第27話ー4節 海は青く、深く、明るく
浜辺-
フラット「あれ、さっきの船は?」
ダバンゴ「アイツら、帰りやがったか。まあいい、親分さえ伝わりゃあな。
実はあのスレイって男。アイツが色奪船の船長だ」
フラット「船長⁉︎」
ダバンゴ「あぁ、だが記憶が完全に抜け落ちてるけどな。あの時から問題児の
俺様のことすら覚えてねぇってのは悲しいもんだな・・・」
フラット「今でも問題児なくせに」
ダバンゴ「お前はいっつも一言余計だ!」
フラット「アッハハ!やっぱりダバンゴはその方がいいよ、悲しい顔なんて
全然似合わないもん」
ダバンゴ「ん・・・んん・・・そういうこと言われたらなんて返せば良いんだっての」
フラット「僕に聞かれてもなぁ」
ダバンゴ「って、そうじゃなくってだな!」
フラット「記憶を戻させたいの?」
ダバンゴ「んなこたぁねぇよ!でもな・・・分からねぇ。アイツにとっちゃ
嫌なことかもしれねぇしな」
フラット「うん。でもさ、ダバンゴ。これでファイター復活だね!」
ダバンゴ「・・・クッソ、親分には敵わねぇな」
フラット「負けるわけにはいかないからね!」
ダバンゴ「あ~!やっぱり一言余計だっての!」
フラット「えっへへ!じゃあ宿に戻ろっか。にしても、1日目から
苦労することになるなんてね」
ダバンゴ「そのおかげで俺様もファイターになったわけだし別にいいだろ?」
フラット「そうだね!じゃあ今度は僕の術で行こうか!神業・ステップジャンプ!」
ダバンゴの手を引き、フラットは軽々しく空を跳ねていく。
宿-
ベングル「ようやく朝食だ~!」
エド「避難誘導なんかより戦いたかったっす~!」
スラリア「無茶言わないでよ、あれだけの人、三手に分けないと
効率悪いんだからさ」
タクマ「まあもういいだろ?事件も即座に解決!奇襲を仕掛けた賊の奴らも
ほとんど捕まったらしいしよ」
ノール「逃したやつもいるけどね」
ナックル「そんな奴ら、今度来た時にとっ捕まえてやるぜ!」
クレア「無理すんなよ?フラットに心配かけて怒られても知らねぇぞ?」
ヒナ「でも、そのフラットが遅いんだよね・・・」
タクマ「ダバンゴに連れてかれたんだろ?もし危険な目に遭わせてたら
いくらアイツでも・・・!」
フラット「ただいま~!」
ダバンゴ「すまねぇな、遅れちまった」
ベングル「おせぇっての!ったく・・・」
エド「フラットの分は取ってあるっすよ!」
フラット「えっ・・・あっ!火星料理⁉︎ありがとう!」
スラリア「結構人気あるんだね、エドがわざわざ順番待ちして
取ってきてたんだから、ありがたく食べてあげてね」
フラット「並んだの?」
エド「そ、それより食べるっすよ!もう腹と背中がくっつきそうっす!」
ナックル「だな!警察組は仕方ねぇし、俺達だけで食おうぜ!」
フラット「じゃあ手を合わせて!」
全員「いただきます!」
ナックル「っしゃあ!フラット、約束通り早食いだ!」
フラット「勿論!バトラーに負ける気はないよ!」
ノール「騒がしいやつらだらけだよね、デ・ロワーって」
スラリア「スターちゃんはメダイ達のとこだっけ?」
ノール「そう。宇宙船の修理を手伝って言ってたし」
スラリア「そっか・・・」
宇宙船駐留所-
ケーベス「そっちドライバーあるか?」
メダイ「ちょっと待って、使ってる!」
コータス「ったく、ケーベスの時間重視の運転には呆れた、こんなに
ボロってのにあんなに無茶させやがって」
スター「ありがとう、スターにも手伝わせてくれて」
