第27話ー5節 辛辣な現実

夕方-

ダバンゴ「俺様の勝ちだな、間違いねぇ!」

タクマ「ほとんど横取りじゃねぇか。あんなんで勝ちって言われてもなぁ」

ダバンゴ「負け惜しみにしか聞こえねぇなぁ!ダッハッハ!どんな手でも

勝ちは勝ちなんだぜ!」

フラット「そういうとこは海賊らしいよね。でも残念、一位は

ダバンゴじゃなくてケーベスだよ」

ダバンゴ「なっ、はぁ⁉︎アイツ1匹しか釣ってねぇだろ!」

フラット「化学の力で勝ったんだよ、ね?」

ケーベス「あぁ、俺達の化学に不可能はねぇってこと見せつけてやったぜ!」

コータス「って、それ開発したの俺だろうが!」

メダイ「また人の成果を自分のものにして・・・」

コータス「これは生物の成長スピードを何倍にでも早くできる特殊な波動を

送り入れる銃だ。偶然カズノコ持ちのニシンを見つけてな。試しに使ったら

見事に大成功!」

メダイ「で、これだけのニシンが獲れたってわけ!」

なんと大型トラックに水族館の水槽を借りて乗せた中には大量の大きなニシンが

パンパンに入っていた。

メダイ「流石にこれ全部を食べるわけにもいかないからリリースするけどね」

ダバンゴ「なっ、それはズルだろ!」

ヒナ「あれれ~?どんな手でも勝ちじゃなかったの?」

ダバンゴ「ぐっ・・・」

クレア「でもニシンってガスペラス星にいたか?」

タクマ「いや、いるわけない。この実験施設を作ったのは土星のやつらだ。

地球と火星にしかいないニシンがここにいるわけねぇのに・・・」

ノール「そういえば、ケーベス。海中の撮影中に何か気づいたような顔してたが

何かあったの?」

ケーベス「あ、あぁ。海底の方にこんなのがあってな・・・見てみろ」

宇宙船で撮られた映像には暗く濁った海底に不規則なリズムで

チカチカと瞬く光が映っていた。

ケーベス「奥にまで行きたかったが岩だらけでな、流石に宇宙船じゃ

通れなくてよ」

メダイ「・・・これ、スロー再生にできる?」

ケーベス「あ、あぁ・・・これぐらいか?」

300分の1でコマ送りに映像が進んでいく。すると光の照らされた『それ』の

正体が映った。

メダイ「色・・・奪う?」

ダバンゴ「⁉︎おい、今何つった⁉︎」

フラット「ちょっと見せて!」

ダバンゴとフラットが食い入るようにカメラの映像を覗き込む。

そして光によって照らされた文字列を確認し、確信を得た。

フラット「これ・・・色奪船⁉︎」

ダバンゴ「黄色のライン・・・7号車両か。こんな深くに落ちてるとはな」

スレイ「色奪船・・・うっ⁉︎」

またスレイの視界が何かに奪われる。しかしそれを抑えるように

イアリングの天命石が強く光を放つ。

クレア「また・・・か。記憶を思い出させないようにしてるのか?」

スレイ「だ、大丈夫。治ったよ」

スター「でも一応病院に行った方がいいと思うけど・・・」

コータス「ケーベス、何とかできねぇのか?」

ケーベス「どうにかしてぇけど、当の本人が悩んでねぇんだよ。

それじゃあ俺の能力も形なしだ」

ダバンゴ「・・・その石っころの中にいるやつがどう思ってるか知らねぇけどよ、

いい加減思い出させてやれ!」

スレイのイアリングをダバンゴは無理矢理外させようと手を伸ばした。

その瞬間-

バチっ!

と、結界を張り、ダバンゴの手を遮った。しかしその結界はあまりに強く、

ダバンゴは手に火傷を負った。

クレア「なっ、どういうことだ⁉︎」

ベングル「中にいるやつが遮ったってわけだ。相当思い出させたくないらしいな」

ナックル「要するにスレイの身に何があったか知ってるやつが

いるわけだな?」

スラリア「そうみたい・・・でも、誰が?」

スレイ「天命石・・・?人?いる?さっきから何のことだ?」

ノール「あ、そうか。一般人だからファイター情報は知らないんだっけ」

フォール「とりあえず帰ろうぜ~?獲った魚は調理して食うんだろ?

