第26話 マリオネットの夢 1節 悪夢の再来

8月始週の木曜日、浅草大学寮-

ニュース「以上、原因不明死亡者の37名の特徴でした」

フラット「これで37人目・・・なんかあるのかな?」

エド「前に話してた神獣とかに関係してるんすか?」

フラット「ううん、全然関係ないけど・・・そういえばさ、前に

ユーリックがスターの体を借りて大量殺人事件起こしたよね?」

エド「そんなこともあったっすね」

フラット「もしかして・・・」

エド「関係ないと思うっすよ?ユーリックはあくまで白雪村の住民にしか

殺意を持ってなかったはずっすし」

フラット「だよね、疑いすぎかな。まっ、そろそろ大学行かなきゃ。

先にオフィス行ってて。後で行くから!」

エド「分かったっす!フラット、頑張るっすよ!」

フラット「バトラー寝てるからね、エドも頑張って」

エド「置いてってもいいっすか?」

フラット「おっ、分かってるじゃん。じゃ、そゆことで、行ってくるね!」

エド「は~い!行ってらっしゃいっす!」

フラット「うん!」

エドに笑顔で手を振ると、フラットは寮から出ていった。


浅草大学-

タクマ「お、フラット!」

ヒナ「先週は大変だったね。ベングルさんから聞いたよ?神獣と魔獣を

味方にするなんて、また大胆な作戦だよね」

フラット「えっ、ベングル話したの⁈」

タクマ「あぁ、俺達に話していいのかよ、とは思ったけどな」

フラット「何考えてんだか・・・後で姉ちゃんに報告しとくよ、ありがとう」

ヒナ「まあ、私達もアカデミー所属企業だからいいと思うけどね」

フラット「四大級の話を漏らしちゃダメなの!ベングルは口が軽すぎだよ・・・」

ヒナ「あ、そうそう。警察の方も最近の原因不明死亡者多発事件の調査を

本格的に行うって。夢の力を扱えるファイターに事情聴取を

行うとか言ってたかな」

フラット「ふぅん・・・ユーリックは大丈夫だと思うよ。僕達も

アリバイがあることは証明できるから」

タクマ「ならいいんだが。ただでさえ普通のファイターとは違うんだ。

注意はしとけよ」

フラット「えっ?」

タクマ「アイツは死んだ体で生きてる。俺達とは違って簡単に

魂と体を分離できるってわけだ。げんにアイツは生身の人間の体を持ってる

スターの体から魂と分離してたんだろ?」

フラット「あっ・・・でもユーリックはそんなこと起こす理由も

ないからね。違うと思うけど・・・」

タクマ「だよな、疑いすぎなだけだよな」

ヒナ「そうだよ~!もう、タクマってば」

教授「講義始めるぞ~!」

タクマ「フラット、この前の講義の内容送っとくから後で見とけよな」

フラット「ごめん、助かる」

何事もなかったかのようにいつも通りが始まった。街に隠れた殺気に

誰も気づくことなく-


デ・ロワーファイター課オフィス-

ペーター「重要参考人にユーリックを出すように言われてるんだが・・・

知らないかい?」

スター「お姉ちゃんいないの?今日はシャンちゃんの所に行ってるはずだけど・・・」

ペーター「それが用事があるって言ってからまだ帰って来てないらしくて-」

「♪(電話の音)」

ペーター「もしもし、こちらデ・ロワーファイター課でございます」

シャン「ペーター、ちょうどユーリック帰って来たから心配しなくていいよ。

ただ事故で遅れたみたい」

ペーター「事故?」

シャン「また不自然死だって。しかも路上で」

ペーター「路上か・・・死亡推定時刻は?」

シャン「昨日の午前11時。その時間はユーリックは無理だよ。

防犯カメラにもバッチリ映ってるから」

ペーター「じゃあユーリックは白なんだね。良かったよ」

シャン「そうだね、それじゃあ失礼」

プツッと静かな音と共に電話は切られた。

ペーター「まあ、今回の事件は無差別っぽいし、ユーリックが犯人なら

真っ先にシャンが危ない目に遭うか」