メダイ「全然いいよ、ありがとね」
ケーベス「汚れ仕事なのにな」
メダイ「ケーベス、そういうことは言わないの!」
ケーベス「分かってる、冗談だ」
コータス「スター、手洗ってこい。先に食事にしろよ」
スター「い、いいよ。皆にも悪いし・・・」
ケーベス「いや、一旦休憩だ。俺達も腹空かせてるしな」
スター「そ、そう・・・?」
メダイ「スターちゃんはお腹空いてないの?」
スター「もうちょっとだけやってる」
コータス「・・・いいから来い!」
スター「ちょ、ちょっと⁉︎」
作業を続けようとしたスターの手をコータスは止めて、蛇口のある所へ
スターの手を握り、連れて行った。
休憩所-
スター「離してよ、手洗いぐらいスター1人で-」
コータス「油汚れなんかちょっとやそっとの水で落ちるもんじゃねぇし、
俺達なりの手洗い教えるからだ」
スター「大丈夫だって、そこまで汚れてないから!」
コータス「バカか、よく見てみろ。お前の手、所々スミだらけだ」
スター「あっ・・・」
コータス「そんな手で飯なんか食ってみろ。どうなるか分かるだろ?」
スター「あ、ありがとう・・・」
コータス「じゃ、まず水を思い切り出して、油汚れを洗い流す」
ゆっくりと手順をスターに教えるコータス。その左手はずっとスターの
右手を握っていた。
-そして気づけば説明が終わっていた。
コータス「じゃあやってみろ」
スター「・・・あ、ごめん!」
コータス「はぁ?ったく、ちゃんと聞いとけよ。まず-」
呆れた声を出しつつもコータスはもう一度同じ説明を繰り返した。
コータス「-って手順だ、聞いてたか?」
スター「うん」
コータス「よし、じゃあ洗ってみろ」
スターは言われた通りに手を洗う。一見すればゆっくり慎重な
手洗いだったが、スターの中では緊張という一言では片付けられないほど
強く鼓動が鳴り響いていた。
コータス「・・・おい。手、荒れるぞ。もう大丈夫だろ?」
コータスはスターの手を心配して水を止めた。
スター「あっ・・・」
コータス「ほら見ろ、ひび割れ起こしてる。待ってろ・・・あった、
ほら、絆創膏」
スター「えっ、でも・・・」
スターのひび割れは右手人差し指。右利きのスターでは左手で
絆創膏を巻くのはとてもハードなものであった。
コータス「ッハハ、分かった。ちょっと手、貸せ。よっと・・・おし、
こんなもんだろ。ってヤバっ、俺まだ手洗いしてなかった!すまん、
ちょっと痛いかもだが剥がす!」
ゆっくりと慎重にコータスはスターの指から絆創膏を剥がしていく。
スター「・・・コータス」
コータス「?痛かったか?」
スター「・・・ありがとうね」
コータス「あ、あぁ・・・?」
スター「・・・!」
コータス「ちょ、おい⁉︎」
伝えたい言葉が届かず、スターは休憩所から出て行ってしまった。
コータス「・・・ったく!」
慣れた手つきでコータスは手洗いを済ませて、急いでスターを追いかけて行った。
第二倉庫-
スター「やっちゃった・・・嫌われたかな?」
倉庫の片隅でスターは小さく座り込んでいた。
スター「・・・ハァ」
メダイ「あれ、スターちゃん?どった?」
スター「あっ・・・」
数分後-
メダイ「あ~、コータスにね。ダメだよ、あの鈍感には」
スター「うん・・・でも・・・」
メダイ「そうだなぁ~、私が思うに-」
スター「メダイのお姉ちゃんは恋なんてしてないでしょ?」
メダイ「あら、失礼しちゃう!私だって絶賛片思い中だもん!
