第24話 最終節 君が君じゃなくても

地獄・最下牢-

アイン「・・・はい。たしかに」

赤雲「アイン、今の指示は絶対だ。いいな?」

アイン「了解です。私は赤雲様の指示に従うのみです」

赤雲「分かっているなら良い。では行ってくるがいい。お前の役目を果たしてこい!」

アイン「はい!パルカと共に行って参ります!」


浅草第一公園-

フラット「大変お待たせ致しました!これより、デ・ロワー主催の

特別イベント、『#蘇光__そこう__#祭』を開催致します!」

その放送と共に、観客席からは大きな拍手が鳴り響いた。その音と共に

垂れ幕が上がって、姿を現したのは-

ナックル「よーぅ!久しぶりだな!俺のこと、覚えてるだろ!」

観客「えぇっ⁉︎」

そのナックルの姿を見た全ての観客が目を見開き、そしてざわついた。

当然である。目の前のステージにいるのは死んだはずの者が

笑って立っているのだから。

ナックル「幽霊じゃないぜ!正真正銘のナックル・バトラーだ!

異世界線の、だけどな!それじゃ・・・いつもの声援くれるか⁈」

観客「・・・」

その質問に観客は沈黙に陥った。しかし-

「やるよ!」

「やりたい!」

「ナックラーの応援、またしたい!」

と言った声が次々と聞こえてきた。中には涙を流しながらそう叫ぶ人もいた。

ナックル「・・・それじゃあ・・・大きな声で頼むぜ!みんな、俺の名は⁈」

観客「真光之ナックラー‼︎」

ナックル「ありがとよ~っ!」

フラット「みんな~!今日は音楽ライブもやるから、最後まで楽しんでってね!

今日は一生で一回だけの蘇光祭だからね!思い切りはしゃいでって!」

観客「おーっ!」

フラット「じゃあ・・・いこうか!まずはファイトイベント!

ブルーコーナーは僕とエド、スラリアにクレア!」

ナックル「レッドコーナーは俺とフォール、ノールにスターだ!

大きな声で応援してくれよな!それじゃあ・・・オメェら!来い!」

全員「ファイターアプリ起動!レッツファイト!」

フラット「ハッハハ、結局それやるんだ。ブルーコーナー・・・って、

フォールはレッドでしょ⁈」

フォール「えっ・・・あ!ここブルーか⁉︎」

クレア「見て分かれよ!」

エド「早くするっすよ!」

フォール「す、すまん!」

フラット「天然だなぁ」

クレア「お前が言うなや!」

フラット「っとと、皆さんお待たせしました!それではこれより

ファイトイベント、開始!」

ノール「先手必勝!第一破壊『闇之』術・『闇夜行特急列車』!」

クレア「そんな術に俺達がやられるとでも⁈第一突風『零』術・『水切之旋風』!」

スター「へへ、兄ちゃんの風は単純だよ!スターの風に惑わされちゃえ!

第一突風『光』術・『燕返之烈風』!」

クレア「なっ⁉︎」

スターはクレアの術を見事に跳ね返した。

フラット「任せて!神業・執行!」

その矢をフラットの術が止めた。

クレア「す、すまん!」

フラット「大丈夫、集中して!」

エド「なら俺が時間を稼ぐっすよ!」

フラット「オッケー!じゃあ・・・バトラーをお願い!」

エド「了解っす!俺もナックラーさんともう一戦したかったんすよ!

