第17話 風の音色

1節 戻れない日々からの答え


ノール「フラット、集中しろ!」

フラット「えっ⁉︎」

クレア「ったく…神業・旋風刃!」

クレアの矢が刃のような風を纏い、魔獣を射抜く。

魔獣「グヴゥゥゥ!」

クレア「おい、何やってる!しゃんとしろ!」

フラット「ごめん…」

スラリア「もう、それじゃ奏でるよ!

死奏・ドラゴダンザ!」

クレア「おっ、キタキタ!」

ノール「悔しいがこの音色のおかげでいけそうだ!」

フラット「……」

クレア「おいフラット!指揮…?おい!」

フラット「……」

スラリア「あたしの音色…届いてない?」

ノール「全く…私に従っておけ!今は私が指揮をとる!」

クレア「何言ってんだ、俺だろ!」

スラリア「ちょっと、指揮をとれるのはフラットしかー」

ヒナ「ごめんなさい!私がフラットに変なこと言ったから…」

クレア「まあ今はコイツを倒せさえすれば

何でもよしだ!くらっとけ!

突風・水切之旋風・極!」

ヒナ「ちょ、こんな強い術だと…銀座が!」

フラット「…我慢……」


フラットがまだ幼い頃ー

ナックル「我慢してるお前の顔はお見通しだぜ。

なんてったって、お前はすぐに顔に出るからな」

フラット「顔に……」


フラット「……」

クレア「少しド派手に行かせてもらう!」

フラット「我慢しなきゃ、守れないんだ!

神力最高出力!」

フォルディン「なっ、あの阿呆が!」

フラット「僕は…ごめん、我慢してでも

守りたいものがあるから!」

フォルディン「…それがお主の答えというのか…」

フラット「…審判・凍瀧之結界・斬!」

フォルディン「…未熟じゃな」

フォルディンは少し微笑む。

フラット「…罪を犯す者は…断つのみ!」

フォルディン「それが己が答えというのか?」

フラット「フォルディン…?」

フォルディン「違うであろう?断つのであるか?

戦うのみの刃が裁きであるのか?」

フラット「あっ…」


カナリア「刃というものはたしかに人を傷つけるための

道具です。しかし、それは道具に与えられた使命ではなく、

その道具を用いる人の思念の他ありません。

でもよろしい?私達法をつかさどる者、

常に忘れてはならぬことがあります」


フォルディン「人切らずして罪を断つ。いわば、

罪を憎み人を憎まず!クラリオの名を引くのならば

この教訓は忘れてはならん!」

フラット「そっか…そうだ!」

ヒナ「うん!そうそう!やっと分かった!

今までのフラットと違ったのはそこだよ!

非情までとはいかなかったけどそう!」

フラット「…そっか。忘れれたや。僕の刃はただ罪を断つもの!

フォルディン、ありがとう!クラリオの血に応えよ、

我が神器“グラディウス”!」

グラディウスがいつもより増して青い輝きを放った。

フラット「僕はただ罪を断つのみ!

最終審判『判決』術・『フラムクラム』!」

魔獣「ギャァァァァ!」

フラット「荒んだ心を灰とし、生きとし生きた魂は

天に昇る。これがフラムクラム」

十字架状の炎が魔獣を燃やし尽くしていく。

クレア「スゲェ…一瞬で…」

フラット「よし、上出来!」

フォルディン「どの口が言う!わしがおらんかったら

何もできないくせにのう」

フラット「むっ…だよね…ありがと、フォルディン」

フォルディン「……!」

あまりに純粋すぎるフラットのお礼につい顔を

赤らめるフォルディン。

フォルディン「れ、礼などいらんわ!一応?

わしもお主の学んだこととやら、教えてもらったしな。

その返しとでも思え!」

フラット「…うん。それじゃ、帰ろっか!」

全員「了解!」


浅草ー

ノール「全く、戦闘中に集中してないとは…

フラットらしくない」

クレア「まあそう言うな。誰だってたまには

迷う時ぐらいあるだろ」

スラリア「そうそう。でもクレアの場合はその迷いも

自分で作ってるんだけどね」

クレア「だから一言多いんだよ!」

スラリア「えへへ…」

ラルバ「それにしてもフラットさんが無事で何よりです!」

デラガ「まああの大事件を無傷で終わらせたフラットだ、

心配は無用だったな」

フォルディン「それより、お前がまだまだ未熟者とも

わしはよく理解できたし、しばらくここに残っても良かろう。

わしの試練もわしでこなしてみせるわ」

スラリア「うんうん、その意気!」

クレア「な〜んかいちいち鼻につくんだよなぁ」

フラット「ごめんね、この生意気が」

フォルディン「お前!」

ヒナ「うん、やっぱり今のフラットの方がらしいね」

クレア「なぁヒナちゃん。時間大丈夫か?」

ヒナ「…あっ!もう帰らないと!私次の収録に

らないと!」

スラリア「じゃあまたいつか!」

ヒナ「うん!協力できるのであればいつでも!」

ラルバ「それじゃ、本官達もここで」

デラガ「今日のようなことはこれでおしまいに

してくれよ。それじゃあな」

ノール「あぁ、協力ありがとう」

ラルバ「あ、あのフラットさん!あ、明日は暇なので

どっか食事でも!」

フラット「食事か…いいね!」

ノール「気楽だな。まあ私も神力は戻ったし

一件落着ってことだ」


浅草大学寮ー

フラット「ただいま〜」

エド「あ、お帰りっす!」

フラット「エド、起きたんだ。じゃあ早速、

晩御飯でも作ろっか」

フォルディン「わしは作れんからの。頼んだぞ」

フラット「それが人にものを頼む態度?」

フォルディン「わしは女神じゃ!お前よりは

よっぽど偉いのじゃぞ!」

フラット「僕がいなかったら女神にもなれず、

この世にもいなかったのに?」

フォルディン「うぐっ…お前はやなやつじゃの」

フラット「お前ぐらいにしかこんな口の聞き方しないっての!」

フォルディン「わしはお前に嫌われるような真似を

した覚えはないぞ!」

フラット「覚えてないの⁈ハァ…」

エド「それより早くしろっす〜!腹ペコっす!」

フラット「あ、ごめん。じゃ、得意なオムライス作るから

ちょこっと待っててね」

エド「ヒャッホー!フラットの特製オムライスっす!」

フラット「エド、喜びすぎ。嬉しいけどさ」

フォルディン「オムライス…か。わしの好物じゃないか」

フラット「…一応言っとくけど当たり前だよ?

僕と同化してるんだから」

フォルディン「ただのジョークじゃ」

フラット「もう…」


キッチンー

フラット「後は卵で包むだけ…と。よし」

ピンポーン

フラット「?誰だろ…」


玄関ー

クレア「よっ!」

フラット「クレア?何か用?」

クレア「いやな、スターが今吹奏楽部のコンテストで

いなくてよ、晩飯食えなくて困ってんだ。

頼む、何か作ってくれないか!」

フラット「なんだ、晩御飯ね。じゃあ中に入って。

そうだなぁ…エドとゲームでもして待っててよ」

クレア「サンキュー!」


キッチンー

フラット「クレアの分も作り終えた!今度こそ…」


食卓ー

エド「いただきますっす!」

クレア「うっまそう!フラットのオムライス、

何気初だな!いい匂い…いただき!」

フォルディン「この2人は食べ方のマナーが

なっておらんな。いただきますと言いつつ

箸で食べ物をつつくとは…」

フラット「まあまあ、いただきますって言うのが

大事だからさ」

フォルディン「優しすぎるな」

エド「やっぱりフラットのオムライスは最高っす!」

フラット「そう…?へへ、照れるな…」

フォルディン「…それより、金髪のこやつ、

なんか気絶してるぞ?」

フラット「えっ…あ、トリップしてる…」

エド「本当にフラットの料理って危険っすね」


10分後ー

クレア「はぁ〜…美味すぎて死んだかと思った」

フラット「日常会話で聞くことのないような

言葉を聞いた気がする」

エド「その発言もっすよ」

フォルディン「まあ…美味しかった」

フラット「で、クレアは帰るの?」

クレア「そうするわ、俺まだ仕事残ってるし」

フラット「じゃあ送るよ。最近不審者も

多いみたいだしさ」

クレア「おいおい、俺が不審者にやられるとでも

思ってるのかよ。流石に心配しすぎだっつの」

フラット「まあ、いいならいいけど…」

クレア「逆に俺が帰った後の1人になったお前が

心配だ。最近仕事も集中できてねぇし、

気付けばボーっとしてるしな」

エド「悩み事なら俺が相談乗るっすよ」

フラット「う、ううん、ただちょっと…だから大丈夫!

それぐらいは自分でも何とかできるよ」

クレア「お前の大丈夫は大丈夫じゃねぇだろ。

1年と付き合ってなくてもそんぐらい分かるっての!」

フラット「……だって、どうにもならないから…」

エド「あっ…クレア、これ以上はダメっすよ。

ナックラーさんのことっすよ」

クレア「そうだったか…そうだな、たしかに、

どうしようもないな」

フォルディン「……情けない軟弱者じゃのうお前は。

あの者の言葉をもう忘れたか⁈」

フラット「…言葉?」

フォルディン「たしか…俺の机の…だったか?」

フラット「まだ見てないよ。見たら…我慢出来ないから」

クレア「お〜いフラット?我慢する必要なんてねぇと

言ったのはお前だぞ?」

フラット「……ごめん。分かってはいるんだけど…」

クレア「まっ、お前がどんだけ辛いのかは俺にも

分からないけどよ。俺達はいつだってお前の

そばにいるんだ。何でも頼んでくれ」

エド「そうっすよ!俺も何だってするっす!

フラットを笑わせられるなら何でもっす!」

フラット「2人とも…ありがとう!」

クレア「な〜に、お返しだよ。お前がくれた恩だ、

気にすんな」

フラット「……うん」


深夜、浅草公園ー

フラットはナックルと初めて戦った噴水の近くのベンチに

腰を下ろし星空を眺めていた。

フラット「…バトラー…」

満月に手を伸ばしてそう呟く。

フラット「…もうすぐ春だよ。また花見して宴会開いて

大騒ぎするから……帰ってきてよ!バトラーがいないと

全然騒がしくないもん!帰ってきて…あの笑い声聞かせてよ!」

ただ虚しいだけの気持ちを乗せた言葉が公園に響き渡る。

クレア「…ったく、そんなことで悩んでたのか?」

スラリア「たしかに寂しいね、今のデ・ロワーじゃ。

なっくんほど騒がしい人もいないし、フォールみたいに

おふざけする人もいない。でもね、あたし達は

なっくんの思いは引き継いでるんだよ!」

クレア「だから俺達はこうしてこの街を

守ってんだろ?アイツのせいで少し熱いやつには

なっちまったが、別にいやじゃねぇし」

フラット「2人して…いつから聞いてたの?」

スラリア「全部。それより花見するんだったら言ってよ!