誰かは秘密だけどね?」
スター「えっ、意外・・・」
メダイ「あ、まだ言うか!絶対教えてあげないからね!」
スター「でも気付いてるんでしょ?」
メダイ「うーん、私はスターちゃんみたいにあからさまじゃないからな~・・・
でも、アイツのことだし油断はできないかな」
スター「勘が鋭い人?」
メダイ「そう、優しくて、時に怒って、恋なんて知らない・・・
私の生き方を教えてくれた、アイツ。あ、スターちゃん、そろそろ時間みたいだね。
私は帰ってるよ」
スター「えっ⁉︎」
メダイ「じゃーねー!」
素早くメダイは裏から出て行った。
スター「時間って・・・何の?」
コータス「やっと見つけたぞ、スター」
スター「コータス・・・⁈」
コータス「心配させやがって、作業後の怪我が1番厄介なんだ、
ちゃんと消毒とかの処置もしてねぇし、早く行くぞ」
さっきまでは黒かったコータスの手が綺麗な肌色をしていることにスターは気づいた。
スター「その手・・・洗ったの?」
コータス「当たり前だろ、怪我してるやつの手を汚いまま触るわけにも
いかねぇだろ?」
スター「・・・ごめんね、逃げちゃって。ちょっとイタズラしてみたくなったんだ。
あんなに真剣そうなコータス、初めて見たから」
コータス「な、どう意味だよ!」
スター「授業サボるコータスだもんでだよ。皆そう思ってるよ?」
コータス「うっせぇな・・・よし、絆創膏も消毒もよしっと。
合併症起こしてたらどうするつもりだったんだ?」
スター「大丈夫だよ、スターの神力でどうにでもなるもん!」
コータス「そりゃあそうだけどな・・・まあ、手伝ってくれてサンキューな。
おかげでアイツも綺麗なったし。あと、髪にホコリついてんぞ」
そう言ってコータスはスターの髪に触れた。
スター「・・・」
スターは頬を赤らめながら、いつもよりもずっと近い距離にいるコータスの顔を
じっと見つめていた。そして気づけばコータスの手にスターの右手が
当たっていた。
コータス「ん?どうした?」
スター「べ、別に何でもないよ!コータスって本当に距離感ないよね」
コータス「当たり前だろ。俺は妖怪。妖怪の世界にマナーなんかねぇ。
好きなように生きる、それだけだ」
スター「でも菅原道真だけどね?」
コータス「うるせぇな、学問の神と人間が勝手にそう崇めてるだけだ。
俺は俺、そう生きてるし、これからもだ」
スター「だから・・・土星に行くんだもんね」
コータス「あぁ、早く試験日になんねぇかな」
スター「来年までは無理だよ。頑張ってね、スターも応援してるから」
コータス「なんだ、金でもくれるのか?」
スター「違うよ!何でそうなるの⁈」
コータス「ハハハハ、冗談だ。いやぁ、マジになるか、今ので」
スター「そういう冗談はやめてよ~!」
コータス「分かった分かった、だからそんな怒るなって」
スター「別に怒ってないもん!じゃあ朝食行ってるからね」
コータス「ちょ、置いてくなっての!」
スター「じゃあ追いかけてみてよ!追いつけるなら、ね!」
神力で風を纏い、スターは突風のような速さで走っていく。
コータス「なら!妖札・雷速!」
雷鬼の力で雷を足に纏い、その威力で一気にスターへ近づいた。
スター「えぇっ⁉︎」
コータス「そら、捕まえ-⁉︎」
スレイ「ストップ!何してるのかな?」
旅館の地下の見回りをしていたスレイが危ないかけっこをしている2人を
デッキブラシを槍のように持ち構えて牽制した。
コータス「マジか・・・」
スター「ご、ごめんなさい・・・」
スレイ「まったく、こんな危ない所で追いかけっこはしちゃダメだ。
早く上に登ってなさい」
