道
東京奪還から2ヶ月がすぎ―
ニュース「段々と四季の景色も薄れ、10月の景色が同年通りに
見られるようになってきました」
フラット「すっかり桜も枯れ草だね」
課内にはスラリア以外、全員揃っていた。開いた窓からは
一枚のもみじが入り込んだ。
スラリア「あれ、もう皆いたんだ」
クレア「やっと来たか。呼び出したやつが何で遅れんだ?」
スラリア「ごめん、知らせたいことがあったんだけど、その知らせの
もとをなくしちゃって…これだよ!」
ノール「?これ…フリーライブ⁉︎」
フォール「まさか、これに出るっていうのか⁉︎」
スター「この日程なら、スターも大丈夫」
フラット「うん、仕事も忙しくないし、いいかも」
スラリア「で、そのためにも…あたしが新曲作ったんだ!」
クレア「マジで⁉︎見せてくれよ」
スラリア「じ、自分で読むから。コホン…」
歌詞[澄み渡る空に 響き渡る歌 あたし達が 奏でる歌
寂しさや悲しみを 笑顔に変えたいから 奏でてる]
スラリア「どうかな…?」
ノール「こういう歌詞は…フラットに聞いて」
フラット「それ、Aメロだけでしょ?Bメロとかサビまで
聞かないと、goodもbadも言えないよ」
スラリア「えっ、全部言うのはちょっと…」
フラット「じゃあ見せてくれる?」
スラリア「み、見せるの?いいけど…絶対読まないでよ?」
フラット「分かってるって、ただ目で通しとくだけだよ。
ほら、ノート」
スラリア「うん…はい」
フラット「ん…ん〜…Bメロかな」
スラリア「やっぱり?あたしも変えた方がいいかなぁって
思ってたんだよね」
フラット「いやいや、変えなくていいよ!Bメロが1番いいなって
思ったんだけど…」
スラリア「あ、良かったんだ…あれで」
フラット「それより…これを1週間で完成させるのは無理があると
思うんだけど…できそう?」
ノール「作詞したスラリアが作曲した方がいいと思うけど」
スラリア「もうできてる。あとは編曲だけ―」
エド「俺が今日中に仕上げるっす!スコアがあるなら全然大丈夫っす!
任せてほしいっす!」
スラリア「じゃ、じゃあ…お願い」
スター「じゃあ、特訓のリーダーはスターがやりたい!」
クレア「たしかに、リズムやメロディの耳を持ってるのは
スターしかいないな」
フォール「やっぱコイツ、ロリコンだろ」
クレア「ウォイ!誰がロリコンだと⁉︎」
フラット「まあ、たしかにスターのこと庇いすぎだもんね」
ノール「ちょっと妹好きすぎ…」
エド「そうっすよね〜、まあ俺はフラットとペアっすけどね」
フラット「ちょ、へ⁉︎えっと…」
そういきなりエドから言われてフラットは距離をとった。
スラリア「流石に誤解されるって、今のは」
フォール「だよな〜。言葉足らずなのは、ナックラーと似てるよな」
フラット「もう……じゃあ、編曲はエドに任せるから。で、スターが
練習の時のリーダーに任命するよ」
スター「本当⁉︎ヤッター!」
クレア「すまん、フラット」
フラット「ううん、スターが1番知識あるから」
ノール「だな、私達じゃ全然反省のしようがないからな。
知識人に頼んだ方がいい」
フラット「てわけで、練習は明日からだね」
スラリア「えっ?この曲は今日作るとして、他のは今日やるでしょ?」
フラット「…へ?」
スタジオルーム―
フラット「じゃあ、始めるよー」
クレア「…ハァ〜!めんど〜!」
スラリア「まあまあ、そう言わずにさ。久しぶりで腕も鈍ってるでしょ?
