第18話 道は途切れることなく
1節 忘れられないから(前編)
オフィスー
ベングル「フラット、ここ間違ってるぞ」
フラット「……」
ベングル「おい、間違ってるぞ!」
フラット「わわっ!あ、えっ?」
ベングル「大丈夫か?最近ミスが増えてるぞ」
フラット「う、うん。大丈夫だよ。ちょっと疲れが溜まってるだけ」
ベングル「疲れてるからってこんな初歩的なミスするか?」
フラット「す、するもんだよ」
ノール「最近フラット、集中できてないな」
クレア「そうだな。まあ、俺もだが」
エド「明日の花見に近づくにつれてっすよね。やっぱり無理してるんすかね」
スラリア「無理してなかったら何でミスするの?フラットだったら
最終確認ぐらいするはずだしね」
ベングル「つまり、それができないぐらい切羽詰まってるんだろうな」
ペーター「君達、急だが今日から3日ほど練馬区に行ってくれるかい?」
クレア「えっ、でも明日は…」
ペーター「私情をこなす暇はファイターにあるか?学校を行かずに
仕事を優先してくれるやつもいるのに」
スター「……あの、流石に…」
クレア「せめて当番制にしてくれ。俺達も仕事が残ってんだ」
ペーター「…分かったよ。ただし、フラット君には毎日出てもらう」
スラリア「えぇっ⁉︎何で⁉︎」
ペーター「隊長だからだが?」
スラリア「でも…あの状態ですよ⁉︎いくらなんでも休ませてあげた方が…」
ペーター「休ませる暇はない。既に世界の3割はやつらに
占拠されているんだ」
ライ「拙者も毎日参るでござる」
ダンステード「わいも行かなきゃあかんか?」
エド「当たり前っすよ!」
ダンステード「ならわいは3日目で頼むで。試作品の実験を
まだやってないんや」
ペーター「じゃあ各自、都合のいい日に。フラット君とライを含めて
1日目は4人、2日目と3日目で3人で頼むよ」
クレア「…俺は2日目だ」
スラリア「じゃああたしも」
スター「スターも2日目!」
ノール「なら私は2日目以外で」
ベングル「俺は初日」
エド「俺は最終日っす」
ペーター「分かった、ノールとベングルが初日で、
クレアとスラリア、スターが2日目、エドが最終日っと」
ライ「フラット殿の面倒は拙者が見ておくでござる」
ベングル「…ペーター、俺、最終日も出る」
ペーター「あ、あぁ、いいだろう。仕事内容は練馬区にあるファイター企業、
ララクス・バッテンで聞いてくれ」
ノール「?そこはアカデミーとは関係ない企業…」
ペーター「実はそこにキエがいる。フラット君と同じ翼を持つな」
クレア「まさか協力を頼めと?」
ペーター「いや、逆だ。敵の狙いは練馬区だと睨んでいてね。
こっちが先に戦力を固めて痛手を負わせるといった戦法で
向かい打つということだ」
ライ「息をひそめて敵を討つ。なるほど、姑息な手ではあるが
使わぬ手はないでござるな」
スラリア「でも…フラットがあの調子じゃ…」
ペーター「仕方ないことだ。敵は待ってくれないからね」
スター「…違うよ!」
ペーター「えっ?」
スター「そんなの違う!今のスター達じゃ勝てない!だって…
フラットが皆の力になるのに…あんな調子じゃ」
ペーター「…しょうがない、俺が出るよ。でも、あの調子のフラット君を
1人にしておくわけにはいかないだろ…」
エド「なら俺が残るっす。ベングル、最終日も出てくれるんすよね⁈」
ベングル「あ、あぁ」
エド「俺はフラットを笑わしたいっす!それなら何だってするっすよ!」
ペーター「…なら問うが、ただでさえチームワークのない君達が
神魔軍の力を得た奴らに勝てると思うか?」
クレア「そ、それは…」
ダンステード「その問題ならわいのリレーション強化パーツでー」
ペーター「そういう問題じゃない!フラット君の指示さえ
まともに従えない君達が俺の指示を従うとも思えないし、
その上、誰かのために戦えるとも思えない。できるのか?」
クレア「できるに決まってるだろ!」
ペーター「仲間を助けられるのか?」
クレア「えっ…」
ペーター「クレアは自分を犠牲に仲間を救えるだろう。だが、
自分を犠牲にせず、仲間を助け出せるか?」
クレア「……」
ペーター「だろう?そんな助けじゃ、トラウマを与えるだけだ。
それが今できるのはフラット君だけだ」
ノール「…だったら!」
ノールはフラットのもとへまっすぐ突き進み、迷うことなく
胸ぐらを掴み上げた。
ノール「私の手に神器が握られる前に、その目つきなおしとけ!」
そう強く言うと、フラットをデスクに投げつけた。
スラリア「ちょっ、フラット⁉︎ノール!」
ノール「何?喝を入れただけだけど」
クレア「やり方ってもんがあるだろ!」
エド「フラットもなんか言えっす…?」
フラットはただ座り込んで一言も発することはなかった。
しかしエドの眼には一筋の涙が見えた。
エド「フラット……あの、俺とフラットは帰ってもいいっすか?
この調子じゃ、仕事どころじゃないっすから」
ペーター「そうしてくれ」
エド「すみませんっす」
エドは1つ会釈をするとフラットを背負ってオフィスをあとにした。
浅草大学寮ー
エド「…俺には人の気持ちなんて分からないっすよ…
フラットにはできて、俺には…悔しいっすよ!フラットに
貰ってばかりで…何にも返せないっす!」
フラット「……」
エド「…限界っすよね。俺じゃ…代わりになれないっすよね…」
フラット「……」
エド「せめて…せめて何か言えっす!何も言わないからフラットの気持ち、
何にも分かんないんすよ!」
フラット「…ごめん」
小声でそう囁いた。
エド「ごめん…⁉︎それだけっすか⁉︎」
フラット「ごめん…」
エド「もういいっすよ!勝手にしろっす!」
フラットを残してエドは寮から飛び出してしまった。
浅草公園ー
エド「…はぁ」
ベンチに腰をかけてため息をつく。
エド「最低っすね、俺。あんなこと言って…」
クレア「ん?エド!」
エド「あっ…クレア…」
クレア「どうしたんだよ、お前までネガっちゃって」
エド「実は…」
クレア「なるほどな。フラットがあまりに悩みすぎて会話もできず
イラついて飛び出してきたと。最低だな」
エド「分かってるっすよ!」
クレア「でもよ、ペーターから聞いた話だと、今のフラットは
昔のお前みたいだな。決して自分の弱みを見せないところとかな。
だがフラットはそれを容易く見抜いてしまう。そして迷わずに
手を差し伸ばす。ズリぃよな」
エド「…本当に最低っすよね。恩を仇で返しちまったっす」
クレア「そうかもなぁ。でもよ、フラットがそんなんで怒ると思うか?」
エド「思わないっすけど…」
クレア「なら大丈夫だろ?それにフラットが簡単にお前のことを
嫌わねぇと思うぞ?」
エド「クレア…」
クレア「ま、俺も人の背中を押すのとかは得意な方だしな。
任せてくれや」
エド「……」
クレア「アハハハハ、自分で言うなってか?」
エド「そうっすよ!そういうとこがフラットと似てないんすよ」
クレア「ハッハハ、こりゃ一本取られたわ」
「あ、お2人とも」
クレア「えっ、キエちゃん⁉︎」
キエ「すみません、話聞いちゃって。それと、私の秘密を
教えてもいいですか?」
クレア「ひ、秘密…?まさか芸能界辞めるとか言う気じゃ―」
キエ「いえいえ。私、偽名なんです。本名はシャン・クラリオ。
フラットの姉です!」
エド「えっ…」
クレア「姉…⁉︎」
クレア&エド「えぇ〜⁉︎」
シャン「改めまして、これから宜しくお願いします。ペーターからの
指示でようやく動けますよ」
クレア「は、はぁ…」
翌日ー
ペーター「…シャン、もう名乗ったのかい?」
シャン「理由もできたので。さぁて……フラット!何ウジウジしてる⁉︎
私の教えたこと、忘れたとは言わせないぞ!」
フラット「えっ…えぇ⁉︎姉ちゃん⁉︎」
シャン「全く、あんな目の前まで来ても気づかないなんて、
そんなに私が老けたとでも言いたいの?」
フラット「そ、そんなわけ…ある」
シャン「あぁん⁉︎」
フラット「い、いや大人びて綺麗になったって意味だよ?」
シャン「ふぅん…って、そんな見え透いた嘘、丸わかりだっての!」
フラット「あいで!」
クレア「…本当に姉弟なんだな」
スラリア「何だか羨ましいなぁ。お姉ちゃんとかいないもん」
エド「…あれ?でもフラットって孤児じゃなかったっすか?」
ペーター「シャンは義理の姉みたいな存在だ。それに偽名を使っている以上、
安易に保護したら本名がバレてしまうだろ?」
エド「そ、それもそうっすね」
ベングル「だが、ちょっとは明るくなったみたいだぞ」
フラット「そこまで言わなくてもいいだろ!」
シャン「お前は言わないと分かんないでしょうが。それとも、
分かってるのに分かんないふりでもしてたのかな?」
フラット「うぐっ…はぁ」
ノール「なるほど、フラットの優しさは姉譲りか」
クレア「フラットとは違うけどな」
ライ「だが、すっかり笑顔でござるな。これならいつもの調子に
戻るでござろう」
ペーター「…シャン、ありがとう」
シャン「本当はフォール君が戻るまでは秘密にしておきたかったんだけど、
コイツのせいで正体をバラすハメに…」
ペーター「煮たり焼いたりしてもいいから」
シャン「ならいいや。で?私はどうするべきか教えてくれる?
ここではファイターって呼ばれる存在じゃないからね」
ペーター「それぐらい分かっているよ、君がヒーラーなのは
俺だって覚えているとも。だが神魔軍相手には君も対抗手段の一つなんだ」
シャン「ペーター、お前らしからぬ発想だ。まあそれはそれとして…
私はどうするべきなの?」
ペーター「あぁ、必要な時には呼ぶから。
まあつまり、非常勤無といったところだ」
シャン「了解っと。じゃあ本職に戻っていい?私、ライブまだ残ってる」
ペーター「あ、ごめんね。そこら辺は君の好きにしてくれて
構わないから。でも、フラット君次第でも呼ぶかもだから
一応それは忘れないでね」
シャン「分かりました、それじゃ私は職場に戻りますので」
フラット「早く帰れっての」
シャン「フラット〜?今何て言ったのかなぁ〜?」
フラット「だぁ〜もう!絡むんじゃなくて帰れって!」
シャン「ふぅ〜ん…ペーターさん、この子ちょ〜っと借りていい?
