第23話 3節 風の生い立ち
2942年、4月17日 晴
母さんが病気になった。俺の病気と同じだった。うつしてしまった。
俺は自分から家を出た、俺がここにいてはいけない、そう思ったからだ。
後悔はしていない、俺は疫病神だった、それだけだ。
ブリーシュ「・・・日記はここから始まっている」
スラリア「待ってください!クレアは追い出されたって・・・」
ブリーシュ「強がりだろうな、アイツはそういうやつだ」
スター「・・・ねぇ、続きは?」
ブリーシュ「読んでいくよ」
2942年、4月18日 曇りー
クレア「・・・ハァ」
男性1「?君、1人かい?」
クレア「!いや・・・その、あの・・・すみません!」
男性1「あ・・・」
[放浪1日目、いきなり知らない人に話しかけられた。上手く対応できず
逃げてしまった。こんな調子で大丈夫だろうか?]
ブリーシュ「ちょっと飛ばすよ。この先は・・・特に何もないからね」
ページをめくりながらブリーシュはそう伝えた。
スラリア「あの・・・犬の話ありませんか?クレア・・・時々その話を
してたから・・・気になって」
ブリーシュ「それならまずこのページか」
2942年、6月4日 雨ー
クレア「チェ、雨かよ」
「クゥン・・・」
クレア「?今この辺から・・・」
もう使われていないバス停で雨宿りしていたクレアの近くから
子犬の悲しそうな声が聞こえた。
クレア「ん?うっわ、可愛い!」
傘に隠された段ボールの中におすわりしていた子犬をクレアは見つけた。
子犬「キャン!」
クレア「でも・・・俺じゃ・・・」
子犬「ワンワン!」
悩むクレアを促すように子犬はクレアの頬を舐めた。
クレア「ハッハハ!くすぐってぇよ!ったく、俺でいいのか?
言っとくが辛いぞ?」
子犬「ワン!」
[雨宿りの最中、捨て犬と会った。この日記を書いてる今も隣で
尻尾を振ってる。俺しか親がいない。親父みたいに捨てたりしないからな。]
スラリア「・・・その次は?」
ブリーシュ「まだだ、次はクレアの神力に関係するページだからね」
2942年、7月9日 晴ー
クレア「よし!フル、今日からは地球で生活するぞ、やったな!」
フル「ワンワン!」
クレア「よしよし!さあ、行こうや!」
そう張り切ってクレアが腕をブンと回すと、それに合わせて
強い風が吹いた。
クレア「・・・?ん!」
何となく不思議に思い、クレアはもう一度腕を回した。するとやはり
それに合わせて風が吹いた。
クレア「・・・おもしれぇ!」
[俺は母さんから聞いていた風を操る力を手にした。暑い夏も
これなら平気で過ごせるだろう。]
ブリーシュ「そして時はすぎて・・・ここか」
2944年、9月26日、台風ー
クレア「な、何だよこれ⁉︎俺の力が・・・勝手に!」
フル「キャウン!」
クレア「フル!くっそ、無闇に近づけねぇ!どうすりゃ良いんだ⁈
くっそ、何でこんな時に・・・!」
そのストレスが余計に神力を暴走させ、竜巻が起こってしまった。
クレア「なっ⁉︎まずい、フル、逃げろ!」
しかし竜巻の威力は強まっていく一方で、いとも容易く木々を
倒していった。そしてフルを下敷きにしていった。
クレア「嘘だろ・・・?」
フルを失った失望感により、神力は一気に抑えられたために
竜巻こそ消えど、台風は収まることなくクレアに雨粒を叩きつけた。
雨粒に混じったクレアの涙が風に飛ばされてゆく。フルを閉じ込めた
丸太の牢屋が崩れていくのをクレアは見ることしか出来なかった。
声を発することなく、我を失いかけながら呆然と立っていた。
やがて雨の匂いに混じった血の匂いに気づきクレアは我に帰り、
慌てて丸太をどかしていった。そしてクレアは真っ赤に染まった
自分の手に気づいた。
クレア「フル・・・嘘だ、嘘だと言ってくれよ!また俺のせいで・・・
頼む、嘘だと言ってくれよ!俺は何なんだよ⁉︎チクショウ!」
[俺は疫病神だ。俺と関わったやつは死んでいく。俺は、
どこにいるべきなんだろうか?俺に居場所なんかあるのか?
