第20話 決戦‼︎暗黒石火物語

8月3日、作戦実行日―

フラット「じゃあ、まずノールの紋章を。エド、スラリア、タケル。

3人は同行してくれる?」

エド「了解っす!」

スラリア「任しといて!パパッと終わらせるから」

タケル「案内役は任しといてくれ!」

フラット「ケーベス、ハッチ展開!」

ケーベス「あいよ!ハッチ展開、完了!」

フラット「じゃあノール。そっちのグループのリーダーは

任せてもいい?」

ノール「私が⁉︎リーダーやるの⁉︎」

フラット「だって、1番ノールがしっかりしてるから…ね?」

ノール「わ、分かった。やってみる」


1節 破壊の試練


千駄ヶ谷トンネル―

ノール「…良かったのか?戦線離脱して…」

エド「そりゃ当たり前っすよ。ノールが紋章を得るのが最優先事項っすから」

スラリア「闇世界のことならあたしの方が長くいたし、詳しいから」

タケル「俺ほどではないけどな。ほら、さっさと行くぞ」

壁の一部をタケルが触れると、その壁に紫色の光を放つ魔法陣が

現れ、その向こうに雰囲気の暗い東京が広がっていた。

エド「えっ…これが闇世界っすか?」

タケル「まあ、この世界の裏の顔…みたいなもんだ、闇世界は」

スラリア「じゃあ、行こっか」


闇世界―

エド「ここ…さっきのトンネルっすよね?」

ノール「一見すると、たしかにさっきのトンネルだけど、

闇世界だ。で、その神像はどこ?」

タケル「…ちょ〜っと、一悶着あると思うぞ」

スラリア「もしかして…賊?」

タケル「魔族の中では1番の賊だ。そんな簡単にいくとは

俺も思ってない。まあ、やつは表世界でいうとこのヴァイスだ、

普通の戦闘と思ってくれて良いだろ。ついてこい、俺が案内してやる」

エド「…フラットの前ではそんなこと言ってなかったっすよね」

タケル「言えるわけないだろ。無駄な心配かけるだけってのは

分かってるしな」

ノール「いいから早くしてくれ。時間が惜しいってこと、

忘れてるわけじゃないよな?」

タケル「足止めしたのはそこの豹だぞ」

スラリア「いいから早く!もう、こんな調子じゃフラットの計画が

狂っちゃうよ」

タケル「それは御免だ。こっちだ、ついてこい」


闇世界・朝腐―

タケル「さぁて…ここだ。色々と最新技術の迷路だが、

まあ、がむしゃらに行けば大丈夫だ」

ノール「手下が待って…おい、ちょっと待て!ここにコンダクターが

いないのに、どうやって戦闘するんだ⁉︎」

タケル「…?言ってなかったか。今の俺はコンダクターだぞ。

以前お前達と戦った体はファイターだったけどな」

スラリア「なら良かった…って、この戦力は⁉︎」

タケル「そこは任せとけ」

そう言ったタケルは口笛を鳴らした。

タケル「…来たな」

空から何人もの魔族が降り立ってきた。

魔兵1「指示を待っておりました、兵長!」

魔兵2「いつでも指示を出してください!なんでも聞きますので!」

ノール「兵長って…待て待て!お前何者だ⁉︎」

タケル「俺が何も準備してなかったと思ってたのか?バッカだなぁ…

俺は封印された魔族部隊を全て復活さしといた!これで戦力の問題も

解決だろ?何か質問ある?」

スラリア「用意周到だね…凄い」

タケル「まあ、ベリアルの計算だけどな。この数で、第五次神魔戦争で

活躍した魔族が多くいる。いやぁ〜、間に合って良かった」

スラリア「これだけいるなら…なんとかなりそうだね」

ノール「…行くぞ」

エド「ここに神像があるなら…行かないほかないっすね」


船型ビル―

ノール「すごい作りだな…船でできたビルか」

スラリア「今にも動きそうだよね」

タケル「そんな建物があったら驚きだ」

エド「それより…」

ふとエドが振り向く先には魔族部隊が壁に糸を張っていた。

タケル「あぁ、あれか?帰り道までの道標だ」

ノール「古典的なやり方だな…」

タケル「さっきも言っただろ。ここは最新技術の迷路だ。

発信機の反応もかき消されるだろうな」

エド「そういうことっすか…ん?静かに!声が聞こえるっす」

タケル「声…?」

微かだが、向こうのほうから声が響いていた。

タケル「よし…待ち伏せだ」

ノール「いや、ここはトラップを仕掛けておこう。ここに神力を

神器で繋いで…これでよし!」

一本道のど真ん中に、神器を使って神力のトラップを張った。

スラリア「これ…爆発する?」

ノール「あぁ…あっ!」

タケル「じゃあ俺達より後ろにいるアイツら、どうやって通す気だ⁉︎」

エド「それに俺達もどうすればいいんすか⁉︎」

ノール「おい、だからって騒ぐな!」

「誰だ⁉︎」

ノール「ヤバっ!」

スラリア「とにかくこれ、すぐに解除して!」

ノール「って言われても…そんな時間…あ、そうだ!」

タケル「何か手があるのか⁉︎」

ノール「任せて!よっと!」

壁に刺さっていた神器を抜いて敵の方に投げつけた。

「な、ナイフ⁉︎」

その声と同時に大爆発が起こった。

ノール「ふぅ…作戦通り!」

タケル「どこがだ!ただのアドリブだろ!」

ノール「まあ、結果良ければ全てよし!だろ?」

タケル「それもそうだな」


2階―

スラリア「もう、平和的にいこう?さっきのはなし!」

ノール「私がリーダーだ、勝手に判断するな、お嬢様」

タケル「言い争ってる場合じゃなさそうだぞ。俺達の侵入、

バレたみたいだ」

ノール「なっ、もうバレたのか⁉︎」

スラリア「やっぱり、さっきの爆発で⁉︎」

タケル「そこまでは分からないが、ここは戦闘準備しとけ!

敵の数は…12!」

エド「了解っす!」

ヴァイス1「かかれ!」

ノール「第一破壊『闇之』術・『闇夜行特急列車』!」

ヴァイス「ガァァァ!」

スラリア「だから、平和的にって!もう、あたしがやるからどいてて!

第一死導『炎』術・『冥界送之ともしび』!」

ヴァイス達の周りの燈がヴァイス達の目を惑わして、気絶させた。

スラリア「あとは…皆さん!その糸でグルグル巻きにしてください!」

魔兵1「はい、じゃあ失礼して…」


数分後―

スラリア「これでいいでしょ」

ノール「とりあえず携帯器具から発信機まで壊したし、これで当分は

戦闘を避けられる…わけないよな」

エド「ていうか、このビル造りが複雑すぎて迷子になりそうっす…」

タケル「大丈夫だ、神像の神力はキャッチしてる。迷子にはならないが…敵の反応も多い。見てみろ」

神像から発せられた神力を辿るように微かな魔力の反応があった。

ノール「点々と…でも、数はすごい」

スラリア「どうしよう…こんな数じゃ、時間かかっちゃうよ…!」

エド「大丈夫っす、フラット達も仕事はあるっすから待ってくれるっすよ。

たとえ、仕事がなくても…っす」

ノール「そうだな。よし、正面突破でいくぞ!」

スラリア「えっ、本気なの⁉︎」

タケル「まあ、遠回りするにも時間がかかる。それなら強行突破で

突っ込んだ方がいいだろ」

スラリア「体力の消耗も激しいのに⁉︎」

ノール「お嬢様がそんなに嫌がるなら別行動すればいいだろ!

私は私なりにこの作戦を遂行するだけだ」

スラリア「それで辿り着けて紋章を貰えたとしても、フラットの

足手まといになるだけだって分からないの⁈」

ノール「‼︎」

エド「そうっすよ、疲労した状態で魔獣と戦っても、余計な負担を

増やすだけっす!でも…俺は魔獣と相手はできないっす。

だから俺がこのグループに選ばれてるんす。なら…俺を先頭に

その作戦を実行するっす!」

ノール「エド…!」

エド「俺にできることは、無事にノールを神像まで導くことっす!