オモテでコテンパンにしたいから」
フラット「ちょ、ごめん、悪かった」
スラリア「フラットって家族に対しては冷たいねぇ」
ノール「そういうお嬢様も親不孝だろうに」
ペーター「まあ落ち着いて。シャンもご苦労様。でも、公では絶対に
シャンと名乗っておきなさい」
シャン「分かってますよ。ただ、忙しいのでフラットへの正裁は
任せましたよ、ペーターさん」
ペーター「分かった分かった。それとクレア、君の神力のもとである
アネモイの神像を見つけられてね。早速行ってもらいたい。
ちょうど練馬区なんだ」
スラリア「それってあたし達の動きに勘づいてるってことじゃ―」
ペーター「そう。だから君達に防衛の依頼が来てるわけだ」
フラット「…そう…だよね。迷ってる場合じゃない!やります!」
シャン「やっと本気になったか」
ベングル「よっしゃ、これなら全員総出でも問題なさそうだな!」
ダンステード「入るで。ペーター、アレの整備、やっと終わったで!」
ペーター「本当か⁉︎」
ダンステード「あぁ、あとは強化パーツのみや!本体の方の確認は
よろしゅう頼んまっせ」
ペーター「あぁ、本当に助かった」
ベングル「アレって何だ?」
ペーター「それはまだ―」
ダンステード「秘密や。最終兵器と言っても過言じゃないしのう」
ライ「まあ良かろう。拙者達は任務に行くでござるよ」
フラット「あっ、待って。それじゃ、命令しなきゃ。僕は他でもない、
隊長だからね」
エド「それでこそフラットっす!」
クレア「昨日はあんなに怒ってたのによ」
フラット「デ・ロワー総員の目的、練馬区練馬区にてクレア隊員の
紋章伝授を無事に見届け、及び練馬区を狙う神魔軍を討伐!」
全員「了解!」
シャン「それじゃ、頑張ってね」
練馬区、ララクス・バッテン―
社長「君がフラットさんだね。デ・ロワーからわざわざお呼びしてしまい、
申し訳ない。練馬区にもアカデミーに所属しているファイター企業は
ありますが、評判が良くなくて…」
ノール「そうだな。裏社会と繋がってるとか、闇金に手出してたりとか、
物騒な連中だらけと聞く」
ベングル「なのにアカデミーが縁を切らない。ゼウス様はやつらに
何を期待してるのだかサッパリ分からねえ」
シャン「それより社長、自己紹介してませんよ」
社長「おっと、ありがとう、キエちゃん。私は小暮 ナミ。
ララクス・バッテンの創始者であり、ファイターです」
フラット「へぇ、となると、社長も戦闘に?」
ナミ「はい、直々に」
ライ「かなり危険ではござらぬか?」
ナミ「まあ、部下に庇われがちですけど」
シャン「そんなことより花見でもしませんか?折角の満開ですし」
クレア「お、いいな!」
スラリア「賛成!」
スター「お花見…?あっ…あっ!」
クレア「お、おいどうした⁉︎」
スター「花が…赤く…赤く……」
クレア「スター…?」
フラット「!ダメ、離れて!」
そう言うとフラットはクレアを思い切り突き飛ばした。
クレア「って!な、何しやがる⁉︎」
エド「いきなり何してるんすか⁉︎」
シャン「フラット、ナイス判断。何だ、この狂気…」
ノール「どうやら桜はスターの過去に何かしら因果があるんだろう。
狂気の元となった何かが」
スター「…フフ…キャハハ!スターのお花、スターだけのお花、
邪魔させない!血で真っ赤にコーディネートしてあげる!」
ベングル「ぐわっ、何だこの力⁉︎」
ライ「神力と魔力が混ざってるでござる!」
ダンステード「嘘やろ⁉︎アイツはただの天使じゃあらへんのか⁉︎」
フラット「神と魔の力の両方を持ってるだけ!バランスが偏って
スターの心が制御できてないんだ!」
シャン「心を正常にすればいいなら私に任せて!
神業・クールエンベロッパー!」
スター「…?あれ…スター…?」
フラット「ねえちゃ…じゃなかった、キエさん、ありがとう!」
シャン「ふぅ、職場を壊されるわけにはいかないから。で、
この狂気の塊は誰?」
クレア「はぁ⁉︎ユーリック…だよな?」
シャン「コイツのせいで狂気が溢れ出してたのね。じゃ、
これは殺した方がいいんじゃないの?」
フラット「ダメだって!実体さえあれば…」
シャン「なら…あれを使ってもいいよ」
フラット「あれって…人形⁉︎」
シャン「そう、人形。ひとりかくれんぼみたいに追っかけてきそうだけど」
ナミ「こら、物騒なこと言わないで。そうだな…私の知り合いに
人形師がいるが、協力してくれるか…」
シャン「なら私が行きます。あの人とは仲が良いので」
ナミ「ありがとう!キエちゃんが社員で本当に良かったよ」
シャン「いえ、じゃ、行きますよ、皆さん」
フラット「えっ、行くって言っても誰かは残らないと…」
ベングル「なら俺達が残るぜ。いいだろ?」
ライ「拙者は構わないでござる」
ダンステード「わいもお構いなしや。それより、少しばかり
大きな音出しても構わへんか?」
ナミ「大きな音って…?」
ダンステード「ちょいと発明中の道具があってな?それを
一刻も早く完成させたいんや」
ナミ「なら用途は違いますが防音付きのレコーディングルームを
使用してください。この辺りは住宅地も近いので」
ダンステード「おおきに!」
フラット「それじゃ、デ・ロワー組も残っていいのは?」
ノール「私が残る。敵が来た時に戦力となるのは私だろ?」
エド「俺も残るっすよ。ユーリックと付き合いたくはないっすから」
フラット「まあ…そうだね。じゃあスターも残して…うん、
3人で行けばちょうどいいね」
シャン「それでは行ってきます」
人形屋ー
店主「いらっしゃいませ…って、あらキエ!どうしたの?」
シャン「実はまたお願いがあってね」
店主「また実体用の人形?ああいうの、作るのは簡単だけど
手入れは大変よ?」
シャン「分かってるって。それにどうやら今回の子は実体を
求めてるどころか形成しそうだから」
クレア「け、形成⁉︎できんのか、そんなこと⁉︎」
シャン「禁止された手段でね」
スラリア「それって女神化ってこと⁉︎」
シャン「そう、この子はそれだけの神力を持ってる。でも、女神化は
禁忌。犯してしまえば永久に牢獄の中。そうなる前に実体を
手に入れさせないと。お願い、マーシュ」
マーシュ「分かったわ、その代わり、その子の罪はどうするのか
聞いてもいいかしら?」
フラット「それは僕が既に断罪済みです。まだ血だらけの夢は
覚めてないみたいだけど…前よりはずっと大人しくなった、
それは僕が責任もって証明します」
シャン「よく言った!じゃ、お願いできる?」
マーシュ「えぇ、すぐに持ってくるわ」
数分後ー
マーシュ「この人形でどうかしら?」
フラット「えっ、これって…」
マーシュ「えぇ、死んだ人間の中にその子の魂を入れちゃうの。
もちろん、病死体のよ?事故や事件モノじゃ恨みなんかの邪念で
魂が汚れちゃうから」
スラリア「でも…これただの人間のモノ…」
マーシュ「今はね。この中は生きてる人間と同じく、臓器、血管、
関節、脳、目、骨、血液などの生命活動において重要な役割を
果たすものは全部死んでない。あとはこの子次第。でも、これだけの力が
あるなら成功しか道はないけど」
クレア「…おい待て、これって人工アリジゴクの裏計画の一部じゃねえか⁉︎」
キエ「マーシュは裏計画に携わってるスパイ。でも、これは
悪用だと思う?体を欲する魂に願い通り体を与える」
マーシュ「本来なら邪念だらけの罪を犯した魂のカケラ、
いわゆる悪念の塊となった人形なのよ?」
スラリア「それはそうだけど…」
フラット「でもこれを使わないと…分かった、使ってください。
それでようやくユーリックが1人になれる。本当のことを
聞けるかもしれないから!」
クレア「おい、本当のことってなんだよ⁉︎」
フラット「それはユーリックに聞いて。お願いします!」
マーシュ「いいけど…この人形代は高いわよ?
