第22話 存在なき存在
ペーター「ふぅ、これで全部かな?」
深夜を回っても、オフィスでペーターは1人、仕事をしていた。
するとコピー機が動き出し、とある連絡事項が届いた。
ペーター「・・・よし、明日早速フラット君に伝えるか」
1節 地獄からの来訪者
フラット「ん・・・朝か。ふわぁ~・・・さて、エド起こさないと」
窓から漏れ出した光にフラットは目覚め、エドの部屋へ向かった。
フラット「エド、起きて・・・?なんだ、もう起きてたんだ」
エド「今日は大学っすもん。朝食食べる暇作んないと腹ペコで
講義に集中できないっすよ」
フラット「それで講義のメモがうまく取れなくて、仕方なく僕に
尋ねてきたんでしょ?ビックリしたよ、文系の僕に理系の質問してきて。
理系ならバジーに聞けばいいでしょ?」
エド「あの時、バジーは出張中だったっすもん!」
フラット「あぁ、そういえばそうだった。まあ、バトラーみたいに
赤点取んなきゃ大丈夫だから」
エド「あんなアホらしい理由での赤点留年はないっすよ」
フラット「あ、朝食は昨日のカレーがあるから温めて食べて。
僕はデ・ロワーに行かないといけないからさ」
エド「そうなんすか?じゃあ気をつけてっす!」
フラット「エドもね!じゃ、ちょっと早いけど行ってくる!」
エドにそう告げると、リビングの荷物を持ってフラットは勢いよく扉を
開き、桜が散った道へと駆けて行った。
オフィスー
フラット「おはようございます!」
ペーター「お、来てくれた。じゃあ早速だけど、この史料を
見てくれるかい?」
フラット「はい・・・え~っと、バグ星へのイベント招待⁉︎
ウソ⁉︎太陽系の外側ですよ⁉︎」
ペーター「たしかに遠い惑星で、行くだけで30万オズはかかるだろ。
でも、それ以上に大盛況だと思うよ?なんでもこれは、ジ・アフダンからの
お誘いだからね。バグ星出身のヒナちゃんが一緒にイベントで
参加してくれるみたいだしね」
フラット「えっ⁉︎あのジ・アフダンがですか⁉︎」
ペーター「まあ、この発案者は他でもないタクマ君らしいけどね。
君があんなこと言ったからやる気が入ったみたいだよ」
フラット「あんなことって・・・」
2年前ー
フラット「例えタクマがヴァイスだったからって何⁉︎過去は過去!
今は今!今更何言ったって、もうどうにもなりはしないものなんだよ!
でも、もし何かできるなら・・・戦って抵抗すればいいじゃん、
ヴァイスじゃない、本物のファイターとして」
フラット「あれは・・・成り行きというか・・・」
ペーター「成り行きであんなカッコいいセリフ言えるなら言ってみたいよ。
まあ、その日からあの課長が何言っても、タクマ君は落ち込むどころか
言い返してくるようにまでなったみたいだけど」
フラット「じゃあ、この発案に反対しても・・・」
ペーター「そう、無理矢理意見を突き通したってわけだ。いっそのこと、
タクマ君が課長になればいいのにね」
フラット「いや、タクマは課長なんかになれる器じゃないですよ。
あんな忘れ物の多いやつが課長なんかにー」
ペーター「課長になるかどうかはそんなところじゃないよ。
俺が思うには周りの雰囲気を見て、何をすべきか理解して行動できる子だ。
タクマ君ならできると思うけどな」
フラット「えぇ~、過大評価ですってそれ。近くにいる僕だから
言えますけど、タクマの視野なんて狭いですよ?」
ペーター「そうかい?芸能界の事情から世間の話題まで完璧に
ついてってるように思えるよ」
フラット「あれは・・・そうかもしれませんけど・・・」
ペーター「まあ、もうこれは決定事項だ。いつもの時間になれば
全員集まるだろうから、その時に」
フラット「えっ、もう決定したんですか⁉︎」
ペーター「あぁ、問題あるかい?」
フラット「ペーターさんは勝手すぎですよ!」
ペーター「ナックラー程ではないと思うけどなぁ」
フラット「それより、エドは午前中大学でー」
ペーターにエドは午前中大学で来られないとフラットが伝えようとした
まさにその時だった。
「大変です!大事件です!」
と、大きな声がフラットの声をかき消した。
フラット「ラルバ⁉︎どうしたの、花見客のパトロールで警察は
忙しいんじゃないの⁉︎」
ラルバ「それが、こんな男が突然空から落ちてきたんです!」
そう言うラルバの手には、フラット達の世界にはなさそうな素材で
できた服を着た若い男が映る写真があった。
ラルバ「アインと名乗っているのですが、地獄の門番だとか
変なこと言ってばっかで・・・」
フラット「・・・多分そうだと思うよ。こんな鎖でできたような服、
宇宙規模で探しても見つからないと思うよ。自作だとしても
これは流石に難しいと思う。こんな金属、見たことないもん」
ペーター「この子、連れてきてもらってもいいかい?」
ラルバ「分かりました!いやぁ、こういう相談できるのは、
どこを当たってもデ・ロワーしかないんですよ」
フラット「アッハハ、たしかにそんなこと誰が聞いても信じようとは
思わないよね。こんな時代に天国だの地獄だの。ファイターの力は
信じてるのにね」
ペーター「まあ、一般市民からしたら神の力と言うより超能力に
近いものって見えるからね」
ラルバ「今ここに送るよう指示したので、あと3分もすれば
着くと思いますよ」
フラット「デラガが来るの?」
ラルバ「あぁ~、それが新しく入った新人君です。まだ不手際が
多いので、大目に見てほしいです」
ペーター「不手際・・・?」
とペーターが首を傾げるとー
キキィ~ッ!ガッシャーン!
という衝突音がデ・ロワーの真下から聞こえた。
ラルバ「ちょ、ちょっとすみません!」
2人を押し退けてラルバは窓から下を見下ろす。そこから見えたのは
一台のパトカーがデ・ロワーの地下駐車場へ上手く曲がれずに
壁にぶつかったあとだった。
ラルバ「あっちゃ~・・・すみません。修理費はこちらが払うので」
フラット「なんか、今初めてラルバが大人に見えた」
ペーター「あぁ、俺も思った」
ラルバ「なっ、どういう意味ですか⁉︎」
フラット「だっていつもは上の言うことも聞かないバカじゃん」
ラルバ「本官だって下ができたからには流石に見本になりますよ!」
ペーター「なるほど、ただ単に自分を偽ってるだけか」
ラルバ「そうです!」
フラット「いや、そんな胸張って言えることじゃないし!」
その会話を遮るようにー
シャー・・・
という自動扉の開く音がした。
「あ、あのー・・・連れて・・・来ました~」
ボロボロになった1人の獅子型獣人の警察官を、なんと写真に映っていた
若い男が軽々と片手でオフィスまで運んできた。
フラット「へ⁉︎」
ラルバ「えっ、そいつ、体重70キロですよ⁉︎」
ペーター「あんな軽々しく持てる重さじゃない・・・」
「あの、僕は・・・?」
フラット「あ、じゃあ自己紹介お願いしていい?」
「は、はい!ぼ、僕はアイン・・・です!」
ペーター「アインか。俺はペーター・クリフト。
こっちはフラット・クラリオ君だ」
アイン「あの・・・ここはどこですか?」
フラット「さっき地獄から来たって聞いたけど、それって本当?」
アイン「はい!でも、変な穴に吸い込まれて、気づけばここに」
ペーター「てことは流れ者かな?」
アイン「いえ、僕はこの世界の地獄の者です!」
フラット「えっ・・・でも地獄って・・・」
アイン「人間の言葉で言えば地獄ですが・・・本当は奈落って言うんです。
奈落の神が作った空間を人間が地獄と名づけて・・・それより、
僕のパートナー知りませんか⁈」
ペーター「パートナー?地獄といえば・・・ケルベロスとか?」
アイン「それは空想で・・・ただの鎖でいっぱいの犬です!」
フラット「そういう情報はあったの?」
ラルバ「いえ、本官のところには来てません」
フラット「じゃあ・・・見つかるまでここにいていいよ。逆に
見つかんないと話がこれ以上進展することもないしね」
アイン「えっ・・・でも・・・」
ペーター「大丈夫、フラット君は人付き合いだけは上手いから」
フラット「ちょっと、だけって何ですか、だけって!」
ペーター「ピカイチってことだよ」
フラット「・・・ていうかそれより、アイン。落ち着くためにも
まずは座ってくれる?あとその人下ろして」
アイン「あ、は、はい!」
片手でぶら下げていた獅子型獣人の警察官をアインはドサッと落とした。
フラット「ちょ、流石に乱暴だよ!怪我してるからもっと丁寧に!
って、そんなこと言ってる場合じゃないや、この人医務室に!」
医務室ー
ラルバ「申し訳ないです、ここまでやってもらって・・・」
フラット「ラルバ、流石に素でいいよ?なんかその・・・はっきり言って
ちょっと気持ち悪いよ?」
ペーター「そうはっきりと言うなよ。分からなくもないけどさ」
ラルバ「本官は見本にならなきゃいけないんです!」
フラット「まずラルバに教官をやらせること自体おかしい話なのに・・・
まさかとは思うけど、デラガの発案とか言わないよね」
ラルバ「そうですよ?」
ペーター「完全に面倒くさがってるのが分かるな」
ラルバ「いえ、でも本官の教官はデラガだったんです。だから
教官としてのノウハウはあります!」
フラット「いや、まあ・・・いいや。それより、この人名前は?」
ラルバ「あ、紹介してなかったです!コイツは#魁__さきがけ__# ビリーです」
フラット「ビリーか。でも警察官任命試験はクリアしてるんでしょ?