さぁ、思い切りいくっすよ!」

ナックル「っ⁉︎よっと!」

エド「えっ?」

ナックルはエドの攻撃をかわした。そう、ただかわしただけ。

しかしエドにとってはそれがどれだけ不思議なものか分かっていた。

なぜなら、ナックルがいた頃のいつものイベントではエドの攻撃を

かわすことなく受け止めていたのだ。

ナックル「こえ~・・・」

ノール「・・・あぁ、そういうことか。バカ虎、エドは私に任せて

思い切り突っ込め」

ナックル「あ、あぁ!」

フラット「えっ、いいの?じゃあ・・・第一審判『炎』術・『永久黒炎結界』!」

ナックル「どわぁ⁉︎」

クレア「よしっ、今しかねぇな!第二突風『炎』術・『四方爆破之矢』!」

ノール「そうくるなら・・・神業・術破壊!」

クレア「ちぃ!」

エド「スキありっす!第一鉄拳-」

スター「ノール!第二突風『零』術・『ヒートバブルウィンド』!」

ノール「うぉっと・・・スター、ありがとう」

スター「じゃあ、いくよ!」

フラット「今しかないね、スラリア、よろしく!」

スラリア「うん!第一死奏『炎』術・『ドラゴダンザ』!」

フラット「・・・!じゃあ、エド!翼解放!」

エド「了解っす!今の俺なら・・・できるはずっす!正義之正翼!」

ノール「な、本当だったんだな・・・こうなれば!破壊之負翼!」

エド「まさかのノールとガチンコ勝負することになるなんて

想定外っすよ!」

ノール「バカ虎とお前じゃ勝負ができないとは分かってるからね。

だから私が代わりに」

エド「まぁ、楽しめれば何でもいいっすよ!」

フラット「じゃあ僕も・・・そろそろ前に出ようかな。支援力も

まだ全然残ってるし!」

スラリア「うん、行っちゃっていいよ。あたしは後方で援護、

クレアは後方から攻撃するから!」

フラット「任せるよ。じゃあ・・・審判之正負翼!」

フォール「おっと!へへっ、闇に紛れてたんだがな?」

フラット「やっぱりいた!じゃあ2人で久々にやりあおうか!」

フォール「今度は容赦しねぇぞ?」

フラット「こっちこそ!早速だけど仕掛けさせてもらうよ!

第二審判『零』術・『凍瀧之結界・波』!」

フォール「おっと!第一暗黒『木喰』術・『無数葉之影踏・無双』!」

スラリア「響け!神業・死魂浄化之ソナタ!」

フォール「何⁉︎」

スラリア「えへへ、あたしも翼は解放済みだよ。熱中しすぎは

油断に繋がるんだよ?」

フォール「・・・そうか、なら後ろにも気をつけな!」

スラリア「えっ⁉︎」

ノール「ふっ!第二破壊『炎』術・『バンフレイムクラッシュ・斬』!」

スラリア「キャァァァ!」

フラット「あちゃ、脱落か」

クレア「いいや?ったく、まだまだな」

スラリア「あ、あれ?」

クレア「なんとか間に合ったな。お前1人で飛び出すな、ったくよ」

スラリア「あ、ありがと・・・」

フォール「クッソ、流石はあの2人だ。コンビネーションバッチリで

全然攻撃が通じねぇや。でもよ、ノールが攻撃できるってことは?」

フラット「!エド⁉︎」

エド「す、すみませんっす・・・」

既にノールはエドを倒していた。

フォール「これで人数不利だな!たたみかけるぞ!」

フラット「じゃあそろそろ本気でいかせてもらうよ!

第三審判『光』術・『光裁‼︎洸一閃・彩』!」

フォール「ぐわっ⁉︎」

クレア「チャンス!第三突風『木喰』術・『忘却之枯葉風』!」

フォール「ちょ、マジかよ⁉︎」

逃げ場を失ったフォールはもろに攻撃を受けた。

フォール「ちっ、ここまでか・・・やっぱ敵わねぇって」

スター「ごめん、こっちも手一杯で!」

スラリア「神業・ソウルブレイク!」

スター「いやぁ!」

スラリア「クレア!今だよ!」

クレア「任せとけよ!吹き荒れろ、『突風之正翼』!さぁ、思いっきり!

最終突風『暴風』術・『デッドサイクロンカッター・絶』!」

スター「えぇ⁉︎」

クレアの起こした鮮血のような竜巻がスターを襲う。

フラット「これで人数有利だけど?」

ノール「本当にな・・・まあ、スラリアの方はどう?」

フラット「大丈夫だよ、スラリアにはまだ奥の手があるから」

ノール「奥の手・・・?まあいい!私が行く!」

スラリア「えっ・・・クレア、一緒にお願い!」

フラット「じゃあ僕は戦線離脱だね、神力提供!」

クレア「おっ・・・サンキュー!作戦通りいかせてもらうぞ!」

フラット「はぁ、はぁ・・・オッケー・・・じゃあ後は・・・指揮につくから

任せるよ。2人とも、ファイト!」

クレア「じゃあ頼む!」

スラリア「オッケー!神業・メロディマジック!」

ノール「なっ、音符⁉︎」

スラリア「今にうちに!最高のメロディを!『死奏之負翼』!」

ノールが幻術に惑わされてるうちに、スラリアは翼を解放した。

スラリア「じゃあ・・・いくよ・・・彷徨う魂にはメロディを!」

クレア「迷いし者には突風を!」

スラリア&クレア「その2つを今一つにまとめて!

