第28話 ワンダーマイドリーム 1節 目覚め

管理者「・・・フン!なんだ、このザマは?」

グラ「いやいや、まだ本気で戦う相手でもないさ」

管理者「それで油断したのが私だと教えたはずだが?」

グラ「それでアイツのことをよく知る私を呼んだはずじゃ?」

管理者「まあいい!他にも呼んでいる!」

グラ「まあ、私に勝る者などいないさ」

管理者「それはあくまでフラットが相手なら・・・な。既に送り込んでいる。

ただ・・・流れ着いた時に少々トラブルが起きてしまったので、

どうなるか不安ですが・・・」


東京・銀座-

ベングル「ガァァァ!もう限界だ!」

賊風男「黙れベングル。仕事に集中できねぇだろ」

ダンステード「お、新入り君にしては意外に大口叩くなぁ、初っ端から

ええ感じやで!わいはあんさんみたいなの、大歓迎やで!」

賊風男「そりゃあ、どうも」

グリオ「それより、まだ風の長は決まっていないのか。水がようやく、

ダバンゴに従順だった・・・え~と?」

賊風男「メッシュだ」

グリオ「そうそう、メッシュ!」

シャン「おはよう、大丈夫?順調?」

ベングル「お、おう!」

シャン「なら良いんだ。ちゃんと働いてよ?特に、ベングル!」

ベングル「ギクっ!」

シャン「全っ然進んでないの見たら分かるから!」

ベングル「はい、サクッとやります!」

シャン「まったく」

謎の少年「・・・クススッ!」

メッシュ「⁉︎」

バッと窓を振り返るも、そこにあるのは中庭に生えている太い木の枝だけ。

メッシュ「気のせい・・・か?」


謎の少年「いっしし!危ない危ない!人に見つかりなんかしたら

俺のメンツ形なしだ」

子供「ねぇお母さん!今日のお昼何?」

母親「今日は休日だし、食べに行こっか!」

子供「やったぁ!」

謎の少年「飯を・・・食いにいく、か」


レストラン-

店主「いらっしゃい」

謎の少年「いつもの!」

店主「はいはーい!」


数分後-

店主「よっと!にしてもトンヤ君はそれ飽きないの?」

トンヤ「あぁ、飽きねぇさ」


トンヤ「なーんてな」

妄想から覚めて、寂しそうにトンヤは路地裏に消えた。

フラット「たしかこの辺だったよね。美味しいカフェって」

エド「そうっすね。ただ路地裏にあるみたいっすよ?」

メダイ「えぇ~、よりによって路地裏とか~!」

フラット「あっちゃ、そこまでは見てなかったや」

エド「まっ、もう行くしかないっすね」

メダイ「ここだよね、行こっ!」


路地裏-

トンヤ「よっと・・・お、あったあった!じゃあ失礼して-」

フラット「あ~、あったあった!ここだよ!ほら!」

エド「なんか俺がフラットと2人で行った時のような場所っすね」

メダイ「2人⁉︎まさかフラット?」

フラット「ちょ⁉︎何言ってんの!」

メダイ「アッハ!ジョークに決まってるじゃん!」

フラット「くぅ~っ!」

トンヤ「・・・やべっ、逃げなきゃ!」

慌ててトンヤはマンホールの中に隠れた。

フラット「?今なんかカタンって・・・マンホール?」

変な物音に気づき、フラットはマンホールを覗いた。

ギィ~(マンホールが地面にこすれる音)

フラット「え~と・・・ん?穴、ってワァオ⁉︎」

トンヤ「ワァオ⁉︎」

マンホールの梯子の横にできた穴を覗いたフラットとそこを隠れ家と

していたトンヤとの目が合い、2人は共に驚いた。

メダイ「ちょっ、どうしたの⁈」

フラット「い、いや・・・」

トンヤ「だ、誰だ⁉︎」

フラット「い、いや・・・汚いよ?」

トンヤ「へ?ここ、そういうアジトとかじゃないのか⁉︎」

フラット「いや、ここ下水道だし・・・」

トンヤ「げっ⁉︎すぐ出る!」

フラット「そうした方が・・・でも暑苦しくない?そんな深くフード被って、

厚着までして・・・ほら脱いだ脱いだ!」

トンヤ「ダメです!」

暑そうな上着を脱がそうとしたフラットの手をトンヤはすぐに払った。

フラット「あっ、ごめん!」

トンヤ「いや、いいんです・・・俺もすぐ出るからそこどいて」

フラット「あ、じゃあ・・・」

フラットは梯子を登り、それに続いてトンヤも登っていった。

メダイ「大丈夫?」

フラット「うん、全然」

トンヤ「えっ・・・」

エド「ちょ、誰っすか⁈」

トンヤ「お、俺はトンヤ・・・」

メダイ「そんなとこで何してたの?ほら、暑っ苦しい格好までしちゃってさ!

