第36話

 梅雨の季節

 

 なんだかジメジメしてて気分が上がらない。

 ずっと洗濯物部屋干しだから、なんだか家

 の中までジトジトだ。

 

 

 それなのに琴美は電話で

「今、毎日がすっごく幸せでハッピーなんで

 す。お裾分けしたいくらいだわよ」

 と話していた。

「いいなー。ならその幸せ分けてよ」

 と言うと、

「うん!今度箱に入れて持っていくね‼︎」

 なんて返事が返ってきたじゃないか。

 

 えっ⁈幸せを持ってくるの⁈

 しかも箱に入れてって…

 まぁ、楽しみにしておくとしようか。

 

 

 意味のわからないまま幸せを少しいただけ

 る日になった。

 

 ピンポン

 

「幸せもののお届けもので〜す」

 

 ガチャ。

 玄関を開けると本当に箱を持って立ってい

 る琴美。

 

 

 やっぱりかわいいぜ。

 

 

「まあ、とりあえず入れよ」

「はぁ〜い。おじゃましまーす」

 

 箱をテーブルに置いた。

 一体この中に何が⁈

 

 少し怖いんですけど…

 

「さ、小太郎さん。どうぞ開けてみてくださ

 いな。でも、ひとつ注意してもらいたい事

 がございます。」

「えっ…何⁈」

「まあ、とりあえず開けてご覧なさい」

 

 目を細めニヤッとする琴美。

 

 先に注意する事教えてくれないのかよ…

 

 箱を開けようとしたら、冷たい…

 キンキンに冷やされてた⁈

 

 ほのかに甘い香りが漂っていた。

 

 そして、恐る恐る箱を開けてみた。

 

 

 

 パカっ

 なんだよー……

 箱の中は、ケーキだった。

 

「焦ったよー。ケーキかよ」

「はい。ケーキでございまーす。」

「なんで注意する事があるって、言ったんだ

 よー。」

 

 すると低い声で、

「賞味期限守らないとそれはそれは恐ろしい

 事になります。きっとトイレから出られな

 いほどのパニックになるでしょう」

 なんて言い出した。

「あー、なるほどね」

 

 腐ると腹痛起こすって言ってくれよ。

 

 

「で、小太郎コーヒーと紅茶と水どれがいい

 かしら?今お湯沸かしてお持ちいたします

 が」

 

 自分の家かのように振る舞う琴美。

 

「なら、紅茶で」

「へい‼︎かしこまりー‼︎今こしらえてくるか

 ら、少し待っとけよ。小坊主‼︎」

「なんだよ…小坊主って」

 

 あははは

 

 笑いながら楽しそうに紅茶を入れてくれた。

 

 

 するといきなり爆弾発言…‼︎

 

「ねぇ、小太郎…私…今二股かけてるの。悪

 い子だわね」

 

 はっ⁇

 どうした⁇

 オレの耳…

 もしくは、頭がどうかしてしまったのか?

 今、琴美二股してるって言ったよな⁈

 

「ちょっと待ってよ‼︎二股ってなんだよ‼︎ど

 このどいつだよ‼︎」

「そこのあいつだよ」

 

「えっ⁈何⁇」

 

 そこのあいつ……………

 

 テーブルを指差す琴美。

 テーブル?

 なわけない…

 ケーキ…………

 

 まさかパティシエ?

 バイト仲間とか⁉︎

 

「いつから⁇」

「う〜ん。バイト始めてからかなー。でもそ

 の前から気になっては、いたんだよねー。

 とくにクリスマスとか」

「クリスマス?」

「うん。すっごく誘惑してくるからさ〜」

 

 誘惑⁉︎

 かなり積極的じゃないか…

 

 

 もしかしてクリスマス…

 バイトだったよな…

 そん時も一緒に過ごしたのか…⁇

 

「ねー、紅茶できたよ〜。小太郎は、どのケ

 ーキにするー?」

 

「琴美‼︎呑気に紅茶飲んでケーキ食ってる場

 合かよ⁉︎」

「なんで?今日は、のんびりする日でしょ?

 ン?」

 

 どういうつもりなんだ…

 

 琴美よ…

 

「二股って、これからどうすんだよ」

「うーん。これから選ぶよ」

 ケーキを覗き込む琴美。

 

「やっぱりショートケーキ…いや、チーズケ

 ーキも捨てがたい…う〜ん」

 

 真剣にケーキを選び出した。

 

 二股の話はどこにいったんだよ…

 

 なんなんだよ。

 だから毎日ハッピーで幸せなのかよ…

 

 それなら、もう完全に気持ちそっちにいっ

 てんじゃねーかよ。

 やっぱりクリスマス一緒に過ごすべきだっ

 たかな。

 でも、今更遅い…

 

 離れている奴より、いつも側に居てやる方

 が気持ちが分かり合えるのかな…

 

 今までずっと一緒だったけど、最近は家も

 隣じゃないしバイトも別々だったもんな…

 

 琴美は、怖がりだし寂しがりやだもんな。

 

 

 このままオレたちは、終わってしまうのか

 もしれない。

 

 あーっ。

 くそーっ‼︎

 

 

 トゥルルル トゥルルル

 

「小太郎ー。電話だからちょっと電話してく

 るね」

 

 そう言い残すと部屋を出て行ってしまった。


 パタン

 

 なんだかもう琴美がこのまま帰って来ない

 んじゃないか…なんて思った。

 

 

 続く。

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