第23話 最終節 感謝の形
5月23日ー
クレア「今日も来たぞー!」
ブリーシュ「お、来たか!」
クレア「入院は終わったんだろ?良かったな!」
スラリア「こんにちは、でも大丈夫ですか?リハビリ終わったのに
まだ運動するって・・・」
ブリーシュ「アッハハ、心配性だね~!」
スラリア「いや・・・そんなことは・・・」
クレア「親父、スラは褒められ慣れてねぇから、そんな言い方じゃ
勘違いしちまうよ」
ブリーシュ「あ、そうだったのか。悪かった、別に悪い意味じゃないよ!」
スラリア「はぁ、そうですか」
クレア「それより、もうユリの花もいい感じだな!」
スラリア「うん、キレイ!」
ブリーシュ「クレアが大事に世話してくれたからな」
クレア「俺はスターの花植えの手伝いしてるし、親父よりも
世話は得意だったりしてな!」
ブリーシュ「いや、あんなに栄養剤を刺す必要はなかったぞ」
スラリア「あれは枯れちゃうよ。あたしが気づいて抜いといたけど」
クレア「そうか?鉢植え一個あたりに5本じゃなかったか?」
ブリーシュ「花壇一個だ!あんなに小さな鉢植えに5本も刺したら
咲くものも咲かなくなるぞ」
スラリア「あ、もうこんな時間!クレア、外回り!」
クレア「あ、やっべ!それじゃあな!」
2人は慌てて病院から出て行った。
ブリーシュ「慌ただしいなぁ。ここんとこ毎日来てるが・・・」
?「・・・フッ、いい鴨はっけ~ん。じゃあ早速、種を蒔くか。
まあ、アレでいいか」
黒のモヤに包まれた何者かが、ブリーシュのユリに何かを蒔いた。
?「さぁて・・・悲劇の繰り返しだよ?君はどうするのかな、
クレア君?」
何者かは、そのままモヤに包まれて消えた。そしてー
ブリーシュ「よし、帰るか。おっと!忘れるとこだった、水やり!」
近くの水道を借りてブリーシュはユリに水を上げた。その瞬間、
黒い煙がブリーシュを包んだ。
ブリーシュ「うわっ⁉︎」
驚いてユリからブリーシュは目を#瞑__つむ__#って離れた。
目を開くとユリは普通で、黒い煙はなくなっていた。
リハビリ師「だ、大丈夫ですか⁉︎」
ブリーシュ「は、はい・・・?」
ジ・アフダンー
クレア「それでは、失礼しました!」
スラリア「書類の方、ご確認お願い致します!」
2人は頭を下げてジ・アフダンから出て行った。
タクマ「ちょ、おい待て!」
ヒナ「忘れ物~!」
スラリア「あ、ごめんなさい!あたしの・・・ってヒナちゃんか」
ヒナ「ハッハハ!敬語で話す必要ないよ~!」
タクマ「まだ営業の調子が抜けてないのか」
スラリア「へへへ・・・」
クレア「ん、あっと?」
ヒナ「クレアくーん?」
クレア「あぁ、すまん。今営業の調子から抜けてたとこだ」
タクマ「お前ら新人か?」
クレア「俺は初だが・・・スラは何度もー」
「ピロロロ!ピロロロ!」
クレア「?すまん、オフィスから」
電話がかかってきたため、クレアは会話を中断して通話許可を押した。出てきた立体映像にはスターが映ってー
スター「兄ちゃん!大変!」
という大声を上げた。あまりの大声だったために周りの人たちの視線が
一斉にクレア達の方に向けられた。
クレア「ちょ、声量落とせ!」
スター「いいから早く浅草総合病院行って!大変なの!」
クレア「・・・!親父になんかあったのか⁉︎」
スター「だから電話してるんでしょ!」
クレア「親父・・・スラ、行くぞ!」
スラリア「うん!ごめんね2人とも!」
タクマ「あぁ、家族が緊急事態なら早く行けよ!」
ヒナ「忘れ物は気をつけてね!じゃあ!」
クレアとスラリアは2人と離れ、急いで浅草総合病院へ行った。
病室ー
クレア「親父⁉︎」
医者「静かに」
クレア「・・・あの、何が?」
看護師「それが・・・原因不明なんです」
クレア「原因不明⁉︎おい、ちゃんと検査したのか⁉︎」
医者「はい。分かっているのは体温の変化が以上なこと、皮膚の色が
変色していること、爪が割れたところに以上なほど腫れた筋肉が
見られたことです」
クレア「何だよそれ・・・」
看護師「・・・あの、神話なので本当かどうかは定かじゃありませんが・・・
このような病気・・・というより現象があったんです」
医者「君、これは実際に起きてることだ」
看護師「ですがその神話に出てくる症状と全てが一致してるんです!