ほら、やろうよ!」
フォール「まっ、俺の腕が鈍ることはないだろうな。なんてったって、
闇世界でも有名なんだぞ?」
ノール「そうそう、4弦使いの術士とかだっけ?」
フォール「お、よく覚えてんな!そう…だな」
フラット「フォール?」
フォール「…俺がベースを始めたきっかけ…知ってるか?」
フォールの学生時代―
「俺は…家族が先に逝っちまった。だから、爺ちゃんの家に
引き取られたんだ」
フォール「爺ちゃん…うわぁぁぁ!」
爺「怖かったろう、辛かっただろう。でも、大丈夫。ここなら、
やつらも来はしない」
フォール「うん…うん!」
「その時の俺はただ寂しさと恐怖で泣いた。でも、不安は
ここからが始まりだった」
翌日―
先生「というわけで、今日からこのクラスに転校してきた、
フォール君だ。自己紹介、お願い」
フォール「えっと、フォールです。よろしくお願いします」
先生「じゃあ席は、真ん中の列の空いてる席だから」
フォール「はい」
男子1「おい、アイツの隣だぜ?」
男子2「貧乏が移っちゃうんじゃない?」
フォールの席の隣に座っていた、気弱そうな男子生徒に向け、
冷たい視線や言葉が向けられていた。
フォール「よいしょ…へへっ、よろしく!」
男子3「う、うん…よろしく…」
先生「じゃあ朝の会は終わるぞ」
日直「起立!礼!」
チャイムと共に朝の会が終わりを告げた。
フォール「ねぇ、君名前は?」
男子3「えっ?」
フォール「隣だし、名前聞いた方が楽だしよ」
男子3「ぼ、僕なんかと
フォール「ちょ…?」
何かに怯えるように、男子生徒はフォールから逃げてしまった。
フォール「…面白そうじゃん」
男子1「おい、アイツと絡まない方がいいぜ?」
男子2「貧乏が移ったらやだろ?」
フォール「…別に」
男子1「あっ!てことはお前んちも貧乏なんだろ!だから無理に
強がって、別に、とか言ってるんだな!」
男子2「何それ、めっちゃウケる〜!」
フォール「勝手に想像でもしてろ。お前らが俺のことどう思おうと、
俺には関係ねぇからな」
男子1「お前、俺にそんな口聞いていいと思ってるのか?
転校生だから可愛がってやろうと思ってたのによ?」
フォール「愛の押し売りなら遠慮する。俺は暇人ではないんでね!」
男子2人を思い切りフォールは突き飛ばした。
男子2「ッテ⁉︎テメェ、転校生だからって調子乗んな!」
フォール「…バカらし。フッ!」
拳を握りしめて、大振りで男子はフォールを殴ろうとしたが、
フォールの発した軽い神力で返り討ちにされた。
フォール「これでちょっとは思い知っただろ」
男子1「ば…化け物!」
フォール「あぁ?こんぐらい、ファイターなら誰でもできるだろ。
悪いけど、俺もそんぐらいの力は持ってんの」
先生「ちょ⁉︎これは何の騒ぎだ⁉︎」
フォール「…先生、今日は早退しま〜す」
先生「えっ⁉︎フォール君⁉︎」
個室トイレ―
男子3「ヒッグ…!」
フォール「やっぱここか。分かりやすいやつ」
男子3「フォ、フォール君⁉︎何でここが?」
フォール「お前みたいなやつ、すぐにこういうとこで泣くからな」
男子3「だから、僕と連んだら―」
フォール「あんなやつらと同じになるくらいなら、お前と
連んでた方が断然マシってもんだ!」
男子3「へ?」
フォール「それに、俺が黙ってこの状況を見てると思うか?」
男子3「そんなの、会ってすぐじゃ分かんないよ」
フォール「だよな。じゃあ教えてやる。俺はな、ああいうゲスな野郎が
転落していくザマを見届けるのが大好きなんだ!分かるか?」
男子3「ちょっと分かんない…でも、アイツらに逆らったら
この街から追い出されるかも…」
フォール「?何でだ」
男子3「だって、あの2人の親…この街の市長と、この街の中で
1番大きな会社の社長だよ⁉︎2人を泣かせたら―」
フォール「先に喧嘩を売ったのはアイツらだ。そんなやつらを
庇ったら親も親ってもんだ。でも安心しろ?こういう時には、
