第25話 3節 胡蝶の夢

3日目-

フラット「おはよ~」

ライタ「おはよう・・・・・・フラットさん」

フラット「うーん・・・まだまだだね。まあ今日は異変が起こることを

考慮して、この辺で何か楽しめる場所はないかな?」

クレア「だったらよ、ここなんてどうだ?バーデル星屈指の

アミューズメントパーク!」

フラット「あ、いいね!じゃあ今日は一日中遊ぼっか!」

ライタ「はい!じゃなかった、うん!」

クレア「まあまずは・・・」

ベングル「ガァー・・・ゴォー・・・グガァー」

フラット「本当にうるさいいびきだよ。これは起こしてもうるさそうだから・・・

クレア、たしか昨日八百屋でレモンみたいなの買ってなかった?

あれ一つ貰ってもいい?」

クレア「あぁ、あれか。いいぞ」

フラット「ありがと」

クレアの許可を貰い、部屋にある冷蔵庫の野菜室に入っている

ポリ袋の中からフラットはレモンを取り出し、半分に切って

ベングルのもとへ持っていった。

フラット「こんなに大きく口なんか開けちゃって。ベングルが

大の酸味嫌いなのは有名だからね・・・ギューっと!」

フラットはレモンを思い切り握りしめて、大きく開いたベングルの口の中に

レモンの果汁がボタボタと垂れた。それとほぼ同時に-

ベングル「ドワッヘ⁉︎カァッ!何じゃこりゃあ⁉︎」

フラット「アッハハハハハ!テレビで見るのとおんなじリアクション!

