第23話 流れゆくかげぼうし 1節 手紙

クレア「バグ星のイベントもあっという間だったな」

フラット「そうだね。疲れた?」

クレア「あぁ、疲れてねぇわけないだろ?」

ノール「私は全然大丈夫だけど?」

スター「うん、スターも疲れてはないよ?」

フォール「お前だけじゃねぇか?そんなにグデェーっとしてんの。

見てみろよ、スラリアなんか一生懸命やってんぞ?」

フラット「そういうフォールもグデッとしてんじゃん。どの口が

そんなこと言ってるのかな?」

フォール「俺は良いだろ!照明から何まで雑務こなしたんだぞ!」

フラット「それは自己責任でしょ。僕に非はないよ」

フォール「ったく、正論じゃねぇか!」

ノール「それより、仕事は終わったのか?」

フラット「当然!」

クレア「俺も終わってるぞ」

フラット「いつも通り手伝われてね」

クレア「ぐっ・・・お前らのおかげですよ」

スター「兄ちゃん、そんな言い方はダメだよ!」

ノール「妹のスターの方がよっぽど大人だな」

フラット「?ていうか待って、今日は部活じゃなかったの?」

スター「今日は電車が止まっちゃって全員集まれないから休みだって。

明日は確実にスターはいないよ」

フラット「そっか」

スラリア「よし、オッケ!」

ノール「あ、終わったか。じゃあ今日はもう仕事もないわけだし

帰るとするかな」

フラット「そうだね。今日はエドがいない分、静かに終わったね」

クレア「だなぁ・・・よっと、じゃあ先に帰らせてもらうわ」

スラリア「ちょっと!クレア言ったよね?仕事手伝ったら何か奢るって。

あたし、欲しい服があったんだ」

クレア「服⁉︎おいおい、まさか高いやつじゃねぇよな⁈」

スラリア「あたしからしたら普通ぐらいかな」

クレア「普通なら全然大丈夫だ・・・」

フォール「忘れてるのか?スラリアはリア家のご令嬢だぞ。

そんな家のやつで普通っていえばどれくらいだろうな」

クレア「・・・ヤベェな」

スラリア「本当に高くないって!見れば分かるから!」

クレア「見た瞬間買わされるだろうが!」

スラリア「そんなワガママ言わないよ!」

クレア「よく言うな!この前だってー」


スラリア「あっ、このデザート可愛いし美味しそう!買って!」


クレア「って、買わせただろ!」

スラリア「良いじゃんデザートぐらい!安かったでしょ?」

クレア「あのな、あれ一個で七百オズしたんだぞ⁉︎」

フォール「一般人からしたら高いが、ファイターならそんなに

騒ぐほどの値段でもねぇだろ?」

ノール「金銭感覚が狂ってないってことで良いと思うけど?