あと2か月ぐらいじゃん!楽しみ〜!」

フラット「…そっか。今の皆で花見をするのも宴会を

初めてなんだ…そう考えるとなんかバカらしいや。

騒がしくないとか、分かりっこないもんね」

スラリア「そういうこと!あたしだって

酔っ払ったら分からないよ?」

クレア「俺は酒飲んだことねぇから分かんねぇけど

親父みたいにはなんねぇから安心しな」

フラット「クレアのお父さんがどんな人か

僕じゃ分からないよ」

スラリア「え〜⁉︎知らないの⁈クレアのお父さん、

鬼軍曹って呼ばれてるんだよ⁉︎」

フラット「軍曹⁉︎軍人なの⁉︎」

クレア「俺はアイツなんか大っ嫌いだがな」

スラリア「えっ?何で、いい人じゃん!」

クレア「嫌いなのは嫌いなんだ!」

フラット「クレアが人を嫌うのも珍しいね」

クレア「俺だって好き嫌いはある。まあ、

親父みたいなやつはごまんもいないけどな」

フラット「スラリア、でもいい人って?」

スラリア「鬼軍曹って呼ばれてるのは戦場に立ってた間。

軍人を辞めてからは慈善活動をしてるんだよ」

フラット「慈善活動…?」

クレア「ふん、表の顔だ。裏の顔はとんだ最低野郎だ」

フラット「クレア…ねえ!また一緒に音楽イベントやろ!

もうすぐ3月だし、あったかくなる!フォールに

届くように奏でようよ!」

スラリア「いいね!あたしは賛成!」

クレア「別に反対する理由もねぇしな。だが、

ベースはどうするんだ?」

フラット「なしでいいんだよ!言ったでしょ?

フォールに届くようにって!いない方がいいに決まってるでしょ!」

スラリア「なるほど!流石はフラット!」

フラット「でしょ〜?」

クレア「にしてもライブか!腕がなる〜!」

スラリア「ピアノの練習しとかないと!」

フラット「明日の緊急発表、楽しみだな〜!」


翌日ー

フラット「重大発表!」

ペーター「うわっ、いきなり大声でなんだ⁈」

フラット「来月初旬から音楽イベントを開催します!」

ノール「本気か⁉︎」

ペーター「待て待て、渋谷の件がまだ終わってないだろ。

あの2人とダンステードがいないことには何もー」

クレア「だからその復興ライブだって」

スラリア「難しいのは従順承知だけど、やりたいんです!」

フラット「やろ!フォールにも届くように!」

フォルディン「お前達、とち狂っておるのか?

ただでさえ魔族であるのに神魔戦争を引き起こそうと

しておる奴を再び友として受け入れる気か⁉︎」

フラット「そうだけど?」

フォルディン「……はぁ」

ペーター「フォルディン、これがフラット君だ。

カナリアとも君とも違う、優しく誰かを想い続けられ法の天使だ」

フォルディン「…わしには分からぬ。何故許せるのじゃ。

裏切った者は神を欺いたと同じ者じゃ」

ペーター「それは第五次神魔戦争までの考えだ。

今じゃ裏切りも人生においてあって当たり前のこと。

君には分からないだろうがね」

フォルディン「あぁ、わしには一生かけても分からぬわ」

ノール「待って。スターもいないのにどうやってやる気だ?」

フラット「ふっふっふ…秘策があるからそこら辺は

心配しなくて結構。じゃ、早速ミーティングに

入るよ!ほら、モニター準備!」


フラット「まず日程は、3月4日から3月17日。

そしてここが!ここが重要ポイント!

僕達デ・ロワーと、あの有名歌手のキエちゃんが

コラボしてくれます!」

全員「えっ?」

スラリア「今、キエちゃんって言った?」

ノール「しかもコラボって…」

クレア「おいおい、よく許可降りたな」

フラット「ふふ〜ん、僕にかかればこんなもん!」

ペーター「…本当だ、動画にも上がってる」

フラット「深夜にファックスで送信して返事が

今朝届いてたんですよ!」

エド「あのキエちゃんとコラボ…夢のようっすね!」

フラット「でしょ?で、もう来てくれてます!」

キエ「はい!皆さん初めまして!白河キエです!」

ノール「ほ、本物⁉︎」

キエ「はい、本物です!」

クレア「よっしゃあ!なあ、折角だし俺達の歌、

聞いてもらってもいいか⁉︎」

スラリア「ちょっとクレア、馴れ馴れしいって!」

エド「そうっすよ、せめて敬語は使えっす!」

クレア「そ、そうだな」

キエ「あ、でも聞いてみたいです。なかなかライブには

行く時間を取れなかったので」

フラット「はい!じゃあスタンバイ!」


数分後ー

ペーター「デスク、後で掃除しろよ」

フラット達はデスクをくっつけて簡易的なステージを

作り、その上に立っていた。

フラット「ジャンプとかはできないですけど…エド」

エド「それじゃいくっすよ!ワン・トゥー!」


キエ「凄い迫力…!」

フラット「今日は一曲だけですけど…本番では

18曲やるので!」

キエ「はい、うわぁ、私がこんな音楽を…ドキドキする」

ノール「私達の方がドキドキしてるよ…」

スラリア「ね、まさかキエちゃんとライブやるなんて

思ってもみなかったよ」

クレア「はぁ〜…こう考えるとすっとこどっこいの

ドラム、迫力あったんだな」

スラリア「迫力っていうより、ただ力強かっただけな

気もするけどね」

フラット「でも、皆腕は落ちてないみたいで

良かった。それにエドのエレキギターはキレがかってたし、

クレアのアコギもバッチリだった!」

エド「スラリアもピアノ完璧だったっすよ!」

ノール「フラットも音程狂ってなかった。ただ、

エド、テンポが走り気味だったぞ」

フラット「まあ…たしかにちょこっとだけ。

あんまり気にならなかったから意識するほどでもないと

思うよ。じゃあ決定でいい?」

クレア「昨日も言っただろ?」

スラリア「あたしは賛成!」

ノール「まあ私も」

エド「もちろん俺もっすよ!」

ペーター「全会一致ってことで決定だが、決まったなら

早く降りてこい。机の掃除しとくように」

キエ「あ、それで私は?」

フラット「あ、じゃあスラリア。練習付き合える?」

スラリア「オッケー!」

ノール「当番制にすればどう?」

フラット「そうだね…いいかも!じゃあ、

月曜はスラリア、火曜はクレア、水曜はノール、

木曜はエドで金曜は僕。土曜は全員で日曜は会議!」

スラリア「分かった!それじゃキエさん、

こちらへどうぞ」

キエ「はい!」

スラリアはキエを連れてピアノのある練習部屋に行く。

フラット「それじゃ、デスクの上拭いて元に戻そっか」


数分後ー

クレア「よいしょっと」

エド「これでいつも通りっすね」

ノール「それより…はいこれ」

フラット「?これって…」

ノールは全員に小包を渡す。

クレア「何だ?ノールのことだし、期待は…ん?

これ、チョコ?」

ノール「今日はバレンタインだ。スラリアからも

あるらしいが練習が終わるまで渡せそうにはないな」

フラット「あれ…?そういえばフォルディンは?」

ペーター「さっき眠くなったとか言って

君の中に戻ってったよ」

フラット「もう、勝手なやつ」

エド「これ…ちょっと苦めっすね」

ノール「カカオ52%だからな。少し苦いやつだ」

フラット「ねえクレア、紅茶淹れて…?」

クレアは顔をポーっと赤らめてくうを見ていた。

フラット「クレア?何かあった?」

クレア「あっ、いや?」

ノール「どうせスラリアの本命チョコを気にしてるだけだ。

心配するだけ損だって」

フラット「もう、それで一旦ティータイムに

したいから紅茶淹れたいんだけど何がいい?」

ノール「私は無糖のレモン」

クレア「俺は加藤アップルティー」

エド「俺はミルクティーでいいっすよ!微糖ぐらいで

お願いするっす」

ペーター「俺はカフェオレでお願いするよ」

フラット「分かりました。じゃあ、

ちょっと待っててね」

フラットは笑顔でオフィスから出る。

クレア「スラリアの…チョコ!」

エド「そんなにソワソワしてると落ち着かないっすよ。

別にチョコっすよ?」

クレア「お前、今日が何日か分かって言ってるのか⁉︎」

エド「え〜っと…2月14日…あっ!」

クレア「やっと分かったか。そう、2月14日!

バレンタインで貰うチョコ!」

ノール「私のは義理だけど」

クレア「んなのは分かってるっての」

エド「…てなると…クレア。そろそろアイツがー」

バジー「クレア様〜!私からの本命チョコ、

受け取ってくださいまし〜!」

クレア「げっ、バジー⁉︎」

バジー「では、どうぞ…⁉︎クレア様…そのチョコは…?」

ノール「……」

クレア「ノール、何とか言ってくれ!」

ノール「フッ…そのチョコは私からの義理チョコだ」

クレア「おい!そこは誤魔化せ!」

バジー「何だ、義理チョコでしたか。じゃあ私の本命チョコ!」

フラット「ただいま…?何々?何の騒ぎ?

僕も混ぜてよ!」

エド「混ざっちゃダメっすよ!」

ノール「それより、ありがとう。オーダー通りだ」

フラット「でもバジーまでいるとは思ってもなかったよ。

じゃあバジーの分も…」

バジー「いえ、私はチョコをお渡しできたら

すぐに戻りますので」

クレア「じゃ、じゃあ俺が受け取らないと…」

ノール「ずっと残る気だな」

バジー「ダメですか?」

フラット「いや…ダメの何もスラリアがクレアの彼女だし…

スラリアの本命チョコを貰うんだよね?」

バジー「そうなんですの?」

クレア「ナイスフラット!」

フラット「うん、だからバジーのチョコ受け取っちゃうと

二股かけることになっちゃうし…」

バジー「そう…ですか…」

ノール「フラット、ストレートに言い過ぎだ」

フラット「いや、ていうかクレアがキッパリと

断って欲しかったんだけど…」

クレア「いや、言いにくいだろ!」

エド「な、なんか気まずいっすね、この雰囲気…」

スラリア「ちょっと休憩〜…あれ、何この雰囲気…」

フラット「あ、スラリア。お帰り…」

ノール「この状況どうにかしてくれ」

スラリア「え〜…?あ、そういうことか。

たしかあたしの鞄の中に…あった!はいこれ、

バレンタインデー、クレア!」

クレア「お、おぉ…サンキュ」

フラット「あっちゃ〜、火に油注いじゃった」

バジー「……ごめんなさーい!」

エド「あ〜あ、泣かせちゃったっす」

ペーター「何気初恋で失恋だな」

フラット「あ〜…そりゃ辛いよ」

クレア「おい、俺を見て言うなよ!悪いのは

キッパリストレートに言ったフラットだろ!」

フラット「いやいや、スラリアと付き合ってるって

バジーにちゃんと言っとかなかったクレアでしょ」

スラリア「もう、不毛な言い争いしてる場合じゃないしょ!