使ってるモノがモノだからね」
フラット「大丈夫です!お金ならいくらでも!」
シャン「…私に払わせる気か。マーシュ、私が払うよ。ファイターに
お金を支払わせるわけにいかないから」
マーシュ「えっ、でも…」
フラット「ぼ、僕も出すよ!」
シャン「じゃあ2人で払う?」
フラット「そ、それでもいいけど…」
シャン「じゃあ2人で」
マーシュ「2億オズ」
フラット「1人…1億オズ。良かった、遺産貯金しといて…」
シャン「…ふふっ」
フラット「な、何?」
シャン「ううん」
(気づかなかったのか、あの2人は同じく人形だったのに…)
マーシュ「大成功ね、キエ」
シャン「そうみたい。ありがとう、フラット」
フラット「し、支払いぐらいでお礼なんかいらないよ!」
マーシュ「それじゃ、始めるけど男の子は出ていってもらえるかしら?」
シャン「ほら早く!」
クレア「な、何でだよ!」
マーシュ「だってこの人形、何も着てないでしょ?」
フラット「あ…クレア、出よ?」
クレア「あ、あぁ。俺達が変態って言われる前にな」
2人はそそくさと店から出て行った。
スラリア「あの…あたしは?」
マーシュ「女の子だからね、ちょっと残ってほしくって。
この子の顔を見て、似合いそうな服を買ってきてほしいの」
スラリア「なるほど!ならキエさんもどうですか?」
シャン「い、いや私はコーディネートとか苦手だから」
スラリア「そ、そうですか。ライブの衣装、かわいいのに」
シャン「あれはコーディネーターの人が選んでるからであって―」
マーシュ「キエ、早くその子を胸の中に」
シャン「あ、ごめん。じゃあ、詠唱は任せたよ」
マーシュ「えぇ。さ、いつでも」
シャンは人形の胸に魂を押し込める。
マーシュ「迷いし
生を得、未練を果たせ!発動、生命封印之陣!」
シャン「よし、いい感じ!マーシュ、あともう少し!」
人形の青色の髪が揺れ、口と鼻が呼吸を始め、、閉じていた瞼が
開き、綺麗な緑色の瞳が覗いた。
スラリア「す、凄い…綺麗な人…これがユーリック⁉︎」
スラリアが感動していると、魂はすっぽりと人形に入った。
その瞬間、ばたりと倒れてしまった。
スラリア「えっ…失敗…?」
シャン「ううん、成功!」
マーシュ「ふぅ…でも、この子の筋力は赤ちゃんと同じくらいよ。
まあ、神の血をひいているから筋力の成長は早いけれど…」
スラリア「キエさん、経験ありますか?」
シャン「あるよ。だからそこは私に任しといて」
スラリア「本当ですか⁉︎じゃあお任せします!」
シャン「それより、早く服を」
スラリア「は、はい!」
外―
スラリア「フラット、クレア!」
フラット「?どうしたの?」
クレア「というか大きな音がしたが何かあったのか?」
フラット「だからあの音は後ろからしたんだって」
スラリア「音…?それより、2人はもう帰ってていいよ。
あとはあたしがやっとくから」
クレア「ダメだ!分かってんだろ、ここは危険だ」
スラリア「待ってる方も危険だと思うけど…」
フラット「それより何でスラリアは出てきたの?」
スラリア「ユーリックの服を買いに…」
クレア「あぁ、そうか…」
フラット「じゃ、僕が付き添うよ。クレアじゃセンス無さそうだし」
クレア「なっ…!」
スラリア「普通かな、クレアのセンスは。
派手すぎず、落ち着いた服だったし、あたしへのプレゼント」
クレア「うぐっ…だってよ、お前の好きそうな服、
既に売り切れだったんだ!」
スラリア「予約すれば良かったじゃん」
クレア「うぐぐ…」
フラット「嘘は良くないよ、クレア」
クレア「へいへい。じゃ、俺は待っててやるよ」
スラリア「じゃあ行こっか、フラット。さっきユーリックの顔写真も
撮ってきたからバッチリだよ!」
フラット「完璧じゃん!」
スラリア「へへへ…」
クレア「……」
2人の様子をクレアは切なそうに見ていた。
スラリア「それじゃ、ちょっと行ってるね!」
フラット「クレアも気をつけてね」
クレア「お、おう!」
1節 忘れられないから(後編)
服屋―
フラット「ん〜…水色系かな。帽子とか似合いそう。
キャップ系だね」
スラリア「何色の?」
フラット「こういう感じの青毛なら…白とか赤茶色?」
スラリア「ユーリックだからなるべく赤からは避けよっか。
じゃあ白色のキャップ…あ、これどう⁈」
フラット「うん、そういう系!」
スラリア「で、上着は…これどう⁉︎ラウンドカラーで水色!
完璧じゃない⁉︎」
フラット「それなら白色のスカートとか似合いそうだね!」
スラリア「黒色とかもいいかもね!」
フラット「チェック柄とかさ!だったら黒白のだね」
スラリア「あ〜もう!発想が止まんないよ〜!」
フラット「じゃあもう似合いそうなの片っ端から選んで買っちゃおっか!」
会計―
店員「合計で14万2700オズです」
スラリア「アハハ、買いすぎちゃった」
フラット「まあ、給料日で潤ってるし問題ないんじゃない?」
スラリア「そうだね」
そう言いながらスラリアは決済を済ませた。
店員「ありがとうございました」
フラット「あ、転送ロッカーでこの番号まで送ってもらえますか?」
スラリアが貰っていた人形屋の転送ロッカー番号を店員に見せた。
店員「かしこまりました。それではお気をつけてお帰りください」
人形屋―
フラット「お〜!」
スラリア「うん、似合う似合う!凄いね、フラットの想像通り!」
フラット「やっぱりこういう髪ならツインテールでしょ!」
スラリア「で、あたしのコーデだと…」
スラリア「うん、バッチリ!ポニーテールも似合う!」
クレア「……」
フラット「クレアはどう思う?結構2人で試行錯誤したんだけど…」
クレア「……」
スラリア「?クレア?」
クレア「すまん、俺にはそういうのよく分かんねえからよ。
帰ってアイツらにでも見してやんなよ」
スラリア「そ、そう?」
シャン「…あぁ、そゆこと」
フラット「?キエさん、何か言った?」
シャン「ん?別に?」
フラット「そう…」
スラリア「じゃあ早速見せに行こうよ!こんなに可愛いの、
見せないと損だよね!」
フラット「うん…でも…これじゃ本当にお人形さんだよ。
せめて立てないと」
スラリア「まあ、それはキエさんがやってくれるみたいだから…」
ユーリック「大丈夫、もう立てそう」
マーシュ「えっ、今喋った?」
ユーリック「喋ることぐらいならすぐにできたけど、立つのは…
よいしょ…っとと!」
シャン「うおっと、大丈夫?」
よろよろと立ち上がろうとするユーリックをシャンは押さえた。
ユーリック「あ、ありがとう…」
フラット「歩けるの?」
ユーリック「ま、まだ難しい…力が…入りにくくて…」
マーシュ「凄い子ね、普通なら2〜3週間はかかるはずなのに…」
ユーリック「こ、こんな感じなのか…歩くって。案外難しいんだ」
フラット「嘘…もう歩けてる」
シャン「ぎこちないけどね」
マーシュ「でもあり得ない…こんなに早く歩けるわけないわ!」
ユーリック「一応、人の身体を借りてたから慣れてはいたの」
フラット「えっ、あれ借りてたってこと⁉︎」
ユーリック「とっくに死んだ身体を。だから慣れてるだけよ」
フラット「そ、そっか」
ユーリック「でも長いこと魂やってたら感覚忘れて、思い出すのにも
一苦労ってとこ。で?あたしに聞きたいことって?」
フラット「それはスターのいる所で聞きたいからここじゃ聞かないよ」
ユーリック「そうか、おいクレア。手、貸して」
クレア「あ、あぁ……」
シャン「クレア君、私が。今の調子じゃ、川にでも落ちそうだから」
マーシュ「そうね。それじゃ、私にも仕事が残ってるので
そろそろ店を開けないと」
フラット「あ、じゃあ僕達は行こっか」
ララクス・バッテン―
フラット「ただいま〜」
ユーリック「キエ、もう大丈夫そうだから。やっと感覚は
取り戻せたけど、まだちょっとぎこちないけどね」
スター「あ…?」
ユーリック「ふぅ、大丈夫?スター」
スター「えっ、お、お姉ちゃん⁉︎」
ユーリック「やっと普通に会えたよ。嘘偽りなくね」
フラット「じゃあ聞くけど、本当はユーリック、養子じゃない?」
ユーリック「やっぱり、バレてたの。どこで気付いたの?」
フラット「だって髪の色、瞳の色、及び髪質も耳の形もつむじの向きも、
全然違う。どうやったらこんな遺伝になるっていうの?」
ユーリック「あっちゃ〜、今回は流石に無理か」
フラット「前は遺伝的にそっくりな人を見つけて身体を
借りてたみたいだけど、今回は自分の身体そのもの。
もう隠しようもないと思うよ?本当はスターを守るために
あんな事件を起こしたってこと」
ユーリック「あれ、そこまで。もう、法の天使だからって
洞察力が高いなんて聞いてないよ」
ノール「まあ、そういう話は後にして。もうすぐ…来る!」
スラリア「うん、第一波来るよ!」
その言葉と共に大きな揺れがララクス・バッテンを襲った。
フラット「まさか…!」
ユーリック「なら、あたしに任しといてよね!スター、ちょっとあれ、
貸してもらえる?」
スター「あれって…魔魂石?」
ユーリック「分かってるなら早く。すぐにぐちゃぐちゃに
しちゃうからさ!」
クレア「まさか…それが目当てか?」
ユーリック「たまには、ね。ちょっとストレスも溜まってるから
思いっきり何かをぐちゃぐちゃにしたいの!」
スラリア「まあ…そうするしかないね」
ライ「手段は選ばぬでござる」
ベングル「できるだけ市民を怖がらせないように頼むぞ」
エド「そ、そうっすね。ユーリックの場合、それが不安点っすよ」
魔獣「グルぉぉぉ!」
フラット「ヤバっ、目標、魔獣の鎮圧!」
全員「了解!」
ユーリック「まっ、あたしの一撃でその目標は達成できるけどね」
魔獣「グワセロオ゙ォォォォォ!」
フラット「いくよ…ってあれ⁉︎ユーリックは⁉︎」
スラリア「ちょ、フラット⁉︎危ない!」
フラット「へ⁉︎」
魔獣「ズキア゙リイ゙ィィィィ!」
ユーリック「悪夢・トリックルーム!」
魔獣「ア゙ァ?」
ユーリック「フフッ…おーにさんこ〜ちら、手の鳴る方へ」
魔獣「グゥ…ギザマア゙ァァァァ!」
ユーリック「フフフっ、じゃあ遊びましょうか、あたしの夢で。
最終悪夢『猿夢』術・『サイコパスキリング』!」
魔獣「ギュ⁉︎」
ユーリックが作ったゲートの中に魔獣が吸い込まれて行った。
クレア「おいおい、いくらなんでもアイツ1人で魔獣を倒せるとは
思えないけどな」
フラット「いや…あのユーリックだからね。身体さえ動かせられれば
もうお手のもの、って感じがするんだけど」
スター「あ〜あ、これでスターもただのヒーラーか。つまんな〜い」
ベングル「ヒーラーだけになったな。ファイターの能力はユーリックに
与えられたみてぇだしな」
ライ「……時は満ちたでござる」
再びゲートが現れると―
魔獣「グゥ…グギャ…!」
ゆったりと出てきた魔獣は、2歩進むと四肢が分解し、
パックリと頭が割れた。
フラット「うわっ…これって…」
クレア「ちょちょ、こんなのどうすんだよ⁉︎」
シャン「ここも私の出番だね。でも、ちょっと見ないでくれる?」
フラット「…あっ。さっ、帰ろ帰ろ!」
フラットは何かを思い出し、全員を
無理矢理ララクス・バッテンに連れ戻した。
シャン「全く、こんなデカイの…もってくれよ私の胃腸!」
数時間後ー
シャン「た、ただいま…」
フラット「うっわ、顔色悪いよ⁉︎大丈夫…じゃないよね。
どうすればいい⁈何っでもするよ!」
シャン「こういう時に限ってお節介しなくていいから、胃腸薬!」
フラット「そ、それどこに⁉︎」
シャン「そっか…私のオフィスだっけ…」
ナミ「はい、胃腸薬。用法・用量は守ってよ?最近減りが早いから」
シャン「いや、私は…まあ、ありがとう…ちょっと寝込むから、
フラット、午後6時に起こして」
フラット「わ、分かった」
シャン「じゃあ、ちょっとレストルームに」
ナミ「あの子も最近はドタバタしてるし、調子崩しても仕方ないか。
そう考えると、デ・ロワーの人達って凄いですね。色んな種類の
イベントをあちこちでやってるのに疲れが見えないんですもん」
フラット「疲れてるの前に、楽しんでやると案外疲れも
気持ちいいものになるので、疲れてないように見えるだけですよ」
ナミ「そうですか。あ、すみません。つい足止めを。皆さんが
オフィスでお待ちしているので…」
フラット「あっ!そうだ、会議!」
急いでオフィスの方にフラットが走り抜けて行った。
オフィスー
スラリア「遅いよ!」
ノール「全くだ」
フラット「それより…ユーリックは?」
スター「まだ夢の中だと思うけど…」
エド「おかげで会議開始時間が延びる一方っすよ」
ベングル「スター、どうにかこっちに戻せねぇのか!」
スター「無理だよ〜…前まではできたけど…」
ライ「魂だけであったが故に、できたことでござる」
フラット「まぁ、とりあえず魔獣の侵攻は抑えられたけど、
まだ序の口と考えておこう。まっ、そういうわけで会議は終了!
