新成人
翌日、やっと身体を動かせる程度に回復していた俺は早速アキトとシノの相手をさせられていた。公園で街の様子を見ている俺の周りでブゥーン、ギュイーン、シュパパパーンなどと奇音を鳴らしながら走り回っている。にしても朝から元気なものだ。かれこれ1時間近くこうしている気がする
公園からは街を全部見渡すことが出来、ここに来る前にアラトの家族に聞いた内容を俺は目で見て確認していた
街は5つの場所に分類されている。南に畑と家畜小屋があり畑と家畜小屋では品種改良もとい進化を意図的に起こす事で栄養価の高い植物や動物を生産している。北には行政関係が集まっており決まり事は大概ここで決められる。また、集落全体は南から北へとなだらかに隆起していて高台となっている北に行けば集落全体が見渡せる。そして最北端には族長に挑戦することも可能な決闘場がある。西に向えば商店がズラーッと並んでいてシズクさんが言うには西に行けば今必要なものが必ず見つかるらしい。東には工場が集まっていて、常に喧嘩が絶えず機械が何かを作る音が鳴っているらしい。東西南北4つの場所の中央に住宅街が密集している
そんな住宅街の中でも一回り大きく一番北側に存在するのがこの家だ。俺はアキラさんにもらった地図をしまう
ベースに居た時は大地の民はもっと古い生活をしているものだと考えていた。人の数も生活の質も俺が思っていた何倍もデカかった
規模感で言えば族長というよりも町長とか市長の方が合っているような気もするが彼らがそう呼んでいるのだから何かしら訳があるのだろう
ベンチに座って渡されたおもちゃを持ってなんとなくブーンやらドーンやら効果音を言いながらアキトとシノの相手をしているとアラトが来た。出会ったときとは違い今日は白シャツに紺色のジャケット、黒色のジーンズといった服装だ
「やっほ」
というアラトに合わせて俺もやっほと答えると笑顔で一つのカードを見せてきた
これは? と目線だけで問う俺に対してアラトは自慢げに伝えてくる
「成人の証拠! ソラのおかげだよ! ありがとう!」
「……おぉ、おめでとう」
今まで仲のいい友人という存在が居なかったソラは反応に困りながらも答える。ソラの言葉に続いて声が続く
「アラトくん、おめでとう」
俺とアラト以外の第三者の声に驚いて後ろを見る。振り返るとエツヤが公園の入口からこちらに向かってきていた
エツヤを見た途端アラトの顔が険しくなる
「何か用ですか?」
アラトは俺より前に出て俺を庇う様にエツヤに立ち塞がる
「私はただソラくんとお話をしようかと思っていただけなんだけどねぇ」
エツヤは頭を掻きながら困り顔になるが少しすると思いついた様にあ、と声を出し口元を歪ませる
「そういえばこのあと先代に差し入れを入れようと思ってですね~。なにか好きなものとかを聞こうかと思ってたんですよぉ。仲の良かったアラト君ならなにか知っているかと思いましてぇ」
明らかに挑発だ。見ればアラトは拳を強く握り歯を軋ませている。完全にエツヤの煽りに乗せられている
「そういえば、エツヤさんに報告する事がありました」
先程まで笑っていたエツヤはほぅ? と声を漏らす
「つい先日、成人になったんですよ」
「なるほど素晴らしい。実に素晴らしいことだ。しかし、成人祝は出せないぞ?」
エツヤはニヤニヤにながらふざけてアラトをおちょくる
その様子に今まで見せた事が無いような怒気を孕んだ顔つきでアラトはエツヤを睨みつけながら宣言する
「そんなことではなく、僕は! 僕の祖父の無罪を主張し、貴方が長になる事に異議申し立てをさせていただきます!」
少し時間を置いてからエツヤは先程までの態度から一変し真剣な顔つきになる
「異議申し立てかぁ。成人のみが利用することができ、全ての裁決に対してその取り消し変更を求めるという、ここ30年は利用されていないシステムだな」
「そうです。成人になった僕にも利用する権利はもちろんありますよね?」