あたしが励ましとくから2人はもういいよ」

ノール「案外真面目だな」

スラリア「ノール、一言余計だよ!」

ノール「あら、じゃあ何て呼べばいいんだ?

親不孝お嬢様?」

スラリア「なっ…この短気破壊神!」

ノール「言うか!弱虫死神!」

スラリア「トゲ女!」

フラット「ま、まさかスラリアまで…」

クレア「あちゃ〜…大丈夫かこれ…」


2節 探せ‼︎大暴れガールズ!


フォール「……」

「フッ、やっとその気になったか」

フォール「…ランケールか。待っていたぞ」

ランケール「で?私は何と名乗れば良いのだ?」

フォール「第五次神魔戦争で戦果を上げ、

途中で魔獣に変えられたやつの名だ」

ランケール「ほう、つまり神軍に仕えたグラに与えられた、

神魔騎士の名を使えば良いのだな?」

フォール「役割もまんまだ」

ランケール「フフッ、これ以上にない喜劇を

舞わせてみせましょう。神魔のなき世に!」


音楽イベント1週間前ー

フラット「よし、舞台の準備はこれでよし。

あとはバジーに任せて…」

ノール「そのバジーはあの調子だぞ」

バジー「クレア様に…フラれた…」

フラット「…フォルディンは眠ってるし…

しょうがない、皆でやろっか!」


数十分後ー

クレア「エド、ドライバー」

エド「ドライバーなら、今スラリアが使ってるっすよ」

クレア「スラリアが…?」

フラット「ねぇ、カッター知らない?さっきこの辺に

置いといたはずなんだけど…」

クレア「それはノールが…?スラリアとノール…!」

フラット「そういえば2人どこ行った⁉︎」

クレア「アイツら、まさかケンカでも

してんじゃねぇだろうな⁉︎」

エド「ありえるっすよね!あの2人、なんか最近、

仲悪いっすもん」

フラット「でも…ドライバーとカッターって

危険じゃない⁉︎怪我したらイベントどころじゃないよ!」

クレア「とにかく探しにいくぞ!」


クレア「ダメだ、近辺にはいねぇ」

フラット「…何で探しに行ってるの?」

クレア「は?」

エド「風から聞けばいいっすよね?」

クレア「…あっ」

フラット「やっぱりな〜んか抜けてるな〜」

クレア「ま、まあ今から聞くつもりだったんだよ!

そう、今から!足で探すのがなんぼだろ?」

フラット「かえって面倒だと思うけど…」

クレア「んなこと言うな!ったく…神業・風耳」

エド「…どうっすか?」

クレア「…ケンカのような光景は見えねぇし、

ノールとスラリアの姿も見えねぇ。

今日は風が弱いせいであの2人を見た風が

こっちまで届いてねぇな」

フラット「今日は風速0.3メートルだから……

ちょっと難しそうだね」

エド「強風でもないとクレアの術は頼りにならないっすね」

クレア「なっ、神業を持たないお前には

言われたくねぇよ!」

エド「それは俺のせいじゃないっすもん!」

フラット「まあまあ、僕達がケンカしてどうするの」

クレア「それもそうだな。よし、こうなったら

手分けして探すぞ!」


オフィスー

ペーター「ノールならさっき来たよ。なんでも、

俺がカッターをなくしたって聞いて持ってきたとか。

それでカッター代わりの道具を貸してほしいって言われて

厨房の包丁をー」

エド「何で怪しまないんすか⁉︎」

ペーター「いやだってイベント準備中だろ?

カッターでも切れない何かを切ってるのかと…」

エド「もういいっす。ここにはノールが来てたんすね」


東京湾ー

フラット「だからスラリアだって!」

ラルバ「ふわぁ〜…」

デラガ「ちょっと失礼!おら、何眠ってんだぁ〜?」

ラルバ「眠いから眠ってんです〜」

フラット「あちゃ〜…デラガに向かってそんな口聞くとー」

デラガ「ほーう…お前、今日は交代なしで張り込みでも

してもらおうか。眠いなら眠っていいんだもんな?」

ラルバ「そう…ですよ〜」

フラット「ハハ…こりゃダメだ。そうだデラガ、

スラリアかノール見なかった?」

デラガ「いいや?行方不明か」

フラット「ううん、ただちょっと危険物持ってるから」

デラガ「危険なもの…?フラット、ウォッチフォンに

着信入ってるぞ?」

フラット「あ、サイレントモードだっけ。もしもし?」

エド「大変っすよ⁉︎ノール、ペーターさんに

上手い口実でカッターからナイフに変えてるっすよ!」

フラット「ナイフ⁉︎ナイフなんか持って…危ないよ⁉︎」

エド「そんなこと俺も分かってるっすよ!」

デラガ「それだと軽犯罪法違反だ。だが、見ての通り

俺達も張り込み中だ。そうだな…銀座警察署から

応援で呼んでおく」

フラット「助かります!エド、クレアからの情報がきたら、

速攻2人のいる場所に向かうよ!」

エド「了解っす!」


クレア「…?この辺の風は2人を見てるっぽいな…

ん〜…2人が並んで歩いてる…?まさか、どっかに連れてって

路地裏あたりで…⁉︎まずい!」


フラット「お、クレアから電話きた。何?」

クレア「浅草駅の辺りでノールとスラリアが

歩いてたみたいだ。その後電車に乗ったらしい」

フラット「分かった。じゃあどっち方面に

行ったか分かったら連絡してきて」

クレア「オッケ。それじゃ早く来いよ!エドにも

連絡しといたからな!」

フラット「ありがと、気が利いてる」

クレア「そんじゃあな!」

クレアは通信を終えた。

フラット「それじゃ僕は駅に向かうので

これで失礼します。デラガもラルバも張り込み頑張ってね!」

デラガ「ラルバが頑張ると報告書が増えるだけだ」

フラット「あ〜…デラガ、ラルバの見張りも

頑張ってね」

デラガ「あぁ、銀座のやつらによろしく伝えといてくれ」

フラット「うん、じゃあまた!」


浅草駅ー

クレア「エドのやつおっせぇなぁ」

フラット「どこ行ってるんだか」

クレア「また先に電車乗ってるとかだったら流石にデジャー」

フラット「あっ、エドから電話」

エド「どこにいるんすか⁉︎銀座駅集合っすよね⁉︎」

フラット「浅草駅集合で銀座駅で解散!」

クレア「ま〜た勘違いかよ。どうする?」

フラット「行かなきゃどうすんの。あの2人が

どうなってるのか分からない以上は直行だよ」

クレア「ったく、アイツらのせいで準備の最終段階が

終らねぇじゃねぇか」

フラット「まあすぐ解決できるでしょ。スラリアが

ケンカをするようには思えないし」

クレア「そうだな、お、電車来たな」


エド「遅いっすね〜…」

「おいおい聞いたか?歌舞伎座の前で通り魔だってよ?」

「聞いた聞いた、刃渡り6センチのナイフだろ?」

エド「ナイフ⁉︎まさか…ノールがストレス発散に⁉︎」

ノール「誰が…ストレス発散だって?」

エド「げっ…」


30分後ー

フラット「あれ?入り口辺りで待ってるように

言っといたのに…」

クレア「くぅ〜!なんなんだよ!アイツ勝手すぎだろ!」

フラット「ちょっとクレア⁉︎」

我慢の限界でクレアまでどこかに走り去っていった。

フラット「まったく、何でこういう時に限って

全員勝手なんだよ〜!」


服屋ー

ノール「まったく、勘違いも甚だしい。私がナイフ持って

ケンカするわけがないだろ。服屋に届いた荷物入りの段ボールを

開けるために使ってんだ。元々はカッターにしようと思ってたが

ナイフの方が開けやすいからな」

エド「だからって何で俺まで一緒に作業してるんすか⁉︎

それに何でノールが服屋の手伝いなんてしてるんすか⁉︎」

ノール「当たり前だろ。お前、私にあんな疑い持ってたんだ。

そしてこの店には私の服を予約してある。

しかもファンだと言って割引までされたんだ、

お礼するのは常識だろ?」

エド「あ、案外マジメっすね…」

ノール「何?私が腑抜けとでも言いたいわけ?」

エド「ち、違うっすよ!だ、だからそのナイフこっちに

向けるなっす!」

ノール「分かったならいい。それよりあのお嬢様だったか?

ただ偶然浅草駅で会っただけだ。アイツなら伊勢崎線で

草加で降りていったぞ」

エド「えぇ⁉︎」


フラット「あ〜もう!皆して勝手すぎ!」

バー店主「で、こんな時間に来たと」

フラット「そゆこと。もうやってらんないよ」

バー店主「それにしても、君がここに来るのは

何年ぶりだろうな」

フラット「最近はこっちに来れる機会なかったからね〜、

顔出せなくても無理ないよ」

バー店主「あの時出禁にでもしておけば良かったかな?」

フラット「流石に勘弁、おやっさん!」

バー店主「ハッハハ!相変わらず冗談が苦手な子だ」

フラット「もう子じゃないです!」

バー店主「何言ってやがる、俺からしたらまだまだお子ちゃまよ。

隊長なのに隊をまとまられないたぁ、未熟以外に

言葉がねぇってもんだ」

フラット「それは…図星だけど…」

バー店主「まっ、天使の一生千年。人生の10分の1以上しか

生きてないお前さんじゃまだ子供だけどな!」

フラット「に、人間と同じって考えないで!」

バー店主「……それはそうと、君が笑ってられるのは

俺としても少し嬉しい。あの脳筋ヒーローがくたばって

心ここにあらずかと思っていたからね」

フラット「そんなわけないよ〜…僕は〜隊長だも〜ん」

バー店主「ハッハハ、完全に酔ってるな。

連絡するか?ただでさえ営業時間外だし…」

バー店主はフラットの寝顔を見つめる。

バー店主「ま、今日ぐらいは許すか。ったく、

このハノウの店を荒らす常連に比べたら全然マシか」


歌舞伎座前ー

クレア「現場はこの辺だったな。ここの風なら…あれ?