スター「はーい」
コータス「俺は悪くねぇかんな!スターから始めたことだし」
スター「あっ、ひど~い!だいたいコータスが-」
遠のいてく2人の声が、スレイの頭に響いた。それはどこか懐かしくあり、
どこか悲しい思い。
スレイ「・・・やれやれ、疲れてんのかな。掃除終わったら昼寝でもするか~!」
食堂-
スター「あれ、皆⁈」
ベングル「あ、来たのか?すまん、ちょうど食べ終えたとこだ」
ノール「スターの分はもうスラリアがとってくれてあるから。ほら、そこに-」
エド「えっ⁉︎これ余りじゃないんすか⁉︎」
ナックル「俺達で食っちまったぞ⁉︎」
ベングル「そういうのは先に言ってくれよ!」
スラリア「最初に言ったじゃん!って、その時は男部屋だっけね・・・」
フォール「そういうこった、悪りぃが取ってきて-って、その必要はなさそうだな」
スター「?どういうこと?」
コータス「ほらよ、スターの分。お前が好きそうなの持ってきたぞ。
よく購買で買ってるやつもある」
スター「えっ、ちょ、コータス!」
メダイ「あっちゃ~、間に合わなかったか。ごめん」
フラット「コータス、それは女の子の秘密だよ・・・」
コータスが持ってきたプレートには焼き芋が3本も並んでいた。
メダイ「ごめんね、うちのバカ鬼が」
フラット「ちょっと考えれば分かりそうなものだけどね」
スラリア「流石は鬼だね、思うがままにしか動かないって」
コータス「能無しみたいに言うなよ!一応俺なりの考えもあってのことだ、
考えなしに持ってきてはねぇよ!」
スター「へぇ、じゃあどんな考え?」
コータス「俺に迷惑かけた分の仕返し、だな」
スター「うぐっ、それを言われたら何も言えないよ・・・」
フラット「でもコータスにはいい薬じゃない?いっつも迷惑ばっかかけてるし」
メダイ「だよね、この前も爆弾作ってたし」
ノール「また⁉︎」
エド「もう懲戒処分でいいんじゃないんすか?」
ナックル「いつかオフィス爆発させる前にやめさせようぜ!」
フラット「ダーメ!コータスの悪ふざけに失敗はないから。だいたい、コータスを
責める前にバトラーやエドは?オフィスの物よく壊すし、ひどい時には
言い争いでデスク壊すし」
フォール「残念だが、事実だな」
フラット「じゃ、僕達は片付け行ってるから、朝食食べといて・・・って、
そういやクレアは?」
スター「そういえば兄ちゃんいないね」
スラリア「あ、クレアならお手洗い行くって。にしては・・・ちょっと遅いかな?」
ノール「しょうがない、どうせ部屋に戻ってるはずのダバンゴの所にでも
行ってるだろうし、私が無理矢理にでも引っ張り出してくるよ」
フラット「あ、助かる!」
ベングル「おっと、アイツはタクマのとこだ!部屋には行ってねぇぞ」
スラリア「えっ、じゃあどこ行ったの?」
全員は顔を向かい合わせるも、誰もクレアの居場所は知らなかった。
一方その頃、地下休憩室-
スレイ「スゥ、スゥ・・・」
クレア「・・・やっぱりコイツか。なら、このバッグの中に・・・」
スレイが寝ている隙を見計らって、クレアはスレイの掲げていたバッグを
漁り始めた。
クレア「・・・なっ、空っぽ⁉︎」
スレイ「・・・?な、何してる⁉︎」
クレア「わわわっ⁉︎えっと、その・・・この鞄誰かのかな~って」
スレイ「僕のに決まってるだろう・・・まったく」
クレア「で、でもその中身空っぽ・・・」
スレイ「そう、空っぽ。でも、何故か離しちゃいけない。そんな気がして
仕方がないんだ」
クレア「そ、そうか・・・じゃあ俺は戻らせてもらうわ。ケーベスに用があって
来ただけだしな。じゃ」