普通だったらこの給料でバカみたいに買いそうだが」

フラット「まあ、そんなに大盤振る舞いはしないね。逆に何に使えば良いか

分からないだけなんだけどね」

スラリア「・・・あたしが狂ってるのかな?」

ノール「多分ファイターになる前からな」

スラリア「えっ・・・」

フラット「ノール、流石に言い過ぎだって」

ノール「お金持ちの娘ならこれぐらい言われても当然だと思うけど」

スラリア「・・・ごめん、ちょっとー」

「?どうしたんだ、なんかあんまり良い雰囲気とは思えないよ?」

フラット「えっ、ゴンさん⁉︎」

如月 ゴン。浅草新聞社で働く狐獣人である。しかしサボり魔として

その名は通っている。

フラット「まさか、またサボってここに来たとか?」

ゴン「まさか!ここにはサボりに来れるわけないだろ?」

ノール「まあそうだな。ここに来たところで報告されてすぐに

バレるだろうし」

ゴン「それより、地獄があるって本当か⁉︎」

フラット「げっ・・・取材はお断りします!今はそれどころじゃないほど

忙しいので!」

ゴン「その理由が通るほど、俺もバカじゃねぇぞ?」

フラット「ならこうしましょう。潔く帰ってくれれば、後に

取材をオッケーにします。でも帰ってくれないなら、取材はNGのまま。

どうしますか?」

ゴン「今日じゃねぇとダメなんだ!頼む!」

クレア「こういうパターンだと、また何かやったろ?ベストが

可哀想だな」

フォール「でもな・・・やっぱ無理だろ。だってその本人がいないんじゃ

どうしようもねぇだろ」

ゴン「えっ、いないのか・・・そうか・・・」

と、ゴンが扉の前で考えていると、扉が開きー

「うわっ⁉︎だ、誰ですか⁉︎」

「敵カ⁉︎味方カ⁉︎」

クレア「ちょうど良く帰ってきたな」

アイン「えっと・・・入れないんですけど」

ゴン「おぉ!君達が地獄の!早速地獄に!」

アイン「え~っと・・・地獄に行きたいんですか?」

ゴン「そう、そう!」

パルカ「無理ダゾ!魂あるのは入れないゾ!」

ゴン「えぇ~・・・俺、地獄の取材に行ってきますって言ったのに・・・」

スラリア「じゃあ、話だけ聞けば良いんじゃないかな?それを記事に

すれば良さそうだけど・・・」

ゴン「それじゃあ1人の空想と同じだ!証拠がなきゃネタには

ならねぇんだよ!」

フォール「ったく、サボるのが悪いんだろ?俺みたいにこっそりと

サボりゃ見つかんねぇのに」

スラリア「どこが見つかってないの?いっつもフラットにバレて

怒られてるくせに」

ノール「何でこうも私の知り合いはどうしようもないやつばっかが

集まってくるんだろ・・・」

フラット「僕は普通だよ⁉︎」

ノール「時々天然ボケかますやつを普通とは呼べないぞ」

クレア「あぁ、この間なんかー」


フラット「えっ?きのこって言ったらお菓子でしょ?」


クレア「アレはないわ」

スラリア「フラットって時々ずれてるよね」

ノール「お前の可愛いの度合いもな」

スラリア「あたしはいたって普通だよ!」

フォール「いや、普通って言ってるやつほどイカれてるんだよな」

クレア「いやいや、スラは普通だと思うぞ?」

ゴン「って、いきなりなんの話になってる⁉︎」

フラット「あ、すみません。じゃあ、地獄の写真とかってないの?」

アイン「あるわけないです!第一、カメラって物自体この世界に来て

初めて見ました!」

スラリア「地獄の時って本当に止まってるんだ・・・」

クレア「通りであんな格好してたわけだ」

パルカ「それより、地獄のことは言っちゃいけないんダゾ!」

フラット「だよね。今回ばかりはマジメに反省した方がいいと思うけど?

それに地獄についての記事なんて誰が興味持つのさ?」

ゴン「そ、それは・・・」

フォール「良いじゃねぇか。SFAから脱退させられるわけでも

ねぇんだろ?何を今更怖がる必要があるんだよ」

ゴン「いや・・・職を失う可能性があるんだ!頼む!」

いつにも増して真剣な声色でゴンは土下座までして頼んできた。

ノール「・・・そう言われても、そこまで追い込んだのは自分だろ?

