第15話 信念の果てに
シーラス「久しいな、ベルゼブブ」
ベルゼブブ「はい。今日はあなた様が復活を成し遂げられた
祝うべき日!フォールもすぐに」
シーラス「ほう…楽しみにしておる」
ベルゼブブ「はい、それでは」
1節 真実と虚実
フラット「今日は2月3日!というわけで…
節分イベントを開始したいと思いまーす!」
子供達「わーい!」
フラット「今から、このお兄さんとお姉さんが
鬼の仮面を着けて君達の所に行くから、
配られた落花生を思い切り投げつけてください!」
子供達「はーい!」
フラット「それじゃ早速!レッツ豆撒き!」
ノール「ちょ、合図!」
クレア「お前ってやつは!」
2人は慌てて舞台から飛び降りる。
エド「あ〜あ、グダグダっすよ…」
スラリア「何でクレアのペアがあたしじゃなくて
ノールなの?意味分かんない」
ベングル「仲良しコンビで組ませたくは
なかったんだろ?一緒に行動でもしたら子供達も
付いてってあわや衝突事故に繋がりかねないしな」
グリオ「そういうことだ。フラットも頭は回るやつだ。
そういうリスクを削って0にするぐらいはできるだろ」
ライ「拙者も参加したかったでござる…」
ベングル「まっ、まぁ、後でオフィスでもやるって
フラット言ってたぞ?」
ライ「それは真でござるか⁈」
グリオ「あぁ、さっきオフィスに落花生一袋、
フラットが置いてたぞ」
スター「豆撒きって何でやるの?」
ライ「厄を払い、福を呼ぶためでござる」
スター「…?ねぇ、何でベングル?」
ライ「えぇっ⁉︎」
ベングル「アッハハ、ライの説明じゃ子供には
分からんよな。要するに、厄ってのは…あぁ〜…
グリオ、頼んだ」
グリオ「だよな、厄は……厄…?厄って何だ?」
エド「2人ともダメっすね。厄っていうのは
厄災の厄、つまり縁起のない出来事のことっす。
例えば、誰かが怪我したり病気になったりすることっす。
昔の日本人は、その根本を厄と呼び、その厄を
払うために豆撒きを始めたんすよ」
スター「分かった!」
グリオ「凄いな…関連する言葉を用いて、例を出し、
分かりやすい言葉で説明してる…」
ベングル「まるで教師だな」
エド「そ、そんなことないっすよ…へへへ…」
ペーター「あ、イベントはどうだい?」
グリオ「大盛況です。フラットが考えた、
子供だけのイベント。彼は本当に
いい案を出してくれます」
バジー「売店の方には保護者の方の行列で
いっぱいで、すぐに完売いたしましたわ」
キルユウ「デ・ロワーの全てを売り出したら、
てんやわんやだったぞ」
バルシア「もう疲れた〜…兄貴、あとは頼むぅ」
キルユウ「ったく…まぁ、今日はちゃんと働いてくれたし
よしとするか」
バジー「今日は化粧品と節分用品、ファイター関連品で
売りましたけど…明日は何でしたっけ?」
ペーター「たしか…通常イベント入場券と
ファイター関連品だけだったはず」
クレア「ドヒャー…やっと終わった!」
ノール「流石は子供だ…容赦なく投げてきやがって…」
フラット「お疲れ〜、いや〜、凄かったね。一昔前の
コント劇場みたいだったよ」
ノール「あちこちが痛いんだが?」
クレア「かわしていいってルールなのに
かわさないのが悪いだろ」
フラット「でも、クレアは全部避けてたよね」
クレア「あんなの楽勝楽勝!」
フラット「途中から子供達ムキになってたよ?」
クレア「いいんだよ、あれぐらいで。子供はムキになって
楽しむもんだ。まっ、ちょっとやりすぎて泣かせたことも
あったけどな?」
フラット「それじゃダメじゃん」
ノール「とりあえず…オフィスに行こう。スラリアも
待ってるしな」
フラット「そうだね」
オフィスー
スラリア「あ、お帰り」
クレア「あぁ、ただいま。お、コーヒー…ありがとな」
スラリア「この時期は冷えるもんね。ホットだよ」
スター「あ、スターのはココアだ!」
ノール「これ、モカか?」
スラリア「うん!ノール、モカ好きでしょ?」
ノール「よく覚えてたな…」
フラット「ホットミルク…スラリア、
どこで知ったの?」
スラリア「なっくんから聞いた話だよ。子供だよね、
ホットミルクって」
フラット「…仕返しか」
ベングル「俺達は…紅茶?」
グリオ「それは私のだ。ベングルのはこれだろ」
ベングル「緑茶⁉︎」
ライ「じゃあ、拙者のでござるな」
ベングル「じゃ、じゃあ俺のは⁉︎」
スラリア「あれ…置いといたはずなんだけど…」
エド「ふぁ〜、甘くて美味しいっす〜」
スラリア「あっ!それベングルの甘酒!