スラリア「それよりさ、仕事が予定の半分も終わってない人が

いますけどいいんですか?今月の納入分まだ終わってないですよ!」

ペーター「まあ、フラット君がくれば変わるよ。フォール、クレア、

変われるよね?」

クレア「お、おう・・・」

フォール「クッソー!全然終わんねぇ!」

ノール「もう教えないからね。何度教えても覚えてくれないし、

教えてる最中にアクビするやつに教える気はないから」

エド「自業自得っすよ。ナックラーさんは遅刻だけで、仕事は俺達よりも

ずっと早いっすもん」

ペーター「出社時間2時間遅れで、既に明後日の分に取り掛かってるからね。

これで遅刻がなければ優秀なのに」

ノール「まあ遅刻してこそのバカ虎だけどな。遅刻要素なしで

仕事完璧だったら面白くもなんともないし」

ナックル「お前ら一言余計だ!大体今日はエドが起こしてくれればだな!」

フォール「要するに起こされないと起きれないってわけか」

スラリア「相変わらず子供だよね!」

ナックル「あぁ、しゃらくせぇ!」

クレア「言葉の使い方違くないか?」

ペーター「まあまあ、もうすぐお昼だ。フラット君もそろそろ来るはずだし、

全員集まったらお昼休憩にしようか」

スター「はぁーい。じゃあスターはその後部活だからスラのお姉ちゃんに

仕事は手伝ってもらうね」

スラリア「いいよ、スターちゃんはお兄ちゃんみたいになっちゃダメだよ?」

スター「うん!」

クレア「お、俺だって本気出せばこんぐらい!」

ペーター「いや、君1人で任せたら何が起こるか想像できるから

やめてほしい。修理費がバカにならないからね」

ナックル「だろうな。ここまで不器用だとパソコンなんかすぐに壊しちまいそうだ」

クレア「流石に壊さねぇよ!」

「どうだか。この前修理作業手伝うよう頼んだら見事に配線を

真っ二つにしたくせに」

スター「コ、コータス・・・!」

慌ててスラリアの背中には隠れた。

コータス「まだ怖がってんのか?」

以前スターに本来の姿を見せたために、コータスはスターが自分を怖がっていると

誤解していた。ただ単にスターはコータスに片思いしているだけである。

スラリア「もう、勘違いされてるけどいいの?」

スター「う、ううん・・・ちょっとその・・・あ、スター部室に

忘れ物しちゃった!取ってこないと!」

コータスに目を合わせないように注意しながら、スターは部室の方へ

駆け抜けていった。

コータス「はえぇ・・・風の天使だからか?」

スラリア「ただの逃げ足なんだけどなぁ」

コータス「?なんか言ったか?」

スラリア「へ?ううん!別に⁈」

コータス「そうか。まあそれより。課長さん、さっきも口にしたが

そこにいる不器用さんが俺達の宇宙船の配線切っちまってよ、

弁償してくれる?」

ペーター「いいよ。今月分のクレアの給料から引いておくから」

クレア「ヴェ⁉︎ちょ、ちょっとそれは-」

ペーター「何か文句でも?」

コータス「1回目ならまだしも、こういうのしょっちゅうやらかしてるからな。

流石にこれは身をもって覚えさせねぇとと思ってな」

エド「これもまた自業自得っすね」

クレア「わざとじゃねぇんだからよ!」

コータス「それは分かってる。ただな、何回も同じことやってるから

こうなってんだろ?それにそんな高くねぇよ。せいぜい1万ぐらいだ。

ファイター活動で一気に取り戻せるぞ」

クレア「ウグゥ・・・この前の戦闘で稼いだ分で返せるからいいけどよ」

コータス「なら全然大丈夫じゃねぇか。そんなショック受けることもねぇだろ」

クレア「でも1万だぞ!」

ノール「まあ、クレアからしたら大金か。散財癖もなく貯金してるし」

クレア「くぅ~!」

ペーター「だったら余計に1万ぐらいはポンと払えるだろうに・・・

よく分からないなぁ」

ナックル「?もうこんな時間か。そろそろアイツの講義も終わるな!

