第25話 最終節 幸せの意味

クレア「くっ、手遅れか⁉︎」

既に街は半壊状態だった。螺旋状の商店街は見る影もないほどに

バキバキに折られていた。

フラット「酷い・・・」

スラリア「でもここに来た時には誰の余命も見えなかった・・・

まだ希望はあるよ!」

ユーリック「それは買い物を楽しむ年齢、つまりは大人だけの話。

やつの狙いはまだ生まれたばかりで魂が大きい子供だけ」

ベングル「させるか!俺達で止めるぞ!」

グリオ「待て。各地でバケモノ退治をしてた7人でさえ倒せなかったバケモノを

どうやって倒す気だ。無策に立ち向かえば死ぬだけだ」

スラリア「大丈夫。バケモノの正体の方も・・・ほら!」

フラット「あれ、僕の方に情報がくるはずだけど・・・」

スラリア「誤送信っぽいね。出すよ」

スラリアのネックフォンに映し出された文字列。それは-

「バケモノについてのまとめ資料。

まず第一に、バケモノと呼ばれるものは異世界線から流れ着いた

神獣や魔獣である。ワラジグイはヌエと呼ばれる神獣だ」

フラット「ヌエって・・・頭が猿で胴と手足が虎、尾が蛇の神獣でしょ⁉︎

でもあの体は・・・ウロコだけど⁈」

ユーリック「あの泉にいた魚や爬虫類、両生類と同化したなら分からないよ?

ヌエが長い時を経て進化したとしたら・・・」

ベングル「前よりも強くなってるのも当然か」

クレア「待て!魂を探し求めるってことは今のアイツは弱ってるんじゃねぇか⁉︎」

フラット「とにかく今は僕達がどうにかしないと!各自、無理はせずに

ヌエの侵攻の妨害にあたるように!」

全員「了解!」

フラット「戦闘開始!」

クレア「後方支援は任せとけ!ファイターモード起動、俺の風に圧倒されろ!

第一突風『零』術・『水切之旋風』!」

ヌエ「ん?」

クレアの攻撃はヌエの硬い鱗に遮られ、傷ひとつつけることなく

跳ね返された。

ヌエ「グヘヘ・・・俺のウロコはそこら中の宝石よりもずっと硬いんだ、

そんな攻撃で俺を倒せるとでも思ってるのか⁈笑止千万!」

クレア「ぐっ!っぶねぇ~!」

ヌエの尾の蛇がクレアを噛みつこうと近づいていく。

クレア「なっ、おいおい、これじゃまるでアリジゴクの触手と

同じじゃねぇか⁉︎」

グリオ「パラレルスペース間にいたわけだ。パラレルストーンの力の影響を

少なからず受けているのかもしれないな」

スラリア「じゃあ・・・ヌエに硬いウロコとアリジゴクの力が

加わってるってこと⁈」

ベングル「そんなのに勝てんのかよ⁉︎」

フラット「諦めないで!やるだけやってみよう!」

ライタ「・・・哺乳類がもし爬虫類や魚類の特徴を引き継げば・・・

フラット、俺に作戦があります!あのヌエを氷漬けにしてみてください!