わざとじゃなかったんだ!」

ベングル「フラット~っ!お前か⁉︎」

フラット「あ、ヤッベ」

クレア「ドンマイ、この部屋窓もベランダもねぇぞ」

フラット「あはは~・・・さぁてと。これは・・・詰んだね」

ベングル「これか・・・」

さっきフラットが切り落として残った半分のレモンをベングルは

手にしてフラットのもとに行った。

フラット「え~っと・・・ここで神器を使うのもまずいし・・・

まあいっか!」

ベングル「そうら喰らえ!」

フラット「いっただき!」

ベングルの手に握られていたレモンにフラットはかぶりついた。

クレア「はぁ⁉︎」

フラット「よっし、もらうね!ありがと!」

クレア「おいおい、酸っぱくねぇのか?」

フラット「酸っぱいけど?」

クレア「いやいや、そうじゃなくて!レモン丸齧りなんかしたら

そんな普通じゃいられないだろ普通⁉︎」

フラット「そっかな?」

ベングル「お前・・・舌医者に診てもらえ。ぜってぇ味覚障害って

言われるだろうけどな」

フラット「んなことないよ、普通に決まってるもん!」

ライタ「おい、お前ら騒がしいぞ!」

ラッシュ「全く、隣まで丸聞こえだよ」

フラット「あれ⁉︎2人は骨董屋で寝泊まりするんじゃないの⁈」

ラッシュ「パレードに参加してたお客さんが騒ぎに騒いで眠ろうにも

眠れなかったんです」

クレア「祭りあるあるだな・・・まっ、飯にしようや。今日も

異変が起きるかもだしよ」

ベングル「腹が減っては戦はできぬとも言うしな!」

フラット「そうだね・・・ふわぁ~」

大きなあくびをしながら、フラットは窓の外を見た。そこには祭りを楽しむ人で

溢れかえった商店街の姿がハッキリと写っていた。

クレア「今日も賑やかだなぁ・・・フラット?」

フラット「・・・僕が最後に事件を起こしたのも商店街だったなって

思い出してさ・・・」

クレア「・・・へっ、らしくねぇな。お前は振り向かねぇって決めたんだろ。

だったらよ、もういいじゃねぇか」

フラット「・・・うん。じゃあ朝食に行こっか!」

ラッシュ「ちょ、待ってくださいよ!」

フラットは全員を置いていくぐらいの大きな歩幅と足取りで

食堂に向かっていった。


食堂-

スラリア「あ、来た来た。おはよ~、みんな!」

フラット「おはよう、朝から元気だね」

スラリア「だって新しい服だもん!ねぇ、どうかな?」

クレア「あ、あぁ!よく似合ってる-」

フラット「うーんとね、スラリアはフリルがあった方がいいと思うよ。

それと赤は・・・ちょっとね」

クレア「お、おい!何本当のこと言ってんだ⁈」

シャン「そう言うってことはクレア君もそう思ってたんだ」

クレア「ぐっ・・・」

フラット「姉ちゃんはお世辞とかの嘘にも厳しいからね?」

クレア「お前以上じゃねぇか!」

ベングル「それより飯だ飯!ほれ、持ってきてやったからよ!」

フラット「あ、ありがとう!」

クレア「サンキュ、お前の盛り方はバランス的で助かる」

ベングルの持ってきたプレートは、クレアの言った通り、野菜、肉、米と

栄養バランスのとれた朝食だった。

フラット「本当、バトラーとかエドとは大違いだね」

ラッシュ「それと、あの森に行くと言うなら私も行っていいですか?」

フラット「えっ・・・い、良いんじゃない?ラッシュさんもファイターなんでしょ?」

ラッシュ「あぁ・・・そうだな」

ライタ「・・・ラッシュ?」

ラッシュ「何でもないよ、ライタ」

ユーリック「あ、クレア!それはブドウタルトでしょ!アンタは食べちゃ

ダメでしょうに!」

クレア「あっ、返せこの!」

ユーリック「ダメったらダメ!全く、油断も隙もないんだから」

シャン「なんか、お姉ちゃんじゃなくてお母さんだよね」

ユーリック「うるさいな・・・あたしの勝手でしょ」

スラリア「似合わない・・・か」

フラット「あ、いや似合わないじゃなくてその・・・なんか違うんだよね。

似合ってはいるんだけど、足りないっていうか・・・」

グリオ「何の話してるんだ?というか、何で私がお手洗い行ってる間に

私の分のプレートが用意されてんだ?」

ベングル「俺が用意しといたぞ。お前の好きなのもちゃんと選んである!