よくあんなミスするのにクリアできたよね」
ラルバ「まあ、普通はあれですけど、点数は1番高かったんですよ。
つまり、本官と似てるってわけです」
ペーター「あぁ、要するに面倒とかじゃなく、いいコンビってわけか」
フラット「ぶっとびグループ」
アイン「あの~・・・」
フラット「あ、とりあえずラルバはここにいて。オフィスに戻らないと」
ラルバ「本官もコイツ連れて署に戻らないといけませんので」
フラット「どうやって連れてくのさ、70キロでしょ?」
アイン「なら僕が、て、手伝います」
フラット「とりあえず落ち着いて。緊張しなくていいから」
ペーター「いいんじゃないか?あれだけの腕力があればすぐに
パトカーに・・・ラルバ、パトカーどうするんだ?」
ラルバ「あ・・・」
フラット「この場合ってさ、責任者はラルバだよね・・・」
ラルバ「すっかり忘れてました~!パトカーの弁償代は本官1人に
来ますよね?オゥマイゴッド!」
フラット「・・・ペーターさん」
ペーター「しょうがない、今回だけ特別だよ。ラルバ、俺達の
不手際ってことにしておくから」
ラルバ「えっ⁉︎ダメですよ⁉︎」
ペーター「指導不足ともこの場合は言えないからね。社長には
話す必要がないからね。あの地下駐車場はデ・ロワーの土地じゃないし」
ラルバ「へ⁉︎どういうことですか⁉︎」
フラット「あそこは誰の土地でもないからね。特に制限のない
駐車場だから。よくヴァイスがたまるけど」
ラルバ「えぇ、いいんですかそれ」
ペーター「まあ、何もしないかぎりは無害だし、逆に不良と言うより
なんか変なやつらだし」
フラット「そうそう、ファイターファンとか!もう行く度に
サイン求められて見回りに行くのも怖いぐらい!たまに度を超えて
手合わせお願いされるけど、悪い気はしないからね」
ラルバ「えっ、でもその場合“隠れ”に該当するんじゃないですか⁈」
フラット「まあ特別だよ、特別。なんか子供と遊んでるみたいで
つい許しちゃうんだよね」
ペーター「よそで悪さを働いてない場合だけね。ファイターコードを
読み取れば経歴なんて一瞬で掴めるからね」
フラット「でも何で悪さをしたファイターのコードをストップしないんだろ。
そうすれば絶対ヴァイスなんていなくなるのに」
ペーター「それは無理だよ。ファイターコードは神力と強い#願望__ウィッシュ__#に
反応して勝手にインストールされるものだからね。更に誰が
発行しているものかも分からない。このサーバしかコードを
止めることはできないから」
ラルバ「詳しいですね」
フラット「・・・ってヤバ!ペーターさん、そろそろ時間!」
ペーター「おっと、じゃあアイン君、ビリーを運んできてくれるかい?」
フラット「あ、じゃあ僕も行っていいですか?オフィスがどこか、
分かんないかもなんで」
ペーター「あ、あぁ」
フラット「じゃあ一緒に行こっか。あのパトカーまだ使えるかな?」
アイン「どうでしょう・・・?」
ラルバ「あ、ちょっと置いてかないで下さ~い!」
3人は医務室から出て行った。
ペーター「・・・そうだよな、ここに来るのは初めてなんだから
構造は分からないはず・・・だったら何であの早さで医務室まで
来られたんだ?エレベーターを使わないと無理なはず・・・」
10分後ー
ノール「あれ、フラットはもう来てたんだ」
クレア「で、話ってなんだ?俺まだ眠いんだ・・・」
フラット「話はあるけど・・・スターは?今日土曜日で部活は
午後でしょ?なんで来てないの?」
クレア「アイツなら、ユーリックと商店街だぞ」
フラット「そっか。じゃあ後で話しといて。もうフォールはいいや」
クレア「ついに諦めた!」
ノール「まあ、諦めて当然だな。あれだけ言っても遅刻するんじゃ、
私だったらもう神器で串刺しにしてる」
フラット「ノールが隊長じゃなくて良かった」
クレア「あぁ、良かった」
ペーター「・・・あと1人は?」
クレア「スラリアなら風邪ひいてるぞ。電話したけど出なかったって
軽く怒ってたぞ」
ペーター「えっ・・・あっ、20分前に着信あったのか」
フラット「その時は医務室だったから・・・じゃあ話を始めるよ。
まず1つ目に・・・バグ星でイベントを行うことになった!セーの!」
クレア「・・・セーの?」
ノール「おい、イベント行うって発表されて、セーのなんて
やったことない流れを勝手に流すな」
フラット「今のテンションで分かんないかなぁ?」
ペーター「多分、イェーイ!ってやりたかったんじゃないかな?」
フラット「正解です!バトラーだったら絶対分かったのに」
クレア「アイツのノリの良さは俺達じゃ無理だ」
ノール「エドならやりかねないけど」
フラット「まあその件はもういいや、えっと、イベント日程は・・・
ハァ⁉︎ちょっとペーターさん⁉︎これ明日からですよ⁉︎」
ペーター「違う違う、バグ星からしたら明日だけど、こっちとは
時間が全然違うんだから。地球の時間でいったら1週間後だよ」
ノール「・・・いつも思うけど、何で1ヶ月前ぐらいから言わないの?
こんな急に言われて準備しろって案外難しいんだけど」
フラット「ホテルの予約とかイベントステージの台本とか、
やることいっぱいになっちゃうの、まだ分かんないんですか?」
クレア「いい加減にしてほしいよな。仕事が定時で終わんねぇ1週間に
なるからよ。まあ、俺の仕事は少ねぇからいいけど」
フラット「いやクレアの仕事は少ないんじゃなくって!」
ノール「ペースが遅いから私達が手伝ってるだけだ!」
クレア「あぁ~、サンキュー」
フラット「軽い!」
ノール「何だコイツ~、腹立つ~!」
フラット「もうクレアも置いといて!2つ目!出てきていいよ~!」
その声を合図に、オフィスのレストルームから着替えを終えた
アインが出てきた。
フラット「え~、しばらくの間、原因不明のゲートで地獄からの
流れ者、アインを預かることになった。え~っと、自己紹介を
お願いしてもいい?」
アイン「あの、その前に・・・スラリアさんがいるんですか?」
フラット「えっ、いるけど・・・?」
アイン「あの、会ってもいいですか?その・・・知り合いで」
クレア「知り合い⁈」
アイン「スラリアさんが子供の時、よくジャスミーさんが一緒に
連れて来ては、僕のところに預けてたんで」
フラット「あれ、でもスラリアって魂を運んでないよね?」
アイン「いえ、死神と結婚した者が魂を運ぶことになっているんで・・・」
ノール「待って!ジャスミーは死神じゃなかったの⁉︎」
アイン「はい、ヒーローでしたので、まずソルジャーでも・・・」
フラット「えっ・・・どういうこと?」
クレア「このパターンってよ・・・」
アイン「あの・・・スラリアのお父さんが死神ですけど・・・それで死神は
自分の子供と一緒にいてはいけないので・・・」
ノール「1人になった上にアリジゴクに喰われたってわけか」
ペーター「もちろんスラリアも知らないと・・・?待て待て、
だったらスラリアの存在も消えるはずだろ」
フラット「あっ・・・まさか⁉︎」
クレア「人工アリジゴクなら・・・存在消去は起こんねぇな」
フラット「でもどっちだろ・・・試験体なのか試験体に喰われたのか・・・」
ペーター「試験体だろう。それなら記憶消去だけだ」
アイン「それよりスラリアには・・・」
フラット「今はダメだと思うよ?風邪ひいてるから安静にさせないと」
アイン「そうですか・・・」
フラット「それより、問題は人工アリジゴクだよ。ゲートの暴走は
終わっても、これを止めないと結局同じだよ」
クレア「まあ、人工アリジゴクなんてよ、宇宙規模だぞ。すぐには
解決できる問題じゃないぞ」
フラット「じゃあ宇宙でイベントやって、同時に止めるってどう⁉︎」
ノール「面白そうな案、私は乗った!」
アイン「・・・いいと思います」
クレア「宇宙規模のイベントもいいかもな。俺も賛成!」
フラット「オッケー。じゃあ後は他のメンバーにも詳細は送っとくから
今日は仕事しちゃおう!」
夜、浅草大学寮ー
フラット「でさ、今日からアインを預かることになったんだ」
エド「そうなんすんね。あ、フラット、ダイヤ逃してるっすよ」
フラット「あ、本当だ。ん、松明切れた」
エド「俺もそろそろ切れるっすね」
フラット「じゃあ地上に戻ろっか。探検終わったら建築でもする?」
2人はマルチプレイでサバクラをしていた。その時、
ピンポーン!
と、チャイムが鳴った。
フラット「ちょっとポーズしといて!はーい!」
画面を止めるようエドに言って、フラットは玄関に入った。
エド「・・・あっ、いいこと思いついたっす!」
玄関ー
フラット「はーい、誰?」
スラリア「ごめん、ちょっといい?」
フラット「スラリア⁉︎風邪はいいの?」
スラリア「うん、まあ夜風に当たっても良いように厚着してるけど」
フラット「で、どうかしたの?」
スラリア「その前に入っても良い?なんかいい匂い・・・」
フラット「あ、さっきまでシチュー食べてたから」
スラリア「貰ってもいい?晩御飯まだなんだ」
フラット「あ、そうなんだ。じゃあ入って。って、クレアには
絶対言わないでよ⁈言ったらしばかれるじゃ済まないから」
スラリア「どうしよっかなぁ~?」
フラット「スラリアもただじゃ済まされないと思うけど。ていうか、
スラリアから告白したんでしょ?いいの?」
スラリア「ウグゥ、それは言わないでよ!あれはノリで・・・
もう、言わないよ!」
フラット「よし、じゃあ入って。すぐ温め直すから」
リビングー
フラット「エド、ポーズ解除・・・あれ⁉︎ダイヤ装備ない⁉︎」
エド「えっ?知らないっすよ?」
フラット「ウッソー⁉︎壊れた⁉︎」
エド「言っとくっすけど、俺は取ってないっすよ⁉︎」
フラット「あのさ・・・エドってそういう嘘苦手だよね」
エド「えっ?」
そう、エドは自分の持ち物の中からフラットのダイヤ装備を
チェストに仕舞い忘れていた。
フラット「・・・えっと、弓は取られてないから・・・」
ゲーム画面の一部が一瞬でゲームオーバーとなっていた。
フラット「おっし、取り返したっと」
スラリア「フフッ、本当に仲良いよね」
フラット「エドが悪ふざけしてくるだけだよ。いつもの甘えん坊より
嫌らしいって思うぐらいだよ」
エド「マジっすか⁉︎」
スラリア「フラットが嫌がるって相当だね」
ピンポーン!
フラット「また?」
2回目のインターホンにフラットは不思議に思った。その瞬間ー
ドンドンドン!
と、誰かが強く扉を叩く音がした。
フラット「何⁉︎ちょっとエド、見てきて!」
エド「は、はいっす!」
玄関ー
エド「ん・・・」
覗き窓からエドは外を確認した。そこには黒い鎖が見えていた。
エド「だ、誰っすか?」
「おいら、パルカ!」
エド「パルカ・・・?」
スラリア「パルカ⁉︎ちょっと待ってて!」
何の躊躇いもなくスラリアは扉を開けた。その瞬間、鎖だらけの
大きな黒犬がスラリアに飛びついた。
スラリア「キャッ⁉︎本当にパルカじゃん!どうしたの?久しぶりじゃん!」
パルカ「ご主人とはぐれたンダ!」
スラリア「アインと?でも何で地上にいるの?」
パルカ「おいら、変な穴に吸い込まれたンダ!そしたらここに
いたんダゾ!だから何も分かんナイ!」
スラリア「そっかぁ・・・でもやっぱりカワイイ!」
久々の再会によるハグとは到底思えないほど一方的かつ力強く
スラリアはパルカをハグした。
パルカ「ワハァ!嬉しいゾ!」
フラット「やばい・・・超カワイイ!」
エド「フラットの可愛いの度合いが分かんないっすよ」
フラット「それよりアインならデ・ロワーにいるから明日連れてくよ。まあ寮は動物オッケーだから今日はここにいて。
静かにお願いするよ」
パルカ「分かったゾ、静かにスル!」
スラリア「えぇ~、あたしが連れ帰りたい!」
フラット「こんな格好してる犬を連れて電車なんかに乗れないよ?
