第5話勇者
「準決勝!!!!勇者マキシマス共和国から来た勇者、ノーマン!!!!!!」
眉目秀麗、そして天下無敵の勇者様とあれば民衆は騒ぎ立てないわけがなかった。準決勝ということもあるだろうがそれにしても観客の熱狂を感じる。
「そして、小さな小さなルーダ町からきた少年マーク!!!!」
おい、今度の歓声は少なすぎんじゃないのか観客よ。俺の心が泣いてるよ。
目の前の男は、流石というべきか今まで戦ってきた者たちとは比べものにならないほど立ち姿が様になっていた。姿勢はすっとしていながら力を抜いており、それでいてまったく隙が見つからない。
「よろしく。」
「・・・・・・・ょろしく。」
声がめちゃくちゃ小さい。クールな男なのだろうか。
「始め!!!!」
その声の余韻が聞き終わるや否や、俺は吹きあがる土煙、ドラゴンが動いたような轟音、擦れて煙臭い匂い、そして後ろから自分の首筋に当てられている冷たい金属を同時に感知した。
「いっ!!!!!」
身動きが一切取れないように手と足で固められている。
「・・・降参してください。」
後ろ首筋から小さい声が聞こえた。完敗だな。
「降参します。」
「あれに勝てる人間なんていないと思うんですけど。」
「ははは、そうだね。」
試合は瞬時に終わってしまったので、俺が暇を持て余していたところにアナベルさんはまた現れた。体に何の異常がなかったのも逆に悔しい。
「でも勇者があれだけ強ければ、逆に安心できますね。魔王にも負けること何てなさそうだ。」
「うーん、それはどうかな。魔王の強さは散々知ってるでしょ?」
「それは、、、知ってますけど。」
確か、勇者クラスの力ではないと傷もつかないんだとか。
「じゃあなおさらよ。ね?」
「はあ。」
「決勝戦見に行く?」
「ああ~、明日あるんですっけ?」
でも、勇者の圧勝に決まってる気がする。
「あ、今勇者の圧勝に決まってるだろって顔したね?」
「え?逆に勇者負けると思います?」
負ける要素がない気がする。
「面白いものが見れると思うよ。」
決勝戦。気になって結局見に来てしまった。勇者と対面してるのは誰だ?真っ黒く日焼けした体に最低限の衣服。杖も剣も持っていない。まさか、、、
「始め!!!」
僕との戦いと同じく、勇者は速攻で決めに言っているようだ。ぶわっと、土煙が上がる。
ただ、違う点は明らかに対戦相手がその攻撃を捌ききっている点だろうか。しかも素手で。
「オラオラオラァ、勇者はそんなもんなのか?」
常人には見えざる(もちろん僕にも見えてない)速度で剣技は展開されている。そして、対戦相手が負傷を負っているように見えないということはそれを抑え続けているということだろう。
「どうしたんだ勇者様?」
「調子でも悪いのか?」
「いや、素手であの剣を止めてるんじゃないのか?」
「そんなこと、、、、人間業じゃねえよ。」
観客も次々にどよめき始めている。すでに戦いは一分が経過した。驚いた、最初期の人間らしく武器を持たず戦う通称”素流”。それを使って戦うものは”拳士”と呼ばれる。子供の絵本に出てくる程度のただの亜流で、武門的な要素はほとんどないかと思っていたがこれほどのレベルに達していたのか。
確かにこれは面白い。見に来てよかったとは思う。だが、、、
「ダメージが全く通ってないね。」
「こんな真昼間から酒飲むんですか?お仕事は大丈夫なんでしょうね?」
その人はそれを聞いてあっけにとられたような表情をする。
「そういうところ、マーカスにそっくりだね。」
「・・・・そうですか。」
試合は二分が経過した。少しずつ、ほんの少しずつだが日焼けした肌に小さい切り傷が増えていく。
「打開策が欲しいところだけど、、、なかなか難しそうね。」
「そもそも殴る蹴るしか攻撃手段がないですからね。」
それでも戦いは続いていく。もっと早く、もっと強く。
三分が経過した。今だ、反撃する予兆はない。ただ、勇者の表情に陰りが見えてきた。まったくの無表情から、彼は目を見開き口は開き、驚きといった感情が垣間見える。
「面白いな。」
実に面白い。あれは自分と対等に戦う人間が現れたことによる動揺なのか、それとも歓喜なのか。本人でなければ分からない。
五分が経過した。
ついに、素流の拳士が動いた。
「自分の左小指を犠牲に、」
そして、右腕の拳を腹に当てるつもりか。
「でも勇者に当てられるのか?」
勇者の動きは素早い。本気避ければ、、、、
しかし、そんな心配はつゆも知らず勇者は相手の小指を斬ったあと。じっと、新鮮な血が水道あのように流れ出している相手の手を見、そして次に土ですでに汚れ始めた拳士の小指を睨み、返り血で汚れてしまった自身の剣を凝視した。
「あ、当たる。」
パァン!!!!!拳士の拳が当たった瞬間。何かが弾けたような音が観客席に響き渡る。
「俺の負けだぜ。」
がら空きだった勇者の腹に突き刺さった拳。しかし、おそらく勇者の意図しないところではあったが彼の鍛錬の証であったその拳は見事に砕け、破裂していた。
一瞬、の静寂。そして、優勝者が決定した瞬間であった。
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これで第一章的なものは終わりです。次から、第二章に入ります。
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