こんな偶然ありますか⁈」
医者「・・・すまない、続けてくれ」
看護師「その・・・この症状が出た人は突然アリジゴクになると・・・」
医者「・・・ハァ?君、大丈夫?アリジゴクがどうやって生まれるのか知ってる?」
看護師「もちろんです!でも神話にはそう書いてあったんです!」
クレア「・・・じゃあ親父が・・・アリジゴクに?」
医者「まあ、その話が本当なら治す方法とかも書いてあったんだろう?」
看護師「いえ・・・その話は、その病気にかかった人の血族が
その人を殺してアリジゴクになるのを防いだとしか・・・その時代じゃ、
神器を持ってるのは神だけですから」
医者「じゃあ・・・そうなると・・・」
医者と看護師の視線がクレアに定まった。
クレア「なっ・・・俺がやるのかよ⁉︎ふざけんな!アンタら医者だろ?
こういう状況なら安楽死が1番だろ!」
看護師「ダメです。血族以外の者が患者を殺したら、死体が
アリジゴクに変わると書いてありましたから!」
クレア「んなの神話だろ⁉︎どこまで真実か分からんだろうが!」
医者「なら・・・やってみますか?アリジゴクは人間の細胞に
酷似している。ただし皮膚にはタンパク質が何一つ含まれていない。
君、患者の皮膚の状態を数値化!」
看護師「はい!」
医者の指示で看護師は皮膚に含まれている成分を数値化する、
『スキンレーダー』を用意し、ブリーシュと繋いだ。
医者「よし、仮死状態まで上げるぞ」
脳に与える電気を徐々に上げていくとー
看護師「!ダメです!」
皮膚に含まれていたタンパク質が一気に減少していった。
医者「・・・ここまで真実なら・・・」
クレア「本当に・・・俺しかいないのか」
医者「猶予はあるのか?」
看護師「2週間ほど。ですが・・・だんだんアリジゴクに変わっていくんです」
クレア「・・・親父・・・!」
オフィスー
クレア「チクショウ!」
自分のデスクを怒りに任せてクレアは叩いた。
スラリア「クレア・・・」
フラット「・・・出た!その神話の話。あらすじだけど・・・?待って、これ・・・うん、
間違いない!この話、事実だよ!この神器、クレアのとそっくり!」
フラットが見つけたサイトには、その神話に出てくる神器の絵が
全て載っていた。そしてクレアの神器、『アーチュリティ』に
酷似している神器が描かれていた。
フラット「で・・・このアリジゴクは今で言う魔獣だね。絵は
たしかにアリジゴクっぽいけど・・・」
ノール「魔獣⁉︎でもあの人は天使のはず!」
フラット「詳細が書いてない・・・ちょっとこの『魔粉』について
調べてみる。ちょっと待って・・・」
フラットは必死になって神話の情報を集めた。
フラット「あった!神力を魔力に変える・・・⁉︎」
スラリア「な、何それ⁉︎」
フォール「どうしようもねぇな、そんな粉があったらよ」
クレア「じゃあその粉を撒いたやつがいるってわけか!」
フラット「うん。でもこれは水と混ぜないと意味はないって・・・」
スラリア「水って・・・まさか⁉︎」
クレア「許せねぇ・・・俺と親父の宝物をダシに使うたぁ・・・
俺を本気で怒らせたなぁ!」
ペーター「クレア、落ち着け。今は怒りで行動するな。気持ちは
分からないでもないけどさ」
クレア「・・・だな。くっそ・・・!」
スラリア「だから確定してたんだね」
ノール「確定って、お前は知ってたのか⁈」
スラリア「うん、クレアもね。病気か事故だと思ってて・・・ごめん」
フラット「確定ならしょうがないよ。でもあと何日なの?」
スラリア「・・・1週間」
ノール「1週間⁈その話だと2週間って⁉︎」
スラリア「神話だし昔の暦でしょ?数えが違うだけかも」
フォール「で、当のクレアはどうしたいんだ?」
クレア「1週間・・・もしかしたら俺が殺してる可能性もあるんだろ?」
スラリア「それはない!絶対ない!だってクレアはおじさんのこと、
家族って思ってるんでしょ⁈」
クレア「思ってるから考えてんだよ!意識のねぇ今のうちに
楽にしちまった方がいいんじゃねぇかってよ!でもよ・・・!」
フラット「・・・クレア、落ち着こ?分かるよ、魔獣なんかに
なったら、望んでもない殺戮を繰り返す。それよりは楽にさせた方が
幸せだしね。でも・・・嫌だね。家族を自分の手で・・・」
ノール「フラットもそうだったからな・・・気持ちは分かるだろ」
クレア「・・・フラット!俺はずっと、親父を殺したかった!
