第43話

 デートは、水族館だった。

 よくこうして二人で来ていたそうだ。

 

「イルカショーはじまるよ!早くいこっ」

「うん…」

 

 イルカショー…。

 う〜ん…

 イルカ…

 

 確か部屋にイルカの置物があったな。

 きっと二人で買った思い出の物なんだな。

 

 

 それから浜辺を散歩した。

 

「ねぇ、キスしてよ。」

「え…ここで?」

「うん。よくしてくれたじゃん。」

「ごめん。思い出せない…それに今そういう

 気分じゃないんだ。」

「そっか。わかった。」

「せっかく思い出すためにデートしてくれた

 のになんかごめん。今日は、もう送るよ」

「…うん…」

 

 

 数日後このはさんから電話がかかってきた。

「こたちゃん。元気?」

「うん。まぁ」

「そっか。ゴホゴホっ」

「大丈夫?」

「うん。平気。あっそうそう。こたちゃんが

 助けたお子さん無事退院したそうよ」

「あぁ、そうか。よかった。」

「ねー。本当こたちゃん人助けとかかっこい

 いよね」

「うん…でも、あんまり覚えてないんだけど

 ね。」

「そうだよねー。ゴホゴホ」

「大丈夫?今から行くよ。なんか欲しいもの

 とかある?」

「ありがとう。じゃあ飲み物が欲しいな」

「わかった。すぐ行くから」

「うん!ありがと。」

 

 

 数分後

 ピンポン

「はーい!こたちゃん。本当に来てくれた」

「あれ、風邪は?」

「なんかぁ、こたちゃん来てくれるって思っ

 たら元気になっちゃった」

 

 ーーえっ……ーー

 

 なんなんだよ…

 

 部屋に入るとあちらこちらに服が散らかり

 放題だった。

 

 

 あれ⁈

 なんか違和感でしかない…

 

「ねー、こたちゃんハグして〜」

 

 

 ………ハグ………

 

 

 うーん…

 

「してくれないなら私からハグしちゃお〜っ

 と。」

 ギュッー。

 

「えっ、ちょっと何?」

 このはさんから逃げるように引き離した。

 

「なんで?なんで離れるのよ。私達恋人なん

 でしょ⁉︎だったらその態度ないんじゃない

 の⁉︎」

「うん。そうなんだけどさ、どうしても思い

 出せないんだよ。ごめん、あのさ少し考え

 たい。だからしばらく連絡して来ないでほ

 しいんだ。じゃ」

 

 

 ガチャ

 

 

 

 あーっ、クソッ。

 なんで思い出せねーんだよー‼︎

 

 

 

 それから一か月後

 

 もう一度あの指輪が浮いていた海に行って

 みた。

 

 

 ザバーン。

 サラサラサラ

 ザバーン

 サラサラサラ

 

 

 ひたすら海を眺めていた。

 

 

 

 

 

「小太郎?」

 心配そうにオレを覗き込む幼馴染琴美。


 琴美も来てたんだ…

 

「あぁ。」

「ねぇ、小太郎この一か月くらい何をして過

 ごしてた?」

「うん。記憶を取り戻そうと色々」

「ふーん。色々かー。何色だよ‼︎」

 

 何色って…

 

 

「強いて言うならグレーだ。」

「ホウホウ」

 

 フクロウの鳴き声か…⁉︎

 ホウホウって…

 

 

 あー、でもなんでかすっごく懐かしい感じ

 がする。

 

 

 ヘックシ

 

 変なくしゃみをする幼馴染琴美。

 

「変なくしゃみだな」

「アハハ」

 

 

 夕日に照らされキラキラ輝いて見える笑顔

 の琴美。


 サラサラ〜。

 

 風になびく琴美の髪を無性に撫でたくなっ

 た。

 

 ナデナデ

 

 ん?

 なんなんだ。

 この感じ…

 

 

 うーーーん…

 

 

 頭を抱えたその瞬間。

 

 ギュッ〜。

 琴美に抱きしめられた。

 

 ホッそい腕を必死にオレのからだにまわす。

 

 

 あー‼︎

 

 オレは琴美を抱きしめ返した‼︎

 そうだよ‼︎

 これだよ!

