見えない驚異

 馬車を走らせ数十分、俺達は村の近くの森林に来ていた。

 村から依頼された魔獣の討伐と例の見えない魔獣の調査を兼ねてきてはいるが、すでにピンチを迎えていた。


「くぅ、次から次へと!埒が明かねえ!!」

 叫びながら引き金を引く俺、目の前には数えることも億劫になりそうなウルフの群れ、大半は眉間を撃ち抜かれていたり、頭が潰されていたりと凄惨な死体である。

 ここに来て、すぐに俺達はこの群れに襲われた。依頼内容は車内で確認してはいたがまさか、現場に到着してすぐに鉢合うとは思いもしなかった。ニーナに至っては見敵必戦とソロンを引き抜き一目散に群れに飛び込み、切った張ったの大立ち回りを始める、縦横無尽に動く彼女のすきを狙う敵は、遅れてニーナに合流したグランのアピラスターに大地のシミにされる。俺に至っては相棒を抜いて只管引き金を引く、精密性にすくれたエアロバレットで群れの進行を邪魔し前衛二人が漏らした獲物はロックバレットで風穴を空ける、ちなみにジルは戦う俺達を眺めながら優雅に読書している、正直助けてほしいが稀に俺が逃したウルフを本を読みながら水刃で三枚におろしているので役に立たないという訳でもない、しかしこう数が多いと範囲魔法でまとめて倒したいところだが、周辺が木々に囲まれており、無駄に火事を起こすのも気が引けるのですんでのところで抑えているが前衛で駆け回るニーナは実に楽しそうに剣を振っていた。ソロンを渡してから子供のように毎日剣をふるい独学で自身で魔法剣と名付けた技術を突き詰めていた。当初は剣を振るいながら魔法を使うことを想定していたが、魔法を纏わせ相手を斬る技術をニーナが見つけてそれを剣術として成り立たせた、ニーナが使う属性なら風は文字通り剣のキレを上げ血飛沫から体を守ったりできるが火属性では刀身が高温になり騎士が纏う鎧を簡単に斬り裂き、更に熱で相手の傷口を焼くという追加効果も得た。正直斬られただけならまだマシで、体を貫かれたまま内蔵を焼かれるところを想像したら、夢に出そうであるし実際夢に出た。


 そんな風にウルフの群れを討伐し終え、ウルフの死体を山に積んでいると前衛を張っていた二人が自分たちが倒したウルフ載せたソリを引っ張りながらこちらに歩いてきた、ソリは多分グランのやつが即席で作った土製のだろうな、ホント便利なものだし、俺には到底真似できない芸当だ。


「お疲れ、そっちはやっぱり量あるな」

「それなりに数と当たるからな、それでもかなりの数はカズミのところに漏らしてるからお互い様ということで」

 俺とグランがソリのウルフを山に置きながらそういうと、同じくウルフを積んでいたニーナが興奮気味に声を上げた。

「グランすごいよ、あんな大量のウルフをコントロールして私が戦いやすい状況作ってくれるし、死角からの攻撃は全部受けてくれるから、助かるなそれに、知ってはいたけどアピラスターの一撃ってすごいね、一振りでウルフが纏めて吹っ飛ぶし、良い牽制にもなるね」

 そう言いながら手持ちのウルフを豪快に山の頂上に投げ置くニーナ、制服の所々に返り血が付いていて前衛の凄惨さがよく分かる、それは俺もグランの変わりないが、俺は獲物の都合上量は少ないがグランに至っては最前衛でニーナのように風で防げるわけもなく本来ならトマト染めになるはずだが、そこまで血に染まってない、話聞いてるとニーナから離れてなかったみたいだしニーナの風の影響を受けていたみたいであるが……。

「やっぱり、汚れない服は欲しいよな」

 今回は状況が状況で制服で戦わないとならなかったが、本来はこういう返り血や体液などで汚れるからそれなりの服装や装備を用意するもんだ。騎士科の奴らも訓練や実習の時は専用の実習服で活動するし、本職の冒険者もそれを想定した装備で活動している、制服も替えはあってもあまり汚したくないしな、ギリギリでウルフを切り裂いていたジルの服がまっさらなのはなんというか経験の差を感じる。