でもよ・・・もうどうすりゃいいんだ!」
フラット「・・・今のままでいいと思うよ」
クレア「・・・そう・・・だよな。そうなんだよな・・・!」
唇を血が流れるほど噛み締めながら、クレアは神力で風となり、
消えてしまった。
ノール「・・・なんて下衆なんだろう、敵は」
スラリア「こんなのあんまりだよ!やっと会えたのに・・・分かり合えたのに
結局はこうなるって!」
フォール「?待て。タイミングが良すぎないか?」
フラット「たしかに・・・良すぎる!」
エド「あの2人を理解できるのは、あの2人の昔を知らないと
できないっすよね⁉︎」
スラリア「・・・もしかして・・・⁉︎」
スター「ママ⁈」
ペーター「でもここ最近の関係は知らないはずじゃ?」
スラリア「いえ・・・実は看護師はずっと同じ人でした!」
スター「あの人から、懐かしい匂いがした!」
ペーター「・・・じゃあ・・・まさか?」
念のためにペーターは浅草総合病院に電話をかけた。
ペーター「もしもし・・・デ・ロワーのファイター課課長のペーターです・・・
あ、看護師の名前は?」
スラリア「下の名前ですけど、タユンです」
ペーター「看護師のタユンさんはいますか?・・・えっ、やめた⁉︎」
スター「やっぱり・・・ママだったんだ・・・でも何で?」
スラリア「恨んでたとしてもクレアは関係ないじゃん!母親としても
人間としても失格だよそんなの!」
フラット「とにかく今はクレアに委ねるしかないよ。それに、
神話だと魔獣になりかけた父親と会話できたみたいだしさ」
エド「一応は家族としていられるんすよね?」
フラット「そうみたい。神話だと皇位継承者らしいけど」
ノール「まあ家族でいられるなら、とりあえずはいいと思う」
スラリア「・・・良くはないけど・・・そうだね、クレアにしか
決断できないことだもん。あたし達じゃどうしようもないよ」
スター「・・・兄ちゃん・・・」
病室ー
クレア「親父・・・どっちにしても俺が手にかける・・・なんかねぇのかよ!」
ブリーシュ「ク・・・レア?」
クレア「親父⁉︎喋れるのか⁉︎」
ブリーシュ「何とかなる・・・何がどうなってるのかは・・・俺じゃ
理解できないが・・・」
クレア「・・・そうか」
ブリーシュ「正直、苦しい。息が・・・上手くできない」
クレア「・・・へ?」
明らかにブリーシュの胸は呼吸しているように見えた。しかし呼吸の音は
全く聞こえなかった。
クレア「・・・じゃあこれって・・・⁉︎」
迷うことなくクレアはブリーシュの胸元を確かめた。そしてそこに
あったものはー
クレア「っ⁉︎魔石・・・⁉︎」
魔獣を操るため、そして作り出すために必要な魔石が埋め込まれていた。
クレア「おいおい・・・いつの間に⁉︎」
ブリーシュ「・・・魔石?」
クレア「あっ、いや何でもねぇ。気にすんな」
ブリーシュ「隠さないでいい」
クレア「・・・出来ねぇよ!」
ブリーシュ「・・・何故だ?」
クレア「俺は・・・親父を殺さなきゃなんねぇ。でもよ・・・!
今更何なんだよ⁉︎何で今なんだよ!」
ブリーシュ「・・・どうして俺を殺すんだ?」
クレア「親父は・・・魔獣になっちまう。そんなの嫌に決まってる!