ノールの姿…見てねぇのか…」

「?誰だ⁈」

クレア「どわぁ⁉︎お、大声で怒鳴んな!」

烏警察官「ここは事件の調査で立ち入り禁止だ!」

クレア「い、いや…その…人探ししてて…」

烏警察官「言い訳無用。ほら、出てった出てった」

狸警察官「だ、ダメだと思うんだな。君、クレアなんだな?」

クレア「あ、あぁ…?」

狸警察官「ぼ、僕はドベルガというんだな」

烏警察官「…クレアか。俺はピスト。銀座警察署長だ。

デラガから協力するよう言われている。ただ、お前のような

視野の狭いやつと協力する気にはなれない。

俺はあくまでフラットと協力をする」

ドベルガ「ピスト、失礼なんだな。ごめんだな、

ピストは口が悪いだけなんだな」

クレア「そ、それで協力できるのか?事件…調査中だろ?」

ピスト「俺は残るが、ドベルガなら行けるだろ」

ドベルガ「ぼ、僕だけだな⁉︎そ、それはちょっと無理があるんだな!」

ピスト「ドベルガ、それじゃいつまで経っても

手柄なんかとれやしねぇぞ!」

クレア「ま、まさか手柄を与える烏がいるとは…」

ピスト「あぁ⁉︎」

厳しい眼光でピストはクレアを睨みつける。

クレア「い、いや何でも…アッハハハ…」

ドベルガ「な、なんか乾いた笑いなんだな」


服屋ー

ノール「よし、この段ボールで最後っと」

エド「や、やっと終わったっす…」

ノール「付き合ってくれたおかげで予定よりは

早く終わらせた。ありがとう」

エド「えっ…あっ、どういたしましてっす!」

ノール「じゃ、これ。付き合ってくれたお礼。

商店街の割引券とガラガラのクーポン」

エド「い、いいんすか⁈」

ノール「無理矢理付き合わせちゃったから…何?

それとももっと価値のある物が欲しいとか?

エド、それはちょっと強欲すぎ…」

エド「そういうのじゃなくってっすね!

元々はノールが貰うはずのものっすよね?

俺が貰ってもいいのかって意味っすよ!」

ノール「私は服とファンでいてくれた店主へのお礼で

やってただけだからこの2つは私からしたらおまけみたいなものだし」

エド「そ、そうっすか。じゃあ、ありがたく貰うっすね!」

ノール「それより草加に向かった方がいいぞ。

お嬢様、変な男に付き纏われてたし」

エド「はぁ⁉︎そういうのは早く言えっす!

それなら俺はもう行くっす!」

エドはノールに背を向けすぐさま駅に向かっていった。

ノール「…私も嫌なやつだな」


ハノウ「お〜い、そろそろ起きろ」

フラット「ん…おろ?」

ハノウ「デ・ロワーまで送ってやるからさ。

本当にお前は酔いやすいやつだな」

フラット「お願いしますぅ…」

ハノウ「やれやれ…とんだ可愛い寝顔だな」


浅草公園ー

ペーター「ん?作業途中なのに誰もいない…?

まさかサボりでも?」

スラリア「あれ〜?誰もいないの?」

ペーター「スラリア。どこ行ってた?」

スラリア「あたしは草加で足りない材料を

買いに行ってたんですけど…あ、そうそう!

ノールと偶然同じ電車に乗ってました!」

ペーター「そう…か。まあもうすぐ帰ってくるだろ」

キィィ…と、浅草公園の前に1台の車が止まった。

ペーター「?誰だ?」

ハノウ「やっ、久しぶり、ペーター君」

ペーター「ハノウ!どうしたんだ?」

ハノウ「いや、この子をね」

フラット「スゥー、スゥー」

ペーター「フ、フラット君⁉︎」

ハノウ「隊長だからって任せっきりはどうかと思うぞ」

ペーター「はぁ⁉︎何の話だ⁉︎」

ハノウ「お前じゃなくてだな。君…って1人だけ?」

ノール「ただいま…?なんだ、お嬢様は

もうお帰りですか」

スラリア「だからあたしはお嬢様じゃなくて、

ただの女の子だってば!」

ハノウ「…これじゃあ匙投げても仕方ないよ」

ペーター「あぁ、1人でこれをどうにかするのは…

フラット君でも不可能だな」

ハノウ「でも、戦闘の時にはまとめあげられる。

ちょっと面白いな、そういう集団」


草加ー

エド「クレア!やっと来たっすね」

クレア「銀座からじゃ乗り換えだしな。で…

何でまた草加に来いって」

エド「スラリアが草加で降りたって情報を得たっす。

ケンカの線は消えたっすけど、スラリアの位置情報ー」

クレア「なら俺じゃなくてバジーを頼れよ。

俺からはお断りだがな」

エド「あっ…って、無理っすよ!まだバジー…

ショックでトリップ中っすから」

ドベルガ「な、何かあったんだな?」

クレア「いや、俺は断じて悪くねぇ!元はと言えば

勝手に俺に好意を抱いたバジーのせいだろ!」

エド「もしくはキッパリと言い過ぎたフラットのせいって

言う気っすよね。まあ…クレアは何もないっすね」

ピロロン!ピロロン!

エド「あ、電話っす!もしもー」

ペーター「君達!早く帰ってこい!」

クレア「うわっ、久々にキレてる!」

エド「は、早く帰んないと大爆発っす!」

ドベルガ「ぼ、僕は?」

エド「ペーターさん、スラリアはー」

ペーター「もういる!早くこい!早くだ!」

それだけ告げるとペーターは通話を切った。

ドベルガ「……」

クレア「す、すまん!時間…無駄にしちまった」

ドベルガ「い、いや無事ならそれでいいんだな。

そ、それなら僕は帰るんだな」

エド「クレア、早く帰るっすよ!」

クレア「あ、あぁ…」


浅草公園ー

エド「本当にすみませんっす!」

クレア「勘違いしてつい…」

ペーター「そこじゃない。バジーの件、

フラット君に責任転嫁したと聞いたが本当かい?」

クレア「なっ、別に俺のせいじゃねぇだろ!

フラットがあんなキッパリと言ったせいで

傷付いただけだろ?それにー」

ペーター「それだけじゃない。フラット君の静止も

聞かずに飛び出したそうじゃないか」

クレア「そ、それは…」

ペーター「隊長命令もろくに従えないとはな」

エド「俺は何もないっすよね。じゃあ謝ったことっすし

イベントの準備でもー」

クレア「おい、裏切る気か⁉︎」

エド「裏切るも何も俺、な〜んもしてないっすもん。

説教はクレアだけっすよ」

ペーター「そういうことだ」

クレア「ガーン!」


ノール「で、フラットは?」

スラリア「さあ…そういえば見てないね」

ハノウ「君達、ペーター君が呼んでたよ」

ノール「えっ…」

スラリア「何だろ…嫌〜な予感」

エド「あっ、2人とも、覚悟しといた方がいいっすよ?

クレアがカラッカラっす」

スラリア「カラッカラ…?」

ノール「たっぷり絞られたってことか…私達も?」

エド「あの笑顔はそうっすね」

スラリア「お説教とかやだよ〜」

ノール「まったく、私まで説教とは」

エド「あっ…」

ノール「あっ?」

エド「2人とも、ご愁傷様っす。そ、それじゃ!」

スラリア「?何でまた同情なんか…」

ノール「…わっ⁉︎ス、スラリア…う、後ろ…!」

スラリア「後ろって何ー⁉︎ペ、ペーターさん…えっ、

え〜っと?あたし、何か悪いことしました?」

ペーター「2人してだ。伝言なしで作業を抜け出すなんて

ありえないぞ!」

ノール「うっ…伝言は…?おいスラリア、たしかお前に

伝えておいたはずだったが…」

スラリア「あ、あたしだってエド君に伝えたよ⁉︎」

ペーター「えっ?」

エド「ギクっ!」

スラリア「と、いうことは…」

ペーター「エ〜ド〜く〜ん〜?」

エド「…ここは、逃げるが勝ちっす!」

ペーター「あ、こら逃げるなエド!」

ペーターは逃げたエドを追っかけに行った。

ノール「…なんだその…疑って悪かった」

スラリア「いいよ、あたしもドライバー持ったまま

お出かけしちゃったわけだし…エド君に悪いことしちゃったね。

こっちの方が悪いのに」

ノール「エドは伝言を忘れただけで、私達は

買い物したさに出かけただけ」

スラリア「…フフッ」

ノール「アハハハ!」

ノール&スラリア「アハハハハハ!」


夕方ー

クレア「あっ……黄昏が気持ちいい…」

ノール「クレア、大丈夫か?」

スラリア「それより、フラット来なかったね」

エド「ふぅ、何とか逃げ切れたっす」

スラリア「逃げてきたんだ…まぁ、オフィス入ろ?

やっと準備も終わったわけだし…」

スラリアはそう言ってオフィスの扉を開ける。

クレア「や、やっと座れる…天国…」

ノール「ん?あ、フラット…?寝てるのか」

エド「…気持ちよさそうっすね」

スラリア「こんな顔…するんだ…今思えば、フラットに

頼りきりだったね、あたし達…」

ノール「…少しは自分達でやれることはやるか。

いくらフラットとはいえ、限界だってあるのは

当たり前だもんな」

クレア「あぁ…夕焼けが優しい…」

エド「なんかクレアが真っ白に見えるっす…」

ペーター「エドく〜ん?」

エド「へ⁉︎あ、えっ…あはは〜…逃げるっす!」

スラリア「ちょっとここ⁈」

ノール「危ない!」

慌てたエドは高さ10メートル以上もあるファイター課の窓から

飛び降りてしまった。

クレア「ふぁ〜…神業・竜巻」

エド「あれ…?」

ノール「ハァ〜…焦った焦った」

スラリア「もう…」

ペーター「もういいよ。それより、キエさんは?」

ノール「今日はシフトで来ないって昨日言ってたぞ」

ペーター「そ、そうだっけ?」

スラリア「あ、その時はいなかったじゃん」

ノール「…あぁ、そうだった」

エド「そろそろスターが帰ってくるそうっすよ」

スラリア「そっか、今日だっけ」

ノール「準優勝だっけ?」

スラリア「違うよ、優勝!もう、準優勝は

函館学園でしょ?」

スター「ただいま!見て見て!金のトロフィー…?」

エド「は、早いっすね…」

スター「デ・ロワーの前で電話したんだから

普通だと思うけど…?それより何でフラット寝てるの?

で、何でお兄ちゃんは真っ白なの?」

エド「あ〜…えっと、フラットは疲れて眠ってて、

クレアは説教うけてヘロヘロなだけっすよ」

スター「説教…?何かしたの?」

ペーター「まぁ…色々とね。それより元気そうだね、

コンテストで疲れてるかと思ってたけど」

スター「うん、だって楽しかっただけだし疲れる理由も

ないよ?トロフィーも貰えたし!」

スラリア「あっ、それ持ってきて良かったの?

そういうのって部室に飾るものじゃ…」

スター「うん、明日飾るんだ!今日は自慢のために

持ってきただけだもん!」

ノール「で、スターは音楽イベントどうする?」

スター「えぇ⁉︎ライブやるの〜?スターは公欠した分の

授業受けないといけないし…」

スラリア「それもそうだよね。じゃああたし達で

やろっか。スターちゃんも忙しいだろうし」

ノール「お嬢様でも気遣いぐらいはできるんだな」

スラリア「ノール……ふん、もう絶交!」

ノール「私からしたら本望だ。絶交でいいぞ」

エド「ちょ、スターの前でそんなケンカはダメっすよ!

