第27話ー7節 深海に沈む気持ち

翌日-

ラルバ「じゃあ本官達の指示に従ってください!」

デラガ「全く、ダイバー免許持ちが1人だけでどうする気だったんだ?」

ビリー「後先のことも考えないといけないですよ?」

アイン「それで僕達は・・・」

フラット「こっちの班に来てもらうよ。もちろん、パルカもね!」

パルカ「ヤッター!オイラも海入りたかったんダゾ!」

クレア「でも免許持ちがあと1人欲しいだろ。誰がやるんだ?」

ダバンゴ「何言ってんだ、俺様達ガスペラス星出身のやつがいりゃあ

免許持ちなんて必要ねぇよ」

タクマ「そういうことだ。まあ俺は地球人のハーフだから別だけどよ」

ノール「まあ問題ないならいいわけだし、早速!」

スラリア「レッツダイビング!」

タクマ「ちょ、お前ら待て~!」

ヒナ「ちょ、置いてかないでよ~!」

フォール「お、おいお前ら!」

それぞれのグループがグダグダに海へ入っていく。

フラット「・・・じゃあ僕達も!」

ダバンゴ「おうとも!ヒャッフゥゥゥゥ!」

フラット「1番はしゃいでんじゃん・・・」

スレイ「ありがとう、俺のことも・・・」

フラット「いや・・・気持ちは分かってるから。それよりも・・・」

ニッと笑ってみせたフラット。そして-

フラット「じゃあレッツダ~イブ!」

スレイ「えっ、ちょ、ま-」

スレイの手を強く握って、フラットは海にダイブした。

ノール「朝から騒がしい・・・」

デラガ「まっ、捜査を面倒くさいとは言えんな。ラルバ、その代わりビリーは

任せたぞ。俺は捜査に専念する」

ラルバ「えぇ~!本官も泳ぎたいです!」

ナックル「だんだん目的がズレてきてないか?」

ベングル「だよな・・・」

エド「まあフラットが遊び半分でやれって言ったんすから大丈夫っすよ」

ビリー「あの、僕達も言ったほうが・・・」

ナックル「そうだな!っしゃあ!飛び込め~っ!」


1班-

クレア「暗いな・・・折角見つけた割に結構破損してるしな・・・ベングル、

何か見えるか?」

ベングル「ん~・・・ていうか何で懐中電灯とか持ってねぇんだ?」

エド「俺のは電池切れっすよ・・・あ、大丈夫っす!俺のネックフォンと

同期させれば・・・よし、できたっすよ!」

エドは自分のネックフォンと懐中電灯を同期させ、バッテリーを

共有させた。

ベングル「おいおい、結構バッテリー喰うぞ?」

クレア「なら、使っとけ。俺の予備バッテリー。マックスまで充電されてるし

なんとでもなるだろ」

エド「いいんすか⁈」

クレア「当たり前だろ、別に高いもんでもねぇし。にしても、

案外早く見つかったな、第三車両」

ベングル「見た感じ、休憩所って感じだな」

クレア「よくもまあ浸水せずにすんでるな・・・」

エド「貯水タンクの機能が壊れてないみたいっすね。でも今にも

崩れそうな感じっすよ」

ベングル「まあ早いとこ調査終わらせて遊ぼうぜ!」

クレア「何かしら物的証拠とか残ってりゃいいけどよ・・・?

なんだこれ?紙・・・?にしちゃあ歪な形だなぁ」

エド「それ、紙じゃないっすよ。長年放置されて状態悪いっすけど

ホワイトブラウンっすね」

ベングル「ホワイトブラウンか。珍しいもんが残ってるな」

クレア「いやいや、気付かねぇのか?ホワイトブラウンって銅だろ?

なんで錆びてねぇんだよ」

ベングル「・・・そういや、錆びてねぇな!」

エド「当たり前じゃないっすか。ここ、時の流れが止まってるっすよ?」

ベングル「なっ、エド、お前今なんつった⁈」

クレア「時の流れが止まってる⁉︎なわけー」

エド「じゃあ外見てくださいっす!」

クレア「外・・・?」

エドに言われ 、クレアは潜水モードとなり展開されていた窓から

海中を覗いた。

クレア「なっー⁉︎」


2班ー

ラルバ「で・・・本当にフラットさんが考えるグループはカオスですね・・・」

ノール「だからお前が私より先に行かなきゃ詰まることなく

入れたんだって!」

ナックル「ノロノロしてんのは大っ嫌いだって知って知ってるだろうが!」

ノール「本当に脳まで筋肉でできてるやつって大嫌い!話が通じないバカばっかで!