バスなんかもってのほかだし」
スラリア「そっかぁ・・・でも、本当にビックリ!50年以上は
会ってないんじゃない?」
パルカ「そうダゾ!」
スラリア「でも、あたしはそろそろ帰らないと・・・フラット、
シチューありがと。パルカのことよろしくね」
パルカ「それ、ジャスミーが前に言ってたことダゾ!立場逆ダナ!」
スラリア「フフッ、母さんに似ちゃったかな?まあ今日は色々と
大変だったけど嬉しいこともあったからいいや。じゃあ、また明日」
フラット「うん、また明日!」
スラリアは3人に手を振って、部屋を後にした。
フラット「とりあえず、パルカの部屋は・・・リビングでいいや。
お腹は空いてない?」
パルカ「へ?」
グゥ~・・・
フラット「空いてるんだ。何食べるんだろ・・・犬だし牛肉とか?」
リビングー
フラット「はい」
パルカ「ん・・・」
大きな一口で生の牛肉をパルカは頬張った。
フラット「どう?」
パルカ「・・・うんめぇ~!ナンダこれ!」
フラット「牛肉だけど?」
パルカ「牛肉!牛肉~♪牛肉牛肉~♪」
フラット「ちょ、静かに!」
パルカ「牛肉~イェーイ!」
フラット「うっさい!」
2節 太陽系を飛び出して
浅草宇宙港ー
フラット「ふわぁ~、こんな朝早くから出発するんですか?」
クレア「まだ朝の5時だぞ?」
フォール「ねみぃ~!」
ノール「ここにフォールがいることが私にとって目覚まし時計だ」
スラリア「もう宇宙船の中で寝たいよ」
スター「兄ちゃん・・・コーヒー」
クレア「コーヒーって・・・あ、あった。ちょっと待ってて」
自動販売機にコーヒーがあったのをクレアは見つけて一本購入し、
それを開けてスターに渡した。
スター「ありがと~・・・」
ゆっくりとコーヒーを飲んでいくスター。するとだんだんスターの顔が
赤くなっていった。
クレア「・・・ましゃか・・・!」
フラット「やっばー!ちょっと待ってよ、コーヒーだったの⁉︎」
まさかのスターにとってのアルコール成分はコーヒーだった。
クレア「同じ風神でも違うのかよ⁉︎」
ノール「これ、まずいんじゃないの⁈」
フォール「よっと、任せとけ。フッ!」
軽くフォールはスターに手刀し、気を失わせた。
フォール「こうするしかないだろ。酔いが覚めるまで寝させとけ」
フラット「そうだね・・・まあ酔わずとも・・・」
エド「グゴォォ・・・ガゴォォ・・・」
フラット「寝てるやつもいるけど」
スラリア「でも2人はどこ行ったの?」
クレア「アイツらならもうすぐ来るぞ」
アイン「すみませーん!遅れました!」
パルカ「ここ凄いナ!カッコいい!」
ノール「パルカがはしゃいだのか。しかも宇宙船で」
クレア「俺達にとっては当たり前なんだがな・・・」
フラット「太陽系より外に出る方に驚くならまだいいけど」
放送「午前5時27分発の、バグ星行きの宇宙船の点検が終了いたしました。
お乗りのお客様は、荷物を預けてからお乗りください。その際に
手渡される黄色のバンドは、腕から外さないでください。また大気圏から
出る際には、必ず通信道具に電源をお切りください。パラレルストーンの
力で、故障する可能性があります」
ペーター「よし、行こうか」
フラット「ペーターさん!」
ペーター「なんだい?」
フラット「鞄にタグが付きっぱなしです」
ペーター「あっ・・・ありがとう!」
ノール「デ・ロワーの課長なんだからシャンとして」
ペーター「ハッハハ、いやぁ、全く気づかなかったよ」
スラリア「じゃあまず荷物預けに行こ!」
検問所ー
担当員「はい、書類と荷物の情報が一致しましたのでお預かりします。
それではこの黄色のバンドを必ず腕につけておいてください。
宇宙船内で確認されますので」
ペーター「分かりました、ありがとうございます」
全員にペーターはバンドを配ると、検問所を後にして全員は
宇宙船に乗った。
宇宙船、広場にてー
フラット「やっぱ広い・・・!」
クレア「じゃあ俺はまた特訓でもするか」
スラリア「とりあえずあたしは客室でスターちゃんを寝かせてくるね」
ペーター「もう酔いもさめてきたかな?」
ノール「覚めてても寝かせておいた方がいい。疲れてそうだし」
フラット「現役高校生じゃ疲れて当たり前だよ。ていうか、
ケーベス達も来るようなこと言ってたけど本当かな?」
3日前ー
ケーベス「うぉ!バグ星行くのか!なら俺達も行くぞ!」
コータス「おいおい、無茶言うなよ」
メダイ「そうだよ!」
フラット「まあ、冗談に決まってるか。じゃあ僕はショッピングルームで
暇つぶしついでに朝食買っとこ」
ノール「私もそうする。とりあえず何か飲みたい」
フラット「まずはエドを寝かせてからだけどね。もう、こんなに
眠りが深いのバトラーだけだと思ってたよ」
アイン「すご~い!パルカ、探検しようか!」
パルカ「ガッテンダ!」
2人は広場を探検するために走っていった。
フラット「・・・まぁ、地獄とここじゃ、時の流れが全然違うのかな」
スラリア「それじゃ、とりあえず出発時間近いから客室に行こうよ」
ノール「そうだな。大気圏から抜け出したら自由行動にすれば
それでいいか。昼に着くんだっけ?」
ペーター「そうだよ、でもワープを起動するときには客室にいてくれよ?」
フラット「分かりました。それじゃ、とりあえず客室に行って
大気圏から抜け出すまでは待機」
全員「はーい!」
1時間後、客室ー
フラット「・・・まあ僕達にも責任はあったよ。でも、放送かかったよね、
客室に戻るようにって。僕達の客室の場所も教えておいたよね、
予約した時に。それで分かったって言ったじゃん。それでさ?
放送かかったから流石に帰ってくると思ったよ。何で放送あったのに
来ないわけ?流石にないよ?」
スラリア「フラット、まだ2人は来たばっかでここのルールなんて
分かんないって。2人を放っておいたあたし達が悪いって!」
ペーター「今回は俺達にも2人にも非がある。でも、流石に放送が
あったら帰ってきてほしかった」
ノール「保育園児でもあの放送には従うだろ。ちょっとコイツら、
大丈夫?支障きたしそうなんだけど」
クレア「まあ、最初は失敗するもんだ、気にすんな。お前達も
そんな責めてやんなって」
フォール「そんな怒ってやんなよ。特にフラットはらしくないぞ」
フラット「あのね、集団行動においては怒らないとまずいよ?
それにこれ、僕達だけじゃなくて宇宙船の出発時間までずらしてるから。
お客さんにも迷惑かけたんだよ?」
フォール「だったら聞くけどよ!俺はどうなんだよ⁉︎」
フラット「今それは関係ないでしょ!」
フォール「関係ねぇことだったら言わねぇよ!」
クレア「おいお前らがケンカしてどうすんだよ!」
急に口論を始めた2人の間にクレアが仲裁に入った。
アイン「ごめんなさい!僕達のせいで・・・」
フラット「・・・ごめん、ちょっと言いすぎた」
ペーター「ふぅ、クレア君、ありがとう」
クレア「いや、第一こっちに来たばっかのやつにここのルールを
押し付けたところで通用するわけねぇし」
スラリア「まだあたし達がついてないとダメなんだよ」
フォール「ったく、少しは考えてやれよ」
ノール「まあ・・・そうだな」
フラット「はぁ・・・」
ペーター「・・・フラット君、たまにはストレス発散しないと
ダメだよ。折角だし特訓でもしてくるかい?」
フラット「そうします」
放送「大気圏を抜けました。お客様にご案内します。当機は
1時間遅れでバグ星に向かっています。なるべく定着するよう
心掛けます。ご迷惑をおかけいたしますこと、大変お詫び申し上げます」
フラット「それじゃ、行ってきます」
ペーター「あぁ、ちょっとは気分転換してこい」
特訓ルーム
フラット「ハァ、ダメだ、全然スカッとしない」
クレア「当たり前だろ、お前のはストレスというより欲求不満だろ」
フラット「えっ⁉︎なわけないよ!」
クレア「お前・・・何を想像したかは分かったが違うぞ」
フラット「あ、違う?」
クレア「なんつうんだ、やりたいことやれてないって感じだ」
フラット「まあ・・・そうかも。最近全然自由じゃなかったし・・・」
クレア「だろ?別に誰もお前に頼ってねぇのに勝手に手伝うからだろ?
それにお前、毎日出勤してるしよ。1週間に3日オフィスに行けば
いいんだぞ?1週間全部出勤したとこで給料は増えんぞ」
フラット「分かってるけどさ、1人じゃ行くあてないし」
クレア「なら俺のシフトに合わせるか?それだったら俺とスターと
一緒に遊べるぞ?」
フラット「遊ぶ・・・か。ごめん、僕にとっての遊びってゲームぐらいしか
ないんだけど・・・」
クレア「まあ、あのゲームマニアと一緒ならそうなるわな。
じゃあ着いたら俺が休日の過ごし方教えてやんよ」
フラット「じゃあお願いしよっかな。あっと、忘れてた!朝食を
買ってこようと思ってたんだ!」
クレア「折角だ、レストラン街で食えばいいだろ」
フラット「あ、それもそうだね」
宇宙船、レストランー
フラット「じゃあ僕の分は僕でー」
クレア「まずそこがダメなんだ、金のこととか気にしなくていいし。
お前の好きなの頼みゃあいいんだ。ちなみに俺はこんな感じだ」
クレアはフラットに自分の注文したものをタブレットで見せた。
フラット「食べんの⁉︎こんなに⁈」
クレア「いや、お前の分もだ。どうせ遠慮するだろ?」
フラット「へ⁉︎まさか先払いしたの⁈」
クレア「あぁ、いいだろ?俺の勝手だし、そこは」
フラット「いや・・・」
クレア「そこもダメだ、気の遣いすぎ!お前は人一倍気を遣うんだ、
だからやりてぇこともできねぇんだろ?」
フラット「そうなのかな・・・?」
クレア「そうじゃなかったら何なんだよ。まっ、いつも世話に
なってる礼だ、受け取ってくれよ」
フラット「何もお金で・・・分かったよ、でもこういうのはなるべく控えてよ。
#贔屓__ひいき__#されてるみたいだから」
クレア「気にしすぎだっての。ていうかお前は隊長だろ?贔屓されても
いいじゃねぇか」
フラット「・・・僕なんかが贔屓されても、得なんかないよ?」
クレア「お前、さっきからなんだよ⁉︎ちょっとは自信持て!