だったらその前にシャワーか風呂にしてぇ」

ベングル「だな。長い間海ん中だったから体ベタベタだぜ」

フラット「そうだね。で、一位だったケーベス達には悪いけど

そのニシンはリリース・・・していいのかな?」

ダバンゴ「問題ないぜ。ニシンはガスペラス星の生態系をほぼ崩さねぇ」

ヒナ「でもカズノコは食べたかったなぁ」

ケーベス「なら戻すか?」

フラット「えっ、戻せるの⁉︎」

コータス「あぁ、あっという間にな!」

クレア「なんかそんな道具をどっかで見たような・・・」

ケーベス「まぁ発想はそっからだ。でもこれは風呂敷じゃねぇぞ。

それに成長操縦鉄砲って名前もついてる!」

コータス「・・・ケーベスは安直な名前しかつけねぇな。グロウスガンだろ?」

メダイ「まだコータスの方がマシかな。じゃあ戻すよ。えっと・・・

こうだったか、ヘックシュン!」

全員「あっ」

メダイのくしゃみで照準がずれ、トラックに波動が当たってしまった。

そして、マグマのようにドロドロな状態の鉄となってしまい、

一瞬にして水槽を溶かし、タイヤのゴムを溶かした。

フラット「ちょ、早く戻して!」

ケーベス「えっ、混合物を成長させたりしたら-」

メダイ「こう⁉︎」

ケーベスの言葉を聞かずにメダイは混合物となった液状の鉄を固めた。

そして出来上がったのはグロテスクとしか言いようがない鉄塊だった。

クレア「ど、どうすんだこれ・・・」

アイン「だったら僕に任せてください。霊斬・単化斬!」

スパッとその鉄塊をアインが剣で斬ると、鉄とゴム、ニシン、水槽のガラスに分離した。

ナックル「スゲェ・・・!」

フラット「じゃあ後は僕か。神業・分子合成!」

仕上げにフラットの神力でゴムは元のタイヤに、ガラスは水槽へと

戻っていった。

エド「これで一件落着っすね」

パルカ「魚、もったいナイ・・・」

スレイ「あ、だったら僕が・・・」

瞼を閉じて深呼吸するスレイ。そして-

スレイ「見えた!ハァ!」

なんと神器を呼び出してニシンを斬った。しかし斬られたはずのニシンには

傷ひとつなく、やがてぴちぴちと跳ね始めた。

クレア「なっ、生き返った⁉︎」

スレイ「僕の能力は何でも見透かす。例えそれが魂を連れて行く餓鬼でも」

スラリア「えっ、餓鬼を斬ったってこと⁉︎それ、結構ヤバいことなんだけど・・・」

フォール「ヤバいってどういう風にだ?」

スラリア「誰かが連れていかれる。その人にとって大事な人、

もしくは1番親しい人」

スレイ「えっ・・・ん⁉︎」

今までにない不安感が突然スレイを襲った。しかしそれに対しては

天命石が光ることはなかった。

スレイ「なんだ・・・前にも同じ感情を・・・抱いた・・・?いつ、どこで・・・」

その瞬間、とある記憶が巡った。


記憶-

「スレイ船長、今日の調査終了しました~」

スレイ「あぁ、お疲れガダレ。じゃあ後はあの4人か、先に寝てていいぞ。

まだ出発しないからな」

ガダレ「ハァ~、今日で調査も終わりですね~」

スレイ「ハッハハ、帰りたくないのか?」

ガダレ「だって折角のガスペラス星ですよ?もっとくつろぎたいです~!」

スレイ「まあ今日帰るわけじゃないんだし。おっと、もうこんな時間か。

俺も少し休憩しとくか」

ガダレ「あ、僕も行きます!」


休憩スペース-

スレイ「ふぅ」

「お誕生日おめでとうござまーす!」

少し疲れた表情で帰ってきたスレイを大きな祝声とクラッカーの音が

驚いた表情に変えた。

スレイ「皆・・・そうだっけな、誕生日だったわ」

海賊1「もーう、やっと来てくれました!」

海賊2「来ないかと思って先に料理食おうかと思ったぜ」

海賊3「もう、サギュー食べることしか頭にないんだから!ちょっとは船長に

お礼の気持ちとかないの⁈」

海賊4「おい、船長の前で喧嘩するな。また怒られるぞ」

ガダレ「驚きました?こっそり準備してたんですよ!」

スレイ「・・・ありがとう、皆」

サギュー「あ、船長笑った!」

海賊4「にしても質素な誕生日会だな」

海賊1「それはマレーゴンが折角のデザートをこぼしたからでしょ!」

海賊3「船長の大好物だったのに・・・」

ガダレ「それなら心配ご無用でっせ!なぜな・・・ワン・トゥー・トロア!