9月とはいってもまだ暖かいんだから危ないって!」

トンヤ「いい!俺・・・ごめんな-」

グゥ~・・・(腹が鳴る音)

フラット「な~んだ。お腹空いてるならそう言ってよ」

メダイ「今から喫茶店行きけど来る?」

エド「美味くて有名なんすよ!」

トンヤ「で、でも迷惑に・・・」

フラット「全然いいよ。元々4人来るはずだったからさ」

トンヤ「いいのか?」

フラット「皆もオッケーって言ってたし、僕も問題ないよ。

じゃあ決まりってわけで、早速ゴーゴー!」


喫茶店-

店主「いらっしゃい!」

フラット「じゃあこの辺にしよっか」

4人は席に座った。

メダイ「ここ一席だけだったね」

エド「ほら、言った通りっすよ!これだけ有名って言ったじゃないっすか」

フラット「アッハハ!疑ってはないよ。じゃあメニュー表・・・?」

ありそうな場所にメニュー表がなく、ふとトンヤの方を見ると

まるで子供のように、トンヤはジッと見つめていた。

メダイ「ねぇフラット。もしかしてトンヤって・・・」

エド「それ、俺も思ったっす」

フラット「流れ者ってこと?」

メダイ「うん・・・容姿を隠そうとしてるから多分・・・」

エド「じゃあ・・・」

スッとエドは立ち上がると、フラットにウィンクして席を代わるように

アイコンタクトを試みた。

フラット「・・・」

少し考えてフラットは自分の席を指差し、トンヤに気づかれないように

席をエドと交代した。

トンヤ「・・・?あれ⁉︎」

エド「シーっ!メニュー表立てるっすよ」

トンヤ「えっ?」

エド「大丈夫っす、俺も流れ者っすからメニュー表に隠れるように

俺にだけ顔見せてほしいんすよ」

トンヤ「いいけどよ・・・俺、アンタとは違うぞ」

言われた通りにメニュー表を立ててトンヤはエドにだけその顔を見せた。その顔はなんとも可愛らしい猫型獣人の少年の顔だった。

目は大きく、口が緊張でピクついていた。

エド「カッ・・・カワイイ!」

フラット「へ、かわいいの⁈」

メダイ「見たい見たい!」

その声に2人も近づいた。

トンヤ「カワイイ・・・?この顔がか?」

エド「そうっすよ~っ!」

トンヤ「・・・っ」

エド「えっ⁈」

急にトンヤはエドに抱きついて顔を埋めた。

フラット「?」

メダイ「どうした・・・のかな?」


数分後-

トンヤ「ごめん。俺・・・前いた世界でこの顔のことでいじめられてたから、

カワイイなんて言われたの初めてで・・・!」

フラット「えっ、イジメって・・・その顔で?」

エド「・・・あっ!まさかチャギワー生まれっすか⁈」

トンヤ「ん・・・そういうアンタはナンプリンの⁉︎」

エド「えぇ~⁉︎まさか同胞に会えるなんて思ってもなかったっす!」

メダイ「同胞って・・・同じ世界なんだ、2人って」

エド「それなら納得っすよ。あの国に生まれたなら普通はいかつくて男前の

顔しか生まれないはずなのに、こんな愛くるしい顔なんすもん。

でも安心するっすよ!俺達は顔なんかで差別しないっすよ!」

フラット「実際、個性の差別もないからね」

「おいテメェら!」

フラット「⁉︎」

ヴァイス1「飯食ってねぇなら出てってくれよ。俺達、腹空かせてんだ」

フラット「・・・なら待てばいいだけでは?僕達、まだメニューを

決めてるだけなので」

ヴァイス2「親分に逆らうな!メニューすらまともにきめられねぇ

優柔不断物どもはとっとと俺達に席を譲りな!」

トンヤ「・・・おいオメェら。ここはオメェらの住処じゃねぇんだ、

マナーを守れ」

メダイ「えっ、トンヤ君・・・?」

