第4話
帰ってシャワーを浴びて、着替えをし、母の実家から送られてきた野ざま菜を持参して、
朝稽古後から2時間ほど後に再び江蓮邸を訪れた。
母はしずくさんとキッチンに向かい、僕は涼先生の案内で和室の居間に通された。
先に姫が居間にいて、ぺたんと座り込んでいた。所謂女の子座りというやつだ。
女の子座りをしながら“なるほど”といった顔をしている。
正座の洗礼を回避する方法をレクチャーされていたのかな?などと思っていると、姫が涼先生に話しかけた。
『先日見たテレビでは女子もあぐらをかいていたぞ。あれではだめなのか?』
「あまり行儀の良い事とは言えません。特にスカートの時は禁忌と心得て下さい。」
考えてみれば、床に直接座る文化は一部の国の独特な文化なのだろうか。そんな事を考えていると
「お待たせしました」
しずくさんと母がお盆にのせて料理を運んで来た。
ごはん、お味噌汁、根菜の煮物、野ざま菜、シンプルな和食の献立だ。
同級生の友人たちは“肉が無い”と不満を言いそうな献立だが、僕はあまりその辺が気にならない。
でも姫は?そう思って姫の方を見ると、目を輝かせて料理を見ている。
姫も大丈夫みたいだ。
全員でいただきますと発声し、食事を開始する。
「お味は如何でしょうか?」
「もう完璧ね。ほら」
母がみんなの方を見るようにしずくさんに促す。
僕を含め、皆が止まることなく料理を口に運んでいた。
料理でほっぺをふくらましながら、にっこり顔で姫もブンブンと頷く。
涼先生も切れ長の目じりが少し下がっている。普段はあまり見せることが無い、珍しい表情だ。
僕も思わずほっと声をだす「美味しい」
そんな僕らを見て母がニコリとしずくさんに微笑みかけ、しずくさんも安堵の微笑みを浮かべながら箸を動かし始めた。
「野ざま菜、いつもすいません。とても助かります。」
しずくさんのお礼に続いて、涼先生も話を繋げる。
「知恵殿のご実家の野ざま菜は、市販のものとは一味違う気がしますね」
「そう言って頂くと母も喜びます」
母の母、僕にとってはおばあちゃんのお手製野ざま菜だ。
「おかげさまで兄妹ともども、かなりコンロの扱いにも慣れました」
「炊飯器とか、火を直接見ない調理器はもう全く問題ないみたいだし、そうなるとIHキッチンっていう電気のキッチンって選択肢もあるわよ。調理器具をIH専用にしないとダメらしいので、トータルだと結構高価になっちゃいそうだけど…」
「魅力的なお話です。」
そんな会話をしながら、食事は終了した。
『今日も偉大な食事であった』
満足げに姫が言う。
大業的な言い回しは、日本に来て日が浅いからなのかな?
『それでは勉学を始めようと思う』
そう言って姫がテレビのスイッチを入れる。
「来日に先立って日本の事を学ばれてはいたのですが、少し古い資料で学習されていたのです。ですのでテレビ番組を見て現代の日本を学習しています」
涼先生が補足した。
テレビからは“あばれんぼう光圀犯科帳”の再放送が始まった。
―
昼食が終わって士郎家の2人が帰宅し、
夜になって江蓮邸での晩餐後、姫が口を開いた
『で、寺小屋…ではなくて学校はいつから行くのじゃ?』
お茶をすすりながら、覚悟を決めたように涼が答える
「…協力者に依頼し、近日中に手筈を整えます」
『うむ。では本日はもう休むとする』
姫の退出後、妹のしずくに思いを話す。
「このまま此方でしばらく居られるのであれば、もし万が一、警護が必要な事態になった場合、なるべく私の近くに居られる学生である方が都合が良い」
―
数日後には転校生として姫が紹介される。
『まだ日本語がおぼつかない所があります。よろしくです』
かなり流暢な日本語だ。
江蓮涼先生の親類の方で、僕とすでに知り合いという事も考慮されたのか、同じクラスになった。
あの江蓮先生の親類、あの氷の江蓮先生の親類(恐怖)、あの江蓮先生の親類♡(一部女子)、ちっちゃくってかわいい(一部男女)
等々、クラスメートは概ね好意的に受け入れた。
休憩時間には、特に女子から色々質問攻めにあっていた。
「どこから来たの?」
『外国』
「誕生日は?」
『はるか太古…じゃなくて14年前』
「クラスメートみんなそうだよ(笑)」
日本語がおぼつかないってところなのかな?
すこし離れたところで涼先生がその様子を複雑な表情で見つめていた。
(…出身地と誕生日か…)
―
6限目、世界史の先生が脱線に熱弁をふるっていた
「そして4ストロークサイクルのエンジン。これはですね、吸入、圧縮、燃焼、排気、この4工程で燃料を爆発させて…」
世界史で産業革命の話からエンジンの話になり、脱線に入った。余程エンジンが好きなのか、モーターサイクルが好きなのか、かなり熱の入った脱線だ。
授業時間終了のチャイムが鳴り、世界史先生の脱線話が打ち切られる。
教室の掃除を行い、終礼が終われば部活の時間だ。
体育館に向かおうとすると涼先生に呼び止められた。
「姫も同行させて下さい。私も後から行きますので」
「わかりました」と涼先生に返事して、姫と一緒に体育館に向かう。
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