第15話
「ワン!ワン!」
はっとして振り返ると、そこにはオトがいた。
「オト...しばらく見てなかったから心配してたんだよ」
オトは彼女のもつ、いつもとは違うなにかを感じたのか、しきりに吠えていた。
「ワンワン!!ヴヴヴワン!ワンッ!」
「どうしたの、オト。落ち着きなよ」
オトは高台にのる彼女をなんとか引き戻そうと、服の袖を引っ張った
「やめて、服が破けちゃうじゃない。いい子にしていてよ。ねぇ...オト...!」
彼女は腕をふりはらい、オトを引き離した。
その力で、袖は破け、オトはよろけ、倒れそうになった。
オトはもう老犬だ。ここに来て彼女を引き戻すだけの力は残っていなかった。
「もうほっといて!!!!」
彼女は叫んだ。今までの彼女とは思えないほどの声量だった。
オトはよろよろと離れ、走って屋上から降りていった。
涙が止まらなかった。
ここに来て、何を後悔しているのだろう。
私は街の方を向き直り、大きく息をはいた。
「また月が昇る」
「今日が終わりだす」
「願い奏でる」
「言葉をのみこむ」
雨が一段と強くなっていく
私は、震える声で歌い続けた。
「friday night 泣き出す」
「君はまだ大丈夫」
「駆け出せ足音」
「明日を変えたい」
奏は咳き込んだ。
こんな大雨の中、歌い続けていたら無理もない。
かすれる声で、頼りない音程で、彼女は歌い続けた。
「なら、なら」
「まだ、まだ、まだ」
買い物を済ませ、スーパーを出た頃にはもう外は大雨だった。
傘、忘れちゃったな...
俺は大雨の中、風邪をひく覚悟で走り出した。
交差点を渡った、その時
「...ワン」
今....何か聞こえたような....
「ワン!ワン!」
「ワンワン!ワン!」
驚いて顔を上げると、ビショビショの犬が走ってこちらに向かって来るのが見えた。
あれは....間違いない、いつもあいつのそばにいた犬だ。
「ワン!ワン!」
「おい、どうしたんだ!?」
その犬は、俺を見たあと、あの地下室があった建物を見て、ワン!ワン!と吠えた。
急いでその建物に目をやると、そこには...
白いパーカーが、揺れていた。
「行くぞ!!」
俺はそれを発見するやいなや、走り出していた。
早くしないと、間に合わない...!
途中、何人もの人にぶつかって、何度も舌打ちされたり、変な目で見られたが、そんなこと、どうでもよかった。
オトのあとを追って走る。
頼む、間に合ってくれ...!
「...また夜空一周に」
今、あいつの声が聞こえた...!
俺はスピードを速めた。
「満たして欠いて流れる」
「時を眺める」
「だけじゃ笑えない」
「回る空うさぎ」
「君と明日はイコール」
「負けるな明日に」
「背を向けたくない」
「から、から」
「今、から、から」
建物についた。俺は、屋上まで、一気に駆け上がった。
頼む、あともう少し...!
「遥か月を目指した」
「今日の空は」
「彼方 西に流れた」
「もう届かないや」
「届かないや....」
俺は最後の段をのぼりきり、力いっぱい叫んだ
「待て!!!」
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