私達でどうにかして良い問題じゃない」

フラット「協力してもいいけど、そんな簡単にネタなんて見つかんないよ」

ゴン「マジでか・・・」

仕方なさそうにゴンは全員にお辞儀して、トボトボと帰ろうとした。

転送ロッカー「郵便局から手紙が送られました」

フラット「?手紙・・・?珍しい、電話じゃないって」

首を傾げながらフラットは転送ロッカーを開けた。

フラット「あっ、クレア宛だよ」

クレア「俺?どっからだ?」

その手紙をフラットから貰うと、クレアは中身を確認した。

クレア「病院・・・⁉︎」

内容を確認した瞬間、驚きのあまりにクレアは席から立ち上がった。

ノール「な、いきなり何だ」

スラリア「なんて書いてあったの?」

スター「兄ちゃん、黙ってないで見せてよ!」

クレア「・・・誰が行くかよ」

クレアはその手紙を破ろうとした。

フラット「ちょちょ、何やってんの⁉︎」

クレア「親父が病気で倒れたって連絡だ」

スラリア「じゃあ行ってあげなきゃ!」

クレア「俺は親父と会う気なんかねぇよ!あんなやつに会いたいとも

思ってねぇしな!」

スター「そういえば、兄ちゃんのパパは知らない・・・」

クレア「最低なやつだよ。お袋騙して結婚して、ほぼ無理矢理俺を

作ったんだぞ。そんな俺をお袋は連れて出てってくれたけどよ・・・

俺のことをあまり世話はしなかったな。それに俺の病気がうつって

追い出されたし。まあ、スターは生まれてるし病気は治ったみたいだな」

ノール「・・・そうか」

アイン「ダメですよ、言いたいこと言った方がいいに決まってます!」

クレア「?」

アイン「その恨みが晴らせなくなっちゃいます!」

クレア「あ、あぁ・・・?」

スラリア「まあ、恨みが多ければ多いほど罪だしね、冥界だと」

クレア「いやいや、俺、アイツにしか恨みはねぇぞ⁉︎」

ノール「だったら余計に会えよ。恨みのない人生だぞ」

クレア「でもよ・・・」

スラリア「それに行かないと、あたしも苦労するんだけど。

クレアのお父さんだって、クレアに会いたいから手紙を出すように

頼んだんだよ?」

クレア「だからだよ!今更遅いって言いたいんだ!」

フラット「だったら、言いたいだけ言えば良いじゃん。それでスッキリは

するでしょ?ほら、行こ、行こーう!」

クレア「おいちょ、勝手に!」

ほぼ強引にフラットはクレアを病院に連れて行った。


病室ー

フラット「じゃ、行ってらっしゃーい!」

クレア「なっ・・・!」

結果的にクレアはフラット達によって無理矢理病室に入れられた。

クレア「ったく・・・後で覚えとけよアイツら」

「こら、そんな言葉使いしてるのか、しかも友達に」

クレア「へ・・・?」

カーテンで遮られた病床からクレアにとって懐かしい声が聞こえた。

ブリーシュ「久しぶりだな、クレア」

クレア「な・・・あ~、そういうことか。たしかに俺からしたら

じっちゃんは親父だもんな」

ブリーシュ「まあ、そう思ってくれてもいいんだが・・・クレア。

苗字を教えてなかったな」