「うーん、うちの制服って黒いからそこまで汚れが目立ちにくいけど中のシャツとかについたら洗うの面倒だよね」

「生活魔法で汚れは落とせるが、それで一々魔力使うのも面倒だし俺みたいに魔法自体上手くない人間はそのまま放置も多いからな」

 前衛二人の言葉に俺も同意する、グランも魔法師としては優秀な部類だが、技術としてはクラス内では下位の方だし、俺に至っては杖なしではなにも出来ない無能だ。

「とりあえず、この問題は今回の件が終わってから考えよう」

 そういい、話しを切る俺にニーナはウルフの山を見上げる。

「しっかし、数が多いね。これ全部持って変えるの?」

 積まれてるウルフの山はこの中で最も身長が高いグランよりも高いし、総数も多いニーナの指摘のとおり全部を持ち帰ることは出来ないのは確かだ。

「とりあえず俺の方で討伐証明の牙は確保したし、何頭か持ち帰るのもありだけど、形の良いやつの何頭かは今回は肉にして食べて、残りは例の魔物を誘き出す餌にしようかと考えている、むこうが肉食かはわからないけど」

 今回倒したウルフは肉食獣としては肉に臭みも少なく食べやすく数が多いことから市場でも安価で売られているので広く食べられている食材だし、冒険者の野営食としてもメジャーなものだ、幸い捌き方に関しては地元の肉屋のオジサンから教えてもらってるし、すでに血抜きの最中でもある、今回は倒した数も多いし、食べざかりの男二人もいるから十頭ほど確保しているか……俺だけで処理しきれるか

「そういうことなら、さっさと処理しようウルフなら俺も経験あるし」

 そう言いながらグランが腕まくりして、血抜きが終わったウルフの元にむかう、正直後悔してたので非常に助かる。ニーナに手伝ってもらえって?どんな素材でも劇薬に出来る人間の料理を進んで食べるような命知らずではないので勘弁してくれ、作るのは壊滅的なのに舌の方は繊細なのは未だによくわからん。



 ウルフを捌き終え、土魔法で作った焚き火で串焼きにするとジルがやっと本から目を上げた。

「お、今日のランチはウルフの串焼きか。シンプルながらうまいのよ……。ビールない?」

 俺が焼く串焼きをみてそういうジル、キャンプしに来たと勘違いしてないか、形式的には学校からの依頼で来てるんだが正直気を抜き過ぎである。

「帰りも運転するんですから、酒は我慢しろよ」

 そう言い、焼けた串をジル達に配り自分の分を口にする、シンプルな塩で味をつけただけだが場の雰囲気も相まって旨く感じる、見回すと他のメンバーも満足そうに串焼きを頬張る、そうしていると不意にニーナが声を上げる。

「ねえ、あそこに山なんてあった?」

 そういい、彼女が指さした先に小高い山があった。ゴツゴツした岩が多い山で木の多いこの一帯では確かに違和感があった。

「……。確かに地図だとここらへんに山はないな、ここらへんで活火山はないし新しく山ができることはないだろうし」

 グランが馬車内に積んでいた地図を取り出し確認し、それと同時に突然地面が震えた。立つこともままならない揺れに全員膝を付き耐え、ジル以外の三人が獲物を構える、そして不気味に足元に広がる影野生の本能でその場から飛び去ると俺がいた場所に俺の身の丈の倍以上の岩が突き刺さっていた。

