「なんで塾行ってないのよ!最近まともに塾に顔出してないらしいじゃない!ふざけないでよ!」


「またか...」


「俺」は小学4年生になった。兄は高校一年生だ。

兄はなんとか都内のバカしかいないような高校に入学した。

「俺」や家族から見ればそれも奇跡のようなものだが、はたから見れば名前を書けば受かるような高校なんだから、奇跡もへったくれもない。


このところ毎日家の中が荒れている。

兄のせいだ。

あいつが塾にも行かず、勉強もせず、毎日遊んでいるせいだった。



苦しかった。

この場から逃げたかった。



母は昔の姿とはうって変わってやつれ、憔悴していた。

毎日のように兄に怒鳴り散らかし、包丁を持ち上げる。


「お前なんか殺してやる!」


「俺」は急いで自分の部屋から飛び出し、父と一緒に母を宥め、薬を飲ませ、布団に寝かせる。


母はうつ病だった。

いつ包丁を持ち出すかわからない。

朝、自分の部屋の扉を開けたら死んでいるんじゃないか。

兄を、殺しているんじゃないか。





怖かった。

でも、小学生の「俺」にはどうすることもできなかった。

無力だった。

誰も、助けてはくれなかった。

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