何勝手に飲んでるの⁉︎」
エド「えっ、俺のじゃないんすか⁉︎」
スラリア「エドのはこっち!コーンポタージュ!」
エド「え〜…俺、オニオンスープの方が…」
ベングル「じゃあ、そっち貰うぞ。俺、
少し腹減ってるしな」
スラリア「ごめんね?後でエドにフラットが
お仕置きしとくから」
フラット「だ〜か〜ら〜!僕は罰ゲームマシーンじゃ
ないからね⁉︎もう…」
ノール「スラリア、腕あげたな。コーヒー、
前よりも美味しい」
スラリア「ありがとう!でも、ノール程じゃないよ。
紅茶なら自信はあるけど…」
グリオ「ゲホっ!おい、これ苦すぎだろ⁉︎」
スラリア「えっ⁉︎」
ノール「前にも言っただろ。砂糖入れろって」
スラリア「あ、忘れてた…はい、角砂糖」
グリオ「全く…まぁ、風味はいいんだが」
スラリア「えへへ…またやっちゃった」
クレア「コーヒーの砂糖はちゃんと入ってんのに…」
フラット「プハァ〜…美味しい」
スター「うん…あったまる〜」
ペーター「で?いつ豆撒きするのかな?」
フラット「…ペーターさん、ただナッツを食べたいだけですよね?」
ペーター「…さっ、やろうか」
バジー「図星ですわね…」
エド「じゃあ、始めるっすよ!」
ノール「ちょ、まだ飲みきってない!」
フラット「本当に自己中だよ!全員が飲みきるまで
待ってよ!僕だってまだ飲みきってないのに!」
数分後ー
フラット「と、いうことで豆撒きを行おうとゲフッ…」
全員「…ぷっ!」
フラット「……コホン、豆撒きを行おうと思います。
え〜…真面目に出来なーい!」
クレア「お、おい?」
フラット「さっきのゲップのせいで全てが終わったよ!
もう、エドのせいで一気飲みしたから!」
スター「まぁ…たしかに」
グリオ「始めるんだろ?ならやっても…
いいってことだよな!」
ベングル「イッテ⁉︎おい、人に投げる行事じゃー」
ライ「まっ、鬼を追い出すっていう意味ならー」
ケーベス「呼ばれたし来たぞ〜!」
メダイ「ほらコータス!入って!」
コータス「何で俺まで行かなきゃならねぇんだ!
知っててやってんなら普通に怒るぞ!」
ライ「来たでござる!」
コータス「⁉︎ちょっ、雷壁!」
ライ「ほう…やはり一筋縄ではいかぬでござるな。
なら…忍術・分身!」
コータス「俺狙いかよ⁉︎ケーベス!」
ケーベス「あいよ!持ってて良かったナッツガン!
