第10話

ドアを開けると、ギター少女がいた。

「新井!!!お前遅いぞ!...って、、、、」

「ああ〜わりいわりい!!いやぁ〜先輩と飲んでてさぁ、

お前の最近の元気の良さはなんだ!って言われたから連れてきたwww

先輩!こいつ、名前とか知らないんすけど、何ヶ月か前たまたま会ってw

ギターとかめっちゃ上手いんすよ!ほら、弾いてみろよ!」

「...え........」

奏は困惑した様子で固まっていた。顔がサーッと青ざめていき、怯えるような目つきで新井達を見ていた。

「おい、、どうしたんだよ、、あ、ごめんなさい先輩、こいつちょっと今日調子悪いみたいで...あはは....」

そう言ってから新井は愕然とした。


先程までにこやかに笑っていた上司の顔が、一瞬にして鬼のような目に変わったからだ。


「お前!ここでなにをやっておる!自分が何をしているのか分かっているのか!」

男は怯える奏を怒鳴りつけた。

「法律違反だぞ!まだ若いお前が、勉強もせず、仕事もせずになにをしている!!

人でなし!!」

「ちょ、ちょっと待って下さい!」

新井はようやく目が覚め、必死で男を止めようとした、が。


「警察だ!警察に連絡する!ここで待っていろ!!」

新井が気がついた頃にはもう、手遅れだった。









「警察だ!警察に連絡する!ここで待っていろ!!」

警察?!嫌だ!捕まりたくない!!

私を見て怒り狂う男を前に、私は困惑した。

どうしようどうしようどうしよう.........!!!!!

「ヴヴヴヴ...ワンッワンッワン!!」

突然目の前を何か白いものが横切った。

「オト!!!」

オトはうなりながら男に飛びかかると、服を引っ張って噛みちぎろうとした。

「うわっっ!なんだお前!」

男がそれにひるみ、よろめいた。

「ワン!ワンワン!」

今だ!というようにオトが大きく吠えた。


私は男と新井の隙間をくぐり抜け、地下室の階段を駆け上がり、走った。

「おい、待て!!!!お前!!!!」

後ろから声がしたが、構わず走った。

裏道に止めてある自転車にまたがり、彼女は道路に飛び出した。




逃げなきゃ、逃げなきゃ...!!!!

呼吸が上がって辛い。全速力で自転車を漕いだ。

途中、何度も人にぶつかりそうになりながら走った。



ガシャン!!!



地下室から少し離れたところで、自転車は大きく転倒した。

「ゔ...痛っ.....」

チェーンが空回りしている。もう何年も使っているから、無理させすぎたのかもしれない。

「...逃げなきゃ....」

自転車を止め、奏は自分の脚で走り出した。

息が吸えなくなって、肺が破けそうで、それでも、それでも彼女は走った。


気がつくと、ポツポツと雨が降り始めていた。

雨は次第に大粒になり、真っ白な彼女のパーカーは、土砂まみれになった。

なんども転び、傷を負いながらも、奏は走り続けた。




何があっても、決して後ろは振り向かなかった。

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