第8話
現場ビルは、進入禁止の黄色いテープが貼られており、中の様子は伺えなかった。
火災の起きたビルは商店街の中のビルの一つで、一階は店舗となっているが“空き店舗・入居募集中”の看板が掛けられていた。火災が起きたのは3階付近から発生したようだった。
涼にとって姫の警護を行う事はもちろんの事なのだが、気になる事があったので姫を諫める事無く同行という選択をとった。
先日は体育館に“邪なるもの”が現れた。言語を話したということは知性があったという事。そして近隣の〇〇市▲▲町で出現…もしやつらに横のつながり“情報共有”という概念、能力があるとしたら、やっかいなことになる。この地に我々が潜伏している事を情報共有されてしまえば、刺客を送られる可能性が発生する。
いや、今回のやつが、我々がここにいるという情報を受けての刺客かもしれないのだ。
そうなると、この地での潜伏が難しくなってしまう。
あたりを見回す。
少し先には以前若干迷惑をかけた例の中華料理屋がある。
他には火災のあったビルと同様に、一階は店舗となっていて“空き店舗・入居募集中”の看板が掛けられているビルが何件かあった。
その空きビルの中の一つ、4階建てビルの4階の窓を見た時、“邪なるもの”が見えた!
同じ方向に視線を送っていた姫が小声でつぶやいた
『いたぞ、やつだ!』
そう言ってビル横の路地に向かって走り出す。
路地から裏手に回ると吹きさらしの螺旋階段が非常階段として付いており、姫は迷わず非常階段を駆け上がりだした。
駆け上がる姫に術をかけ、足裏に薄い水面と水圧を展開して足音を消す。自分にも同様の処置をして駆け上がる。
勢いそのままに非常階段4階の扉を姫が開けはなった。
ドアの中には比較的大きなフロアがあった。おそらく事務所のような用途のためのフロアなのだろうが、入居はされておらずガランとしていた。対面には正規のドアがあり、そのドアの向こうにはおそらく廊下とビル内の階段などがあるのだろう。
窓から差し込む月明かりがやつを…“邪なるもの”を照らしていた。
背中をこちらに向けており、やつはまだこちらに気が付いていない。
姫もやつを認識し、呪文を開始する。
それを見て涼が思案する。
(もしかして高レベル大火炎精霊術か?…だとすると…)
差し出した姫の手に光が集中する。
“邪なるもの”もこちらに気づき叫んだ
「なぜここに精霊界の者が!」
(!、横のつながりは…無い!!)
内心、胸をなでおろす涼。
右手には氷の剣を発現させる。
気づいた邪なるものが、人でいう頭部部分の口の部分から火球を放った。
氷の剣で火球を薙ぎ払う。
!
手ごたえがありすぎる!
仮にもこの私があの規模の“邪なるもの”一体に後れを取る事はありえ無いが、あの規模のやつが放ったにしては火力が強い…どういう事だ?
姫の呪文が最終段階に入り、いよいよというタイミングで
思いっきり舌をかんだ。
涼「やはり…そうなりますか」
氷の剣を伸ばして2撃目の火球を放とうとしていた邪なるものを刺し、前回同様凍らせて霧散させた。
やはり胴体の方には火球ほどの手ごたえは無い、さほど強くは無い“邪なるもの”だ。
…放つ火球だけが異常なまでに強力…これはいったいどういう事だ?
疑問はいったん置いておき、姫の方に向き直る。
口を押えて半泣きになっている姫に向かって涼が話す。
「火炎術につき、確証が無かったので進言を見合わせましたが、高レベル精霊術を人語の呪文と化した際、人体では発音できない場合があるのです」
表情は怒っているのだが、口を押えて呻くしかできない姫だった。
瞬間、背後の後方に熱源を感じて、反射的に自身の背後に氷の壁を展開する。
姫を両腕で抱きしめるように懐に抱えて御身を守護する体制をとりつつ、背後に視線を向けると、窓の外から“邪なるもの”が顔を出し、火炎を口から吐き出して浴びせ続けていた。
(危なかった)
姫『水の王!』
姫より涼の安否を気遣う意味での声掛けがなされる。
思わず出た言葉は、涼の正体である水の精霊王を略した呼び名“水の王”だった。
水の精霊王である涼は、基本的には呪文の詠唱をせずとも水の精霊術を展開できる。
(呪文の詠唱を必要とする者や、姫おひとりの時だったとしたら…かなり危ない状況だった。)
そして火力がやはりおかしい。さらに強力な火炎を継続して吐き続けている。
考え得る可能性は…と思案しつつ、攻撃に転じようと動く前に、非常階段ではないほうのドア、奥の方にあった正規のドアが音もなく開き、大口をあけた“邪なるもの”が炎を吐き出し浴びせてきた。
「2体目だと!」
涼が思わず口にし、そちらの方にも氷の壁を展開する。
息つく暇もなくビルの他の窓2か所からも“邪なるもの”の顔が現れ、火炎を浴びせてきた。
(4体!)
四方からの火炎に対し、ドームのような氷の壁を展開し続けて防御する。
そう、展開し続ける必要があるのだ。
大きく分厚い氷の壁を出すだけなら造作もない事なのだが、火炎により溶かされ続けるのに対抗するため、こちらも氷を出し続ける必要に迫られる。
後手を踏んでしまった。
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