悪影響っすよ!」

ペーター「そうだ、みっともないしやめろ」

スラリア「あたしじゃなくてノールに言ってください!

ノールから始めたことなんで」

ペーター「やれやれ…ナックラーがいなくなってから

チームワークがズタズタだ」

フラット「スゥー…スゥー」

ペーター「フラット君だけの問題でもないか。

こればかりは…アイツを呼ぶか」

ガタン‼︎

と音を立ててフラットが起きた。

フラット「あれ、寝てました⁉︎」

ノール「あぁ、ぐっすり」

フラット「そ、そっか、ごめん…?クレア、大丈夫?」

クレア「あ、茜色が…美しい」

フラット「ほ、本当に大丈夫?なんか悩んでるならー」

ペーター「フラット君、説教しただけだよ。

心配はいらないから」

フラット「説教って、何かしたんですか?」

ペーター「何かって、君が愚痴をこぼしたって…」

フラット「愚痴…?あぁ、おやっさんに言った?

あれは大袈裟に言っただけですよ」

ペーター「お、大袈裟?」

フラット「だからそんなに気にしてないですよ。

まあ、言っといてくれたならありがたいですけど」

ペーター「わ、悪いことしたかな?」

フラット「いや、クレアにはいい薬かと」

スター「ふわぁ〜…スターもう帰って寝るね。

おやすみなさ〜い」

スラリア「あ、おやすみ〜」

ノール「結局疲れてるんだな」

スラリア「疲れてるっていうよりは気持ちいい疲れじゃないかな?

ほら、楽しいことやって疲れると心地いいでしょ?」

ノール「あぁ、お嬢様じゃないと分からない理論だな」

スラリア「分からなくないでしょ!」

フラット「ま、まあまあ…」

ノール&スラリア「フラットは黙ってて!」

フラット「は、はい!」

ペーター「こりゃダメだな」

しばらくの間、オフィスで2人の言い争いが続いた。


3節 ライブ開演‼︎


イベント前日ー

フラット「リハーサル終了!お疲れ〜」

スラリア「お疲れ様〜。いよいよ明日だね!」

クレア「あぁ、そうだな!」

エド「う〜っ!楽しみっすよ!」

ノール「それよりキエさんと歌えるからって

緊張するなよ」

フラット「流石に大丈夫…だと思うけど…」

キエ「どうも〜!」

フラット「キ、キエさん!」

キエ「すみません、少し遅れちゃいました」

フラット「いえ全然お構いなく!こちらからのオファーですので

好きにやってもらって!」

ノール「…そういうことか」

クレア「?そういうことって何だよ」

ノール「フラットがキエさんを呼んだ理由だ。

ファンとしてもって理由じゃなく、本当にフォールを

呼び戻す気だな」

クレア「は?」

ノール「知らないか。キエさんもフォールと同じく、

魔よりの神魔族。彼女ならフォールにまた夢を

見せられると思ってるのだろうな」

クレア「んな簡単に済む問題とは思えないけどな」

ノール「あのフラットだ、打開策はあるはずだ」

フラット「ないよ?」

クレア「どわぁ⁉︎聞いてたのか」

フラット「いやぁ〜、ただコラボできたらなぁって思って

オファーしたらオッケー貰えたってだけでそんなに深い意味はないよ」

ノール「そ、そうか。お前のことだからてっきり何か

意図があってやってるかと思ったが…」

フラット「策士家じゃないよ僕は。まったく、

僕を何だと思ってるの」

クレア「言い始めたのはノールだ、俺は無関係だぞ」

フラット「だとしても納得したのはクレアでしょ、

同罪だよ同罪!」

クレア「い、いや…お前のことだからな?俺の予想を

くつがえす考えもしてて当然ってな?」

フラット「何が当然なのさ!まあいいけど。

それより早く楽屋に来て。最後に打ち合わせするから」

クレア「お、おう」

ノール「じゃあエド達にも声かけないと」

フラット「あ、先に声かけたから2人が最後だよ」

クレア「げっ…てことは…」

フラット「既にミーティングの時間過ぎてるから」

ノール「そういうのはもっと先に言え!

さっさと行くぞ、クレア!」

フラット「もう、こういう時に限って…」」


楽屋ー

スター「あっ、皆来た」

キエ「皆さん、今日は本当にすみません!あの、完全に

言い訳なんですけどー」

スラリア「電車が遅れたんでしょ?あたしは

知ってるよ、暴走しかけて点検入ったって」

キエ「そうなんです!私、ライブの日が近づくと

運が悪くなっちゃって…」

ノール「あぁ、そういうのある。私も本番直前に

よく転ぶから」

クレア「そうそう、おかげで幕開いた時に

お客さんの目に最初に映ったのはー」

ノール「クレア、それ以上言うなら息の根止めるぞ」

クレア「じょ、冗談だ、言うわけねえだろ⁉︎だからそのナイフ降ろせ!」

ノール「はいはい、クレアの冗談はお嬢様並に

分かりにくいからな」

フラット「あのさ、キエさんの前だよ?少しは落ち着けないの?」

キエ「あぁ、お構いなく!私、仲のいい雰囲気大好きなんで!」

フラット「仲の…良い?これが?」

荒々しくなった雰囲気をフラットはもう一度見直してみた。

フラット「あの…仲の良いように見えて?」

キエ「はい…?」

フラット「いや、まあ感受性なんて人それぞれだし、なんも問題ないか、

アハハハ…アハハハハハ」

エド「すみませんっす、ミーティングの時間っすよね!」

フラット「あ、やっと揃った。それじゃ、

早速ミーティング始めるか」


ミーティングー

フラット「で、まず第1幕で3曲。その曲は

“good morning”、“出逢う”、“流れ流れて”の

3曲でいい?」

クレア「2曲目は“出逢う”じゃなくて“虹色”の方が

良くねえか?」

フラット「“虹色”はスターのピアノが主旋律。今回は無理だよ」

クレア「そ、それもそうか」

エド「第1幕はそれでいいと思うっすよ」

ノール「異論はない」

スラリア「あたしも特に」

フラット「じゃあ第1幕はこれで決定、と。じゃあ、第2幕の4曲に

話を移して…“風の中で”、“朧月おぼろづき”、

“真冬のラララ”、“零れ桜”で良いですか?」

ノール「異論あり!“朧月”は時期にあってない」

スラリア「あたしもそう思う。いくらデビュー曲とは言っても

季節にあった曲をやろ?」

クレア「何言ってんだ、俺達のデビュー半年記念だろ、このライブ」

フラット「ちょ、クレア!それは言わないでよ!」

エド「えっ?言っちゃダメっすか?」

フラット「あ〜もう!本番で言おうと思ってたのに」

スラリア「そっか、もうそんなに経ったんだ…」

ノール「あっという間だったな」

エド「でも、活動したのはまだ両手で数え切れるほどっすね」

フラット「…ん゙、ん゙ん゙」

スラリア「あっ」

ノール「話脱線してたな」

フラット「じゃあもう1度聞くけど異論はありますか?」

ノール「なしだ」

スラリア「うん、あたしも」

フラット「…じゃ、最終幕の4曲。“ファンファーレ”、“心へ”、

“未来への扉“、”伝えたい言葉“。異論は?」

全員「特になし!」

フラット「じゃあ、これで決定」

キエ「は、早いですね。潤滑…」

フラット「いつもこんな感じですよ。まあ、

ミーティングが終わったらー」

クレア「じゃ、今日はゲーセンでも行くか」

ノール「私は食事でも」

スラリア「あたしはショッピング〜」

キエ「えっ、えぇっ⁉︎勝手すぎませんか⁉︎」

フラット「あぁ、今日は解散ですよ。前日は軽〜くリハーサルして

解散なんですよ。その後は自分の好きな時間を過ごして

心をスッキリさせる。これが僕達なりの前日ですよ。

じゃあ、エドはここで寝るので出ていった方がいいと思いますよ」

キエ「いや、もう寝てますよ」

フラット「あちゃ、じゃあさっさと出ていった方が。

エド、寝起きちょっと機嫌悪いので」

キエ「そ、そうですか」


翌日、楽屋ー

ノール「フフッ、ちょっと贅沢できた」

スラリア「あたしも新しい衣装用意できた」

クレア「いいストレス発散できたわ」

エド「疲れも全回復っす!」

フラット「うんうん、全員調子良さそうだね。

じゃあ残り30分、緊張してない⁈」

ノール「する理由がない」

スラリア「ちょっとかな、特に問題は無いよ」

エド「あとはチューニングだけっすよ」

クレア「俺も同じく。ただ弦を張り替えたいってとこか」

フラット「ピアノとドラム、ベースといないけど、

その点は気にしないでいいよ。本日からこの2人が

グループに入りまーす!」

クレア「2人…って誰だ」

フラット「じゃ、入ってきてくださーい!」

フラットの合図で扉が開いた。

セイ「はーい!日照セイでーす!」

デラガ「この期間だけだぞ」

スラリア「な、何このコンビ?」

ノール「何の脈略もないぞ」

フラット「セイちゃんはピアノ、デラガはドラム!この2人が代役を

こなせると思って推薦したんだ」

デラガ「まったく、急に言われたと思ったら楽譜まで渡してきて…

短期間でどう練習しろと。基本しかできなかったぞ」

フラット「いいよいいよ。後はアドリブでいいから」

セイ「私は余裕!記憶力には自信あるから」

スラリア「じゃあ、照明は任せといて」

ノール「映像の方も」

フラット「うん、大丈夫そうだね。それじゃ、

楽器のスタンバイお願い。僕は機材の最終確認しとくから」

エド「あっ、チューニング終わったら手伝うっすよ。

俺の腕の右に出るのはいないっすから!」

フラット「いいの?ただでさえ指とか慣らさないといけないのに…」

エド「大丈夫っすよ!俺は10分もあれば指慣らせるっすよ!」

ノール「私は客席の掃除でも」

スラリア「あたしはセットの安全確認するね」

クレア「悪りぃな」

スラリア「えっ?何でクレアが謝るの?」

クレア「そ、その…」


廊下ー

スラリア「はぁ⁉︎照明1つショートさせた⁉︎どこの⁉︎」

クレア「じゅ、11時の所…」

スラリア「よ、良かった…そこなら何とか直せるかも。

ケーベスとバジー呼んできて!」

クレア「わ、分かった!」


舞台ー

キエ「こ、ここで歌う…スゥー、ハァー…センターステージで

ずっと立つなんて……」

エド「大丈夫っすよ、失敗したってフラットが

リカバリーしてくれるっすよ」

デラガ「おい、ライブはそんなに甘くないぞ。お客さんはお金を払って

チケット買ってここまで来てるんだ。失敗は厳禁だ」

セイ「でも、失敗はアドリブで誤魔化せられるよ!