ヴァイス1「ガキ風情が調子に乗んな!このぉ!」

トンヤ「よっ!」

ヴァイスのパンチの軌道をしっかりと読んだ上で軽やかに避け、

トンヤは流れるように顎にアッパーを一撃くらわせた。

ヴァイス1「ガァァァ!」

ヴァイス2「親分⁉︎テメェ、ガキのくせに!」

トンヤ「何とでも呼んでくれても構わないが、俺は王家の末裔、

トンヤ・クリフトス!」

ヴァイス2「貴族・・・?ちぃ、厄介ごとに巻き込まれるのはごめんだ、

逃げさせてもらう!」

貴族と聞き、ヴァイス達は逃げるように喫茶店から出ていった。

トンヤ「・・・?」

しかし周りが未だにざわついていることにトンヤは気がついた。

フラット「トンヤ、ちょっと」

慌ててフラットはトンヤをトイレに連れていった。


個室トイレ-

フラット「ダメだよ、こんなとこで貴族なんて叫んじゃ」

トンヤ「えっ、何でだ?」

フラット「この世界じゃ、貴族は暴力団の別名だよ!そっちの世界じゃ

僕達の世界の歴史上の貴族の意味でも、今じゃ意味が違うんだ」

トンヤ「そうだったのか・・・やっちまったな」

フラット「にしても、貴族か」

トンヤ「へ?」

フラット「やっばい、可愛すぎる!」

トンヤ「やめ、離れろ~っ!」

エド「何してるんすか~?」

フラット「っ!」

鍵を開けっぱなしにしていたために、エドは開けてしまい、

トンヤに抱きつくフラットを見てしまった。

フラット「い、いや違うんだよ⁈これは反射的に-」

エド「フラットの可愛い物好きは知ってるからいいっすよ。ただまさか、

人間にもするとは思ってなかったっすよ」

フラット「ごめんって!」

トンヤ「ウグゥ~っ!」


それまた数分後-

店主「お待たせしました、フルーツパフェとざるそばのお客さまは?」

メダイ「あ、私です」

店主「はい、どうぞ召し上がりください。ではチキン南蛮とアイスカフェモカを

ご注文のお客様」

フラット「あ、僕か!」

店主「はい、今日のおすすめメニューのご注文、ありがとうございます。

次にダブルハンバーグ定食のお客様は-」

エド「俺っすね!」

店主「鉄板、お熱くなっておりますのでお気をつけてお召し上がりください。

最後ですかね、バラエティピザとフライドポテト、アップルパイ、フランスパンを

ご注文のお客様ですね。ではごゆるりとお寛ぎください」

一礼して、店主は空いた席の片付けに行った。

メダイ「あ、安心してねトンヤ君。私がお金は払っておくから」

トンヤ「いいのか⁈」

メダイ「これぐらいどうってことないも~ん!」

エド「何言ってるんすか、俺が払うっすよ!」

フラット「じゃあ3人で分担して出そっか?」

トンヤ「たしかに俺、金はねぇけど・・・必ず返す!俺まだ子供で

働けねぇけど・・・返すのが礼儀だ!」

フラット「・・・すごいね」

トンヤ「す、すごいって・・・すごくねぇだろ、当たり前のこと言ってるだけだ」

フラット「それもだけど、親がいないのに辛そうな顔しなかったからさ」

トンヤ「・・・実を言えば、家柄はよくても親はそんなにだったから

辛くはねぇよ。ただ、孤独になって寂しいってのはあるか」

メダイ「だよね。もし神力とかあれば・・・なんて思っちゃうよ」

エド「実際、何か願望があれば分かるんすけどね」

フラット「いや、なくても分かるには分かるけど、ファイター適正が

あるかどうかだよね。ちょっと待って、今アプリ開くから」

フラットはウォッチフォンの指揮者専用アプリを開き、トンヤを

認証してみた。

[認証結果。

神力微弱ながらあり。強力な願望があればファイター化可能]