最終合奏『路導』術・『正道奏之花嵐』!」

ノール「なっ⁉︎何これ⁉︎」

花びらを纏った風がノールを包み込み、そして綺麗な音色を奏でながら

ノールを吹き飛ばした。

クレア「ナイス!」

スラリア「やったね!でも・・・もう神力も残りわずかだね・・・あたしの神力を

託すから、最後はお願いね!」

クレア「オッケー!あとはすっとこどっこいだけだ!」

ナックル「そんな暇ねぇぞ!第一突進『光』術・『光纒タックル』!」

スラリア「えっ、ちょ-キャァァァ!」

クレア「スラ⁉︎くそっ!」

ナックル「先手必勝だぜ?」

クレア「マジかよ、俺の神力残ってねぇぞ・・・」

ナックル「これで決めるぜ!第二突進『光』術・『会心‼︎トライアタック』!」

クレア「こうなれば!神業・追風!」

ナックルに向かい風になるように追風をクレアは仕掛けた。

しかしその威力は衰えることはなかった。

クレア「おいおい、マジか!神業・風変化!」

残り少ない神力をクレアは躊躇なく使っていく。

クレア「ちょ、残り4%・・・神業も使えそうにねぇな・・・こりゃ降参だ」

フラット「そこまで!勝者、レッドコーナー!」

ナックル「っしゃあ!」

観客「ナックラー!ナックラー!」

ナックル「応援ありがとよ~っ!」

観客「ワー‼︎」

フラット「負けちゃったか。まあ仕方ない」

マイクの電源を切ってフラットはそう言った。そして電源を

入れようとした瞬間-

「聞け!地界の者よ!」

クレア「・・・?フラット、何言ってんだ?」

フラット「僕じゃないよ!電源入れてないし・・・」

スラリア「えっ・・・じゃあ誰?」

「我々は地獄よりきた者!この地は我らが主が支配することになった!」

ノール「・・・上か!」

フォール「・・・っ⁉︎おい、嘘だろ?」

アイン「・・・我々の作戦を円滑に進めるためにも、なるべく武力的な

手段での交渉は避けたい。速やかにこの条件を飲んでほしい」

フラット「アイン・・・?」

スラリア「ちょっと待って!地獄の支配可能領域に地界は含まれてない!