私もそうやって音楽やってるもん!」

キエ「…よしっ、心の準備も整った」


舞台裏ー

フラット「うん、アンプも問題なし、と。マイクも…音量に異常なし。

あとは映像だけっと。たしかこのディスクに…」

フラットはケースの中に入っていたディスクを取り出し、映像を流した。

しかしそれはー

フラット「へ⁉︎ちょ、これ…!ただの戦闘記録〜!」


舞台ー

エド「⁉︎な、何すか今の声⁉︎」

デラガ「舞台裏からだな」

エド「フラット⁉︎ちょっと抜けるっす!」


舞台裏ー

フラット「と、とにかくデ・ロワーに戻ってディスク持ってこないと!」

エド「フラット、何かあったんすか⁉︎」

フラット「あ、ちょうど良かった!今からデ・ロワーに戻って

ディスク取り替えてくるから留守番お願い!」

エド「えぇ⁉︎それ、間に合うっすか⁉︎」

フラット「何言ってんの、その間に機材の確認お願い!」

エド「りょ、了解っす!」

フラット「神業・飛翔!」


デ・ロワー

フラット「ハァ、ハァ…って、ウッソー⁉︎」

机の上にはこれでもかと言うほどに有り余る程のディスクが

ぐちゃぐちゃに散らばっていた。

フラット「こ、この中…?あ〜もう!何か書いときゃ良かった!」


客席ー

ノール「掃除終わり。それにしても、そろそろ開演時間というのに、

全然解錠指示が来ないな」

クレア「おーい、開けねぇのか?」

ノール「解錠指示が一向に来ないんだ。もう開始まで残り20分だ」

クレア「もう開けちまえ!待たせるわけにもいかねえだろ!」

スラリア「ね、ねぇ!ちょっと聞いて!」


クレア「はぁ⁉︎」

ノール「ディスクを間違えた⁉︎持ってきたのはたしか…」

スラリア「そう、持ってきたのは…」

2人がクレアをジーッと見つめた。

クレア「…俺、だよな…」

スラリア「今、急いでフラットが取りに行ってるけど…」

クレア「おい、あのディスク、何も書いてねえ!ちょっくら電話して

場所教えねぇと!」


フラット「えぇ⁉︎クレアの家にある⁉︎もう……自分で取りいけ!」

クレア「ひゃ、ひゃい!」

フラット「まったく!」

クレア「き、切れた…」

ノール「もう映像なしでやるしかないな。それにしても、

どこで戦闘記録と取り違えたんだ?」

クレア「い、いやあれ、戦闘記録じゃなくて…俺のゲーム記録なんだよな」

ノール「ゲーム…」

スラリア「…記録?」

ノール「お前……そんなのディスクに押さえるな!」

クレア「アデっ!」

スラリア「今回ばかりは幻滅…」

フラット「ただいま。で?どうすんの、映像」

ケーベス「映像ならここにあるぞ」

フラット「ケーベス…?」

ケーベス「スラリアに呼ばれて来たんだ。照明直せってな。

で、その映像記録ならこのパソコンの中にすぐ取り込める。なにせ、

デ・ロワーの情報ツールと同期してるからな」

フラット「それって…ハックじゃ…」

ケーベス「まあいいじゃねえか!同じ会社の情報を見るだけで

他者に渡すわけじゃねえし」

フラット「まあこの際何でもいいや!お願い、すぐ取り込んで!」

ケーベス「バッチこい!それじゃ、客は入れとけ。3分、

いや30秒で終わらせる!」

フラット「うん!じゃあ各自ステージに!」

クレア「お、おう!」

ノール「カメラ、まだ用意できてー」

スラリア「それはあたしがやっとくからノールは解錠してきて!」

ノール分かった、ってお嬢様に指図される筋合いはない!」

クレア「んなこと言ってる場合じゃねえだろ!」

ノール「そ、それもそうか」


10分後ー

フラット「ふぅ〜…ひと段落ついたね」

ケーベス「映像も間に合って良かったな。俺がいたことに感謝しろよ」

クレア「相変わらず頭が高いやつだな」

スラリア「まあ、おかげで何とかなったからお礼はしようよ。ありがとう」

フラット「あ〜ダメダメ。ケーベスにお礼したところで

な〜んもお返しないから」

ノール「今回の非はクレアにあるから私はパンフレットでも配ってる」

フラット「いや、それは入り口でコータスとスターが配ってる」

ノール「そうか」

スラリア「…フフッ、フラットも分かってるじゃん」

フラット「?何が?」

スラリア「あっ、いややっぱり何でもない」

フラット「じゃあ、そろそろセッティング!」

エド「もうできてるっすよ!」

フラット「じゃあ、恒例のあれ、できる?」

クレア「俺…だよな」

ノール「当たり前だろ!」

クレア「くぅ〜、嫌な役だ!やるぞ!1回だけだからな!」

フラット「いいから早く」

クレア「お、おう…」

恥ずかしそうにマイクを握り締めるクレア。

クレア「…パッと光れスポットライト!いざセントリステージオン!」

ノール「…クレア、電源入ってない」

クレア「えっ、ウソ…もう1回言うのか、俺が、今の⁉︎」

フラット「もういいよ。なんか罰ゲームっぽいし」

クレア「た、たのむ〜…」

フラット「よーし、じゃあ合図なしでいきなり入るよ。

準備はいい⁈」

全員「おーっ!」

フラット「盛り上がる準備はいい⁈」

全員「おーっ!」

フラット「弾ける準備もいい⁈」

全員「おーっ!」

フラット「じゃあ……いける⁉︎」

全員「イエース!」

フラット「よし、いくよ!」

デラガ「…ワン・トゥー!」


ランケール「フォール、やつらライブをしていますよ?」

フォール「ライブ…?ちょっくら見にいっとくか」


[澄み渡る 大空に かかる虹色 僕達の 出会いから

この今を 固結びする]

フォール「お、やってるやってる…?ベースいない…?

ったく、この曲の主旋律はベースだろ…しょうがねぇなぁ、

いっちょやってやっか」

クレア(?この音…ベース⁈どこから⁉︎」

ノール(気になるが…今は集中集中)

スラリア(気にする暇がない!照明をやらないと!)

ケーベス「この場合、行けるのは俺のみか…音がする方向は…

屋根からか…?」


屋根上ー

ケーベス「よっと…あ?これ…アンプ?しかも遠隔操作とは…

電波発信源は…何だよこれ⁉︎こんな文字、見たことねえぞ⁉︎」

フォルディン「この文字は魔族の文字だ。わしなら解読できるぞ。

ただし、あまり詮索するのはよした方が良い。その場所は、

第五次神魔戦争の最終決着場所。

最凶魔族と最高神が封印されておる。お主のような人間が行けば

精神は乱れ、心身は壊れ、そのうち死ぬぞ」

ケーベス「ほう、死ぬと。残念だが俺は死ねない身だ、つまり永久に

壊れた生のまま、か。それだけはごめんだ。どうすれば

そこに行けるんだ?」

フォルディン「正負翼を持つ者しか入ることは許されぬ。あやつは

あの若造を呼んでいるようじゃ」

ケーベス「やはり、フラットか。だが、アイツがそう易々と

ライブを抜け出すわけねえ」

フォルディン「そうじゃな。それはあやつも存じておるだろう。

あの楽器を奏で続けておるはずじゃ、あの若造が来ると信じて」

ケーベス「…そうか」


演奏後ー

フラット「それじゃ、僕もう行くね!」

エド「あ、俺も行くっす!」

フォルディン「待て。行くのはこやつだけじゃ。他の者は

行かせるわけにいかぬ」

フラット「フォルディン…」

フォルディン「細かい話はそやつに聞け。わしはもう寝る」

フラット「あ…戻っちゃった。まあ、そういうことだから

ケーベスから話聞いて!」

フラットはそう言うと、フォールの待つその場所へ向かう。


虚無の獄ー

フォール「来たか」

フラット「やっぱり聞いてたね。どうだった?」

フォール「感想は…勝負で語らせてもらう!」

フォールはフラットにむかって術を仕掛けた。

フラット「っ!神業・土壁!」

一瞬の隙さえ与えず、フラットは反撃に出た。

フラット「神業・急成長!」

枯れた根がフォールを縛り付ける。

フラット「…で?」

フォール「おいおい、短気になったな」

フラット「いや、お前に言われたくないって」

フォール「…思い出したか。俺もお前も、あのキエも、この時代に

飛ばされた者だってこと」

フラット「ずっと前からそれには勘づいてた。もうこの時代には

存在しない正負翼。神でもあり魔でもある存在。そして、第五次神魔戦争を

引き起こした存在。だから封印された。最高神ゼウスと、

最凶魔族と呼ばれたサタンの間に生まれた者と共に」

フォール「あぁ、だが俺達はそれを免れた。奇跡とは思わないか?

今なら仲間を助けられる。もう2度と…自分をひがみ、恨むこともない」

フラット「そうだね、悩むこともない」

フォール「だろ?堕天使と呼ばれずに済む。だったらー」

フラット「でもね。僕には仲間より大切な“友達”がいる。

だから、いいんだ」

フォール「なっ…お前は助けられる命を見捨てるのか⁉︎」

フラット「そうとは言ってない、フォールはその後、この命を使って

戦争を起こすに決まってる。僕は賛同しないよ、絶対!」

フォール「悔しくないのか⁉︎こんな偽りだけで塗りたくられた

この世界を変えたくないのか⁉︎」

フラット「だからといって、何をしてもいいってわけじゃない。

そんな世界にだって、“本物”が散らばってるんだから」

フォール「本物…だと?」

フラット「フォールは僕達の今までを偽りだって言える?

偽りの生を過ごしてたって言える⁉︎」

フォール「…あぁ、言えるとも。だから俺はお前を待っていた。

この答えをお前の目の前で繰り広げるために!

さあ、壊すぞ!この偽りだけの世界を!