予想があってれば・・・!」

フラット「氷漬けにって言われても、あんなに暴れてるんじゃ

流石に無理だよ!弱らせてからじゃないと!」

ライタ「そう・・・ですよね。弱らせる・・・俺にもっと神力があれば・・・!」

強くそう願ったライタ。その願いに応えるように骨董屋にあった、

例の彫刻が桃色の光を放った。

ライタ「・・・?」

フラット「な・・・何?」

「初めまして、あなたの願いが私を呼びました。私はあのバケモノを

封じ込めていたもの。あなたに私の力を与えましょう・・・残った私の仲間達も

あなた方を待っています」

フラット「えっ・・・」

ライタ「俺が・・・あなたの力を?」

「はい。私は雨宮 サクラといいます。桜花之術・・・あなたに託します」

桃色の光はそのままライタの中に入っていく。それと同時に

ライタの手には一つの刀があった。

フラット「刀・・・?」

刀の柄には『霊剣・花嵐』と書かれていた。

ライタ「・・・いける!」

大きく頷いたライタ。そのままヌエに向かって一直線に駆けていった。

フラット「ちょ、どこ行くの⁈」

クレア「お、おい!こっち来てるぞ!」

ユーリック「何にも効いてない!」

スラリア「ごめん、指怪我してて音が・・・!」

ヌエ「さぁ、誰から喰ってやろうか?」

ライタ「喰わせはしない。みんな、俺の大事な友だ!お前に手渡せるほど、

安っぽいものじゃねぇからな!」

ヌエ「ん・・・⁈その力、雨宮か⁉︎」

ライタ「今の俺なら・・・お前を倒せる!封邪神生・・・桜花斬撃!」

ヌエ「なっ⁉︎バカな⁉︎」

ヌエを守っていた硬いウロコが、ライタの軽やかな剣捌きで

剥がれ落ちた。

ライタ「今だ!やれ!」

クレア「これなら・・・いける!第二突風『炎』術・『四方爆破之矢』!」

ヌエ「グゥっ⁉︎なんの・・・!」

ベングル「一気にたたみかけるだけだ!

第一火炎『炎』術・『スプラッシュフレイム』!」

ヌエ「くっ・・・こうなれば!」

寂しげな鳴き声をヌエはあげた。

ライタ「!まずい、避けろ!」

フラット「みんな、下がって!」

ヌエの周りから得体の知れない生物が地面から出てきた。

スラリア「なっ・・・何なのこれ⁉︎」

グリオ「これは・・・そういうことか。負の感情の結晶体とでも思っておけ!

コイツらに惑わされるな!」

スラリア「負の感情の結晶体・・・だったら、あたしに任せて!」

ユーリック「無理でしょうに!指の怪我で上手く演奏できないでしょ!」

スラリア「怪我の痛みに狼狽えたら、そんなのファイターじゃない!あたしはたしかにサポーター・・・でも、みんなの支えになれる

ファイターだから!神業・鎮魂之ソナタ!」

指や爪の怪我の激痛に耐えながらスラリアは音を紡いでいく。

その音に負の感情の結晶体は溶けて光に変わっていく。

ヌエ「何⁉︎」

ライタ「・・・ラッシュがお前の封印を解いたというなら・・・俺がこの手で

お前を切る!俺の友の不始末は俺がかたをつける!