完全に条約違反だよ!」

アイン「ですから、今からこの地を支配領域にすると言ったのです」

フラット「支配って?あんまり良い風には聞こえないけど?」

アイン「特にはこの街を変える気はありません。ただファイターは

出て行ってもらいますが」

クレア「はぁ⁉︎」

ノール「出て行けってこと?」

スラリア「ちょっと⁈どういうこと⁉︎」

アイン「ファイターはもう不要!これだけです」

フォール「つまりはお前らがこの街を守るってことか?随分と意気揚々に

俺達を罵れるんだ、それだけ自信はあるんだろ?」

アイン「はい、自信はあります」

フォール「だったら俺は賛成だ。お前らも賛成しろよ」

エド「賛成って・・・何考えてるんすか⁉︎」

フラット「悪いけど僕も賛成」

ノール「えっ⁉︎」

フラット「デ・ロワー以外にも居場所はあるしね」

スター「あっ、そっか!」

クレア「四大グループがあったな!」

アイン「・・・言っておきますが、我々が支配するのはこの東京全域です」

ノール「全域⁉︎」

ナックル「んなの誰が認めるか⁉︎」

フラット「ふざけたこと言ってるなら、面白くないからやめた方がいいけど?」

アイン「いえ、これは赤雲様の決定事項です。つまり、お戯れであったとしても

人間には逆らいようがないのです」

スラリア「赤雲さんが⁉︎そんなこと言うわけないよ!」

アイン「あなた方では話になりません。地べたを這いつくすだけの

愚かな人間ども、貴様らはどう思う?」

スラリア「アイン・・・どうしちゃったの?」

「ふざけんな!」

「ファイターいてこその東京だ!」

「そんな状況なんか誰ものまねぇよ!」

アイン「・・・仕方ない・・・魔粉よ、空を割れ!」

なんとアインの手には魔粉があった。そして魔粉は空へたなびいて-

クレア「お、おい・・・あれ!」

空に大きな穴が空いた。

ノール「あれって・・・ゲート⁉︎」

あまりの驚きで辺りが静まりかえる中-

「ガァァァ!」

「ギィィィガァァァ!」

という、いくつもの咆哮が地上に響き渡った。

フラット「なっ・・・魔獣に・・・アリジゴク⁉︎」

ナックル「この数・・・あの時と同じ!」

エド「まさか・・・アイツが⁉︎」

フラット「ううん、今脅威を呼んだのは紛れもなくアイン・・・

管理者は関係してない」

クレア「じゃあ・・・アイツが父さんを!」

スラリア「違う!ブリーシュさんをあんな風にしたのは・・・」

事実を伝えようとしたスラリアだったが、伝えるべきなのか分からず、

踏みとどまってしまった。

スター「ママだよ!お兄ちゃんのパパをあんな風にしたの!