フラットのためにも…絶対俺がやり抜くっす!」

覚悟を決めた声色でエドはそう言い放った。今までエドが

誰にも見せることなどなかった、純粋でとがった正義の瞳を

笑みと共に浮かべて。

スラリア「…エド、あたしも協力するよ!エドの力はあたしが

いつもより何倍にもして!この戦闘を…最高の舞台にしよう!」

タケル「おいおい、ここで作戦会議を何時間する気だ?支援力が

もうはち切れそうだ!さっさといかねぇと、戦闘撮影専用キットが

壊れちまう!」

エド「俺は…ナックラーさんを超えて、この街を守る英雄の

影なる主役を演じてみせるっす!」

ノール「影なる…主役…!」


30年前―

ノール「母さん!私、演劇でヒロイン演じることになったんだ!」

アザミ(母)「本当⁈良かったね!でもね、ヒロインは主人公を

支える影なる主役。それはね、演劇の世界でなくてもそうなのよ。

この世界の偉人達にも、必ず影なる主役がいる。あなたは、

どちらを演じることになるのか、お母さん楽しみよ!」


ノール「…母さん…!私が主人公…なら、私を支えてくれるのは

エドなんだ…!エド!私、必ず成功してみせる!だから…

お願いします!私を…支えて!」

エド「…了解っす!」

スラリア「いこう!皆で…あたし達の東京を…未来を救う

第一歩を絶対踏み出そう!」

タケル「そうだな、よし、オメェら!エドに続いて力を貸せ!

こんなつまらねぇ戦争…俺達の手で終わらせるぞ!」

魔兵「おーっ‼︎」

エド「ナックラーさんが…俺に会って2つ目に教えてくれたこと…

今の俺なら分かるっす…」


2年前―

ナックル「エド、俺には分からねぇが、よく親父が言ってた言葉だ。

1人は皆のために、皆は1人のために、強さを見せつける。

お前にとっての強さは、一体何だろうな。やっぱ正義か?」


エド「ナックラーさん…俺にとっての強さにおいて、正義は二の次っす。

俺にとっての1番の強さは…!」

ギュッと拳を握りしめて、エドは一気に駆け抜けていった。

エド「さぁ、いくっすよ!俺の強さを…“星を輝かせる”ために!」

魔兵2「やつに続くぞ!」

魔兵「おーっ!」

大勢の魔兵がエドに続いて神像の道までまっすぐ突き進んでいく。

ノール「私達も続くぞ!」

スラリア「うん!」

タケル「さぁて、俺も本気で指揮しなきゃなんねぇな!」


エド「第一鉄拳『光』術・『金剛百裂拳』!」

ヴァイス「ぐわっ!」

魔兵1「一気に片付けるぞ!魔術・アンリミテッドダーク・波!」

波のような黒いモヤがヴァイス達の視界を遮った。

魔兵1「さぁ、こちらへ!」

エド「はいっす!」

ノール「ありがとう!」

魔兵1「いえ、礼を言うのは我々の方です。それよりも早く!」

ノール「…あぁ、分かっている!」


そして、一行は神像の置かれた倉庫へ辿り着いた。

エド「も…もう限界っす〜…」

タケル「お前らもお疲れ。さて…あとはノールが紋章を貰うのを

無事に見届けるまで―」

?「おっと、そいつはどうかな?」

入り口に急に現れた男が、伸縮可能アームでエドを拘束した。

ノール「エド⁉︎」

スラリア「…何するつもり⁉︎」

?「いやいや…驚きだよノール。君がここまで強くなるとは…」

ノール「お前…シーラスか⁉︎」

その男は、ノールを無理矢理マフィアに入れたシーラスだった。

スラリア「まさか…罠⁉︎」

タケル「いや…コイツがサタンだ」

ノール「サタンって…血鬼7人衆の総帥⁉︎」

シーラス「いやぁ、君達とこうして再会するのも何かの縁だ。

もう一度、私と協力しないか?」

ノール「断る!」

スラリア「あたしも…嫌!」

タケル「悪いけど、お前が消した俺の記憶。とっくに蘇ってるからな」

シーラス「そうか…なら仕方ない」

エドを拘束しているアームに電流が流れた。

エド「グワァァァァ!」

ノール「エド⁈なんて…卑怯な真似…!」

スラリア「…⁉︎」

先程まで見えなかったエドの余命がほぼくっきりとスラリアの目に映った。

スラリア「…そんな…!」

タケル「ノール、早く紋章を!俺達がなんとか時間を稼ぐ!」

ノール「わ、分かった!エドを…お願い!」

指示を受けて、ノールはすぐに行動した。

シーラス「バカめ!」

しかし、神像の前に赤外線トラップがあったのに気づかず、

天井からいくつもの頑丈な鉄製の檻が降ってきて、全員を

バラバラに閉じ込めてしまった。

スラリア「こんなの、ノールの神力で!」

シーラス「残念だが、その檻には神力を無効化する結界を

張っていてな。それに、その檻は簡単には壊せない。そして何より…」

シーラスが指を鳴らすと、檻の隙間が完全に遮られ、さらに上からは

いくつもの太い棘のついた天井が降りてきていた。

シーラス「時間はやる!辞世の句でも読んでいるんだな!」

ノール「…また…私のせいで…!」


アザミ「ノール…!」

テラン(父)「お前だけでも…!」


ノール「また…私のせいで…嫌だ…こんな所で…負けるわけには…!」


フラット「今までだって、諦めていた未来を今にしてきた」


ノール「…そうだ。信じなきゃ!諦めてちゃ…何も始まりはしないんだから!」

?「その通りです」

ノール「…⁉︎」

?「絶望を希望に変える…その正義を叶えるならどんな方法でも

構わない。大事なのは、諦めないこと」

ノール「…神像か!」

?「はい。私の破壊の怒、あなたになら託せます。あなたの守りたいもの…

それを守り抜くことだけを考えてください」

神像からノールに向かって一筋の光が放たれた。そして―

ノール「…私は、『明星之破壊神』!私は…希望のために破壊する!

全てを覆し、全てを破壊する!たとえどんな手段でも…私は諦めない!

ハァァァァァァ…!神業・天地無用!」

ノールの術で、状況が全てひっくり返り、シーラスが檻に

閉じ込められていた。

シーラス「何⁉︎」

ノール「お前は…私の全てを壊そうとした。その思考が、

全てお前に牙を剥いたってわけだ。フォールヘル!地獄に堕ちな!

エド「ぐっ…!」

タケル「よし…オメェら!起爆スイッチ起動だ!」

魔兵1「はい!」

そう言われ、魔兵がボタンを押した。

スラリア「起爆スイッチ…?」

タケル「あと1分でここは大爆発だ。さぁ…逃げるぞ!」

一行は糸をたぐって出口に向かって走っていった。


外―

ノール「な、なんとか…!」

タケル「ミッションコンプリート!ヒャァ〜、助かった〜!」

スラリア「ノール…!すっごい、カッコよかった!」

エド「俺、死にかけたっす…」

ノール「私…救ったの?」

スラリア「そうだよ!ノールがいなかったら…もう…!」

嬉しさと感動で、スラリアは涙した。

タケル「さぁ、脱出だ。なにせ、今のが前座だからな」

エド「そうっすね…うっ⁉︎」

急にエドは激痛に襲われ、倒れ込んでしまった。

スラリア「えっ⁉︎」

タケル「おい…!これ…⁉︎」

エドの背中には大きな傷ができていた。しかも今できたかのような。

タケル「まさか…アイツ、生きてるのか⁉︎」

シーラス「ふぅ…ふぅ…お前ら、やはり愚か者だな。あの爆発で、

檻が壊れた。殺傷能力を高めすぎたのが仇となったな」

タケル「くそ…こんな時に…!」

魔兵1「タケルさん!ここは…俺達に任せてください!」

タケル「で、でも相手は!」

魔兵1「いいんです。タケルさんは、我々の命を解放してくれた恩人。

その恩人を守り抜くことこそ、魔族のしきたり!こんな間違った輩を

魔族とは名乗らせたくないんです!」

タケル「…お前ら…ったく、じゃあ、俺も残る!」

魔兵1「えぇっ⁉︎」

タケル「俺が第5次神魔戦争の時にも俺がいたから何とか粘れたんだろ?

俺なしじゃ、余計に心配だ。ノール、コイツは俺に任せて先に―」

ノール「ふざけないで!私だって、家族のかたきなんだ!

アンタ達なんかより、ずっと恨んでるんだから!私の未来を

奪ったコイツを勝手に殺されてたまるか!」

タケル「ノール…」

ノール「分かってる、時間が惜しいってことは。でも、コイツは

私が殺す!あの時の自分を…超えるためにも!」

ノールはカッと目を見開き、戦闘モードに入った。

タケル「…ったく、お前のオーダーに従ってやるよ!支援力多数!

さぁ、ノールの底力を見せてみろ!」

ノール「シーラス…私がこの手でトドメを刺す。命乞いなんて…

受け入れないから!」

シーラス「それはこちらのセリフだよ…私の愛しい愛しいペット!」

ノール「…!神業・破壊!」

シーラス「なんの!魔術・毒粉!」

ノール「くっ!第一破壊『炎』術・『バンフレイムクラッシュ』!」

毒の粉を炎でかき消そうと考え、術を使った。

シーラス「少し勿体無い使い方だな…ならば!

