鬼の目にも涙

きょんきょん

鬼の目にも涙

 あかいおにいさんへ


 あかいおにいさん。きょうもあえなくてさみしいです。

 あかいおにいさんのいうとおり、しゅじゅつがんばりました。

 おいしゃさんは「もうすぐたいいんできるよ」っていってくれます。

 かんごふさんも「これまでよくがんばったね」ってほめてくれます。

 だけど、あたしはあかいおにいさんがそばにいないのがかなしいです。

 くるしいときはいつもてをにぎってくれれました。

 ビョウキがなおるようにかみさまにおいのりをしてくれました。

 ぜんぶあかいおにいさんがいたからがんばれたのに、なんであいにきてくれなくなったんですか?

「おにはそと」っていっちゃったからですか?

 おこっておうちにかえっちゃったんですか?

 どうかかみさま、もういちどあかいおにいさんとあわせてください。

 なかなおりさせてください。

 おねがいします。



「これじゃあさ、まるでラブレターだね」

 青は手渡した手紙読み終えると、愉快そうにカカッと笑った。

「バカも休み休み言え。俺たちがいつまでも側にいるわけにはいかねぇだろ」

 娘っ子が寝ている間に置いてあった手紙を読み終えると、一瞬躊躇ためらって枕元に戻した。二人は誰にも悟られないように病室を後にする。

「そうだよね、いつまでも側にいたら治るもんも治らないし」

「……鬼は外に行ったほうがいいに決まってら」

 これでいい。あの子は頑張った。それを見届けられただけ良かったじゃねぇか。


「赤さ、さっきから泣きそうなツラしてるけど大丈夫?」

「黙れ、どつきまわすぞ」

「ここ病院ですけど?」

 俺と青は、そうやって巫山戯ふざけながら、誤魔化ごまかしながら闇夜に姿を消していく。

 投げられた豆を口にしながら、しょっぱいと感じたのは豆の塩気のせいにしておいた。


 ――しかし『あかいおにいさん』か、最後まで『赤い鬼さん』とは呼ばなかったな。


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鬼の目にも涙 きょんきょん @kyosuke11920212

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