はい、ローストチキンの出来上がり!」

マレーゴン「おぉ、いつもながらガダレのマジックは凄いな」

ガダレ「はい船長。こっそり作っといて良かった~」

スレイ「・・・気持ちは嬉しいけど、俺はいい。こうやって共に調査活動に

協力してくれた皆へのお礼だ」

海賊1「そうお堅いこと言わずに!船長がいなけりゃここにいる全員が

いなかったわけですから!」

スレイ「そう・・・か?ならありがたく-」

海賊3「あー‼︎」

海賊1「わっ、何だよトルピア!」

トルピア「プレゼント渡すの忘れてた!はい船長!」

スレイ「これ・・・石?」

トルピア「そうです!綺麗でしょ?」

船の光に当たって七色の光沢を浮かべる石。それは役目の終えた天命石だった。

海賊1「あっ、それ俺が失くしたと思ってたやつ!トルピア!」

トルピア「ん~?何のことかな。バダンダの勘違いじゃないか?」

バダンダ「なっ、ちゃうもん!」

スレイ「こらこら、ケンカはやめなさい」

バダンダ「でも奪ったのは絶対だもん!」

スレイ「あぁ、分かってるとも。だからトルピアには罰として

帰ったら宇宙船の清掃係でもしてもらうとして・・・?バダンダ、

顔色悪いぞ、どうした?」

バダンダ「い、いや・・・ちょっと気持ちわる-うっ⁉︎」

咄嗟に口を手で覆うも、吐き出したバダンダ。しかしそれは吐瀉物ではなく

鮮やかな紅色の血だった。

スレイ「なっ、バダンダ⁉︎」

トルピア「おい、大丈夫か⁉︎」

ガダレ「ちょっと待った!高濃度のアルカリ性反応・・・まさか海に入った⁉︎」

マレーゴン「魚でも食ったのか?」

サギュー「待て待て、海にも入ってねぇし、魚だって食ってねぇぞ!

ただちょっと海の水を触っただけだったぜ⁈」

スレイ「それだな。ガスペラス星の海を汚染している物質は

細胞を破壊して体内に侵入する。となると・・・?」

その物質に汚染されれば死ぬだけ。そう諦めかけたスレイに目に

アレが映った。

スレイ「なっ・・・まさか!一か八か・・・喰らえ!」

躊躇うことなくバダンダに入り込もうとするソレをスレイは斬った。

するとあろうことかバダンダの顔色が一気に良くなった。

バダンダ「あ、あれ・・・?俺・・・生きてる?」

スレイ「ふぅ、良かった-」

その記憶がだんだん波のように揺らいでいく。やがて視界は闇に落ち-


スレイ「⁉︎・・・ここは・・・?」

既に夜の闇に包まれた医務室のベッドでスレイは横たわっていた。

スレイ「夢・・・?にしても何だったんだ、あの夢は・・・僕が海賊の船長?