アインじゃない!」

クレア「なっ・・・母さんが?」

アイン「たしかに魔粉を使ったのはクレアの母親だ。でもな、

その魔粉を渡したのは他でもない僕だ」

スラリア「アイン・・・もうあたしの知ってるアインじゃないんだね・・・

人の命を大切に思ってたアインはもういないなら・・・今のアインなんか

もうどうだっていい!あたしの前から消えて!」

アイン「・・・これで良い。では、これで。帰るよ、お前達!」

その指示で空の穴から溢れ出した魔獣やアリジゴクはアインと共に

どこかへ消えて行った。

フラット「・・・結局・・・何だったの?」

フォール「さぁな。まあ俺達が出て行く必要は今のところなさそうとしか

分かることはねぇな」

ノール「そうだな。あの魔獣やらアリジゴクがファイターの代わりを

できるわけがない。というか、させるわけにはいかない」

スラリア「アイン・・・」

フラット「スラリア・・・」

スラリア「ねぇフラット!誰でも・・・時間が経てばあんな風に

変わっちゃうのかな・・・クレアのお母さんみたいにさ」

フラット「・・・バトラー、言ってあげてよ。僕に言ってくれた

あの言葉。覚えてるでしょ?」

ナックル「・・・?」

フラット「えっ・・・あっ、そっか。そっちの僕は悩まなかったんだね・・・

スラリア、これはバトラーの言葉だけど、言えるよ。変わってしまっても

変われない!ってね」

スラリア「変われない?」

フラット「そう。自分らしさ、癖、口調なんかまでは変われない。

でももっと変われないこと・・・それは誰かを想うこと。それだけは

やめられないし、変われない」

スラリア「本当?」

フラット「そうだよ。アインにとって大事な人は・・・赤雲らしいけど」

スラリア「それは・・・そうかも。いつもアインは赤雲様の側にいたし・・・」

クレア「でもよ、イベントはどうするよ?」

エド「お客さんに聞いてみるっすよ!」

フォール「だな。フラット頼-」

しかし、フォールが振り返った観客席には帰ろうとするお客さんで

いっぱいだった。

フラット「あれ・・・今日は終わりでいいですか~?」

「だってね~・・・ナックラーとは言っても、なんか違うし・・・」

「そうそう、なんか眩しくないというか・・・」

「心から熱くなれないのよ~」

フラット「そ、それは・・・」

「流れ者じゃ、こっちのナックラーの代わりにはなれないってことだよ」

「インパクトが強すぎてなぁ・・・」

「無能が有能演じてる感が拭えないんだよ。ナックラーを名乗るの、

やめたらどう?」

フォール「・・・コイツら・・・!」

ノール「落ち着いて。実際・・・正論だから」

フォール「分かってるけどよ・・・聞いてるこっちの身にもなれよな!」

フラット「え~・・・じゃあ今日の蘇光祭は終了にさせて-」

「全然目立ってなかったけどな!」

「蘇るどころか、死んだままでも良かったんじゃない?」

フラット「っ!」

クレア「おい、今は幕を下ろすことに集中しろ」

優しくクレアはフラットの肩を叩き、気持ちを落ち着かせた。

フラット「・・・ありがとう、クレア。では終了致します」

その合図でようやく幕が降りた。


楽屋-

ナックル「・・・ハァ」

クレア「あんな顔したアイツ、初めて見たぞ」

ノール「私も・・・」

フラット「ごめん!」

スラリア「えっ・・・何でフラットが謝るの⁈」

エド「誰も悪くないっすよ!」

フラット「違う・・・バトラーの輝きがあったのは・・・僕がバトラーに

素直でいれたから・・・多分・・・あっちの僕は強がってばっかで・・・

バトラーの眩しいほどの優しさと強さを引き出せなかった!

だから、ごめん!」

クレア「だからお前は悪くねぇよ。にしても、死んだままで良い・・・か。

あんな言葉、よく平然で言えるよな・・・」

ノール「・・・なんか腹の底が煮えくり返りそう。悪いけど私は

先に帰ってる。じゃあ」

クレア「・・・悪いけどよ、俺も今日は先に帰るわ」

スター「・・・うん、じゃあスターも帰る」

フォール「やってらんねぇし、俺は酒でも飲んでくるわ。今日だけは

許してくれよ、仕事終わりだしな」

フラット「うん、良いよ」

スラリア「あたしはそれ以前にもう・・・帰って良い?」

フラット「大丈夫。エドはどうする?」

エド「俺も・・・気分悪いので先に帰るっす。フラットはいつも通りっすね」

フラット「怒りを通り過ぎるとね。エドも気を付けて帰ってね」

エド「はいっす」

全員は次々と楽屋を後にしていった。

フラット「・・・バトラー。僕が今ここにいれるのは・・・他でもない

バトラーのおかげだよ。もしあの時会えてなかったら・・・あの言葉が、

あの温もりがなかったら、僕はもう消えてたと思う・・・笑顔の裏で

戦おうともせずに」

ナックル「フラット・・・」

フラット「だからね・・・今度は僕がバトラーに温もりをあげたい。

あの日言えなかった言葉を・・・忘れたくないから!」

ナックル「・・・」

今にも泣きそうな顔を必死に隠そうとするナックル。それを見たフラットは

また言葉を紡いでいく。

フラット「バトラー。泣いたって良いんでしょ?僕にそう教えてくれたのは

バトラーなんだから、その本人が我慢しないでよ。強がってちゃ、

何も始まんねぇ!・・・ちょっと恥ずかしいけどさ、バトラーは

そう言ってたよ?」

ナックル「・・・ッハハ・・・ガッハッハ!ったくよ・・・

どこまで優しくなっちまうんだよ、お前は」

笑い声で誤魔化してはいたものの、その頬はたしかに濡れていた。

フラット「・・・僕は分かってるから。僕の知ってるバトラーは

もうここにはいないって。でもね・・・だからバトラーって呼べるんだ!