クレア「あぁ・・・そういえば」

ブリーシュ「ゴールド」

クレア「・・・?おい、今なんて?」

ブリーシュ「今までは一人称をぼくって言ってたな。本当に

悪いとは思ってる。俺自身、お前のこと、騙し続けてたんだ」

クレア「おいおい、悪い冗談はよせって!」

ブリーシュ「・・・お前がどう思うかは任せるが・・・」

クレア「だったら何だ?俺は恨んでたお前を一生懸命に助けようとした

愚か者みてぇじゃねぇか!」

ブリーシュ「本当だったら俺を見捨てると思ってたんだがなぁ」

クレア「・・・口だけなら、何とでも言えるよな!」

ブリーシュ「・・・もう帰ってもいいけど?」

クレア「いや、アイツらに一時間以上はいろって言われてんだ。

しかも病室のそばのソファにいるしよ」

ブリーシュ「迷惑はかけてないか?」

クレア「あぁ、せいぜいお前みたいな最低な真似はしてねぇよ」

ブリーシュ「そうか。元気そうで何よりだ」

クレア「・・・なあ、俺とお袋を捨てたお前が何で俺を拾ったんだ?」

ブリーシュ「・・・信じてもらえないと分かってる上で話すぞ。

あの村にいたのは、俺が間違ってたことに気づいたからだ。

既に遅すぎたがな」

クレア「・・・で?」

ブリーシュ「・・・時を過ごしてるうちにボロボロになってたお前を

見つけたんだ。その・・・正直名前を聞かなくても誰かは分かってた」

クレア「・・・とにかく。俺はまだ恨んでるんだ。お袋騙して

俺を勝手に産ませたこと、ずっとな」

ブリーシュ「そうだろうな。分かってはいた。ただお前の本音を

聞きたかっただけだ」

クレア「本音な・・・言いたいことはありまくってるが、何でか

言えねぇんだよ。実際、アンタがいなかったら俺はいねぇし・・・」

ブリーシュ「・・・ハハ、変わったな。あの時のお前だったら、

そんなこと気にせずに嫌ってただろ」

クレア「・・・あぁ。面白いやつらと一緒にいるうちに、変わってたな。

俺の足りないものを埋めてくれた」

ブリーシュ「・・・そうか。いいか?俺みたいになるなよ」

クレア「言われなくてもなる気はねぇよ」

ブリーシュ「まあ、死ぬような病気でもない。ただ、お前と

話しておきたかったんだ。本当のことと、お前の気持ちをな」

クレア「・・・なぁ、もう一ついいか?」

ブリーシュ「?」

クレア「お前、何でそんな弱々しい声で話すんだよ。こっちが

責めてるみたいだろ。普通に話してくれ」

ブリーシュ「・・・優しくなったな」

クレア「べ、別に優しいわけじゃねぇ。ただ・・・」

ブリーシュ「俺は、お前の名前を呼ぶ資格もない。それでもお前と

普通に話せると思うか?」

クレア「・・・今のお前が演技とは思えないからな。一応だが、

恩もなくはねぇし」

ブリーシュ「・・・まあ俺のことを嫌ってくれて構わん。その結果は

当然だと俺自身分かっているからな」

クレア「俺は親父とこんな形で再会するとは夢にも思ってなかったけどな」

ブリーシュ「・・・謝って済む問題ではない、そう言いたいんだろ?