俺からしたらお前、めっちゃ羨ましいやつだぞ!」
フラット「羨ましい・・・?」
クレア「だってよ、好き嫌いなく人と接して、それで強くて、
頼りになる!お前がそんな卑屈になる理由なんか、どこにもねぇよ!」
フラット「買い被りすぎだよ。僕には才能なんか何にもー」
クレア「あぁ!もういい!何でお前みたいな分からず屋にばっか
才能ってやつは集まるんだよ!もう知らね、じゃな!」
ついにクレアの堪忍袋の尾が切れてレストランから出ていってしまった。
フラット「・・・分からず屋・・・」
100年以上前ー
ナックル「お前ってスゲェよな!こんなちっこいくせに頭いいとか
マジで羨ましいぜ!」
フラット「僕なんかを羨まない方がいいよ。何にも才能なんか
ありやしないから・・・」
ナックル「何言ってんだよ。あ、謙虚してんのか?子供らしくねぇな?」
フラット「違うの!本当に僕なんかに才能なんか何もないの!」
ナックル「なっ・・・お前、バカじゃねぇの⁉︎俺が褒めてやってんのに
何怒ってんだよ!」
フラット「だって才能なんか、僕は欲しくないもん!」
ナックル「この分からず屋!」
フラット「・・・才能なんか・・・僕はいらない!」
その言葉をフラットのそばの窓からこっそりとー
クレア「・・・いらない、か。だったら何が欲しいんだ?才能なしに
生きてくのは辛いだけだ。俺みたいになるぞ、フラット」
クレアは何の才も金なく一人で彷徨っていたあの頃を思い出しながら
一人でそう囁いた。
2時間後ー
放送「遅延の回復ができました。これよりワープ機能を展開します。
客席から出ている方は、大変ご迷惑をおかけいたしますがお戻りに
なさるよう、お願い致します」
客室ー
フラット「・・・」
ペーター「フラット君・・・?」
クレア「・・・フラット。聞いてもいいか?才能が欲しくねぇって言うならよ、
逆に何が欲しいんだ?まさかと思うけどな、すっとこどっこいが
いた日々なんて答えねぇよな?」
フラット「・・・だったら何?」
クレア「・・・っ!このっ!」
ノール「やめて!ケンカしてる場合?今のうちにイベントの会議を
やるって話だったはずだろ?」
クレア「こんな状況でやれるとでも思ってるのか⁈」
ペーター「君達!今は落ち着きなさい」
スラリア「でも、いつも仕切ってるフラットがこの調子じゃ・・・」
フラット「・・・ごめん」
クレア「謝ってれば済むとでも思ってんのか?あぁ、許されるだろうな。
お前には隊長になれるっていう、お前にとって無駄な才能が
ありまくってんだからよ!」
ノール「クレア、それは言い過ぎだ!」
スラリア「そうだよ、謝った方がー」
クレア「コイツが自分で言ったことだぞ。俺の言葉じゃねぇ」
ペーター「フラット君・・・急にどうしたんだい?」
フラット「いえ・・・別に」
放送「ワープ終了しました。客席のロックを解除します」
フラット「・・・お手洗い行ってきます」
いつもよりトーンの低い声でフラットは出ていった。
スター「ふわぁ~、あれ・・・寝てた?」
スラリア「あ、おはよう、スターちゃん」
ノール「・・・とりあえず、イベントどうするか考えよう。今のままじゃ
何もなんないから」
クレア「隊長がこんなんで本当にできると思ってるのか?」
ペーター「しかしなぁ・・・フラット君以外に任せるのは無理があると
思うけどな。こんな時にナックラーがいればなぁ」
クレア「ペーターまでそんなこと言うのか⁈」
ペーター「俺だから言えるんだ。デ・ロワーができる前の土地は
俺が経営していた孤児院だ。そこにフラット君とナックラーがいてな。
家族以上に仲が良かった」
フラットが中学生の頃ー
ナックル「ったく、お前は慌てん坊すぎだぞ。何で遅刻寸前って
わけでもねぇのに猛スピードで自転車漕ぐんだよ。だから転んで
怪我すんだろ?」
フラット「うん・・・ハァ、遅刻かも」
ペーター「何してるんだい?遅刻するぞ」
ナックル「コイツがそこの曲がり角で転んでよ。仕方なく戻ってんだ。
こりゃ遅刻だな」
フラット「ごめん、迷惑かけて」
ナックル「なぁに、お前と遅刻なら全然問題ないぜ。逆に俺のせいで
お前が遅刻した数の方が多いと思うぜ」
ペーター「フラット君、コイツが起きんの待ってなくていいからね。
学校から相談の電話が来ると思ってなかったよ」
フラット「でも・・・置いてったらバトラーが可哀想だし・・・」
ペーター「兄弟みたいだな、君達は。しょうがない、車で送るよ。
あんまり人を乗せて運転したことないから不安だけどね」
ナックル「マジか⁉︎遅刻回避できるぜ!」
フラット「折角だし遅刻しそうな時は送ってってもらお!」
ペーター「こらこら、それはダメだろ」
ペーター「似た者同士で、互いのことをよく分かり合ってた。
フラット君からしたらかけがえのない存在だったのかもしれないよ」
ノール「家族を失ったようなものってわけか。我慢し続ける方が
よっぽど辛いな」
クレア「・・・それだけであんな態度とるかよ。自責してたんだぞ。
自分には才能なんかいらないってよ」
ペーター「そのセリフ・・・ナックラーも聞いたことあるとか
言ってたな。アイツと会うまでの間に何かあったらしいが・・・
曖昧なんだよな、子供だけあって言葉足らずで」
スラリア「だったらあたしに任せてください!これでもお悩み相談とかは
よく受け付けてたんですよ?」
クレア「どこでだよ」
スラリア「えっ?魂の」
ノール「フラットがそんな単純に悩みを打ち明けるわけないと思うけど」
スラリア「ううん、あたしは慣れてるから。大丈夫、任せてよ」
そう言うと、スラリアはVサインを見せて客室を後にした。
広場ー
フラット「ハァ・・・ダメだな」
トイレというのを口実に、フラットは広場のベンチで座っていた。
スラリア「あっ、見~つけた!何してんの?」
フラット「スラリア・・・別に何も?」
スラリア「ふぅん・・・じゃあ話そうよ。さっきのことは忘れてさ。」
フラット「・・・話すって何を?」
スラリア「フラットってさ、あたしより弱虫だよね」
フラット「は、へ⁉︎」
スラリア「あたしだったら、自分に素直になっちゃうのに。
いっつも思ってたんだ、フラットは強がりさんだなぁって」
フラット「別に強がってなんか・・・」
スラリアにそう言われたフラットの目線は、斜め45度を見ていた。
お悩み相談は得意だと自負していただけあってスラリアはー
スラリア「じゃあ話題変えるね。なっくんのこと、今でも悲しい?」
フラット「正直言うとね。でも今更何言っても、もう何もなんないからね。
諦めたって言うのかな」
スラリア「・・・ねぇ、クレアから聞いちゃったけどさ、才能なんか
欲しくないの?」
フラット「結局その話?」
スラリア「いいから聞いて。才能がいらないって言うなら何で今まで
あたし達と一緒にいたの?おかしい話だよ。ファイター自体、
才能なんじゃないの?ファイターだけじゃない、何かをするにしても
才能はあるんだよ。才能がいらないって言ったら、一人ぼっちに
なっちゃうんだよ?それでいいの?」
フラット「・・・どっちにしても、僕は1人だよ」
スラリア「へ?」
フラット「僕を知ってる存在は、もう僕以上にいないんだから」
スラリア「・・・当たり前だよ!あたし達がどうやってフラットのことを
理解できるわけ⁉︎あたし達はフラットとは他人なんだから!
分かりたくたって・・・分かるわけない!」
フラット「・・・」
クレア「スラ、もういい」
2人の会話をこっそりと聞いていたクレアが割って入った。
クレア「自分から何も言わずに理解してねぇって言ったな?
俺達はな、全知全能の神様じゃなくて、ただの友人なんだよ!
長い付き合いでも、深い仲でもねぇんだ!お前から何も言わねぇのに
俺達がお前のこと知れるわけねぇだろうが!」
フラット「クレア・・・」
クレア「でもよ、俺達がずっとそばにいるだろ!頼ってほしいんだ!
だから俺達が頼ってんだろ!何で返してくれねぇんだよ!ボールは
キャッチしたら返すもんだろ!」
フラット「・・・本当に?」
クレア「あぁ、そうやって友達から親友になるもんだろ?お前と
あのすっとこどっこいも仲良くなったんだろ?俺達が代わりに
なりてぇんだ!だってよ・・・お前の言葉がなかったら、俺達は
ここにいなかったぞ?」
フラット「・・・分かった、話すよ。でも、いつかね。ありがとう、
なんかスッとした」
クレア「まあ、今すぐ話せとは言わんわ。とにかく、困ったら
俺達に絶対言えよ。言いたいのはそれだけだ」
スラリア「・・・もう、いいとこ取りされた。まあ、あたしが
言いたかったのも同じだから。他のみんなもおんなじだよ。
あたし達に頼ってくれて全然構わないから。それじゃ!」
フラット「あっ、待って!イベントについての会議・・・やろっか。
今日はみんなの意見もちゃんと聞きたいからみんなで進行しよっか!」
スラリア「分かった!じゃあ早速やろ!」
2人は先に客室へ向かったクレアを気にせずにゆっくりと帰っていった。
それと同時にー
放送「間もなく太陽系を抜け、もう一度ワープ機能を使いますので
お手数をおかけしますが客席にお戻りくださいますよう、お願い致します」
3節 虫の世界
放送「バグ星に到着致しました。荷物は宇宙港の中でお返しされますので
お間違いのないよう、ご確認ください」
フラット「着いたー!」
ノール「やっとか。本当に遅延は何とかなったみたいで良かった」
アイン「あの、これからは気をつけます。パルカも!」
パルカ「ご主人の命令には絶対ダ!おいら、守るゾ!」
スラリア「2人もすっかり元通りだね。一安心だよ」
クレア「やっと落ち着けるな。とりあえず宿に向かいたいんだが・・・
どこにあるんだ?」
ペーター「ちょっと待ってくれ。案内役がいるからね」
ヒナ「あっ、みんな来た!今日は私の故郷にようこそ!」
フラット「あれ、タクマは?発案者ならいるはずだよね?」
ヒナ「タクマなら衣装合わせに行ってるよ。それより・・・ノールちゃん!