でも・・・何もできねぇんだよ!」
ブリーシュ「そうか・・・クレア。俺を殺していいぞ」
クレア「だから!嫌だと言ってるだろ⁉︎」
ブリーシュ「俺がまた変わって、人を殺すようになってもか?」
クレア「・・・1週間は親父も生きれるらしい。そこまでは一緒に
いてぇんだ!だってよ・・・俺の孤独を知ってくれて、俺の孤独を枯らしたのは
他でもない親父だからよ」
ブリーシュ「・・・クレア、こっちに来なさい」
優しい声でブリーシュはクレアを呼ぶ。その合図をクレアは
しっかり覚えていた。
クレアの幼い頃ー
ブリーシュ「クレア、こっちに来なさい」
クレア「俺悪くねぇし」
ブリーシュ「いいから来なさい」
クレア「・・・」
ブリーシュ「たしかにクレアは悪くないよ。でもね、口げんかに対して
暴力で対抗したのが悪いと言ってるんだ」
クレア「・・・分かってる、そんぐらい」
ブリーシュ「ならいいんだ。じゃあこっちに来なさい。夕ご飯は
何を食べたい?」
その言葉は、甘えていいという合図だった。
クレア「親父・・・!」
悲しみに堪えられず、クレアは子供のように泣きじゃくった。
恨んでいたはずのブリーシュの胸の中で、声を押し殺しながら。
込み上げてくる温もりがクレアの涙へ変わっていった。その全てを
ただ優しくブリーシュは抱きしめていた。
ブリーシュ「・・・ありがとうな、クレア」
クレア「親父!今日も来たぞ!ユリの花・・・枯れちまったな。
もう少し長生きしてほしかったが・・・まあいっか」
ブリーシュ「そうだな。それで・・・主治医はもう来ないって言ってたぞ」
クレア「・・・あぁ、知ってる。だからさっき殴ってきた」
ブリーシュ「なっ・・・」
クレア「ジョークだっての。でも喝は入れたさ。今は外見化物の
人間だってな」
ブリーシュ「・・・お前は相変わらずだな」
クレア「だろ?」
そんな他愛のない話をクレアとブリーシュは面会時間開始から
終了時間まで延々としていた。2人にあったはずの時間を埋めていくように。
そしてクレアは来る日も来る日もずっとブリーシュのもとに
生き続けた。やがて、『その日』が訪れた。
クレア「よっ!」
既に体のほとんどが魔獣のようになっていた。それでもクレアは
親しく接していた。
ブリーシュ「・・・クレア・・・」
クレア「やっぱ俺が殺すことはねぇな。親父のことは今じゃ
大好きだしな」
恥ずかしがることなくクレアはそう言った。ただその声は僅かながら
震えていた。
ブリーシュ「・・・そうか」
その2人の様子を隣のビルの屋上から覗くものがいた。
タユン「・・・作戦変更致します。あの男を懲らしめるためにもと
実行した作戦ですが・・・息子まで反抗するのなら!」
タユンは魔粉を一気に飲み込んだ。するとー
タユン「ぐっ⁉︎ぐっ・・・ガァ!」
心臓の脈がおかしくなりタユンを苦しめていった。そして一気に
体に全てが魔獣へと変わっていった。しかしその魔獣は今までと違い、
アリジゴクのような触手とオーラをまとっていた。
「ギャワン!」
大きな咆哮が町中に響いた。
クレア「な、何だあれ⁉︎」
デ・ロワー
ペーター「浅草総合病院付近で未確認脅威が出現!今すぐ出撃してくれ!」
フラット「了解、ノールとエドで行くよ!」
スラリア「待って!」
作戦実行合図を遮って、スラリアは声を上げた。
スラリア「・・・あたしも行く。だって・・・あたしもクレアのために
何かしたいから!」
フラット「スラリア・・・うん。ノール、エド、スラリアの3人で
出撃します!デ・ロワー、出撃!」
クレア「親父、こっちだ!」
ブリーシュ「・・・クレア。俺は置いていけ」
クレア「ハァ⁉︎何言ってんだ、危険だ!」
ブリーシュ「俺の力で・・・体がもう動かないんだ」
クレア「なっ・・・ったく、背負ってやる!」