俺もそれぐらいのことをしたと分かってる」

クレア「そう言われちまうと・・・何言えばいいんだよ」

ブリーシュ「お前は何しに来たんだ?」

クレア「俺が来たくて来たわけじゃねぇよ!アイツらが勝手に・・・」

ブリーシュ「正直なのは相変わらずだな」

クレア「・・・アンタがそうするように教えたんだろうが。まあ正直で

困ったことはねぇから・・・そこだけは感謝してる。でも忘れるなよ、

だからと言って俺はアンタを許したわけじゃねぇから」

ブリーシュ「あぁ、許せないことをした自覚は今ならある。

俺は最低な父親だった。でもな、傷だらけのお前を見て本当に

思った。俺は最低でもお前の父親でなきゃいけないってな」

クレア「・・・ったく、本当に変わりやがって。そんなこと言われたら

俺も責められねぇよ。フラット達のせいで俺まで変わっちまったな」

ブリーシュ「友達とは仲良くしろよ。俺のとこにはもう来なくても

いいからな。一目見れただけでも充分だ」

クレア「そうか・・・?」

初めてクレアはブリーシュから目をそらした。そしてあることを

空っぽの花瓶から思い出した。それはー


クレアの幼い頃ー

ブリーシュ「よいしょ・・・よし」

クレア「じっちゃん、何してんだ?」

ブリーシュ「あぁ、花を植えてたんだよ」

クレア「花?」

ブリーシュ「この時期によく見るだろ?」

クレア「あぁ、ユリか」

ブリーシュ「僕はユリが大好きなんだ。純粋とか無垢って花言葉、

僕は大好きでな」

少しクレアを寂しそうに見つめながらブリーシュはそう言った。

クレア「じっちゃん・・・?俺も手伝う!」


クレア「・・・じっちゃん、ユリ持ってくるな」

ブリーシュ「!」

クレアの何気ない一言がブリーシュの目を見開かせた。

クレア「何だよ、そんな意外そうな顔すんなら持ってこねぇぞ」

ブリーシュ「・・・覚えてたんだな」

クレア「今ならじっちゃんがあんな顔してユリが好きだって

言ってた理由が分かるからよ」

ブリーシュ「それと・・・俺をじっちゃんって呼んだことにもな」

クレア「親父とは思ってねえからな!勘違いはすんなよ!」

ブリーシュ「あぁ、分かってるとも」

その様子をこっそり覗いていたー

スラリア「いい感じじゃん・・・やっぱり会えて良かったね、

クレア。あたしも行こうかな」

クレア「?おい、誰だ?」

スラリア「ヤバっ!」

クレアはスラリアの気配に気づき病室の扉を開けた。

スラリア「あっ!」

クレア「スラ・・・覗き見はやったらー」

スラリア「どうもー!クレアの彼女のスラリアでーす!」

クレア「お、おい!」

ブリーシュ「彼女⁉︎」

クレア「スラ、余計なこと言うな!」

ブリーシュ「クレア・・・」

あまりの嬉しさにブリーシュは涙を流してしまった。

クレア「じっちゃん・・・」

スラリア「ねぇ、余計って何?あたしは余計ってこと?」

クレア「ちげぇよ!じっちゃんの前でだ!でも・・・会えて良かった。

おかしいよな、俺は嫌みを言うためだけに来たんだぞ?」

スラリア「人は変わってくんだよ。あたしだってクレアの言葉で

あたしらしさを見つけられた。そうでしょ?」

クレア「・・・そうだな。変わるのかもしれねぇな」

ブリーシュ「クレア、大事にしろよ。スラリア・・・だっけ?

こんなやつだがよろしく頼みます」

クレア「じっちゃん!まだはえぇよ!」

スラリア「ハハハ、面白い!」

クレア「スラ・・・」

スラリア「それより今日はもう帰んないと!仕事!」

クレア「えっ、俺の分はもうー」

スラリア「まだだよ!追加されたから!」

クレア「げっ、マジか⁈」

スラリア「押し付けはもう辞めてよ?」

クレア「ちょ、おい!」

ブリーシュ「押し付け?」

クレア「何でもねぇよ!スラ、じっちゃんの前でそういうことは

言わんでいい!」

ブリーシュ「クレア!」

クレア「ひゃ、ひゃい!」

クレア「やっぱり明日も来い。いいな?」

クレア「あぁ。元からその気だよ。じゃあな」

少し微笑んでクレアはブリーシュに手を振り、病室を後にした。


病院待合室ー

クレア「おい、何で座るんだよ?」

スラリア「クレア。ごめんね」

クレア「?」

急に謝ってきたスラリアにクレアは不安を覚えた。

スラリア「あのね・・・言いたくないけどあの人・・・あと1ヶ月」

クレア「!」

スラリアの能力は余命を見ることができる。そして1か月と

見えてしまった。

クレア「それは・・・確定か?」

スラリア「うん・・・もうくっきりと見えた」

クレア「でもじっちゃんは退院出来るって!」

スラリア「うん、病気ではない、ただのケガだもんね。でも・・・」

クレア「まさか俺が殺すとでも?」

スラリア「そんなわけないよ!でも・・・分かんない。ごめん」

クレア「じっちゃん・・・スラ、ありがとな」

スラリア「ううん、ごめんね。辛いこと言っちゃって。でも言わないと

クレアも辛いでしょ?」

クレア「あぁ。でもよ、人は変わるか。俺は・・・変わったのか?