第一暗殺『零』術・『毒雨之洪水』!」

ノール「神業・地割!」

地面を割り、術を全てないがしろにした。

シーラス「フフッ、少しはやれるようだが…押され気味だな」

ノール「全然…距離が縮まんない!」

シーラス「フフフ…掛かった!魔術・火牢!」

ノールは炎に覆われた牢に閉じ込められ、身動きがとれない状況に

陥った。その上、火は徐々に狭まっていった。

ノール「くっ…!」

タケル「あの炎をかき消せ!」

魔兵2「任せろ!魔術・津波!」

一気に水流で炎の牢は消された。

ノール「タケル…!」

タケル「安心しろ!お前は1人じゃない!」

スラリア「あたしも応援するよ!第一死導『零』術・『ドラゴダンザ』!」

ノール「…聞こえる…皆が全力で私を支えてくれてる音…

私が支えられてる以上、皆を支えなきゃ!

第二破壊『闇之』術・『闇夜行特急列車』!」

シーラス「これしき…避けられるわ!」

ノール「そっちに避けるのは想定済み!私はもう…!」


ノール「私は…孤独でいい」


ノール「もう孤独でいたくない!だって…1人じゃない!

皆が…私を待ってくれてる仲間みんながいるから!

第三破壊『零』術・『流涙之大津波』!」

シーラス「なっ…この私が…負けるだと⁉︎」

ノール「…私の幸せを奪った罪を…地獄で味わえ!」

シーラス「あり得ぬ…あり得ぬゥゥゥ!」

ノール「…私は…もう泣かない。そう決めたから」

スラリア「ノール!エドが…」

ノール「そうだった!エド!」

エド「……」

既にエドは意識を失っていた。

ノール「とにかく、早く合流してスターに―」

魔兵3「僕に任せてください。傷を」

タケル「服、破いていいか?」

スラリア「この際何でもいいよ!」

タケル「よし!」

思い切りエドの服をタケルは破いた。

魔兵3「僕が回復しておくので、皆さんはフラットさんの方に

向かってください!」

ノール「エドは戦線離脱ってこと…?」

タケル「まあ、任務は遂行した。エドの出番はここまででいいんだ」

スラリア「ここまでお疲れ様。ゆっくり休んでね」

エド「…こ…」

スラリア「…こ?」

エド「この戦闘終わったら…キウイ…」」

スラリア「…フフッ!キウイね、フラットにお願いしとくよ」

ノール「じゃあ、エドのことはお願い。いくよ」

タケル「あぁ。トンネルはこっちだったな」


千駄ヶ谷トンネル―

タケル「よし…準備はいいな?」

ノール「コイツらはどうするんだ?」

タケル「もちろん連れていくとも。やる気十分なのは見て分かるだろ?」

スラリア「…うん。うっすらとしか余命も見えない。危険な状況に

巻き込まれても、あたし達で守り抜こう!」

ノール「…エドのためにも…絶対に!」

タケル「よし、戻るぞ」

入ってきた時と同じ壁に手を当て、魔法陣の向こうには壊滅状態の

東京が広がっていた。

ノール「これじゃ、どっちが闇世界か分からないな」

スラリア「その区別を取り戻すためにも、絶望を勝たないとね!」

タケル「そういうこった!俺達の手で東京は取り戻す!」

スラリア「…魔族のセリフとは思えないなぁ?」

タケル「一応…俺もフラットのダチだからな」

ノール「…スラリア。ありがとう。お前のおかげでシーラスを

この手で倒せた」

スラリア「ううん…ノールのこと、信じてたから!」

ノール「スラリア…ごめん、あんな偏見…」

スラリア「気にしてないよ。ノールの言ってたことも間違ってなかったし…」

[ピロロロ!ピロロロ!]

ノールのネックフォンに着信が入った。

ノール「もしもし、フラットか?」

フラット「今からアスカとセイちゃんの救出作戦に入るから

なるべく早く合流できる⁈」

ノール「今どこにいるんだ?言っとくが私達は飛べないぞ」

フラット「分かってる!場所は新宿!それで紋章は⁈」

ノール「安心しろ。魔族の問題もついでに解決した」

フラット「そっか…ちょっとこっちはピンチだから」

ノール「ピンチって⁉︎」

フラット「ヴィオラ号が撃ち落とされたから」

ノール「えっ⁉︎メダイは大丈夫なのか⁉︎」

フラット「うん。あっ、そろそろ出撃するから!早く合流してね!」

そう伝えると、フラットは通信を切った。

ノール「…どうしようか…新宿まで走って行けるわけないし…」

タケル「なんだ、それなら…」

地面にタケルが手を置くと、地面から魔獣が何体も飛び出した。

スラリア「ま、魔獣⁉︎」

タケル「そう身構えんなって。コイツはお前らもよ〜く知ってるやつだ」

スラリア「えっ…よく知ってる?」

タケル「四大・樹の長だった…」

ノール「グリオ⁉︎魔獣になったとは聞いてたけど…」

魔獣「乗れ。私を信じろ」

スラリア「えっ、本当にグリオの声…」

魔獣「ベングルが心配だ、一刻を争う」

ノール「そっか、人質…グリオ、信じる!いこう、皆!」

全員「おーっ!」


2節 繰り返される運命さだめ


フラット「じゃあ、救出作戦はコータス、クレア、スターが

出るってことでいいね?」

コータス「当たり前だ!アイツの二の舞だけは…ゼッテェにさせねぇ!

約束…今度は必ず果たす!」

クレア「それじゃりきみすぎだ。少しは落ち着け。

お前1人で戦うわけじゃねぇんだ」

スター「兄ちゃんもスターもいるから、慌てなくていいよ?」

コータス「…あぁ、そうだな」

フラット「それじゃ、任せたよ。残った僕達はデ・ロワーにいる皆を

救いに行くから!もうすぐノール達も合流する。それまでは

闇雲に突っ込まず、慎重に行動するように!」

コータス「…了解!」

クレア「それじゃ、行ってくんぞ!」

スター「皆がいれば大丈夫だよ!任せて!」

フラット「このグループの隊長はクレアに任命するよ。お願い」

クレア「…あぁ、そういうことか。了解した」

フラット「じゃあ…ケーベス!浅草までお願い!」

ケーベス「あいよ!やつらもこっちに向かってきてるしな!」

スパークフラッシュ・メガ号はクレア達を残して音速を超えた速度で

浅草に向けて再び走り出した。

コータス「よし、一気に行くぞ!」

クレア「おい、さっきの話聞いてなかったのか?俺が隊長だ。

勝手な行動は厳禁だぞ」

コータス「何呑気なこと言ってるんだ⁉︎あの2人が

死ぬかもしれないんだぞ⁉︎」

クレア「この人数で突っ込んだところで、勝算はあるのか?

相手は地球連合に仕えてる軍隊だ」

コータス「俺が鬼になって全部蹴散らせば―」

スター「やめてよ!」

コータス「⁉︎」

スター「そんなの…やだよ。怖い…怖いよ…!」

クレア「スターの前でそんな真似してみろよ?俺がお前を殺すことになる」

コータス「なら俺はこのグループから抜けさせてもらう。

俺には俺なりに使命があるからな!」

クレア「ハン!勝手にしろ」

スター「えっ…⁈」

コータス「あぁ、勝手にさせてもらう!」

何のいうことも聞かないコータスにクレアは我慢できず、

コータスが勝手に多重結界用の基地に入っていくことにさえ、

静止することはなかった。

スター「い、いいの?」

クレア「知らん!あんなやつのために行動するだけ無駄ってもんだ」

スター「…スター、放っとけない!ごめん!」

クレア「お、おい⁉︎ったく!」

コータスを心配して追いかけていったスターを心配したクレアも

仕方なさそうに走っていった。


魔獣「ここだ…?」

ノール「誰もいない?」

スラリア「ううん、靴跡があるよ。しかも、最近の…多分、

クレア達が先に行っちゃったんだよ」

タケル「勝手なやつらだ。たった3人でどうするっていうんだ。

俺達も入るぞ!」

魔獣「私が入れないのだが…」

ノール「え〜っと…」

タケル「こればかりは俺にもな。これ持っとけ」

魔獣となったグリオにタケルはとある真珠を渡した。

タケル「魔力に反応する真珠だ。お前ぐらいの魔力なら簡単に

結界ぐらい張れるだろ」

魔獣「…こんな感じか。助かる」

タケル「じゃあ、俺達は行ってるぞ」

ノール「作戦開始時間から、まだ10分しか経ってないから

そんな先には行ってないはず」

スラリア「じゃあ、早く向かおっか!」


基地―

コータス「クソ…囲まれたか!」

神兵「ここから先にお前のような輩を通すわけにはいかん!