よし、エド!迎えに行くぞ!」

エド「了解っす!」

ペーター「流石はナックラー、馴染むのは本当に早いな」

ナックル「だろ?ガッハッハ!」

エド「早く行くっすよ~?フラットが待ちくたびれちゃうっすよ~!」

ナックル「はえ⁉︎ちったぁ待ってくれたっていいじゃねぇか。

じゃあ迎えにいってくるからよ!後は任せるぜ!」

ノール「ん、早くいってこい」

スラリア「気をつけてね、最近物騒だから」

ナックル「おーう!」

2人はオフィスを後にした。

コータス「大丈夫だろ。犯人は1人きりのやつしか狙ってねぇみたいだし?」

スラリア「それもそっか・・・1人?」

フォール「スターなら部室だろ?それにアイツの神力ならどうにでもなる」

クレア「・・・心配だな、ちょっと見てくるわ!」

スラリア「ちょ、仕事は⁉︎」

やりかけの作業ををそのままにして、クレアは部室の方に急いで走っていった。

ノール「本当にシスコンというかバカ兄というか・・・」

スラリア「でも心配してくれるのはいいことだけどね」

ノール「そう?ウザったいだけだと思うけど」


吹奏楽部室-

クレア「スター、いるか~?」

スター「・・・⁈兄ちゃん、何してんの⁉︎ここ音楽室!」

クレア「いや、1人でいたら危ないだろうと思って様子見に・・・」

スター「大丈夫だよ、部員の皆だっているんだから」

クレア「もし部員の中に犯人がいたらどうするんだ?」

スター「あぁ、もう!兄ちゃんいちいち鬱陶しい!スターのことは

心配しなくていいから早く出てって!今練習中なの、見て分かんない⁈」

クレア「なっ、今どこもかしこも危険でいっぱいなのに妹を放っとけってか⁉︎」

スター「あのさ、兄ちゃん。くどいって言葉知ってる?」

クレア「なっ、俺は心配して言ってるだけだ!」

スター「余計なお世話!今週からコンクールに向けて本格的な練習するから

部外者は立入禁止なんだから早く出てってくれる⁈スターも

こんな説教してる暇はないの!」

クレア「何かあっても知らんからな!」

スター「何も起きるわけないもん!じゃあね!」

クレアを無理矢理音楽室からスターは押し出し、入り口の鍵をしめた。

スター「・・・はぁ」


一方その頃、ララクス・バッテン(アカデミー本部)-

シャン「良かったね、アリバイあって」

ユーリック「・・・シャン、ごめん今日は調子悪いから帰ってもいい?

ここんとこ頭痛がひどくて」

シャン「今日も?大丈夫?病院とか・・・あ、その身体じゃ無理か・・・」

ユーリックの体はとある死体にに取り憑いているだけのものであるために

治療などは受けられない。

ユーリック「そういうこと。まったく、心臓が動いてれば完全に人間なのになぁ」

シャン「死体を完全に自分の体にできるほどの神力はないってことだね。

でも頭痛って・・・」

ユーリック「あたしもそこは不思議に思ってるんだけど・・・考えれば考えるほど

頭痛がひどくなる一方だもんでね・・・ごめん、今日も帰る」

シャン「うん、お大事にね~」

ふらふらと歩いて帰っていくユーリックを見送って、シャンは

とある所に電話をかけた。

シャン「もしもし、ユーリックの件だけど-」


道端-

フラット「やっぱりあの犯人は誰か分からないんだ」

ナックル「あっちこっちから夢の神力を持ってる連中を探し回ってたらしいが

何にも手がかりがないらしい」

エド「何かしら情報が出ると思ったんすけどね・・・」

フラット「ふぅ・・・」

「ピロロロ!ピロロロ!(フラットのウォッチフォンの着信音)」

フラット「ごめん、ちょっと待って」

着信相手の立体映像を立ち上げるとシャンからだった。

フラット「もしもし姉ちゃん?今歩道だもんでなるべく手短に

電話お願いね?」

シャン「分かってる、それよりまたユーリックが早退したから

スターちゃんに伝えておいてくれる?オフィスの方に電話したけど

クレア君が出て、今部活中だから無理って断られちゃってさ」

フラット「オッケー、伝えとくよ。それより休んだ理由って?」

シャン「頭痛が酷いからって。実際、顔色も悪かったし」

フラット「えっ・・・顔色が?」

シャン「そう・・・?どうかした?」

フラット「ごめん、切るね」

#硬った__こわばった__#声色でフラットはそう言い、通話を切った。

エド「顔色が悪いからなんすか?」

フラット「・・・ちょっとごめん、バトラー、スターにさっきのこと伝えてくれる?