分からねぇんだ。俺は夢を叶えられたか・・・」

スラリア「・・・珍しいね、クレアが弱音を吐くって」

クレア「今のじっちゃんを見て思ったんだ。俺はただ強くなりたい、

強くなって・・・親父を殺そうとした」

スラリア「えっ⁉︎」

クレア「でもよ・・・その強さは俺を苦しめた。神力を使いすぎて

暴走して・・・俺のたった1匹の相棒を失って・・・強くなるのは

諦めた。そして優しくあろうとした。でも今のじっちゃんのせいで

俺は気づいちまった。俺は全然・・・優しくなんかねぇ」

スラリア「どうして?」

クレア「許せないんだ!アイツがしたことを、許したくても!」

スラリア「・・・あたしね、許さなくていいと思う。許せないことなんて

あたしだって沢山ある。あたしを知ろうとせず殺人鬼呼ばわりした人を

今だって許してはないよ。でもね、好きにはなった」

クレア「許せないのにか?」

スラリア「うん。あたしはね。クレアがどうかは別だけど、

許せないことを許す必要はないよ。今のクレアはお父さんのこと

嫌いなの?それが1番だよ」

クレア「今の俺は・・・分かんねぇ」

スラリア「そっか。でも明日は行くんでしょ?さっき来いって

言われた時のクレアの顔、嬉しそうだったよ」

クレア「俺が?そうかもしれねぇな。またじっちゃんと同じ時間を

過ごせるって考えれば嬉しい」

スラリア「ならそれで良いよ。クレアにとっての幸せがきっと

優しさになるから。ってね!なっくんが昔言ってたんだ」

クレア「何だよ、アイツの言葉か。お前らしくないセリフだとは

思ったがな」

スラリア「ちょっと!それどういうこと⁉︎」

クレア「今言った通りだ、おっと行かねぇと!」

スラリア「なっ、待て~!」

クレア「風神の俺に追いつけるか?」

スラリア「卑怯者~!」

2人は正面玄関から飛び出していった。その姿を窓辺からー

ブリーシュ「クレア・・・ありがとう」


クレア「たっだいま!」

フラット「あ、お帰り」

ノール「結構時間かかったな」

クレア「なんだ、お前らいねぇと思ったら帰ってたのか」

フラット「スラリアが監視しとくから帰ってって言ってね」

スター「で?言いたいことは言えたの?」

クレア「今はそれより隠れさせてくれ!頼む!」

フォール「あぁ?どういうこっちゃ」

クレア「説明してる暇ねぇから!スラが来ちまう!」

スター「え?スラリアのお姉ちゃんなら後ろにいるけど?」

クレア「へ・・・」

スラリア「ク~レ~ア~?」

クレア「アーっと・・・ハハハ・・・」

スラリア「ふぅ・・・神業・ソウルブレイク」

クレア「うわっ、何だこれ⁉︎」

クレアの視界がグラつき、頭痛が響いた。

スラリア「解除っと。お仕置きだよ」

フラット「えっと・・・何かあったの?」

クレア「気持ち悪りぃ・・・」

スラリア「えへへ、新しく封印を解いた神業だよ」

ノール「どんな神業だ?」

スラリア「詠唱通り、魂を壊すんだよ」

フラット「えっ⁉︎」

スラリア「まあこれは寿命が近い人だけにしか効かないよ。

例外だとただ魂が揺さぶられるだけ」

クレア「じゃ、じゃあ今のは・・・」

スラリア「そう、クレアの魂が揺さぶられたってこと」

スター「なんか最近のスラお姉ちゃん、調子いいよね」

ノール「父親があんな形でいなくなって寝込むかと思ってたが・・・」

スラリア「もうあたしは決めたの。自分で生きてこうって。

もう誰かを目指さないってね」

クレア「だからって変わりすぎだっての。まあ良いけどよ」

フラット「いいんだ」

ペーター「ただいま・・・おっと、出張帰りでこの有り様は流石に

ないんじゃないか?」

クレア「あ、ペーターお帰り」

エド「俺もいるっすよ!」

フラット「やっときた。じゃあ仕事もひと段落ついたし、久しぶりに

バイキングでも行こうか」

クレア「あ、待ってくれ!」

フラット「?」

クレア「その・・・えっとな・・・」

言いたいことが上手く口に出なくてクレアの視線はあちこちに

飛んでいた。

スラリア「もう、あたしが言うよ」

クレア「それはダメだ!」

スラリアの手助けをあっさりとクレアは断った。

クレア「その・・・明日からこの1ヶ月間、午前中だけ休ませてくれ!」

フラット「はぁ?」

ノール「勝手すぎだろ、私達がお前の仕事を手伝ってんだぞ、

少しは自分勝手な行動を控えるぐらいー」

クレア「手伝わなくていい!残業してでも徹夜してでも、仕事は

俺の手でやるから!頼む!」

そんな無理を言った上にクレアは土下座までした。

ペーター「・・・仕方ない、分かったよ。でも残った仕事は分担しよう。

でも、定時までは自分の手でやること。いいかい?」

クレア「ペーター・・・はい!」

ペーター「じゃあ早く立ってくれ。俺達が責めてるみたいな

光景になってるから」

クレア「あ・・・はい」

スラリア「・・・クレア、やっぱり会えて良かったね」

クレア「?何か言ったか?」

スラリア「ううん、何でも」

フラット「もう、安易に土下座なんかしないでよ!」

フォール「どうすればいいか分からんくなるだろ」

ノール「まあ行くんだろ、バイキング」

フラット「うん」

エド「バイキング早く行きたいっすよ!」

フラット「はいはい、じゃあ行こっか」

全員はオフィスをあとにした。

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