第5話

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”もう!」

本当にむしゃくしゃする。俺はこんなことを教えるために教師になったんじゃない!!

子供は勉強でしか価値を見出だせない?休み時間も給食中も勉強をさせろ?

ふざけるな!!!そんなの馬鹿げている!!子供の柔軟な成長が遅れる、いや、ストップしてしまうじゃないか!!校長、いや、教育委員会に言いつけてやる!




「と、言われましても、これは決まっていることですので。。。」

「決まっていること、で何でも済ませていいんですか?子供の成長は関係ないん..

「子供は充分に成長しています。これ以上文句を言わないでください。

 新井先生の変わりなんて、いくらでもいるんですからね。」



あ〜もうまただ。子供は未来を切り開く為に柔軟な考え方と想像力が必要なのに。

こんなにも勉強づくしで、可哀想に。


あ、でも本人たちはこれが普通なんだよな、、



現在小学校、中学校の子どもたちは、

法令が出る前の世界を知らない。

勉強が全て。テストも満点が当たり前。

勉強が出来なければ生きる価値もない。

ただ、”認められたい”という本能だけに、

本を頭に叩き込む。

それが...それが普通


普通というものは....何なんだろうか。




普通、普通、

周りの”人間”が俺を速歩きで追い越していく。

ああ、俺、取り残されちゃったんだな。

そう思って足を止めた。





...ないや



ん?


何かが聞こえたような気がした。

空耳か、、幻聴か、、



届かないや



やっぱりだ。

メロディーが聞こえる。どこからか、、


俺は、そのかすかな音を探るように、歩きだしていた。








ギターの練習をしていた時、何か物音がして、オトがドアに向かって唸った。

...警察?音楽が聞こえたのかな...


ガタっとドアが開いた。

思わず、ギターを隠し、オトを抱いて身構えた。

心臓がドクドクと鳴る。


「...お前、誰だよ」

「あ、あんたこそ、勝手に入って来て、何よ!」

入ってきたのは20,30代くらいのボサボサヘアの男だった。おそらく...こんな

ボロい警察はいないだろう。

「なんで勝手に入ってきてるのよ!不審者!警察呼ぶよ!」

「あ?!俺は不審者じゃない!ほら!れっきとした教師だ!!」

男はそう言って手帳みたいなものをポケットから取り出した。

「新井幸一...誰あんた、もう分かった。警察呼ぶから。」

「おいおいおいおいちょっと待てよ、身分証明書も出したろ?!不審者じゃないって。」

「そんなん、知るか。」

「それに、今警察に連絡してみろ、ばれるぞ、お前がここにこもって、歌ってたことがな」

「え、何で知ってんのよ?!」

「聞こえたんだよ、お前の声が!」




「もう何なのよ?!ストーカー!!変人!!ボサボサダメ教師!!!」

「はあああああああ???」

                            

______只今文章が乱れております。もうしばらくお待ち下さい。______



「...で、なんでここに来たの」

「いや、それはさっき言ったろ、」


このボサボサ男は、話によると学校の中の落ちこぼれで、上司に叱られてしょぼくれてとぼとぼ歩いたそうだ。そうしたら、歌が聞こえてきたらしい。


「じゃなくて、私に何しろっていうのってことだよ」

男は、私のギターをちらっと見てからこう言った。

「1曲歌ってくれ。」

「うぇ?」

「1曲だよ、お前日本語もわかんないのかよ」

「いや、そういうことじゃなくて、そんなことかって思ってさ、」

私がそう言ったとき、男は下を向いてこう言った。

「いや、なんか知らないけどさ、歌が聞こえてきた時、音楽とか、すっげー久しぶりに聞いたから、なんか、これはなんとしても聞きたい!って、なんかめっちゃ思って。」

ふーん、そっか、他の人間は音楽とか普段聞いてないんだっけ。

「別にいいけど、」

おもむろに私はステージの上に立った。



はるか

月を目指した

今日の空は

かなた

星に流れた

もう届かないや

ああ

届かないや



こうやって人の前で歌を歌ったのはいつぶりだろうか。

まだ物心付く前、お父さんとお母さん、、


ギターの音をやめた時、拍手が起こった。

大きな拍手だった。男の拍手。

その時、なんだかよくわからないけれど、

ただただ涙が止まらなかった。

小さな小さな部屋の中、拍手だけが響いていた。









「休日は暇だから別に来てもいいよ」

「おう、」

「俺さ、今まで沢山の人間見てきたけど、」

「うん」

「お前、変わってるな。」

「ふーん、そうかな」

「ま、そのままでいろよ」


そいつは、そう言い残して部屋を去った。

ああ、そうだった。こうやって誰かに自分の音楽を聞いてもらいたいから、

私は音楽をここまでやってきたんだよね。


どこかで忘れていたものが、ころっと戻ってきた気がした。




「明日からも頑張ろう。」

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