まさか・・・な。でもこのイヤリング・・・僕は・・・何なんだ?」

夢の中で見た世界を探ろうと記憶を遡り始めたスレイ。天命石は

光を放つものの、スレイは気にせずどうやってガスペラス星に辿り着いたかを

必死に思い出そうとした。そして見えたのは無数の星屑の記憶。

それを浮かべた瞬間に激しい頭痛がスレイを襲った。

スレイ「グワァ・・・アァ!」

フラット「スレイさん⁉︎」

外でスレイの回復を待ち続けていたフラットが、彼の喘ぐ声に気づき

急いで駆けつけた。

フラット「天命石は働いてるのに・・・何で?それより早く鎮痛剤!」

医務室の薬品棚から迅速にフラットは鎮痛剤を取り出し、スレイに打った。

フラット「よし・・・もしかして・・・思い出したのかな?」

苦しそうにもがくスレイの汗を拭いながらフラットはそう考えた。


翌朝-

「-きろ、おい-!起きろって!」

フラット「?あぁ、おはよう、クレア」

クレア「おはようじゃねぇ!スレイのやつは⁈」

フラット「へ?」

スレイがいるはずのベッドに目を向けても、そこにはいなかった。

そして昨夜は開いてなかったはずの窓が開いていることに気づいた。

フラット「・・・まさか⁉︎」

慌ててフラットが窓の外を覗くと、植木に誰かが着地した跡が残っていた。

フラット「あそこかも!」

フラットはスレイの居場所を察して咄嗟に神力で窓から飛び去った。

クレア「ちょ、おい⁉︎ったく・・・まあ事件じゃねぇしアイツだけでもいいか」


海岸-

スレイ「あの記憶が本当なら・・・この辺に・・・!あった!」

海岸にある一本の木を見つけ、スレイは一心不乱に揺さぶった。

そして木の実と共にとある機器が落ちてきた。

スレイ「・・・僕は・・・やっぱり・・・」

ダバンゴ「そうだぜ、色奪船の船長!」

スレイ「⁉︎ダバンゴ・・・」

ダバンゴ「やっと思い出したか?まさか生きてるとは思ってもみなかったがな。

で?何があったんだ?」

スレイ「何が・・・?生き残る?」

ダバンゴ「チッ、まだ全部は思い出せてなかったか。ならこの際言うぜ。

お前はな、ガスペラス星からアジトに帰って来る最中に-」

フラット「ダバンゴ!」

ダバンゴ「・・・何だよ親分?今は俺様とこの船長の話だ。いくら親分でも

出しゃばってくんじゃ-」

フラット「思い出しちゃいけないんだよ!そんなの知って・・・どうするの?」

ダバンゴ「もちろん復讐しに行ってやる。俺様達を裏切ったやつらをな!」

フラット「裏切ったって・・・」

ダバンゴ「そのためにもコイツの記憶が欲しいんだ!分かったらさっさと-」

スレイ「サギュー、マレーゴン」

ダバンゴ「あぁ?」

スレイ「裏切ったのはこの2人だ、ダバンゴ」

ダバンゴ「きゅ、急にどうしたんだ?」

スレイ「でも、その元凶を作ったのは僕だ。あの時も餓鬼を斬ってしまった」

フラット「・・・ダバンゴ?」

ダバンゴ「俺様のせいか⁉︎」

スレイ「いや、それは思い出したよ。ダバンゴに言われる前にね。

トルピア、バダンダ、ガレイ・・・」

3人を惜しむ涙がスレイの頬を撫でるように流れる。

フラット「・・・分かった、敵討ちね。で?相手は」

ダバンゴ「お、分かってるじゃねぇの親分!やつらは巨大な宇宙海賊だ!

しかもこの辺に来る可能性100%!俺様の勘に外れはなしだぜ!」

フラット「どうせ情報聞いただけでしょ?」

ダバンゴ「うっせぇ、チッタァカッコつけさせろよ」

フラット「はいはい、分かったから怒鳴らないでよ」

スレイ「フフ、アッハハハハ!懐かしいよ、君達を見てると」

フラット「えっ?」

スレイ「ごめんね、笑って。でも似ているんだよ、君達があの5人に」

ダバンゴ「・・・バーカ!俺様達が似てるわけねぇだろ!似せてやってんだ!

お前、寂しがり屋だったしよ」

スレイ「・・・お前も相変わらずそういう時は顔赤らめるんだな」

ダバンゴ「ダァ~!元々はお前の元にいたんだからよ!恩返しっていうかそのなんだ、

何かしてやりてぇんだ!」

スレイ「ダバンゴが?あの不良君がねぇ~・・・」

少し苦笑いをしてみせたスレイ。しかしその瞳は濁っていて、

今にも泣いてしまいそうなほど揺れていた。

スレイ「でも・・・ありがとな。こんなにも・・・成長してくれて。

ダバンゴといた頃のことはよく覚えてる。本当に家族みたいだったな」

ダバンゴ「あぁ。アイツらは俺様にとっちゃ、2番めの家族だ。

そんなアイツらを・・・!」

フラット「ダバンゴ・・・」

今まで一度も見たことのなかったダバンゴの表情にフラットは

一瞬戸惑った。どんな言葉をかけるべきか、何を語ればいいのか。

しかしそのダバンゴの表情に気付いたかのようにスレイの天命石が

黄色く輝いた。

ダバンゴ「・・・誰かは知らんがありがとな。そうだな、俺様にできることは

アイツらの敵討ち!それだけだぜ!」

スレイ「・・・敵討ち・・・か」

フラット「やっぱり嫌ですよね、敵討ち・・・」

ダバンゴ「でもアイツらがやったことを許すわけにもいかねぇ!」

フラット「そう・・・だけどさ。分かってるよ?でもさ、何か違うよね。

争いあったところで・・・もう何にも得られたりしないし・・・」

スレイ「僕もフラット君と同じ考えだ。トルピアもバダンダもガレイも

帰ってくるわけじゃない。それで得られたものは、僕はいらない」

フラット「うん、それでいいと思う。でも、恨み晴らしは絶対果たすけどね!

