第4話 脳内処理
誰もいない教室につくと、大人しく自分の席につく。
教壇から見て一番後ろの窓側そこが今の俺の席。
鞄から道具を机の中に移し、ぼんやりと窓から外を見る。
…朝から色んなことがあった。
昨日の夜に起きたという殺人事件。
鷹八木の郊外で高校生が殺されていた。
想像通り源川森林で犯行は行われていた。
現場を見に行ったのだから、まあ間違いないだろう。
そして事件現場から出てきた女。
はっきりとその姿を思い出せる。
銀の髪と紫の瞳。
この世のものとは思えない美しさ。
夢の中で俺を呼んでいた少女を思い起こさせるその姿。
知っている気がする。
忘れているだけのような気がする。
はっきりと昔の記憶に繋がらない。
もしかしたら俺が疲れていて幻覚を見ていたとか。
それだったら警察官に見えていなかったのも頷ける。
「もしそうなら、相当ヤバいな、俺……」
止めだ。
深く考えるのはよそう。
今は狐に化かされたとでも思っておこう。
もう一つはついさっき出会った人物。
鷹八木学園が誇る才女、漣生徒会長と初めて話した。
不思議なもので学年が違えばあまり学校で会うことは少ない。
同じ生徒会に所属していれば毎日のように顔を合わせていたのかもしれないが、俺は帰宅部だ。
それでも校内ですれ違ったりはするのだろうが、縁とは不思議なもので、俺は高校に入学してからの2年間、全校集会や行事以外で会長を見たことはなかった。
それが今日、たまたま早く学校に、着いたことで縁のなかった会長と話ができた。
……やっぱりきれいな人だよな会長。
噂ではファンクラブのようなものもあるのだとか。
なにを大げさなと思っていたが、間近で見ればファンになる奴が多いというのもわかった気がする。
などと考えていると、窓の外、校門から数名の生徒が校内に入ってくる姿が見える。
教室に備え付けられた時計に目をやる。
時刻は8時前、勤勉な生徒なら登校する時間でもある。
「ふわぁ…」
あくびが出た。
眠気はないものだと思ったが、早起きして色々行動したためか少しまぶたが重くなる。
朝礼が始まるまで後1時間くらいあるし、少し寝てもいいかな。
そう決めて机に突っ伏す。
教室の暖房が心地よく、眠りに誘ってくる。
目を閉じれば、すぐに意識は暗闇に呑み込まれた。
「……くん、三ヶ島くん!」
誰かが肩をゆすりながら呼びかけてくる。
そうか、朝礼まで時間があるから少し寝ることにしたんだった。
「ん、んぁ…」
机から顔を上げて、俺を起こしてくれた人物を見た。
「水無瀬…」
「朝礼始まっちゃうよ?ほら、起きてシャキっとして」
水無瀬硯。
高校に入学して、1年生の頃からクラスが一緒のおせっかい焼きだ。
そしてあんまり社交的とは言えない俺の数少ない友人だったりもする。
学級委員長でありクラスの奴らからとても頼りにされている模範的な優等生でもある。
そんな優等生がわざわざ俺を起こしてくれたわけだ。
「もうそんな時間か…ありがとう、水無瀬」
起こしてくれた水無瀬に、素直に感謝した。
朝礼から寝ていたせいで変に担任から顰蹙を買いたくない。
「どういたしまして!あ、先生来たね。それじゃあまた後で」
そう言って少し離れた自分の席に帰っていった。
ギリギリまで起こさないでくれてたのか。
いいやつだよな、水無瀬。
担任が教壇につき、朝の挨拶をする。
そうしてまた1日が始まった。
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