僕はちょっとクレア達の部屋に行ってみる!」

ナックル「ちょ、おいフラット⁈」

歯を強く食いしばりながらフラットは急いでアカデミー社員専用寮の

クレアとスター、ユーリックの3人が使っている部屋へ向かった。


3人の部屋-

フラット「ユーリック⁉︎」

クレア「何だよ俺まで連れてきて・・・ユーリックがどうかしたか?」

フラット「ちょっと調べたいことがあって・・・ユーリックの部屋ってどこ?」

クレア「はぁ?お前、気でも狂ったか?」

フラット「いいから!大至急!」

クレア「わ、分かったよ・・・俺が入れたなんて言うなよ?俺もスターも

入れないんだからな」

フラット「ごめんね、すぐ終わるから」

クレアが念の為にユーリックの部屋のドアをノックするも特に返事はなかった。

中にいないと分かり、一応クレアはドアノブを引いた。すると-

クレア「?いないならいないで鍵は閉まってるはずなんだがな・・・

まあいいや、閉め忘れかもしれねぇな。運が良かったな」

フラット「・・・クレア。部屋に入らないで。いい?」

クレア「?あ、あぁ・・・?」

ゆっくりとフラットは扉を開いた。その隙間から部屋に入り、

なるべく中の様子をクレアに見せないように入っていった。


ユーリックの部屋-

フラット「・・・異常なし・・・かな?とりあえず・・・ここだけ」

不自然に掃除されていたクローゼットの前を気にして、フラットは

扉を開いた。その中には-

フラット「っ⁉︎こ、これ・・・!」

バンっと強く扉を閉めて、フラットはそのまま部屋から出た。

クレア「ど、どうした⁈」

フラット「・・・ユーリックってさ・・・あんな悪趣味なの?」

クレア「はぁ?」

フラット「クローゼットの中にびっしりと虫の標本があったんだよ⁉︎」

クレア「あぁ、それスターのだ。最近なくしたってワーワー騒いでると思ったら・・・

ユーリックが隠してたのか」

フラット「スターのなの⁉︎でも何でまた標本なんか・・・」

クレア「なんでも生物学で使うんだとよ」

フラット「あ、そう・・・」

クレア「でも何でユーリックがスターから奪ったんだ?ちょっと俺も

見てくるわ。アイツが帰ってくるかもだしフラットはここで見張っててくれ」

フラット「分かった」

クレアはユーリックの部屋へ入っていった。


ユーリックの部屋-

クレア「・・・これか。ん?なんだこの赤いの・・・こんな柄、アゲハ蝶にあったか?