それが僕達なりの復讐劇だもん!」

ダバンゴ「親分・・・そうか。だから俺様は憧れたんだな。よく分かったぜ、

殺し合いはやめだ!親分の言う通りにしてやるぜ!」

フラット「・・・しょうがない、たまには乗るか。よーしテメェら!

思いっきり楽しんでいくぞー!」

ダバンゴ「イエッサー!へへっ、分かってんじゃねぇの親分!」

フラット「一回だけだからね。スレイさん、やりましょう!」

スレイ「・・・そうだな。まだ記憶の全てが蘇ったわけじゃないが・・・」

ダバンゴ「そういや、さっき木から落としてたの何だ?」

スレイ「あぁ、色奪船からの信号をキャッチする道具だよ。

バダンダとトルピアが作ったやつだ・・・懐かしいな」


回想-

バダンダ「トルピア、渡せって!」

トルピア「ここはバダンダが渡せよ!折角お前が設計したんだ」

トルピア「作ったのはお前だろ!」

スレイ「俺はケンカを見せられに来たのか?」

バダンダ「あぁ、もう!じゃあ一緒に渡すよ!」

トルピア「元からそうしてろよ・・・はい船長。念のために作った。

色奪船の信号をキャッチする道具だ。何かあってもこれで発見できるだろ」

スレイ「その何かを起こさないのが俺の役目だ。これは使わないだろう」


回想終了-

スレイ「使うわけないとここに捨てたんだよな・・・最低だな・・・」

フラット「・・・!あの、こっちから電波!」

スレイ「えっ?」

微弱だが電波がたしかに発信されていた。それはケーベス達の宇宙船が

映像にとらえた車両があった場所とは違う方向から。

ダバンゴ「まだ生きてる車両があったのか⁉︎」

スレイ「・・・行くだけ行ってみよう!」

フラット「そうだね!ケーベス達の宇宙船を借りて行こう!」

3人は急いで宿に戻っていった。


地下宇宙船停留所-

ケーベス「宇宙船を?まあいいが傷付けんなよ。怒られるの俺なんだ」

フラット「大丈夫!ありがとう!」

ケーベス「お、おい!ったく、本当に大丈夫か?」

慌てて乗り込む3人をケーベスは黙って見るしかできなかった。


宇宙船-

フラット「エンジン稼働!システムオールグリーン!無重力操作異常なし、

O2管理オート!発車準備完了、ハッチ展開!」

ダバンゴ「手際いいな親分・・・」

スレイ「ガレイを見てる気分だ・・・」

フラット「ハッチ展開完了!発車!」

勢いよく宇宙船は外へ飛び出した。


その様子を外から-

メダイ「・・・大丈夫かな・・・」

ケーベス「心配なら見に行ったらどうだ?」

メダイ「いいの?」

ケーベス「当たり前だろ。こっちは任せとけ」

メダイ「ありがとう!じゃあ・・・龍変化!」

心配でたまらなかったメダイは変化を終える前に飛び出していった。

ケーベス「・・・記憶が戻ったら・・・狂わなきゃいいが」


海底-

スレイ「この辺りから反応が・・・」

フラット「あった!あれでしょ?」

ダバンゴ「ん・・・そうだな。赤車両・・・2号車両か。ここはそんなに

壊れてねぇし、連結できそうか?」

フラット「・・・大丈夫そう!パラレルストーンの反応もある、

まだ生きてるよ」

ダバンゴ「っしゃ、じゃあ俺様は先に行かせてもらうぜ!」

我慢できず、ダバンゴは海中走行用のハッチから出ていった。

フラット「ちょ・・・まあいいや、早く連結済ませないと!」

慣れた手つきでフラットは連結作業を終わらせた。

フラット「よし、行こう!」


第二車両-

フラット「暗いから気をつけてください」

スレイ「あ、あぁ・・・」

挙動不審にスレイは船内をキョロキョロと見渡していた。

スレイ「ここは・・・そうか。食事どころとして使ってたんだ」

フラット「そうですよね。ゴミ袋の中を見れば分かりますよ。

でも・・・保存食以外にもありますけど・・・」

ダバンゴ「当たり前だろ。海底国以外の国は別に被害なしだしな」

フラット「あ、そこから調達してたんだ」

スレイ「そうだったな。よく言い争ってたっけ、アイツら・・・」