最終暗黒『邪悪』術・『天魔復活之宴』!」

フラット「うわっ!」

空が割れ、1つの雷が荒れた谷に落ちた。すると谷から光と闇が

一気に溢れ出した。

フラット「ま、まさか…!」

フォール「これで…いい!その力、俺によこせ!この地を正し、

偽りのない世界を作り出してやろう!」

フラット「まずい、閉じないと…!ダメだ、この場所じゃ僕の術はー」

スター「フラットォ!」

フラット「スター⁉︎そっか、スターの力なら…!」

スター「フラット、逃げるよ!」

フラット「えっ⁉︎」

スター「あっちこっちで異変が起きてるの!」

フラット「で、でも…」

スター「…とりあえず来て!神業・夢現!」

フラットを眠らせ、スターは神器で運んでいく。


最終節 宣戦布告


ヴィオラ号ー

フラット「…ん?」

クレア「ヤベェ…東京どころか世界規模で魔獣が出現してるそうだ!」

ノール「東京の方は被害は抑えられてるが、銀座が落ちたか…」

スラリア「…あ、追加情報!新宿、原宿、鶯谷も…反応消滅…」

スター「…あっ、フラット!起きたんだ」

フラット「…」

ケーベス「緊急事態だ。東京こそ被害が抑えられているが

他の地域はそうもいかない。神魔軍とでも呼ぶか、やつらが

日本の28%を占拠した」

フラット「……」

コータス「たった15分のことだ。世界規模だと19%だが、

これでも被害は甚大だ」

フラット「フォール……」

メダイ「それに…封印されてた神魔族も蘇って大暴れしてるみたい…

まるで第五次神魔戦争の光景を繰り返すように…」

フォルディン「お前、これでもやつを仲間と信じるつもりか?」

フラット「……ペーターさんは?」

クレア「今は操舵室に」

フラット「ちょっと行ってくる」


操舵室ー

フラット「ペーターさん、入ります」

ペーター「…フラット君」

フラット「知ってたんですよね?こうなること。だって、フォールが

どうなってもペーターさん、特に反応せず、まるで知っていたかのように

対応してて…」

ペーター「…あぁ、知っていたよ。ただ、ナックラーがああなるとまでは

知らなかったがね」

フラット「だったら何で…何で見過ごしたんですか⁉︎」

ペーター「どう足掻こうと、彼は既に真実を知ってしまった。

こうなるのは致し方ないということだ」

フラット「そんなの…ただの可能性の話でしょう⁉︎そんな結果だけ信じて、

行動を起こさなかった!それは違うでしょう⁉︎」

ペーター「何が言いたいんだい?」

フラット「やってみなくちゃ分からないことを可能性だけを信じて

やらなかった!そのせいで…」

ペーター「…フラット君は彼の意が正しいと思うかい?」

フラット「…正しいかどうかは自分で決めるもの。

他人が決めつけるものではない。だとしても…こんなの…!」

ペーター「本当、どうやったらこんなにも似るんだ。

血も繋がっていないのに」

フラット「えっ?」

ペーター「フラット君。伝える時が来た」

フラットの肩を右手で握りしめてペーターは厳しい顔をしてそう言った。

ペーター「なぜ君とフォール、そしてキエの3人を封印させず

この時代に連れてきたのか。それは、この結果を成就させるためだ」

フラット「…は?」

ペーター「フォールからも聞いただろう。この世界は偽りだらけだと。

俺も残念ながらその通りだと言えてしまう。この地球を支配している

地球連合は偽りだけで作られた組織と言ってもいい。中には魔族が

潜んでいる。そして厄介なことに血鬼7人衆も地球連合に属していた奴等の

集まりだ。つまり、敵意を持つやつが密かに忍んでいるということだ」

フラット「じゃあ…」

ペーター「フォールが言っていることもあながち間違っていない、が。

かと言って正しいとも言えないけど」

フラット「ほぉ〜、安心した〜」

ペーター「まさか俺がフォールに賛同したとでも思ってたのか?」

フラット「だ、だって口調的に…」

ペーター「ハッハハ、ちょっと厳しく言いすぎたかな?でも、ここに

入ってきた時の君の表情の方が怖かったけどね」

フラット「えぇっ⁉︎」

ペーター「ふぅ、やっと硬い表情が直ったね。とにかく、君は

フォールをどうするか。これだけを素直に考えてほしい」

フラット「…了解しました!では、僕はこれで失礼します」

ペーター「あぁ、操縦の方は任せとけ」

フラット「はい…あ、そういえばヴィオラ号の操縦ってバジーの仕事なのに

どこにいるんですか?」

ペーター「バジーならまだショック中だよ」

フラット「あ〜…まだ…」

ケーベス「失礼すっぞ。魔獣の軍政は一斉に退避。帰還した方がいいぞ」

ペーター「そうか、じゃあデ・ロワーの格納庫に直行するか」


格納庫ー

コータス「はぁ、とりあえず帰って来られた〜」

バジー「あ、皆様、お帰りなさい…」

ケーベス「あちゃ〜、先輩、そんな顔似合わないって。

ほら、ちょっとは笑顔」

クレア「あ、そういやケーベスも金髪でちょいワルの顔だよな」

フラット「そう考えるとケーベスって女性ウケ良さそうだよね」

スラリア「そうそう、絶対モテるのに」

ケーベス「おいおい、俺は付き合えないぞ。分かってるだろ」

フラット「あ、そうだったね」

メダイ「ケーベスは恋とか経験したくないことフラットなら

分かるでしょ」

フラット「いや、ね?でも、バジーとケーベス…か。

ちょ〜っとなんか違うっていうか…」

ノール「どうでもいいけどどいてくれる?出口でつかえて

出られないんだが」

フラット「あ、あぁごめん!」

コータス「おいフラット。少し付き合ってほしいんだが…」

スター「えっ、あ、コ、コータス⁉︎」

コータス「ちょっとだけだ。少し修理の必要な箇所が

あってさ。頼む!」

フラット「別に全然いいよ。にしても、コータスが

こんなに仕事熱心になるとは。良いこと良いこと」

コータス「うっせぇ。早く来い」

フラット「はいはい」

スター「あっ…」

スラリア「…スターちゃん。行きたいなら行ってきなって。

損しちゃうよ?」

スター「…スラリアお姉ちゃん…うん!行ってくる!」

エド「うわっ!」

スター「あ、ごめんねエド!でも急いでるからまたね!」

エド「ど、どうしたんすか?忘れ物でもしたんすか?」

スラリア「ううん、もう少しで忘れるとこだったって感じかな」

エド「?どういうことっすか?」

メダイ「恋路は険しいんだよ?」

エド「ますます意味不明っす…」


メインエンジンー

フラット「あちゃ、メインエンジン1個壊れてるじゃん!

流石にこれは無理だね。パラレルストーン使ってるし…」

コータス「いや、今はエネルギー変換装置は切ってある。

今なら神力に反応することはないだろうし、頼む!」

フラット「え〜、それ博打でしょ?僕はちょっと…」

コータス「大丈夫、暴走してもほんのちょいだし」

フラット「い、いや…コータス達は整備課なんだしこれぐらいは

チョチョイのチョイでしょ?」

コータス「これに使ってんの結構貴重な金属なんだよ、頼む!」

フラット「じゃあ余計に無理!直したところですぐまた壊れるよ。

僕の術だってそこまで都合が良いようにはできてないから」

コータス「何だよケチ!ここまで頼んでんのに拒否かよ!

もういい、ちゃんと直しますよ!」

フラット「なっ、何それ⁉︎僕は拒否じゃなくてちゃんと直せって

言ってるだけだけど⁉︎」

コータス「それがめんどいからお前に頼んでるんだぞ!」

フラット「さっきも言ったでしょ、僕の術で直してもすぐ壊れるって!

少しはちゃんと話を聞いたらどう⁈」

スター「うわっ、どうしよう…喧嘩になっちゃってる…」

メダイ「スターちゃん、ここは私に任せといて」

コータス「ったく、お前に頼んだ俺がバカだったな」

メダイ「ちょっとコータス?今の言葉はどうかと思うけど?」

コータス「メダイ、聞いてたのか?」

メダイ「何でもかんでもフラットに頼るのはどうかと思うけど?

それに、フラットの神業で直せたとしてもこんなレアメタル、

耐久力までは直せないよ!」

コータス「んなのどうでもいいだろ!」

メダイ「よくないでしょ!」

スター「…メダイお姉ちゃん!その辺でやめてあげようよ!

ちょっと……可哀想になってきた」

メダイ「でも…悪いのはコータスだし…」

スター「でもケンカは良くないよ!」

メダイ「そ、そうだね…しょうがない、私は先に」

フラット「手伝う義理も無くなったし僕も戻らせてもらおっと」

スター「ちょ、あ…!ス、スターも行くね…そ、その…気にしない方が…」

コータス「…すまんな、ダセェとこ見せちまった」

スター「えっ…」

コータス「はぁ、どうしてこんなにすぐ切れちまうんだろうな」

スター(は…初めて見た…こんな寂しそうなコータス…)

コータス「あ、あぁ。足止めちまったな」

スター「ね、ねぇ!スターに手伝えることがあるなら何でも言って!」

コータス「…いいのか?」

スター「うん!今日からまたスター暇になっちゃったし」

コータス「…ただなぁ」

スター「…ただ?」

コータス「少女には、ちょっと無理な仕事だな」

スター「そ、そんなことないもん!」

コータス「流石に女の子に重労働はさせられねえって。そうだな…

じゃあ少しばかりここにいてくれるか?」

スター「えっ…それって…」

コータス「いや、俺ここで1人きりの作業はしたことないし、

ちょっと風が吹き抜ける音が怖いんだ」

スター「こ、怖いの?」

コータス「ハハハハ、だから言っただろ?女の子には無理だってな」

スター「む、無理なんかじゃないもん!いいよ、残る!」

コータス「本気か?ならちょっと頼む!」

スター「うん!」


デ・ロワー

フラット「はぁ…」

クレア「珍しいよな、お前がケンカすんの」

メダイ「でも悪いのはコータスだから。フラットには何の非もないよ」

スラリア「ねぇ、ちょっとは現状のことを気にかけようよ!」

ノール「気にかけてどうすんだ。それで解決できる問題じゃないだろ」

ペーター「そういうことだ。あ、それと四大グループの方も

ようやく懲戒処分が済んだようだ。早速今日呼んだが来ないな。

悪いが探してきてくれないか?」

フラット「分かりました、デ・ロワー総員で手分けして探してきます」

クレア「え〜、俺も行くのか〜?」

エド「当たり前っすよ!四大の力があれば百人力っすよ!」

ノール「だが神業を使えないほどの神力だ。百人力とも言えないだろう」

スラリア「あ〜もう!あれこれ言ってる暇あるなら早く行こ!」

クレア「それもそうだな。よし、今日は風もあるしすぐに見つかるだろ」


浅草公園ー

フラット「…どこにもいないね」

ノール「…いた!」

フラット「えっ?」

ベングル「……」

フラット「ベングル…僕が行くよ。ノールは待ってて」

ノールを置いてフラットはベングルが佇むベンチに向かった。


フラット「べ〜ングル。久しぶり!」

ベングル「!フラット…」

フラット「どうしたの?元気なさそうだけど」

ベングル「…俺さ、ファイターやめた方がいいのかなってな」

フラット「えっ⁉︎やめるって何でまたいきなり…」

ベングル「お前達はいいよな、実力もあって指示もあって。

俺達はファンも職場もパーで、自信もねえよ」

フラット「…こう言うのもなんだけど、

バトラーも似たようなこと言ってたな」

ベングル「は?俺の前では絶対にそんな顔…」

フラット「僕の前でだけだよ。もうずっと前のことだけど…」


高校時代ー

ナックル「なあフラット。俺さ、ファイター向いてねえのかな?」

フラット「えっ?運動神経よくてやる気もあるバトラーが?