お花見でも行こっか!」
全員「えぇ〜っ⁉︎」
フラット「まあまあ!」
練馬第一公園―
フラット「すご〜い!」
エド「たしかに綺麗っすけど、良かったんすか?俺達、ここの防衛として
来てるんすよ?バレたら怒られるんじゃ…」
フラット「大丈夫、姉ちゃんがなんか言って誤魔化してくれるよ」
スラリア「お姉ちゃん頼りなのもどうかと思うけど…」
ノール「家族を利用するのは私も断固反対」
ベングル「…家族…か」
ライ「ベングル殿は流れ者故、この世界には家族がおらぬで
ござるからな。そういう拙者にも、家族はおらぬでござるが…」
スター「ねぇ、お花見なんだから暗い話はやめようよ!折角の
満開が寂しくなっちゃうじゃん」
スラリア「でも…なっくんにも見せたかったな…」
フラット「そうだね…バトラー、桜が大好きだったから…」
ノール「お嬢様はKYだよな」
スラリア「なっ、言いたいこと言って何が悪いの⁉︎」
ノール「だからKYなんだ」
スラリア「まだ言う気⁉︎」
ユーリック「喧嘩はやめなさい、2人とも。他の花見客の迷惑になるよ」
フラット「ユーリック…何してたの?」
ユーリック「いやね、夢の中で夢の世界に行ってたんだけど…」
クレア「要するに、寝てたんかい。まっ、出店で色々と買ってきたし、
宴会でもするか?」
ベングル「流石に酒はやめようぜ。いつ敵が来るか分からねぇ今、
酒を飲むわけには―」
フラット「いいよ、お酒飲んでも」
ベングル「はぁ⁉︎」
ライ「そういうわけにはいかぬでござる!」
フラット「だってお花見だよ?宴会が定番でしょ」
エド「フラット…?」
いつもより早口で、その上やけに明るく振る舞う
フラットにエドは少し疑念を抱いた。
ノール「私は飲まん」
ベングル「俺も」
スラリア「あたしも…ちょっと…」
ライ「拙者は酒を好まないでござる」
スター「スターはお酒ダメだからね⁉︎」
クレア「なら俺が飲む。買ってきちまったし」
エド「俺も飲むっす!」
フラット「2人とも…よっし、じゃんじゃん飲もーう!」
ベングル「やれやれ…フラットはともかく、クレアはいいのかよ?
お前がメインでここに来てるんだぞ」
クレア「大丈夫よ!この任務は俺の好きにやらせてもらうしな!」
ユーリック「全然大丈夫じゃない。あたしの都合も考えてほしいものだね」
クレア「俺はそんな酔いやすい体質じゃねぇって。それに、
姉貴に言われたくねぇっての!」
ユーリック「あら、あたしのことを家族とは思わないとか
言ってたのに姉貴とか呼ぶんだ?」
クレア「ち、違った、ユーリック!」
そんな他愛のない会話の中―
フラット「……」
ナックル「お前がそういうことを早口で言う時は無理してる時だってこと、
知ってるからな」
フラット「……バトラー…!」
エド「フラット…?大丈夫っすか?」
フラット「へ⁉︎あ、何?」
エド「……いや、何でもないっす」
クレア「おい、お前らも飲めって。それにフラットが言い始めたことだ。
お前が飲まないでどうするよ」
フラット「えっ、あっ、そうだね!飲もう飲もう!
今日はわんさか飲みまくっちゃお!」
ノール「…フラット…」
ベングル「俺も飲むぞ!やっぱ、花見には酒がもってこいだな!」
スラリア「まぁ、それもそうだね!ちょっとだけなら問題ないよね!」
スター「…甘酒ぐらいならスターでもいいよね」
ユーリック「ならあたしも飲もっかな。ていうか、
あの人呼んでないけどいいわけ?」
ライ「あの人…?誰でござる?」
クレア「…あっ!」
全員「ダンステード!」
フラット「いいんじゃないの〜?何か発明してるんでしょ?」
エド「…フラット…」
(何すかこの変な感覚…今まで…感じたことない…)
クレア「エドも飲めよ!あっ、キウイの方が良いか?」
エド「キ、キウイ⁉︎」
フラット「どうしよっかな〜、許しちゃおっかな〜」
ベングル「今日のフラットは機嫌が良さそうだな」
スラリア「いや…なっくんの話だと…」
ノール「おいお嬢様。考え事してる暇はなさそうだぞ」
スラリア「えっ?」
クレア「ん、お前は酒弱いんだし甘酒」
スラリア「あ、ありがと…」
スター「アハハ!スラリアお姉ちゃん、顔マッカッカ!」
スラリア「そ、そんなことないよ⁈」
ライ「騒がしきもまた一興でござるな。たまには拙者も一杯ぐらいは
飲むでござる。ベングル殿、
ベングル「あいよ。日本酒と焼酎、どっちだ?」
ライ「日本酒」
ベングル「了解っと…?おい、空だぞ?」
フラット「へ?」
フォール「ちぇっ、もう空かよ」
フラット「フォール⁉︎」
フォール「ごちそーさん。次には5升ぐらい用意しとけよな」
スラリア「な、何のつもり⁉︎」
フォール「俺も呼べよ。花見ぐらいいつだって付き合ってやるよ」
ノール「お前、私達とどうありたいんだ?」
フォール「敵でもなく味方でもない付き合いだが?」
ベングル「ダメだコリャ…話が通じねぇどころじゃねぇ」
フォール「失敬な。それより、シャンはどこだ?」
クレア「居場所を知ってどうする気だ⁉︎」
フォール「いや、挨拶をしたいだけだ。俺のことを知ってる、
数少ないやつの1人だしな」
フラット「…姉ちゃんなら、ララクス・バッテンの休憩室で
寝てるよ。今は手出し無用だけど」
フォール「寝てるか…だろうな」
フラット「だろう…って⁉︎」
フォール「やつこそ俺にとって不要な存在だ。先に始末させてもらった」
ベングル「なっ⁉︎」
ノール「どういうこと⁈」
フォール「アイツは魔獣を喰らい負の力を保っている。
つまり、アイツが残ると俺にとっては迷惑だからな。アイツが喰った魔獣に
強力な毒を仕掛けておいたのさ」
フラット「…毒?」
フォール「ふん、これでやつの体内は―」
フラット「無理だよ、たしかに姉ちゃんに毒は効くけど、
姉ちゃんの神力は恨み返し、だからその毒は…」
フォール「なっ、まさか…⁉︎」
フラット「早く解毒剤でも飲まないと大変だよ?」
フォール「くそっ、リサーチ不足だったか!」
一瞬でフォールは闇の中に溶けていった。
ベングル「何だったんだ、フォールのやつ…」
スラリア「…ねぇ、大丈夫なの?」
フラット「ちょっと僕が様子見てくるよ」
フラット「…ダメだな…全然…隊長らしくないや。皆に気遣わせて…
おかげに強がってばっかで、全然…バトラーみたいになれないよ!
素直になれない!」
フォルディン「情けないのう。そんなことで涙するほどお前は
子供だったか。期待したわしが阿保だったわ」
フラット「なっ、阿保って…!」
フォルディン「なら自責してる場合か?」
フラット「そ、それは…」
フォルディン「まあ良いわ。それで、わしもシャンのやつに
会いたいのだが、早くせんか!」
フラット「はいはい、全員血が繋がってない姉弟なのにね」
フォルディン「…黙れ、小童」
フラット「こ、小童⁉︎」
フォルディン「ん?違うたか?」
フラット「…もういいや。ほら、行くよ」
レストルーム―
フラット「入るよ」
シャン「うわ⁉︎ちょ、着替えの覗きとはいい度胸してんじゃん?」
フラット「い、いや!何で急に着替えしてんのさ⁉︎」
シャン「質問前に…出てけぇー‼︎」
フォルディン「わしなら問題ないじゃろ?」
シャン「あっ!フォルディン!」
フラット「じゃ、僕は出てくから」
シャンを見ないようにフラットはレストルームを出ていった。
シャン「にしても、久しぶりだねぇ。こうやって姉弟で揃うの」
フォルディン「それより、また魔獣を喰ったのか?」
シャン「そう。まぁ、恨み返しは効いたみたいだけど」
フォルディン「なら、もう目的は分かっているはずだろ?」
シャン「う〜ん、まだ半信半疑かな。フォール君がやってることは
グラとそっくりで」
フォルディン「…やつと同じ末路を辿らなければいいが」
シャン「その道を決めるのはフラット次第だなぁ。私には
どうこうできない問題だよ?」
フォルディン「分かっておる。やはりグラと同じか…それが分かれば
わしは十分だ。シャン、用心しといた方が良い。
虎穴に入らずんばと言うが、あやつの場合、暗闇に巣食う鬼と同じだ」
シャン「私の能力を分かって言ってるの?」
フォルディン「…そうだったな」
シャン「それよりさ、よく姿現せたよね!ここじゃ信仰なんて
ないと思ってたのにさ!」
フォルディン「神のやつらが信仰しているおかげだ」
シャン「神…そっか、じゃあデ・ロワーのファイター達は
神像調査に来たってことね。練馬区にあるのは…アネモイの像だから
あそこか。後は私がやっとくからフォルディンは戻ってて」
フォルディン「言われなくともそうするわ」
オフィス―
フラット「…はぁ」
ナミ「あれ、フラットさん?お花見に行かれていたはずでは?」
フラット「あ、いや…キエさんの様子を見に来たついでに
ここから桜を見てたんです」
ナミ「あぁ、ここ眺めが最高なんですよ」
フラット「…本当だったら、もっと騒がしい花見になってたんですけど」
ナミ「あれは大ニュースでした。地球一と言っても過言ではない
有名ファイターが戦死。私でさえ泣いてしまって…」
フラット「えっ?」
ナミ「実はこの事務所、ナックルさんがくれた支援金で設立できたんです」
フラット「どこにそんなお金が…」
ナミ「なんでも、財産の一部とか言って…」
フラット「あっ…じゃあ、もしかして…バトラーから何か聞いてませんか⁈
些細なことでも…!」
ナミ「えっ、何か…ですか?そうですね…何かあったらデ・ロワーに
任せてくれとは言われましたけど…特には…あっ!」
フラット「何か⁈」
ナミ「そういえば、そのニュースが流れる前に電話があったんです!