俺は生まれてくるべきじゃなかったのかもしれない。でもこれは全て
親父のせいだ。俺の悲しみも痛みも・・・あの男を殺す!そして俺も
死ぬことにする。]
その文字列は段々と筆圧が強くなっていた。
スラリア「・・・クレア・・・」
スター「・・・ねぇ、もしかして・・・」
ブリーシュ「そうだな、俺のせいかもしれない。俺が反省して
アイツを育ててしまった。そのせいでアイツは・・・生きてる理由を
見失った。すまない・・・!」
クレアの悩みに気づき、ブリーシュは悔しそうに歯をくいしばって
涙を流していた。
スラリア「ブリーシュさー」
スター「ふざけないで!」
ブリーシュ「!」
スター「今更遅すぎだよ!兄ちゃんの気持ち、一度でも考えたことが
あった⁉︎考えてたらわかるでしょ⁈ずっと1人で・・・スターとは違う、
悲しいだけの孤独をずっと彷徨って・・・親だったらもっと考えてよ!
それが本当の親でしょ⁉︎」
スラリア「スターちゃん・・・」
スター「ママもパパも、スターのこと考えてくれた!神力があって
魔女扱いされても、普通に接してくれた!普通にいさせてくれた!
でも・・・でも・・・!」
スラリア「・・・あたしもそうは思いました。クレアの気持ちを
本当に分かってるのかなって。反省したらそれで終わりじゃない!
反省して心の底から親になろうって、考えましたか?」
ブリーシュ「・・・赤の他人として、親の代わりになろうとして・・・」
スター「無理だよ!親以外に親なんていないもん!」
ブリーシュ「・・・でももう・・・俺は・・・」
スラリア「日記帳、ください!あたしがクレアを知ります!ううん、
知りたいです!あたしが今生きてるのはクレアの言葉があったから!
だから・・・あたしがクレアを助けたい!だって、あたしはクレアの
恋人ですから!」
ブリーシュ「・・・そうか。分かったよ、はい」
スラリア「任せてください、あたしが必ずここにクレアを連れてきます!」
スター「スラリアお姉ちゃん、スターも行く!家族だから!」
スラリア「うん、行こう!」
2人は病室を飛び出していった。
ブリーシュ「・・・クレア、俺はお前に謝りたい。そして・・・純粋になりたい。
心の底からお前の名前を口にしたい。それだけで良いんだ、俺は。
お前を・・・傷つける気はなかった」
廊下ー
スラリア「スターちゃんは神力でクレアの居場所をお願い!」
スター「うん!」
看護師「あ、コラ!病院内は走らないで!」
スター「キャッ!」
曲がり角から出てきたブリーシュの看護師とスターがぶつかった。
スター「ご、ごめんなさい・・・?」
看護師「はい?」
スター「う、ううん!走っちゃってごめんなさい。じゃあ!」
スラリア「行くよ!」
スター「うん!」
看護師「あ、だから走らないで!」
スター(あの人・・・ママと同じ匂いがした)
外ー
スター「こっち!」
スラリア「兄妹揃って本当に便利な力だね。もうすぐ?」
スター「うん!浅草第一公園のすぐそば!」
スラリア「オッケー!」
2人は蛍光灯だけが光る浅草第一公園に入っていった。
クレア「・・・ハハッ、やっぱダメだな。俺、結局こうなるのか」
スラリア「こうなるって?」
クレア「⁉︎な、お前ら⁉︎」
スター「もう、わざとあんなことしたんでしょ?」
スラリア「スターちゃんにあんなこと言ったのも、お父さんから
距離を置こうとしたのも、また1人になる気だったからでしょ?
そんな真似、させるわけにはいかないからね!」
スター「兄ちゃん、みんな待ってるよ。帰ろ?」
クレア「悪いが・・・断る」
スラリア「・・・ねぇ、クレア。誰もクレアのこと、疫病神なんて
思ってないよ。あたしはクレアの言葉があるからここにいるし、
今日を生きてるんだよ?」
スター「うん、それに兄ちゃんはスターの大事な家族だもん!