少し乱暴ではあるものの、クレアはブリーシュを背負った。
魔獣になりかけの体はやはり重たいが、クレアにとっては軽く感じられた。
クレア「それじゃあ走るぞ!」
風神とはいえども、人を背負ってるとは思えない速さでクレアは
病院の出口を目指した。しかしー
魔獣「ギャオルシャ~ッ!」
天井を突き破って、魔獣がクレアの目の前に立ち塞がった。
その衝撃でクレアは吹っ飛ばされ気を失った。ブリーシュもまた壁に強く
打ち付けられ、身動きが取れなくなってしまった。
一方その頃ー
フラット「いた!降下!」
神業で空を飛び、フラット達は魔獣のもとへすぐに追いついた。
ノール「な・・・これが魔獣・・・?」
エド「アリジゴクみたいっすね・・・」
スラリア「・・・この魔獣・・・!」
魔獣の耳に付いていた物を見て、スラリアは魔獣の正体を見抜いてしまった。
スラリア「嘘・・・⁉︎あのピアス・・・タユンさんの!」
フラット「えぇ⁉︎じゃあ、あの魔獣って・・・」
ノール「クレアの母親・・・ってわけか」
エド「・・・家庭崩壊みたいっすね」
フラット「とりあえずこのことはクレアに内緒だよ!作戦開始!」
全員「了解!」
フラット「僕はクレアを探す!スラリアはサポートして、終わり次第
僕の方に来て!」
スラリア「分かった!いくよ・・・第一死奏『炎』術・『ドラゴダンザ』!」
ノール「よし・・・いける!」
エド「燃えてきたっすよ~!」
スラリア「じゃあ任せるよ!」
2人を残してスラリアはフラットを追いかけていった。
ノール「まずは神魔石を使うぞ」
エド「俺は早速本領発揮っすよ!『正義之人工正翼』、発動っす!」
クレア「ってて・・・?」
運良く魔獣とクレアの間に壁ができていた。
クレア「・・・そうだ、親父!」
振り向く先にブリーシュは横たわっていた。しかし胸にあった
魔魂石は既に強い紫色の光を放っていた。
クレア「・・・親父・・・!」
その瞬間にブリーシュの体は魔獣と化した。
ブリーシュ「ガァァァ!」
クレア「・・・やるしか・・・ねぇのかよ!」
そうクレアが嘆いた瞬間にー
ガッシャァァァン!
という音が魔獣を隔てていた扉から聞こえた。
フラット「この魔獣・・・この壁を壊そうとしてる?」
スラリア「来たよ!何見てるの⁈」
フラット「スラリア、この壁の奥にクレア達がいるよ」
スラリア「何でそう思うの?」
フラット「あの魔獣の狙いはブリーシュさん。クレアがそばにいるはず」
スラリア「でも近づいたらまずいって!」
フラット「分かってる・・・だからノール!」
ノール「任された!上手く当たれ!」
ノールの投げた神器は上手いこと壁に刺さった。そして爆発し、
魔獣の注意を逸らした。
ノール「よし!」
エド「今からはこっちの番っすよ!」
フラット「スラリア、いくよ!」
スラリア「うん!」
クレア「アイツら・・・来てくれたのか。でも・・・親父を置いてったら・・・!
クソ、親父!落ち着け!」
何とか風の力でブリーシュの猛攻を防いではいるものの、クレアの神力にも
限界が近づいていた。
クレア「頼む・・・親父とは・・・もっと話してぇことがあるんだ!
まだ聞いてほしい話も、話してほしいこともあるんだ!だから・・・
俺からこれ以上幸せを奪わないでくれ!」
その願いがクレアの神力を強めた。そして、魔魂石が外れた。
クレア「・・・取れた・・・!」
神力と衝突したために、魔魂石の力は失われるも、既にブリーシュは
魔獣となってしまったことに変わりはない。
クレア「・・・無駄な足掻きでもよ・・・山にはなるって親父言ったよな。
だったらよ・・・!」
クレアはブリーシュのもとへ近づいていった。何かを信じて。
クレア「親父!俺は・・・親父が大好きだ!これからもずっと
一緒にいてぇ!だからよ、思い出してくれ!俺はここにいる!