スレイ「待ちなさい!」
クレア「!」
スレイ「人は嘘をつき、騙せたと思うと笑顔になる。しかし僕の目には
全てが映る。お前の思ってることも。本当は探していた、僕の鞄から
自分の家族に関することを。それは僕が海賊だからとでも思ったからか。でも残念、僕は海賊なんかじゃない。他を当たってくれ」
クレア「てことは、アンタも神力持ちってわけか。でも聞かせてくれ。
ガスペラス人でもないアンタがどうしてそんなに地球の言葉が
ペラペラと話せるんだ?ギヴァシュから出ることなんてそうそうないだろ」
スレイ「僕の出身地・・・覚えてないんだ」
クレア「・・・そうか。ところでよ、月には来たことあるか?」
スレイ「月って、地球の衛星の?どうだったかな・・・」
クレア「ハァ、まぁいいや。じゃあな、昼寝の邪魔して悪かった」
スレイ「気にすることでもないよ、本当は作業時間だから」
クレア「サボってたのか。フォールと似て大胆だな」
スレイ「サボるってことも時には大事なことだと思ってるからね。
疲れた時こそ無理せずに、ってな!アッハハハハ!」
クレア「なんかお気楽なやつだな・・・」
フラット「あっ!やっと見つけたよ!」
クレア「おっと、見つかっちまったか。まっ、鞄漁っちまって
悪かったな。まさかアンタが神力持ちとは思わなかったからよ」
スレイ「あの、神力ってさっきから言ってるけど、そもそも神力ってなんだ?」
フラット「あぁ、そうだっけ。えっと、いわゆる超能力?みたいなものだよ。
神の血を引いてて、力を制御できれば使えるね」
スレイ「じゃあ僕は?」
クレア「いや、流れ者の神力は知らんぞ」
スレイ「流れ者・・・?」
フラット「うーんと・・・そこからか~・・・」
クレア「流石のお前でも今回はお手上げか?」
フラット「まあ・・・うん。説明できるけど・・・はっきり言ってダルい」
クレア「ド直球だな⁉︎お前、もう少しマイルドに言えっての!」
フラット「え~、クレアの言われたくないんだけど~?」
スレイ「コラコラ、ケンカは御法度だ、やめなさい」
クレア「こんなのがケンカなら平和すぎるな・・・でも、そんな世界に
なってほしいものだな」
フラット「何言ってんの、こんなのしょっちゅうでしょ?それにこんな日常が
続けられてる時点で平和だと思うよ」
クレア「・・・だな。ハァ~、お前には勝てんわ。そんな綺麗な言葉、
俺じゃとても言えん」
フラット「それよりも戻るよ!今日は・・・海水浴でしょ」
クレア「あ、あぁ!忘れてた!」
フラット「じゃあ言わなきゃ良かったかな?」
スレイ「海水浴・・・か。僕も行っていいかい?もうすぐ交代時間だし、
たまには体動かさないと」
フラット「えっ、別に大丈夫ですけど・・・一緒にですか?」
スレイ「い、嫌だった?」
クレア「いや、そうじゃなくってだな。お前と俺達はほぼ初対面だろ。
積極的というか、グイグイ来すぎというか・・・」
スレイ「・・・正直言うと、君達を見てると不思議な気持ちに襲われてね。
その正体を突き止めたいんだ」
フラット「まあ・・・こう言ってるわけだし。いいよね?」
クレア「俺に聞くなよ!」
フラット「アッハハ、じゃあスレイさんも行きましょうか。どうせ残っても
ここで寝るだけでしょ?」
スレイ「・・・君はいちいちそういうこと言うんだな」
クレア「一言余計なんだ、コイツは」
フラット「じゃ、食堂で皆待ってるから行くよ」
3人は食堂に向かった。
食堂までの廊下-
ノール「あ、やっと来た。遅いから全員先に着替えて海に行った。
私が残って待ってたんだ」
フラット「えっ、もう行ったの⁉︎」
クレア「早すぎだろ・・・」