フラット「・・・か」

メダイ「ん~まるでエド君みたいだね」

エド「俺は少なくとも神力が強いっすよ!」

メダイ「フフッ、冗談!」

フラット「にしても、そんなに食べれる?結構多いよ?」

トンヤ「ここんとこ飲まず食わずで隠れてたから腹ペコだったんだ・・・」

エド「・・・じゃあ俺のハンバーグ、半分あげるっすよ」

メダイ「私も、パフェ少し」

フラット「・・・そっか。じゃあ、ちょっと待ってね。ん~、これかな。

追加オーダー、と」

あるものをフラットは注文した。


管理者「さて、早速行動を起こしてもらうとするか。さて・・・」


トンヤ「?なんだ、今の俺のだよな・・・」

鞄から自分の猫型スマホを取り出すと、そこには指揮者専用アプリがあった。

トンヤ「えっ・・・?」

フラット「?どうかした?」

トンヤ「なんだ・・・?急に・・・体が・・・!」

メダイ「ちょっと!神力暴走してるけど⁉︎」

エド「俺が外に連れ出すっす!」

トンヤの手をエドは無理矢理引いて外に連れ出した。

メダイ「私も行く!フラットも!」

フラット「待って!これ・・・指揮者専用アプリ?てことは!」

事態を察知し、急いでフラットは外に飛び出した。

メダイ「え、待ってよ!お金・・・あの、すみません!食い逃げじゃない証拠に

注文した分のお金、置いときますね!後で戻ってくるので片付けは

しないでください、すみません!」

店主「あ、いえ。何が起こってるのか分かってるので行ってください」

メダイ「ごめんなさい、ご迷惑おかけします!」

深々とお辞儀をしてメダイも外に出ていった。


外-

エド「ぐっ、かなり荒い戦法っすね・・・でも俺の拳法が負けるわけないっすよ!