物的証拠ってもんがあれば裁判でもなんでも有利になる」
男子3「物的証拠?」
フォール「手っ取り早いのは証拠映像だ。これが効率が良くて、
更に相手の口を縛る有効な手だ!」
男子3「映像があれば…いいの?」
フォール「あぁ、それだけでいい!簡単だろ?」
男子3「…うん!」
フォール「で、名前は?」
男子3「桜木 ディーク」
フォール「ディークか。よっしゃ、悪者には裁きだ!」
ディーク「お、おーっ?」
翌日―
ディーク「撮れたよ、映像…」
フォール「おっと…あぁ、これ良く撮れてる!こっそり校長に
この映像見せに行こう!」
校長室―
ディーク「校長先生!」
校長「?何だ、急に」
フォール「突然ですが、この映像を」
校長「…フォール君、君は今日から自宅謹慎って連絡があったはずだけど?」
フォール「そんなことより映像です!この学校の治安に関して、
大事な映像なんで」
校長「…仕方ない。フォール君はそれを渡して帰りなさい」
フォール「はいはい、まあそのつもりだったしな」
ディーク「ちょっと、校長先生にそんな態度…」
フォール「俺は上下関係とか気にしないんだ。じゃな」
ディーク「…ごめんなさい、先生」
校長「ああいう子は本音を言わないから困るよ。まあとりあえず、
この映像を見せてもらうね」
数分後―
校長「…そういうことか。で、この案は君が?」
ディーク「いいえ、フォール君が…」
校長「そうか…とりあえず、PTA会長とも話をしておく。
担任の先生に話しておくよ。2人は自宅謹慎になるだろうが…」
ディーク「なら、フォール君の自宅謹慎は解除してもらえませんか⁈」
校長「あぁ、家に帰ってるだろう。電話しておくよ」
ディーク「…良かった」
1時限目前―
フォール「何だよ、もう寝てたんだぞ?」
ディーク「だって折角僕のために色々とやってくれたのに、
罰くらうのは…ちょっと…」
フォール「ったく、お前は気弱すぎなんだ。だからイジメにも
あうんだ。で?報酬は?」
ディーク「…へ?」
フォール「冗談だ。まっ、授業は―」
ディーク「じゃあ、楽器、教えてあげる!」
フォール「…楽器?」
ディーク「僕んち、楽器屋だから。楽器は得意だよ」
フォール「へぇ〜…」
放課後、帰り道―
フォール「なんだ、山のふもとか。俺んちと近いじゃねぇか」
ディーク「えっ、フォール君は?」
フォール「山ん中。まあ、本当に近くだ」
ディーク「じゃあ、楽器持って、寄ってもいい?」
フォール「あ〜…多分大丈夫。音がうるさくなかったらな」
ディーク「それなら…ちょっと待ってて!」
数分後―
ディーク「持ってきた!ギターとキーボードとベース!」
フォール「お前…案外力あるんだな」
ディーク「よく父さんの仕事を手伝ってるから。行こっ!」
フォール「おい、先に行っても俺んちどこにあるか知らねぇだろ!」
調子良さげに山へ入っていったディークをフォールは急いで
追いかけていった。
フォール「ここだ。ただいま、爺ちゃん」
爺「ん?友達か」
フォール「あぁ、ちょっとうるさくなるかもしれないが、
爺ちゃん、眠らない?」
爺「寝ないぞ。まだ俺は若いんだぞ?」
フォール「だな。じゃあ、なるべく爺ちゃんの部屋より遠くで
コイツと遊ぶから」
爺「そうか。じゃあ俺は街に行ってるぞ」
フォール「分かった。ディーク、こっちだ」
空き部屋―
フォール「ここなら、音漏れしても大丈夫だ」
ディーク「うん」
フォール「それより…俺達は2人だろ?何で楽器は3つなんだ?」
ディーク「そ、それは…」
少し戸惑ったようにディークはうつむいた。
ディーク「フォール君がどの楽器を使うか分かんなくて…」
フォール「ふぅん…じゃあ、俺はベースだな」
ディーク「あれ、てっきりギターだと思ったんだけど…」
フォール「俺はマイナーが好きなんだ。目立たないやつで
目立つとカッコいいだろ?」
ディーク「へぇ〜…じゃあ、やろっか」
回想終了―
スラリア「じゃあ、そのディーク君がフォールのベースを?
