同じことを言っていて笑えたわと言っていた。
「やっぱりバレーボールは最高っすね」
「いやタクちゃん、まだキャッチボールしかしてないけど」
「流石彼女がバレーのタクヤだな」
「坂本だっておれに負けないぐらいバレーが好きだろ。てか、みんなも好きだろ」
「はは。違いねぇ」
僕らはいつもの雰囲気で和やかに練習を始めた。仕事の二時間と、今からするバレーの二時間は全く同じ時間なのに、どうしてもバレーの時間はあっという間に過ぎ去ってしまう。時間とはつくづく不思議なものだ。いつも思い知らされる。それと同時に、悔しくもなる。
✳︎
「お疲れ様っした。ではまた来週」
「おう、タクちゃん今週もありがとね」
「はーい、失礼します」
練習を終えた僕らはそれぞれ車に乗って豪快にエンジンを吹かして体育館を去っていく。僕はバレーをした後の達成感に満たされながら夜道をのんびりと車で帰るのが好きだ。今日みたいに、僕を見守ってくれているように照らしてくれる満月がくっきりと空に見える日は特に心が安らぐ。
「ゲーム、久しぶりにしたなぁ。案外なまってないもんだ」
信号が青色に変わるのを待っていた僕のズボンのポケットからピロリンとメッセージの通知音が鳴った。スマホの画面を確認すると、そこには幼い頃からずっと一緒にいる親友のヒロキからのメッセージが届いていた。
『タク。いきなりだけど今度同窓会でもしない?』
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