なんか血みたいだし・・・」

「な、何してるの⁈」

クレア「ん、何ってお前がスターから取った標本を-⁉︎」

目の前にいたのはなんとユーリックだった。

クレア「へ⁉︎」

ユーリック「そういうことね、あたし気分悪いから早く出てって。

でも何でそこに標本なんか・・・あたし取った覚えないし・・・まあいいから、

スターの部屋に置いといて。あたしまだ寝てるから」

クレア「あ、あぁ?分かった」

いつもなら起こってきそうなものなのだが、平然とした対応で

クレアを部屋から出そうとするユーリックに、クレアは違和感を覚えるも

調子が悪いからだろうと考え、気には留めずに部屋から出ていった。


廊下-

フラット「あ、お帰り」

クレア「お前、見張っとけって言ったろ!」

フラット「えっ?見張ってたけど?」

クレア「なっ、でもユーリックのやつ中に来たぞ!」

フラット「?誰も通してないけど・・・」

クレア「・・・夢の中にでも行ってたか?」

フラット「夢の中の方が寝心地良いって言ってたし、そうなんじゃない?」

クレア「まったく、傍迷惑なやつだ。じゃあ俺はこの標本、スターの部屋に

置いてくるな。これでスターのやつも機嫌が良くなりゃ良いけどな」

フラット「スター機嫌悪いの?」

クレア「ここんとこずっとな。標本失くしたのが相当ストレスみたいで。

今日も言い争ってるしよ」

フラット「そっか。じゃあ僕はオフィス行ってるね。クレアも

戻るでしょ?」

クレア「当たり前だろ、仕事途中でスターのとこ行って説教くらってるしな」

フラット「そりゃ怒られるよ。まっ、また後で!僕も仕事あるしさ」

クレア「おーう!」

フラットは玄関を出てオフィスのある階までエレベーターで降っていった。


オフィス-

フラット「あれ、ペーターさん、エドとバトラーは?」

ペーター「あぁ、食事の予約に行ってくれてるよ。それより、ノールを

見てないかい?用事って出てってからまだ帰ってきてないんだよ。

昼下がりには帰るって言ってたけど、連絡すらこなくて」

フラット「・・・営業課の方に行ってみます。多分キルユウも同じくいないと

思いますので」

ペーター「あぁ、そういう可能性もあるね。じゃあ頼むよ」

フラット「はい。そういえばフォールとスラリアは?」

ペーター「あの2人なら整備課に行ってるよ。クレアが切った配線を

修理しておくって」

フラット「フォール、手先だけは器用ですからね・・・まあとりあえず行ってきます。

すぐ戻ってきますね」

ペーター「フラット君の言葉は1番信用できるよ」

フラット「あ、ありがとうございます?スラリアの方がよっぽど信頼できると

思うけど・・・じゃあ行ってきまーす!」

笑顔で会釈をし、フラットはオフィスを出た。


営業課-

フラット「失礼します。ファイター課のフラットですが、うちのノールが

お邪魔しませんでした?」

バルシア「あっ!フラットの兄貴!来てましたよ!お昼頃に

キルユウの兄貴と一緒外出中です!」

バルシア。ノールの義弟で流れ者の雪狼青年である。

フラット「やっぱり・・・デートしてたか。バルシア、悪いけど

キルユウが帰ってきたらファイター課に来るよう伝えておいて」

バルシア「兄貴からの仕事となれば何でもやります!」

フラット「ありがと、じゃあよろしくね」

バルシア「え~!もう帰っちゃうんですか~?」

フラット「だって昼ごはん・・・良かったら一緒に行く?」

バルシア「行きます行きます!」

フラット「オッケー。じゃあ追加予約しないと・・・」

フラットはミートコーリングモードでナックルとエドに電話をかけた。

ナックル「どうした?今予約の電話中だ・・・って分かってるから

ミートにしてんのか」

フラット「1人分追加でお願い。あと1人分はキャンセルで」

エド「?誰か食べないんすか?」

フラット「ノールが僕達を待ってる間にデートしてるから」

ナックル「アイツがか⁉︎キルユウとできてたなんて思ってなかったぜ・・・」

エド「あっちのノールは付き合ってなかったんすね・・・じゃあ了解っす。

ノールの代わりにバルシアが来るってこと伝えておくっす」

フラット「ごめんね、わざわざ。じゃあ切るね、また後で」

通話終了をタップし、フラットは小さくため息をついた。

バルシア「久々に兄貴とご飯~!どこ行く?どこ行く⁈」

フラットの背中に飛びついて、尻尾をバタつかせながらバルシアは

笑顔でそう尋ねた。

フラット「予約が必要ってことは・・・分かった!できたばっかの

お寿司屋さんだよ!ほら、今来店者数を計測なきゃいけない時期だから

予約で数値出してるんだよ」

バルシア「あ~!お寿司ですか!もう一回地元のおやっさんの

寿司食べたいなぁ・・・」

フラット「お盆休暇で行けるでしょ?その時はノールと一緒に行けば良いし」

バルシア「ダメです!兄貴も一緒に行かなきゃ楽しくないですもん!」

フラット「まあ・・・いっかな。じゃあお盆休暇で盛岡に旅行でも

しよっかな。じゃあその代わり、冬のお正月休みは僕の帰郷に