え〜、じゃあその子の方がもっと上手なんじゃないの?」
フォール「いや、俺はアイツからその日を含めて5回だけだ。
あとは俺の独学だ」
クレア「にしても、目立たないやつで目立つとカッコいいか。
お前の口からは絶対に聞きたくないセリフだな」
フラット「まあまあ…で?5回だけだって言ってたけど、
少なくない?その時ってもう卒業間近だったの?」
フォール「いいや、中学1年だ」
ノール「…ソイツが転校した…とか?」
フォール「転校なら…良かったな」
回想―
フォール「ふわぁ〜…眠っ」
女子1「フォール君、当たってる」
フォール「へ?」
先生「フォール君、この問題、いつ解けるんだ?」
女子1「2分前から当たってるんだけど…」
先生「このくらいの方程式、君ならすぐに解けるだろ」
フォール「…x=2、y=ー7」
先生「えっ…2次方程式だぞ…?」
フォール「…不正解か?」
先生「いや…正解だが…」
フォール「じゃあ、おやすみなさい」
女子1「ちょっと、フォール君⁉︎」
先生「…もういい。そろそろ授業も終了だな」
[キンコンカンコーン]
フォール「?何だよ、終わりか?」
学級委員「起立!礼!」
休み時間―
女子1「フォール君、内申まずいよ?テストが全てじゃないんだから」
フォール「分かってるっての。俺は中1だし、まだ内申なんて
気にする年じゃねぇよ」
女子1「もう…」
フォール「それより、ディークのやつ、今日は欠席か」
女子1「…ねぇ、ディークと付き合うの…やめた方がいいよ」
フォール「は?どういうことだ」
女子1「その…ディークはフォール君の前に来た転校生なんだけど…
前、校長先生が先生に言ってた話、聞いちゃって…」
校長「君のクラスに来たディーク君だが…刺激しないように。
なんでも、解離性同一性障害らしくてね。あの子がここに
転校した理由、知ってるだろ?」
先生「…はい」
女子1「解離性同一性障害…いわゆる多重人格。ディークは
前の学校でもイジメられてて、我慢の限界で暴れ回っちゃったって
話なんだって」
フォール「なら、刺激しなけりゃいいだけだろ?」
女子1「そうでもなくて…そのイジメから助けようとした子を
第一に襲ったみたいで…しかも、死んだって」
フォール「なっ…⁉︎」
女子1「それで今日休んだ理由も…無断欠席。その暴れ回った日も
無断欠席で、急に学校に来たんだって」
フォール「…まさか。俺が襲われると?」
女子1「フォール君なら大丈夫だとは思うけど…」
先生「フォール、ちょっと」
フォール「えっ?俺…ですか?」
廊下―
先生「…君、ファイターの力、持ってたよね」
フォール「あ、あぁ…それが?」
先生「…今日、あの2人が登校中のディークを襲ったらしい。
今は病院だが…その病院から連絡があった」
フォール「で…なんて連絡だったんだ?」
先生「窓から逃亡したらしい」
フォール「逃亡…それじゃ…!」
ディーク「あぁ、そうだよ!」
ガンッと蹴られたバケツが廊下を跳ねまくった。
フォール「ディーク…じゃ、ねぇな。それどころか…もうディークは
生きてねぇってとこか?」
先生「なっ、生きてない⁉︎」
フォール「だろ?俺と似た…魔者さん?」
ディーク「ふぅ〜ん…ちょっとは頭が回るやつだな」
フォール「あぁ、最初からお見通しだった。あの2人も、
お前の魔力で操ってたんだろ?そして、前の学校でも。お前が
その体を乗っ取ったのは随分前だろうな。完璧にその体と
同化している」
ディーク「まあ、俺も、あの最初の日にお前を殺すつもりだったんだが」
フォール「だろうな…あのベースで!」
ディーク「あぁ、おかげで機会を逃した。キーボードで殺すには
持つのに手間がかかる。かと言って俺が持ってたギターは…
何故か俺の体が拒んだ」
フォール「…あのギターは、お前の体の思い出だ。殺しには
絶対に使われたくないほどの…な」
ディーク「まあ?今日こそは殺せるさ。お前ほどの魔力があれば
一気に俺も一級魔族にも―」
フォール「一級魔族…か…寝言は、寝てから言いな!」
消化器を使い、フォールはディークの視界を奪った。
フォール「こっちに来いよ!お望み通り、勝負してやる。
ただし、ここにいるやつらには指一本たりとも触れさせねぇ!」
窓を開けて、フォールは一気に屋上へと登った。
ディーク「ふん!お前みたいなやつを待ってたんだ」
フォール「今までどれだけの負の力を吸い込んだのか知らねぇが、
俺は友人と名乗って近づいてくる輩が大っ嫌いなもんでな!
