第4話準々決勝と魔法の使い方

「準々決勝!!!!!今まで数々の熱戦を生み出した、田舎から来た魔法使いマーク対王国学園三強の一人、アスタルト!!」

野次馬たちの熱中はとどまることを知らず、今日も今日とて通路に若干違法気味な立ち見が出るほどであった。


 まったく、本質として代り映えしない観客席を一通り見まわした後、最前列に見慣れない人物がいることを発見した。決して、人を自分を見た後に素通りさせないオーラを放っているものが四名。一人は、一日目に騒いでいた女性。一人は眼鏡をかけて背筋がピンと伸びている男。一人は今にもこのトーナメントに参加し優勝しかねない武闘派といったオーラをまとった男。一人は目を隠した凶悪なオーラを放っている男。

「観客席が気になるのかい?」

目の前の男もまた観客席の四人と同じように、凡夫にない雰囲気を纏っている。

「まあ。なかなか、雰囲気ある人たちだなあと思いまして。」

「ははは、君は面白いね。将来の国王候補をそんな風に評するとは。」

ああ、皇太子なのか。道理で尋常ではない佇まいなわけである。

「弟が失礼したね。アイツはまだ自分が特別だと思いたいんだ。ほら、16歳とかそういう年頃が抜けられない子もいるだろう?」

弟、、、、ハイドンとか言うやつのことか。確かに、よく見ればいま前にいる男とが似てどことなく体立ちが似ている。ただ、弟には華がなかったな。兄にはある華が。

「別にいいぜ。元貴族は大体あんな感じだからな。」

「ははは、そうだね。なかなか人は自分が手にした幸福を手ばせないものだから。」

目の前の男はそういって、細長い杖を構えた。弟とは違い、鎧をまとうこともせず学校の制服一枚である。

「手加減はしないよ。僕も勝てるかわからないからね。」

「こちらこそ。」


 魔法使い対魔法使いの戦いで特に重要な点は五つほどある。魔力量、魔法の操作能力、杖、使う魔法の属性とそして術者の身体能力。

例えば、いまアスタルトは俺に向かって水の魔法を打ってきているが僕は、それを魔力を使わずにかわすことができる。それによって彼はその魔法に使った魔力量をそのまま消費したことになる。

戦場なら戦局を打開する様々な外部要因があるが、完全な魔法使い同士の一対一なら当然膠着状態だ。この距離だと自分が魔法を打っても当たらない、でも相手も当たらないだろう。そんな腹の探り合いが始まる。

「君、確か炎と水どちらも使えるんだってね。」

こんな感じで。

「その二つは使えますね。」

三つめは練習中だ。今出せる段階にはない。

「どの距離までなら精密にコントロールできるのかな。」

「さあ、どうでしょう。」

俺は正直魔力操作は苦手だ。20m以上あると的に当てることさえおぼつかない。今、相手との距離は50m以上ある。この距離では当たりようもない。




「つまらないことを言うけどね、この杖どのぐらいの性能だと思う?」

「少なくとも俺の杖よりは高いと思います。」

「見せてあげよう。この杖の力を。」

彼はそういって、杖を上に大きく掲げた。

「轟け、雷鳴よ。」

「っつ、雷か。」

続いて、小さな雨雲が頭上に現れ、俺の目と鼻の先の地面を貫いた。雷も使えるのか、こいつ。

「まだ終わりじゃない。」

断続的に雷は俺の元へと降りてくる。

「いったぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――――!」

その中の一つがくるぶしに当たり激痛が走った。

「この雷は君の身体に入ると電気となって駆け回る。早く降参した方がいい。」

「あなたが使う魔法は二つですか。電気と水。」

とりあえず、時間を稼ぎたいな。

「ふふ、本当かな。もしかしたら、三つ目も使えるかもしれないよ?」

「まさか。この年齢でそれができる人なんて、勇者かそれに近い実力の持ち主でしょう。」

およそ相手への距離50mか。

「はは、多分できないことじゃないさ。」

「そうです、っね!!!!」

これが失敗すれば負けだな。

「うん?」

「水よ、顕現せよ。」

まず、相手の土に水をぶつけ土煙をたてた。とりあえず、これで雷は狙いが定まらくなる。そして、そのまま走り出す!!







「なるほど、その間に自分の射程内まで接近してくるのかな?」

アスタルトはそう思い、それに備えて杖を再度持ち直す。どこに出てもこれで瞬時に雷を落とせば倒すことができる。

「いや、違います。」

「そこか!!!!」

声が聞こえた方向に視線を移す。

「とどろ、、、は??」

そいつは魔法使いの命であるはずの杖をこちらに投げ込んでいた。当たるの雷?当たるわけないな。間違いなく当たったら痛手だな。動けないかもしれない。思考に一瞬の空白が生まれる。

いまからだと避けられない。

「ちっ。」

杖で受け止めなくては。すとん、という軽めの衝撃が杖を通じて体に伝わる。

これが本命ではないのか?

視界にそのままの勢いで突進してきている相手が入ってきた。

「肉弾戦狙いか?」

其れなら雷を打てば、、、

「打てないですよね?この距離ならあなたも巻き込まれるから!!!!」

「なっ、、、確かに!!!!」




魔法使いに最低限の身体能力は必要である。得意の魔法が使えなくて呆然としている男を殴って、杖をぶんどれるぐらいには。

「杖は取りました。降参してください。」

距離0の間合いから彼の杖を突き付けた。

静寂が続いた。微笑をたたえた顔が一瞬真顔に戻る。

「見事だったね。」

そしてふーっと、ため息をついた。

「降参だよ。」



「すごいねえ。流石、マーカスの弟だ。」

「どうも、アナベルさん。」

多分それにかこつけて、酒を飲みたいだけなんだろうな。この人は。

「正直、ここまで来るとは思ってなかったよ。」

「自分でもできすぎだとは思っています。」

まるで底なしだなこの人の食欲は。お金どっか出てんだろう。

「でも、多分次は勝てないよ?」

「勝てない?ですか。」

やっぱり魔王軍対策課ともなると、元貴族並みの給料は出ているのかもしれない。

「知らないの?君が次に戦うの勇者だよ、勇者。」

「勇者?」

この人の酒の強さは勇者の強さ超えてるなあ。

「正確には勇者候補だね、まあほぼ決まってるようなもんだよ。」

「勇者もさすがにあなたよりは強くないでしょうねー。」

「え?」

「え?あ、こっちの話です。お気になさらず。」

そろそろ一升瓶を飲み終わりそうだ。匂いだけでも寄ってしまいそうな強いお酒である。

「まあ、頑張って。大体勇者の相手はみんな一秒で降参まで追い込まれてるから三秒粘れたらいいね。」

「はあ。」

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