親父の側から離れたりしねぇから!」
魔獣「ガワルルル!」
ノール「なっ⁉︎」
フラット「クレア、危ない!」
そう叫んだクレアの声に魔獣は本来の目的を思い出し、クレアの方へと
一気に駆け出した。
クレア「っ!」
ブリーシュ「ギャルグ!」
クレア「・・・?」
その一瞬でブリーシュはクレアを魔獣の攻撃から庇った。しかし、魔獣の
尖った触手がブリーシュの腕を貫いていた。
クレア「親父・・・俺を・・・」
その思いを受け止めたクレアは、自分に対する怒りを覚えた。
クレア「何やってんだ俺は⁉︎親父を・・・こんな目に遭わせちまうなんてよ!
また守れねぇ!くっそ・・・俺は・・・大切なやつを守りてぇんだ!」
その願いがフラットの指揮者権限アプリに響いた。
アプリ「強力な願望を確認。バージョン『怒』を展開しますか?」
フラット「・・・このバージョン変更、久々だね。クレア!やれる⁈」
クレア「フラット・・・あぁ、俺はやってやる!俺はもう・・・
1人で泣かねぇって決めたんだ!」
フラット「いくよ、バージョン展開!」
展開認証ボタンが押されて、フラットの端末から発せられた
赤い光がクレアを包み込んだ。そしてー
クレア「・・・今なら言える。親父は俺にとってこれ以上にない
尊敬できるやつだ!絶対・・・消させたりはしない!」
いつもは緑のファイター装備が赤く染まり、熱風に包まれていた。
ノール「私達も続く!」
エド「もちろんっすよ!」
クレア「お前らは来るな!これは・・・俺と親父の戦いだ!邪魔するなら
例えお前らでも敵とみなす!」
ノール「なっ⁉︎」
スラリア「あたしからもお願い!今は・・・ね?」
ノール「分かった。ただし、危ないと思ったら動くから」
エド「そうっすね、そうさせてもらうっす」
クレア「・・・よし!行くぞ!第一突風『炎』術・『四方爆破之矢』!」
魔獣「ガギャ⁉︎」
クレア「まだまだ!俺の力、ナメんな!」
いつもなら一回の爆発が、何度も繰り返し起こった。
クレア「俺の家族に、これ以上好き勝手させるか!お前は俺に
やっちゃいけねぇことをした。俺の風に・・・圧倒されろ!
第二突風『霧之』術・『不可視之乱矢』!」
クレアの射った矢が風となり魔獣に次々と突き刺さる。
魔獣「ガァァァ⁉︎・・・グレ・・・アァァァァ!」
クレア「なっ、何で俺の名前⁈」
自分の名を呼びながら突進してきた魔獣にクレアは驚きのあまりに
動けなかった。
ノール「危なー」
ブリーシュ「ギャァァァァ⁉︎」
その場にいた全員がクレアの危機を感じた刹那、ブリーシュが
再び割って入り、今度は完全に腹をやられていた。
クレア「なっ・・・親父・・・?」
目の前の光景にクレアの頭は真っ白になった。
クレア「・・・親父、何か言えって!おい!」
しかし腹を貫かれたブリーシュは一言も発することはなく、
ピクリとも動かなかった。
クレア「・・・こんなの・・・あの時と同じじゃねぇか!調子に乗って
力使いすぎて暴走して・・・フルを失ったあん時と・・・同じじゃねぇか!」
その怒りがクレアの神力を更に高めていき、その力は既にクレアでは
扱いきれないものになっていた。そして暴風が吹き始めた。
フラット「うわっ⁉︎」
ノール「クレア、落ち着け!」
エド「このままじゃ・・・!ここら辺一帯が吹き飛ぶっす!」
スラリア「・・・そうだ!神業・ソウルブレイク!」
手に入れたばかりの神業をスラリア一か八かブリーシュにかけた。
他でもない、クレアのためだけに。その願いは何一つ欠けることなく
一つの輝きを生んだ。
クレア「・・・?」
その輝きはやがて、ブリーシュへと変わっていった。
クレア「親父・・・なんだよな?」
ブリーシュ「クレア。俺は・・・お前を愛している。事実以上に
存在しない、俺の大事な息子なんだ」
クレア「・・・親父・・・!」
ブリーシュ「こら、泣くな!もう俺は・・・お前の側に居られないんだ。
俺を心配させないでくれ」
クレア「・・・だな。俺も親父のこと、大好きだ!」
ブリーシュ「・・・本当にいい子に育ってくれたなぁ・・・!」
ギュッと抱きしめられたクレアは、ブリーシュから伝わる温もりに
思わず握り返していた。
ブリーシュ「・・・お前の手は本当に冷たいな」
そう言ったブリーシュはクレアの頭に手を置いて撫でた。
クレア「・・・親父だって・・・冷てぇよ、ハッハハ!」
ブリーシュ「・・・やっと笑ってくれたな」
そう言ったブリーシュの体は一気に薄れていく。
スラリア「えっ⁉︎」
ブリーシュ「俺はお前の笑顔さえ見れれば充分だ。クレア・・・
俺はいつまでもお前の父親だからな」
クレア「・・・あぁ!親父、ありがとな」
それだけ告げるとクレアはブリーシュから目を背けた。
スラリア「・・・まぁ、こういうのもアリかな」
気付けば暴風もおさまり始めていた。
クレア「・・・さて・・・親父、見ててくれよな!俺の風は・・・俺の思いは・・・
親父のいる場所に届けてみせるからよ!もう俺は・・・恐れねぇ!