やりすぎないように気をつけて・・・これぐらいっすか⁈」

かなり手加減してトンヤを殴ったが、鉄板50枚を破る拳。どれだけ手加減したところで-

トンヤ「ギャァァァァ!」

エド「あっ・・・」

結局はトンヤは吹っ飛ばされて気絶した。

フラット「トンヤ~って、だからエド?こういう時は戦闘しないようにって

いつも言ってるでしょ!」

メダイ「あっちゃ・・・とりあえず、トンヤ君はケーベスに言って

迎えに来てもらうよ」

フラット「その前に、ちょっと失礼・・・」

何かに引っかかっているフラットは気絶しているトンヤに触れた。

フラット「この感じ・・・やっぱり・・・でもどこ、どこにある?」

エド「どうしたんすか?」

メダイ「さぁ・・・」

フラット「・・・ここら辺にありそうだけど、ここって・・・」

そのありかを見つけるも、それは胸の奥からした。つまり-


管理者「もう気づくとは・・・まあ、流石に心臓につけたダビデの星を

消すことは不可能でしょう。さぁ、どうする?殺すことを躊躇う君に

殺す決断はできるかな?」


フラット「・・・聞かなきゃ分からないか。メダイ、ケーベスは?」

メダイ「あ、うん、今呼んでるとこ。そう、ちょっとデ・ロワーに

運んでほしくて。できる?」

ケーベス「まあ、コータスは学校だしな、多分だが」

メダイ「あ~、今日火曜日だっけ。まあとにかくお願いだよ。

なるべく早く-」

ケーベス「あぁ、早く着いたぜ」

メダイ「着いたって、えぇっ⁉︎」

なんと既に上空には飛行可能バスがあった。

ケーベス「そいつか?」

フラット「あ、そう!あと僕も行く!ごめんメダイ、ちょっと用事ができた。

折角の休みだったけど、また今度にしよっか。今日はデートでも

なかったわけだしさ」

メダイ「うん、でもデートの時は絶対どこにも行かせないからね!」

フラット「はいはい。じゃあまた後で。あ、あと僕とトンヤの昼ごはん、

悪いけど持ち帰りにしてくれる?」

エド「じゃあ俺達の分もそうするっすか?」

フラット「いや、2人は食べてきて。流石に全員分を持ち帰るのは失礼だから」

メダイ「だね。じゃあ2人で食べてこっか」

フラット「・・・バトラーなら知ってるよね」

そう呟くと、フラットはトンヤを背負い、神力で浮いたままのバスに

乗り込み、ケーベスに発進するよう促した。


デ・ロワー-

ナックル「?心臓にダビデの星が?マジか・・・アイツもいよいよ奥の手を

出して俺達に探りを入れてきたわけか。しかも、殺しを躊躇うフラットも

ちゃんと対策してな」

フラット「・・・だよね」

ナックル「まっ、死刑を嫌うお前が悪いとは思ってねぇよ。俺がお前を

変えたってアイツからは聞いてたけどよ、それが本当なら嬉しいぜ」

フラット「本当だよ、嘘じゃないもん!」

ナックル「ま、そうだよな!じゃなかったらお前が隊長なんかに

なれてるわけねぇよな!ガッハッハッハ!」

フラット「もう・・・」

ナックル「にしても神力が上手く操れねぇんじゃ危険すぎるなコイツ・・・

昔のエドみたいにならなきゃいいが」

フラット「暴走だよね。分かってる。なるべく傷をつけるような真似は

させたくないからね」

ナックル「まあコイツの面倒はエドに見させようぜ。アイツにも

何か先輩らしいことさせてみてぇだろ?」

フラット「だね、アハハ!」

トンヤ「・・・?あれ?」

フラット「あ、やっと起きた。どう?」

トンヤ「俺、急に体が熱くなって・・・それで・・・何してたんだ?」

フラット「いや、そのまま急に倒れちゃったから運んだんだよ」

トンヤ「倒れた・・・そっか、ならいいんだ」

フラット「そういえばさ、なんでマンホールをアジトだと思ったの?」

トンヤ「いや・・・俺・・・遊んだことないんだ、誰とも。皆からは馬鹿にされて、

仕方なく部屋の中で1人遊び。親からはそんな薄気味悪いことやめろって

言われて外に放り出されて。アイツらに見つからないように

ずっと隠れ続けてた。親も知らない、俺の才能で」

フラット「才能って?」

トンヤ「まあアンタらは信用してるから教えてやる」

そう言うと、トンヤの体が段々とカメレオンのようにベッドの色と

同化していった。

フラット「スゴォイ!」

トンヤ「しかも、動きながらもこの状態でいられるぞ?」

ナックル「こりゃスゲェ!でも、神力じゃねぇな」

フラット「うん。これ・・・もしかして・・・」

ナックル「・・・よりエドを先輩に付けるべきだな」

フラット「この力は隠さないとダメだね」

ケーベス「おい、お茶。今日はちと暑いから冷ためにしといたぞ。

あっと、猫ならミルクの方が良かったかな?」

そう言ってわざとらしく用意しておいた牛乳をトンヤに出した。

トンヤ「ミ、ミルク⁉︎いいの⁉︎」

ケーベス「あぁ、別に俺はいらねぇし」

フラット「僕も緑茶でいいしね」

ナックル「そういえばコイツ、指揮者なんだろ?折角だしファイター支援課の

専属指揮者にしちまうのはどうだ?」

フラット「それはいいけど、トンヤの使命はバトラーか僕の抹殺。

この場合ならバトラーはどういう作戦を企てる?」

ナックル「そりゃ、俺達のそばに置かす、だな」

フラット「でしょ?この問題が解決するまでは見習い指揮者だね」

