第2話第一戦

建前上、リエール王国武力トーナメント(これからは全部言うのがめんどうなのでトーナメントと略記することとする。)の出場者は各都市からその町の人口に合わせて、代表者が選出される。しかし、『開催地特典として』今年も王国立学園からは、(王都の人口が多いことを考慮に入れても)大量の生徒たちが出場する。開催地特典だから、学園に元貴族の子息たちが多いこととは何も関係ない、、、、、はずだ。



王都に到着してから三日後。ついにその日がきた。

「お集まりの皆さん!!ご注目ください。リエール王国武力トーナメント第一回戦の開始です!」

スーツにネクタイを締めた司会者がそういうと、コロシアムの観客席はにわかに盛り上がり始める。。二万人はいるんじゃないか?流石この国での一大観光事業と呼ばれるだけではある。その声を聞いて、コロシアム内部の待合室で周りの出場者たちも各々の方法で準備を整え始めた。こう見ると、出場者たちはみんな慣れていてこの状況にも落ち着いているように見えるから不思議である。


「次の戦いはルーダ町代表マーク対ミネルバ村代表ネーム!!!」

お、やっと名前を呼ばれた。結構待ちくたびれたな。

コロシアムに入ると、熱狂した観客席から早速パンが投げ込まれた。聞くに堪えない罵詈雑言も当然のように聞こえてくる。土がデコボコしているフィールドの状況から見るに、前の試合が熱戦だったのだと思う。最前列で暴れてるのは、、、ありゃ王族か?多分お姫様っぽい恰好の人が暴れている。

「よろしくお願いします。」

さて、僕の相手は、、、僕と同じような境遇らしい小さな村の出身だった。少し細く、礼儀正しい少年である。少しほつれた衣服も町の鍛冶屋で一番高い値段で売られているような剣も同じような感じで親近感がわいた。

「よろしく。」

僕はそういって杖を構える。もちろん、これも町の鍛冶屋で売られているようなものだ。

「!!!王都出身でもないのに魔法が使えるんですか、羨ましい。良い師がいたんですね。」

「父に教わったもので。」

合図はなかった。相手の呼吸が整ったとき、ただ真っ直ぐに剣が飛んでくる。

「鋭い。」

彼もこの年にしてなかなかの剣士のようだった。

「水よ、顕現せよ。」

とりあえず、水を使って土を濡らしておく。

「なるほど、これでは足を取られてしまいますね。」

剣士と戦うときにやる古典的な戦法だ。しかし、対策しづらいので重宝する手段でもある。時間稼ぎをしながら、相手が疲れて足が止まったところに水の大技を当てたい。

「時間が経つほど不利ですね、早く勝負を決めなくては。」

更に早い速度で、剣士は接近を試みる。

まずいな、想定よりレベルが高い。このままでは、体のどこかの部位は必ず犠牲になる。それなら、、、

「右腕はもらいました。」

剣がきらりと光り、右腕がに激痛が走る。指は何回かなくなったことはあるけど、腕は初めてだ。予期していても気絶しそうだ。

「ウォ―ターボール。」

痛みに耐えながら左手で詠唱をする。当然、至近距離から驚いている相手の顔に直接水の球が当たった。

「・・・左利きだったのか。」

少年は小さく呟きながら、フィールドに倒れこむ。少年の気絶を確認した後、マークもゆっくりとあおむけに横たわり、観客の歓声を聞きながら意識は深いまどろみの中に落ちていった。


「一回戦でここまで無茶をしたのは君が初めてだよ。」

と、この国一番の治癒術者と称されている禿げ頭の中年男性は発言した。

「いえ、この大会にはどんな負傷も治すことのできる術者がバックにいると聞きまして。」

でなければ、流石にこんな無茶はしていない。

「どんな負傷は無理があると思うんだけど、、、、まあいい。一回戦は君の相手が先に気絶したようだから、マーク君の勝ちということになってるけど、、、三回戦でる?」

「二回戦ではなく?」

「君の前の試合の勝者が、本当は二回戦で君と当たるはずだったんだけどねえ。両者ほぼ互角で重症だったからドクターストップかけちゃったんだよ。」

なるほど、ラッキー。

「では、俺は大丈夫そうだということですか?」

「うん。腕も支障なく動くでしょ?」

腕立て伏せでもやってみるか。いっち、にーい。さーん、よーん。

「大丈夫そうですね。出ます。」





「ねえ、君?」

三回戦前日の夜、晩飯を探しに王都の市場を散策しているときだった。不意に背後から肩を優しくたたかれる。

「なんでしょうか?」

肩の後ろを振り返るとそこには、大きな弓矢を持った衛兵がいる。兜をかぶり、鎧をまとっているため、どんな人相かも分からない。

「悪いことをした覚えはないんですが。」

「ああ、そういうことじゃなくてね。」

そういって、衛兵は兜を脱いだ。長い金髪の髪があふれ出る。女の人だったのか、兜をかぶっているとそれさえわからなかった。

「お兄さんとかいたりしない?」

少し、この質問には意表を突かれる。別に質問を想定しているわけではなかったが、その角度からくるとは思わなかった。

「いましたけど、なにか?」

「ああ、やっぱり。マーク君だよね?話はお兄さんからちょっとだけ聞いてるよ。」

兄の知り合いか。

「とりあえず、私の知り合いがやってる酒場にでも行こうよ。」

「未成年だから、酒は飲めませんよ?」

「わかってるって。」




「ぷはー、やっぱここの酒はうまいわ。お代わり!!!」

このお姉さん、結構端正な顔をしているとは思うがかなりの酒豪である。アナベルさんというらしい。国軍魔王対策課隊員の一人、ということも聞いた。

「で、マーク君。君もまたお兄ちゃんのように町の代表になった王都に来たクチかな?」

「はい、そうですよ。」

そういえば、兄もそうだったような気もする。

「なるほどー。うん、やっぱりマーカスと似てるね。その目といい顔といい。」

「そうですか。」

よく言われることだ。

「一回戦見てたよー。田舎から出てきたのに、魔法使えるの凄いね。」

少しぼおっとした目でこちらをじっと見つめてくる。

「いえ、父にそういう覚えがあったものですから。」

今覚えている魔法のすべては父に教わったものだ。

「それでもすごいよ。王都でしか基本的に魔法を教えられる人や杖とかもないからね。」

・・・



「じゃあねー。予定があったらまた会おー!!!」

「では、また。」

開放されたのは、3時間後だった。酔いつぶれた相手の世話は基本的には疲れるのだがあの人は最後までほとんど酔わなかったなあ。

「さあ、集中。」

三回戦への準備を今からしなくては。


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