もういい、私は私で行動させてもらうから!じゃあね!」

ビリー「ちょ、ノールさん⁉︎」

ラルバ「ハァ・・・ビリー、ナックラーさんと行動しててくださいよ。

本官はノールさんと行きますので」

ナックル「チェ、ラルバはアイツの味方かよ」

ラルバ「何言ってるんですか⁉︎1人での行動は命に関わります!

本官は・・・あんな失敗、二度としたくないんです!」

何かを悔やんでいるような声でラルバはそう言い、ノールのあとを

追いかけていった。


3班-

デラガ「よしよし、いい感じに船も見つかったな」

コータス「ボロいにも程があるな・・・歩くたんびにギシギシいってるぞ・・・

崩れねぇよな?」

メダイ「いくらボロいっていっても崩れるほどじゃないよ」

ケーベス「それよりサクッと終わらせようぜ?俺達、あんま暇じゃねぇんだ。

早いとこ帰ってフラットがイジった分の調整しねぇといけねぇんだ」

デラガ「分かった、なるべく手短に調査して情報まとめてしまうから

そこまではちゃんと協力してくれよ」

コータス「だったらケーベスは帰ってりゃいいのに・・・」

メダイ「まあ、フラットの指示には従いたいみたいだしいいんじゃない?」

コータス「それもそうか。でも・・・この船、頑張れば動かせそうだな。

中枢機関は壊れちゃいるが修正不可ってわけでもなさそうだ。

ただ・・・海底から上げる時にどうなるか、だけどな」

デラガ「・・・お?」

ケーベス「どうした?」

デラガ「いや、箱の中に見たことのない物があってな」

デラガの手にあったのはたしかに摩訶不思議な輝きを放つ石。

まるで神器のように透き通った光だった。

コータス「おいおい、まさか・・・」

ケーベス「ゴスペルストーンか!スゲェ、生で見たのは初だ!」

メダイ「でもこれって神器に使われてる石でしょ?もう封印されたんじゃ・・・?」

デラガ「・・・そういうことなら、あり得るな」

ケーベス「何だよ、そういうことって」

デラガ「このゴスペルストーンを狙って裏切った、って可能性だ。

箱の鍵、明らかに壊されていたからな」

何重もの南京錠とパスワードのロックは、事故でできた傷とは

全く違う、殴られた痕が沢山あった。

メダイ「本当だ・・・じゃあ、これが原因で・・・」

コータス「でも結局盗まれてねぇだろ。こんなに残ってんだぞ?」

デラガ「スレイの話だと裏切り者がすぐにバレたんだろ?これを開けたとしても

かなりの時間がかかることに変わりはない。鍵を壊して開けた途端に

見つかったんだろう」

ケーベス「要するに失敗したってわけか。よし、それが分かっただけでも

収穫だろうな。じゃあ俺達は帰ろうか」

デラガ「そうだな。ここにはこれ以上何もなさそうだしな」


4班-

タクマ「何かあったか~?」

ヒナ「まだ何も~!ここ広すぎだよ~!」

スラリア「何であたし達の見つけた車両が休憩所なの?」

フォール「ゴタゴタ話してねぇで手を動かせよ。ほら、ここにもあるぞ」

タクマ「こういう作業だとマジメに働くんだな、お前は」

フォール「まっ、こういう地味な作業が好きなんだ」

ヒナ「も~うやめた!手が荒れちゃうもん!」

タクマ「ダメに決まってるだろ。いいから探せよ」

1番グシャグシャに潰れた休憩用車両で4人はなんとか手がかりを

探していた。

ヒナ「だってこの体勢キツいよ~!もう腰痛い!」

タクマ「ったく、じゃあ代わる!ヒナ、一旦下がれ」

体がこの中で最も軟らかいヒナが担当していた天井と床の隙間に

何かがあるものの、狭すぎて上手くとれないでいた。

タクマ「フォール、さっき銛あったよな。持ってきてくれ」

フォール「う~い!」

ヒナ「ちょ、銛があるなら先に言ってよ!」