エツヤとアラトは真っ向から向き合い、互いを睨み合っている
「もちろん。ただ……」
エツヤは睨み顔から一瞬にして嘲笑顔になる
「決闘権も持っている事を知っているかい?」
アラトがはいと答えるとエツヤは満足したのか今まで見た中で一番の笑顔を見せると
「じゃ、それを行使させてもらうよ」
来るときよりも楽しそうな足取りでエツヤは帰っていった
エツヤが見えなくなるとアラトは深呼吸して呼吸を整える
俺が声をかけるよりも早く
「ごめん、ソラにはまた迷惑かけるね。アキトーシノー帰るぞー!」
遊んでいるアキトとシノを呼びすぐに4人で家に帰る
「あの人と決闘することになった」
アラトのこの言葉はコレで三回目だ
するとシズクとアキラは一回目二回目同様にハァーと深い溜息を付き頭を抱える
アラトはもう一度説明しようとする
「もう分かった。つい、売り言葉に買い言葉で決闘することになった。そうなんだな……?」
アキラは頭に置いていた手を突き出しアラトに最終確認を取る
アラトが頷くのを見て覚悟を決めたのか勝てるのか? と問いを投げた
「勝つのは難しいと思う」
アラトは意外な言葉を発する
あんな啖呵を切っておいて? という俺の疑問は多分この場にいる全員が持っているだろう
「あの人は今年で62歳になったとはいえ未だに先遣隊を率いている隊長だ。それにあの人は熱血で単純な脳筋って訳じゃなくて意外と戦略家だ。並大抵の戦術じゃ直ぐに見極められて対策されるぞ」
アキラが言うようにアラトは先程のエツヤの挑発を見て脳筋バカでは無い事を予想していた。アラトの祖父を嵌めたのも彼の戦略が要因なのだろう
「でも、負けない」
それは口から出任せではなくなにか考えあってのようだった
「分かった。決闘といっても色々準備が必要だから多分明後日以降になるはずだ。それまでの間に出来ることをしろ。良いな?」
アキラの言葉に頷くと直ぐにアラトは行動を始める
まず、畑へ向かいエヴォの実を出来るだけ買う。エヴォの実というのは大地の民が逃げる時に一緒に回収した木の実でコレを摂取すると体内のエヴォ成分を消費する事で特有のデメリットを受けることなく侵化をすることが可能になるのだ。ソラの場合、特有の異常な疲労感が何日も続くのがコレを摂取するだけで異常な疲労感という代償を肩代わり出来るのだ
その後商店街へ向かい武器防具を整える
ソラと出会った時は成人の儀の正装だった為、砂色の布を被り全体的に暗い色で統一されていたが今回は防刃ジャケットや厚手のズボンを購入しより防御を固くし、ナイフも成人の儀専用の武器のため新しくアラトの武器を見繕う
「アラトの意見も聞いて決めようと思うんだ。どの武器が僕に合っていると思う?」
ソラはしばらく店内を見て回り、一つの武器に目を留める
「コレはどうだ?」
俺が手に取っていたのは刃に溝が掘られているナイフだ。横にある小瓶は毒でこれはいわゆる毒ナイフというものだ。毒ナイフを見るとアラトは少し驚いた顔をした
「確かに、確実な勝利を求めるならこの武器が一番いいかもね……」
若干引きながらも俺の意見を参考にしつつアラトは悩んだ結果一つ購入する武器を決断した
そうしている間に日は傾き陰り始めていた
夕日を浴びながら俺とアラトは帰路についていた
「あの、聞いてなかったけど、ボァースクを倒したあの時……」
アラトは今まで触れられてこなかった話題を出してきた
話すタイミングが無かったとはいえ誤魔化していられる様な事でもない
今まで友達というものが出来た事は当然無かった。けど、なんとなくアラト本人に確認を取った訳でもないけど多分友達だと思ってくれてる
「俺は……旧人類に引き取られた新人類の捨て子だったんだ」
俺は人生で2回目の自分の身の上話を語り始める
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