皆のもの、かかれ!」

コータス「くっ!」

「神業・竜巻!」

コータスを中心に一本の竜巻が激しく巻き起こった。

スター「兄ちゃん⁉︎」

クレア「お前、どこにいたんだ⁉︎」

クレアより先に基地に行っていたはずのスターが、なぜかクレアの後に来た。

スター「ちょっと道に迷って…」

コータス「……おいテメェ!何しやがる⁉︎」

クレア「?あ〜、コータスいたの。ごめん、気付かなくってさ」

コータス「後でしばく!」

クレア「んなことより、まずはコイツらだ。化けの皮剥がして、

正体晒してやろうぜ!」

スター「だったらスターに任せて!神業・風記憶!」

神兵と思われていた兵士の翼は白から黒に変わり、放っていた神力も

ドス黒い魔力になった。

コータス「…やっぱ魔族か」

クレア「俺達のこと、随分とコケにしてくれたなぁ?タダで済むと

思ってたら大間違いだ!いくぞ!」

魔者1「くっ、地球連合に逆らうやつらには死を!」

クレア「イキがるやつほど弱虫だ…神魔石、俺の風を教えてやれ!」

スター「争いなんて何も産まないってこと…スターは知ってる!

だから、スターは戦争を終わらせる!神魔石、希望を魅せて!」

魔者「ハァァァァァァ!」

神力を高める2人の隙を見て、魔者達は一気に攻撃を仕掛けた。

コータス「妖札・妖姿化!」

2人の壁になるようにコータスは鬼と化した。

クレア「おい⁉︎天井突き抜けてんぞ!」

スター「もういいから、そこどいて!」

コータス「あ、あぁ…妖力解除っと」

クレア「それじゃあ…いくぞ!突風・四方爆破之矢・散!」

魔者「グワァ⁉︎」

スター「今だよ、お姉ちゃん!」

ユーリック「よくやったお前ら!神業・夢見!」

ドリームゲートで瞬間移動したユーリックが魔者を全て眠らせてしまった。

クレア「お前…いつの間に⁉︎」

ユーリック「スターの作戦で先に待機しててな?上手くいったわけよ」

クレア「そうだったのか…まあ、シャリーが遠隔で指揮してくれてるが、

アイツのウォッチフォンの電池が切れたら終わりだ。急ぐぞ!」


第二実験室―

ノール「ここも…もぬけの殻か」

スラリア「全然いないね…敵もいないし」

タケル「俺達の侵入には気付いてないのかもな。あの2人の方に

勢力を向けてるとなると…」

スラリア「だったら急いで合流しよう!数が多ければ多いだけ

有利になるって!」

ノール「単純理論だけど…その通りだな。私達もすぐに向かおう」


第四実験室―

クレア「うわぁ⁉︎」

ユーリック「どうかしたのか⁈」

クレア「こ…これって…!」

実験室の中にあったのは魔獣の四肢や、見たこともない肉塊だった。

コータス「これ…魔獣のか…イカれたサイコの集団みたいだな、ここは」

スター「ここ…早く出よ?なんか…気持ち悪い…!」

「グルル…ガウ…?」

ユーリック「…⁉︎魔獣か⁉︎」

反射的にユーリックは声のした方へ神業を使ったが、眠りについたような

気配はせず、足音がだんだんと近づいてきた。

コータス「おい…なんか足音のリズムおかしくないか…?

タン…タタン、って感じでよ?」

クレア「片足ねぇってことか⁉︎」

スター「あ…あれ!」

魔獣「ギャルルルル…?」

それは臓器が腹から飛び出し、体の半分が溶けた、左前足のない、

ゾンビのような魔獣だった。

クレア「な…なんだコイツ⁉︎」

コータス「ゾ、ゾンビ⁉︎」

スター「ゾンビっていったら脳が弱点だよね⁉︎」

ユーリック「待った!」

クレア「は、はぁ⁉︎何を待てと⁉︎」

ユーリック「コイツ…仲間にできそうだけど…やる?」

スター「仲間にって、なに言ってるの⁉︎」

クレア「こんなやつ仲間にして何の役に立つんだ⁉︎」

ユーリック「ま、それは後…よっと!」

腐敗した魔獣の目の前までユーリックは寄るも、今日一つ感じずに

自分ごと夢の中へ消えていった。

クレア「何する気なんだ、アイツ…」

コータス「あんなやつを仲間にするとか、お前らの姉、サイコか?」

スター「まあ…そうかもね」

ユーリック「たっだいま〜!さっ、この子だ〜れだ!」

パッと帰ってきたユーリックが抱えていたのはスヤスヤと

眠った魔獣の赤ちゃんだった。

スター「えぇ〜⁉︎激カワじゃん!」

ユーリック「あの魔獣ちゃんの魂と魔力を使って、元に戻しただけだよ」

コータス「…?」

ユーリック「つまりは元の体に戻すためにはこうなるしかなかったの!」

クレア「そうじゃなくて、コイツをどうすんだよ⁉︎」

ユーリック「そこは問題なし!あたしに従順な魔獣だから」

スター「えぇっ⁉︎そんなことできるの⁈」

ユーリック「一旦、魂と魔力を分けて、狂った魂に魔力を継ぎ足して

完全な魂に戻したってだけ。まあ、魔力が弱まってこんな可愛い魔獣に

大変身ってわけだけど、この子は特別だよ?」

クレア「…何が、どういうふうに特別なんだ?」

ユーリック「見れば分かるでしょ。この角!」

コータス「…角…もしかして、聖獣の麒麟とか言わないよな?」

ユーリック「違う。この子はユニコーン!まあ、流れものだね」

クレア「ってか、そんな質問返答とかしてる場合じゃねぇだろ!

さっさと次行くぞ!」

コータス「おい、待てよ!」

スター「お姉ちゃんも行こっ!」

ユーリック「…まったく、人の話は最後まで聞きなさいよ」


第三実験室―

スラリア「なんか気味悪い…」

ノール「こんなので怖がるなんて、スラリアは臆病だな」

タケル「だが、雰囲気悪いっていうのは同感だ。血の匂いで

充満してる感じだ」

スラリア「うん…まるで、あたし達が食べられてるみたいな…」

ノール「そんなこと感じられる余裕があるならさっさと進むぞ。

勝手に先に行ったアイツら追わないと」

スラリア「ノールはこういう時、頼りになるよね〜」

タケル「そうだな、冷静に判断できるとか隊長に匹敵だろ」

スラリア「何言ってんの、隊長はフラットだよ?」

ノール「私に隊長は務まらない。まあ、補佐ならいいけど」

スラリア「そうだね、ノールは秘書とか似合いそう!」

ノール「ひ、秘書⁉︎秘書かぁ…良さそう」

タケル「おい、いつまでここにいるつもりだ?早くアイツらに追いつくぞ!」

スラリア「あ、今行くよ!」

ノール「…?少し待て。このエレベーター…使えそうだな」

スラリア「あ、先回りして待つって作戦?」

タケル「まあ、調査はアイツらがやってくれるだろうし、

先回りしてもいいか」

スラリア「じゃあ、地下二階だね」


地下一階―

クレア「うわっ、なんだこの匂い⁉︎」

コータス「アルコールだ…キッツ!」

スター「何でこんなに?」

ユーリック「あたしに聞かれたって分かんないよ!」

コータス「と、とにかく手前の部屋に入ろう!」

文字がかすれて何の部屋かまでは分からなかったが、匂いのせいで

警戒心が薄れて、4人は部屋の中に入っていった。

クレア「ふぃ〜…空気がうめぇ〜!」

コータス「でも…この部屋、おかしくねぇか?」

ユーリック「…やられたね、これは」

スター「⁉︎皆!スター達が入ってきたドア、ないよ⁉︎」

クレア「何⁉︎」

コータス「それどころか…この部屋何もないぞ⁉︎」

足元にある、小さな窓以外は机も椅子も何もない、真っ暗な部屋だと

思われた。が―

ユーリック「これは…異次元だね」

コータス「異次元だぁ⁉︎」

ユーリック「足元の窓に見えてるのは、たしかにさっきの薄暗い廊下。

でも、よく見て。この窓…普通ならあたし達が映るはずでしょ?

だって、こっちは懐中電灯で光の強さはこっちの方が少し強い」

コータス「たしかに…」

スター「じゃあ、この窓がさっきまでいた廊下とこの部屋の

境界線ってこと⁉︎」

クレア「ならこの窓を壊せば―」

ユーリック「やめて。この次元から出られなくなるリスクもある。

でもね、あたしなら無事に全員を助け出すことができる。

奥義を使えば…ね」

スター「えっ…でも、そんなことしたら、その体は神力に

耐えられないんじゃ…」

ユーリック「何言ってんの?あたしはスターを利用した、

最低な姉。いなくなって困ること…ある?」

スター「でも!フラットは全員で生きて帰るって言ったもん!」

ユーリック「これじゃあここにいる全員が帰れないままなの!