それ、うまく使いこなせよ!」
フラット「ちょ、食べ物を粗末に扱ったら!」
クレア「…神業・烈風!」
全員「うわぁっ⁉︎」
クレア「食べ物は自然の遺産!それを粗末に扱うとは
自然を侮辱するのと同義!風神の俺の前でもしまた
同じことしたらただじゃおかねぇぞ!」
全員「は、はい!」
クレア「分かればいい」
フラット「だから言ったでしょ?」
コータス「元から食べ物を粗末にする行事な気もするが…」
ノール「細かい事は気にするな」
コータス「いや、十分大問題だぞ⁉︎」
スラリア「まあまあ、今日ぐらいいいじゃん。
折角の節分だし、豆を撒く日だよ?」
クレア「……しょうがない、今日だけ特別だ。
その代わり、遊ぶなよ」
フラット「それは分かってるよ。じゃ、セーの!」
全員「鬼は〜外〜!福は〜うち〜!」
一斉に落花生がオフィス中に散らばる。
1時間後ー
ペーター「アハハハハ、節分はいつも通りだね。
エド君も楽しめてるかい?」
エド「もちろんっすよ!俺が入ってすぐにやってたっすけど
あの時より楽しいっすよ!」
フラット「じゃ、全員分投げたし…拾うか!」
クレア「ふぅ…まっ、食うならいいか」
スター「キャハハっ!楽しかったね!」
ノール「あぁ、ナッツも美味いな」
クレア「…あれ、ノール、顔赤いぞ?」
ノール「はぁ?何だよクレア君。私はいつも通りだぞ?」
フラット「いや明らかにいつも通りじゃないよ⁉︎
それにクレア君って⁉︎」
グリオ「まさか、ノールのアルコールってナッツか⁉︎
にしては…落ち着いてるな」
ベングル「症状の出方はそれぞれだし、ノールは
女の子っぽくなるって感じか?」
ノール「美味しい…もっと食べたい」
ライ「ノール殿、こんなに可愛げのある女子であったか…」
スラリア「フフフ、こんな酔い方ならたくさんあげても
問題はないんじゃないかな?」
フラット「まぁ、害が無いなら…いっか」
フラット「で…」
オフィスはグチャグチャに散らかっていた。
フラット「何でこうなってるの?」
遡ること数十分前ー
ノール「もっと欲しい〜!ナッツを…ナッツを食べたい〜!」
クレア「おい、いくら何でも食い過ぎだ!
もうナッツはねぇから!」
ノール「ないの…⁈ナッツ…ないの⁈許さない…!」
フラット「ノールってさ…神力が使えないんじゃなくて
扱う能力がないんじゃないの?」
クレア「あぁ…そう思った。神力は健在だもんな」
グリオ「まぁ、スターが眠らしてくれたから
神力による波動の影響で済んだが」
スター「えへへ…」
エド「で、どういうことっすか?能力がないって…」
フラット「うん。多分だけど、ノールの願望が
変わろうとしてるんじゃないかなって」
スラリア「ノールの願望が変わる⁉︎どんな風に⁈」
フラット「そこまでは僕にも分からないけど…」
その様子を隣のビルの屋上からー
フォール「…どうして、俺は時々ここに
来ちまうんだろうな。有名魔族の俺は
ここに戻るべきじゃねぇってこと、
分かってるのに…」
フラット「?」
スラリア「?何?外に何かいた?」
フラット「へ?ううん、何でもないよ。今日は
いい天気だなぁって思っただけ」
ライ「そうでござるな。街を照らす太陽、
青く澄み渡る空。流れていく点々の雲。
なんと美しい晴れ模様でござろうか」
クレア「風も気持ちいいしな」
フォール「…やはり、俺は戻るべきじゃないか。
だが…テストさせてもらう!お前らが俺なしで
どこまでできるか!来い、脅威ども!」
広報「緊急警報!緊急警報!浅草上空に
脅威の口出現確認!」
フラット「えっ⁉︎」
クレア「すぐに向かうぞ!」
エド「フラット、出撃命令を頼むっす!」
フラット「待って!状況整理を!」
バジー「敵の数、不明。出現パターン、分散!」
フラット「分散…いくつ」
バジー「2です!」
フラット「よし、隊を2つに分ける!
1つ目は僕とエドとグリオ、ベングル!
2つ目はクレアとスターとスラリア、ライ!」
全員「はい!」
フラット「効率よくスピーディーに。被害も最小限に
抑えるよう各自任務に当たるように!
デ・ロワー、出撃!」
全員「了解!」
フォール「お、来たか。行け、アリジゴク!」
アリジゴク1「ギシャァァ!」
アリジゴク2「ピギュルルル!」
フラット「うわっ…なんて数…」
エド「押されるなっす!鉄拳・金剛百裂拳・激!」
アリジゴク1「ギャルシャワ⁉︎」
グリオ「迷森・木葉隠之陰謀・散!」
アリジゴク2「ギュワ⁉︎」
フラット「うん、審判・永久黒炎結界・獄!」
アリジゴク2「ギャァァァァ…」
アリジゴク1「ギュルル…ギャシャァァ!」
ベングル「テメェは黙ってろ!
