第3話憧れ

憧れ、というのは時に残酷なものだ。ある時、そこが絶対に届かない領域だと悟ってしまったり。またはほかの理由であきらめなくてはならなかったり。果てには、憧れの存在に追いつく前にそれが死んでしまったりする。


身分格差・奴隷制度が『法令上で』廃止されたのが十五年前。しかし、身分格差・奴隷制度は名を変え、品を変え依然堂々と存在していた。兄マーカスは、それを止めるために様々な手を尽くしていたがもちろん、田舎の町一つで何かをしたところで変わるはずもなく。成人してからほどなく、兄は王都へと乗り込んだ。この国を変えてやると意気込んで。

兄の奮起虚しく、議会はなかなか動かなかった。当然だ、議会の議員たちも元貴族でそれにより「得をする側」なのだから。もともと、体は強い方だったが王都での様々な出来事で心労がたまっていたのだろう、兄は王都で流行っていた病にかかって死んだ。




「三回戦!!!次の試合は、田舎から出てきた少年マーク対王都学園ハイドン!」

大会も中盤に差し掛かり、観客の熱狂はとどまることを知らない。元気そうで何よりである。

「平民!!!頭が高いぞ!」

今度の対戦相手は典型的なというか、まさにといった元貴族だった。こういうのを兄は変えたかったんだろうな。少し憎たらしい。

「ずいぶん重そうですね。」

相手は豪勢で動きにくそうな甲冑を全身に身にまとっていた。俺の杖500本ぐらいの金は悠にかかっていそうだ。

「お前の試合はもう見ている。水を使う魔法使いだろ。町から出てきたのに、魔法を使えるのは誉めてやろう。」

どうもどうも。父に教わったんですよ。

「だが、水ということはこの鎧を突破する手段に乏しいな。」

・・・・残念ながらこいつの言っていることは正しい。水魔法の弱点は鎧で防がれやすいことである。もちろん、大きく魔力を使って頭に大量の水を当てれば頭を揺らし気絶させることもできないわけではないが、基本的に戦いにおいてそんな隙はない。

「なるほど。対策済みってわけだな。」

『鎧』の登場は魔法が古代と比べて徐々に衰退していっている原因とされている。普遍的でかつ使いやすい魔法つまり火や水、草や土などの魔法は炎以外鎧を着た相手への突破手段に乏しい。それは、戦場では致命的な弱点となりうるのだ。

「さあ、どうする?」

そういいながら鎧を着た男は剣をゆっくりと取り出した。これもまた高そうな剣である。

「確かに水魔法だと突破手段に乏しいな。」

「あ?」

鎧の男が一瞬止まった。

「なんで僕が水しか使えないと思ったんだ?」

僕は杖をもう一度持ち直す。

「なっ、、、、いやこの年で二つの種類の魔法を使える奴なんて王都でも少ない。はったりだな。」

そういいながらも、鎧の中の男は声が震えていた。

「ファイアーボール。」

僕は杖の先に顔ほどの大きさの炎の球を浮かせる。

「降参しませんか?」

一応、聞いてみるか?

「・・・・・」

返答は何もない。

「その鎧、高かったですよね。元貴族といえど親御さんは身を切る重いでお金を出したはずですよ?」

相手の動きが完全に止まった。

「ここで降参すれば、鎧も無事ですしあなたも無事です。その鎧はこの炎が当たったら、すぐに熱くなるでしょう。僕は負けようがないですよ。」

相手は鎧の中でずっと考えているようだった。観客も音を出さずに緊張感のある沈黙が続き、杖に汗がにじむ。降参してくれるだろうか?

「俺が・・・・・ただの平民に負ける?」

あーいや、してくれなさそうだな。

「うわあああああああああああああああああ。」

突撃か!!!それを判断し、球をそのまま胸元に当てる。

「舐めるなーーーーーー!!」

もちろん、それは相手にとって覚悟の上。我慢して最高スピードで突進してきた。鎧にはもう火がついているはず。

「相当熱いはずなんだけど、、、」

油断していた。どうせ根性なしだろうと、相手の実力を見誤ってしまっていた。彼が我慢してこっちに来るのはプライドだろうか。よけ切れない!!!!

こうなったら、杖で剣を受け止めるか。いや、この杖は結構年代物だ。魔法と杖としての性能は上がっているが、耐久力は下がっている。体まで易々と貫通しかねない。

「負・・・・」

「おらああああああ!!!!!!!」

刃はすでに目と鼻の先にある。このままだと死、、、、

「中止”!!!!!」

審査員席から飛んできた衛兵によってあと数センチ、いや数ミリほどしか体と刃の間にはない状態で剣は止められていた。

「え?」

中止?どういうことだ。この大会はめったなことでは中止は取らないはず。とりあえず、安心していいのだろうか?

「ふうー。」

一気に気が抜けて、思わずそこに座り込む。危なかった。あれが当たっていたら、死んでいたかもしれない。確かな殺気を感じたし、走馬灯が一瞬見えそうだった。

「火傷が酷い。水をください。」

そして、戦いに割り込んできた衛兵は倒れこんだ対戦相手をゆっくりと地面に置いた。続いて、対戦相手の鎧に一気に水がかけられて鎧が鎮火しようとする。すっかり鎮火し終わった時には、手袋をした治療術者が待機していて鎧をゆっくりとはがす。鎧には、皮膚が張り付いていた・・・・



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どうも、作者の絶対に怯ませたいトゲキッスです。大体第一章が終わるまでは、こんな感じの異世界バトルが続きます。少し俺ツエエ系もだいぶ入っているかもしれません。まあ、気にせずに読んでいただけると幸いです。

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