付き合ってもらおっかな」

バルシア「行きたいです!静岡の魚、満喫して酒飲み尽くしたいです!」

フラット「アッハハ!バルシアらしいね。じゃあファイター課のオフィスに

向かおっか。ペーターさん待たせてるし」

バルシア「はい!」

2人は和気藹々と話しながらファイター課のオフィスに向かっていった。


一方その頃、浅草警察署ファイター支援課-

ラルバ「えぇ⁉︎俺がコイツとですか⁉︎」

デラガ「お前にとっても良い経験だろ?」

ラルバ「ん~・・・デラガの指示なら仕方ないですね・・・わかりました、

じゃあ行くよ、ビリー」

魁 ビリー。少し前にデ・ロワーのビルに派手にパトカーで衝突した

ミスばかりの新人ファイター支援課所属の刑事である。

ビリー「は、はい!ってうわぁ⁉︎」

勢いよく立ったせいで、太ももがデスクを持ち上げてひっくり返してしまった。

ラルバ「・・・あっちゃ~」

ビリー「す、すぐに直しちゃいます!」

と、デスクを軽々と立ち直したものの、上に置いてあった茶碗や弁当が

床に散乱していた。

デラガ「・・・本当、昔のお前そっくりだな、ラルバ」

ラルバ「お、俺でもこれよりはマシですよ!」

デラガ「初日に壁に大穴開けたのは誰だったっけっかな?」

ラルバ「ぐっ・・・それは俺ですけど・・・」

デラガ「まあそんな平和モードもこれぐらいにしといてくれよ。

今回俺達が担当してる事件、ただの事件じゃないからな」

ラルバ「・・・はい、分かっています」

ビリー「うぅ・・・入ったばっかなのに・・・」

デラガ「君には期待してるんだ。あんな高い成績で警察試験に

合格しているんだ、自信を持て!」

ビリー「は、はい!」

デラガ「よし、2人とも!見回りにあたれ!」

ラルバ&ビリー「はい!」


レストラン街-

フラット「結局スラリア達はキャンセルか~」

ナックル「仕事じゃしょうがねぇだろ」

エド「でもバルシアと混じって食事するのは久しぶりっすね~」

バルシア「正直、フラットの兄貴とだけで食事したかったな・・・」

エド「?何か言ったっすか?」

バルシア「いいえ?な~んも言ってないですよ?」

フラット「・・・はぁ」

「キャハッ!」

ナックル「おいフラット、今笑ったか?」

フラット「僕じゃないよ?」

バルシア「あの路地裏からです!行ってみましょう!」

4人は聞き覚えのある笑い声のした路地裏へ行ってみることにした。


路地裏-

フラット「あっ!」

ナックル「おい、大丈夫か⁉︎」

路地裏の奥の方にはぐったりと倒れ込んだ1人の女性がいた。

バルシア「もう脈がありません!」

エド「手遅れっすか・・・でもあの笑い声・・・どこかで聞いたことが

あるっすよね?」

フラット「・・・ユーリック」

ナックル「そうそう!ユーリックの笑い声・・・まさか、おいそういうことか⁉︎」

フラット「もうそういうことだよ。でも、まだどうなってるかは

分からないけどね」

バルシア「食事どころじゃなくなっちゃいましたね・・・」

フラット「とりあえず警察に電話しないと・・・?」

女性の体を支えていたフラットの右手に生温かい何かが当たった。

フラット「・・・えっ・・・⁉︎」

それは一瞬ミンチ肉かと思われた、真っ赤でぐちゃぐちゃな物。

しかしそれはぼたぼたと女性の割れた頭からこぼれ落ちていた。

ナックル「うっ・・・⁉︎」

エド「っ!」

バルシア「なっ・・・⁉︎」

フラット「・・・いつの間に・・・⁉︎」

その光景はその場にいた4人を黙らせ、吐き気を催した。それでもそこはファイター。

目の前の状況をなんとか整理して冷静に判断した。

ナックル「で、でもよ・・・俺達は凶器とか持ってねぇし、ラルバ達なら

すぐに分かってくれるだろ。とりあえず電話しようぜ」

エド「なら俺が通報しとくっす!」

フラット「そ、そうだね・・・でもその前に手だけ洗ってきていいかな?」

バルシア「なら・・・これ使ってください!」

バッグの中から除菌シートとウェットシートをバルシアは取り出して

フラットに手渡した。

フラット「えっ、水道で洗った方が・・・」

バルシア「そんな血だらけの手で外行ったらまずいですって!」

フラット「あ、そうだね。ありがとう」

バルシア「でもこんなやり方・・・ユーリックがやる理由なんてもうないはず・・・」

ナックル「だよな・・・白雪村の連中はもういねぇんだろ?」

フラット「聞いた話だといないわけじゃないけど、あの事件で

亡くなった人と今回の事件で亡くなった人の合計は白雪村の総人口82人を

超えてるんだよね。それに出身地も白雪村じゃないし・・・」

エド「電話終わったっすよ。ラルバ達が近くで見回りやってるから

すぐ来られるみたいっす」

フラット「なら良かった・・・うん、こんな感じかな。じゃあラルバ達を

待ってようか。事情聴取の前に手は洗うから」

4人は死体をそのままにして路地裏で警察の到着を待った。

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