船に入ってからスレイの瞳はより一層濁んでいた。

フラット「・・・あ!あそこ!」

船の角にポツンと光る何かがあったことにフラットは気付いた。

ダバンゴ「あれは・・・まさか⁉︎」

スレイ「冬眠装置・・・!誰かいるのか⁉︎」

淡い希望を信じてスレイは光のもとへ駆けて行った。

スレイ「・・・」

ダバンゴ「お、おい?」

スレイ「・・・今・・・出してやる!」

フラット「えっ、出すって・・・何言ってるんですか⁈」

たしかに冬眠装置の中には1人の獣人がいた。しかし冬眠装置に

表示されていた文字列はエラー。この表示はなんらかのトラブルが

発生したということを示すもの。そして中の獣人は白目を剥き、

中でもがき、蠢いている。そう、長い間冬眠装置に使われているパラレルストーンの力で

アリジゴクになりきれていないものとなっていたのだ。

ダバンゴ「やめろ、出すな!」

目の前に家族同然のように過ごしてきた仲間がいる。その思いにかられたスレイを

ダバンゴが必死に止めようとするも-

スレイ「離せ!ガレイは・・・俺が・・・!」

もがくスレイの腕が解錠装置に触れてしまった。

ガレイ「ガァァァ!」

フラット「危ない!」

咄嗟にフラットは結界を張り、2人を危機から救った。

フラット「スレイさん!よく見て!コイツが仲間に見える⁈」

ダバンゴ「見えるなんて言わせねぇぜ⁉︎ただのアリジゴクより

タチが悪いんだからよ、半端モンは!」

フラット「魂が残ってるならいいけど・・・残ってないよね、この感じだと」

ダバンゴ「あぁ・・・スレイ、絶対に近づくなよ」

スレイ「ガレイ・・・生きてるんだ・・・生きて・・・」

しかし目の前の現状にスレイは気づけなかった。

フラット「ちょ、触っちゃ-」

そして神力のあるスレイがフラットの結界に触れてしまった。そして神力に

反応し、結界は消えてしまった。

ダバンゴ「なっ-」

スレイを抑えるのに必死だったダバンゴはバケモノと化した

ガレイから距離を置けず、襲われかけるも-

ガッシャーン!

という音と共にガレイは瓦礫の下敷きになった。

フラット「うわっ、まずい⁉︎」

メダイ「フゥ~!フゥ~!」

フラット「メダイ⁉︎と、とにかく急いで宇宙船に!」

龍に化したメダイが開けた穴をメダイが塞いでいるため水の入りは遅いものの

冠水し始めてるのはたしかだったために3人は宇宙船に避難し始めようとした。

しかし-

スレイ「ガレイ・・・?」

ダバンゴ「スレイ、行くぞ!」

スレイ「何で・・・何で殺した⁉︎生きてたのに、何で-」

ガタッ!(瓦礫の山が崩れる音)

ダバンゴ「だったらあれがガレイか?あんな変わり果てたやつが、

ガレイとでも言うのか⁈」

スレイ「あぁ、そうだ!」

ダバンゴ「・・・だったらいい。一生ここにいろ!もう知らねぇからな!」

スレイ「・・・」

ダバンゴ「ったく!ウジウジしてんな!」

グイッとスレイの手を掴み、ダバンゴは宇宙船に戻った。

メダイ「「グル!」

それを確認したメダイは船を更に壊していく。瓦礫の中から

ガレイが出てこられないように。


宇宙船-

フラット「ふぅ~、危機一髪!」

スレイ「ガレイ・・・!」

ダバンゴ「・・・さっきの電波はパラレルストーンだったってわけか・・・」

フラット「うん。でもさ、これでちょっと分かったことがあるよ」

ダバンゴ「分かったこと?」

フラット「さっきのが2号車で、この地点にあったのが7号車。

多分この隙間に3号車から6号車もあるんじゃないかな?」

ダバンゴ「そりゃそうだがよ・・・他のアイツらもあぁなってたら・・・

俺様でも戦いたくはねぇぜ」

フラット「とりあえず戻ろうか。各自で船探しだね」

暗いムードに包まれた宇宙船が曇り始めた空の下を走っていく。

そのあとをついていくようにメダイも飛んでいた。

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