ほらよ、どら焼きだ!」

グリオ「なっ・・・しょうがない、許す」

フラット「えっ、グリオさんってどら焼き好きなんだ・・・ちょっと意外・・・」

スラリア「ね。いっつもブラックコーヒーとかビターチョコとか

口にしてるのに・・・」

グリオ「ベングル!やっぱり罰だ!」

ベングル「な、何でだよ⁉︎」

ライタ「ハッハハ、賑やかですね・・・俺・・・笑ってた?」

ラッシュ「あぁ、思いっきりな!懐かしいな、お前の笑い声聞くのも」

ライタ「・・・そうかも・・・嬉しいような・・・切ないような・・・変な感じだ」

スラリア「それってさ、変わろうとしてるってことじゃないかな?」

ベングル「その通りだな!人は誰だってそう!俺だってそうだったしな!」

グリオ「ベングル、まだ話は-」

ベングル「だからよ、その感覚を-イデデデ!」

グリオは説教を聞かずに話を続けるベングルの耳を思い切り引っ張った。

シャン「うっわ~・・・痛そ」

ユーリック「あ、そろそろ時間だ。シャン、あたし達もライブの方に

行かないと。行きましょうか」

クレア「あ、おい!返せっての!」

ユーリック「異変解決したら買ってあげる」

クレア「ちっ、こうなったら何が何でも解決してやる!」

フラット「ちょ、クレア!朝食は⁉︎」

なんと朝食中にも関わらず、クレアは1人で外に飛び出していった。

スラリア「あ~あ、行っちゃったか。ベングルさん、悪いですけど

このプレートは片付けてもらっても良いですか?」

ベングル「しょうがねぇなぁ。アイツには朝食はとるように

言っといてくれよ」

フラット「分かってるよ。じゃ、僕達も食べ終わったら行こうか」

スラリア「そうだね!」

ライタ「俺も行く!」

ラッシュ「私も行かせてもらいます。あの森で何かが起きっているのなら

私が黙っているわけにはいきませんから!」

フラット「・・・そっか・・・」

スラリア「?どうしたの?」

フラット「う、ううん!何でもない!」

スラリア「そう?なんか少し変だけど・・・気にしすぎかな?」

フラット「そうだよ、ちょっと気を張りすぎなだけだって」

ライタ「口じゃなくて箸を進めてほしいが・・・」

フラット「あ、それもそうだね。食べよっか」


30分後-

フラット「いたいた。クレア、情報あった?」

クレア「何もねぇよ。本当に今日起きるのか?」

スラリア「起きるよ。だってもう・・・あの時と同じことが起き始めてるからね」

フラット「えっ・・・本当だ、また風が・・・」

クレア「おい、ユーリックはライブ会場だぞ⁉︎」

「あたしがどうかした?」

クレア「なっ、いたのか⁉︎」

ユーリック「あくまであたしはシャンをタクシーに乗せただけで

あたしは残ったんだけど?」

フラット「じゃあ早速昨日言った作戦を実行!」

ユーリック「了解、お任せあれ。あたしに夢で勝つなんて無策行為、

やるだけ無駄ってこと教えてあげようか!」

風の中に紛れ込んだ魂の群れに、ユーリックは一つの夢となって

入り込んだ。

フラット「これで何が起きてるか把握できる・・・!」

その時、フラットの耳と目に変な違和感を自分で感じた。それこそ『異変』の

正体とも気づかずに。

ケーベス「テメェ・・・!」

フラット「えっ、ケーベス・・・⁉︎」

スラリア「な、何⁈ケーベスがいるわけ-」

クレア「スラ、こっち来い!」

スラリア「えっ⁉︎」

クレア「いいから来い!」