ナックル「ファイターに目覚めたらエドが、指揮者はお前で頼んだぜ」

フラット「うん。バトラーは策を考えておいて」

ナックル「分かってるぜ」

美味しそうに牛乳を飲む、まだ幼いトンヤを2人はみつめた。

ケーベス「・・・なるほどな。こりゃ無理矢理消すか。おいお前。

コイツら隠してるが、お前の心臓にあるものがあってな。それがお前の力を

暴走させてるんだ。またいつか暴走するぞ?」

トンヤ「暴走・・・また?あっ」

ケーベスの言葉でトンヤは運ばれる前の状況を思い出した。

ケーベス「またいつお前が暴走するか分からない。それ、怖くないか?」

トンヤ「俺・・・傷つけたのか?」

ケーベス「そこまでは知らねぇけど、傷つけるかもしれないな」

トンヤ「・・・そんなの、嫌だ!」

ケーベス「よし来た!その悩み、なくしてやるよ!人工神業・煩悩削除」

これでトンヤのダビデの星も消える。その場にいた全員がそう信じたが、

なんとケーベスの手が弾かれた。

ケーベス「⁉︎なっ・・・」

ナックル「ちぃ、アイツ、厄介なことしやがって!こうなったら・・・仕方ねぇ!」

最終手段と言わんばかりにナックルはとある人物を呼んだ。


数分後-

バジー「ナックル様、事情は把握致しましたわ。皆様に隠し通そうと

思っておりましたが、人のためとあらばこの秘密、晒しても構いませんわ」

そう言うと、バジーはトンヤに手を伸ばして詠唱を始めた。

バジー「禁止術・神力食奪」

アリジゴクのような触手に、バジーの右薬指が変化し、トンヤの体に

溶け込んだ。

フラット「へ⁉︎バジーって、まさか-」

ナックル「いや、バジーはアリジゴクとの同化っていう今までにも、

そしてバジーの記録以降見られていないケースなんだ。アイツは

そのせいで神力を失い、アリジゴクの力を得たってわけだ」

ケーベス「いわゆる、天然ものの人工アリジゴクってわけか」

フラット「矛盾した存在ってことになるわけか」

ナックル「そういうことになるぜ。これで神力を一旦取り出して

暴走は食い止めるしかねぇな」

バジー「・・・ふぅ。終わりですわ、お疲れ様でした」

そのバジーの手には輝くオレンジ色の光の塊があった。

バジー「私はこれを神力用収納ケースに保存しておきますわ」

ナックル「おう、頼んだぜ」

トンヤ「・・・っ」

自分を憎むような顔をするトンヤ。

フラット「・・・アイツ・・・今度という今度は許さない!」

ナックル「フラット・・・?」

フラット「トンヤ、大丈夫。自責なんかしなくていい。僕はその気持ち、

よく分かるよ。僕も縛られた」

トンヤ「えっ?」

フラット「でも、アイツと会った記憶はないの?何か言われた、とかさ」

トンヤ「たしか・・・宇宙船のような場所にいたような記憶もあるが、

覚えてない。なんか・・・記憶にモヤがかかってるみたいだ」

フラット「そっかぁ・・・まあ気にしなくていいよ。またいつか会うと思う。

でもそこで言われたことには逆らわないこと!いい?」

トンヤ「逆らうなって・・・何を言われるんだ⁉︎」

フラット「最悪、僕達を裏切るようなことまで指示してくる」

トンヤ「そんな!そんなの・・・絶対したくない!」

フラット「分かってる。その指示が来るまでには対抗策を練り上げてみせる」

ナックル「俺達に任せとけ!」

ケーベス「すまん、俺が力不足なために・・・」

トンヤ「・・・本当に・・・ありがとう・・・!」

全員が自分を思ってくれている。それを実感し、トンヤは泣いた。

ナックル「お、おい泣くなよ!」

ケーベス「くそっ、俺に力があれば!」

フラット「あ、違うよ。嬉しいんだよね、トンヤは」

優しくトンヤの頭を撫でて、フラットは慰めた。

フラット「もうここにトンヤをイジメるようなやつはいないよ。

ただ・・・僕がいるけどね!」

またフラットはトンヤを思い切り抱きしめた。

トンヤ「わわわわっ!」

ナックル「おい何してんだ⁉︎」

ケーベス「お前、そういう趣味してたのか?」

フラット「カンワイイだもん!」

ナックル「・・・ハァ」

トンヤ「ハ~ナ~セ~っ!」

メダイ「帰ったよ、って何この状況⁉︎」

エド「うわっ、またやってたんすか?」

ケーベス「またって、前科ありかよ!」

メダイ「これ、公然わいせつ罪になるんじゃない?」

ナックル「本人許可なしの急なハグだしな」

エド「・・・でもなさそうっすね。俺の能力で丸わかりっすよ。喜びと嬉しそうな匂いが

次から次へとしてくるっす」

ナックル「喉を鳴らす音もしてるしな」

ケーベス「なぁんだ、案外乗り気なんだな」

フラット「モッフモフ~っ!」

トンヤ「暑苦しいから離れろっての!暑苦しいんじゃなかったのか⁉︎」

医務室とは思えない騒がしい声が響き渡った。


管理者「・・・流石はフラット君達ですね、忌々しい!」

グラ「ほらな、失敗しただろ?」

管理者「まあ、まだダビデの星は残っています。そろそろ本来の運命に

軌道を戻しましょうか。これ以上この世界に手を加え続けるのは

危険でしょうから」

まだ余裕そうな笑みを浮かべて、管理者はフラット達の世界線を

ただじっくりと眺めていた。

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