離れ離れなんかにはなりたくない!」
クレア「・・・俺の何を知ってるか知らんが、俺はな・・・」
スラリア「出会った人を殺した?」
クレア「あぁ・・・俺はこんな俺が大っ嫌いだ。俺を勝手に作った
親父もな。だけどよ・・・あんなに変わっちまった親父を見たら
俺は何のために生きていたのか分かんなくなってな・・・」
スラリア「生きる意味?」
ブリーシュ「そんなのねえよ!」
クレア「!」
ブリーシュ「生きる意味なんてな・・・答えなんかねえんだ!
前にも言ったはずだろ!」
スラリア「ちょっと、おじさん!無理しちゃダメだよ!」
ブリーシュ「いいんだ、こんな痛みより・・・クレアの味わった孤独の方が
ずっと重いとは分かってる。それに・・・俺が説教すると約束してるしな」
スラリア「おじさん・・・」
ブリーシュ「クレア。俺はお前の名前を呼ぶ資格も無いって言ったな。
そんな俺でもお前の親なんだ、言いたいことがあるなら言っていいんだぞ。
包み隠す必要なんてないんだ」
クレア「・・・でも俺がお前を親父と認めちまったら・・・俺の今までは
どうなっちまうんだよ⁉︎俺は・・・俺は・・・!」
ブリーシュ「・・・泣くな!男の子だろ!」
クレア「‼︎」
久しぶりの声にクレアの涙はピタッと止まった。
ブリーシュ「よし、それでいい。俺はお前の父親だ。そしてお前は、
俺の子供だ。お前に悲しい思いをさせたこと、分かっていたつもりだった。
でもまだまだだったな。俺はお前の・・・クレアの気持ちを全部知りたい。
でも分からないことだって勿論ある。だけど、俺も、そしてこの2人も・・・
お前のことを知りたいと思ってここにいる。きっとそれは、
お前の帰りを待つ友達だって同じじゃないか?」
クレア「・・・本当か?」
スラリア「じゃなかったら、何でここまで追いかけたの。ストーカーじゃ
あるまいし。まさかあたし達をそう思ってるの?」
クレア「ち、ちげぇよ!ただ・・・少し疑った」
スター「ひっどーい!心配して追いかけてきたのに疑うなんて!」
クレア「・・・じっちゃん・・・いや親父!俺・・・今の親父となら
普通に笑い合えると思う。またあの日みたいに・・・だからさ・・・
ありがとう。俺を見つけてくれて」
恥ずかしそうに笑って、クレアはそう伝えた。
ブリーシュ「っ!」
スラリア「あれ、おじさん泣いてるの?」
あまりに真っ直ぐすぎたお礼にブリーシュは肩を震わせてしまった。
ブリーシュ「な、泣いてない!少し・・・嬉しかっただけだ!」
スラリア「もう、素直じゃないんだから。クレアはお父さん似なんだね」
クレア「なっ・・・」
以前だったら絶対に言われたくなかった言葉だったが、今のクレアには
ただ単に恥ずかしいものになっていた。
クレア「うっせえ!俺は別に・・・親父に似たわけじゃねぇ!」
スラリア「まっ、これで大丈夫そうだね。じゃあ帰ろ?もう、
勝手なこと言ってやめないでよ?」
クレア「悪かったな」
スター「うん、いつもの兄ちゃんだ!」
ブリーシュ「ふぅ・・・アイッテテテ!」
落ち着きを取り戻したクレアを見て安心したブリーシュは怪我をしている
右足を庇うのを忘れて普通に立ってしまった。
スラリア「ちょ、大丈夫ですか⁈」
クレア「ったく、親父は俺が病院に送っとくから先に帰っててくれ。
アイツらに謝る言葉も考えたいしな」
スラリア「じゃああたしも行く!クレアの監視役でね!」
クレア「またかよ」
スター「じゃあスターは帰ってるね。ハッピーカップルにスターは
邪魔そうだしね」
ブリーシュ「別にきてくれても・・・」
スター「もう、空気読んでよ~」
ブリーシュ「えっ・・・」
スラリア「プッ・・・アハハハ!」
クレア「な、なんだいきなり?」
スラリア「ううん、なんでも・・・アハハハ!」
クレア「何がそんなにおかしいんだよ!」
スラリア「アッハハハハ!」
一方その頃、デ・ロワー
フォール「お、クレアと会えたっぽいな」
ペーター「フラット君、罰は任せたよ」
フラット「まあ今回は流石にキツめにしときますよ」