ノール「お前らも早く着替え済ませて向かってよ。私ももう行く」
ノールは3人にクルリと背を向けてロビーの方に行った。
フラット「まあ、僕も中に着てるから向こうで脱げばいいし・・・
クレア、スレイさんと一緒に来てね。僕も先に行ってるから」
スレイ「待て待て、置いてくのか?」
フラット「いやいや、違いますよ。クレアだって着替え終わんの
早いですから。でしょ?」
クレア「まあな。神業・颯衣!・・・よし、終わり」
一瞬クレアは風となり水着をつけて、そしてまた普段着を着重ねた。
スレイ「あ、なら大丈夫か。僕はあっちで着替えるから先に行こう」
フラット「えっ、でもあそこには更衣室って・・・」
クレア「まさか、裸で泳ぐなんて言わないよな?」
スレイ「ダメなのか?」
フラット「思いっきり犯罪だから!しょうがないな、僕の水着もう一つあるから
あげるよ!バトラーが勝手に持ってきてたのだし、これは着ないから!」
バッと鞄からフラットが取り出したのは藍色の水着だった。
スレイ「・・・この色・・・っ⁉︎」
その色を見つめたスレイの視界が真っ暗になった。そして見えたのは
ほんの一瞬だったが水着と同じ藍色をした鎧らしい何かを身に纏う自分。
しかし、その一瞬の光景を何かが包んでいく。それは-
クレア「まっぶし⁉︎何だよこの光・・・!」
フラット「そのイヤリングから・・・⁈」
スレイ「・・・?何だったんだ・・・?」
クレア「おい、そのイヤリング・・・何だ?」
スレイ「これか?綺麗だろ!でもどこで拾ったのか覚えてないんだよな」
クレア「おい、フラット・・・今の光・・・」
フラット「うん、間違いないよ。天命石だ」
クレア「でも・・・スレイのやつが神力を出したようには見えなかったぞ」
フラット「だよね・・・」
スレイ「あ、水着貰うよ。ありがとう」
フラット「あっ、はい!」
スレイ「それより何コソコソ話してたんだ?」
クレア「あっ、あぁいや、大したことじゃねぇよ」
フラット「そ、そうそう!レクリエーションの計画をクレアとこっそり考えてて、
その案を出し合ってただけで-」
スレイ「レクリエーション⁉︎何やるんだ⁈」
フラット「えっ、そんなに楽しいものでも・・・」
クレア「だ、だよな?」
誤魔化してついた嘘に思っていた以上にスレイが食いついたせいで
2人は急いでレクリエーションを考えた。その時間は僅か5秒で-
フラット「素潜り!素潜り漁なんですよ!いやぁ、面白くないでしょ?」
クレア「だ、だよなぁ~!第一、そんな免許持ってるやつデ・ロワーに-」
スレイ「僕持ってるけど?」
クレア「えっ・・・あぁ、そう・・・か」
フラット「と、とりあえずレクリエーションとは言っても皆には
伝えてないから言うだけ言おっか」
クレア「だ、だな!」
もしかしたら反対意見が多いと考えて2人は希望を持った。
しかし-
海岸-
ヒナ「えぇ⁉︎素潜り漁⁉︎」
ノール「実はやってみたいなぁとは思ってた」
スラリア「あたしやったことあるけど、ダイビングもできて美味しい魚も獲れて
一石二鳥だったよ!」
フォール「疲れて獲った魚ほどウメェもんはねぇしな。俺もやってみてぇ」
コータス「まあ、海に潜るってのも楽しそうだな。俺も賛成」
スター「じゃあスターもやる!」
ケーベス「うーん、俺は宇宙船の実験してぇし、漁はやんねぇけど、
カメラ係で参加させてもらうぞ」
ナックル「っしゃ!自給自足ときたら俺の得意分野だぜ!」
ダバンゴ「へっ、そんな言葉聞いたってイキガリキッズの言い分にしか
俺様には聞こえねぇぜ。俺様の得意フィールドで勝てるやつぁいねぇ!