タクマ「いや~、あんなに集中してたからいらねぇかと」

ヒナ「欲しいに決まってるでしょ!ハァ、まあいいや、じゃあ後は

タクマに任せる。もう腰痛いよ~!」

スラリア「アハハハ、災難だね」

ヒナ「そういうスラちゃんは何か見つけたの?」

スラリア「一応ね。でもこれが手がかりになるとは思えないけどね」

フォール「ん・・・?宇宙文字の瓶か・・・って、媚薬⁉︎」

スラリア「えっ・・・」

ヒナ「あっ、本当だ・・・でもこれって、匂い的にシナモンじゃない?」

フォール「あ、あぁ!歴史だとシナモンは媚薬か!って、この船は

何年ものだよ⁉︎」

タクマ「そりゃ長い間宇宙に居たんだ。時の流れもおかしくなるわけだ・・・っと!

よし、やっと取れた!で、これは・・・蓄音機?」

ヒナ「あ、それって中のグルグルを回すやつでしょ?今じゃ博物館で

展示されてるのしか見たことないよ」

スラリア「でもさ、これって電気とか通さないと聞けないよね。

それに・・・あ、大丈夫!回るよ!」

タクマ「じゃあこれが一番の収穫か!なら戻るぞ!こんな今にも崩れそうな場所に

居たところで危険だしな!」

フォール「賛成だ。で、どうだ、サボりはしなかっただろ?」

タクマ「あぁ、悪かったよ」

ヒナ「スラちゃん、牛乳とか飲んでる?」

スラリア「え、何で急に?」

タクマ「ヒナ、今はお前のまな板トークに付き合ってる場合じゃないんだ、

早く出るぞ!」

ヒナ「タ~クマ~、ちょ~っといいかな?」

タクマ「げっ・・・じゃ、じゃあ俺はお先に!失礼!」

ヒナ「逃がさないよタクマ~!」

スラリア「ハァ、あたし達も行こっか・・・ってあれ⁉︎フォール⁉︎フォール~⁉︎」

振り返るとそこにはフォールの姿はなかった。


5班-

フラット「見つかって良かったね」

ダバンゴ「流石は親分!見立て通りだったな!」

フラット「にしても、このドア、本当に硬かったよね」

アイン「僕がいなかったら入れなかったですもんね」

パルカ「流石はご主人!」

スレイ「・・・」

フラット「ね、ねぇ!何か話そうよ。その・・・うん。ごめん、同情なんか

いらないよね。分かってるんだけど・・・」

スレイ「あ、いや。そうじゃなくて・・・」

アイン「・・・⁉︎待って、何かあります!」

パルカ「ご主人、アレただのゴミなんダゾ」

アイン「えっ・・・」

フラット「本当だ。もう、早とちりもいいとこだよ~」

スレイ「フフッ・・・!アハハハ!なんだ、ゴミか・・・そうか」

ダバンゴ「安心しろ。バダンダ以外のやつらがまだ見つかってねぇだろ。

心配することないぜ」

スレイ「・・・そう・・・だな。絶望に囚われてては何もできないか。

お前も言うようになったなぁ、ダバンゴ」

ダバンゴ「・・・そりゃどうも」

プイッと顔を背けたダバンゴ。しかしその顔は少し照れくさそうに

赤くなっていて、そしてどこか誇らしげだった。

フラット「うんうん。あっ、ねぇ!これ見て!」

アイン「何かありました?」

フラット「ほら!音声データ!」

スレイ「これは・・・沈没する前日の⁉︎俺、何か録音した覚えなんかないぞ!」

ダバンゴ「だったら聞いてみる他ないだろ!」

そう言ってダバンゴは録音装置に記録されていた音声を流した。

そこには映像付きで-


バダンダ「うん、オッケーだよ!」

ガレイ「お、よし!それじゃ、セーので言うぞ!セーの!」

全員「船長、ありがとう~っ!」

トルピア「俺達がここにいれるのは他でもない船長のおかげだ!

今日はアンタの誕生日!と言っても、これ流すのは帰ってからだけどな」

バダンダ「もう!時系列ごっちゃになるから余計なこと言わないでよ!