俺と同じだからって調子乗んじゃねぇぞ!」
ディーク「その減らず口が、いつまで持つかな⁉︎
三級魔術・ダークポイズン!」
フォール「ハァ…やっぱバカだ、お前。二級魔術・闇消!」
ディーク「何⁉︎術が…闇に消えていく⁉︎」
フォール「お前は…気弱すぎなんだ。こんなことで驚くな。
まだお前なら…考えなおせる。1から出直せ、ディーク」
ディーク「なら…この体を地に落とそう」
フォール「なっ…やめ―」
フッとディークの体は重力に従って地面へと落ちていく。
その体からは既に魔者の魂は抜けていた。
フォール「なっ、させるか!」
魔者「気弱…その言葉がお前の遺言だ」
フォール「…いや、俺の遺言は…ない!
第一暗黒『零』術・『送別之送涙』!」
術によって生じた水泡が、2人を受け止めた。
フォール「…助かった…ディーク…」
魔者「愚かなやつめ。人間なんぞ、お前の邪魔だてにしか
ならんぞ。それでも―」
フォール「だから…なんだ。俺はお前のような魔者ではなく…
“邪神”だ。お前は…最初から間違っていた」
魔者「なっ…ならなおさら!」
一気に魔者はフォールに向かっていった。
フォール「…神業・存在抹消!」
魔者「なっ―」
フォール「悪いが…邪神なもんで。愚かなお前に対する罰、
これぐらいしか思い浮かばなかった」
もう息のないディークを、フォールはただ見つめていた。
フォール「あの時のお前は…お前だったけどな」
それだけ言うと、フォールはスクッと立ち上がり、チグハグな
歩幅で教室まで向かっていった。
先生「まさか魔族とはね…ありがとう」
フォール「なら礼として今日は早退させてもらう」
先生「えっ…そ、それは…ダメだろ!」
フォール「それぐらいのことしたんだぞ?まっ、勝手にさせてもらう」
先生「…不良なのか…優等生なのか…」
街が闇に染まった日、ディークの墓にて―
フォール「俺もやっちまった。愚か者だな…てことで、一曲」
慣れた手つきで自作の曲を披露した。
回想終了―
フラット「じゃあフォール、曲作れたの⁈」
フォール「あの一曲だけだ!俺はあれ以外…」
スラリア「じゃあ聞かせてよ!フォールの歌声聞いてみたい!」
ノール「まあ…ヴォーカル1人じゃハモリはできないし…
バックヴォーカルもいた方がいいだろ」
エド「そうっすね…」
フォール「…仕方ないな。曲名は、“道”。笑うなよ?」
いつもだったら絶対に見せそうにない照れ笑いをフォールは見せた。
フォール「よし…やるぞ。ワン・トゥー・スリー…
気がつけば 立っていたこの道 難しく考えず 進んでいくのみ
振り向けば 続いてた足跡 変わらない歩幅で また歩こう
小さな出逢い 小さな別れ あっという間の美しさ
輝きなど夢に見ず ただ今を眺めていればいい
いつ何時 この道に 分かれ道のない合流点が現れるだろうか?
傷のない 心など ありはしないのだろうか? ここにはもう
幸せは訪れないのだろう…」
クレア「…終わったのか?」
スター「分かんない…」
フォール「素直な君が残した 4弦を 今ここで 今君に
かき鳴らすよ 届け!
いつ何時 この道に 分かれ道のない合流点があったのだろうか?