少しは分かって!」

「分かるのはどっちだ?」

「やっと見つけた!」

「神業・術破壊!」

その声と共に、暗闇が一気に晴れ渡り、薄暗い廊下の一部と化していた。

クレア「…あ!お前ら、何でここに⁉︎」

ノール「本当だったら合流してそこから作戦開始だったのに、

お前らが先に行ったから地下二階で待ってたんだ」

スラリア「でも、全然来なくて地下一階に来てみたら…」

タケル「アルコール成分を多量に含んだ蒸気が噴出されてて、

明らかにトラップと分かるほど怪しい扉があって、軽く開けたら

お前らがまんまと引っ掛かってたってわけだ」

クレア「じゃあお前らはどうやって地下二階まで行ったんだ⁉︎」

ノール「エレベーター。お前達が先に地下一階に行ってると踏んで

先回りしてたんだ」

タケル「それより、地下3階から強い霊力を感じた。ユーリックだったか?

お前の力で様子を見てきてほしい」

ユーリック「分かった、じゃあ行ってくる」

その指示に従い、ユーリックはドリームゲートをくぐっていった。

コータス「俺も行かせてくれ!」

タケル「お前はダメ。力づくでも助ける気だろ?お前が死ぬハメに

なるだけだ。愚行は避けろ」

コータス「それでもいい!俺はな、カグラの二の舞だけは

死よりもずっと辛いんだ!」

スター「それであの2人はどう思うか分かってるの⁉︎」

コータス「…スター…」

クレア「あぁ、一生後悔するかもしれねぇな。自分達のせいで

お前が死んじまったってな」

スラリア「コータス、死んでも守りたいっていうのは違うと思う。

命懸けで守る、ならいいけどね」

コータス「何がどう違うんだ⁉︎」

タケル「だから妖怪は嫌いなんだ…血気盛んというか、脳筋というか…」

コータス「なっ…」

タケル「分かんないのか?命懸けっていうのは必死の覚悟。

それに、死ぬ気で守る、じゃ死んでも構わないって意味だが、

命懸けなら意味は変わる。まっ、いっか。ほら、お前は探索!

普通に考えて、そのまま入れるわけねぇだろ?」

ノール「どっかに警備してるやつがいるだろ。ソイツから

入る方法を無理矢理にでもはいてもらう」

スラリア「それなら、あたしが」

クレア「よし、俺達が先陣を切る。スラリアは隙を見て術を仕掛けろ!」

スラリア「それじゃ、あたし達の任務をやり切ろう!」

全員「おーっ!」


地球連合作戦実行室―

ユーリック「ふぅ…流石に疲れた…」

研究員1「霊力は充分。作戦実行まで残り1時間!」

ユーリック「い、1時間⁉︎」


地下二階―

クレア「いたな、明らかに研究員っぽいやつ!」

ノール「よし、私が爆風で!魅せてやろう…神業・ナイフボム!」

研究員2「な、なんだ⁉︎」

ノールの神器が研究員を取り囲み、小爆発を起こして視界を奪った。

クレア「よし、いける!」

スラリア「オッケー!神業・緩魂メロディ」

綺麗な音色が研究員の口を緩めていった。

研究員2「実行室は…クロスパズル…」

ノール「はい、どうも!」

研究員はノールに喉を突かれ、一瞬で気を失った。

ノール「なんだ、パズルか」

クレア「俺に任せとけ!パズルなら得意だ!」


実行室前―

スター「このパズル…まあまあ簡単だよね?」

クレア「あぁ、ただこれを横に、これを縦に…」

ノール「待て!これ…もしかして順番があるとかじゃないか?」

タケル「ありえるな…どっかにヒントとか…」

スラリア「ブラックライトとかあればなぁ」

コータス「あるぞ?使うか?」

スラリア「本当⁉︎じゃあ早速!」

クロスパズルに向けてブラックライトを当てると、矢印が

四つ、並んでいた。

クレア「縦…横、横、縦…よし!こうだな!」

矢印通りにパズルを動かすと、ロックが解除された。

コータス「開いた!」

研究員1「なっ⁉︎」

スラリア「アスカちゃん、セイちゃん⁉︎」

クレア「いねぇ…⁉︎」

研究員1「あの2人なら、ここにはもういない」

コータス「いねぇって…⁉︎」

ユーリック「あぁ、違うの違うの!いないっていうのはただ単に

もう帰したってだけ!あの2人はとっくに避難地区にいるみたい」

スター「お姉ちゃん!」

タケル「なんだ、生贄にするかと思った」

研究員1「何言ってるんだ、地球連合日本支部がそんな作戦を

受け入れると思ったと?」

クレア「えっ、違うのか…?」

研究員1「本部の考えはどうかしてる。本部より先に保護できて何よりだ」

大統領「いやはや、失礼。色々と怪しいと思われる行動を」

防衛管理長「申し訳ない。我々はスパイとして本部にいたので

勘違いされても仕方ないかと。ただ、流石にこの実行を止めることは

出来なかったが故の作戦だ」

研究員1「日照家の者から霊力だけを貰って帰した。

紛らわしい真似をした我々にも非はあった」

クレア「なんだ…余計な心配だったな」

ユーリック「そんなこと言ってる場合でもないよ!あと30分で

実行時間なんだよ⁉︎」

クレア「なっ…⁉︎」

スラリア「30分⁉︎どうすんの、まだフラット達、浅草に…」

大統領「いや…デ・ロワーの皆様ならば、この作戦を実行せずとも」

「それは出来ない相談だ」

クレア「だ、誰だ⁉︎」

防衛管理長「この声は…大佐だ!」

大佐「ふん、少佐が裏切ったせいで、我々の軍の8割がファイターなんかの

味方について…どれもこれも、お前らのせいだ!」

クレア「とんだ八つ当たりだな!元はと言えばお前らが先に

ケンカを吹っかけたんだろ⁉︎」

大佐「そこまで言うなら、一つ勝負といこうか。その結果で

この作戦がどうなるか、決めさせてもらう」

クレア「いいだろう。だが、流石に数の暴力はやめようや。

俺1人で相手してくれる!」

ノール「何バカ言ってんだ⁉︎1人で何する気だ⁉︎」

クレア「いいから行け!」

タケル「…行くぞ!」

ユーリック「そういうこと、じゃあ!」

ドリームゲートで、クレア以外の全員をユーリックは

無理矢理ワープさせた。

クレア「よし!」

大佐「まさか大統領や防衛管理長まで連れてくとは想定外だ」

クレア「どうせ俺達が勝っても実行するつもりだろ?だったら、先に

手を打った方がいいからな」

大佐「察しがいいな。その能力に応じて、実行時間は予定通りにしよう」

クレア「そりゃどうも。さぁて…派手にいこうや」

大佐「戦いにおいて、挨拶こそルール。俺の名前はポリエール。

お前の名は知っているが、一応聞いておこう」

クレア「クレアラント・ゴールド。まあ、知ってて当然だよな?」

ポリエール「あぁ…それじゃあ、始めるぞ!」

クレア「言われなくても!」


シャリー「あっ!」

フラット「どうしたの⁈」

シャリー「電池…切れちゃった…」


クレア「えっ…はぁ⁉︎まさか…まさか…⁉︎」

ポリエール「お?もしや、指揮者との接続が切れたのか?

これは面白い!おっと、風になろうとしても無理だぞ?なんてったって、

ここは地下。空調機こそあるが、出口は塞がってるぞ?」

クレア「へっ、ちょうどいいハンデだ。俺のスピードについてこれるか?

魔者さんよ!」

ポリエール「煽りだけは一丁前だが、それだけだな。見せてくれる!