火炎・フレアスプラッシュ・散!」
アリジゴク1「ギシュゥゥゥゥ…」
フォール「ふぅん、まっ、天魔石があるなら
当然の結果か。じゃ、これならどうかな?
行ってこい、“アザゼル”」
一方クレア達ー
異世界モンスター「ジャルゥゥゥ!」
クレア「おいおい、デカイな…コイツが
ボスって解釈でいいか?」
スラリア「うん。あたしはサポートしかできないけど頑張って!」
スター「手当てなら任せて!」
ライ「火力が足りないでござるな」
コータス「おい、俺達を忘れるな」
メダイ「私達も戦えるよ!」
クレア「いや、お前らはここじゃ…」
スラリア「まぁ、とりあえずは2人で戦闘しよ!
旋律・攻炎之調!」
クレア「おっ、きたきた!」
ライ「闘志が燃え盛っているでござる!」
スラリア「これで五分五分のはず!」
クレア「サンキュ、スラ!これなら…いける!
突風・四方爆破之矢・散!」
異世界モンスター「バフっ⁉︎」
ライ「落雷・雷太鼓・激!」
異世界モンスター「ギャバァァァァ!」
コータス「よし…妖札・轟蓮雷!」
異世界モンスター「バフゥゥゥ…」
メダイ「うん、討伐完了!」
スラリア「あとは合流しよっか!」
デ・ロワー前ー
スラリア「えっ…何これ⁉︎」
デ・ロワーの前には傷だらけのフラット達がいた。
スター「えっ、何⁉︎まさか、負けたの⁈」
クレア「いや、アリジゴクは倒されてる…これは…
魔族の仕業か?残ってるのはベルゼブブとフォール、
そして正体不明の頭」
ライ「ベルゼブブの態度から察するに拙者達と
刃を交わす相手になることはないでござる。となると…
フォール殿、そこにいるのは見破っているでござる!」
ライはクナイを影に投げる。
フォール「おっと!危ねぇな」
スター「フォール⁉︎」
フォール「俺がいないとこんなに弱っちいもんなのか。
こんなんで、復活したアイツらを倒せるとは思えないな。
お前らにも味合わせてやるよ。絶望ってやつをな!
アザゼル、もう一仕事任せた!」
アザゼル?「了解、マスティマ様」
スター「えっ…アザゼル…?」
クレア「待て、アザゼルなのか⁈全然違うぞ⁉︎」
フォール「当たり前だろう。元のアザゼルなんだ。
魔力も人間なんかの血で薄れていない」
スラリア「じゃあ…魔力も桁違い⁉︎」
クレア「まさか…あの脅威も⁉︎」
フォール「あぁ、お前らが一つになったら
まずいからな。2手に分ける陽動だ」
スター「全てが思い通りってこと…」
スラリア「旋律・蘇生之ハ長調」
フラット「……あれ?」
ベングル「ってて…」
グリオ「くっ…油断した…」
エド「まだいけるっすよ!」
フォール「スラリア…神器が変わったか。願望が
変わったのか?」
スラリア「違う。願望が強くなっただけ。
守られてばかりだったから、守ってあげたいって
思えるようになった!」
アザゼル「どうしますか?相手、全快してますが」
フォール「まぁ、もう帰っていいだろう。お前の復活も
終わらせたことだしな。サタン様もお待ちしているだろう」
アザゼル「そうか。では…」
2人は闇の中へ溶けていった。
フラット「あっ…」
クレア「…まぁ、被害は言われた通り最低限に
抑えられたし、作戦は成功だろ?」
スラリア「フォール……」
ベングル「何とかデ・ロワーは守りきれたか…」
グリオ「それにしても…復活か…となると、
封印したベリアルも復活される可能性がある」
フラット「まずい…ベリアルの本領は僕達何も
知らない…勝算とか言ってたよね?」
スラリア「…あたし知ってるよ。ベリアルはベルゼブブがいて
本領を出してくる。ベルゼブブのアブにさえ
気をつければなんてことないよ」
ノール「無理だと思う。ベルゼブブのアブは
闇に紛れる。それに、そのアブも低級魔族。
辺りに結界を張ればいいんだが、フォールがいる。
結界は容易く破られるだろう」
フラット「対策もなし…か。って、ノール⁉︎
酔い覚めたの⁈」
ノール「全然覚えてないんだが…私、ナッツダメなのか。
今日初めて知った」
スター「ノールは酔っ払ってもいいと思うよ。