「おいおい、まじかよ……」

 見上げた先でそれは咆哮を上げ俺達の方を見ていた。

「ロックワイバーン、見た感じ若い成体みたいだが、生息域は明らかにここではないな……元の住処を追い出されたはぐれか!?」

 そう、今まで俺達が山だと思っていたのは眠っていた竜種だったのだ、ロックワイバーン竜種の中では下位にあたるものだが、討伐に高ランク依頼が出ることもある存在である、地中の土を食べることで作られるらしい外角は実際の石のように固く、古くなって剥がれ落ちたものは城壁などの建材に使われる。尾の外角が最も固く重くこれを振り回すことで外敵と戦いその一撃は当たりどころによっては上位の竜種も昏倒させると言われている。

 本来は、竜種の中では温厚で人を襲うことはないと言われている種なんだけど、今回は群れからはぐれて気が立ってる中俺達の焚き火の匂いに反応したらしいが、どうもおかしい。

「気が立っているとはいえ、あんな巨体に気が付かないわけがない、というと噂のやつが別にいるのか?」

 そう、今回の発端になった「見えない魔物」その正体がこれでは説明がつかないのである、コイツのせいでグレーウルフが生息域から追い出されて村の作物や家畜を襲ったのはまだ理解できるが、普通に考えてあの巨体に気が付かないのはありえないのである。あれ、最初に俺を襲ったのは尻尾じゃなくて外殻だよな。

「皆散れ!こいつはなにか可怪しい!!」

 声と同時に全員が散り散りになる、それと同時にロックワイバーンの咆哮と同時に射出される外殻降り注ぐ殺意の塊を避けながら、ニーナとグランが敵との距離を詰める、俺はそれを遠目で見ながらジルに駆け寄った。

「ジル、ロックワイバーンが外殻を使することあったか!?」

「いや、アタシも奴とは何度か戦っているがこんな使い方をしたのは初めてだし、他の種でも見たことない」

 そう言われ俺は、思考を巡らすが明確な答えは見つからずひとまず、目の前の敵に集中することにした。

「ひとまず、ジルは馬車を安全な場所に移動してもらって、俺は先に飛び出した二人に合流する」

 そういうと同時に、ジルは奇跡的に無傷だった馬車に飛び乗り走り去っていく、距離は離れてはいるがさっきの攻撃を考えたら貴重な足を失うリスクのほうが高いからの判断であった。

 俺は、グレイヴを構えるとかけれるだけの身体強化をかけ前衛の二人のもとに駆け出した。


 俺が二人に合流したとき、案の定二人は苦戦を余儀なくされていた。小型の竜種とはいえ身の丈よりデカい怪物相手、更に言えば体の大半を硬い岩で覆われているのだ、人間の攻撃なんて簡単に通るはずがない。

 しかし、人には知恵があるし今は数の利はこちらにある、ソロンを握りワイバーンの関節の隙間を狙い岩盤を跳ね登るニーナ、身体強化をフルに使い縦横無尽に剣と魔法を振るい、少しずつその身を削っていくその勢いを削ごうとワイバーンもニーナに目を向けるがグランがアピラスターでワイバーンのスネを執拗に叩く、種族は違っても体の弱点は似てるのか、ワイバーンは反撃の的を絞ることは出来ていなかった。しかしそれでも二人の攻撃はワイバーに大きなダメージは与えられていなかった、剣も魔法も浅い傷は付けれるが致命傷にまでは届かず、グランの打撃はあくまでも陽動でしかない勝ち筋としては一番確実なのはあの長い首を下に降ろして、アピラアスターの一撃を与えることであるがその第一歩の足への攻撃は今の二人には火力が不足していた。

 ニーナなら高火力の魔法が撃てればその部分を解消できるが、高火力の高位魔法ほど発動までの隙がでかい、だが俺が合流した今ならその条件は解消する。

「二人共離れろ!」

 言葉と同時に離れた二人に目もくれず、俺はグレイヴの引き金を引いた。重厚な黒い魔法陣とともに放たれた黒色の魔力弾は真っ直ぐにロックワイバーンの頭部を捉える、数瞬後その長い首はまるで地面に無理やり引き倒されたのかのように地面に叩きつけられる、俺が合流までに相棒に装填した弾丸は重力魔法が込められた『グラビティーバレット』当たった相手を強烈な重力で押しつぶすそれで、ワイバーンの首を地面に無理やり押し付ける、人間相手なら一発で数分は拘束できるが相手はワイバーン、魔力を多めに込めてはいるが効果は一瞬だろう、だがその一瞬があれば十分、首が落ちる刹那重力の波にその戦鎚を割り込ませ頭部を守る分厚い岩盤ごとその頭を叩き潰す一撃を文字通りグランは叩き込んだ。