だったら勝負したっていいぜ?」
エド「勝負事なら俺も乗るっすよ!」
ベングル「う、海は遠慮しとく!俺は釣りで勘弁してくれ!」
ダバンゴ「おいベングル~?俺様殴っといて逃げる気か?」
ベングル「あ、あれはテメェが悪いだろうが!」
タクマ「まあこの人数が賛成してる時点で反対派は負け確定だけどな。
でもベングルの言う通り釣りでもいいだろ」
クレア「・・・どうするよフラット。今更何の準備もしてないなんて
言えないよな?」
フラット「当たり前だよ!どうしよ~!」
コータス「・・・ったく。持ってきといて良かった。おいフラット、
お前に頼まれてた耐水圧ゴムスーツと酸素ボンベ。これで足りるか?」
フラット「へ?」
コータス「俺の能力でお前が焦ってんの丸わかりだっての。これでどうにかなるだろ?」
雷鬼であるコータスにとって、嘘をつくときに生じる脳波を感じることも
容易いことなのである。
フラット「ごめん、助かる!」
コータス「まあ無駄な荷物になるかと思ったがな。使ってくれるだけ
ありがたいもんだ。とか言う俺も使うんだがな」
クレア「サンキューな、コータス!」
フラット「じゃあ今から配るゴムスーツと酸素ボンベをスレイさんの指示に
従って着用してね!」
スレイ「じゃあ僕が言うことに従ってくれよ~?」
ダバンゴ「待った!ガスペラス人には酸素ボンベなんか必要ないぜ。
おいタクマ!久々に勝負といこうじゃねぇか!」
タクマ「お前は本当に勝負好きだな。まっ、売られた勝負は買うだけだ!
腕がなるぜ!」
2人は先に海へダイブした。
フラット「ちょ、タクマ!ゴムスーツ!」
ベングル「ハァ~、アイツが先に行ってくれて助かった。じゃあ俺は
ボート借りて釣りしてるぞ」
ナックル「お前の水嫌いは相変わらずだな」
コータス「んっと、これで全部だな。じゃ、スレイ。着用方法と安全保障は
任せたぞ。俺もダイバー免許は持ってないからな」
スレイ「任された。まず-」
丁寧にゆっくりとスレイはゴムスーツの着方、酸素ボンベの使い方、
そして注意事項を教えた。
その頃、海中-
アイン「・・・ありました」
赤雲「よくやったな。これで・・・⁉︎」
海底に沈んだ宇宙船に触れた赤雲は何か驚いた顔をした。
パルカ「どうしたんダ⁉︎」
赤雲「・・・ここにはない。盗まれたか・・・?いや、荒らされた形跡はない・・・
となると、流されたか。探すぞ」
アイン「は、はい!」
パルカ「オイラにできることがあれば何でもやるゾ!」
赤雲「まずはギヴァシュを当たる。来い」
パルカ「じゃあ任せロ!時空斬!」
パルカの爪で引き裂かれた時空の向こうにはフラット達の姿があった。
アイン「なっ、フラットさん・・・⁉︎」
赤雲「アイン、やつらは敵だ。敬称など付けるな」
アイン「・・・はい、赤雲様」
パルカ「・・・赤雲様!ごめんなさい!」
そう言い残してパルカは時空の向こうへ飛び込み、隙間を閉ざした。
赤雲「・・・愚かな真似を」
フラット「じゃあいっくよ~!」
パルカ「フラット~!」
フラット「えっ・・・パルカ⁉︎」
パルカ「やっと会えたゾ!」
クレア「おいおい、どうなってんだ?」
スラリア「あたし達と敵対してたんじゃ・・・」
パルカ「それは赤雲様だけダ!オイラもご主人も望んでナイ!」
赤雲「パルカ。裏切りは重罪だ」
アイン「赤雲様、申し訳ございません!私の監督不届です!」
赤雲「いや、アインのせいではない。全てはコイツが始めたことだ。
だからパルカ。お前には罰を与える。結審・呪魂化!」
一つの黒みがかった何かがパルカの中に入り込む。
パルカ「っ・・・?何にもないゾ?」
赤雲「そのうち分かる。では行くぞ、アイン」
アイン「はい・・・赤雲様」
スラリア「・・・⁉︎待って!赤雲・・・どうしちゃったの⁈こんな真似するなんて・・・
おかしいよ!何で・・・酷い!」
赤雲「流石は死神。私が何したか分かったか」
