学外研修と冒険者登録

 ジルからの調査遠征の発表から一週間、俺とグランにとっては濃い日々であった。グランは刀身の製作あの発表の後俺と話し合い刀身は今回は騎士団でオーソドックスに使われている両刃のものにすることになりすぐさま製作を開始したが、グラン自身慣れていない鍛治に更に国内ではメジャーでは無い鋼と軟鉄の混合という技術に四苦八苦しており、俺に至っては柄の製作自体はわりかし時間はかかっていなかったがついでにと回路図複写の仕組みの構築をしようと欲を出したらこれがまた難題であった。自分の案が机上の空論だったと嫌でも身に染みてこれを思い浮かんだ当時の自分を助走をつけて殴りたくなった。なるべく単純にしたつもりが小さなスペースに正確に安定して細かい紋様を正確に描くのは考えた以上に厳しいものだった。結局試作品は完成したが複写機は完成しなかった。

 完成した剣『魔剣杖まけんじょうソロン』は、ニーナに装備させている俺はグレイヴがあるしそもそも剣が使えない、グランは嗜み程度には使えるが、本人がソロンを作るついでに作った新武器を使いたいためニーナが使うことになった。

「眠い……」

 まだ薄暗い早朝の空気に俺はボソリとそう呟く、昨晩グレイヴのメンテや荷物の用意を遅くまでやっていて寝不足であった。こう見えて心配性な為もしもを考えすぎて荷物が増えすぎて整理に時間を取られたのだ。

「眠いなら動け、まだ積み込む荷物あるからな」

 目を擦る俺に、魔力馬車に荷物を積み込んでいたグランが声をかける。俺が着いた時から動いていたので結構早起きであるし朝から元気なそれを見て俺は気怠けに馬車のそばに置かれている荷物を持ち上げグランの指示の下次々と荷物を乗せていく、調査用の機材もあるがドレスの入ったスーツケースや現地で作業する為の鍛治道具など必要かどうかわからない荷物も多い、俺達二人が荷物を乗せ終わった頃に寝起きのボサボサ頭のニーナが走ってきた。

「ごめん遅れた!」

 息を切らせてそう言う彼女を苦笑いで迎えると、続いて青白い顔で頭を抱えたジルがやってきた。

「みんな、おはよう。男子は荷物の積み込みお疲れ様」

 声を出すと共に痛そうに額を抑えるジルに俺とグランはため息をつく

「先生、二日酔いですか?」

 グランの指摘に俺とニーナは背中に冷たいものを感じる。今回の魔力馬車の運転はジルの担当なのだ。そんな彼女が体調不良と言われたら道中に不安を感じることも当然である、変わりたくても俺達三人は免許は持ってないしジルの研究室には助手にあたる成人はいない俺は旅の始まりに不安を感じながら、グランから渡された水を勢いよく飲んでいる研究室の長に心底呆れていた。

「んん……。ふぅ治まってきた。さて時間も勿体無いし出発しようか?」

 幾分か顔色が戻ったジルがそう言い馬車に乗ると、それを追いかけて俺達も乗り込む。馬車は一路目的地に向かって走り出した。

























「そういえば、ソロンだっけ? 使い心地はどうだ」

 ガイナス領に向かい道中、ハンドルを握るジルがニーナにそう問いかける、かけられたニーナは後部座席でソロンを持ちながら軽く考え込む。「使い心地と言われても答えられるくらい使い込めてないけど、魔法を発動しながら接近戦できるのはかなり有利かなとは思うかな」

 そういうニーナの言葉に隣に座るグランが満足そうに首を振る、俺も助手席で地図を見ながら聞いて自然と口元が緩む、ニーナにソロンを渡してから数回模擬戦をやったが、作った俺から見てもニーナは使いこなしていた、身体強化で上がったスピードと切れ味鋭い剣術と同時に来る魔法の組み合わせに何度も首が寒くなった。グレイヴの魔力弾も容易に切り払われラグなしで魔法が返ってくるのは、予想通りに戦略が変わる予感がした。それ以上にグランが作った新兵器には驚かされたが……。