すっごい可愛い!コーデ変えたんだ!似合ってるよ!」
ノール「そ、そう?ありがとう・・・」
ヒナ「男組は全然だけどね~。スラちゃんもそう思うでしょ?」
スラリア「そうだよね~、でもこの服はクレアがくれたものだし、
あたしがクレアのコーデ考えようかなって」
ヒナ「それいいかも!スラちゃんのコーディネート、
めっちゃメロってるもん!クレア君が更にイケメンになるよ!」
ノール「メロってる・・・本当に流行に乗るんだ、アイドルって」
パルカ「ワハァ~、ここ、空気美味いゾ!」
アイン「あの~、宿は?」
フォール「荷物がまだだろ?とりあえず早くこねぇかな」
荷物返納ロボ「お待たせしました。デ・ロワーからお越しの
10名様でお間違い無いでしょうか?」
ペーター「あぁ、暗証番号は7533」
荷物返納ロボ「一致いたしました。こちら荷物です。長旅お疲れ様でした」
ペーター「じゃあ全員分の荷物あるから取ってってくれるかい?」
フラット「じゃあ僕が配ります。えっと・・・これ、スターのだよね。
はい、可愛いキャリーバッグ」
スター「違うよ、それ、ノールのだよ?」
ノール「ちょ、言わないで!フラット、それはスターのだ、
私じゃなくてスターに渡せ」
フラット「・・・別に何も言ってないけど?それに言う気もないし」
ノール「なら・・・ん」
フラットの手からデコられたキャリーバッグをノールは返してもらった。
クレア「やっぱ人は見かけによらないんだなぁ。あんなノリの悪い女が
テッカテカにデコるなんて思いもしなかったわ」
スラリア「あ、その黒の革の鞄、クレアのだから。あたしのは
水色のやつ」
フラット「そう言うクレアも案外地味じゃん」
ノール「じゃあその龍柄のは・・・」
ペーター「エドのだろうな。いまだに寝てるな」
エド「グゥ~、ガァ~」
フラット「しょうがない、たしかこの中に・・・あった!」
エドのキャリーバッグからフラットはポリ袋に入ったキウイを
勝手に取り出し、それをエドの鼻先に近づけた。
エド「ん・・・!キウイ、キウイどこっすか⁉︎」
フラット「わわっ、ちょ、爪、爪!痛い!」
エドは鼻を刺激したキウイに匂いに飛び起きて、フラットの肩に
無意識で爪をたてていた。
エド「あっ・・・ごめんなさいっす」
フラット「ってて・・・もう、これ没収だよ!」
エド「えっ、フラットが一個なら良いって言ったんじゃないっすか!」
フラット「じゃあ、このもう一個は何?」
エド「あっ・・・それはその・・・バレちゃったっすか?」
フラット「・・・で、この大きすぎるのが・・・フォールだよね。
中身は言わずとも音で分かるよ」
フォール「おっ、じゃあー」
フラット「お酒でしょ、ダメ」
フォール「ダメ・・・ダメ⁉︎おいおい、検問所で問題なかったんだし
別に良いだろ⁉︎」
フラット「こんな量あって問題なしってことは許可証を書いたんでしょ?
一応聞くけど、お酒しか持ってきてないって言わないよね?」
フォール「ギクっ・・・」
フラット「ペーターさん、フォールは強制輸送で良いですか?
流石に有り得ませんよね?」
ペーター「追加で始末書も書かせておくよ。こんなんじゃイベントに
出せるわけないし。やってくれて構わないよ」
フラット「じゃあ・・・すみませーん!」
フォール「よしっ!」
そう囁いたフォールの声がフラットに聞こえてー
フラット「・・・ペーターさん、フォールには雑務にしませんか?
イベント出演もありで。結構きついと思いますよ?照明やって
出番が来たら舞台に上がる。どうですか?」
ペーター「荷物はどうするんだい?」
フラット「それはバジーに頼んで転送ロッカーで」
ヒナ「いいけど、少ないよ?ここら辺だとこの宇宙港にある
5個しか無いし・・・」
「問題ないぞ。携帯用の転送ロッカー、ちゃんと持ってきたんだ」
クレア「ん・・・ん⁉︎お前ら、いたのか⁉︎」
メダイ「おひさ~、復興の方は任せろってさ」
コータス「ダンステードのおっちゃんが張り切って言ってくれたから
俺達は休日ってことで」
ケーベス「フラットのお誘いに乗ったわけだ。折角だし、改良した
俺達だけの宇宙船でな」
フラット「誘ったと言うより教えただけなんだけど・・・流石に
今回は自費だよ?」
コータス「自費⁉︎無理だっての!」
ケーベス「俺の金でも2人分は無理だぞ⁉︎」
ヒナ「ねぇ、もしかしてノープランで来たって言わないよね?」
メダイ「大丈夫!この鞄の中に・・・あれ?そういえばコータスに
計画表渡さなかったっけ?」
コータス「ん?そんなの貰ってたな・・・あっ!」
ケーベス「おいお前、宇宙船でジュース溢してたよな?それ拭いたの、
なんか紙っぽかったけど、お前まさか⁉︎」
コータス「あ~・・・ヤッベェ、バイオマス燃料に入れちまった」
メダイ「えぇ~⁉︎あれに私達のバーコードと写真もあったんだよ⁉︎」
ヒナ「じゃあ3人は帰んないとね」
ケーベス「マジでかよ・・・」
完全に元凶のコータスは2人に睨まれていた。
コータス「ウグゥ・・・俺が悪かったって。2人の分は俺が出すから
チャラってことにしてくれねぇか?」
フラット「・・・ハァ。でも、携帯用の転送ロッカーがないと
困るから・・・メダイ、追加料金だけどデータ確認してもらって
再発行してくればどう?」
メダイ「・・・そうだね。でもさ、追加料金払ってくれない?」
フラット「まあ、そのぐらいなら・・・」
案内所ー
「はいはい、つまり旅行予約表を紛失したってこと。じゃあ今から
データを拾うから待ってて」
フラット「なんか・・・どっかで聞いたことのある声だけど・・・」
ヒナ「・・・まさかね」
その声を聴いてヒナはどこかに気づいた。
「ん、これ?」
ヒナ「あっ!」
窓口の中で振り返った顔を見てつい声を出した。そこにいたのはー
ダバンゴ「なっ、お前らかよ!」
ヒナ「どうしたの?ガスペラス星の出身だよね?何でまたバグ星に
いるの?もしかして、賊のお仕事って言わないよね?」
ダバンゴ「あ~、実を言うとな、帰ってすぐ追い出されたんだ」
フラット「追い出された⁉︎何で⁉︎」
ダバンゴ「俺様はファイターになっちまったろ?裏切り者だとよ」
ケーベス「・・・どうする気なんだ?こっから」
ダバンゴ「知らね。行き詰まって死ぬかもしんねぇな。俺様が
賊の1人だとバレたら、もう終わりだぜ」
ケーベス「・・・仕方ねぇなぁ。そんなこと気にしねぇ職場から
オファーがかかるようにしてやんよ。ちょっと目閉じてな」
ダバンゴ「な、何しやがる⁈」
ほぼ強引にケーベスはダバンゴの瞼を閉ざして、彼にしか扱えない、
あの術を使った。
ケーベス「よし、終わりだ。へへっ、まぁ、その時を待ってな」
ダバンゴ「っとに何しやがった⁉︎」
ケーベス「いつか分かるさ。それより早くしてほしいんですけど?」
ダバンゴ「ちぃっ!わーってるよ!」
メダイ「ケーベスも相変わらずだね」
ヒナ「ねぇ、結局何したの?」
ケーベス「まぁ、悩みを消すのが俺の能力だ。いつか仕事が
決まるはずさ」
ヒナ「・・・ダバ君!実は・・・その・・・ううん、決まってから言うね。
まだ早いと思うから」
ダバンゴ「ダァラ、ダバ君はやめろと言ってるだろ!ったく、調子狂うぜ」
ノール「それで再発行はできたのか?」
ダバンゴ「あぁん?できたに決まってんだろ。ほらよ、その代わり、
2度とくんな。いいな?」
フォール「おいおい、流石にその態度はないだろ?」
エド「フォールが言えた義理でもないっすよ」
フォール「そんぐらい、俺でも分かってるがな・・・」
メダイ「良かったぁ、これで何とかなるよ」
ケーベス「フラット、頼む」
フラット「まあ、僕達の分は交通費だからね。このぐらいは
全然大丈夫。いくらだっけ?」
ダバンゴ「2000オズだ」
フラット「はい。丁度だよ」
ダバンゴ「たしかに」
フラット「それじゃ、ヒナちゃん。宿まで案内お願い」
ヒナ「分かった!こっちだよ!」
ペーター「ふぅ、着いて早々大変だ」
宿ー
ヒナ「え~っと・・・男部屋がこっちで女部屋がこっち。でも・・・
慣れてる?こういう感じの部屋」
宿の部屋はまるで太い木をくり抜いたような作りで、風通しも良く、
窓からはバグ星の恒星であるファイアフライの光が差し込んでいた。
それは良かったのだがー
ノール「男部屋と女部屋の壁って、こんな紙っぺらだけ⁉︎」
ヒナ「あ、それは葉っぱだよ。しかも音を吸収してくれるね」
スラリア「葉っぱ⁉︎こんな大きいのが⁈」
パルカ「ご主人様!虫捕まえたゾ!」
アイン「うわっ、ちょ、それは・・・!」
ヒナ「ダメだよ!早く離して!」
羽を掴まれていたアゲハ蝶を、パルカの手からヒナは優しく取った。
ヒナ「バグ星で虫を取るのは犯罪だよ。絶対取っちゃダメ。
見るのならいいけど」
パルカ「う~、分かっタゾ」
スラリア「ワ~、やっぱカワイイな~!もうギューってしたい!