むしろ、酔っ払ってる方がいいよ!」
ノール「えっ?」
クレア「な、何でもねぇよ!ただ…酔ってる方が
お前も女らしいとは思ったが…」
ノール「…じゃあ、普段の私は女らしくないってわけ?」
クレア「えっ?あ、いや?別に誰もそんなこと言ってない…だろ?」
スター「兄ちゃん、棒読み」
ベングル「こんな時でもお前らは呑気だな」
フォール「…はぁ」
シーラス「マスティマ、どうかしたか?」
フォール「いや…何でも。俺は外に行ってるぞ。
ここは酒がなくて気晴らしができねぇからな」
シーラス「…また上界に行く気か?」
フォール「…また?何のことだ」
シーラス「しらばっくれてもお見通しだ。いくら私と
お前の仲といえども、上界にこれ以上行くのであれば
規制をかけるぞ」
フォール「規制…?ったく、俺がそんなのに従うやつとでも
思ってるのか?俺は俺で行動させてもらう。では」
フォールは部屋の中から出ていく。
シーラス「…仕方のないやつだ」
フラット「さっきの陽動はベリアルの⁈」
ノール「私はそう考える。残ってるやつらは
頭を使う戦法を好まない」
スラリア「あとはフォールって可能性もあるけど
フォールは血鬼7人衆に非協力的だからね」
エド「もう復活済みってわけっすか…」
ノール「でも、サマエルの復活はない。浄化されて
今は地獄の中。地獄に行ってしまえば冥界の者の
管理下。手出しはできない」
フラット「でも…フォールなら…」
クレア「スラリアが言ってただろ?非協力的だとな」
ベングル「つまり、警戒すべきはベルゼブブとベリアルの
コンビってわけか」
スラリア「そういうこと。でも、アザゼルは
強敵になるよ。魔力が第一神魔戦争時並だよ」
グリオ「第一次神魔戦争…相手するのは死を意味する。
対策は必要だな」
ベングル「それに魔魂石で更にパワーアップだろ?
勝ち目…あるのか…?」
全員「……」
フラット「あるよ!たしかにアザゼル1人は強い。
でも、魔族は共同して戦闘はしない。だったら僕達は
神軍らしくチームで強くなればいい!」
クレア「……そうだな!俺達は神族であり魔族!」
ノール「そのどっちにもなればいい!」
スラリア「1人でも強くて…!」
スター「皆揃ってても強い!」
エド「俺達が頂きになればいいんすよ!」
ベングル「…そういう考えもいいな」
グリオ「少し事態を軽く見てる気がするが…まぁ、
いいだろう。私も賛成だ」
バジー「今までで1番短い会議でしたわね」
ペーター「ナックラーの時はグダって全然進まなかったな。
そう思うと、フラット君は凄いな。あんな暗い雰囲気を
たった一言でガラリと変えて、全員を納得させた。
もしかしたら…彼はイエスの生まれ変わりかもしれないな」
バジー「たしかに、困っている人を導いていますものね。
羨ましいですわ。フラット様みたいな人…」
ペーター「バジー…?」
バジー「あ、いえ、独り言ですわ」
フラット「それじゃ、また楽しく、面白くやってこー!」
全員「おーっ!」
フラット「それじゃ、まずはイベントだ!」
全員「はい!」
ペーター「おいおい、張り切りすぎ。申請も
出していないんだよ?」
フラット「行動するには心から、ですよ!」
ペーター「…アッハハ、そうだね。君はいつも
そういう行動だったよ。それでイベントは
決まってるのかい?」
フラット「…こっからは敵もこっちを攻めてくると
考えています。なので、東京だけでイベントを
行おうと思ってます」
ペーター「なるほど。じゃあ、原宿で
イベントできるように申請しておくよ…?
って、それはフラット君の仕事だろう?」
フラット「はい!今日ぐらいはお願いしますよ〜!
いっつも残業してるんですよ?」
ペーター「えっ、君達やってないの?」
クレア「あ゙!フラット、言うな!」
エド「何で言っちゃうんすか!」
ペーター「…2人には、2倍の仕事を与えておくよ」
フラット「いえ、あともう1人います。だよね、ベングル?」
ベングル「ん?俺⁉︎いやいやしてねぇって!