スラリア「う、うん・・・?」

クレアは咄嗟に気がついた。今のフラットは魔力を跳ね返せていないと。

スラリア「な、何がどうなってるの⁈」

クレア「いいか、よく聞け。今のフラットは負に偏ってる状態だ。

こういうことか、シャンの言ってたことは。まっ、暴れるような心配は

ないが・・・こりゃまずいな」

フラット「うわっ!どうしたの⁈」

幻影「どうしたもこうしたも、お前が仕掛けた勝負だ!コータスとメダイを

傷つけたこと・・・俺が仕返ししてやんよ!」

フラット「ちょっ!神業・滑空!」

思わずフラットは神力を使って空に舞い上がった。

幻影「この商店街はな・・・俺達を認めてくれたんだ!そんな大切な場所を

壊したお前を・・・許すわけにはいかねぇんだよ!」

フラット「!」

その言葉で完全にフラットの心は負に偏ってしまった。視界に見えたのは

瓦礫と化した商店街。それはフラットが最後に起こした事件の景色であった。

フラット「・・・そっか・・・ッハハ・・・」

乾いた笑い声と共にフラットはストンと跪いた。

スラリア「フラット⁉︎」

クレア「どうなってんだ?あんな風になっちまうもんなのか⁈」

ベングル「お前ら、気をつけろ!何かいるぞ!」

グリオ「あれは・・・?」

風の中からモヤのような何かが姿を見せた。それは次第に人型の何かに

変わってゆくも、フラット以外にはそれが何か分からなかった。

フラット「あっ・・・」

モヤ「こっちだ、フラット。こっちに来い。俺についてくれば

もう何も心配いらねぇぞ」

フラット「・・・うん、そうだよね・・・『バトラー』がいれば何も

心配いらないよね!」

そのモヤについていくようにフラットは歩き始める。

クレア「なっ、おいフラット!」

スラリア「行かないと!」

フラットを追いかけようとする2人。しかしそれを遮りように

強い風が、いや沢山の魂が2人を押さえつけた。

クレア「なっ、くそ!何なんだ!」

スラリア「こうなったら・・・クレア、耳塞いで!神業・ソウルブレイク!」

いつもよりも神力を倍以上使ってスラリアは轟音をかき鳴らした。

その音が魂の力を抑えて2人を解放した。

スラリア「今だよ!」

クレア「おう・・・!」

しかし、もうどこにもフラットに姿はなかった。

クレア「・・・おいおい・・・マジかよ」

スラリア「・・・フラット・・・」

ライタ「だ、大丈夫ですか⁉︎」

クレア「・・・クッソ!」

スラリア「まだ大丈夫だよ!ラッシュさんは⁈」

ライタ「そういえば・・・ラッシュいないな・・・」

クレア「・・・おい待て。最初に異変が起きた時、ラッシュいたか?」

ライタ「・・・見ましたけど、急に来た感じでした」

スラリア「あたしも・・・見たけど、起きた時には。急に戦闘に

飛び出してきた感じだったから・・・」

クレア「まさか・・・!」

ユーリック「大正解、流石はクレア。でも気付いたのが遅すぎたね。

アイツの狙いは元からフラットだけだったみたいだし」

スラリア「えぇ⁉︎でも初対面じゃ-」

ユーリック「そうじゃないみたいだよ。アイツの家族、フラットに

殺されてるみたいだし」

ライタ「えっ⁉︎でもラッシュは強盗のせいだって!」

ユーリック「誤魔化してただけ。自分を偽ってるだけに決まってる・・・

違う、あたしと同じ。アイツを動かしてるのはアイツじゃない。

もう1人のラッシュだ」