あのシュン顔にギュッてしたい!」
フラット「ちょっと・・・気持ち悪いよ?」
スター「スラリアのお姉ちゃんってこんなこと言うの?スター、
ちょっと怖い・・・」
クレア「おい、別に普通だろ?」
フラット「へ⁉︎普通⁉︎これが⁈」
メダイ「男の子とか小さい子には分かんないか。これっくらいの時は
何でもかんでも可愛いって思えちゃうんだよね」
ノール「そうだな、私もこういう地味なのも、逆に派手なのも
可愛いと思ってる」
ケーベス「ただ単に極端なだけにしか思えねぇけどな?ま、それより
俺達とお前達とは流石に部屋は別だ」
コータス「旅行でまわる場所もな。それにお前達はイベントで
忙しいだろ?俺達と同じようにはー」
フラット「えっ?何言ってんの、来てもらったからにはイベント準備に
付き合ってほしいんだけど」
メダイ「えぇ⁉︎何で⁈」
フラット「冗談。コータスがあんなこと言うから仕返しにね」
ケーベス「コータス、お前はよくフラットに大口叩けるよ。
お前が初めて雷蛇鬼として負けたやつだぞ」
コータス「それは言うな!ったく・・・」
メダイ「2人とも!早く来て!」
コータス「お、おう!」
ケーベス「じゃあな、とにかく助かった」
フラット「うん、コータスの世話はちゃんとやってよ?」
ケーベス「分かってるっての。お前も頑張れよ」
フラット「はいはい、大丈夫だよ」
ケーベス「ん・・・そうか」
少し不思議そうにケーベスは首を傾けたが、まあいいか、と言う風に
振り返ってメダイ達の方に行った。
ヒナ「フラット、もうみんな部屋入ったよ?」
フラット「あ、今行くよ!」
男部屋ー
アイン「自然豊かですね・・・こんなの、初めて見たかも」
パルカ「ご主人様、散歩、散歩!」
アイン「分かった分かった、散歩だな。すみません、ちょっと外に
行ってます。流石にもう分かってますので」
フラット「一応、スラリアと行ったら?」
クレア「なっ、俺が行く!俺が行くからスラには行かすな!」
フラット「な、何?スラリアに何かあるの?」
クレア「俺が許さん!」
アイン「・・・こういう男って、大抵すぐに嫌われますよね」
エド「そうっすね、恋愛ドラマで言うところのハズレ君っすよ」
クレア「どういうことだ⁉︎」
フラット「知り合いと一緒になることも許さないって、心が
狭すぎって言ってんの」
エド「まあ、スラリアもそれを承知で付き合ってるとは思うっすけど、
もうちょっと考えてほしいはずっすよ?」
クレア「・・・分かったよ。ただな、スラに何かしたらただじゃおかねぇぞ」
アイン「は、はぁ・・・パルカ、行こうか」
パルカ「ヤッタ、ヤッタ!散歩ダ散歩ダ~!」
アインは、はしゃぐパルカを連れて廊下に出ていった。
女部屋ー
スター「いったーい!」
ノール「私の服を汚した分!」
スラリア「まあまあ、落ち着いてよ。スターちゃんがわざと
ノールの服にジュースをこぼしたわけじゃないんだし、許してあげてよ。
それに、大人気ないよ?」
ノール「いやでも・・・折角キルユウがくれた服なのに・・・」
スター「・・・ごめんなさい」
スラリア「ほら、スターちゃんも謝ってることだし、ね?それにジュースなら
汚れも取れるって。今日は着替えよ?」
ノール「・・・分かった。でも、ちょっと待って。荷物がそこだから
取ってほしい」
スラリア「あ~、動くと床が濡れちゃうからね。はい、ノールの鞄。
本当に可愛いよね、どこで買ったの?」
ノール「マドールの店だけど?」
スラリア「えっ、じゃあ高かったでしょ⁉︎」
ノール「いや、処分品で安く買えた」
スラリア「え~、いいなぁ」
#和気藹々__わきあいあい__#と女子談義が続いていたがー
コンコン
スラリア「あれ、誰だろ・・・ちょっと見てくるね」
小走りでスラリアは扉を開けた。
アイン「あ、ちょうど良かった。今からパルカの散歩なんだけど
一緒に行かない?」
スラリア「えっ、いいの⁈行く行く!」
パルカ「お、すぐに食いついタ!」
アイン「なるべく早く帰ってこれるようにするよ」
スラリア「もしかして、監視役ってわけじゃないよね?」
アイン「グッ・・・流石はスラリア、勘が鋭い」
スラリア「まあ、いいけどね。じゃあ、ちょっと行ってくるね~!」
ノール「いいけど、昼ごはんどうするつもり?」
スター「ヒナちゃんもいないから文字が読めないと思うけど?」
スラリア「えっ、お菓子持ってきてないの?もう、少しは考えて
荷物まとめてきたらどう?」
ノール「・・・それはその通りだな」
スター「でも、なんか鼻につく言い方だよね」
ノール「お、そういう日本語も覚えたか」
スター「えへへ・・・」
スラリア「まあ、行ってるよ。じゃあ、また後で。行こっか」
アイン「うん、散歩だぞ、パルカ!」
パルカ「わーい!」
スラリア「ちょ、ちょっとは待ってよぉ~!」
3人は慌てて出ていった。
河原ー
スラリア「でも、凄いね。お昼なのに空がオレンジ色だよ」
アイン「僕のとこだとこんな感じだけど・・・」
パルカ「こっちだと珍しいノカ?」
スラリア「うん、こんなの夕焼けとかでしか見たことないから、
何か変な気分・・・そうだ!暇な時にこそ、これがあった!」
スラリアは引いていたキャリーバッグから、スケッチブックと
絵の具を取り出した。
スラリア「まだ3ページしか使ってなかったっけ・・・よぉし、
久しぶりに描くぞー!」
その声に、1人の男が耳を尖らせた。
アイン「本当にスラリアは絵を描くの好きだよね、昔っから」
パルカ「地獄のみんな、それ見て笑顔なっタ!」
スラリア「そんなことないよ、あたしの絵なんて・・・」
男「・・・スラ・・・くそっ!」
路地裏にいたその男は、そのままより深くへと消えていった。
スラリア「?」
アイン「?何か?」
スラリア「ううん、気のせいだと思う。それより、絵に集中しないと!」
男「・・・こんな体じゃなかったら・・・くそっ!」
そう嘆く男の元に着信が入った。
通信相手「貴様、どの口が言っている?それに言ったはずだ。
お前の思考は私にも見えている。素直に従え」
男「・・・従うも何も、命令が降ってないぞ?」
通信相手「貴様の思考を邪魔するよう指示したよな?」
男「まさか・・・⁉︎そんなくだらない理由でアイツをー」
通信相手「そうか・・・だったら契約は破棄する。これがどういう意味か、
貴様ならよく分かるだろ?」
男「くっ・・・!」
通信相手「まあ、考えておくんだな、ハッハハ、ハーッハハハハ!」
その笑い声を残して、通信は終えられた。
男「・・・スラリア・・・!」
夜ー
フラット「良かった、ちゃんと帰ってきてくれて」
アイン「スラリアが帰りそうになかったんですけどね。まだ絵の
途中だから完成させてって」
パルカ「でも、おいらの似顔絵貰っタゾ!」
スラリア「それはすぐに描けたよ。パルカみたいな犬の絵なら
得意だったから」
フラット「そんなに芸術系好きなの?」
スラリア「うん、大学も静海美術大学だったから」
ノール「ウソ⁉︎あそこ、普通に偏差値も高いとこだろ⁉︎」
クレア「でも、俺よりは下だな」
エド「どこに行ってたんすか?聞いてた話だと大学には行ってなさそうな
感じっすけど?」
クレア「俺はな、大学卒業認定試験は受かってんだ!」
スター「ウッソォ⁉︎見たことないよ⁉︎」
クレア「そりゃそうだ、なくしちまった」
フラット「ハァ⁉︎なくしたって、よくそんなすんなりと言えるね。
えっ、なくしていいと思ってるの?」
クレア「だって別に使わねぇし」
ノール「使う使わないじゃなくても、普通はなくさんぞ」
スラリア「もしかして見栄張ってる?」
クレア「ちげぇよ!だったら俺のネックフォンで写真見せてやんよ。ちょっと待ってな・・・お、あった」
クレアのネックフォンから映し出された立体映像には、たしかに
大学卒業認定試験合格書と書かれた紙をクレアが持っていた。
それにはしっかりと名前も書かれていた。
ノール「たしかに・・・偽物ってわけでもない」
スラリア「スゴォイ!だって進学校でもなかったんでしょ?
それは凄いって!なくしちゃうのは勿体無さすぎ!」
クレア「んなこと言われてもなぁ・・・」
フォール「ウィ~!ヒック、フラット、一本つけろや」
フラット「このバカ!」
コントのような流れでフラットはフォールの頭にゲンコツした。
フォール「ッテェ!」
フラット「何が、一本つけろや、だよ!一人でいくつ飲む気⁉︎」
フォール「ヒャア?」
フラット「ふぅ~・・・ダメだこりゃ」
クレア「ったく、それより、ヒナはどうしたんだ?」
ノール「タクマ呼びに行ってから帰ってきてないな・・・」
スラリア「じゃあ、あたしはもう満足だから2人の部屋に行ってくる。
先に戻ってて、確認したらすぐ戻るから」
スター「はーい」
クレア「まっ、心配無用だよな」
パルカ「これ食わないなら貰うゾ!」
話に夢中でクレアが残していた大きな唐揚げをパルカが食べてしまった。
アイン「あっ、こらパルカ!」
クレア「あ~・・・しょうがない子だな、ったくよ」
全員「えっ?」
何故かいつものクレアなら怒りそうなことをしたのに、優しく#宥__なだ__#める
クレアに全員口を揃えて驚いてしまった。
クレア「な、なんだよ?」
一方その頃ー
ヒナ「そうそう!ドッキリ!深夜に仕掛けよ?」
タクマ「まあ、たまにゃいいかもな。その代わり怒らせんなよ?
おっかないやつも中にはいるんだ」
ヒナ「分かってるって。それじゃ決まりだね!」
2人は和気藹々と話していたがー
パリーン!
という音が居間の方から聞こえた。
ヒナ「な、何⁉︎ちょっと見てくる!」
タクマ「お、おい!」
男「まずい・・・夜に・・・なっちまった・・・!」
ヒナ「キャア⁉︎」
タクマ「なっ、何だこいつ⁉︎」
その男は昼間と違い、妙なオーラを纏っていた。
男「くっ・・・耐えろ・・・耐えろ・・・!」
コンコン!