頼む、信じてくれよペーター!」
ライ「ペーター殿、やっていいでござるよ。拙者は
現場目撃者でござる」
ベングル「ゲェッ⁉︎」
ペーター「はぁ…2倍じゃなく、2.5倍だな」
クレア「は⁉︎」
ノール「当然だろ。前にも言っただろ、
フラットに仕事押し付けたら倍で返ってくるって」
グリオ「ベングル、また仕事押し付けたのか?
私の次はフラットって…お前、信用失うぞ」
ベングル「信用失うのが怖くて人に仕事を押し付けられるか!」
グリオ「お前が威張るな!ペーター、私の仕事、
コイツに回しとけ」
ペーター「そうさせてもらうよ」
ベングル「お前も押し付けてるじゃねぇか⁉︎」
グリオ「仕返しって知ってるか、仕返し!」
バジー「ウフフ、何だか危機感を感じませんわ」
ペーター「…あぁ、肩に力が入っていないのは
問題かもしれないが、これぐらい緩んでいるのも
悪くないのかもしれないな」
フラット「よし!じゃあ、次のイベントに向けて
各自、鍛錬に励もーう!」
全員「おーっ!」
クレア「…そこっ!」
矢は的の中央に刺さった。
クレア「腕は落ちてないな。だが…フラットのような
予想を超える矢を射るには…何が必要なんだ?」
スラリア「…こんな音じゃ、守りを固めることはできない!
固っ苦しい音色を奏でるんだ!まだまだ!」
スター「…ダメ。こんな弱い風じゃ、皆の傷の全てを
治せない!もっとたくさんの風を操れないと!」
エド「くらえっす!」
サンドバッグを思い切り殴りつけるエド。
エド「…こんなんじゃダメっす!ただ強くなるだけじゃ
俺の正義は全うできないっす!」
ノール「私の願望…見つけないと!皆のためにも!」
ベングル「デェェヤァァァ!……違う…
こんな炎じゃ、敵を怯ませるので精一杯だ!
くそっ、何か手は…!」
ライ「…樹が生みし生命…我に応えよ!」
辺りの木の葉が一斉にライの声と共に巻き上がる。
ライ「…見えた!斬撃!」
一瞬で木の葉の中をライは走り抜けた。その木の葉は
全て、綺麗に剣に斬られていた。
ライ「所詮はこの程度でござる。拙者も、
もっと修行を重ねなければ!」
グリオ「鍛錬って言われてもな…ん?」
子供「ウワーン!風船がー!」
木の枝に赤い風船が挟まっていた。
グリオ「…仕方ないか。魔術・枝揺」
詠唱で風船を挟んでいた枝が揺れ、空中に風船が
飛んでいく。それをすかさずー
グリオ「よっと!」
グリオが紐を掴んだ。
子供「あ、ありがとう!」
グリオ「ちゃんと紐を持ってるんだぞ」
子供「ありがとー、お兄さん!」
グリオ「ありがとう…か」
フラット「僕の術の弱点は攻撃力が低いことかな。
じゃあ…火力を上げるために神力の強化…じゃないな。
もっと敵が怯んで、気づけば逃げ場がない…!
そっか…それがバトラーだったんだ…一気に敵に突っ込んで
それに怯えてるうちに突進される…そっか…
迫力!僕にないのは迫力なんだ!よーし!
これならいける!そうと決まれば迫力のある神力を
作り上げるだけだー!」
その全員の様子をー
フォール「…やっぱり、俺の居場所は…」
2節 忘れがたき日々
フォール「よう、今来た」
アザゼル「何をしていた。会議の時間を大幅に
超えているぞ」
フォール「別に何でも。いいだろ?俺達は同盟こそ
組んでいるが、チームではない。それを忘れるな」
アザゼル「フン、生意気な口だ。まあ良い。
ベルゼブブ、話を始めろ」
ベルゼブブ「あぁ、神魔6人隊は各々の力を高め、
結束力をも高めようとしている。攻め時は
今しかないと言っても良いだろう。それで、
誰が行く?私はまだ死に時ではないしな」
フォール「偵察も兼ねて俺が行こう。何、
またお遊び程度に収めておくさ」
ベリアル「貴様ごときに任せて良いのか?」
フォール「?俺がサタンに最も近しい存在なのに、
そんな口聞いて良いとでも思ってるのか?」
ベリアル「その自信が虚勢で終わらないことを願ってるよ」
アザゼル「お前、随分と若返ったな」
ベリアル「地中の魔力を吸いに吸ったわ。おかげで
封印されていた魔力のほとんどが蘇ってくれた」
フォール「それでは、俺は行ってるぞ。貴様らの出る幕でもない、
決して邪魔だてするな」
フォール「なぁんて言っちまったが…どうしたものか。
少し、寝てから決めるか」
フォールは闇に紛れて一眠りする。そして、
とある昔の夢を見ていた。
フォール「爺ちゃん、僕、虫取りしに行くから!