第一司令『零』術・『波紋之静粛令』!」

ヌエ「ぐっ・・・体が⁉︎」

フラット「今だ!第一審判『零』術・『凍瀧之結界』!」

ヌエ「なに⁉︎くそ、動け-!」

あっという間にヌエの足場は凍りついた。ヌエの体温は手足から

だんだんと冷えていく。

ヌエ「ぐっ、なんだ・・・急に・・・眠気が・・・」

ライタ「作戦通り!」

グリオ「そうか、進化を重ねると同時に変温動物に退化してたってわけか」

ユーリック「それで体が冷えて行動不能になったわけね。いい作戦思いつくじゃん」

ライタ「あとはヌエを泉に-」

フラット「いや、結界がない以上、封印のしようはないね。

でも元々は神獣なら・・・きっと、擬態の能力があるはず。メダイやエドみたいにね」

クレア「エドって、アイツはもとからあの姿だろ⁈」

フラット「ううん。白虎だったらあんな姿にならない。完全にあれは擬態だよ」

スラリア「でも・・・どうやって擬態させるの?」

フラット「そんなの無理矢理だよ。指揮者特別権限発動。擬態解除」

フラットが端末を操作すると、ヌエの姿がみるみるうちにラッシュに変わった。

フラット「まっ、だろうね。あとは・・・連れて帰ろっか。スターに頼めば

一瞬で片付くしね、この狂った魂は」

スラリア「だったら連れて帰らずに強制送還しよ?デ・ロワーまで

重要人物って肩書きでさ」

クレア「バレたら犯罪だぞ?」

スラリア「つまりはバレなきゃ犯罪じゃない、だよね?」

フラット「・・・一応さ、僕法の天使だけど?」

スラリア「あっ・・・今のは冗談だからね⁈」

ベングル「とにかく、コイツは地球に送っちまうか。浅草警察署なら

なんとか話も通してくれるだろ」

ライタ「・・・」

虚げな表情でライタは眠っているラッシュを見つめた。

ユーリック「どうしたの、そんな顔で。お前を騙してたやつだよ、ソイツは。

友達として近づいてね」

ライタ「・・・あれが偽りだったとしても・・・別に構わない。俺はもう、

普通で生きてける。そう思えた」

フラット「ライタ・・・よしっ、じゃあまずは商店街の復興作業やろっか!

みんな、頑張ろ~!」

全員「了解!」


その夜-

ライタは1人で宿の窓からぼろぼろになった商店街を見下ろしていた。

時折、ため息もこぼしながら。

フラット「あ、いたいた。とっくにみんな食堂にいるけど、

何してるの?」

ライタ「商店街を見てただけ。おとといまではあんなに騒がしかったのに、

今日は真っ暗でぼろぼろで・・・」

フラット「そうだね・・・でもさ、ちょっと上を見てよ!」

ライタ「?上?」

フラットが指差した上の方をライタも見た。そこには地球では

見られないほどの綺麗な星空が広がっていた。

フラット「暗いから見える光だってあるんだよ。バーデル星は

星空が綺麗とも書いてあったから見てみたかったんだ!」

ライタ「暗いから・・・見える光・・・。俺、今日は何だか不思議な気分です。

俺が俺じゃないような・・・そんな感じがあって・・・」

フラット「そっか。じゃあ変われてるんだよ!今日は大変だったからね。

ゆっくり休んでよ?」

ライタ「それはこっちのセリフなんだ!全く・・・フラットは無茶しすぎだ。

怪我してんのに突っ込もうとしたり・・・でも、その無茶に憧れてるって

今日分かった。フラット、幸せって・・・こういう時に言うべき言葉なのか?」

フラット「幸せ?そんなの聞かれても答えられないよ。ライタの幸せと僕の幸せ、

一緒なわけないからさ」

ライタ「だよな・・・でも、これは俺にとっての幸せだと思う。

俺は軍人でなきゃ生きれないって、普通に生きることを諦めてた。

でも、お前達に会えて自信がついた。本当にありがとう」

フラット「どういたしまして、かな?でもさ!」

ライタ「?」

フラット「まだまだだよ!ライタが普通に生きるにはね。だから、僕達と

一緒にファイターやらない?」

ライタ「えっ・・・」

ライタは今自分は夢を見ているのかと錯覚し、ついフラットの頬をつねった。

フラット「イデデデ!ふぁ、ふぁに⁈ふぉうふぃたの⁈」

ライタ「・・・おいおい、でもこの前無理だって!」

フラット「たしかに、営業はね。だからデ・ロワー付属学校の体育教師に

なってもらおっかな~ってね!」

ライタ「た、体育教師⁉︎俺がか⁉︎」

フラット「いいじゃん、子供からは大人気だったんだよ?」

ライタ「俺が、子供に⁈」

フラット「うん。だから大喜びすると思うなぁ」

ライタ「・・・このライタ・ガブル、人が喜ぶ顔だけを見るためになら

何だってします。やらせてください!」

フラット「オッケー!ちょうど人手不足で困ってたんだよね、助かるよ。

でも、軍とは違うから優しく指導してよ~?」

ライタ「大丈夫!俺はこれでも軍施設見学接客の担当者だった!