ノック音が部屋に響いた。
スラリア「ヒナちゃーん?いる~?」
ヒナ「スラちゃん⁉︎」
スラリア「入るよ~?」
男「スラリア・・・⁉︎」
その名を聞いた途端、男の集中力が切れ、一瞬にして姿が変わった。
タクマ「なっ・・・アリジゴク⁉︎」
スラリア「えっ⁉︎ちょ、何これ⁉︎」
ヒナ「分かんない!男の人が急に・・・!」
スラリア「えぇっ⁉︎それじゃ、これ・・・人工アリジゴク・・・
でも、何でここに?」
ヒナ「さっきスラちゃんの声が聞こえた時に反応したけど・・・
髪の色は完全にスラちゃんだったよ?」
スラリア「えっ?まさか・・・お父さん?」
男「グルル・・・」
スラリア「嘘・・・そんなはずない!絶対ない!」
ヒナ「でも・・・どうしよう、こんなとこで戦うわけにもいかないよね」
タクマ「俺が囮になって外に誘導する!お前らはフラット達に
報告しとけ!」
ヒナ「分かった、行こ、スラちゃん!」
スラリア「・・・行かない!」
最終節 死神としての役目
スラリア「だって・・・無理だもん!」
ヒナ「スラちゃん・・・」
タクマ「!危ねぇ!」
ヒナ「キャッ!」
ヒナに一直線で向かってきた触手をタクマが近くにあった椅子で
払い除けた。
タクマ「チッ、こんな場所じゃ、ロクに戦えねぇ!来い!こっちだ!」
男「ガウ!」
大声で叫ぶタクマに、アリジゴクも後を追っていく。
スラリア「お父さん・・・やだよ・・・信じたくない!」
ヒナ「スラちゃん・・・」
スラリア「ずっと・・・会いたかった!こんなの・・・やだよぉ!」
ヒナ「・・・大丈夫、絶対何か手があるって!会いたいんでしょ?」
スラリア「うん、会いたい!だって・・・」
13年前ー
スラリア「お母さん!見て、花火の絵で金賞!」
ジャスミー「あら、本当にお父さんと同じ手法で絵を描くんだから。
お父さんが見たら、きっと褒めてくれるよ?」
スラリア「本当⁈あたし、いつかお父さんに会ってみたい!」
スラリア「・・・そうだ、絵!たしか、部屋にあったはず!取りに行ってくる!
すぐに戻るから!」
ヒナ「えっ⁉︎」
スラリアは今しかないと覚悟を決めて、デ・ロワーの女部屋に
戻っていった。
スラリア「ちょっと失礼!」
ノール「っ⁉︎びっくりした、大声で入ってくんなよ」
スター「どうしたの、いきなり鞄漁って・・・」
スラリア「・・・」
ただただ無言でスラリアは必死に鞄から絵を取り出した。まだ色塗りこそ
途中なものの、スラリアにとってはそれでいいものを。それを
手にすると、何も言わずに外へと向かった。
ノール「ちょ、おい⁈」
スター「どこ行くの⁉︎」
外ー
タクマ「ふぃ~、ヤッベ、ここ袋小路じゃねぇか」
アリジゴクを誘導することばかり意識してしまい、タクマは
行き止まりにたどり着いてしまった。
男「ギャルル・・・!」
タクマ「アイツら、早く来いっての!」
男「ギャウン!」
タクマに向かってアリジゴクが飛びついたその瞬間ー
スラリア「やめて!」
男「!」
スラリア「あなたが、あたしのお父さんなら・・・この絵、分かるよね?
あなたの娘の、スラが描いた絵だよ!だから・・・お願い!あたしの
大切な友達に・・・手を出さないで!」
男「ズラ・・・リア・・・グワァァァァ!」
その名を口にした途端に、アリジゴクは悶え始めた。
タクマ「くっ・・・やっぱりダメなのか⁉︎」
ヒナ「タクマ!あっ、スラちゃん・・・」
スラリア「どうして・・・?どうして褒めてくれないの?あたしは
ただ・・・お父さんに会って、絵を見せて・・・!」
ヒナ「・・・完成させよ?その絵はまだ、足りないよ。だってそれは、
他でもないスラちゃんが描いた絵。お父さんのじゃないんだよ?」
スラリア「あっ・・・」
その絵をスラリアはもう一度見返した。そして気が付いた。
スラリアにあって父親にはないものを。それはー
スラリア「・・・音楽」
ヒナ「えっ?」
決して気が狂ったわけではない。本当にそう願っていた。
スラリア「音楽で・・・この絵を完成させたい!あたしの見る世界は、
絵だけじゃ表せないから!」
ヒナ「スラちゃん・・・それがスラちゃんの願いなんだね。今の聞こえた~?」
「バッチリ!今の願望をスラリアの神力に変えるよ!更新承認!」
オペレーターアプリ「承認されました。新業、『四季彩之ソナタ』を
入手しました。更新データは以上です」
スラリア「フラット・・・!」
フラット「あとはスラリアの思いをそのままに!」
スラリア「・・・うん!お願い、ソウルハープ・・・あたしはお父さんに
褒められたい!だって、他でもない家族だから!叶わなくたっていい、
笑われてもいい!あたしは、いつまでもお父さんの娘だから!
第一死奏『光』術・『四季彩之ソナタ』!」
スラリアは奏でた。自分が今まで見てきたもの、今まで感じたこと、
今まで知ってきたこと、そして何より他でもない父親と会いたいという
強い願いを乗せて。その音色は淡く美しい色を描いていった。
それは今までスラリアの描いたことがない、“初めて”の色だった。
タクマ「・・・できた・・・?」
ヒナ「キレイ・・・こんな絵、見たことない!」
しかし、とうのスラリアはー
スラリア「ふぅ・・・」
一気に倒れ込んでしまった。
フラット「スラリア⁉︎」
ヒナ「スラちゃん!」
スラリア「まだ・・・!まだ、やんなきゃ・・・!」
長い時間、多量の神力を使ったために疲労が溜まっているはずの
スラリア。しかし、フラつく足を気にせず、ただ絵を手に取り、
父親の元へ持っていった。
スラリア「お父さん・・・これ・・・見て・・・!あたし・・・お父さんの絵を
ずっと真似してた・・・でもね・・・大切なこと忘れてた・・・そんなんじゃ・・・
あたしの絵にはなれないね・・・だから、描いたよ。あたしなりに」
男「グ・・・?」
もがいていたアリジゴクの目にその絵が映った。理性が壊れかけていたとしても
その目にはウッスラと涙が見えた。
スラリア「お父さん・・・会いたかった!」
限界を迎えたスラリアの体はアリジゴクと化した父親の上に
倒れ込んだ。その頬から垂れた神力を含んだ涙が、アリジゴクの
体に神力を送り込んだ。その力がアリジゴクのコアを破壊していった。
男「スラ・・・?」
スラリア「うん・・・スラだよ?やっと・・・声・・・聞こえた」
男「・・・ごめんな、そばにいられくて。挙句の果てには・・・こんな形で
初めて会わせて、しかも泣かせるなんて・・・父親失格だな」
スラリア「ううん・・・!あたしのこと覚えててくれて嬉しかった!」
男「スラ・・・絵、上手だな。流石は俺の娘だ」
スラリア「お父さん・・・!」
男「音楽好きなのはジャスミーに似たか?」
スラリア「うん!ねぇ、お父さん・・・」
男「どうした?」
スラリア「あたし・・・絶対忘れない!今日のことも、今までのことも、
これからのことも!その全部を、あたしなりに表現するから!
だから・・・約束したいんだ。あたしのこと・・・大好きでいてくれる?」
男「・・・約束をする時は・・・こうだろ?」
父親はスラリアに小指を見せた。
スラリア「うん!」
スラリア&男「ゆびきりげんまん嘘ついたら針千本飲ます!指切った!」
2人が指を離した瞬間に、コアは壊れて、父親の姿を消していった。
その刹那、父親が消える間際に微笑んだようにスラリアには見えた。
スラリア「・・・大丈夫。あたしは、絶対忘れない」
ヒナ「・・・タクマ、こういう時ってなんて言えばいいかな?」
タクマ「俺に聞かれても困るっての!」
フラット「それよりさ、ヒナちゃんとタクマはもう戻った方が
いいんじゃないかな?宿の人が騒いでたよ?」
ヒナ「えっ⁉︎じゃあ急いで戻った方がいいよね!」
タクマ「てか、説明してなかったのか⁉︎あ、サンキューな、フラット!」
ヒナ「だって、説明してる余裕なかったじゃん!ごめーん、ありがとう!」
2人はフラットに礼を告げると、そそくさと自分達の部屋に戻った。
スラリア「・・・フラット。あたしね、分かったんだ。あたしの芸術は
あくまでお父さんとお母さんの真似でしかなかった。でもね、
その真似をしたから決めたんだ。あたしはあたし自身の芸術を
作ってみせる!そのためにも、あたしらしさを見つけないとね!
だから提案なんだけどー」
翌朝、食堂にてー
フラット「イベントの会議を始める前に、1つだけ報告があるよ」
クレア「報告?」
スラリア「実は、あたしが新曲作らせてもらいました!」
ノール「えっ、お前が⁈」
エド「いつもならノールかフラットの役目っすよ⁈」
スラリア「読むね。曲名はアドベンチャーだよ」
歌詞[澄み渡る空の下で あたし達は今を歩く
水たまりに映り込んだ 太陽を踏みつけて
足跡を残してこう]
ノール「・・・いいんじゃない?作曲もしたのか?」
スラリア「うん!三時間で終わっちゃった」
フォール「おいおい、そんな早く終わって大丈夫か?」
スター「でも、スラのお姉ちゃんっぽいね!細かく景色のこと
書いてあるとことか!」
スラリア「アハハハ、自然を思い浮かべちゃうからかな」
クレア「でも、これいつ発表すんだ?明日から2週間だろ?
最終日に間に合うかどうかだぞ」
スラリア「このスコアならすぐに練習できるでしょ?」
そう言ってスラリアは全員に、初級用と書かれた楽譜を配った。
ノール「まさか・・・お前、編曲までしたのか⁈」
スラリア「うん、作詞作曲で1時間かからなくて、編曲で2時間ぐらい」
クレア「スゲェな・・・」
フラット「とにかく、じゃあこれを中心に練習とリハーサルしよう!
もう今日の会議はこれでおしまいにしよう!」
ペーター「お、朝から盛り上がってるねぇ」
会議が終わった瞬間に、課長であり、このイベントを承ったペーターが
やっと食堂にきた。
フラット「もう会議終了です!」
フォール「おせぇよ、何やってんだ?」
クレア「俺達は会場に行くから、そこ通してほしい」
ノール「そういうわけだから、次からは早く来て」
エド「人のこと起こしといて、会議に遅刻するなんて最低っすよ」
スター「リーダーだったら1番やっちゃいけないことだよね~」
全員はペーターに愚痴をわざとこぼしていった。
スラリア「・・・ペーターさん、紅茶は淹れておきましたので
お飲みください。それじゃ!」
フラット「あ、ちょっとは待ってよ!え~っと・・・午後には
戻りますから!大丈夫ですよ!」
ぎこちない一方的な会話を済ませて、フラットは先に行った全員を
追っかけに行った。
ペーター「ハハッ、本当に面白い子達だな」
会場ー
スラリア「すっご~い!」
ヒナ「結構手間はかかったけど、ステージはこんな感じで大丈夫?