覚悟を決めたような声色で、フラットさんが訪ねてきたら
あれを渡すようにと」
フラット「あれって…?」
ナミ「実はナックルさんのファイター衣装って変更されたんです。
初期はまるでヒーローのようなマントを纏った衣装でしたが、
途中から今までのような重装になったんです。そのマントのことです。
何故か私に預けたんですよ。この棚の中に…ほら」
フラット「…あっ!」
2節 さよならは辛いけれど
ナミ「この棚の中に…ほら」
フラット「…あっ!」
そのマントを見て、フラットが忘れていた記憶が蘇った。
それはフラットとナックルがまだ高校生の時―
ナックル「まったく、無茶にも程があるっての!ファイターでもねぇお前が
脅威に立ち向かえるわけねぇだろ!ったく、ひでぇ傷までおいやがって…
とりあえずこれで止血しとけ」
ナックルはマントを破ってフラットに手渡した。
フラット「へへ、でも、できたよ!不可能かどうかは、
やってみなくちゃ分かんないって証明したよ?」
ナックル「…分かった分かった、お前の勝ちだ。約束通り、
後であれは返しとくぜ」
フラット「絶対だからね!じゃ、後は任せたよ!」
フラット「このマント…破った跡もそのまま…」
ギュッと力強くマントを握りしめた。
フラット「これ、貰います!すごく…大切なものなんです!」
ナミ「ウフフ、泣くほど大事なんですね」
フラット「えっ…あ、アハハ…」
シャン「入るよ…って、フラット…君、まだいたんだ」
フラット「い、今戻るとこだよ。キエさんも来ますか?」
シャン「う、うん行くよ。お腹の調子も治ったしね」
フラット「じゃあこっちです!」
練馬区第一公園―
クレア「アイツまだ来ねぇな」
フラット「ごめーん、今来た!」
シャン「私も参加していい?」
スラリア「もちろん!」
ノール「更に騒がしくなるな。まあ、構わないけど」
ユーリック「ん〜?もうお酒ないの〜?」
スラリア「流石に飲み過ぎ…」
ベングル「それよりスターのやつ見なかったか?」
フラット「へ?見てないけど…何かあったの?」
スラリア「急に飛び出してっちゃって…」
ライ「切羽詰まっているように見えたでござる」
フラット「……クレア、何か知ってる?」
クレア「いや、俺も…すまん」
シャンー「急に飛び出したって、どんな感じだった?」
スラリア「え〜っと…それが、泣いてたような…」
フラット「泣いてた⁉︎」
クレア「スラ、スターはどっちに行った⁉︎」
スラリア「と、図書館の方だよ?」
クレア「よし、フラット!ちょっとついてきてくれ!」
フラット「うん!」
練馬区立図書館―
スター「…今…たしかにいたのに…」
「やっと引っかかりました。これでピースは揃った…」
スター「!誰⁉︎」
ランケール「お久しぶりです、スターさん」
スター「あなたは…ランケール?」
ランケール「はい、あなたの命を奪うために!」
スター「えっ⁉︎」
ランケール「さぁ、心を侵す闇に溺れるがいい!」
クレア「させるか!神業・烈風!」
フラット「スター、こっち!」
スター「キャッ!」
クレア「フラット、久々に普通に行くぞ」
フラット「オッケー。戦闘モード起動!」
クレア「了解!」
ランケール「意外にも早く来られるとは…」
フラット「グラディウス、応えて!
第一審判『零』術・『凍瀧之結界』!」
クレア「第一突風『炎』術・『四方爆破之矢』!」
ランケール「何の!魔術・乱反射!」
全ての攻撃が跳ね返されてしまった。
スター「⁉︎神業・ウィンドヴァリア!」
ランケール「ほう、やはり我々にとっては邪魔な存在なだけある」
クレア「ランケール、何の真似だ⁉︎」
フラット「ランケールさんは魔族だ、僕達の味方じゃないのは
たしかだよ。でも…ねぇ、お前は血鬼7人衆の仲間じゃないはず。
なら、何で攻撃を仕掛ける?」
ランケール「理由はない。もうすぐこの東京は主人である
フォールのものになる!そうなれば、理由なんて意味をなさない!
だから理由なき争いも正しくなる!」
クレア「お、おい…コイツ…!」
フラット「うん…逃げるよ!」
クレア「あぁ、スター、早く!」
スター「う、うん!」
立体交差点―
フラット「まずい…早くしないと練馬区も…」
クレア「あぁ、魔術だらけになっちまう。アイツが媒体だったのか、
この魔獣化異変の」
フラット「うん、あの狂気と共に溢れた黒い粒子…あれこそ、
魔術の魂なのかも…」
スター「なら浄化すれば!」
フラット「ダメ!紋章を持たないスターじゃ、魔獣一体の浄化で
命を落とす可能性が高いんだ!」
クレア「でも…助けられるんだな⁉︎」
フラット「スターの紋章さえ見つかれば…ね。でも、アネモイの神像は
1つだけ…2人が一緒に引き継げるかどうかは…僕にも…」
「あの〜…アネモイの神像に御用が?」
クレア「えっ、あ、はい。あなたは?」
「私、アネモイの神像を祀っている教会の神父をしております、
ケダール・ブリトニオンといいます」
フラット「ケダールさんですか。それで、僕達アネモイ様に
会いたいんです!魔獣を封じ込めるための力を引き継ぐために…」
ケダール「ほう、それでどなたが」
クレア「…俺はいい。スター、お前が」
スター「えっ、ダメだよ、兄ちゃんが!」
ケダール「…なるほど。ではちょうどいい。アネモイ様の試練には
うってつけのお2人だ」
フラット「試練…?」
ケダール「アネモイ様の力を引き継ぐ者には試練があえるのです。
その者が本当にアネモイ様の力を引き継いで良いかを」
フラット「なるほど…それで決めるということですね」
クレア「…分かった、やってやる!」
スター「スターも…それで引き継げるなら!」
ケダール「ではこちらに。私が案内しましょう」
教会、神墓―
ケダール「では、この神像に祈りを」
クレア(アネモイ様、どうか俺ではなくスターに力を…)
スター(お願い、スターじゃなくて兄ちゃんに力を…)
フラット「…⁉︎」
一瞬だったが、アネモイの神像が笑ったようにフラットは思えた。
アネモイ(良かろう、2人してわらわの試練に受けるが良い)
クレア「なっ…神像に穴…?入れってことか?」
スター「行ってみようよ!」
クレア「あ、あぁ」
神像内部―
クレア「ここ…原っぱ?」
スター「凄い!見て見て!」
クレア「ん?」
空は青空、夕焼け、星空と混沌となっていた。
スター「どうなってるの…?」
クレア「ていうか、試練っていつ始まんだ?」
アネモイ「待たせた。今からわらわの前で力を見せてもらうぞ!
出でよ、飢えた魔獣よ!」
強風と共に何体もの魔獣が現れた。
クレア「なっ、こんな数…」
スター「とにかくやろうよ!」
クレア「あ、あぁ…」
アネモイ(さて、いつまで持つやら)
クレア「スター、後ろ!」
スター「キャッ!」
クレア「突風・四方爆破之矢・散!」
スター「!神業・ウィンドヴァリア!」
アネモイ「少しはやるようだが…甘い!魔力補充!」
魔獣「ッ!グルル…!」
クレア「スターは下がってろ!一気に…俺が…!」
(ダメじゃねぇか!俺が片付けちまったらスターに…!)
アネモイ(迷うたら…ここでくたばるが…)
スター「分かった、下がって…⁉︎突風・クロスウィンド!」
魔獣「ギャウ⁉︎」
アネモイ「攻防戦に持ち込む気か。面白い、耐えてみせよ!」
クレア「魔力が更に増した⁉︎スター、退け!」
スター「う、うん!」
クレア「突風・水切之旋風・爽!」
魔獣「グギギ⁉︎」
クレア「スター、ガードは任せた!」
スター「オッケー、いくよ!神力結界展開!」
クレア「よし、行ってやらぁ!突風・トロンベプファイル・暴!」
魔獣「グゥ…ガウ!」
クレア「何⁉︎効いてねぇ⁉︎」
アネモイ「まだまだ!魔力最大補充!」
スター「…やるしかない!神業・浄化!」
魔獣「グゥゥ⁉︎」
補充された魔力が魔獣から一気に溢れ出し、魔獣はもがき苦しんだ。
アネモイ「…分からぬ!やめだ!」
スター「えっ…」
クレア「魔獣が…」
アネモイの一声で魔獣に大群が一気に姿を消した。
クレア「おい、どういうことだ⁉︎」
アネモイ「お前たち、本当にわらわの力が欲しいのか?」
クレア「俺よりスターに!」
スター「スターより兄ちゃんに!」
アネモイ「ますます分からぬ。何故譲る?」
クレア「スターに力が引き継がれれば、魔獣を浄化できるんだろ?
だったら俺なんかよりスターに…」
スター「兄ちゃんが引き継がれればこんな戦いもすぐに終わるから!
だからスターなんかより兄ちゃんに…」
アネモイ「もう良いわ!わらわが直々に貴様らと相手をしよう。
特別試練だ、遠慮せず貴様らの力を見せてみよ!」
クレア「なら…!突風・ホットブラストアロー!」
アネモイ「神業・風吹!」
クレア「なっ…!」
アネモイ「突風…氷結乱射!」
スター「神業・花吹雪!」
アネモイ「また攻防戦…!こんな終わりのない争いこそ不毛!
わらわが終止符を打つ!」
クレア「あんまし調子乗ってっと、痛い目みるぜ!