 爆発する地面、空気を震わせるワイバーンの咆哮にアピラアスターの柄が限界までしなる、勢いのままのグランの体が持ち上がり棒高跳びのようにその恵体が跳ね上がる、ワイバーンは頭部の岩盤が砕け首が地面にめり込んではいるが、その生命はまた潰えておらず。心臓はまだ鼓動を続けているが、脳震盪を起こしているのか動き出す気配はなかった。

 あと少し俺かグランのタイミングが遅れていたら、ニーナの攻撃が単調だったら、あの岩盤射出がまた行われていたら、『もしも』の歯車のかみ合わせが違ったらこの結果はなかっただろう、三人三様の冷や汗混じりの苦笑いで物言わぬ塊を眺めていると、馬車を動かしたジルがこちらに駆け寄ってきた。


「おぉ、倒したのか!しかし、まさかワイバーン相手に三人で勝つとは」

 そういいワイバーンの体を叩くジル、死んだわけじゃいので起きる可能性があるから下手に刺激を与えてほしくないんだけどさ。

「あくまでも、気絶させただけだから……。それよりもこいつの後処理をどうするかが問題だけど」

 倒し魔物の後処理、普通は討伐するから魔物を解体して換金可能部位を回収、残りは放置してその地域の他の動物や魔物の餌にする、自分たちの生活の糧を得て残りを自然に還元する、持ちつ持たれつのサイクル形成ができてる。

 今回は討伐ではなく、気絶させて動きを封じただけ放置すれば問題の解決にはならない、しかしだからといってこの巨体を持ち帰ることは物理的に無理、重力魔法で浮かべて運ぶのは俺の魔力でも街まで運ぶのは無理というか重力魔法自体俺のオリジナルでニーナや姐さんでも使えない魔法自体コスパが悪いのもあるけどな。こんな大きなものを簡単に持ち歩けるカバンがあればいいけど、収納系はなんど魔力回路を組んでもまともに使えるものは出来ていない精々野菜袋の容量を増やした位であり袋より大きいものや大量のものを持ち歩けるようにするのは夢のまた夢である。

 俺達四人が今の状況をどうにかしようかと顔を見合わせていると遠くから地響きと馬の鳴く声が聞こえてきた。


 音のなる先に目を向けると、白銀に輝く鎧をつけた男を先頭に紺色の揃いの鎧を装備した集団がこちらに向かってきていた。

「あれは……王宮騎士団?」

 勢いのままこちらに向かってくる集団に俺が怪訝な顔でそう呟くと、他の三人は状況がわからず顔を見合わせている、ジルに至っては心の底から嫌そうな顔をしている。

 そんな雰囲気の中、こちらに着いた騎士団が俺達を取り囲み、集団の長であろう白銀の鎧を装備した騎士が馬上から俺達を見下ろし無表情のまま口を開いた。


「私は王宮騎士団長兼第一師団師団長。ナラバリ・ボナパルトである、この魔物を討伐したのは、お前たちで間違いないな!?」

 そう問われると同時に、俺達に周囲から槍のように鋭い視線が突き刺さる、反射的にグランの獲物を握る手に力が入るが俺が目でそれを制す。

「お初にお目に掛かります、私はガルラニュール魔法学校所属のカズミ・スミス後ろに控えますは同じく魔法学校所属の生徒になります」

 そう言い三人同時にその場に膝をつく、内心この後のことを考え頭痛を感じていた。



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Bewaffnete Magie〜魔力銃士の武装魔力学〜 一樂神無 @seimav3

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