「そうか、この一週間他の仕事で忙しかったからしっかり見てないから、向こうで見れることを楽しみにしてるよ」

「いや、剣を抜く状況になることならない事を祈りましょうよ」

 咄嗟に出た俺のツッコミに車内が笑いに包まれる、麗らかな日差しの中俺達は目的地へ順調に走っていく。

















 ガイナス領『ナガス村』


 学校側の情報にあった村に着いたのは日が真上に着いた頃だった。距離的にはそこまでではなかったが、慣れないものに揺られた影響か体が凝り固まって軽い違和感がある

「やっと着いた……」

 凝った腰を伸ばしながらそう呟く、その背後でグランがせっせと荷物をおろしていた。女性陣はジルは村長宅に挨拶と調査関連の事実確認に向かい、ニーナは到着と同時に馬車から飛び出し村内の観光に消えた。

「着いたのは良いけど、これからどうするんだ?」

 荷物を下ろしながらグランがそう声をかけてくる

「予定としては騎士科の奴らの情報もあった場所にいって現場の調査であとは……。なにすんだろ?」

「計画性なさすぎるだろ……」

 最後の荷物を呆れながら下ろしグランは肩を回す。学校活動の一環なので制服は来ているが改めて見るとやはり彼の体は仕上がっている、本人曰く特に筋トレや運動はしてないみたいだが普段鍛えている騎士科の面々が羨むほどである、ボディピルディングみたいに魅せる肉体でなく、使う筋肉が発達した実用性のある肉体らしい、普段から室内作業が多く運動不足だからと姐さんとニーナに無理やり運動習慣を付けさせられたのは幼い頃の思い出としてはいいとは思ってはいる、外の出る度に姐さんが出来もしない行動をしてニーナと二人で冷や汗かかされていたな。身体強化魔法が出来るきっかけにもなったし

「運動出来ない人を強化したら、学内トップの戦士になった件……」

 ボソリとつぶやいた俺をグランが冷たく見つめていると、ジルとニーナが笑顔で帰ってきたニーナの両手に紙袋があることにはあえて触れないことにする。

「戻ったぞ」

「ただいま」

 二人同時に声を上げるのを男子二人で笑顔で迎えると、ジルは手に持っていた資料を持ち上げる。

「みんな喜べ、調査ついでに討伐依頼ももらえたぞ!」

 笑顔でそう言うジルに、俺とグランが同時にため息をつくありそうだがあってほしくなかったことが起きた。

「討伐依頼って、俺達騎士科の生徒でも冒険者登録もしてませんが」

 本来魔物は、その危険性から地元領主の私兵が領主の指示で討伐するか冒険者登録をした人間が討伐業務を請け負って討伐する二パターンで処理される、例外としてウチみたいな教育機関が実習教材としてボランティアでやってたりしてはいる、その分怪我とかの保証もされているが俺達みたいな専門外からしたら寝耳に水である。俺とニーナは地元にいたときにラットとかの弱い魔物を相手に魔法の訓練をしてはいたけど、本格的な討伐とは無縁である。