とにかく、船長!いつもお疲れ様です!僕達がこんな風に楽しく、面白く毎日を

過ごせるのも船長あるからこそです!これからもずーっとよろしくお願いします!」

ガレイ「船長!俺がこん中で1番だよな!1番付き合いなげぇし、

1番アンタのこと知ってんだ!ダバンゴの野郎には負けねぇぜ!」

トルピア「何言ってんだ、俺が1番だ!」

ガレイ「いいや、俺が1番に決まってるだろ!」

バダンダ「第一迷惑しかかけないトルピアが1番になれるわけないでしょ!」

トルピア「な、何を~!遠回しで船長にマウント取ってるお前らには

言われたくないわい!」

バダンダ「べ、別にあれは-」

マレーゴン「おろ?何してんだ?」

サギュー「あ、船長へのメッセージだろ?俺達にも言わせてくれ!」


-そこでダバンゴが映像を止めた。

フラット「・・・ダバンゴ・・・」

ダバンゴ「・・・こんなの見たとこでしょうがないだろ!」

そう叫ぶダバンゴの瞳からは涙が流れていた。短い間とはいえ

共に歩んできた仲間の声。その声に思わず流れていた。

スレイ「なぁダバンゴ。前に言ったはずだ。生き残った者が、

消えた存在を覚えていなければならないと」

ダバンゴ「何が言いてぇんだ?」

スレイ「映像、再生するぞ」

ダバンゴ「ちょ、おい!」

停められた映像が少しザップを起こして動き出した。


サギュー「にも言わせてくれ!」

バダンダ「いいよ、じゃあこっち!」

マレーゴン「船長!ありがとな。そばにいれて楽しかったぞ!