最終突風『竜巻』術・クロスハリケーン!」
アネモイ「袋小路の術か…ならば!」
抗うこともせず、アネモイは素直に竜巻に呑まれた。
しかし、竜巻の流れに合わせて一気に空中へ舞い上がった。
アネモイ「トドメだ…最終突風『嵐之』術・『荒波之大絶叫!」
クレア「スター、任せた!」
スター「神業・風包!」
大きな波を風が飲み込んだ。
スター「そして…神業・プレゼントフォーユー!」
アネモイ「何、カウンターだと⁉︎」
クレア「流星・流星群!」
アネモイ「なっ⁉︎逃げ場までも…なるほど、よく分かった」
そう言った途端に草原だった空間が暗闇に変わった。2人の術も、
なかったかのように。
アネモイ「試練は失敗だ」
クレア「なっ、卑怯だぞ!」
スター「そうだよ!そっちが勝手に勝負を終わらせて!」
アネモイ「失敗と言ったら失敗だ」
クレア「お前、それでも―」
アネモイ「だが、貴様らの願いはよく伝わった。本来ならば
1人にしか引き継ぎはできないが…わらわの力を貴様ら2人に
分け与えてやろう」
スター「それって…」
クレア「半分ずつってことか?」
アネモイ「貴様ら2人でわらわの力というわけだ。ただし、
力を合わせる必要があるな。男よ、貴様には北風と西風の神を、
少女には東風と南風の神を与えよう」
クレア「ん…?おい、西風っていえば多妻の神だろ⁉︎」
アネモイ「男にはいい力だと思ったが…?」
クレア「まぁ…いいか。使わなきゃいい問題か」
アネモイ「だが、聞きたいことがある。貴様らは何を思い
戦場に立つ。わらわにはそれが分からなんだ」
クレア「俺達が戦う理由か?そんなの俺じゃ答えらんねぇよ」
アネモイ「どういうことだ、答えられないとは」
スター「だって、それはフラットしか知らないもん」
クレア「だが、あえていうなら俺は守り通す!危険な目に遭ってるやつを
俺が何としてでもな!」
スター「兄ちゃんは不器用だからスターがお手伝いするの!
だからそれがスターの戦う理由かな」
アネモイ「守るために戦う…か。わらわにもできぬ芸当…
だが貴様らなら可能なのかもしれぬ。期待しておるぞ、
わらわの力を継ぎし者達よ」
クレア「あぁ、絶対に守りきってみせる!」
スター「兄ちゃん、張り切りすぎ」
クレア「そ、そうか?」
アネモイ「では戻れ。どうやら早速出番が来たようだ」
クレア「出番…まさか!」
スター「うん、早く行こう!」
2人はアネモイが出現させた出口に向かい駆け出した。
クレア「よっと!」
スター「ただいま!」
フラット「ん?どうしたの血相変えて」
クレア「えっ、何か起こってるんじゃねえのか?」
フラット「えっ?」
クレアの発言にフラットが戸惑っていると―
ピロロロ!ピロロロ!
とウォッチフォンに着信が入った。
フラット「ペーターさんから。ちょっとごめん。はい、フラットで―」
ペーター「大変だ!浅草に大量の魔獣が現れた!」
フラット「えぇっ⁉︎状況は⁈」
ペーター「最悪だ、既に神力結界は破られている。陥落と言っても
過言ではない状況だ」
クレア「…なるほどな。アカデミー最側近である四大グループと
アカデミーの中での実力グループ、デ・ロワーの2つを潰せば
東京を乗っ取るぐらいは楽勝だもんな」
スター「どうすんの、フラット⁉︎」
フラット「…今から向かっても間に合うわけがない…ペーターさん、
ここは撤退してください。練馬区に来てください」
ペーター「撤退…?」
フラット「神力結界もない今、デ・ロワーにいても安全じゃないです!」
ダンステード「そんなことないで?見てみぃ、わいの新発明、
小型神力結果や!これでちょ〜っとの間は安全や!」
フラット「ダンステードさん⁉︎急にどこから?」
ダンステード「わいの神力発見君のおかげや!」
フラット「あぁ…で、それはどこに?」
ダンステード「もうデ・ロワーに送ったわ。ペーター、
確認してみぃ、転送ロッカー」
ペーター「あぁ…おっと、これか?」
ダンステード「使い方は簡単や。そのボタンをポチぃっと
押してみなはれ。ほな、早く!」
ペーター「これだな?」
迷うことなくペーターはボタンを押した。すると、バチバチと
結界が広がっていった。
ペーター「これは…!」
ダンステード「デ・ロワーはこれでとりあえずは安全や」
ペーター「とりあえず…?」
ダンステード「その機械が壊れたらアウトや。結界は消えて、
一気に魔獣の手でパーや」
ペーター「お、おい…ここ、オフィスのど真ん中だぞ⁉︎」
ダンステード「大丈夫や、移動も可能やで。その代わり、
デ・ロワー全体を囲える移動範囲はオフィス内だけやで」
ペーター「分かった、助かった」
そう告げて、ペーターは通信を終えた。
フラット「ダンステードさん、ありがとうございます。
で…もしかして、あれを作ってたんですか?」
ダンステード「ちゃうで?もうあれはとっくに完成してた。
言うなれば、奥の手ってやつや」
クレア「奥の手って…あれが壊れたら!」
スター「負けってこと⁉︎」
ダンステード「…どうやろな?まだわいは開発するし、フロート君達も
諦めが悪いからのう」
フラット「…あの…フラットです」
ダンステード「あ、あぁ、せやったな!」
クレア「それでどうするんだ?練馬に残るのか?」
フラット「一旦、ララクス・バッテンに戻るよ」
ララクス・バッテン―
ノール「お帰り。で、その顔…何かあったんだよな?」
フラット「うん、全員、デ・ロワーに帰還するよ!」
ベングル「帰還⁉︎」
エド「何かあったんすね⁉︎」
クレア「浅草が陥落の危機だ!」
スター「もう紋章も貰えたから!」
スラリア「本当⁉︎」
クレア「だから一大事なんだ!フラット、あれ!」
フラット「で、でも…いいの?」
シャン「私はいいけど…あの子は?」
スター「…あっ!」
全員「ユーリック!」
フラット「ごめん、今はそれどころじゃ…」
シャン「うん、私が探しておくから皆は気をつけて」
フラット「ありがとう!じゃあ、行くよ。神業・飛翔!」
浅草―
クレア「おいおい…ここ、本当に浅草かよ⁉︎」
エド「…魔獣の巣窟っすね…ここが…浅草…?」
スラリア「こんなの…あんまりだよ!」
ノール「この建物…あのバイキングか…」
ベングル「まるで戦後の街って感じだな…」
ライ「
フラット「とりあえず、デ・ロワーに―!待って、今日って何曜日⁉︎」
エド「木曜っすね」
フラット「…まずい!」
何かを思い出してフラットはとある方向へ走っていった。
浅草大学―
フラット「ハァ、ハァ…タクマ〜⁈ヒナちゃーん⁈」
蛍光灯や廊下の窓は割れ、天井からは導線が垂れた廊下で1人、
タクマとヒナを探していた。と、その時―
タクマ「何だよ〜、今忙し―って、フラットかよ。てっきり俺は
ヒナとばかり思ってたよ」
フラット「ヒナちゃーんとも言ったんだけど?」
タクマ「とにかく来てくれて助かった!今体育館でたくさんの生徒が
避難してんだ!ヒナも色々とやってはくれているんだが、
手が足りなくてな…」
フラット「それならデ・ロワーに来て!ほら、結界があるでしょ!」
タクマ「あれ⁉︎さっきまでなかったのに…」
フラット「ほら、魔獣はこっちが何とかするから避難してる生徒達は
デ・ロワーに誘導して!ちょっと会議通話するから!」
フラットは一斉通話を始めた。
クレア「おいフラット⁉︎今どこにいんだ!」
ノール「早く来い!」
フラット「ミッション伝達!魔獣の注意を引いてタクマとヒナちゃんが
誘導してる生徒達を死守すること!」
ライ「…承知したでござる!」
ベングル「そういうことなら任せろ!」
タクマ「じゃあすぐに誘導する!」
フラット「お願い!」
エド「俺はそっちに向かうっす!」
クレア「俺も行く!」
フラット「オッケ。それじゃ作戦開始!」
そう告げ、作戦会議は終了した。
タクマ「行くぞ!」
体育館―
タクマ「ヒナ、フラットが応援に来たぞ!今すぐデ・ロワーに
コイツら誘導するぞ!」
ヒナ「えっ、でも…」
フラット「デ・ロワーに結界を張ってあるから大丈夫!僕達、デ・ロワーが
そこまで絶対に守り抜くから!」
ヒナ「分かった、皆、そこまでお願い!」
校門―
フラット「ここからは約5分!怪我してる生徒こそ、焦らず注意して!
怪我してない生徒が助け合うように!」
生徒1「そんな悠長なことやってられるか!怪我人は足手まといなだけだ、
置いてっちまえよ!」
ヒナ「何言ってんの⁈置いてけるわけ―」
タクマ「この野郎〜っ!」
そんなことを口ずさんだ生徒にタクマが1発殴りつけた。
フラット「タクマ…」
タクマ「怪我人が足手まといだ〜?俺の前でそんなこと言うんじゃねぇよ!
分かってんだろ?俺がそういう言葉、大っ嫌いなんだよ!
2度と言うな!いや…言わせねぇ!」
ヒナ「タクマ…カッコいい!」
フラット「…!まずい、皆、伏せて!」
そのフラットの叫び声と同時に空から一体の魔獣が降ってきた。
フラット「くっ…1人で…いや、やるしかない!」
クレア「やっと追い詰めたぜこの野郎〜!」
エド「ヒーローは遅れてやってくる、っすよ!」
フラット「2人とも…!」
クレア「デ・ロワーからここまでの魔獣は片付けた!残るは、
その魔獣のリーダーだけだ!」
エド「後は俺たちに任せてくださいっす!」
フラット「ううん、僕も残る!タクマとヒナちゃんは誘導!」
タクマ「…あぁ!ヒナ、急げ!」
ヒナ「うん、フラット、任せたよ!」
2人は生徒を連れてデ・ロワーの方へ向かった。
フラット「さて…やるよ!」
エド「…そうっすね!」
クレア「フラットには言わなきゃなんねぇことがあるからな!