三級魔術・ダークフィールド!」

クレア「なっ…結界だと⁉︎」

ポリエール「これで貴様は自慢のスピードの使い道を失ったな。

まあなんだ?ノールを残しておくべきだったな」

クレア「それだけはお断りだ。ノールが鍵なんでね」

ポリエール「少しは頭も回るんだな。それでどうする気だ?」

クレア「このフィールド内で戦うしかないってことか…しかも、風に

なろうにもここは地下…まさに王手、だな。まっ、所詮俺が

負けたところで何にも影響はねぇがな」

ポリエール「そうみたいだが…俺も特に目的はねぇしな。

ただ単に遊び半分でやってるし…それに、神の血を引く者とは

遊んでみたかったんだ」

クレア「ならたっぷり遊んでやんよ。タイムリミットは…

どちらかが倒れるまで!俺が遊びというのを叩き込んでやる!」

ポリエール「ふん!三級魔術・バックストリームプラズマ!」

クレア「神業・竜巻!」

竜巻の中にプラズマが流れ込み、電気の渦が生まれた。

クレア「神力と魔力がぶつかれば…頼む!」

ポリエール「三級魔術・シャドウフレーム!」

クレア「なっ…動けない…⁉︎」

ポリエール「遊びもこれで終わりだ。もう飽きた。

三級魔族、ポリエールがこの手で葬るだけだ…

三級魔術・ダークマター!」

クレア「…こうなったら!一か八か!神業・風変化!」

ポリエール「何⁉︎なぜ風に⁈」

ダークマターによって起こり始めた気流に乗ってクレアは

風となって賭けに出た。

ポリエール「まさか、そんな手で来るとは…」

クレア「解除ぉ!」

ダークマターの目の前で術を解除し、ポリエールを引きずり込ませた。

しかし、すぐに収まることはなく―


ダンステード「…!大変や!」

ケーベス「どうした⁉︎」

ダンステード「…あの…誰やっけ…あの金髪の…」

バジー「スター様ですか?まさか、クレア様⁉︎」

ダンステード「そうや、クレアや!反応消えたんや!」

メダイ「ウソ⁉︎」

そんな会話をしている最中に―

フラット「そろそろ浅草だよね。作戦開始5分前ぐらい放送してよ」

ノール「それより…何?この雰囲気…」

メダイ「そ、それが…」


全員「え〜⁉︎」

スラリア「クレアの…クレアの生体反応が消えたって…ウソ…だよね⁈」

ダンステード「…残念やけど本当や。バイタル見てみぃ。

クレアの反応だけ、一本線や。壊れたら壊れたで線が消えとるで」

フラット「…クレア…!」


最終節 あるべき形


フラット「…クレア…!」

作戦会議室が一気に暗いムードに包まれた。

スター「兄ちゃん…帰ってこないの?」

ケーベス「その…すんごく言いにくいが、デ・ロワーに着いたぞ。

ペーター達がここにいるんだろ?だったら―」

メダイ「あっ!デ・ロワーから連絡!」

フラット「じゅ、受信して!」

メダイ「分かった…モニターに映すよ!」

受信して連絡相手がモニターに映った。

クレア「よっ!」

全員「クレア⁉︎」

クレア「いや〜、どっかでバイタル落としちまって」

フラット「…もう〜!」

スター「じゃあ、大丈夫なの⁈」

クレア「ち〜っと怪我したぐらいだ。エドよりはマシだろ?」

ノール「心配させんなっての!」

コータス「カッコつけて死んだかと思ったぞ!」

クレア「あんなやつに負ける俺だと思ってたのか?」

ペーター「おい、そろそろ予備電源も切れる」

クレア「あ、じゃあすぐそっち行くわ!」

慌てた声でクレアがそう言った途端に通信が切られた。

フラット「とにかく良かった〜!じゃあ早速迎えに行こうか!」

クレア「よっ!」

コータス「早っ⁉︎」

ペーター「こ、怖かったよ…窓から飛び降りるって…」

シャン「もう…どこで知ったんだか。私がゼウスって…」

フラット「へ⁉︎姉ちゃん⁉︎」

シャン「フフッ、もう隠す必要もないしね。私がゼウス。

ビックリした?創造神の末裔が私だって」

ペーター「地球連合が悪いとばかり見ていたが、どうやら

見当違いだったようだ」

クレア「あぁ。まさか所属軍が魔族だったとはな。まあ今は

味方についてくれている。寝返っていいもんなのか?」

タケル「魔族は派閥が2つあってな。1つは表世界を羨む神生派、

もう1つが闇世界こそ真なる世界だと信じている魔生派だ」

クレア「つまり、派閥が変わったってだけか?」

タケル「まあ、そんなとこか」

「久しいな、お前ら」

フラット「…フォール!」

フォール「何のつもりか知らないが、まさかまた戻って来るとは

思ってもいなかった」

スター「で…何しに来たの?」

フォール「お前らは…邪魔。二級魔術・闇消!」

フラット以外の全員は闇にかき消された。

フラット「なっ…フォール⁉︎」

フォール「そうカッカすんなって。俺だって鬼じゃねぇから

んな闇雲に殺したりしねぇって。ただデ・ロワーの中に送っただけだぞ」

フラット「ならいいけど…で?殺気も立ててないし…何するつもり?」

フォール「もちろんこの戦争の最後となる戦いに決まってるだろ?

お前なら分かってるだろ」

フラット「まあ…そう望むなら…でも、やるからには本気で

いかせてもらうよ!」

フォール「そうこなくっちゃ、楽しめねぇよ!さぁ、最初で最後の

大舞台にしようじゃねぇか!」

フラット「…まあ、小手調べから!審判・凍瀧之結界・絶!」

フォール「暗黒・送別之送涙・滅」


デ・ロワー、ファイター課―

ペーター「ここは…また?」

ノール「ダメだ、窓も扉も開かない」

スラリア「それなら壊しちゃってよ!」

クレア「無理だな。魔力で結界を作られてるし、この魔力が

強すぎて、俺達じゃ手も足も出ねぇよ」

スター「ねぇ、でもスパークフラッシュ号の力があれば

何とかなるんじゃないの⁈」

ケーベス「いやいや、パラレルストーンの力は魔力を引き立たせるだけだ、

かえって危険な行為にしか―」

コータス「いや…いける!ダンステード、あれ間に合ったか⁉︎」

ダンステード「あれやろ?」

メダイ「あれって…?」


フラット「やるじゃん…でも、何気にフォールとタイマンで

戦うの、初めてじゃない?」

フォール「そうだな、俺は普通に移動で、イベントはいっつもお前と

一緒でやり合うことはなかったな」

フラット「なら、この初めての時間を精一杯楽しませてもらうよ!

審判・永久黒炎結界・獄!」

フォール「暗黒・ライトブレイク・散!」

フラット「なっ、神力が…使えない⁉︎」

フォール「残念だが、お前の神力は俺に吸収されている。

つまり俺の魔力が強化され、お前は弱化する」

フラット「なら…仕方ない。神魔石使用停止」


ダンステード「マズイで⁉︎フロート君、神魔石使用停止しよった!」

クレア「だからアイツはフラットだ!」

ペーター「それどころじゃない!何考えてんだ、今のフォールは

魔族だというのに!」

ケーベス「…見ろ!神力レーダーの反応、フラットの神力が

一気に弱まってる!」

コータス「逆にフォールの魔力が強まってる。吸収されてるのか?

だとしたら…ダンステード、あれをフラットに!」

ダンステード「いいんか⁉︎そうなると、わいらは手助けできんくなるで⁉︎」

ノール「こんな魔力ぐらい、なんとかできる!頼みの綱は

フラットしかいない!」

ダンステード「…そうやな。不可能を可能にするんがわいらの仕事や。

それじゃ、まずは人工神力や!コータス!」

コータス「俺の名前は覚えてんだな」

バジー「リアクションよりアクションをお願いします!」

コータス「おっと、そうだった!人工神力照射用意!」

ケーベス「ロックオン…射程圏内!」

メダイ「発射!」


フラット「えっ⁉︎な、何‼︎」

フォール「…やっぱ、お前達らしいか。諦めが悪いとこは

俺にはできねぇかもな」

フラット「諦めが悪いのは認めるよ。でも、それはフォールにだって、

誰にだってできること。少しの勇気も要らないよ」

フォール「じゃあ、何が要るってんだ⁉︎」

フラット「…言葉じゃ言えないから、また刃を交えてね。

さっきの術はもう使えないからね」

フォール「…なら今度は…!暗黒・ダークラビリンス!」


ケーベス「…?おい、どうなってる⁉︎」

メダイ「フラットのいた場所…見てよ!」

全員に向けてレーダーを見せた。

クレア「おいおい、何だよこれ⁉︎」

ユーリック「まるで迷路…」

スラリア「こっちから指示出せば何とかなるんじゃない⁉︎」

スター「ねぇ見て!迷路の道…!」

バジー「壁が現れていますわね…規則性があれば…」

ユーリック「これ…分かった!フラットが止まる度に壁ができてる!」

スラリア「じゃあ今すぐフラットと連絡!」

コータス「無理だ!電波は遮られてる」

ダンステード「諦めるな!不可能を可能にするなんて、わいらにとって

それ以上簡単なことなどないで!」

メダイ「…それは私がやる。ケーベス、私は…絶対に守らなきゃいけない。

分かって…くれるでしょ?」

ケーベス「…ったく、分かった。その代わり…無茶はすんなよ」

メダイ「ありがとう…龍変化!」


フラット「ここは…あれ、行き止まり…?」

フォール「おいおい、しっかりしてくれよ。結界に押し潰されるぞ?」

フラット「分かってる!…さっきから行き止まり…どうなってるの…?」


メダイ「グッ…グゥゥゥゥ!」

ケーベス「マズイ…メダイの生体反応が下がってる!」

バジー「危険すぎますわ!こんなにも強力な魔力を無理矢理にも

壊せば死ぬようなものですわ!」

ノール「私も協力する!」

スター「…そうだね、できるか、できないかじゃない!やらなきゃ!」

クレア「フラットが教えてくれたようにな」

ペーター「…ナックラー、お前がいなくてもデ・ロワーは

やっていける。最後まで…見守っとけよ」


数分後―

コータス「それじゃあ…お前らの神力をたっぷり入れな!