帰れたら、また同じ飯食おうな!」

サギュー「お前は食うことばっかだな、本当に。まあそれは置いといて、

私からもお礼を言わせてもらうよ。たった1人の女の私でさえ

普通に接してくれてありがとう。船長、生きてるっていいことだな。

知らなかったよ。また会えるから、その日もよろしく」

ガレイ「何だよ、まるで別れみたいな挨拶しやがって」

トルピア「たしかに明日でこっからは帰るけどよ・・・別にここで

解散するわけでもねぇし」

バダンダ「あっ、もしかしてドッキリでも仕掛ける気⁈だったら賛成!」

サギュー「いや・・・少しな」

マレーゴン「・・・おっと、もうこんな時間か。そろそろ船長も

帰ってくるんじゃねぇか?サボりと思われたら嫌だし、俺は

外行ってるぞ。サギューも来いよ」

サギュー「分かった。じゃあ誕生日会の準備は終わってるから

バレないように誘ってな」

ガレイ「それは俺に任せとけ!じゃあ2人は待っててくれよ!」

バダンダ「分かってるよ!」

トルピア「おい、まだ録画中だぞ」

ガレイ「げっ、忘れてた・・・じゃあ締めの言葉はお前らで頼む!」

そう言って画面からガレイは消えていった。

バダンダ「まあ・・・じゃあ言おっか!」

トルピア「だな!船長、これからもよろしくな!」

バダンダ「僕達、これからもずーっと一緒ですよ!」

その言葉で映像は終わった-


スレイ「・・・」

しかし、まるでその映像の続きが見えてるように、スレイは呆然と

画面を見つめていた。

ダバンゴ「・・・おい、スレイ・・・」

フラット「ダバンゴ」

スレイの肩に手を置こうとしたダバンゴの右手をフラットが止めた。

今のスレイが抱いている感情は誰にも知り得ぬ、深海のように冷たく、暗いもの。

フラットはそれを悟っていた。

ダバンゴ「親分・・・」

アイン「・・・あの天命石・・・まさか!」

パルカ「特別ダナ!」

フラット「特別・・・ってどういうこと⁉︎」

アイン「本来、天命石は役目を終えたら割れるはずなんです。

しかしあれは割れずに次の魂を迎え入れているんです。その上、あの中には

いくつもの魂が宿っているんです!」

パルカ「あんなの初めて見タゾ!」

フラット「いくつもの・・・魂・・・それっていくつ⁉︎」

アイン「数十個はあるかと・・・」

フラット「えっ・・・」

ダバンゴ「おいおい、どういうこった⁉︎」

アイン「分かりません・・・ただ言えることは元々の魂がまだ役目を

果たそうとしているってことだけです」

パルカ「石の役目が終わってれば、魂の役目も終わってる証のハズなんだケドな・・・

オイラにも何が何だか分からナインダゾ!」

アイン「・・・とにかく、これ以上の収穫は見込めそうに-」

ダバンゴ「ん?映像4?」

フラット「あれ・・・さっきのは映像3だったよね?」

ダバンゴ「あぁ・・・1と2は俺様が消したからな」

スレイ「4・・・撮影日は・・・⁉︎事故の日⁉︎」

ダバンゴ「なっ、まさか⁉︎」

真実を確かめたいのはたしかなのだが、それを確かめてしまえば

全てが明らかになって全てが終わってしまう。その葛藤がダバンゴとスレイの手を

迷わせてしまった。

スレイ「・・・お前も俺に似てるんだな」

ダバンゴ「あぁ。今更気付かされたぜ」

しかし、そんな2人にあった、なかった共通点がその葛藤を

かき消した。そして、そのファイルが開かれた。そこには-


サギュー「船長、こんな形で別れが来るとは・・・正直知ってました。

いつかこうなる・・・船長を裏切ったという事実は何も変わることなく、

ずっと同じでしょう」

マレーゴン「でも船長!これは本当だ・・・俺達が起こした謀反じゃねぇ!

俺達が起こすはずだったんだ!」

サギュー「それを起こさなかったが故にこんな危機に瀕している。

だから早く帰るよう遠回しに頼んではいたんだが・・・本当に申し訳ないです・・・!」

マレーゴン「サギュー・・・俺達が交渉してきます!船長、どうかご無事で!」

それだけの短い映像だった-


スレイ「・・・そうか」

ダバンゴ「おい、まさか信じる気か⁉︎」

スレイ「あぁ、信じてやるさ・・・俺は・・・信じてやれなかったからな、

あの時、恨んじまった!同じ場所で過ごしてきたはずの仲間に、

恨みを抱いた!」

アイン「他者に恨みを抱くのは生の理であり、死までそれは変わらぬもの・・・

赤雲様のお言葉ですが、僕はそう思っています」

パルカ「そうダゾ!オイラだって暴力とかするヤツは恨むゾ!」

スレイ「でも、俺は船長だ!仲間を恨むなんて裏切り行為を、してはいけないんだ!」

フラット「・・・船長かどうかは別だけど、僕もこの2人は信じちゃうかな」

ダバンゴ「なっ、親分まで⁉︎」

フラット「嘘をついてないもん。この2人の瞳。見て分かる。

今にも壊れてしまいそうで、それでも何とかしたい。そんな瞳を

してるから。多分、裏切る気で近づいたけど、ミイラ取りがミイラになるの

言葉通りになったんだね。スレイさんって優しそうだもん」

スレイ「優しい・・・俺がか?」

フラット「うん。いっつも仲間のことばっか考えてたでしょ?」

スレイ「・・・ッハハ、そうだよ。それで皆からはお節介って言われてな。

それでも良かった。アイツらが笑って、生きようとしてくれれば。

元々アイツらは生きる希望を見失っていたやつらだった。そんなアイツらが

どうしたら笑うか、どうしたら生きようと思えるのか・・・それを教えてくれたのが

ダバンゴだった」

フラット「えっ、ダバンゴが⁉︎」

ダバンゴ「親分⁉︎何意外そうな声出してんだ⁈」

ダバンゴ「ハハ、無理もないよな。こんな当たりの強いやつが

そんなことを教えられるとは到底思えないだろう。でもそれが事実だ。

その時、俺も故郷を失って海賊に入ったばっかだった」


回想-

スレイ「・・・」

ダバンゴ「よっと、アンタか。新入りのケアしろって、俺様を

何だと思ってんだか・・・で?故郷を失ったってのは知ってるがよ、

俺様だって同じさ」

スレイ「チョチョ べ サンカイ?」

翻訳機「本当?」

ダバンゴ「あぁ、本当だとも」

スレイ「サララ べ カイゴウ?」

翻訳機「何で平気なの?」

ダバンゴ「俺様には大事なものが新しくできたからだぜ。心の底から

大切に思いてぇ、大切なもんだ」

スレイ「サラレ べ ワッコ?」

翻訳機「それは何?」

ダバンゴ「まぁ、家族みてぇなもんだ。実際、俺様の実の弟もいるけどな。

お前もそのうち分かるさ。まっ、まずは笑えよ。そうしたらまた話そうぜ。

俺様は笑うやつが大好きだしよ!」

スレイ「ガヴァス!」

翻訳機「はい!」

ダバンゴ「違う違う、海賊になったなら返事はイエッサーだ!」

スレイ「イェッサー?」

ダバンゴ「な~んかちげぇけど、まあいっか!それ、もっと声張って!」

スレイ「イェッサー!」

ダバンゴ「よ~し!」


そして数年後-

ダバンゴ「何でまた俺様がアンタの下で働かなきゃなんねぇんだ?