ここでぶっ倒れるわけにはなんねぇ!」
フラット「…!」
よく見ると、2人の身体は傷だらけだった。立っていることさえも
限界と言わんばかりに足が震えていた。
クレア「さぁ、隊長!指示してくれ!」
エド「何だって聞くっすよ!」
フラット「撤退!」
クレア「撤退…おいおい、今が絶好のチャンスなんだ、チームワークで
速攻叩き潰すぜ!」
エド「そうっすよ!ここまで2人だけでやっつけたっすもん!」
フラット「ダメだって!早く!」
その仲裁も意味をなさず、魔獣は2人を喰らい尽くした。
フラット「⁉︎…どうして…」
クレア「さぁ、隊長!指示してくれ!」
フラット「どうして…」
エド「何だって聞くっすよ!」
フラット「どうしてこんな時に限って真面目になんのさ⁉︎
いつも…いつも自分勝手で!」
魔獣「グルル…」
次はお前だと言う風に魔獣はフラットを睨みつける。
フラット「…本当にバカだよ…!」
魔獣「ギャァァァァ!」
フラットに牙を向け、魔獣は飛びかかった。
最終節 頼って、頼られて
魔獣「ギャァァァァ!」
フラット「…だから僕がいなきゃダメなんだよ!神業・審判!」
魔獣「ギュゥゥゥ…」
魔獣は浄化され、クレアとエドが助け出された。しかし、2人とも
グッタリとしており、何より身体が冷たかった。
フラット「…こんなの…こんなの…!」
ピロロロ!ピロロロ!
静かな校門に1つの着信が入った。
フラット「…もしもし?」
ペーター「…報告するよ。覚悟はいいかい?」
フラット「…覚悟?」
ペーター「デ・ロワーを守ってたノール達が…瀕死になるまで
魔獣と戦って…何とか殲滅はできたが」
フラット「命に関わりますか⁉︎」
ペーター「スターが無事だったからそこまではないが…
それよりクレア達は⁈」
フラット「……ごめんなさい」
ペーター「…とにかく、静岡に行く」
フラット「えっ…?」
ペーター「いいから静岡に向かう!聞こえなかったのか⁈」
フラット「!あ、いえ…分かりました、すぐ向かいます」
ペーター「スパークフラッシュ号で待ってるぞ」
フラット「はい…」
元気のなくなったか細い返事を最後に通信は終わった。
フラット「行かなきゃ…」
クレアの手を取り、エドを背負って―
フラット「神業・飛翔」
ペーター「ケーベス、調整は」
ケーベス「動作テストに異常なしだ!コータス、よくできてるぞ!」
コータス「いや…スター、ありがとな」
スター「今はお礼とかいいから手伝って!」
メダイ「…ねぇ、浅草…本当に捨てるの?」
ペーター「仕方ないだろ…デ・ロワーも落ちた今、逃亡しか手段が
ないんだ。それに…東京は封鎖されることになる」
フラット「ペーターさん!」
ペーター「フラット君…」
フラット「あの…その…」
ペーター「フォルディン、ちょっと出てきなさい」
フォルディン「ふわぁ〜…なんじゃ?」
ペーター「少しフラット君の世話を頼むよ」
フォルディン「わしがか…ん、そういうことか。
まったく、面倒じゃのう」
ペーター「じゃ、ちょっと奥の部屋で」
フォルディン「さっ、行くぞ」
ペーター「…今のフラット君には少し辛いよな。ダンステード、
発進準備!ケーベス、エネルギー補充!」
ダンステード「よっしゃ、スパークフラッシュ号、全速力でゴーや!」
ケーベス「パラレルストーンエネルギー変換開始!いつでもいけるぞ!」
ペーター「よし、スパークフラッシュ号発進!目的地、袋井!」
ダンステード「了解や!行くで、フルパワー、全速全開や!」
スパークフラッシュ号は眩い青い光を強く放ちながら走り出した。
深い絶望の地となった浅草に光の道筋を描いて。
袋井―
フラット「…」
メダイ「ね、ねぇ、とりあえずご飯にしよ?大丈夫、皆も
もうすぐ起きるから!」
ケーベス「まぁ、無理言うな。とりあえずは俺達がそばにいれるし、
安心しろ。コータス、お前の変顔で笑わせてやれよ」
フラット「…ほっといて」
メダイ「フラット…?」
フラット「だって…僕はずっと独りぼっちなんだ」
コータス「なっ、俺達がそばにいてやるって言ってるだろ⁉︎」
フラット「“そばにいてやる”?」
コータス「あっ、いや今のは―」
フラット「もういい、ちょっと実家に戻る」
メダイ「実家にって…」
フラット「僕とバトラーが出会った場所。誰も知らないあの場所…
神業・飛翔」
メダイ「フラット…」
ケーベス「そう…だよな。アイツのことを知ってるのはナックラー1人。
アイツがいなくなってからは孤独と言ってもおかしくはない」
コータス「ケーベス、そんなこと認めていいのかよ⁉︎」
メダイ「でも実際そうだよ!私達も本当のフラットのこと、
何も知らないんだよ!」
ケーベス「あぁ、知らない。でもよ…知らなくて当然だ。
教えてくれねぇ以上はな」
バトラー家跡地―
フラット「まだこの部屋、あの時のままだ…このベッドで寝てて、
起きたらバトラーがいて…急に抱きしめてきて…守るって…言ってくれた!
なのに…僕は何も…!」
袋井が崩壊した翌日―
ナックル「いいか!俺がお前を絶対守る!アイツのようなヘボい力なんかに
頼らなくたって…俺はお前を絶対守る!約束だ!
だから…俺のそばから離れないでほしい」
フラット「…無理だよ!どうやってついてけばいいのさ⁉︎
僕だって離れる気は微塵もない!勝手すぎだよ…!」
メダイ「……」
コータス「…あんなフラット、初めて見たな」
ケーベス「強がってたんだな…理由は言わずとも…」
メダイ「頼られっぱなしだったもんね、フラット」
コータス「なぁ、俺達でフラットの代わりをやらないか?
このままってわけにもいかないだろ⁈」
ケーベス「…よし、やろうか!」
メダイ「うん!私もフラットの力になりたい!」
コータス「…フラット、お前は1人じゃない。早く気づけよ」
仮拠点―
ケーベス「ということで、今から当分は俺達が隊長代理だ」
コータス「何でも相談してくれ」
メダイ「…今のフラットには休憩が必要だから」
ペーター「…あの子は何て?」
コータス「すまん、俺からは…」
ペーター「だよな…所詮は孤独みたいなことを口走ったとかだよな」
ケーベス「はい…それより皆の意識が戻ったというのは?」
ペーター「それが…分からないんだ。皆バラバラに目を覚ましたみたいで
1人ずつどっか行ったとしか…」
コータス「…ったく、アイツら…!」
ケーベス「ダンステードはどこに?」
ペーター「今は捜索に行ってる。君達も手伝ってくれるかい?」
メダイ「私達は隊長代理です、それぐらい!」
ケーベス「分かれて行動した方がいいな」
コータス「じゃあ俺は北の方を探す!」
メダイ「私は西の方!」
ケーベス「いや…俺も北の方に行く」
メダイ「えぇ⁉︎分かれて調べるんじゃないの⁈」
ケーベス「あくまで山の方だ、北といってもコータスは街の方を頼む」
コータス「あっ、あぁ。分かった」
ペーター「南はバジーが探している。東は俺も探しに行く」
ケーベス「よし、捜索開始!解散!」
山中―
フラット「…ここ、母さんとよく来てたけど…あれ⁉︎皆…」
クレア「ん…お前も来たのか」
スター「…ねぇ!スター達の家は⁉︎」
フラット「…ごめん、僕がしっかりしてなかったから…」
ノール「違う!何もできなかった私が…!」
スラリア「だったらあたしだってそうだよ!1番最初にやられたの、
あたしだもん!」
フラット「でも、僕が1人で飛び出したのも…」
エド「違うっすよ、俺達がフラットの指示を聞かなかった俺達も
悪いっすから!フラットに非はないっすよ!」
フラット「…そっか。じゃあ、僕はもう戻ってるね。本当だったら、
この景色をバトラーにも見せたかったな…」
エド「…お、俺もつきあうっす!ここにも早く慣れないと
いけないっすもんね」
クレア「そ、そうだな…」
ノール「私は残る。もう少し風を受けてたい」
スラリア「あたしも…今は。ごめん」
スター「フラットが行くならスターも行く。それよりベングル達は
見なかった?どっかではぐれちゃって…」
フラット「この辺ではぐれたの?」
クレア「あぁ」
フラット「じゃあ、あそこかな。ちょっと来て、ご馳走するよ」
エド「えっ、美味いもんすか?」
フラット「まぁ、美味しいかな。スターは気にいるかな」
スター「甘いの⁉︎」
フラット「うん、復興中ならもうあるはずだから」
法多山尊永寺―
フラット「あっ、やっぱりもう復興できてる!」
クレア「ここ…寺か?」
フラット「うん、ここに来たならやっぱり団子も食べないと!
昔、よく母さんと食べに来たなぁ」
スター「へぇ、フラットのママ、会ってみたい!」
クレア「もういねぇだろ?でも…見てみろよ、この景色!
メッチャ綺麗だぞ!」
丘から見下ろした景色はどこもかしこも桜でいっぱいだった。
エド「こんな景色…見られるんすね…!」
フラット「…そんなことよりさ、団子食べよ!」
クレア「おい、ベングル達を探すんじゃなかったのか?」
フラット「その前に食べようよ。お腹すいたし」
エド「そうっすね、何も食ってないっすもん」
フラット「じゃあ二箱買ってくるからちょっと待っててね」
数分後―
フラット「はい、二箱と、焼き栗」
クレア「うわっ、ホックホクじゃねぇか!」
フラット「えへへ、でもこっちは僕の!皆は団子で我慢してね」
クレア「なっ、ズリィぞ!俺にもよこせ!」
フラット「だったら自分で買えばいいでしょ〜」
クレア「ぐっ…わぁ〜ったよ。いくらだったんだ、それ」
フラット「300オズだよ」
クレア「じゃあ3袋ぐらい買っとくか。俺も行ってこよ〜」
フラット「ん、迷わないように気をつけてよ〜」
エド「俺も食いたいっす〜!」
フラット「え〜、ダーメ!」
スター「お団子も美味しいよ?」
エド「そうっすけど…俺も食いたいっすよ」
スター「兄ちゃんが買ってきてくれるし待ってよ?」
フラット「…良かった、元気にはなれたみたい」
エド「スキありっす!」
フラット「あっ!」
エドは紙袋ごと焼き栗を取り上げた。しかし―
エド「アチ⁉︎」
見事に偶然、紙袋の上とはいえ焼き栗を思い切り触ったため、
あまりの熱さに紙袋ごと落としてしまった。
フラット「…ッハハ!バトラーも似たようなことやったなぁ」
フラットが中学生の頃―
フラット「バトラーに見つかったらアウトだから〜、外でゆっくり〜」
ナックル「おっと、ここにいたか…?焼き芋食ってんのか⁉︎
俺にも分けてくれよ!」
フラット「げっ…ダーメ、バトラーは遅刻したからなしなの!