その代わり、ノールはとっとけ。お前の能力はとっておきだ」

ノール「…そうか?」

スラリア「それじゃ…!」

クレア「やらせてもらう!」

スター「今までの全部…返すんだ!」

コータス「スゲェ…一気にパワー全開だ!」

ケーベス「まだ貯めろ。この際だ、壊れるまで溜め続けろ!」

ダンステード「ちょ、本気で言うとるのか⁉︎流石にそれは勘弁やで⁉︎」

コータス「壊れたもんはまた作ればいい!更にパワーアップして、

進化させればいい。そうやってこの世界は…変わってきた。

だからきっと…この戦争でまた変わるだろうな」

ダンステード「…せやな。変わるためには犠牲もある。その子一つで

変化が起きるなら…見殺しやない。もっとええ子にしてみせる」

クレア「マズっ、火花出てんぞ⁉︎」

ケーベス「よし、一気に照射!」

コータス「もうはち切れそうだな…もって30秒だ!」

ダンステード「バジー、お前の手ならできるやろ!」

バジー「えぇ!任せてくださいまし!照射用意完了!目標、

魔力迷宮!メダイ様、お力添え致しますわ!照射!」

全員「届けぇ〜!」

色とりどりの光が魔力の壁を打ち砕き、巨大な迷路さえも壊した。

フラット「皆…!」

クレア「フラット…やっと見えたぞ!」

フォール「お前ら…!」

フラット「ね?勇気も何もいらない。ただ信じるだけ。いつだって、

どんな時だって、僕達はただ信じてた。僕達全員で生きる未来を。

だから悲しんだ、だから悔しかった。でもその涙が流れる度に

教えられた。未来は…ずっと変わるものだって。全部が戻るわけじゃない。

その未来を…信じる。だって変えるのは…僕達だから」

フォール「信じる…だと?」

フラット「僕は…思った。たとえ闇に堕ちても、必ず誰かが

手を差し伸べてくれる。僕もそうなりたい。ずっと…ずっとそれだけを

考えてきた。そして、なってた。あの変な事象のおかげで。

憎しみと悲しみを持った者に、自分に素直になれない者に、

不信な目しか持てなかった者に、役目に囚われた者に、自由を失った者に…

そして、僕と同じく闇に堕ちた者に」

フォール「…なら問題だ。俺が闇に堕ちた理由は?」

フラット「………」

フォール「お、分かったか。何か言った瞬間に攻撃をしようかと

思ってたが、流石フラット」

フラット「?そんなこと考えてないよ。フォールの場合、

ちょっと色んなパターンがあるからどれかなぁってね」

フォール「パ、パターン?」

フラット「お酒を好き放題飲むため、とか暗い所が好きだから、とか」

フォール「お前、バカにしてんのか⁉︎」

フラット「うん!大正解」

ノール「あのバカ…何言ってんだ!」

フォール「もういい!俺が自分の手でこの街もろとも人生に

終止符を打つだけだ!」


墜落したヴィオラ号―

タケル「


タケル「おい、あれ!」

大統領「マズイ、勝手に結界を使われた!」

防衛管理長「どうしますか⁉︎研究所に戻ってる暇などもう―」

大統領「分かっている!だが…こればかりは…」

「お困りのようですな」

「このぐらいワシらは計算しておったわい」

タケル「ベルゼブブにべリアル!」

ベルゼブブ「時間は稼ぎます」

べリアル「この計算にはノールが必要なんじゃ。刻限は近い」

タケル「…あぁ、頼む!」


ベルゼブブ「さぁ、アブ達よ!最後の仕事です!

べリアル「闇は光を苦手にするからこそ隠そうとするのじゃ。

フォールはどちらにもなれる。わしはそう信じておるぞ」


フォール「な、何でだ⁉︎なぜ降りてこない⁉︎」

フラット「もう終わりだよ。この作戦も…この、ケンカもね」

フォール「ケンカ⁉︎」

フラット「戦争とは言えないでしょ?もう魔獣の方も片付いたし、

戦争と言うほど死人も出てないし」

フォール「だからってケンカとも言えないだろ!」

フラット「…?この結界…降りてきてる⁉︎」

ノール「本当だ、降りてきてる⁉︎」

コータス「結界の力が弱まってるわけじゃないな…何かが

抑えつけてるだけだ!」

ケーベス「…なんだこの魔力の反応…やけに小さな…」

スラリア「…もしかしてベルゼブブのアブじゃないかな⁈」

スター「あっ、そうかも!」

ダンステード「既に変化は起きてたんやな。魔族がここに

生活する未来も近いかもしれんなぁ!」

ノール「その未来を作るにも…あの結界をどうにかしないと…!」


ノールが幼かった頃―

テラン「俺達はな、あの明星様から生まれた者だ。そして明星様の

記憶を借りて破壊をできる。いわゆる、奥義ってやつだな」

ノール「奥義って?」

テラン「ん〜…まあ、最後の手段ってやつだな。お前がそれを使ったら

どんな世界になるんだろうな?」


ノール「…皆。私、あれを壊してみせる」

クレア「はぁ⁉︎正気か!」

ノール「私にしか…できないこと。私は…誰かのためになる破壊をする!

それがたとえ、どんな結果になろうとも!守れるものは…守り切る!

もう私だけが助かるわけにはいかないから!」

その瞬間、空から一筋の光がノールを包み込んだ。

ペーター「あれは…明星?」

スター「ノ…ノール?」

ノール「行ってくる。私は…明星の破壊神。今までは…自分のためだけに

破壊をしてきた。でも、今は違う!私は誰かの笑顔のために破壊する!」

それだけ言うと、一気に結界のもとへ飛んでいった。

ケーベス「…お前らも手伝え!ノールは信じてるぞ!」

クレア「分かってる!」

スラリア「神力は尽きちゃったけど、やれるだけやろう!」

ダンステード「ほんならあの結界に魔力をぶつけてみい!」

コータス「そうか!東京中の魔力を一気にぶつければ!」

スター「中和されるかも!」

バジー「ではやりましょう!」

ケーベス「待て待て!あれはヴィオラ号だぞ⁉︎」

コータス「あっ…」

メダイ「グウ!」

コータス「メダイ…乗れっていうのか⁉︎」

クレア「無茶だ!お前、今にも倒れそうだぞ⁉︎」

メダイ「グルル…」

構わないという風に、メダイは首を振った。

コータス「…分かった。でも、無理すんな。いいな!」

メダイ「グっ!」

コータス「よし、俺が行く!お前らは待ってろ!」

ケーベス「…頑張れよ!」

コータス「何だよ、らしくない。俺にかかってるってのは

分かるけどよ?」

ケーベス「一応は義兄だからな。心配するのは当然だろ」

コータス「何だよ、それ。まあいいや、行くぞ!」


ノール「明星…あなたの知る全てを私に委ねて!

幾千もの夜空を超えた世界を、私は救いたい!

奥義…最終破壊・『記憶』術・『四季咲花‼︎狂咲之破天荒』!」

明星と一心同体となったノールにはたくさんの花の記憶が見えた。

その色で世界を染めていると言っても過言ではないというほどの。

その記憶をもとに、結界に向けてありったけの神力を色彩豊かに

表現した。それはまるで打ち上げ花火のように…


コータス「よっと!これだな…ノール、待ってろ!俺達だってな…

やれることを全力でやるんだよ!絶対に…諦めたりしねぇ!

そうだろ?カグラ…俺は2度と、大事なものから目を背かないと

決めたんだ!魔力吸収開始!」

東京に溢れかえった魔力をヴィオラ号は一気に集めた。コータスの言葉に

答えるように、壊れそうな音を出しながら。

コータス「…ありがとうな、そこまで頑張ってくれて。俺も、

最後の最後までやりきってやる!」

[魔力の補充、限界量です]

コータス「照準…って、クソっ!ガレキが邪魔で…動かせねぇ⁉︎」


ノール「くっ…⁉︎もう…無理!」

ベルゼブブ「ノール!」

既にアブのほとんどが死に、ノールに託していたベルゼブブが

なんとノールの目の前に飛び出した。

ノール「お、おい⁉︎何して―」

ベルゼブブ「もう良い。私は…この世界を守る礎となろう。

今更…償いきれない真似をしたのだ」

ノール「で、でも!」

べリアル「わしもついておる。お主が死ぬのは勿体無くてのう」

ノール「べリアルまで⁉︎」

べリアル「集中せんか、わしもそう長くは持たん」

ノール「……」

ベルゼブブ「私達のことは気にしなくていい。貴殿にした非が

いかなる罪かを判断した上でのことだ」

ノール「…ダメ!だからって死んでも良い理由にはならない!