「そう言うと思って事前に代理で冒険者登録しといた」

 そう言いジルが懐から三枚のプレートを取り出し、俺達に手渡す。

 プレートには俺達の氏名などの個人情報と魔法師というジョブ情報、冒険者としての最低ランクであるEランクという情報が書かれている、冒険者登録は個人が冒険者ギルドという公的機関に書類を出してテストの後その結果に見合ったランクで開始するのと今回のように教育機関などの団体が纏めて申請して一律最低ランクで開始する二パターンが主であり、例外として騎士科の生徒が卒業時に在学中の実習成績から出されたランクで冒険者として活動を始めたり、ごく稀に街や村で大型の魔物を討伐してその功績を評価されあと追いで申請しテストを免除されて冒険者になるパターンがある。冒険者はいわゆる便利屋で魔物の討伐や薬品などの素材の収集といった市民からの依頼をギルドから受けてその成功報酬を得たり、一部の地域にあるダンジョンに潜り魔物を狩ってその素材を売って日銭を稼いでいる、また冒険者ギルドから配布されるギルドカードは各国公認の身分書になっており街の入退場時の身分確認や、他国に入国する際の手続きもスムーズに行える。さらに先述した魔物討伐時に得られる素材の買取手続きにもギルドカードがあればギルドで相場に合わせた額で買い取られ、民間の悪徳業者に安く買い叩かれるのを防いでくれる、まぁ高ランクの冒険者は贔屓にしている業者に買い取ってもらってるのでギルドで買い取りを行うのは贔屓の店のない中ランクまでの冒険者かギルドと良好な関係を結んでいる高ランク冒険者に限られる、また現在の高ランク冒険者の殆どが冒険者になる前に大型魔物を討伐している化け物揃いらしい。

 まぁ、今回に関してはジルが調査と新装備の試験運用のついでに小遣い稼ぎをするために用意したみたいだが……。

 そんなふうに、考えていると俺達の周りを男達が取り囲む男達の粘っこい笑みを見た限り、まともな集団とはとても思えないが。

「ヘイヘイ、お姉さんたちこの村は初めてかい?」

「よかったら、俺達が案内しようか?」

 火の良さそうなセリフを吐く男達は吐く男達、完全に側にいる俺とグランを無視している. それにいるそれに内心ため息を付きながら二人で女性陣と男達の間に割り込んだ。

「なんだよ、邪魔だからどけや」

「男はお呼びじゃないんだよ」

 割り込んだ俺達を男達に男達が口汚く罵るが、俺達はその言葉を素通しして動くことはなかった。

「これから予定あるんで、他をあたってもらえません?」

 俺が無表情でそういうと男達から殺気が漏れ男達のリーダー格の拳が俺の頬を跳ねる。

 た. 当たる当たる瞬間、首を派手に回して衝撃を逃がすがその一撃が戦いの火蓋を切って落とした。

 響き当たる男達の咆哮にニーナが喜々として参加して参加しようとするが、ジルがそれを止めて近くのカフェに引きずり込む。それを横目で見ながら目の前の男の拳にカウンターの拳を合わせる。隣で暴れるグランは鍛冶で鍛えた腕で襲いかかる男達を捕まえ次々と後方に無造作に投げる。この手の争いに魔法は不要魔力の無駄だ。横殴りの大振りを躱し相手の腰に腕を巻きつけるとそのままジャーマンで担ぎ上げ後方から迫ってくる男に頭からぶつける手応えと同時に腰の腕を外し転がるようにその場から離れる。

 短時間で仲間の殆どをやられたことで尻に火が着いたのか、俺達に声をかけてきたチャラ男が懐からナイフを抜き構えた。


 手入れされていないのか、刃はボロボロで所々サビが浮かんでいるそれを見て俺も制圧のため構えるが、その気をグランが腕で制した。

「丁度いいから、試させてくれ」

 そう言いグランが腰からハンマーを取り出すと、それに魔力を通した。

 その瞬間ハンマーが大きくなり一振りのウォーハンマーになる感触を確かめるように振るとハンマーを腰だめに構えた。

 これは、『魔戦鎚ませんついアピラスター』ソロンを作ってる最中に、グラント俺の悪ふざけに近い発想から生まれたものであった。

 研究室で作った作業槌に魔力回路を組み込んで暫くしたとき、不意にグランが呟いた。

「物の大きさが自由に変えられたらな」

 という言葉に俺が反応し、作業の息抜きがてら回路を組み始めたのが始まりだった、複雑な回路式は家の手伝いや魔道具の小型の際に何度も組んできてるのでなれたものだが、物理法則を無視したものは全く経験がなかった。発想自体誰もしてなかったとは思うが……。