絶対、カブトムシ捕まえてやるんだ!」
爺「そうか、でもいいかい?お前のその力を、
絶対に使ってはいかんぞ。爺ちゃんとの約束だ、
守ってくれるかい?」
フォール「うん!それじゃ、行ってきまーす!」
友達1「早く行こ!」
友達2「今日の仕掛けでカブトがいたら勝負しようぜ!
虫相撲!やってみたかったんだ!」
フォール「いいけど…僕の横綱に勝てると思ったら
大間違いだ!」
友達1「おっ、早速引っ掛かってる!どれどれ…
あ〜、ここにはノコギリクワガタしかいないか」
フォール「じゃ、リリースだな」
友達2「もう一個あるよな!そっちなら森の奥だし
カブトいるかもだぜ!」
フォール「あれ〜…この辺だったよな?」
友達1「そう…だったよな…おい、お前が仕掛けたんだろ?
って、あれ?アイツ、何処行ったんだ?」
フォール「えっ?あれ、いない…もしかして、
滑ってったとか⁉︎昨日の雨で地面、滑りやすいし!」
友達1「まずい!手分けして探すぞ!フォールも
気をつけろよ!」
フォール「分かってる!」
フォール「おーい!いるなら返事しろ〜!」
いくら呼び掛けても、聞こえてくるのはせみしぐれ、
鳥の鳴き声、風に揺れた枝の音だけだった。
フォール「…仕方ない、こうなったら!魔術・闇溶!」
子供2「ぐっ…ってて…どこだここ…」
フォール「大丈夫か?」
子供2「あ、フォール…ここは?」
フォール「お前、滑ってここに落ちたんだ。
足、捻挫してるから下手に動かない方がいい。
今アイツが人を呼びに行ってるから安心しとけ」
子供2「フォールって頼りになるな」
フォール「そう…?ありがと…」
爺「おい!来たぞ!」
フォール「爺ちゃん⁉︎何で⁈」
爺「フォール、後で話がある」
フォール「えっ…話…?」
爺「そうだ」
救出後ー
爺「人前で力を使うなと言ったはずだ!」
フォール「だけど、あの場合は使うべきだったろ!
それに誰にも見られてない!問題なしだろ!」
爺「いいか?お前の力は災いをもたらすもの。
使えば何が起こるか分からないんだ」
フォール「…分かってるよ、そんぐらい」
爺「よし、なら帰るぞ」
フォール「…はい」
友達1「フォール!大変だよ!街がアリジゴクに!」
フォール「えっ⁉︎アリジゴク⁈」
友達1「早く避難しよ!」
フォール「……俺の街にファイターはいない…
爺ちゃん、やっぱり僕は無理だ!
黙って見過ごせるわけがない!絶縁してくれても
構わない!僕は…いや、俺は名誉なんかより
大切なものがあるんだ!」
爺「…勝手にしろ」
フォール「…爺ちゃん…俺、行ってー」
爺「その代わり」
フォール「?」
爺「絶縁はしない。待っているぞ」
フォール「……あぁ、そうか。行ってくる!」
アリジゴク「ギャシュゥゥゥ!」
フォール「ここは、絶対守り抜く!
第一暗黒『闇之』術・『フレッシュダーク』!」
透き通った紫色の渦がアリジゴクを囲う。
アリジゴク「ガルル…?」
フォール「…第二暗黒『零』術・『ディープシーインディカム』!」
アリジゴク「ギィィィ⁉︎」
フォール「俺の街を荒らす者は…闇に堕ちろ!
