第7話

食事の後、姫は勉学(テレビ鑑賞)を開始する。

テレビからは料理番組が放映されていた。

画面の中では中華料理のコックがしゃべっている。

「チャーハンは火力が命なのです。ご家庭のコンロでは、この業務用コンロの強火は再現できませんが、それでも代替方法はあります」

画面にはコンロの強火が映し出された。

“火が苦手”と言っていた涼先生としずくさんだが、テレビに映る火の映像は大丈夫みたいだ。

火の映像をバックにナレーターがしゃべりだす。

「驚きの代替方法はコマーシャルの後で!」


コマーシャルに入ると姫が涼先生としずくさんの方を見て言った。

『チャーハンを食してみたい。美味しいものなのか?』

涼先生が首を横に振りながら答える。

「実は私たちはチャーハンを食した事が無いのです」


考えてみると最近まで“火が苦手”と言っていた方々なので、チャーハンを作るという選択肢は無かったのかな?などと思っていると。

姫『ふむ…』

姫も同じような事を考えていたのか、特にそれ以上は涼先生とチャーハンの話題を続ける事は無く、視線をテレビに戻した。


テレビではCMが終わり、番組が再開される。

「それではここでチャーハンの歴史を紐解いてみよう…」


テレビを見ながら涼は昔の失敗を思い出していた。

人というのは食事で活動力を体内に取り込んで蓄える事を知り、人の身体を模したこの状況では、食事という行為が可能であるという事を実践し、経験した。

液体を摂取すること、摂取した液体をコントロールする事、アルコールを摂取する事とそのリスクなどは事前に情報として認知してから、コントロールを試み、酔っぱらって前後不覚となるような事は無かった。


そんな中、美味と評判の〇〇市▲▲町の商店街にある中華料理屋にて外食を試みたのだが…店の選択が良くなかった。厨房が客席からでもよく見える店だったのだ。

入店してすぐに厨房のコンロから炎が上がったのを見た瞬間、反射で大量の水を呼び出しそうになるのをなんとか理性で抑え込み、高密度の水の球を高速で、かつ気づかれないようにコンロにぶつけて消火した。

不思議がっている厨房の店主を横目に、給仕の女性に急な体調不良を伝えて退店する。

退店した直後、背中のドア越しに厨房から「お、点火した。なんだったんだ?」という声を聴いて、店から離れる足を速めた。

さっきの店主の言葉から“コンロを破壊はしていない”という事実を店から数百メートル離れたところで認識し、複雑な心境ながらも安堵した。


帰ってから「人間として潜伏するのであれば、これではまずい」と思い立ち、まずは炎のイラストを見ることから訓練を開始した。のちに写真を見られるようになり、映像を見られるようになったのは、割と近年の話なのだった。

そして最近では、妹と共に“禁忌の部屋、キッチン”でコンロの扱いを克服しようとしている。

(努力はしてみるものだな)


テレビからナレーターの声が聞こえてきた。

「なんと、家庭用コンロでもお店のチャーハンを作れる驚きの方法があるという。その方法は…コマーシャルの後!すぐ!」



士郎母子が帰った後も、姫と涼は居間で話をしていた。

しずくは昼食の片づけの為に退室している。


テレビはつけたまま、2人は別の話題を話していた。

涼が言う

「そもそも、我々は食事を必要としません。私としずくは若干の水があれば充分精霊力を補う事ができますし、自然豊かな土地があれば、大地の精霊力の加護を受け精霊力を得られます。」

少し寂しさを声に含みながら姫が言う。

『大地は誰とでも仲良しじゃったからな』

いつもの元気な声に戻って姫が言を続ける

『そうとは言え、美味しいものを食すことは素晴らしいことではないか』

「たしかにそうですが」

姫の返答は最もだと涼も肯定した。


点けっぱなしにしていたテレビからニュースが流れてきた。

「本日未明、〇〇市▲▲町の商店街ビルにて火災が発生しました。近隣には被害が無かったのですが火の手があがる原因がなく、警察では放火の可能性を考慮し捜査を…」



〇〇市▲▲町は江蓮家邸宅から少し距離はあるが、徒歩で行けない事は無い距離にある。


同日の日没直後、姫と涼は〇〇市▲▲町のビル火災現場に訪れていた。


昼に見ていたニュース映像に“邪なるもの”が映ったかのように見えたのだ。

テレビを見ながら“気のせいかもしれない、が…”と涼が思っていると、姫が外に向かって走り出した。

『やつが居たように見えたぞ!おのれ今度こそ!』

姫の後を追いながら涼が声をかける

「場所はご存じなのですか?」

追いかけながら、しずくに水分子糸電話で声を飛ばす

「今日は晩餐の用意は不要だ。」

そんなやり取りがあって、二人は〇〇市▲▲町のビル火災現場に訪れたのだった。

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