ふぅ~、まあよろしく頼むぜ!」

スレイ「よろしく、ダバンゴ!」

ダバンゴ「それより、まだアンタとはちゃんと話してなかったな。

じゃ、これから話してやるよ。色んなことをな!」

スレイ「あぁ、そうしてもらえると助かる。それじゃあ・・・初出航と

行こうじゃねぇか!準備はいっか~!」

ダバンゴ「イエッサー!」

スレイ「さて・・・お宝集めに行くぞ!突撃~っ!」

大きな警笛を鳴らして、宇宙船は動き始めた。作りたてのピカピカな外装、

汚れひとつない窓ガラス、まだ何もない車両の中、フカフカしたベッド。

生まれたての夢をのせて、宇宙船はエンジンを稼働させ、飛び立っていく。


回想終了-

ダバンゴ「・・・あったけな、そんなことも。懐かしいな」

スレイ「あぁ、そしてお前が言った言葉。それは-」

ガゴン!(船に何かが当たった音)

フラット「うわっ、何⁉︎」

アイン「海中に巨大生命体!パルカ、見える⁉︎」

パルカ「楽勝ダゾ!サメだ!」

フラット「えっ・・・?」

アイン「僕達のかかればこのぐらい!それより逃げましょう!

相手は異世界モンスターです!」

スレイ「逃げる・・・?そしたらこの映像は⁉︎」

フラット「容量あったかな・・・」

少し不安そうにフラットは自分のウォッチフォンの残り容量を

確認した。そこには残り2TBの文字。

フラット「なんだ、全然あった!それじゃあこの映像を・・・⁉︎

パスワード⁉︎知らないよ!」

スレイ「パスワード⁉︎俺も知らんぞ!」

ダバンゴ「ったく、貸せ!パスワード覚えてて良かったぜ・・・ほらよ!」

代わりにダバンゴがパスワードを打ち、フラットのウォッチフォンを接続した。

しかしその次にまた-

ガン!(船にサメがぶつかる音)

フラット「ちょちょちょ!あぶな-⁉︎」

よろけたフラットがあるものを見つけた。それは-

フラット「えっ・・・?」

一瞬目を疑った。なぜなら-

フラット「これ・・・ケーキ?」

なんとショートケーキが腐らずに落ちていたのだ。

ダバンゴ「まさか、何かの間違いだろ⁈」

アイン「いや・・・この宇宙船の周り、時が止まってる!」

パルカ「外見れば一発ダゾ!」

ダバンゴ「外だぁ⁈でもサメがちゃんと動いてるじゃねぇか!

現に俺様達もこうやって動いてるじゃねぇか!」

フラット「違う!時空が歪んでるんだよ!それで時の流れが

ゆっくりになってるだけ!しかも、それは内部だけ!」

ダバンゴ「どういうことだ⁉︎」

フラット「だからここの空間にあった物質の時だけがゆっくりになってるんだよ!」

アイン「でも、何でそんなこと・・・」

フラット「たしか全部の車両が切り離されたんでしたよね?」

スレイ「あ、あぁ・・・」

フラット「多分、いちかばちかの賭け。船長であるスレイさんが

助かって自分達を助けに来るだろうって。でも記憶を失っていたうちに

時が過ぎた。そして、あの異世界モンスターがこの船を見つけた」

スレイ「・・・まさか⁉︎」

アイン「あのサメに・・・喰われたんですか⁈」

フラット「言っちゃうとね・・・最初から分かってた。もうスレイさんの言ってた

3人はいないってこと。言えなくて・・・!」

悔しそうにフラットは下を向いた。

スレイ「いや・・・ありがとう。そうと分かれば・・・俺はアイツと戦う!

ここの時はゆっくりなんだろ⁉︎」

フラット「は、はい!」

スレイ「だったら・・・アイツの時もゆっくりになってるはずだ!