修正点とかあったら、なるべく早く言ってね」
タクマ「まあ、ねぇと思うけどな。俺の設計したステージだし」
フラット「えっ・・・大丈夫かな?」
タクマ「おい!そりゃどういうことだ⁉︎」
ヒナ「タクマは物理で赤点だったからでしょ?まあ大丈夫だよ。
他でもない私がちゃんと確認したしね」
フラット「なら良かった。じゃあ始めよっか。各自定位置について。
フォールの合図で始めるから!」
フォール「俺か⁉︎いつもはフラットだったろうが!」
フラット「たまには、ね?マンネリ化を回避するためだよ。
いつも同じ流れじゃ、やる気失せるでしょ?」
フォール「はいはい、お前はそういう弁解を用意すんのは上手いよな。
世渡り上手ってやつか?」
フラット「失礼な!もういいよ、フォールがやってくれたら
打ち上げでお酒飲んでも良しにしようと思ってたんだけどな」
フォール「ぐっ・・・分かった、やる」
クレア「結局折れんのかよ」
ノール「意志の弱いやつだ」
スラリア「じゃあ、やろっか!」
フォール「ったく・・・」
全員はすぐに定位置についた。
フォール「そんじゃ・・・飛ばしてくぞ!ワン・トゥー!」
夜ー
フラット「それじゃ、明日のための前夜祭ということで!」
全員「かんぱ~い!」
クレア「今日は絶好調だったな!」
フラット「うんうん、新曲の方もいい感じだし!」
ノール「まあ、今日はあんまり騒がずに、明日に備えよう」
スター「ノールはツレないね。エドは、もうあんなに食べてるのに」
エドは一言も喋らずに、初めて食べるバグ星の郷土料理をバクバクと
口に運んでいた。
フラット「あれはあれでダメなんだけど・・・失礼じゃん」
ヒナ「ううん、逆にお箸の方が私達からしたら失礼だよ。私の料理は
素手で掴めないぐらい汚いか、って意味になっちゃうから」
フォール「へぇ~、やっぱ異文化はちげぇな~」
フラット「酒臭っ⁉︎フォール、何お酒飲んでんの⁉︎今日はダメって言ったでしょ⁉︎」
フォール「まあ、そんなことどっでも良いだろ?」
フラット「・・・タクマ、ごめん」
タクマ「あいよ。よっと~!」
フォール「アデデデデ・・・!ッテェ!」
フラットの一言でタクマは理解し、フォールのこめかみを力強く
グリグリした。
フラット「ナイス、フォール!これは没収ね」
フォール「へ⁉︎」
フラット「なんか文句ある?」
フォール「いいだろ!俺の金で買った酒だぞ!」
フラット「あっ、そうなんだ。じゃあ・・・明日ね」
ノール「まあだろうな」
フォール「頼む!めっちゃ高いやつだったんだ!」
フラット「じゃあその一杯で最後にしといてよ。ていうか、
こんなに買ったなら高くなって当たり前でしょうが!」
フラットが没収したお酒の瓶は5本以上あった。
クレア「お前なぁ、いくらお酒に強いって言っても限度ってもんが
あるだろ?流石にその量はないわ」
スター「ねぇ、兄ちゃんが飲んでんの何?」
クレア「げっ・・・余計なとこに気付かなくていい!」
フラット「色的にぶどうジュース?まあ水で薄めてあるし、
それならいいよ。明日に響くこともないほろ酔い気分っぽいし」
クレア「お、分かってくれるか!」
フラット「フォールみたいにアルコール成分がたっぷりなのは
流石にダメだけど」
スラリア「・・・よし、できた!」
ヒナ「やっぱ上手!いいなぁ、私、全然だから」
スラリア「そう?ありがとう・・・人前で絵を描く機会、
あんまりなかったから・・・照れるな」
タクマ「俺にも見せてくれよ!」
スラリア「あ、ダメー」
まだ未完成だった絵をタクマがスラリアの手から取ってしまった。
その取り上げ方は少し雑だったために、スラリアの手を擦ってしまった。
ヒナ「あっ・・・大丈夫?」
タクマ「げっ・・・⁉︎」
まだ絵の具は乾き切っていなかった。その結果、絵とスラリアの手が
汚れて台無しになった。
ヒナ「タクマ!謝って!」
タクマ「そ、その・・・ごめん!悪気はマジで何もー」
クレア「おい?いい度胸してんじゃん?」
タクマ「い、いや・・・ハハ・・・」
スラリア「いいよ、大丈夫。これだったら白で消してもう一回
塗り直せばなんとでもなるから」
ヒナ「いいの?ちょっとアレになっちゃうけど・・・」
スラリア「もう、あたしは死神だよ?失敗を責めるのはガラじゃないの!
それに・・・あたしはそうやって育てられたから」
ジャスミー「失敗したって大丈夫。次頑張ればいいだけ。もう何が
ダメだったか分かったでしょ?いい勉強になったじゃない」
スラリア「・・・そう、だからいいの。きっと、この絵がダメになってもね。
クレアもありがと。でも、そういうケンカ腰はやめてよ?」
クレア「お、おう・・・すまん」
ヒナ「スラちゃん、優しい~」
タクマ「本当にいいのか・・・?俺で良かったら手伝う!本当に
悪かったって思ってるからよ・・・」
スラリア「まあ、そこまで言うなら・・・じゃあ色塗りだけだけど
それでも良いなら」
タクマ「サンキュ!俺、責任逃れが1番不愉快だからな!」
スラリア「変なの、でもだから有名俳優になれるんだろうね。
羨ましいな、あたし演技なんて慣れてないから」
タクマ「慣れてない割には普通にできてる気がするけどな」
ヒナ「そうそう!って、それより手、洗ってきた方が良いよ?
そんな手じゃ、食事どころじゃないでしょ?」
スラリア「じゃあ、そうさせてもらおっかな。ちょっと席外すね」
ヒナの勧めに乗り、スラリアは前夜祭の会場から一旦出て行った。
クレア「まっ、俺もキツく当たって悪かったな」
タクマ「アイツの男なんだ、それくらいの姿勢でいた方がいいぞ?
なんてったって、あのリア家のご令嬢と結ばれるんだぜ?」
クレア「・・・!」
そのタクマのセリフにクレアは顔を赤らめてしまった。
ヒナ「あれ?結婚前提のお付き合いじゃなかったの?」
クレア「い、いや!今改めて考えると難しいかもって・・・」
タクマ「ハッハハ、難しいことなんかねぇよ!お前は東京を
救った1人なんだぞ?ピッタリじゃねぇか!」
クレア「だったらいいな」
中庭ー
スラリア「うん、またできちゃった。なんか悪いな・・・まだあの絵、
修正できてないのに・・・」
あまりに綺麗すぎた夜空を、スラリアは我慢できずに描いていた。
スラリア「・・・お父さん、あたしの絵、見て笑ってた。未練なく
この世を彷徨う魂を浄化したい。あたしのこの願いは紛れもなく
あたしの心が決めたこと。だから、大丈夫。このみんながいれば
これ以上のことも叶いそう。あたしが描くのは、あたしが感じたこと。
ただの写し絵じゃないんだ。普通は見えない輝きを描いてみせる!」
翌日ー
フラット「みんな、準備いい⁈」
全員「おーっ!」
フォール「・・・本当に俺がやんのか?」
フラット「昨日の罰だよ」
スラリア「それじゃあ皆さんご一緒に!今日も元気に張り切って~?」
観客「サワーゴー!」
スラリア「オッケー!」
フラット「えっ⁉︎」
ノール「ちょ⁉︎」
もともとフォールがやるはずだったスタートサインをいきなりスラリアが
やったせいで全員がグダグダなまま演奏を始めてしまった。
フラット「へ、ヘイ!」
そのままどこかぎこちないまま、ライブは続いていった。
反省会議ー
スラリア「まずはその・・・ごめんなさい」
ノール「まあ・・・いいけど」
スター「急すぎてビックリしただけだから大丈夫だよ」
フォール「俺はやらずにすんでラッキーだけどな」
フラット「何言ってんの、まだ明日があるんだよ?」
フォール「もう勘弁してくれ!」
スラリア「よし、続きっと」
クレア「まだ描いてんのか?よく飽きねぇな」
スラリア「飽きないよ。だって、あたしは芸術が大好きだから!」
クレア「そうか・・・」
フラット「クレア・・・まあ、それより明日についての会議だけどー」
夜ー
スラリア「よーし!」
タクマ「結構修復できたな」
スラリア「意外に絵上手だね!」
タクマ「まあ、下書きがあるからな。でも・・・俺とお前じゃ
全然塗り方が違うな。俺の方、結構ムラが目立つな」
スラリア「全然大丈夫だよ。そこ髪だからムラがあった方が
よりリアルに見えるよ」
タクマ「そうか?でも、お前の鮮やかさに比べると・・・」
スラリア「気にしない気にしない。逆に真似が良くないよ。
タクマの絵の良さがなくなっちゃうじゃん」
タクマ「そうか・・・?」
ヒナ「スラちゃん!おっ、いい感じじゃん!タクマは足引っ張ってない?」
タクマ「誰が足引っ張るかっての。まあ、少し違う形にはなったが
何とかなりそうだぞ」
ヒナ「そっか。でも本当に上手!そうだ、今まで描いたのも
見せてよ!いいでしょ?」
スラリア「う、うん!でも、お父さんの真似して描いたのばっかだよ?
それでも良いならー」
ヒナ「良いよ!それでもスラちゃんが描いたのに違いないでしょ?」
スラリア「そっか。ありがとう!」
クレア「失礼すんぞ。えっ、ちゃんと修正できてんじゃん!
スッゲェ、俺じゃここまでできねぇわ」
タクマ「だろ?もっと褒めろ褒めろ!」
ヒナ「タクマ、調子乗んない!」
タクマ「イデデデ!耳引っ張んなっての!」
クレア「おっと、そうだった。フラットがお前ら呼んでたぞ。
アイン達も」
スラリア「?分かった。行こっか」
食堂ー
フラット「来た!」
スラリア「何?」
アイン「あの、人工アリジゴクが出たって本当?」
ヒナ「うん!しかもスラちゃんのお父さんで・・・」
パルカ「やっぱり・・・ご主人様、アレが必要じゃナイカ?」
アイン「だけどアレは地獄に行かないと・・・まあ、人工でも
作れないわけでもないか」
タクマ「あれってなんだ⁉︎」
アイン「サファイアとルビーを溶かして神力を加えて作る、
“ルヴァイバー”と呼ばれる石です」
フラット「それが・・・どうかしたの?」
パルカ「それあれば、モット神力使える!」
スラリア「えっ、それって危ないんじゃ・・・」
アイン「はい、なのでかなり慎重に作る必要があるんです。
その人の神力にあった割合、サイズ・・・色々と調べた上でやっと作るんです。
ちょうど僕はその作り方を知ってるので大丈夫です」
パルカ「おいらも、宝石探しは大得意ダゾ!」
ヒナ「じゃあ、それがあれば人工アリジゴクとも苦戦せずに
戦えるってわけ。早速探そうよ!ただでさえ人工アリジゴクが
暴走してるんだから!」
タクマ「あぁ、そうだな!」
アイン「・・・第一の指示、完了」
突然のアインの提案に全員がワーワー騒いでる中で
聞こえないくらいの声でアインはそう言った。
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