子供の相手もよくした!問題なし!」

フラット「それならいいかな。でも、問題は起こ・・・すわけないか。

じゃあまず教員試験を取らなきゃだから・・・」

ライタ「あ、大丈夫です。軍にいる間に取りました。見学接客担当者には

必ず必要だったから」

フラット「・・・時々敬語が出ちゃうね。気をつけてよ。相手は子供だから

適度に敬語を使うぐらいじゃないと」

ライタ「き、気をつける」

フラット「じゃ、この話はおしまい!食堂行こっか!」

ライタ「あ、ちょっとは待ってくれても-」

フラット「友達は待ってなんて聞かないよ~だ!」

ライタ「ムゥ・・・普通って難しい・・・」


食堂-

フラット「っと、もうすぐライタも来るよ」

クレア「一緒じゃないんだな」

フラット「いやぁ、からかったら鵜呑みにしちゃってさ?」

ユーリック「これこれ、可哀想とか思わないわけ?」

スラリア「でも、フラットがからかうなんて珍しいね」

フラット「そうかな・・・ちょっと子供に戻った感じだったけどね」

ライタ「あ、いた!友達って待ってくれないものなのか?」

グリオ「・・・フラット、そういう関係は友達は友達でも昔からの

付き合いのやつだけだ、なったばっかのやつには-」

ベングル「いいんじゃねぇの?普通の友達関係なんてそんなもんだろ」

ユーリック「人それぞれだけどね。フラットが置いてくとは

思いもしなかったけどさ」

フラット「えっ?置いてってはないよ。絶対ついてくるって

思ってたし。あっ、忘れる前に・・・はい!みんな、ライタ中心に

集まって!いつものアレ、やんなきゃね!」

クレア「そういやすっかり忘れてたな。よし、やろう!」

スラリア「じゃあライタさん中心に・・・こう?」

ライタを挟むように、全員が並んだ。

フラット「そうなると、僕がここかな」

カメラをタイマーモードにして、フラットはライタの後ろに回り、

肩に手を置いた。

ライタ「フ、フラット?」

フラット「じゃ、いくよ!勝利のVサイン-」

全員「キメっ!」

全員が笑顔を咲かせてVサインを送る写真が撮れた。ただ1人、

ライタだけはポーズも笑顔もなく戸惑った表情だった。

クレア「やっぱ置いてってんじゃねぇか」

フラット「ううん、これでいいの。ライタなりの普通が撮れたわけだしね」

スラリア「そういうことか!でもさ、これはちょっと・・・」

フラット「ううん、これは飾らないよ。帰ったらまた撮ろ。こっちはあくまで

ライタにあげるやつだからさ。じゃあ・・・はい!何か一言書いてね。

これが僕達なりのルールだし」

ライタ「一言・・・もう決まってます」

迷うことなくライタは柔らかい表情を見せながら文字を書いていく。

フラット「じゃあ今のうちに・・・セーの!」

全員「ライタ、ハッピーバースデー!」

ライタ「えっ⁉︎」

あまりに急な祝いの声に、ライタは振り向いた。

フラット「ビックリした?今日がちょうどライタの誕生日って知って、

