第14話 旅立ち前夜

 この頃になると私は里のスローライフにすっかり慣れてしまい、周囲から見て、とっぴな行動をする事はなくなっていた。

 ただ、外の世界へのあこがれだけは継続していた。

 里の生活になじんでしまえば、月日が流れるのはあっという間だった。

 地道な訓練を継続するようになった私は、里を出る直前ぐらいになると、目に見える範囲であれば、魔法が必ずと言って良いほど命中するようになっていた。弓を使わなくなって久しく、私は手ぶらで森を歩いている。

「お。ごちそう発見です」

 上を見上げたら、空を飛ぶ3羽のチル鳥がいた。この鳥は、白いハトのような鳥で、

(あんなに目立つ色で、生存競争を生き残れるのでしょうか?)

 と思ったが、優秀な危機察知能力を持ち、すぐに飛び立ってしまうので、里のベテランでもめったに狩れない鳥として有名だ。ただ、肉はとてもうまいので、狩る事ができたらごちそうである。

『多重風刃』

 目には見えない3つのかまいたちが、独立してホーミングしながら命中し、3羽のチル鳥の首をきれいに飛ばした。

 逆さに吊るして土魔法で作った穴に血抜きをし、すっかり慣れた手つきで解体していく。

 ホクホク顔で里に帰り、近くにいた子供に一羽おすそ分けし、祭司長の小屋に行っておすそ分けした。

 自分の小屋に帰り、かまどに火を点け調理を開始する。

 変わらぬ日常に幸福を感じていたら、間近に迫った成人の儀式を思い出し、顔を曇らせる。

 小さい頃は、この何もない、里の生活が我慢できなかった。

 蛇口をひねればお湯が出て、お湯かけて3分でラーメンが食える。

 インターネットを開けば、あらゆる情報が瞬時に手に入る。

 そんなもう戻れない生活を、ひたすら懐かしんだ。

 しかし30年たった今では、この生活にとても満足している。里の皆はとても温厚で暖かく、この里こそが、私の故郷だと強く思う。

(無理に里を出て行かなくても、いいんじゃないでしょうか? 少なくとも、すぐに出発するのは止めて、この生活に飽きた時点で考えれば良いはずです。

 ひたすら長い寿命を考えたら、とりあえず現状維持でいいじゃないですか)

 何度も繰り返した、自問自答をする。

(しかし……)

何度も出した結論を、振り返る。

(たぶん私は、ここで外に出なければ、一生、この里で暮らす事になります。それが悪い事だとは思いませんけど、この里の生活は暖か過ぎて、変化を望まなくなるに違いありません)

 今なら、アルク族がとても保守的なのも良く理解できる。

(外の世界を見て回るには、今しかありません。長い人生、少しくらいは冒険すべきです。外の世界を十分に見て回ってから、里に隠居しましょう)

 かなりやせ我慢をしながら、出発の決意を新たにする。

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