第6話五年後
「轟け、雷よ!」
杖を構え、大声を出した。
「やっぱり出ないか。」
雷系の魔法は特に才能が大事だからな。
「マーク、まだ雷魔法をあきらめないの?」
「いやー、だってかっこいいし。」
あきれたような声色が聞こえた。兄も使っていたから、俺にも才能があると思ったんだが。
「多分マークに才能はないと思うけど。諦めた方がいいよ」
「はっきり言うなあ。」
長い髪の毛に赤い目、ロングコートに奇抜な帽子。極めつけは彼女の体の周りに侍らしているモンスター。この国の冒険者なら必ず知っている彼女の名前はエリザベスである。
冒険者とは、この世界に住んでいる魔物やまたは盗賊など人々を害するものを退治または駆除することでギルドという組織から報酬をもらい生計を立てている人々のことを指す。エリザベスはその中でも、一番強いS級冒険者という地位に属している。彼女以外のS級冒険者は、現在たったの3人。それだけでも彼女の強さがわかるだろう。
「今度は何の依頼?」
「もう気付いてるでしょ。」
彼女が指さした先には数十匹のイノシシがいた。しかし、四足歩行で畑の食物を食い散らかす生物ではもはやない。全員が二足歩行で立ち、おそらく彼等のリーダーとみられる個体は、討伐を過去に担当した冒険者の剣を両手に持ち、剣とその刃は返り血で真っ赤に染まっている。
「なるほど。確かにこれは、、、知能があるイノシシの魔物。厄介だな。」
村もイノシシの住処の近くにあった。S級冒険者が出てきてもおかしくはないわけだ。
「いつも通り魔法を一発放ってもらうだけでいいでいいから。」
「はいはい、いつも通りね。」
一応、僕と彼女はパーティーを組んでいる。しかし、その実態は悲惨なものだ。僕が魔法を一発放ち、相手が混乱したところに彼女が飼っている魔物が相手を倒す。僕はこれ以外、一切仕事をしない。この役目はいらないと思うが最初の一発があるだけで倒しやすさが随分違うらしい。
「水よ、顕現せよ。」
数秒後、イノシシたちの頭上に水たまりが巨大な水の正方形が現れた。そして、ぱっしゃーん、と突如頭に冷水が当てられる。
「相変わらずものすごい魔力量だね。少しは分けてほしいよ」
「お前は、魔力がほとんどない代わりに便利な魔法持ってるからいいじゃねえか。」
彼女エリザベスがS級冒険者たる所以は彼女が持っている、魔物を使役しまた召喚することができるという魔法にある。
一般的な魔法、特に炎・水・土・草・風の五種類は際立って才能に依存しない。何故なら、魔法が使われていた古代からこの魔法たちは民衆が使いまた使われていくうちに、段々と後世の自分たちの子孫が使いやすいようにと魔法を改良し、教え方を工夫していったからである。しかし、それでも完全に独学で魔法を使いこなすのは無理難題だと言えるだろう。忍耐強く成果が出ないのに何年も一人で頑張り続けることは、並大抵の人間はできないからだ。
其れとは別に、基本的な魔法ではなく特殊な魔法がある。例えば、雷なんかはある程度一般的な魔法ではあるがそれでも上記の五つに比べて教えることができる人間が少なく、しかも大抵は歴史が浅いため各人が使いやすいように改良がなされているわけでもなく、一般的な魔法で使いこなすにはおよそ四年。雷などの特殊な魔法は早くて6年とされている。が、これまで語ってきたのはいずれも指導者がいる場合である。「魔物を使役し、召喚する魔法?」使えるものも世界に存在しないのに教えられるものなんているはずもなく。エリザベスは生まれたときからこの魔法を持っていた。なぜか弱い魔物は最初から彼女に懐き、よほど強い魔物でないと彼女には手を出さない。人は彼女のことを”真の頂点捕食者”と呼ぶ。
水をかぶって驚いているイノシシの周囲に次々と魔物が現れた。鳥が嘴でイノシシたちの毛皮を啄む。犬がイノシシの手にかぶりつく。熊が一斉に殴り掛かる。
「あー、一応イノシシを死なせないように。あんたたちの仲間になる予定だからね。」
彼女は心底興味がなさそうにそういう。
「相変わらずえぐい光景だな。」
「・・・・・もう慣れちゃった。」
彼女はそう寂しそうに笑った。
「動物は好きなんだよ、でもね。」
想像を絶する光景に目をそむけたくなる。そう言おうとしたのだろうか。
「クックルー、クックル、クックルー。」
彼女が使役している鳥の一つが彼女に話しかけていた。この鳥は、彼女が最も長く使役しており一番信頼を置いている。
戦場にもう一度目を移すと、そこにはもう倒れているイノシシたちがいた。
「猛き猛獣よ、我に仕え給え。」
そういうと、イノシシは青い光に包まれる。使役完了の合図である。
「ふー。」
「お疲れ。」
彼女は戦っていないが毎回想像以上に消耗している。精神的なダメージがやはり大きいのだろうか。
あのトーナメントから五年後。今僕は一人の冒険者として生計を立てている。ただ、五年前と比べて大きく変わったことが一つだけ。
「マークとエリザベス、お前たちは王都に戻れ。」
「え、どうしたんですか?」
「第四皇子が面会をご希望だ。」
僕はだんだんと憧れの兄に近づいている。
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