吹き荒れろ、『突風之正翼』!孤独を抜けた今までを風に変えて!
最終突風『零』術・『涙運笑咲青嵐』!」
魔獣「ガグゥ⁉︎」
クレアの射った矢は段々と光を纏い、太く鋭くなっていった。
そしてその矢はまだ収まりきっていない暴風に押されることなくー
魔獣「ガァァァァァァァ・・・」
まっすぐ魔獣に突き刺さった。
クレア「・・・親父・・・」
振り返った先にはもう、ブリーシュの姿はなかった。あるのは
冷え切った魔獣の死体だけだった。
クレア「・・・さて、帰るか!」
フラット「ちょっと!アレ、忘れてるでしょ?」
スラリア「そうそう!やろ!」
ノール「結局私達がいた意味あったか?」
エド「まあ敵の注意を引くって役割は果たせたっすよ」
フラット「じゃあ中継カメラ止めていいよね?もう大丈夫でしょ?」
エド「そうっすね。便利っすよね、このカメラ」
フラット「だね。じゃあクレアとスラリアが中心ね!」
クレア「は、はぁ⁉︎」
スラリア「いいじゃん!映ろ!」
クレア「ったく・・・よし、いいぞ!」
フラット「じゃあ・・・いくよ!クレア合図!」
クレア「よっしゃ、任せとけ!勝利のVサインー」
全員「キメっ!」
肩を組むクレアとスラリアを中心にフラット達が囲む形で写真が撮られた。
フラット「じゃあ・・・帰ろっか!」
クレア「俺は・・・親父を少し焼いてからな」
スラリア「あたしも・・・いい?」
クレア「・・・あぁ」
スラリア「じゃあみんなは先に帰ってて。魔獣処理はあたし達に
任せてくれて良いから」
ノール「分かった」
エド「じゃあお言葉に甘えるっす」
フラット「うん、ペーターさんにも伝えておくよ」
スラリア「ありがと~!」
クレア「じゃあ・・・行こうや」
もう動きもせずグッタリとしたブリーシュの死体を、クレアは
戸惑うことなく背負った。
スラリア「ねぇ、クレア・・・血が・・・」
クレアの背中にはブリーシュの血が染み付いていた。
クレア「気にすんな、こんなの」
スラリア「・・・そっか」
魔獣死骸処理場ー
2人は魔獣と化したブリーシュがもとの姿に戻るのを待っていた。
スラリア「クレア、あたしね・・・」
クレア「スラ。俺・・・」
スラリア&クレア「会えて良かった!」
クレア「あ・・・?」
スラリア「・・・フフッ・・・アハハハ!」
クレア「・・・親父に会おうって思えるようになったのはお前の
言葉があったからだ。ありがとな」
スラリア「ううん。あたしはクレアから貰ってばかりだったから・・・
恩返しだよ。いつもありがとね、クレア」
クレア「スラ・・・」
スラリア「クレア・・・」
2人は見つめ合い、キスを交わした。
クレア「・・・親父にも礼を言わねぇとな。お前の彼氏でいれんのも
親父が俺を拾ってくれたからだ」
クレアは席から立ち、窓を開けて神器を呼んだ。
スラリア「クレア?」
クレア「・・・俺の今までは、今でも覚えてる。だから・・・見失っても
いいんだ。今を生きてれば、それでいい。親父、ゆっくり待ってろよ。
俺が失いかけた日々を埋めてくれてありがとうな」
その言葉と共に、空へ向けてクレアは一本の矢を射た。
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