フォール「俺の罰はまだ継続か?」
フラット「半年お酒禁止って言ってガバガバ飲んでるから罰に
なってないんだけどね」
フォール「だったら禁酒以外の罰にするしかないな!」
フラット「それが狙いだって分かってるから、もう別の罰を
執行中だけどね」
フォール「えっ!」
フラット「僕じゃなくてペーターさんが」
ペーター「君が飲酒する度に給料減らしてるからね、気づかなかったかい?」
フォール「少ねぇとは思ったがそんなことしてたのか⁉︎」
フラット「罰を守んないフォールが悪いんでしょ?」
ノール「お前ら、少しはクレアのこと気にしろよ」
エド「まあ2人のケンカは面白いから続けてもいいっすよ」
ペーター「それより・・・アイン達は本当にどこ行ってんだ?」
フォール「おせぇよな、そういや」
ノール「まあ今はクレア達を待とう」
病室ー
ブリーシュ「わざわざありがとね」
スラリア「全然大丈夫ですよ。じゃああたし達は帰りますね」
スター「何で結局スターもいるの・・・」
クレア「お前が勝手についてきたんだろ!」
スター「えへへ、バレちゃった」
スラリア「ほら、置いてっちゃうよ?」
クレア「あ、ちょっとは待てよ!」
スター「もう、本当はもう面会時間終わってるんだからね!
バレたら怒られるよ!」
クレア「親父!また明日な!」
ブリーシュ「あぁ!気をつけてな」
クレア「分かってるっての!」
3人の様子を開いたカーテンを通して外からアインが見ていた。
アイン「はい、計画は順調です。これより、次のウェーブへ進行します。
はい・・・えっ?進行しない?どういうことですか⁉︎」
通信相手「少し留まってもらいたい。我々の作戦がうまく行きすぎている。
やつらがこの作戦に気付かないはずがない。既に我々の視野外で
何かを実行しているのかもしれない」
アイン「つまり・・・?」
通信相手「今回の作戦は見送りだ」
アイン「そんな⁉︎」
通信相手「そう焦るな、それに『確定』しているんだろう?
つまりは我々がどう動こうと変えられないんだ」
アイン「・・・了解しました」
通信相手「そうだ。では気をつけて。健闘を祈る」
アイン「・・・」
無言のままアインは通信を終えた。
クレア「ん~!さぁて、帰るか!」
アイン「あっ・・・」
ちょうど出てきたクレア達とアインが鉢合わせた。
スラリア「あれ、何してんの?」
アイン「お迎えに参りました!」
クレア「そりゃどうも」
スター「兄ちゃん?反省してるの?」
クレア「分かったよ、ありがとう」
アイン「では、デ・ロワーまで!」
そのアインの言葉と共に3人は急に消えた。
アイン「よし。帰るか」
クレア「・・・ここは?」
スラリア「うっそ・・・地獄だよここ・・・」
赤髪女性「?誰」
スラリア「!赤雲様、お久しぶりです!」
赤髪女性「・・・あぁ、リアの。ジャスミーはいないのか?」
スラリア「えっと・・・母さんはもう・・・」
赤髪女性「そうか・・・で、何でここに?」
スター「アインが間違えたのかな?」
クレア「でもよ、地獄に繋がれる術があるならアイツだって
戻れるだろ」
赤髪女性「とりあえず自己紹介しておこう、私は赤雲。地獄を
管理している者だ」
クレア「あ、クレアラント・ゴールドです」
スター「スタリック・ゴールド、よろしくね」
赤雲「それで・・・アインか。最近顔を見ないと思ったら上界に
行っていたのか。そしたらもう戻って来られないな、パルカも
いるなら別だが」
スラリア「パルカならいますよ?」
赤雲「じゃあ早く戻ってくるよう伝えておいてくれ。アイツの仕事は
まだ途中なんだ」
スラリア「途中って・・・アインが?」
赤雲「サボりとかではなく、普通に任せたばかりの仕事でな」
スラリア「分かりました、パルカに伝えてお連れしますね」
赤雲「流石はジャスミーの娘だ、いい子で助かる」
クレア「にしてもよ、ここ本当に地獄なのか?なーんか一昔前の
商店街っぽいけどな」
スター「まあ・・・言われてみればそうだよね」
スラリア「こんな感じだよ?針地獄とか舌抜きは地獄で反省しなかった魂に