傷を知る 心なら ここにあると知った ここになら
幸せは訪れるのだろう…
悲しみさえ この道に 残せられない悔しさだけが募っていく
涙さえ 心には 冷たいトゲを突き刺す それでも君の言葉が
幸せをずっと分けてくれる…」
フラット「……ベースは上手いけど…」
クレア「歌は…な?」
フォール「しょうがねぇだろ!俺はベース一筋なんだ。そういうこと
言うならいいさ、もう歌わねぇよ」
フラット「いやいや、練習すればベースよりも早く歌は上手くなるよ。
フォールの声はいいんだから、自分なりの歌声を見つけられたら
一気に上達できるって!」
フォール「そ、そうか…?」
フラット「まあ、まずは…って、今何時⁉︎」
クレア「あ、そういや!」
スラリア「もう…16時⁉︎あと2時間で出ないと!」
フラット「あ〜!無駄話してる暇なかった!」
スター「すぐ準備しよ!」
ノール「と言っても、この時間からだと、できて5曲だな…」
スラリア「5曲でもいいからやろう!」
エド「まあ、やるに越したことはないっすね!」
全員はバタバタと楽器を持って立ち位置に戻った。
全員「………?」
ノール「そういえば…合図はバカ虎だったな」
フラット「じゃあ、次は誰がやる?」
クレア「んなの、決まってるよな?」
エド「もう候補は1人しかいないっすね!」
スラリア「多分、あたしも同じだと思う」
スター「スラリアのお姉ちゃんだけじゃなくて、皆で同じこと
考えてると思うよ!」
フォール「まっ、コイツ以外に誰がいるんだって話だ」
クレア「じゃあ、セーので言おうか!セーの!」
フラットとその人物以外の全員がその人物の名前を口に出した。
全員「フォール!」
フォール「俺か⁉︎おいおい、フラットだろ、そこは」
フラット「あ、僕も賛成」
フォール「ウォイ!」
フラット「だってさ、フォールの合図、完璧だったし」
スラリア「そんな理由じゃないよ。フォールを中心に音楽イベントは
やってもいいかなぁ、って」
ノール「フォールが音楽好きなのは、音を聞けばわかるし」
クレア「フラット中心は普通のイベントだろ?」
スター「2つは重労働だもん」
エド「フラットはヴォーカルっすし、合図は難しそうっすもん。
それに、フォールはリズム感あるっすよ」
フォール「…ま、まあ?そこまで言うなら考えなくもないぞ?」
フラット「フフッ…ハハハ!」
フォール「何だよ⁉︎何がおかしいんだ⁉︎」
フラット「だって…!そんなフォールが顔赤くするとか…!
面白すぎて…アッハハハハ!」
フォール「なんだと〜⁉︎この口か⁉︎この口がそんなこと言ったのか⁉︎」
フラット「いででで!アッハハハハハハ!」
フォール「まだ笑うか〜!」
ノール「おい、練習時間!」
スラリア「終わっちゃうよ!」
フラット「あ、そうだった!それじゃ、合図は任せたよ、
赤面フォール君」
フォール「…お前、後で覚えてろ。いくぞ、ワン・トゥー!」
一方その頃―
ペーター「俺が最後か。ナックラー、本当にいつもお前は
俺の先に行くよな」
ペーターがまだファイターだった頃―
ナックル「ペーター、下がってろ!エリート級なら…俺が
相手を務めさせてもらうぜ!」
ペーター「…ハァ…アイツらにも置いてかれそうだ。やっぱり、俺は
ファイターとしても課長としても失格だな。アイツらのことを、
ただ遠くで見守ることしかできない。そろそろ、潮時なのかも
しれないな。フラット君はもう、お前より立派で未熟なファイターだ。さてと―」
ペーターが中庭にあるナックルの墓から立ち去ろうとすると、
ちょうどフラット達が演奏を始めた。
ペーター「…おーい!」
無意識のうちにペーターは大声でスタジオルームへ叫んだ。
フラット「はーい!何ですか〜?」
ペーター「いや…その…精が出るね!」
フラット「はい!ペーターさんも来てくださいよ!ペーターも、
同じデ・ロワーの仲間ですから!」
ペーター「!」
フラット「えっ⁉︎あ、そ、そのすみません!」
ペーター「えっ?どうして謝るんだい?」
フラット「だ、だって…急に涙…」
そう、フラットが放った言葉がペーターの胸に響いた。まるで、
歌声が河原に響き渡るように、気持ちのいい澄んだ音で。
ペーター「…これは…花粉症で目が痒いだけで…」
フラット「ペーターさん、花粉症じゃないでしょう?とにかく、
すぐに来てください!久しぶりの演奏なんで!」
ペーター「…分かった、すぐ行くよ!」
フラット「はい!皆〜!ペーターさん来るって!」
ペーター「…どうやら俺の潮時は、まだ先のようだな。俺の道に、
まだ分かれ道はないようだしな」
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