クレア「なっ・・・アイツ二重人格ってことか⁉︎」

スラリア「そんな・・・」

ユーリック「しかも、厄介なことに本当のラッシュがフラットを

殺そうとしてるってとこだ。このままだと魂のないラッシュの心だけが

助かるっていうバッドエンドになるね」

スラリア「スターちゃんがいれば・・・どうにでもできるのに・・・」

ライタ「とにかくフラットさんもラッシュもいない今、ファイターである俺達が

死の森に行くしかないです!」

スラリア「そうだね・・・フラット・・・だから朝、あんな感じに・・・」

ユーリック「負とは、悪意や恨みの他に不安や自責の念なんてものもある。

フラットにとっては不安と自責なんてすぐに膨らむものだしね」

クレア「・・・なら俺達も引っかかる可能性があるってことか」

スラリア「そうだね・・・でもやるしかないんだよ!」

クレア「あぁ、行くぞ!」

ライタ「アイツには・・・笑っててほしい!」

ユーリック「全く、シャンがあんなフラグ建てるから・・・しょうがない、

あたしも行くか。クレアじゃ頼りないでしょ?」

クレア「ユーリック!今は冗談言ってる場合じゃねぇだろ!」

ユーリック「クレア・・・本当、フラットとなると本気の目になるね」

クレア「・・・俺はな・・・アイツがいなきゃ何にもできねぇんだ・・・

スラだってそうだろ!」

スラリア「そ、そうだけど・・・聞かないでよそんなこと!」

クレア「あ、あぁ・・・すまん」

ベングル「お前ら、早くしろ!」

クレア「おっと・・・隊長代理はベングルに任せた!」

ベングル「おうよ!グリオのやつはとっくに向かったぞ!」

スラリア「えぇ⁉︎神力もないのに⁉︎」

ライタ「せっかちなやつは隊に支障をきたすだけだぞ」

クレア「まっ、そこをフォローするのが仲間の役目だ!」

ユーリック「喋ってないで行くなら行く!早くしなさいよ!」

クレア「じゃ、行くぞ!」

全員「おーっ!」


死の森-

フラット「・・・待って・・・何か・・・忘れてる・・・なんだ?」

完全にモヤに操れているはずのフラットだったが、なぜか記憶を

取り戻しつつあった。

フラット「なんだ・・・思い出せ・・・!」

瞼をギュッと閉ざしたフラット。そしてその記憶の断片を思い出した。

僅か一瞬だったが、たしかに言った一言。それは-


ナックル「俺は-」

フラット「赤点-」


フラット「!何でバトラーがいるの?」

その一言でフラットは一気に我にかえった。

フラット「ど、どこここ⁈」

モヤ「ガゥ・・・グッ・・・!」

フラット「なっ、コイツ・・・まさか⁉︎」

既に辺りは霧に覆われていたせいでモヤの姿はよく見えず、フラットは

そのモヤをはっきりと視界に捉えることはできなかったが、

たしかに見覚えはあった。それは-

フラット「・・・ジャピール?」

モヤ「!ガァァ!」

その言葉を聞いた途端、モヤは暴れ出した。

フラット「ちょ・・・!」

その動きは到底人間にはできないものだった、首はグルグルと回り、

両腕とも肘から先があり得ない方向に行ったり来たりを繰り返す。

挙句の果てには背中からいくつもの触手らしき影が見えた。

フラット「まさか・・・人工アリジゴク⁉︎こんなとこじゃ中継も

できっこない!逃げたもの勝ちか!神業・飛翔!」

危険を感じ、フラットはその場から飛んで離脱した。


一方その頃-

クレア「こっちか・・・にしても濃い霧だな・・・」