行う罰だから、普通はしないよ」
クレア「だったら天国と何も変わんねぇぞ?」
赤雲「天国は働かず、ただ生まれ変わる時を待つだけの場所。
ほとんどの天国行きの魂がこっちに来ては働いてる」
スター「え、何で?」
スラリア「ただ単に暇だからだよ。それ以外の理由は聞かないけど」
クレア「なら仕事ってなんだ?」
赤雲「秘密だ。生きている者に言ってはいけない決まりでな」
スター「当たり前だよ」
クレア「ちぇ、結構しっかりしてんだな」
スラリア「しっかりしてないと地獄の管理なんてできないよ」
赤雲「とりあえず私がお前らのあるべき場所に帰しておく。
あの・・・何だったか?」
スラリア「デ・ロワーですよ」
赤雲「そうだ。場所は把握している。では・・・神業・箱舟」
アイン「ただいま戻りました・・・?スラリア達は?」
フラット「えっ、まだ帰ってきてないよ?」
アイン「えぇ⁉︎でもたしかに・・・」
スラリア「キャァ!」
クレア「グウェ⁉︎」
スター「ご、ごめん!」
動揺していたアインの目の前に3人がいきなり降ってきた。
アイン「うわっ⁉︎ドッキリですか⁈」
フラット「いや・・・えっ、今初めて・・・」
ノール「だな、なんだ?」
クレア「いや、地獄に行ってたんだ」
フォール「・・・お前にはピッタリな場所だな」
クレア「お前には言われたくないわ!」
フラット「クレア、気持ちは分かるけどそれを言う前にさ、
言うことあるよね」
クレア「・・・分かってるよ」
残っていた自分のデスクとネームプレートを確認して、クレアは
一旦深呼吸をした。そしてー
クレア「ただいま!」
ノール「って、違うだろ!」
フラット「ハッハハ、お帰り、クレア」
フォール「良いのかよ、お前はそれで」
フラット「まあ、家出をした子は笑顔で出迎えるでしょ?」
スラリア「それは犬だよ!フフフ!」
ペーター「それよりも、地獄に行ったっていうのは?」
クレア「あぁ、そのことなんだが、アイン。パルカの力で地獄に
一旦戻って来いってよ」
アイン「へ?」
スター「アインって流れ者じゃないんだね」
エド「そういうのは『はぐれ者』って呼ばれてるっすよ。同じ世界の中でも
普通じゃ見えない世界からの来訪者っすね」
ペーター「レアケースだけどね。それよりフラット君。あのフラット君が
連絡をよこしたっていうのは本当かい?」
フラット「はい。アイン達がここに流されたのは偶然ではなくて
人為的な工作があるそうです」
フォール「?でもよ、アイツが管理者を殺して、今はアイツが
管理者になっただろ?」
ペーター「・・・やはりか」
フラット「何か知ってるんですか?」
ペーター「あのフラット君は過去の世界線に行った。そして今と
同じ時を生きている。そうなるとどうなる?」
ノール「!管理者は・・・殺されない⁉︎」
クレア「おいおい、そうなっちまうと⁉︎」
ペーター「・・・また脅威大量発生が始まる」
スラリア「でも大丈夫だよ!今のあたし達の神力ならね!」
ペーター「油断大敵だ。やつが記憶を引き継いでる可能性も
残っているんだ」
フォール「そうなると、まず真っ先に標的になるのは・・・」
フラット「あっちの僕・・・だよね」
クレア「でもよ、あっちにはお前を心から家族だと思ってる、アイツがいるだろ?」
ペーター「・・・やつに対してナックラーは不向きだぞ」
ノール「・・・どうして?」
ペーター「やつの1番の目的は人工アリジゴクを排除して自分の手だけで
世界を全て支配することだ。人工アリジゴク計画に携わっているアイツが
最前線に出れば、一瞬で消されるだろうな」
フラット「・・・これ以上バトラーを失いたくない・・・!だったらもう、
僕達は僕達だけを守るようにしよう!あっちの世界を心配してる余裕は
流石にないから・・・」
スラリア「・・・うん。捨てるしか・・・ないよね」
クレア「・・・あ~、こんなしめっぽい雰囲気やめようや、俺達らしくない。
もっと場を盛り上げようや!」
フラット「クレア・・・だね。こんな暗い雰囲気、ダメだね!
