第9話
異様に強力な火炎が4か所から浴びせられている。
化身人化術を展開しているので真の力を発揮出来ない状況とはいえ、水の精霊王が氷を展開しているのに、氷のドーム内にまで熱が感じられているのだ。
さすがの姫も、とてもまずい状況である事に気づかれたか、汗を流しながら険しい顔をしている。
氷を出し続けて消耗し続けてもジリ貧というやつだ。
やむを得ない、私の奥の手を出すしか…そう考えた涼だったが、先に姫が奥の手を決断し、呪文の詠唱を開始した。
涼「なりません、姫。姫のその術は秘中の秘です。しかるべき日まで温存を願います」
詠唱が中断される。
姫『しかしこれでは』
4体とは限らない。隠れて様子を伺っているものが居るかもしれない。なるべく敵に対してこちらの情報を秘匿したいのだ。
この邪なるものたちも知性があるようだ、炎を吐きながら器用に言語を話し出した。
1「何故かはわからんが…」
2「すこぶる調子が良いわ…」
3「不思議といつも以上の火力が出る…」
4「消し炭と化して消えろ、精霊族…」
「なかなか良い炎だが少しぬるめだな。もう少し強火にしようぜ」
姫『5体目!?』
姫が思わず叫び、最後の声が聞こえて来た方を見る
火の精霊王が立っていた。
全身から赤、青、紫の炎を発しながら、目を閉じて伸びをしながらしゃべっていた。
姫「火の王!」
火の精霊王「その精霊力…姫ですか?なんで人化術のままでいるんですか?」
火の精霊王が姫に向かって跪く。
涼「おかしいと思ったのだ。やつらの火球の手ごたえが在りすぎる。貴様の存在により、炎が活性化されていたのだな。」
火の王「そっちは水か。なかなかな干上がり具合じゃねえか」
若干嬉しそうに言う火の精霊王にイラっとした。姫もイラっとしたようだ。
姫『言いたい事は山ほどあるが、まずはそいつらを何とかせい!』
火の精霊王「そいつら?」
あらためて周りを見回す火の精霊王が驚いて言う
「…ってなんで“邪なるもの”がここに!?」
静かな、しかし明確な怒りを伴った表情と声色になる火の精霊王。
そんな火の精霊王の方を見て、邪なるものが口々に言語を浴びせる。
「貴様も精霊族か…」
「唯一人の助力など…」
「今の我々の炎ならば…」
「貴様から燃え尽きろ…」
邪なるものの4つの赤い炎が、火の精霊王に向けて放たれだした。
「…なめられたもんだな…」
火の精霊王の表情に怒りが溢れ出す
4本の炎を浴びせられ続けたまま、ゆっくりと立ち上がった火の精霊王が叫んだ
「ぬるいっつってんだろうが!!」
赤く浴びせられていた4つの炎柱が、火の精霊王の方から青紫色に変色して“邪なるもの”に逆流し、そのまま4体の“邪なるもの”は青紫の炎に包まれて炎上しだした。
「グアアアァ」
「あ、あつい…」
口々に断末魔をあげながら、あっという間に燃え尽きた。
事、攻撃力という点では、やはり炎の力を操る火の精霊王が抜きに出ていることを認めざるを得ないと、涼は改めて痛感した。
恐らくはもっと早く、あの程度のやつらであれば何かを感じる間も与えずに一瞬で焼き切って絶命させる事も可能だったのだろうが、“火の精霊王を炎で倒そうとした”という事にプライドを傷つけられたのだろう。わざと火力をコントロールし、奴らが熱いと感じる間を与えてから絶命せしめたのだ。あの高温を体内から出すほどの炎の扱いに特化したやつらをだ…
それはさておき
涼「姫、いくつか問題があります」
姫『我も察しておるぞ。問題点のひとつを』
涼「先ほど火の精霊王が高温の炎を召喚した際、私の残りの精霊力をほとんど使って、氷の防御壁を構築しました」
姫『うむ、大儀であった』
涼「私の精霊力はあとわずかしか残っていません。それが問題点その一です。次にですが」
姫『うむ、やつがあのままではまずいと言う事だな』
涼「はい。そしてその問題が解消したら、次の問題が浮き彫りになります。まずは火の精霊王に命令を」
姫『?…まあよい。おい火の王よ、化身人化術を唱えよ。そのままでは目立ちすぎるのだ』
火の精霊王「…あの、体の半分以上を水にして人間の体を構築する…あの術ですよね…」
姫が怒気を含んで言った
姫『まさか未習熟ではあるまいな?』
火の精霊王「で、できますよ。ちゃんと会得してます」
そういって術式を唱え始める。やがて身体が光に包まれ、人体構築が完成した。
涼の身長よりかは少し低い人間の体へと化身がし終えて、火の精霊王が腰に手をあて、胸を張って言った。
「どうです。完璧でしょう」
『なるほどな』
姫は先に涼が言った言葉から導かれた疑問の解を得て納得の言葉を言った。
人間界に来る前に学習し、人間界に来てからも改めてしずくからレクチャーを受け、学校に行く前にはさらなる念押し学習を受けたのだ。今の火の精霊王の状態が、非常にまずい状態だと言う事を。
全裸、衣類を全く装着していない状態なのだった。
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