第9話 魔法の改良

 そして翌日。予定通り魔法講座2日目。

「今日は魔法の方向を変化させる方法を伝授する。手順は単純じゃが、鍛錬が必要じゃ。

 魔法制御で方向を変えれば良い。これができれば使い道がぐっと広がるので、必ず習得するようにの」

 そう言って祭司長が発動した強風の魔法は、1メートルくらい離れた位置で直角に曲がる様子が、風そのものは見えないが、魔力の流れで感じる。

 試しに何度かやってみると、20センチぐらい離れた位置の魔法が30度ほど曲がった。

(ぬぬっ。これ、結構難しいです)

 曲げる事は簡単そうだが、問題は距離だ。手を離れるほど、制御の難易度が跳ね上がる。

「祭司長様。離れた位置の魔法制御が難しいです。何かコツがあったら、教えてください」

 祭司長の方を見ると、目を見開いて、口をあんぐりと開けていた。

「まさかそこまで、あっさりとできるとは……」

(え? これって、おかしいのですか?)

 祭司長は何事もなかったように咳払いを一つした後、こう言った。

「これは精進あるのみじゃ。頑張るのじゃぞ」

 翌日、今日も魔法を教えてもらおうと上機嫌で祭司長を訪ねると、儀式の手順や祝詞の勉強が始まった。

(トホホ。ああ、魔法ぶっ放したいです)

 ひと月ほどたった頃には、初級と言われる魔法は全部習得していた。その時、考えていた魔法の改良案を祭司長に提案してみる。

 一番簡単な、強風の魔法の魔法式を地面に書く。

「祭司長様。この部分が『強風』って意味の部分ですよね」

 魔法式の最初の行にある、一つの魔法文を指さした。

 魔法文というのは魔法式の一つの単語で、プログラミング言語に例えるなら、トークンだ。

「たぶんこれが『関数名』に当たると思うので、ここを短くすれば、魔法が早く発動できると思うのですよ」

「カンスウメイ? おぬしは時々、おかしな事を口走るの」

 私は強風を意味する部分を書き換えて、『あ』にした。

『あ』

 問題なく強風の魔法が発動した。それを見た祭司長は、あきれた顔で答えた。

「おぬしというやつは……。魔法名というものは、伝統あるものじゃ。そんな美しさもへったくれもない魔法名は、今後は使うな」

「え、でも……」

「よいな?」

 最近、私の扱い方を学んだのか、祭司長はあの底冷えのする声で命令する。そして、溜息を吐きながら無慈悲な宣言をした。

「このままでは、教える事があっという間になくなりそうなのじゃ。よって、これからは魔法の勉強を減らし、儀式関連の勉強を増やす。よいな?」

 しぶしぶ頷いた。

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