あっちには対応できないけど、やれることはしよう!」
スラリア「クレア、良いこと言うじゃん!」
スター「軽い口調じゃなかったらカッコいいのに」
スラリア「あ、分かる!」
クレア「別に良いだろ!で?それよりパルカはどこだ?」
アインに確かめようとアインの席をクレアは確認したが、そこに
アインの姿はなかった。
クレア「?そういえばあの件伝えてからアインのやつ話してなかったな。
先に行ったのか?まあ良いや。じゃあ俺は仕事やっちまうな、
約束だしよ」
フラット「えっ・・・」
クレア「何だよ、えって」
フラット「やっちゃったよ。クレアのことだし、どうせ手こずるだろうって
思っちゃって。やりたいならフォールの分やる?」
クレア「えっ・・・フォールのは雑務だろ?」
フラット「そうだね、精算処理、会計処理、契約処理、データ処理、
あとは中継処理?」
クレア「で・・・何が残ってる?」
フラット「今言ったの全部」
クレア「はぁ⁉︎ムリ!」
フラット「だよね。僕達も残るよ」
クレア「いや、いい。俺のワガママに付き合わせるのはごめんだ」
フラット「ワガママかな?親のために仕事任せるのは」
クレア「そこじゃねぇよ!俺が・・・飛び出してったこと・・・」
フラット「?別に気にしてないよ。分かってたし。だから曖昧な答えで
クレアに言ったんじゃん。自分で気づけって意味で言ったんだけど、
気づけたみたいで良かった」
クレア「フラット・・・」
スラリア「あ、フラット嘘ついてる!分かってなかったくせに!」
フラット「げっ、バレてた⁈」
クレア「なっ、嘘かよ⁉︎」
フラット「ま、まあね、いいじゃん、万事解決ってことでさ!」
クレア「ったく・・・ありがとよ、待っててくれて」
フラット「えっ?」
ノール「らしくないな、そんな風にお前が謝るの」
フォール「おいおい、明日雪でも降るんじゃないか?」
クレア「失礼なやつらだな!俺が素直になっちゃダメなのか⁈」
スラリア「違う、急すぎだったの。本当に不器用だよね、コミュニケーションも
含めてさ。やっぱりー」
クレア「親父似じゃねぇって言っただろ!」
スラリア「まだ何も言ってないけど?」
クレア「えっ・・・」
スラリア「クレアはそうでないと、って言いたかったんだけど」
クレア「・・・や~・・・マジか」
スラリア「自覚あったんだ?」
スター「やっぱり親子だね!」
クレア「うっせぇ!」
フラット「まっ、フォールの仕事やってこっか」
クレア「ん、そうするか」
数時間後ー
クレア「分かんね~!」
フラット「だよね、クレアは主に経費処理だけだし。さてと、
僕の仕事はこれでオッケーかな」
クレア「お前とスターはいいよな、修理班だろ?」
フラット「僕はそれと書類作成も担当してる。スターは企画担当」
スラリア「あたしは外回りが主かな?」
ノール「私は案内役と電話口か」
クレア「この人数でよく対応できるよな」
ペーター「カツカツだけどね。もう少し人数いる方が助かるんだけど、
この前の実績で更にデ・ロワーのファイターになるっていう
プレッシャーが強くなっちゃってね」
エド「大変っすよね。ていうか、俺はそろそろ外回りから外してほしいっす!
