第4話 始まりの『約束」

 航輝は、瑠璃に日本の高校生になる前の状況を説明する事にした。


 今まで、研究に特化した調査をしていた航輝。主に、大学院や企業の研究室に潜り込み、情報やそのデーター分析の結果を収集し、人間に関する知識を広げることが主な役割だった。


 そのため、最小限の人間関係を保てばよかった。個人を優先する海外なのどでは、その姿勢も尊重された。見た目が良い悪いに限らず、人付き合いの悪い人間なので、女性も男性も近寄らない。だから、嘘をつく必要もなかった。


 今までの経験で、全く人間関係を築いてこなかったわけでもない。その中で、必要以上に、自分に興味を持つものには、自分の存在の認識を最小限にすることもした。


 ある程度、人間に関する情報は手に入れたので、今回は、人間の中で生活しつつ情報を集めることになった。人間の行動に関しては、多少の知識は、あるつもりだったが、まさかまさか、囲まれてしまうとは。


「しかし、不覚だった。私としては、初めて会う人間には、ある程度距離を置くのが、人間だと思っていたから」

「普通はね、でもここ学校だし、クラスメートってことで親しみが湧いたのよ」

「『親しみが湧く』か。あの行動をそう言うのか……」と航輝が考え込んだ。


「ちょっと待ってよ、彼女たちがあなたを囲んだ行動は、またちょっと違う感情だと思うの。年頃の女子が、素敵な男子が目の前に現れたら興味を持つの。人間の本能よ」

「子孫繁栄のための、欲求行動か」

「――嫌な言い方ね。そうかも知れないけど、誰もそんなこと思って行動してないわ」

「でも、君は、私の姿を見たとき、後ずさりしたじゃないか。君は、外見の良い男子に興味がないのか?」

「ないわけじゃないわ、私だって、お気に入りのアイドルはいる。それにあの時は、恐怖心が先行しているのに、あなたの容姿なんて、考えてないわよ」

「じゃ、私と初対面だったら、君も僕を囲んだか?」

「なんとも言えないけど、私は、しないと思う」

 

 航輝は、瑠璃のその答えを聞いて、瑠璃に顔を向けた。


「なぜ、君と出会ったのが、その理由がわかるような気がする。宇宙の采配なのかもしれない」航輝がそう呟いた時、瑠璃は、ちょっと首を傾げた。


「宇宙の采配?」と笑顔で航輝を見つめた。


「そうだ、でも、なんで航輝くんは、日本を選んだの。それも学生!」

「日本では、生活したことなかったし、宗教的な影響が少ない国だからかな」

「あぁ〜、なるほど。確かに……私には、キリスト様より、八百万の神の方が身近だわ」

「森羅万象、神道につながる日本古来の考え方だな。自然の中に神がいる」

「うん、そうよ。航輝くんが私と会った時、新緑に惹かれたのもなんとなくわかる。新しく生まれ出るものには、神秘を感じるもの。どんな言葉より、信じられる」

「『信じる』か、僕にはできないことだ」

「信じることをできないなんて、どうして?信じるなんて普通のことじゃない」

「知っているから、君たちの思う『信じる』ということができない」

 

 航輝は当然のように言い、腰をあげた。改めて瑠璃の向き合い、そして、言った。

「どうやら、君の助けが必要なようだ。私は、知識だけあれば、人間の世界で生活できると思っていたが、どうも、違うようだ。色々教えてもらいたい」

「もちろんよ、喜んで!!」瑠璃は、満面の笑みで答えた。


「まぁ、とりあえず授業に戻らないと。会った時のように、航輝くんが、声をかけた時に戻るんでしょ?」

「いや、今回は、授業を抜けている。二人は、教室にいないことになっている」

「え〜、なんでよ。欠席の理由は?」

「そんなの知らない」

「二人だけ授業にいなかったら、それこそクラスの女子に『あの二人、怪しぃ〜』とか『できてるんじゃないの?』って言われちゃうでしょ?」

「『怪しい』とはなんだ。私の正体がバレているのか?」

「違うわよ、付き合っているじゃないかって、疑われるってことよ」

「『付き合っている』……まぁ、いま付き合ってもらっているが、それがどうした」

「はぁ・・・」

 瑠璃は、肩を落としてため息をついた。使い古された漫才かと突っ込みたくなる。でも、彼は、真面目だ。瑠璃は、気をとりなおして続けた。

「この場合、『付き合っている』っていうのは、恋人同士であるということ。相談にのってもらうとか、買い物に一緒に行ってもらうのとは、違う意味」


 瑠璃が呆れ気味に答える。


「恋人同士ねぇ?じゃ、『できている』とはどういう意味だ、僕の知る範囲の『できている』とは、ものが仕上がっていることを表すのだが」

「男女も、二人もお互いの相思相愛を確かめて、カップルになったってことよ」

「うーん、日本語は奥が深い」と航輝は、顎に指を当てて考え込んでいる。


「私たちの世代、だけじゃないと思うけど、仲良く男女が話しているすぐ『できてる』とか『怪しぃ』と噂する人がいるの。本人は、悪気はないのだろうけど、私は、そう言われるのはなるべく避けたいの」

「じゃ、教室ではあまり話しかけない方がいいのか?」と航輝が瑠璃に聞いた。

「普通にしている分なら、大丈夫だとおもよ。今回みたいに、『二人だけいない』とか、そういうことがなければ、誰も何も言わないと思う」


「そうか、悪かった。教室を離れた時に戻ろう」と航輝の声が、頭の中に響くと光が瑠璃を包んだ。

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