そんなわけないじゃん!僕が保証するよ!バトラーはこれ以上にいない、

最高のファイターだよ!」


フラット「でも、ベングルはそれ以上だよね…とりあえず、

デ・ロワーに行こ?まだこの時期、冷えるし、ね?」

ベングル「……」

少し躊躇してベングルはベンチから立った。

フラット「ほら、行こ!大丈夫、誰も責めたりしないから!」

ベングルにスッと手を差し出し、フラットはニッと笑った。

ノール「責めるも何も、あれは私達でもどうにもできなかった。

力のない者が助けられているのに、助けられないと恩を忘れたかのように

暴言や不満の声。だったらお前達ならどうなんだと聞いてみたいものだが」

フラット「同感。自分達じゃできないことをまるでできるかのように

責めるなんて…ねぇ?」

ベングル「だが俺達が力不足なのは他でもない事実だ。情けねぇ…」

フラット「ま、まあ帰ろ?他の2人もそろそろ…」

ベングル「ダンステードならデ・ロワーに向かってる。

アイツはいつも通りだ」

フラット「そっか、そ、それよりさ、ノール…」

ノール「あぁ、お前もか…」

フラット&ノール「寒い!」

ベングル「あ、お、俺も行く」

フラット「うん、じゃあ後はライだ。そっちは簡単そうだね」


浅草寺ー

クレア「ここにライがいるらしいが…流石は忍者。これ以上は風でも

知らないときたか」

スラリア「じゃあ嫌でも引きずり出せばいいんだよ!神業・轟音!」

ライ「ウワァァァァァ!騒がしいでござる⁉︎」

スター「ちょ、うるさい!」

スラリア「ご、ごめん!やりすぎた!」

クレア「み、耳ぶっ壊れるかと思ったわ」

ライ「き、貴殿らでござったか、迷惑になるでござるよ」

スラリア「ご、ごめんなさい」

ライ「おかげで拙者の心の乱れが戻ったでござる」

スター「やっぱり不安だよね…スターもちょっと怖い…何が起こるのか…

分かんなくて…」

クレア「ていうか、やけにエドが静かだな…あ!」

バタリとエドは倒れていた。

スター「あ〜…さっきの音だよ。エドみたいな人種はこの世界の人より

2〜3倍は聴力がいいみたいだから」

スラリア「…本当にごめん。忘れてた」

ライ「もう良いでござる。拙者も立ち止まる暇などありはしないでござる」

スター「とりあえずエドは兄ちゃんが運んでよ。女の子には

荷が重すぎるでしょ?」

クレア「こういう時には女の子って…まあいいや。よいしょ…」

ライ「先に参ってるでござるよ」

スラリア「ちょ、少しは待ってー」

ライ「はやての術!」

スター「キャッ!」

風のようにライは木からビルの屋上へ、そして遠くのビルの屋上へと

走り渡っていった。

クレア「ったく、せっかちなやつだな。こっからデ・ロワーまでは遠いし

俺達も風で帰ろうや」

スラリア「クレアもせっかちじゃん」

クレア「コイツが重いんだ!」

スター「でもあれ、ゴロゴロして気持ち悪いよ〜!」

クレア「お前の夢の中を歩くよりはよっぽどだっての!」

スター「あれは体がフワフワして気持ちいいでしょ!」

スラリア「えっ、あたしに聞くの⁉︎ま、まあ…あたしもそう思うよ?」

スター「ほら、兄ちゃんがおかしいんだよ」

スラリア「ごめ〜んクレア」

クレア「…じゃあもう自由に帰ればいいだろ。俺とエドは風で帰る」

スラリア「じゃ、じゃああたし達は歩いて帰ろっか。ね、スターちゃん?」

スター「神業・ドリームゲート」

スラリア「ス、スターちゃん?」

スター「ほら、行こうよ!こっちの方が早いよ」

スラリア「あ、あぁ……イヤァァァァァ!」


フラット「?今何か聞こえたような…」

ノール「虫か何かだろ。それにしても、ダンステードのやつ、

どこにいるんだか」

フラット「とにかくそれはペーターさんに任せてこっちは

ライ達を待ってよっか」

クレア「その心配は無用だっての。で?スラリアとスターは?」

フラット「?まだ来てないけど」

ノール「あと…何でエド倒れてんの?」

クレア「スラリアの音がな…ちょっとコイツには大きすぎたみたいだ」

フラット「あ〜、そういうね」

スター「よっと。ただいま〜!」

スラリア「ちょ、ちょっと誰か〜…」

クレア「で、ライは?」

ライ「拙者なら、1番に着いていたでござる。

ただ誰にも気づかれなかったでござる〜」

フラット「そりゃ壁に擬態してたら気付くわけないでしょ」

ライ「ちょっとした冗談でござる。拙者も少しはボケたいでござる」

ベングル「今帰ったぜ。ダンステードのやつ、どこ行ったんだ?」

フラット「あ、お帰り。地下にもいなかったか〜…」

ノール「残りはあの部屋だけか」

ベングル「…あの部屋か」

フラット「え〜っと?あの部屋って?」

ノール「…何で隊長が知らないんだ?」

ベングル「あの開かずの部屋だ。最上階にあるんだ」

フラット「えっ?あそこって普通に開くけど?」

ベングル「は⁉︎開く⁉︎」

フラット「うん、じゃあ行ってみる?」

ノール「開くなら…まあ」

フラット「別に普通…じゃないけど部屋だよ」

クレア「部屋?」


最上階ー

フラット「じゃあ、開けるね」

ノール「な、何だろう…ちょっとドキドキする」

スター「ここって…幽霊部屋⁉︎」

ノール「あぁ、噂にもなってるな」

クレア「バカバカしい、幽霊なんて魂ぐらいの話だ」

ベングル「で、でもよ。邪悪な魂だってあるだろ?」

ライ「邪悪とはいえども魂だけでは何もできぬでござる」

ベングル「そんなの分かってるけどよ…」

フラット「いいから入るよ、失礼します」

いとも簡単に扉を開けるフラット。その扉の開け方に全員は

ポカンと口を開けてしまった。

たしかに扉には引いてくださいと言わんばかりのドアノブもあるのに

押しても引いても開かなかったドア。それはー

クレア「何で引き戸なんだよ!」

フラット「ぼ、僕にそんなこと聞かれても…」

ダンステード「?どないしたんや」

フラット「あれ?前まで廃部屋だったのに…」

ダンステード「あぁ、ここわいがデ・ロワーにいた頃の部屋や。

ずっと渋谷の方にいたせいで流石に掃除もせんとあかんかったわ」

フラット「で、でもこんな綺麗になるもんなんだ」

ダンステード「いや、掃除はわいがしたんやなくて、わいが発明した、

この全自動お掃除ロボ、PC君のおかげやで!」

スター「PC…?パソコンなのそれ?」

ダンステード「違う違う、パーフェクトクリーニング君、

略してPC君や」

ベングル「お前は相変わらずだな。ちょっとは変わろうと思わねえのか」

ダンステード「何言うとるんや。わいらが変わる必要なんてないやろ?」

ライ「ど、どういう意味でござるか⁈」

ダンステード「わいには化学、発明が全てや。お前らかてそうやろ?

ベングルには正義という信念、ライには誰にも追い越せない忍びならではの

その速さ。わいにはない才能やんか」

ベングル「そんなことねえだろ!お前の発明あってこその俺達だろ!

それに俺達の才能なんか胸張って誇れる者じゃ…」

クレア「才能は誇るものじゃねえ。使うものだ。自分が

正しいと思う方法でな」

フラット「クレア…?」

いつもより鋭い口調でそう言ったクレアにフラットは疑念を抱いた。

クレア「だから間違った方法で使ってはいけねえけどな」

スター「そうだけど…兄ちゃん?」

ノール「とりあえずここで会話するよりオフィスで会議をした方がいい。

東京4区に影響が出ているんだ」

ベングル「…そうだな」


オフィスー

フラット「あれ?エドとスラリアは?」

ペーター「調査に任せたが…何かあったかい?」

フラット「いや、見当たらなかったので」

クレア「…フラット、俺も軽く外に出てるぞ」

フラット「えぇ…じゃあ僕達だけで会議しよっか。

結論はちゃんと伝えるから」

クレア「あぁ、助かる」


ナックルの墓ー

クレア「おい、もうすぐ春だぞ。フラットも寂しがっててな。

俺は寂しくねえ…って言えば嘘になっちまう。はぁ」

一つため息をこぼして、クレアは雲がたなびく青空を見上げる。

チラッと見えた桜の枝にはつぼみがついていた。

クレア「そういえばな、ここで花見するんだとよ。ったく、

そんなことできる暇があるのかっての」

まるでそこにナックルがいるかのように次々と言葉を並べていく。

クレア「…でもよ。お前のおかげで忘れてた昔を最近思い出しちまってな。

おかげで少し寝不足だ。なぁ…もし俺が昔に飲まれたら、

俺が今置いた矢を届けてくれ。なんて、無理だと思うけどな」

寂しそうに微笑むクレアにナックルが答えるかのように

温かい風が吹きつけた。

フラット「おーい!昼ごはん行こー!」

クレア「えっ、もうそんな時間か⁉︎」


クレア「はっ⁉︎夢…?」

フラット「起きてって!」

クレア「…!」

クレアはやはりナックルの墓の隣に座っていた。そしてー

フラット「…?矢のお供え?ふぅん…ま、いっか。ほら、昼ごはん!」

クレア「…まさか、な。分かった、俺も行く。わざわざありがとな」

フラット「全然!今日はラーメンだよ」

クレア「おっ、楽しみだ」

2人は会話を弾ませながら立ち去っていく。

ナックル「本当に不器用なやつだな。だが…この異変、

一筋縄ではいかねえな」

ナックルはそう言うと覚悟を決めた。


夜ー

フラット「ん、ん〜!ふぅ、報告書もこんなものかな」

エド「フラット、お風呂っすよ?」

フラット「あ、先入ってて。まだやらないといけないこと残ってるから」

エド「は〜い」

フラットにそう言われ、エドはリビングから出ていった。

ナックル「やっぱり開けてねえか。本当だったらフラット自身に

開けてもらいたかったがな。だが…俺もどこに閉まったのか

覚えてねえんだよな…探すか」


20分後ー

ナックル「あ、あれ…?たしかに机の中に閉まっといたはず…」

エド「フフ〜ン、フッフフ〜ン…えっ⁉︎うわぁぁぁ⁉︎」

ぐちゃぐちゃになっていた部屋を見てつい大声で叫んでしまった。

フラット「な、何⁉︎って…なにこれ…」

エド「きっと泥棒っすよ!」

フラット「でも…なんか散らかしただけって気もするんだけど…」

エド「たしかに…俺の貴重品も残ってるっす…」

ナックル「あれ…俺のこと見えてねえのか…?」

その事実に気付くと、心の奥が錆び付くように冷たくなっていった。

ナックル「……残された者は辛いと言うが、残した方も辛いのか。

だよな、バジョーもグリテールも辛いの堪えて…今日は帰るか」

ナックルは寂しそうなまま消えていった。

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