まだ消化されきってない、信じろ、信じろ!」

自分に言い聞かせるようにスレイはそう言い続けた。

ダバンゴ「でも海中だぜ⁈それに海底だ!俺様ならまだしも、

アンタはどうすんだよ⁉︎」

スレイ「・・・俺はアイツと戦う!」

フラット「でもスレイさんはファイターじゃない以上、戦えないです!」

アイン「僕達なら深海とか海中とか関係なしに戦えます!」

パルカ「オイラも同じダゾ!」

フラット「でも、スレイさんは?」

スレイ「何でだ!神力はある!アイツを倒したいと願う気持ちもある!

なのに・・・何でだ⁈」

「当たり前だろ、自己犠牲精神丸見えだっての」

フラット「・・・えっ?今の声、どこから?」

「ここだよ、こ~こ!ほら、船長の耳!」

ダバンゴ「おいおい、喋れもするのか⁉︎」

アイン「本当に何なんでしょう?」

「船長、聞き覚えがない、とか言うなよ?」

スレイ「・・・ガレイ・・・なのか?」

ガレイ「あぁ、覚えててくれたか。まあそれより・・・今の船長は

喰われる気だろ?」

スレイ「な、何で分かる⁈」

ガレイ「おいおい、どれだけ付き合い長いと思ってんだ?船長の考えることぐらい、

俺なら分かるに決まってるだろ。そこにいる家出者じゃ分からんでも

仕方ないかもだがな」

ダバンゴ「お前は一言余計だ!ったく・・・喋れるなら喋れってんだ」

ガレイ「いやぁ、俺も喋れるとは思ってないなかったからな。

じゃあ言うぞ!船長!アイツらはとっくにくたばった!でもな、最後に

なんて言ったか、後で分かる!その言葉聞かずにこっちに来ようとなんか

すんじゃねぇぞ!そしたらアンタのこと、迎えに行ってやらねぇからな!」

スレイ「・・・ガレイ・・・」

ガレイ「船長がアイツに勝ったら・・・俺も逝こうと思ってな。

そいでアイツらとのんびり船長が来るのを待っていようって決めた。

でもな!急ぐなよ!アンタを残しちまったのは悪りぃと思ってる。

それでも、船長には幸せになってほしかったんだ!この気持ちは、

あの2人にもあった。アイツらも喰われた。誰よりも先にな。

だから頼む!俺達、いっつもワガママばっか言って、最後の最後まで

ワガママ言ってるのは自覚してる!でもよ・・・たまには許してくれよ」

スレイ「ガレイ・・・生きればいいんだよな?」

ガレイ「あぁ、生きて俺達を・・・覚えててほしい」

スレイ「よしきた!そのワガママ、気に入った!俺は生きてやるとも・・・!

お前達を忘れずに生きてやる!」

ピーっ!(指揮者専用アプリ共鳴音)

「強い願望及び神力確認。認証可能。認証する場合には新たなコードを作り、

更新する必要があります」

フラット「きたっ!」

ダバンゴ「でもよ、ここが深海って事実は変わらねぇぜ⁉︎」

ガレイ「案ずるなダバンゴ。俺達の力で船長を守りきるさ!」

フラット「じゃあ僕は指揮を執るから、皆はスレイさんを中心に

戦闘にかかるように!でもいい⁈これは-」

スレイ「復讐劇ではなく、ただ生きて勝つこと。違うか?」

フラット「も~う!いいとこ取りしないでください!」

スレイ「アッハハ、ちょっとした冗談さ。ガレイ、バダンダ、トルピア、

マレーゴン、サギュー・・・」

思い出せるだけの思い出を心に抱きとめて、スレイは一つ息を吐いた。

スレイ「・・・いくぞ!」

ダバンゴ「よっしゃあ!やつの息の根を止めてくれるぜ!」

アイン「罪なき者を喰らったものには地獄でその罪、償ってもらいます!」

パルカ「久々の戦闘ダ!オイラも大暴れするゾ!」

フラット「それじゃあ・・・戦闘開始!」

ダバンゴ「イエッサー!」

スレイ「イェッサー!」

アイン「了解です!」

パルカ「任せとけなんダゾ!」

全員はアインが斬り捨てたドアの向こうへと出ていった。1番後ろにいたスレイには

全員の背中が懐かしく思えた。そして小さく頷いて、より歩幅を広げて走っていく。

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