 思い出した。

 

 プロポーズ‼︎

 プロポーズしようとしてそれから…

 そうだ‼︎

 

 

 でも、このはさん…

 このはさんは、彼女じゃない⁉︎

 

 

「琴美!思い出したよ‼︎ありがとう。」

「えっ、本当?」

「うん‼︎琴美…一か月もほったらかしてごめ

 んな。」

「ううん。小太郎が帰って来てくれてよかっ

 た。」


 帰って来るって…

 

「もしかしてなんか知ってた?」

「看護婦さん」

「あっ、やっぱり…なんで私が彼女だって言

 わなかったの?」

「だって…記憶ない人に無理に付き合ってる

 なんて言ってもさ…それに、もしも小太郎

 があの看護婦さんを選んだんなら、それは

 仕方ない事だと思うの。だから…だからね

 私は、小太郎の人生を見守ろうって思って

 さ。」

「琴美…」

 

 チュー。

 

「よかった。小太郎。待ってたよ」

 

 ポロポロ涙を流す琴美。

 涙を拭きながら謝った。


「うん。ごめん」

 

 ギュッ〜。

 

 

 この一か月を取り返すかのように抱き合っ

 た。

 

 

 プロポーズの前にきちんと確認しないとい

 けない事がある。

 

 このはさん。

 

 

 トゥルルル トゥルルル

 

「もしも〜し。こたちゃん?」

「はい。そうです。その呼び方もうやめても

 らえますか?記憶が戻りました。」

「えっ…もう⁉︎」

「オレたち付き合ってないですよね⁉︎」

「う…ん。ごめんなさい。騙すつもりはなく

 て…ただあなたが好きになってしまって。

 本当にごめんなさい。もうこちらから連絡

 しません。」

「はい。ではよろしくお願いします。失礼し

 ます。」

 

 プツ

 電話を切り連絡先を削除した。

 

 

「琴美。本当にごめんな。距離おこうなんて

 言ってさ。」

「ううん。きっと脳みそがびっくりしてそん

 な事言っちゃったんだよ。」

「うん。そうかもな。」

「そうだよ!脳みそのバカヤロー‼︎」

「おい。鼓膜破れんだろ〜が。」

「ごめん。鼓膜太朗」

「鼓膜に話しかけんな。しかも鼓膜太朗って

 なんだよ。」

 

 あはは

 

 

 

 

 琴美が待っていてくれて本当によかった。

 琴美をじっと見つめた。

 

 

「ねぇ。琴美」

「ん?」

「オレと結婚してください。」

「えっ……  はい‼︎」

 

 琴美は、一瞬フリーズしたけどすぐに受け

 入れてくれた。

 

 そして無事指輪が琴美の指にはめられた。

 

 

 

 

 実家に挨拶に帰るなり猫たちに指輪を自慢

 している琴美。

 でも、ぜんっぜん、聞いてもらえてなかっ

 た。

 

「ちょっとー、寝たふりとか毛繕いとかみん

 ななんなのさー‼︎ならこれでどうだ。」

 


 動く魚のおもちゃ。


 猫たちは、指輪より動く魚の方に食いつい

 ていたのでした。

 

 

 

 オレたちは、二人の会社の中間地点に部屋

 を借りて新婚生活スタート。

 

「小太郎ー。朝だよー。夜じゃなくて朝ー」

 朝から元気な琴美。

「おはよう」

「はい!おはよ。朝ごはんあるから食べまし

 ょ。」

 

 モグモグ

 

「今日は、久々の会社の飲み会だよね?」

「うん。」

「十一時過ぎたら奥さんは捜索願い出そうか

 迷いだすよ。」

「うん。わかったよ。その時間過ぎないよう

 にするね。遅くなりそうならきちんと連絡

 するからね。」

「うん!」

「じゃ行ってきます。」

「はぁーい。行ってらっしゃーい」

「琴美も仕事だろ」

「あっ、そうだった。ハシ ビロコウが待っ

 てるんだ。」

「じゃ行こ」

「うん」

 

 ガチャ。

 

 こうしてオレたちは、これからもいろんな

 事を乗り越えて幸せに暮らすのでした。

 

 

 

 おしまい。

 

 

 

 

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変な幼馴染 猫の集会 @2066-

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