みんなで復興がてらケーキ屋行ってたんだよね。ライタの好みが

分かんなかったからこの前ケーキバイキングで食べてたのと同じやつ

買ったんだけど・・・流石に多かったかな?」

ライタ「・・・俺の・・・誕生日会?」

クレア「じゃなかったら誰の誕生日会だっての。いいから早く席つけ。

折角買ったケーキが台無しになっちまう」

ライタ「・・・っ!」

フラット「あれ、何か嫌だった⁉︎ごめん、不満とかあるなら-」

ライタ「ありがとう!」

フラット「・・・えっ?ありがとうって・・・」

ライタ「俺・・・誕生日とか祝われたことなくて・・・ずっと夢だったから・・・!」

スラリア「・・・じゃあさ、生まれて初めてのバースデーパーティー、

盛大に楽しもうよ!」

クレア「じゃあ早速、異変解決とライタの誕生日祝いに!」

全員はワインの入ったグラスを掲げた。

フラット「ライタ、合図は任せたよ!」

ライタ「そ、それじゃあ・・・乾杯!」

全員「カンパーイ!」

ベングル「ん・・・?何だよ、ノンアルコールか」

フラット「流石にね。明日は姉ちゃんも帰ってくるし酔っ払ってるわけにも

いかないからね」

クレア「でもよ・・・俺達は何と戦ってるんだ?神獣に人工アリジゴクに・・・

前みたいに敵の正体が分かってればいいんだけどよ」

「たしかにね。でも1人は味方になりそうだけど」

フラット「・・・お帰り。ライブはどうだった?」

その会話を聞いていたかのように、フラットも後ろからシャンが話しかけた。

シャン「大盛況だったよ。疲れたけどね」

スラリア「でも、その1人って?」

シャン「管理者。あの男は敵ではないのはたしか」

フラット「えっ、でもあっちの僕を殺したって!」

シャン「違うと思うな。殺したんじゃなくて利用してる。新たな計画のためにね」

ベングル「新たな計画って何だ⁈」

シャン「人工アリジゴクを抹消させないための作戦。あの男が

それを望む理由までは分からないけどね」

グリオ「何でそう思ったんですか?」

シャン「あの男が自分の目的を赤裸々にするはずがないから。

前だってフラットをわざわざダシにして自分の作戦を遂行しようとした。

自分から動くわけがない」

スラリア「じゃあ・・・本当に・・・」

クレア「だったらマジで敵は何なんだ⁉︎神獣が暴れた原因は

他にもあるはずだ!御伽噺を信じて実行するほどラッシュってやつは

頭がイってたのか⁉︎」

ライタ「・・・俺の知る限り、ラッシュは御伽噺なんか信じるタイプじゃないかと」

フラット「あ、そういえば・・・ラッシュさんの部屋に日記帳みたいなノートが

あったような気がするけど・・・」

スラリア「いくらなんでも都合のいいようにはできてないよ。

でもあのヌエがアリジゴクのようになってたのは不思議だけどね・・・」

ユーリック「何でよ?パラレルスペース間を通ってれば分からないでしょ?」

スラリア「いや、神獣ってことは神力は少なからずあるはずでしょ?