 ソロンの開発が一段落ついて、余裕ができたときにジルにその発想を話すと案の定大爆笑、まぁ机上の空論でしかないから俺とグランもその笑いにはあまり腹が立たなかった。

 だがし、ソロンが完成してグランも武器が欲しくなったのか戦鎚を作りそれに俺が試しに組んだ『縮小と拡大』の魔力回路を書き込んだら何故か成功、全長二メートル、ヘッド部分の全幅七十センチの戦鎚が金槌サイズにまで小さくできた、その後拡大で大きさを自由に変えるときに繊細な操作が必要な点と戦鎚自体にサイズの柔軟性を求めてないということで、『拡大』は元のサイズに戻す『復元』に変更ヘッド部分の形を自由に変えれる『変形』と作業槌にも付けた『分解』に周囲の鉱物を飲み込みヘッドを大きくできる『吸収』、柄の部分を強化するための『補強』と持ち主の筋力増強させる『身体強化』の魔力回路を組み込んだ、正直これに関しては一度火がついた馬鹿は止まらないの典型例で出発前日の朝まで二人で作っていた。最初はこれも杖の機能をつけようかと考えていたが、他のメンバーが戦鎚を使うような人間が攻撃魔法を絡めた戦闘はできないという指摘から杖ではなく、純粋な武器になった。将来的に量産するときは吸収や変形の機能はなくなるだろうこの二つはグラン用に組み込まれた機能である。更に言えばグランは普段身体強化の方はオフにしており、純粋な筋力でこれを振り回しているので恐ろしいもんだ。ヘッドだけでも五、六十キロはあるし鋼材を芯にしている持ち手も相応に重いはずだ。本人は重心の関係で重さは問題ないらしいが、俺やニーナが身体強化をかけて不格好に振り回せるくらいでしかないのに、やはり筋力は嘘はつかないようだ。ちなみにジルは身体強化をかけても持ち上げることもできなかった。

 さて、急に戦鎚を出して構えたことにナイフを持った二人は冷や汗をかいているが、本能的にスピードは上だと考えたのか二人同時に襲いかかって来た、踏み出しは同時だが間合いを詰める間に縦に並ぶことで時間差を利用するつもりのようだ、この手の輩にしては頭がいいようだ。

 グランは手前の男のナイフの刀身を弾き折るとその背後にいた男が飛び上がり頭上からナイフを突き立て降ってくる、グランはナイフを折ったそのままの勢いで回転し手首を返して戦鎚の横っ面で空中の男をはたき落とす、衝撃と同時にナイフも手を離れていく、グランは落ちてるナイフを遠くへ蹴り飛ばすと、はたき落とされ伸びてる男の腰に戦鎚を乗せ動きを封じると、ナイフをおられた方を睨みつける、男は柄だけになったナイフを投げ捨てるとお決まりの文句を言いながらその場から逃げ出した。


 グランはアピラスターを小さくして腰のホルダーに収めると、こちらに向かって歩いてくる。

「どうよ、使い心地は?」

「悪くないな、小回りがきかないのが問題だが戦鎚というのはそういうものだしな」

 そう言い戦闘で熱くなった肩を回すグラン、今回は俺も暴れたりない位だが、ニーナとジルに無駄に危害を加えられることがなかったのは救いだったな、ニーナに関しては男中の何人かは消し炭になっていただろうし、元軍属のジルもそれなりにやり過ごせるだろうが無駄に時間取らせるより静かなところでお茶を飲んでいたほうが有意義なもんだ。


「おーい、終わった?」

 そう言いお茶をしていた女性陣がこちらに合流してくる。途中倒れてる男達の背中や頭を踏んでいたが、彼らにはご褒美だろうな。

「随分と暴れたな.……。殺してはないだろうな?」

 死屍累々な現場を見て、ジルが物騒なことを聞いてくるアピラアスターを使った最後の二人はともかく他の男達は怪我はあっても致命傷にまではいってないはずだ。

 ジルは俺とグランの様子を見て軽く息を吐くと、馬車に乗るように促し俺達が乗り込むと一路、討伐依頼の現場に向かった。

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