第10話 月閃光

「出ておいで。隠れているのも退屈でしょ?」

庭に出たシズネは、そこにはいない何者かに語りかける。

すると、どこからともなく人形達が現れた。

その数は10人程。

一人の対処に手こずった俺ではあっという間に殺されてしまうだろう。

シズネが虚空へ手をかざすとそこからは刀が現れた。

そして鞘から刀身を抜き放つ。

月明かりに照らされた刀身は妖しい輝きを帯びていた。

「さ、どうぞ。遊んであげる」

言葉に呼応するかのように人形達はシズネに襲いかかった。

一瞬だけシズネの持つ刀が閃いた。

ただ、その一瞬で方がついてしまった。

優雅な所作でシズネは刀を鞘に収めたい。

同時に、人形達は人の形を保てなくなり、地面に崩れ落ちる。

「…っ!」

思わず目をそらしてしまう。

人形は死んでいるという話だったが、その体は人間のものに他ならない。

無論切り裂かれた体の断面からは血が出る。

この世のものとは思えない凄惨な光景が眼前に広がった。

「ソーヤ、こいつらを魔眼で見てごらん」

いつの間にかシズネの手から刀は消えていた。

魔眼で見る、か。

どうすればいいんだ?

目を凝らしてみるものの、あの時のように視界が切り替わらない。

「待ってくれ…ええと」

思い出せ。

俺は一度世界のあり方を解き明かした。

あの感覚。

世界を暴き立てるような感覚をもう一度。

瞳を閉じて集中した。

カチリと、なにかのスイッチが入る。

ゆっくりと目を開ければ視界を通し、膨大な情報が頭に入ってきた。

これだ。

これがシズネの言った魔眼。

視界に映った万象を理解する力。

気は進まないが、シズネの足元に転がる死体に目をやる。

歪んでいる。

この世界における異常を俺の目は訴えていた。

しかし、しばらく見つめていると歪みは消えて、目の前にあった死体は灰になって消えた。

「これは…」

「人形の最後、君の目にはどう映ってるのかな?」

「少なくとも、普通の人間の姿には見えない。なんか、こう歪んで見えて…今、灰になった…」

「へぇ〜…君の目でそう見えるなら、それが世界の正しい在り方なんだね。人形はこの世界における異常ってことだ」

この世界の異常か。

本当におかしなことに巻き込まれてしまった。

ため息をついて視線を上にあげる。

そういえば、魔眼を使ったままだった…また切り替えない、と……。

この目は万象の正しい姿を映し出すといった。

この世界の異常を形にすると。

ならば、今この目で見ているシズネの姿は……。

月の下で輝く銀髪。

美しいというより他にない。

周囲が霞むほどの存在感に目を離せない。

一刀のもとに死人達を斬り伏せた魔人とは思えない。

「さて、私は約束を守ったよ。次は君の番!」

ぱっと花が咲いたような笑顔を見せる。

「これからよろしくね!ソーヤ!」

俺はきっと、この光景を一生忘れないのだろう。

ただただ目の前の美しい化身に目を奪われていた。

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