悔しかったら遅刻しないように登校することだね!」
ナックル「いいだろ、一口ぐらい!」
フラット「ダメったらダーメ!先生に怒られるの、
バトラーだけじゃないんだからね!」
ナックル「わぁ〜ってるって。それにここなら誰も見てるわけねぇだろ?
だったら良いじゃねぇか」
フラット「…ハァ、しょうがない、じゃあバトラーの分貰ってるから
そっちあげるよ。はい」
仕方なさそうに紙袋からもう一本の焼き芋を渡した。
ナックル「お、なんだ、あんじゃねぇか。それじゃ、もーらい」
思い切りかぶりついた…と思いきや。
ナックル「ドワッチ⁉︎」
身が思ったより熱く、ポロッと手から落ちていた。
フラット「…ップ…アハハハハ!」
フラット「ダメだ、今思い出しても…アハハハハ!」
久しぶりに大笑いするフラット。その目からは笑い涙のような、
それでいて悲しそうな涙を見せていた。
クレア「よっ、買ってきたぞ!お前らも食うだろ?」
エド「あっ、でも…俺、落としちゃったっす…」
フラット「大丈夫、こんなの皮剥けば、実は綺麗だから…ほら!」
外は少し泥がついていたが、中からは湯気をたてる金色の実が顔を覗かした。
スター「フラット、皮剥くの上手!スターなんて、全然割れなくて…」
クレア「まだ子供だから力が足りないんだな、どれ、兄ちゃんが
剥いてやるよ」
クレアは力強く皮を剥こうとした。
フラット「ダメダメ、そんなに力入れたら実がボロボロになっちゃうよ、
皮だけを剥く感じに、実まで指が当たらないように…そうするとこんな感じ!」
エド「俺みたいな爪があれば話は別っすね」
フラット「ハハハ、そうだね」
食後―
クレア「で、食い終わったが…」
フラット「じゃあ、探しに―」
ケーベス「おい、お前らここにいたのか。探した…?」
エド「あっ!」
ベングル「…ったく、放っとけって言ってんだろ」
ケーベス「そうも問屋が卸すわけにはいかねぇんだ。お前ら、
その結果どうなったか分からないとは言わせないぞ!」
フラット「ケーベス…」
ケーベス「で、1番の問題はフラットなんだが…休んでろ。
後は俺達3人がやっとく」
フラット「えっ…」
メダイ「ケーベス〜!ダメ、誰もいなかったよ…」
コータス「こっちもだ…って、ベングルはいたのか」
ケーベス「あぁ、後はペーター達の捜索範囲に委ねるとして…
フラット、俺達が隊長代理やっておくから」
フラット「…隊長失格だね」
ケーベス「いや、そこまでは―」
フラット「部下に命令を聞いてもらえない、心配ばっかかける、
挙句の果てには代理まで!もう分かってた!バトラーがいなくなってから
もう僕には…頼っていい人なんていないってことぐらい!」
そう叫んでどこかへフラットは飛んでいってしまった。
クレア「……フラット…」
メダイ「…これで分かったでしょ?皆してフラットに頼りすぎだってこと」
エド「…そうっすね、俺…全然ナックラーさんの代わりに
なってなかったっす…ただ笑ってもらえればそれでいいって…!」
スター「ねぇ、何の話?」
ベングル「んなの俺が知る問題か!とにかく俺は東京にー」
ケーベス「おいテメェ、いつまでウダウダ言ってる気だ?」
メダイ「…ケーベス…!」
コータス「あ〜あ、ケーベスを怒らしたら収集つかねぇな」
ケーベス「俺はよぅ…そういうやつが1番ムカつくんだよ!オラァ!」
ベングルの顔面に強烈なストレートを1発くらわした。
その目つきはいつもより増して鋭く、まるで鷹の目のようだった。
ベングル「な、何しやがる…⁉︎」
その声に怯えることなく、ケーベスはベングルに近づいた。
ケーベス「お前のようなやつがチームをダメにするんだよ!」
更に胸ぐらを掴み上げ―
ケーベス「その耳かっぽじって聞きやがれ!いいか、フラットはな、
そんなお前でもずっと面倒見てきたんだ!俺だったら、いや、
フラットじゃなきゃな、お前なんかとっくに見限っててる!
アイツは…隊長失格なんかじゃねぇ!アイツほど…アイツほど
隊長になるべき人材はいねぇよ!アイツをあそこまで追い込んだのは
ベングルだけじゃねぇ、お前ら全員だ!」
クレア「…っ!」
エド「…」
メダイ「残念だけど…私からは何も助言できないよ。でも、そんな皆だから
フラットに教えてあげて!1人じゃないって!皆が…私達がついてるって!」
スター「…うん!」
コータス「メダイがあんなに言うのも珍しいな」
ケーベス「説教すんのも疲れた、後はお前らダメグループに任せた」
クレア「なっ、ダメグループ⁉︎」
ケーベス「おっと?どこか間違ったこと言った?まぁ、そう呼ばれるのが
嫌なら呼ばれないよう努力することだ」
クレア「だったらしてやるさ!ダメグループとか、死んでも嫌だからな!」
エド「やってやるっす!俺は…やっと気付いたっす!
ナックラーさんの代わりはたしかに俺はできないっす…でも、
フラットを…大切な人を支えられる存在にはなれるっす!」
スター「でも…どこに行ったのか…」
クレア「一旦、仮拠点に戻るぞ。ダンステードかアイツが
居場所は突き止めてくれるだろう」
仮拠点―
ダンステード「それが…太平洋なんや、反応」
クレア「太平洋⁉︎」
ダンステード「しかも生体反応なし…こりゃ外されたな」
エド「ファイターコードならどうっすか⁉︎」
バジー「ダメですわ、端末の電源切られているようです」
スター「これじゃ探しようがないよ…」
メダイ「私が空から探すよ!」
ヒナ「私も行く!」
タクマ「俺も協力するぞ!」
バジー「生徒達の生活空間は作り終えたのですか?」
ヒナ「フラットがいないとできないこともあるので…」
タクマ「俺達だけじゃ手が足りないってのもあるんだけどな」
クレア「よし、探しに行くぞ!」
ダンステード「太平洋に発信器が投げられたってことは海の方に
いるってことや。つまり…浅羽の方やな」
スター「南の方だね、行こう!」
浅羽―
フラット「…バカみたい…何やってんだろ…」
浅羽の浜辺で1人、波の音を聞いていた。
フラット「…バトラー…」
中学時代、孤児院にて―
フラット「お花見できて良かったね」
ナックル「だな。東京湾横目に桜も見れる。綺麗だよな」
フラット「でも僕達2人だけのグループで良かったのかな?
皆は5、6人のグループなのに」
ナックル「まぁ、そんなのどうでもいいだろ!ほれ、今日は
ジャンジャン食おうぜ!」
フラット「もう…まっ、今日ぐらいはいっか!」
ペーター「君達、桜餅忘れてるけど」
フラット「…あっ!」
ナックル「そういや配るって言ってたな」
フラット「もう、先に行くから」
ナックル「いやぁ、悪い悪い」
ペーター「本当に仲がいいんだね、君達2人は」
ナックル「そうか…?でも、俺は桜餅とか苦手なんだよなぁ…
なぁフラット、代わりに食えるか?」
フラット「珍しいね、バトラーが好き嫌いなんてさ。まぁ僕は餅なら
何でも食べれるからいいけど」
ペーター「じゃあ草餅が大量に余ってるけど…」
フラット「本当ですか⁉︎」
草餅と聞いて急に飛び上がったフラット。
ナックル「おいおい、まさか草餅が好きとか言わねぇよな?」
フラット「へ?何か?」
ナックル「い、いや…お前の好み、独特だなぁ」
フラット「そう…?まぁ、楽しもうよ!」
回想終了―
フラット「…ハァ…」
エド「あ、見つけたっす!」
フラット「エ、エド⁉︎」
エド「えへへ、お届け物っす!」
フラット「届け物…えっ⁉︎」
エド「桜餅っすよ!花見にはもってこいっすよ!」
フラット「…フフッ…変なの!でも、何でここだと思ったの?」
エド「俺しか知らないと思うっすよ?フラットってこういうとこ、
好きだってことナックラーさんから聞いてるっすもん」
フラット「…そっか」
エド「…フラット、俺…素直には言いにくいっすけど…俺は、俺として、
ナックラーさんの代わりじゃなく俺個人としてフラットの支えに
なりたいんすよ!」
フラット「そのセリフ…!」
ナックル「お前の親代わりとまではいかねぇけどよ…俺は俺で
お前の柱になりてぇんだ」
フラット「…エド…!」
思わずエドの腕にしがみついてしまった。
エド「フラット…大丈夫っすよ、フラットは1人じゃないっす、
隊長失格でもないっす!俺が保証するっすよ!」
フラット「うん…!うん!」
クレア「やっと見つけた。悪かったな、今まで頼ってばかりで…
これからは自分達でできることはするからよ、余計な心配は
かけねぇように心がける」
スター「皆でフラットのこと手伝うから!1人で背負わないで!」
フラット「皆…!」
その様子を高台から―
ケーベス「ったく、手間かけさせやがって」
メダイ「あれ本当に演技だったの?私には本気にしか見えなかったよ?」
コータス「半分は本気だっただろ」
ケーベス「あちゃ、バレてた?」
コータス「お、ベングルのやつも来たぞ」
ベングル「そ、その…」
フラット「…ごめん、皆に心配ばっかりかけて…そうだね、
皆いるのに、バトラーがいなくなってから独りぼっちなんか言って…
本当にごめん!どうかしてた!」
ベングル「いや…?」
クレア「あ、そうか。ベングルのやつ、フラットに何があったか
知らないから困ってんだな」
スター「そうだね、でも…フラットの顔、戻ったね!」
フラット「じゃ、仮拠点に帰ろっか!」」
仮拠点―
ペーター「まったく!フラット君、何のための発信機だと思ってるんだ!
しかもあれ、結構高価な代物なのに!」
フラット「え、えへ?」
ペーター「ハァ、褒めてないよ」
フラット「分かってますよ?ただ…今は説教より休みませんか?
皆、まだ疲れてるし」
ペーター「君は反省という言葉を知った方がいいね」
フラット「もう反省はしましたよ〜!それじゃ、僕達はまたお花見に
行ってきま〜す!」
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