私は…誰も失いたくない!」


コータス「このっ!動けよ!」

メダイ「グゥッ!」

傷が酷かったメダイも協力していたものの、限界が訪れてしまった。

コータス「メダイ⁉︎クソ…!こうなったら―」

大統領「私達も手伝う!」

防衛管理長「力仕事ならなんだって任せてください!」

コータス「…でも…人間の力じゃ、こんなガレキ…」

防衛管理長「だったらあなたの力も貸してください!」

大統領「平安時代で大暴れしたその妖力、発揮してもらえれば

充分でしょうな」

コータス「…なんだ、アンタら俺のこと知ってんのか。だったら話が早い。

俺にはあまり干渉しない方が身のためだ。妖札・妖姿化!」

大統領「…これが…!」

防衛管理長「間違いありません…雷蛇鬼です」

コータス「どいてろ。ん…っと!」

ガレキをコータスは一気に押し退けた。

コータス「はぁ〜…あとは…照準を…ふぅ…ふぅ…」

大統領「あとはあの結界に撃つだけだ。方法を教えてください。

あとは私がやります」

コータス「…方法は簡単だ…そこの赤いボタンを…照準に合わせて

押すだけだ。できるのか…?」

大統領「これでも昔はライフルで700ヤードぐらいは正確に

撃ち抜けたのでね…よし、照準完了!発射!」


ノール「もう…ダメ!」

限界を迎えそうなノールの斜め後ろから黒い一本の筋が結界に

突き刺さった。何重にも重なった結界を次から次へと撃ち破り、

やがて、全ての結界が光の破片となり東京中に散らばった。

その光が落ちたところからは次々と色々な花が咲いていった。


フォール「これは…どういうことだ⁉︎」 

フラット「これが、僕達の先にあるべき未来という名の世界だよ。

たとえどんなに荒れ果てたとしても…花は咲くんだ!」

フォール「!」

フラット「フォール…本当は僕ね、フォールがどうしてこんなことを

したのか…分かってた。でも、言葉じゃ言えない答えだから、

笑顔でいようって決めたんだ。僕なりの“おふざけ”、気付いてた?」

フォール「…おふざけ…か。そうさ、俺はふざけてるふりして、

ただ強がるだけで逃げてただけ。弱い自分からも、運命からもな」

フラット「…運命ってさ、あると思う?」

フォール「そりゃあるだろ。俺達は生まれた時点で種類も違けりゃ、

肌の色、瞳の色、髪の色なんかも違う。その時点で―」

フラット「そんなのが運命なら、僕達は何のために生きてるのさ⁉︎

自分に嫌悪するだけのために生きるの⁈」

フォール「そ、それは…」

フラット「僕達は僕達で思うがままに生きれば良い!周りから

変な目で見られても、偏見や差別をされても…それが僕達が生きる、

描いてくたった一つの物語なんだから!生まれた時点で運命が

決まるんじゃない。生まれてから、自分の手で決めてくものなんだ!」

フォール「…フラット…」

フラット「でも、それはあくまで一人称の話。困った時には

ちゃんと僕達がいるから、ね!」

優しさに溢れた笑顔をフォールに見せ、手を差し伸ばした。

フォール「…でも俺はもう手遅れだろうが!」

フラット「?何が手遅れなの?」

フォール「街を滅茶苦茶にして、何人もの人を魔獣にして…

こんな俺にはもう…生きる資格も―」

フラット「あるよ」

フォール「は?」

フラット「は?って、覚えてないの?魔獣はたしかに魔力や負の力を

持つ者のなれ果てた姿。でも魔獣が死んでも、別にその人が

死ぬわけじゃないよ?」

フォール「…あ、そうだったな…」

フラット「あくまでその人の魔力や負の力が消えるだけ。

バルシアも気絶しただけだったし」

フォール「ノールはそれ…知ってんのか?」

フラット「ううん。これから教えるとこ。このケンカをパパッと終わらせて皆を驚かせようと思って。だからさ、

また一緒に行こ、フォール!」

フォール「…ならせめて…!俺を罰しろ!死ぬ覚悟だってできてる!」

フラット「罰しろって言われても…ケンカの決着もついたし、

いいじゃん。それにフォールが犯した罪って…うーん…器物損壊?」

フォール「なっ…他にもあるだろ!」

フラット「人を殺したのはアザゼルだったタケルで、他…はないかな。

まあ、そんなに罰がほしいなら…」

フォール「なんだ、早く言え!」

フラット「これから1年間は、お酒厳禁!破ったらもちろん罰があるよ」

フォール「はぁ⁉︎お前、ふざけてんのか⁉︎」

フラット「うん!だって言ったでしょ?これが、

僕なりの“おふざけ”だって。それにさ、壊したものは直せばいいし、

死人だって千人も出てなければ、一般人の被害も今の技術ならすぐに

復興できる。つまり…もう分かるよね」

フォール「でも…」

フラット「聞いてなかった?破ったら罰がついてくる。気に食わないなら

お酒飲めばいいじゃん」

フォール「フラット…」

フラット「僕の未来には…ううん、僕達の未来には誰一人として

欠けちゃいけないんだ。これから先の未来、ずっとね」

フォール「俺も…いいのか?」

フラット「フォールの居場所は…ずっと変わらないよ」

優しくフォールに抱きつくと、フラットはそう囁いた。

フラット「帰ろ、一緒に。また、一緒に歩こ?」

フォール「…あぁ…!」

辺りに広がっていた魔力により闇が晴れていった。そして、

デ・ロワーを包んでいた結界も全て消え去り、終結を伝えるように

日光が差し込んだ。

フラット「うわっ、眩しっ⁉︎」

全員「おーい!」

フラット「皆!」


ノール「ふぅ〜」

ベルゼブブ「お、おい!」

べリアル「運んでやれ。わしはもう疲れたわい」


大統領「やったのか…!」

防衛管理長「はい…!東京も無事です!」

コータス「アイツら…やってくれたな!」


ペーター「奇跡だ…あんな危機を…ナックラー、見てたか?」


ナックル「…やりやがった…流石フラットだ。もう俺がそばにいる必要も

ねぇようだな。そろそろ…いくとするか」


フラット「じゃあ…久しぶりにアレやろっか!」

タクマ「ちょっと待った!」

ヒナ「私達も一緒に!」

ゴン「カメラは俺のを使ってくれよな!」

ベスト「出しゃばりすぎだっての!」

ラルバ「フラットさ〜ん!やりましたね!」

デラガ「だから抱きつくなって!すまんな、フラット」

シャリー「お兄さん、私…何でだろう…涙が…こんな温かい涙、

生まれて初めてだわ」

ミッシェル「やるじゃねぇの!初めて会った時はただの

へっぴり腰だったのによ!」

センリ「ミッシェル、失礼だよ。ありがとう、ここに導いてくれて」

フラット「……もう、なんて返せばいいの!困らせないでよ。

それじゃあ、皆で撮ろっか!ゴンさん、お言葉に甘えます」

ベングル「待て待て!俺達忘れてるぞ!」

グリオ「まったくだ」

バジー「私達だっています!」

ダンステード「わいらを忘れるとは酷いやっちゃ!」

ペーター「俺達も入れてくれよ」

ケーベス「そうだそうだ!」

コータス「ほら、着いたぞ。フラット!メダイを忘れるとは

いい根性してんなぁ?」

フラット「ご、ごめん!でも…何もなかったこの場所に…

大切なものがこんなにできてたんだ…そう、僕は1人じゃない」

ゴン「おい!フラット、撮るから早く真ん中行け!」

フラット「えっ?」

皆「勝利のVサイン―」

フラット「キ、キメってうわぁ!」

真ん中へ駆けていこうとしたフラットが盛大に転び、全員の

バランスを崩して、ブレっブレの写真になってしまった。

ゴン「あ〜…」

全員「アハハハハハハ!」

フラット「皆…」

その全員の笑顔に、フラットはナックルに言った言葉を思い出した。


フラット「僕は知り合った人を笑顔にしたいんだ!」


フラット「…さっ、帰ろっか!」


Light Fallen Angels

〜First Season〜 完

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