ノール「スラリア、分かったの?」
スラリア「今やったのは地獄犬にはやっちゃいけないこと・・・
地獄犬は108個の魂の塊。それに呪いをかけて、挙句の果てには
消滅させる、それが呪魂化術。でも地獄犬を形成する魂は子供。
それを消すなんて・・・!」
赤雲「恨むのなら私に逆らったパルカを恨め。私は魂の罪を測るもの、
勘違いをするな」
ケーベス「身体に終わりあれど、魂に終焉なき。魂に終焉を与えし者、
永遠の罪を与えるべし。それは俺のことだ。でもまさか、目の前で
蓬莱の薬とは違うかぐや姫を見るとはな」
赤雲「どういう意味だ⁈」
ケーベス「かぐや姫は最後、育ててくれたおじいさんとおばあさんの元から
願ってもいない月への帰還を果たす。それと同じさ、お前の望んだ結果には
なりはしないってわけだ。パルカ自身が悩んでなくとも、呪われた魂は
嘆き苦しむ。つまりは・・・こういうことよ!」
パルカの体にケーベスが触れると、しっかりとケーベスの人工神力が
働いた。とうのパルカは呪いに気づいていないのに。
赤雲「・・・仕方ない。アイン、行くぞ」
アイン「・・・赤雲様!もう・・・私もいいです。このまま偽ったまま
生きていたって、何の意味もないです!分かっています、赤雲様に逆らえば
一生生まれ変わる時は来ないと・・・一生時の流れに合わさることがないと。
それでも・・・もういいです!私の・・・いや、僕が追い求めている物は
赤雲様のもとでは見つけられません!」
赤雲「いいんだな?時の流れを感じることなく、生まれ変わることもなく、
永遠に彷徨い続けることになるぞ?」
アイン「生まれ変わるために自分を偽り続けるぐらいなら・・・僕は
ありのままで、自分を、この皆さんと一緒に生きていたいんです!」
赤雲「・・・愚か者め。後悔しても懺悔しても、もう遅いぞ。じゃあ私は-」
スラリア「・・・その言葉、覚えてる・・・赤雲様!まさか・・・」
赤雲「スラリア。言うな、もう終わりだからな」
スラリア「どうしてですか⁈」
赤雲「・・・この先に待つ運命で分かるだろう。その時までは何も考えるな」
スラリア「えっ・・・」
赤雲「・・・私も不器用なのは相変わらずだな。アイン、パルカ!」
アイン「へ?」
パルカ「今更なんダ⁈」
赤雲「2人とも、合格だ。私に逆らうことこそ最後の試練だ。
時が来たら教えてやる。本来なら冥界に送るべきだが・・・それだけ特別な場所が
あるなら、いいだろう。刻限までその答えを忘れずにな」
アイン「赤雲様・・・」
スラリア「・・・もーう!あたしまで騙して!言ってくださいよ~!」
赤雲「よく言うだろ、敵を騙すならまずは味方からとな。もうすぐ見えるはずだ、
敵の動きが、まるで霧払いされるように」
フラット「あの、さっきから敵って、何のことですか?」
赤雲「それはフラットが1番よく知ってるはずだ。アイツのことは」
フラット「えっ・・・」
赤雲「まあとにかく。2人とも、最終試練合格おめでとう。輪廻の輪に乗る日を
かぐや姫のように惜しめるといいな」
ケーベス「チッ、言わなきゃ良かった」
ヒナ「あ~あ、名言横取りされちゃったね」
メダイ「それより早くダイビングしようよ~!」
フラット「あ、そうだね。じゃあアインも行こっか!」
アイン「えっ、ちょ-」
フラット「つべこべ言わずにレッツダーイブ!」
アインの手を握ってフラットは海に飛び込んだ。それに続いて
全員も一斉に飛び込んでいく。
パルカ「ズルいゾ!オイラも行く!」
エド「じゃあ行くっすよ!」
パルカ「わわわ⁉︎」
軽々しくパルカを背負って、エドも海に飛び込んだ。
赤雲「・・・さて、やつが動きを見せた時、アイツはどうするかな」
波のざわめきの音に紛れて、赤雲はそう言った。
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