スラリア「うん・・・でもやっぱり凄い変・・・まるで冥界にいるみたい。

あっちこっちに魂があるよ」

ベングル「嬢ちゃんスゲェな。こんな霧の中でも魂見えんのか」

スラリア「うん、死神だしね・・・でもこんな数集まってるって・・・

あたし達大丈夫かな?」

クレア「な~に、いざとなれば俺の術がある。任せときな!」

ライタ「ん・・・あれ、グリオさん?」

ベングル「お?いたいた、グリオ!」

グリオ「やっと来たか。ゆっくり歩いてたのに遅かったな」

ベングル「お前のゆっくりはゆっくりしてねぇんだよ!」

ユーリック「あたし達よりは遅いけどね」

クレア「そりゃそうだろ!」

グリオ「それより、この先でラッシュのやつを見失った。この辺に

いるのは間違いない。探そう」

ベングル「・・・この先は危険だ。離れるのはよそう」

クレア「そうだな。それにこの異変を終わらせねぇと風が俺の言う通りに

なりそうもねぇしな」

スラリア「じゃああたし達、この異変が終わるまでは帰れないかもってこと⁈」

ユーリック「あたしの術もこれだけの魂の中でうまく機能するかは

分からないから、もしかしたらそうなるかも」

ライタ「非常食なら俺が持ってます!」

グリオ「私も持ってきてる」

スラリア「そうじゃなくて・・・なら着替えてくれば良かった・・・

折角の新しい服なのに破れちゃう・・・」

ユーリック「まあ・・・そうだね」

クレア「とにかくシャンに言っとけ。ロケは中止とな」

ユーリック「大丈夫、ロケ自体嘘だからね」

スラリア「えっ・・・今なんて?」

ユーリック「だから、ロケは嘘だって」

クレア「な、何でそんな嘘つくんだよ!」

ユーリック「ドッキリ企画だったんだけど・・・それどころじゃなくなっちゃったし

バラしていいって許可もらったからさ」

スラリア「はぁ・・・じゃあとりあえず、休憩できる場所を探さないと!」

そう言いながらスラリアは前に進んだ。

クレア「だな。まっ、俺達が負に偏ることはねぇしな-?スラ?」

スラリア「どうかした?」

クレア「えっ、ん⁈どうなってんだ⁉︎」

何度も目をこするクレア。なんとクレアの視界の中には崖の下にもスラリアが

いたのである。しかも新しい服ではなく、いつもの格好をした。

クレア「・・・あぁ、そういうことか・・・お前、何者だ?」

スラリア「えっ?」

クレア「うまい具合に入れ替わったんだろ?とっとと着ぐるみ剥いで

正体見せろや!」

スラリア「キャッ⁉︎」

今前にいるスラリアは偽物と思い、クレアは神器でスラリアに向けて矢を射った。

スラリア「な、何するの⁉︎」

ベングル「おいおい、いきなりどうした⁉︎」

ライタ「!下がれ!」

咄嗟にライタが全員の前に出た。その瞬間、霧がクレアを包んでいく。

スラリア「⁉︎どういうこと⁉︎」

ユーリック「・・・なるほど。分かったかもしれない。みんな、今回の異変、

簡単には終わらないとだけは思っといて。どうやら敵はどんな手段を

使ってでもあたし達を捕らえたいらしい」

グリオ「・・・そういうことか。あれ・・・か」

崖の下を覗き込み、グリオはそう呟いた。そこにあったのは

いつもスラリアが着ていた服だった。

グリオ「神力幻想・・・どうやら本当にラッシュが犯人らしい」

ライタ「・・・俺しかいないってことか・・・」

スラリア「ライタさん・・・?」

ライタ「アイツの好きそうなとこなら俺が1番知ってます!

だからついてきてください!俺なら・・・ラッシュを止められる!」

ベングル「なら案内役は任せた!」

ライタ「はい!」


フラット「・・・ふぅ、まけたかな?さっき見えたのは間違いない・・・

あの日のことだ・・・まだ気にしてんだな、僕・・・でもあの日が

あったから今がある。そう思っていればいい!余計なことは

考えるな!」

そう自分に言い聞かせ、フラットは両手で両頬を叩いた。

フラット「よし!早いとこみんなのとこに戻らないと・・・?」

急に濃くなってきた霧にフラットは立ち止まった。

フラット「・・・この霧・・・あっ、クレア!」

クレア「・・・!」

フラット「良かった、来てくれたんだ。ありがとう、みんなのとこに-」

クレア「お前は違う!消えろ!」

フラット「うわっ!」

そう叫ぶとクレアは突風でフラットを吹き飛ばした。

フラット「クレア・・・?怒ってるならごめん!」

クレア「そんな演技で俺を誤魔化せると思ってるのか⁉︎」

フラット「まさか・・・この霧で⁉︎だったら!神業・束縛!」

クレア「ぐっ・・・こんな弱っちぃ神力じゃねぇよ!フラットのやつは!」

なんと昨日のヴァイス同様、簡単に術を解いてしまった。クレアの腕には

いくつもの内出血ができていた。

フラット「っ!まずい!」

クレア「待ちやがれ!本物のフラットはどこにやった⁈」

フラット「このままじゃ・・・!」

とりあえずフラットはクレアとの戦闘を避けるために飛んで逃げるも-

クレア「神業・風変化!」

風となったクレアに逃げられるわけもなくあっさりと捕まってしまった。

フラット「くっ!」

クレア「このぉ!」

暴走を続けるクレアはフラットの足に矢を突き刺す。

フラット「っ!クレア!」

クレア「気安く俺の名前を言うんじゃねぇ!偽物のくせに!」


ベングル「!血の匂い・・・!空だ!」

スラリア「空⁉︎だったら・・・フライトシューズ、出力上昇!」

フライトシューズの出力を上げてスラリアが木の頂上まで登った。

スラリア「⁉︎」

しかし時既に遅し。フラットの体には5本の矢が刺さっていた。

急所からは外れているも意識を保てているのが奇跡と言えるぐらいに

出血をしていた。

ベングル「どうした⁉︎」

スラリア「!そうだ・・・あたしがやんなきゃ!神業・ソウルブレイク!」

クレア「っ!ぐっ・・・ガァァァァァァ・・・」

その音にクレアの意識は遠のき、その口から一つの白いモヤが

飛び出した。

スラリア「!あれは・・・!」

フラット「よ・・・良かった・・・」

スラリア「あ、フラット⁉︎」

ライタ「ふっと!クレアさん、大丈夫ですか⁉︎」

スラリア「フラット!大丈夫⁈あたしの手、見えてる⁈」

ベングル「とにかく応急処置だ!」

ライタ「俺の鞄の中に!」

ベングル「仕方ねぇ、今日はここでキャンプだ!」

グリオ「仕方ないがそうするしかないか」

ユーリック「とりあえず全員集まれたのが幸いだね」


深夜-

フラット「・・・?」

パチパチと音をたてる焚き火の音でフラットは目を覚ました。

フラット「いてっ!」

ライタ「!起きましたか?」

フラット「ライタ・・・あ、そっか。クレアに・・・クレアは⁉︎」

ライタ「大丈夫です、今は寝ています」

フラット「そっか・・・ごめんね、僕のせいで迷惑かけて・・・」

ライタ「いえ!フラットさんが謝る必要はないです!」

フラット「・・・アッハハ!意識してないと忘れちゃう?」

ライタ「・・・あっ」

フラット「いつか馴れ馴れしく話し合えるように頑張ろっか」

ライタ「・・・はい。でもフラットさん、今は無理に体は動かさないこと!

これは絶対!」

フラット「う、うん・・・」

ライタ「明日、皆さんにお礼言っとくことも約束!」

フラット「分かってるよ。でもさ、ライタは何で起きてるの?」

ライタ「・・・少しでも力になれたらなと・・・」

フラット「そんな顔には見えないよ?」

ライタ「・・・やっぱり、フラットさんに嘘はつけないですね」

少し照れ笑いでライタはフラットに言った。

ライタ「・・・俺、フラットさんに憧れてるんです。俺の在り方を

教えてくれて・・・それでも決して胸を張らずに、強がりもしないで

ありのままでいられるフラットさんに。変ですよね、俺、男なのに・・・」

フラット「・・・プッ・・・アッハハハハ!本当、面白いよね、ライタって。

別にいいと思うよ?愛の形なんて人それぞれ。でもさ、ライタの感情は

恋愛じゃなくてただの憧れでしょ?」

ライタ「・・・自分には分からないんです。憧れでもあって・・・

ずっとそばにいてほしい存在でもあって・・・」

フラット「・・・な~んか、ライタがそういう感情を抱くのって本当不思議。

でも、別に構わないけどね。でも!あくまでベストフレンドってだけだよ!

流石にそういう関係は違うよ?」

ライタ「分かってます!俺は至って普通・・・普通なんですかね?

自分の気持ちすら上手く表現できない俺って・・・」

フラット「普通だと思うよ。みんな自分の気持ちなんかいちいち表現しないもん。

僕だって大体で表現するしね。自分の気持ちをピッタリ合わせるような

言葉なんて、きっとないんだよ」

ライタ「フラットさん・・・」

フラット「僕だって正直、ごめんねとか、ありがとうとかじゃ

足りないぐらいの思いを今抱えてるよ?でもね、やっぱりそれ以上の言葉が

見つかんないんだよね。誰だってそう、だから大袈裟に表現して

自分なりの言葉で表して伝える。それでいいんじゃないかな?」

ライタ「フラットさんって結構話し上手ですよね」

フラット「いきなり話変わったな。そう言うライタは話し下手だよ」

ライタ「うぐっ・・・こういう雑談、したことなくて・・・」

フラット「じゃあ今日は徹夜で雑談でもする?」

ライタ「そうしてくれると助かります!俺、フラットさんとは

もっと話したいって思ってたんです!」

フラット「そっか。じゃあ何でもいい?」

ライタ「はい!」

焚き火の小さな灯が2人を照らす中でフラット達は雑談を続けた。

2人の知っている世界を紡ぎ合わせていくかのように。霧で辺りが

全く見えなくても、2人の中に恐怖という概念はどこにもなかった。

ただただ2人の笑い声だけが時折森中に響いた。

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