もう2人きりの世界を夢見なくて良いって・・・今のみんなと一緒にいれる

未来だけを見据えられるって、信じれたから!」

ナックル「・・・そうか!」

フラット「だから今度こそ・・・この手は離さないよ。あの頃より

もっと輝かしい#日々__これから__#にしよう!」

ナックル「あぁ!約束だぜ!」

フラット「うん、約束!」

2人は昼下がりの光に照らされた楽屋用テントの中で指切りを交わした。


その夜、オフィスにて-

ペーター「そうか。アインが・・・魔粉を」

フラット「はい。今すぐ調査をお願いします!」

ペーター「いや、魔粉の正体こそ分かれど、生成場所はもうとっくに

なくなっているんだ。それに地獄に行くにはアインかパルカの力が

欲しいわけだ。無理なんだよ」

フラット「そう・・・ですか」

ペーター「でもね、対抗策はある。魔粉の呪いを終わらせるために

作られた神力拡張パーツ。これがあれば良いわけだが・・・」

フラット「それはどうやって⁉︎」

ペーター「君達の神器のレベルを上げなくてはいけない。できるかい?」

フラット「レベル・・・?」

ペーター「それに伴って翼も変わるけどね」

フラット「?」

ペーター「要するに、君達の神力に1番影響を与えてるものだよ」

フラット「まさか神力を進化させろってことですか⁉︎」

ペーター「そういうことだ。そのレベルにはまだ君達は到達していない。

到達すれば『#神火__しんぴ__#』を得られるはずなんだ」

フラット「神火・・・ですか。神話だと天使や神を導く火ですよね?」

ペーター「そうだ。その神火を手にするのは簡単だが、その後の

神器のレベルアップが難しいんだよ」

フラット「そうなんですか?」

ペーター「それにエド君の神力だって未知数だ、すぐには無理だろう」

フラット「まあ、対抗策があるのなら全然良いですよ。脅威大量発生の時は

ただただ倒す、だけでしたし」

ペーター「そうだね、あれに比べれば全然良い方か」

フラット「はい!じゃあ僕はこれで失礼します!」

ペーター「あぁ、ナックラーとエド君に囲まれた生活だけど

そんな元気そうなら大丈夫だね」

フラット「そりゃあもう!あの2人といると楽しいですもん!」

ペーター「凄いな。俺だったらヘトヘトだよ」

フラット「あの2人、かなりペーターさんを#揶揄__からか__#ってますもんね。

よいしょっと、じゃあここにあるお菓子貰ってきますね」

ペーター「あぁ、良いよ。気を付けて」

フラット「はい、ペーターさんも無理なさらないでください!」

ペーター「分かってるよ、ありがとう」

フラット「じゃあお先に失礼致します」

軽い会釈と笑顔でフラットはオフィスから出ていった。

ペーター「なんだかんだ言って、結局こうなるんだな、ナックラー。

あの時のお前じゃなくても、お前はお前だ。フラット君のことは任せたよ」


浅草大学寮-

フラット「ただいま~!お菓子あるけど食べたいの-」

ナックル「菓子だと⁉︎くれ!」

フラット「・・・あーげない!そんな乱暴な口聞くバトラーには

1週間野菜室のキウイ禁止の罰を与えようか」

ナックル「げっ、それは勘弁だぜ!」

フラット「じゃあもらう時には?」

ナックル「両手で受け取って、いただきますって言う・・・だろ⁈」

フラット「はいオッケー。じゃあキウイ禁止はなくすから、

お菓子はダメだよ」

ナックル「ちょ、頼む!腹減って死にそうなんだ!」

フラット「そんなワガママ言うと、晩御飯の茶碗蒸しも無しにするけど?」

ナックル「ング・・・フラットの茶碗蒸し・・・分かった、待つぜ」

フラット「それでよし。じゃあちょっと待っててね、パパっと

作っちゃうから」

エド「あっ、フラット!それお菓子っすか?」

フラット「エド、そうだよ。何食べたい?」

エド「じゃあ・・・プリン味のクッキーっす!」

フラット「はい、手洗った?」

エド「洗ったっすよ!」

フラット「じゃあ良いよ、茶碗蒸しだからバトラーとゲームでも

しながら待っててね」

エド「はーいっす!」

ナックル「じゃあ何やるよ?」

エド「そうっすね~・・・とか・・・」

だんだんと遠のいていく2人の声をフラットはただ玄関で靴を脱ぎながら

耳をすまして聞いていた。

フラット「やっぱり、バトラーじゃないな。でもバトラーっぽい。

なんか変なの。さてと・・・」

フラットは玄関横のナックルの写真を見て、少し微笑み、写真を

持ち上げて写真の中の笑顔を見つめた。

フラット「・・・あの頃には戻れないけど・・・あの頃以上の今を

生きていける。バトラーのおかげでそう信じられるよ。見守っててね、

僕の知らないどこかで」

それだけ言うと写真を元の位置に戻し、いつも通りの歩幅で

フラットはキッチンへと向かっていった。

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