だったらアリジゴクにはならずに神力の暴走を引き起こすはずだよ。

なのに・・・アリジゴクを取り込んでるってことは、あの泉に

アリジゴクがいたか、もしくは・・・魔粉をかけられたか」

フラット「魔粉が人工アリジゴクのもとなら・・・結局は人工アリジゴクが

僕達の敵になるわけだね」

ライタ「そうとも限らない。あの旅人は他の6人も俺達のことを

待っていると

言っていた。となるとまだ他の惑星にもこういった神獣や魔獣が

復活して暴れているかもしれない・・・」

シャン「そういうこと。あと3日で地球には帰るけど、早速調べてほしいの。

私が初めにここの御伽噺を見つけられたから良かったけど、中には

消された御伽噺だってあるからね。当たりはずれはあるけどしらみ潰しに

あたってみるしかないってわけ」

ユーリック「要するに、神獣と魔獣を倒せばいいわけ?」

シャン「違う。今度は味方にする。あのラッシュ君もスターちゃんがいれば

どうにかなるわけだしね」

ベングル「神獣魔獣を味方にか・・・難しそうだな」

グリオ「だが、その旅人が待ってる場所にいるとも限らない。

でも、退治したバケモノがどこにいたかは覚えているはず。探し出そう!」

フラット「・・・ていうかさ、誕生日会じゃなかったっけ?何で作戦会議みたいに

なってるんだ?今は楽しもうよ!」

クレア「お前はいっつもお気楽でいいよな。お前が隊長で良かったわ。

マジメで堅物なやつじゃこんな風にはなってなかったと思うしよ」

シャン「何言ってんの、フラットはマジメで天然なんだから」

フラット「姉ちゃん、フォローになってないから黙ってて」

シャン「も~!家族にだけは冷たいよね」

スラリア「なんかフラットってそういうとこ子供っぽいよね」

フラット「ちょっと!」

ライタ「無邪気なのは俺も子供っぽいと思った!」

フラット「ライタまで!もういいよ、ライタのケーキもーらい!」

ライタ「ちょ⁉︎」

フラット「それ!」

ライタが思わず大口を開けた瞬間に、フラットはショートケーキを

その口の中に入れた。

ライタ「っ⁉︎~~~!」

フラット「ぷっ・・・アッハハハハハハ!」

ライタ「プハァ~!テメッ、フラット!何しやがる!」

フラット「いやぁ、面白い!バトラーと同じだね、怒った時の口調!」

ライタ「そんなこと聞いてねぇから!」

フラット「・・・ライタ、気付かない?」

ライタ「えっ・・・?」

クレア「お前、何笑ってんだよ」

ライタ「わ、笑ってなんか・・・でも・・・こんな感情・・・初めてだ・・・

胸が温かくて、怒ってないのについ大声が・・・」

フラット「そっか。じゃあこの今がライタの幸せなんだね。

楽しいって感じること、悲しいって感じることは誰でもできて、

誰でも泣いたり、笑ったりする。でも、その笑顔が楽しいからってだけで

弾けるものじゃないし、涙だって悲しいだけで流れるものじゃない。

でも、胸の中が温かくなって弾ける笑顔、流れる涙は幸せの証だと思うな」

ライタ「幸せの証・・・これが・・・」

改めてライタは今を見渡した。そこには笑顔でいてくれる全員がいた。

軍人としてでしか生きられないと捨てていた#世界__きぼう__#が目の前に広がっていた。

スラリア「あれ、静かになっちゃった」

クレア「おーい?生きてるか~?」

ユーリック「いっそのこと眠らせる?」

シャン「やめなさい。まったく、これだから油断できない」

ベングル「そうだな。ん、じゃあ俺もケーキいっただき!」

グリオ「ベングル、そういうお前もな。何キウイ食べようとしてる?」

ベングル「ギクっ!」

グリオ「ちょうどいい、ゼウス様もいるわけだし、何か罰を与えてください」

シャン「減封」

ベングル「ちょ、それだけはなしで頼む!」

グリオ「社長直々の罰だ、取り消しは不可能に決まってるだろ?」

ライタ「ッハハ!ハッハハ!」

その光景にライタはようやく追い付けた。自分には追いつけないと

思っていた普通の世界。それが今、追いつけたと実感できた。

フラット「・・・じゃあ、ライタ!もう一回写真撮ろっか!こっちをデ・ロワーに

飾るからちゃんと笑顔でポーズ決めてよ!」

テーブルが中心になるようにフラットはカメラを置いた。

フラット「じゃあいっくよ~!1+1は?」

全員「にっ!」

全員が色々なポーズを決めながらも、ライタはフラットの肩に手をまわし、

共にVサインを送っていた。2人とも輝かしい笑顔で-


一方その頃、デ・ロワー・ファイター課オフィス-

ペーター「シャンからもらった情報だよ。あぁ、そうだ。やはりアレが

必要らしいね。早速探してもらいたい。アイツらの力だけじゃ、

まだ足りないからね」

オフィスの中で1人、ペーターは誰かと電話していた。満月を見上げながら。

ペーター「・・・『あの日』もこんな満月だったな。覚えているか?」

電話相手「あぁ、覚えているとも。それより、アレなら既に

見つかっている。ただ、そっちに持っていくのは難しそうだな。

厳重に保管されてる」

ペーター「いつでもいい、タイミングがあれば頼む。もし何かあれば

俺が責任を取っておくよ」

電話相手「絶対だからな。じゃあ切るぞ」

ペーター「あぁ、気をつけてくれ」

ペーターはそこで通信を切った。窓の外には1匹のアゲハ蝶が

月光を浴びながら飛んでいた。

ペーター「・・・キアゲハか。カナリアが好きだったなぁ」

カナリアとはフラットの義理の母親である。

ペーター「カナリア、だんだんあの時に近づきつつあるよ。でも、フラット君は

君と同じ結末を歩まないようにする。約束だ」

唇を噛み締めながら、ペーターは写真に写る笑顔のカナリアにそう誓った。

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