何で入ってからずーっと営業してるんすか⁈」
ペーター「いや、エドはちゃんと丁寧に対応してくれてるから
気持ちがいいっていう得意先が多くてね」
フラット「じゃあ仕方ないね」
フォール「で?いつ終わるんだ?」
全員「お前が言うな!」
クレア「ったく・・・?」
立体映像に違和感を感じたクレアは、中継処理の文字列をじっくりと
凝視してみた。
クレア「・・・!」
その画面には、
[9月の件についてー
レアケースではありますが、御社様の機種のサーバが古いようで、
新しい機種を使っている私どものサーバが送ったデータを解凍する際、
御社のサーバが文字化けを起こしているようです。
可能であれば、御社に本来のデータをコピーしたものを転送ロッカーにて、
延滞してしまいますがお送りいたします。このデータをコピーで送ることは
リスクがあるとは重々承知致しております。データの保管は厳重にお願い致します]
と、書かれていた。
クレア「・・・フラット」
フラット「?」
クレア「お前なぁ・・・これを見せたかっただけだろ」
フラット「え~っと?僕はそれやってないよ。データ処理は
フォールがやってたけど・・・」
クレア「は?こんな敬語調の文章をコイツが?」
フォール「別に良いだろ、俺の唯一無二の契約先だ」
フラット「あ、それデ・ジャポネへの文書だったんだ」
クレア「お前なぁ・・・グリオが気づいたら怒られるぞ」
フォール「あ・・・」
クレア「改行しとくから安心しとけ」
ノール「ふぅん、ちゃんと仕事できるのか」
クレア「仕事中に専用タブレットでゲームしてるだけだしな・・・あ?」
全員「え~っ⁉︎」
ペーター「クレア⁈」
クレア「えっ、何で俺今⁉︎」
スラリア「ウッソでしょ、信じらんない!」
フラット「流石にないよ⁈」
ノール「これはフォール以上に酷いな」
スター「堂々とサボるより陰湿だよ!」
クレア「・・・ハハッ!」
フラット「・・・やめようと思ってたけどやりますね」
ペーター「あぁ、思いっきり頼むよ」
フラット「はい。神業・氷柱!」
クレア「ちょ⁉︎」
フラットの詠唱でクレアは氷漬けになった。
ノール「これどうする?」
フォール「突き落とすか?」
フラット「放っとこうか」
ペーター「あぁ、溶けるまで・・・この大きさなら明日の夜までは
溶けないか。良いんじゃないか?仮死状態だし寿命が伸びる」
スラリア「じゃあ・・・これでよし!」
氷漬けになったクレアからスラリアは魂を取った。
フラット「えぇ⁉︎」
スラリア「これで今は完全に仮死状態だよ。ただの仮死状態じゃ
危険だしね。これで良いんだよ」
ペーター「良いけど・・・それどうする気だい?」
スラリア「持って帰ります!色々と実験したいんで!」
そのスラリアの言葉を聞いた途端、クレアの魂が急に暴れ始めた。
フラット「ハイハイ、ズルしたクレアが悪いんだから悪あがきは
やめなよ?今なら電気流しもできるしね」
その脅しでクレアの魂はシュンと萎んだ。
スラリア「フフッ、可愛い」
ノール「やっぱり可愛いの感性狂ってる」
スラリア「狂ってないもん!じゃあ帰ってるね!お疲れ~!」
歯切れの悪いタイミングでスラリアはオフィスから出ていった。
浅草駅ー
自動運転で走り、電車待ちの客を感知すると停車する『ホワイトナイト号』を
ホームでクレアの魂を抱えながらスラリアは待っていた。
スラリア「・・・ねぇクレア。あたしね、まだクレアに何も出来てないよ。
クレアに励ましてもらってばかりで・・・今日だっておじさんがクレアの思いを
分かってあげようとして・・・ダメだね。あたし、本当にクレアの恋人として
失格かもしれない。貰ってばかりで・・・何も・・・出来ない!」
悔しそうに言葉を紡ぐスラリアの頬には一筋の涙が流れていた。
その涙を、クレアの魂は撫でるようにフワリと浮かんだ。
スラリア「・・・そんなことない?ねぇ、あたしクレアに何かできるかな?
ちゃんとやりたい。あたしから率先して、クレアに何かしたい!
この話は今じゃないと出来ないからさ。今日の記憶は、体に戻れば
夢のように消えるから。でもね、クレアのことが大好きなことに
変わりはないから・・・⁉︎」
その言葉を聞いたクレアの魂はスラリアを包んだ。
スラリア「・・・ありがとう・・・約束するよ。今度はあたしが
1番乗りね!あ、電車来ちゃった。クレア、もう戻って良いよ。
あたしの部屋には立ち入り厳禁だから・・・と言いたいけど、
今日ぐらいいっか。クレア本人じゃないし、忘れるならね。
ねぇ、クレア。あたしね、クレアに会えてー」
その言葉の次に言った言葉は、
「ファー!」
という警笛にかき消された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます