序章

第1話 かぐや姫、1200年前の記憶が戻る

地球に最も近い都市、御社(ミヤシロ)。

「ふぅ、終わった」

屋根に届く程の高さの書類を見上げながら

彼女は言う。

彼女、かぐや姫には地球に居た頃の記憶がない。

1日100時間労働という地球では「異常」となされる状況も、ここ月では「普通」なのだ。

「お疲れ様です。」

かぐや姫の傍らで自身の髪を巻いている

従者、玲愛(リナ)が言う。

玲愛は黒い髪を一纏めにしている幼い顔立ちの女である。

「ええ、ありがとう」

仕事が終わるや酒をくみ始めるかぐや姫は返す。

月での1日は長い。約100時間の労働を終え、

残り約220時間、皆さんは何をするだろうか。

…かぐや姫の1日は、とてもつまらなかった。

毎日休むことなく書類を片付け、上司である親族には礼儀を弁え、お見合いに参加させられ、つまらない遊戯に明け暮れていた。

だが世の中不思議なもので、1つしか物事を覚えていなければ、そこが基準、普通となるの

だ。

そう、「たった1つ」しか覚えていなければ。

「じゃ、この書類渡して来ますね〜」

玲愛は立ち上がり言う。

「ええ、いつもありがと」

そして酒を飲むのを再開しようとした時、


…事件が起こった。


外が異様に騒がしいことにかぐやは気づいた。

「かぐや様、かぐや様!きゃあっ!」

急いで戻ってくるや障子の段差で転び、書類をぶちまける玲愛を無視してかぐや姫は言う。

「一体どうなっているのです!?」

「イテテ…と、とりあえず着いてきてください!」

部屋を飛び出て事件の現場に急行するかぐや姫と玲愛。

そこは都から随分と離れたところだった。

現場に辿り着いた時、2人は異様な物を見つけた。

「なに…これ?」

なにかが入っているかのような鉄の塊。

月の者達にはこれが何かは分からなかった。

そう、これは皆さんご存知ロケットである。

かぐや姫が月に帰り約1200年の時を経て、

1975年、アポロ計画の日がやって来たのだ!

「なんでしょうね、アレ。中から何か出てきそうな…」

盛大なフラグを立てる玲愛を片目に、

汚れた星「地球」からの飛来物に目をやる。

「本当になんだろう、今まで見たこともないし」

見続けて数分、中から何かが本当に出てきた!

「あれが地球人ですか。月の民と形が似ていると記述がありましたが、なんでしょう、おぞましいですね」

玲愛が皮肉を垂れ長しながらかぐや姫を見やると、


「「ゴハァァァ!」」


かぐやはいきなり嘔吐した。

「ど、どうしたんですか!?かぐや様!」

かぐやはよろけた身体なんとか保ちながら言う。

「あの生物、既視感が…ぅぅ…。」

「と、とにかく早く戻りましょう!」

そう言い、硬直した体を引っ張るようにして、2人はその場を去った。


第2話に続く…

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