暗黒之負翼!全てを抹消する闇を…!
最終暗黒『堕天』術・『フォールンライト』!」
隕石のように周りの光がアリジゴクを叩きつける。
そして、街の電気も、辺りの色も消え失せた。
フォール「…あれ?」
爺「だから言ったんだ。お前の力は災いをもたらすと。
使えば何が起こるか分からない。お前の術で
街が消えたと言っても過言ではない」
フォール「別にそんなつもり……そうか。
ここじゃ爺ちゃんも見えないのか…なら…
あっちからも見えてない。じゃあな、俺の居場所は
ここでもなかった」
フォールは一目散に自分にしか見えない
闇の中を駆け抜けていった。
どれだけ走っただろうか。どれだけ俺のスニーカーは
ボロくなったんだろうか。どれだけ俺の顔は
グシャグシャになったのだろうか。
今の俺は光を浴びても良いのだろうか。
この問いを答える存在は虚無以上に存在しない。
フォール「…何やってんだろう…俺。
帰りたいな…本当に俺がいるべき場所に…」
「君…どうしたんだい?」
フォール「…?」
気づけば雨が降っていた。
男性「ずぶ濡れじゃないか⁈ちょっと来なさい!
風邪ひくぞ!」
フォール「…そうか…俺……生きてるのか…」
男性の家ー
男性「大丈夫かい?」
フォール「…⁉︎あれ…?」
男性「疲れて寝てたんだよ。で…見たところ
まだ未成年っぽいけど…家出かい?」
フォール「……」
男性「?何かあったのかい?隣町がアリジゴクに
襲われたとかニュースでやってたが…」
フォール「……あの、ありがとうございます」
男性「いや、いいんだけど…避難してきたのかい?」
フォール「……」
男性「?違うのかい?」
フォール「……あの!こんなこと初対面の人に言うのも
失礼ですけど…俺、わからないんです…なぜ生きてるのか…
俺は大切な物を守りたい…!なのに、守ると同時に
傷つけて壊す!もう…死にたい…!」
男性「……君、魔族か。無名の」
フォール「えっ…⁉︎何でそのこと…」
男性の顔を初めてフォールは見た。その人はー
グリオ「私も同じだ。おっと、自己紹介が
まだだったね。私はグリオ・ピセナイン。
君は?大丈夫、同じ者同士、少しは協力できる」
フォール「……フォール…姓はない」
グリオ「じゃ、君は…ティアス。姓はティアスと名乗れ。
あと、君に私の仲間達を紹介したい。分かるはずだ、
生きる理由も、守りたい物を傷つけず守る方法も」
フォール「へ?」
グリオ「私は無名魔族を神族に近づけるために
導いている。フォール、ついてきてほしい。
アカデミー所属ファイター企業、デ・ジャポネに」
フォール「アカデミー…ファイター企業…!」
グリオ「そうだ。できるはずさ。怖くない。
アイツらは愉快すぎるからな。あと、さっきの答え、
私にも分からないが、言えるとすれば、
泣きたい時に泣いて笑いたい時に笑う。素直に生きることが
まずは大事だな。あと言うとすれば…そうだな、
ふざけた生き方をするってのも良いかもしれないな。
お前みたいなマジメちゃんよりは好かれるだろ」
フォール「…ふざけた…生き方…」
グリオ「犯罪行為をしろって意味じゃないぞ!
例えば…自由人とか?」
フォール「ん〜…難しい…」
グリオ「まあ、ふざけ方というのも案外難しいかもな。
じゃあ、お前に与える課題は『ふざけ術』だ」
フォール「…はい!」
グリオ「よし、やっと笑ったな。それじゃ、今日は
眠っとけよ。明日、会わせてやる。それで、
どうする?私達の所で活動するか?」
フォール「…勿論です!もう…俺に悔いはない」
グリオ「そうか。その答えを待ってたよ。
それじゃ、また明日」
フォール「はい、おやすみなさい」
グリオは部屋の電気を消して扉をゆっくりと閉める。
グリオ「…その答えが虚実にならないと良いが」
翌日、デ・ジャポネー
グリオ「ということで、本日より新隊員になった
フォール・ティアス君。え〜っと…無名魔族だ」
フォール「よ、よろしくお願いします!」
と、お辞儀をした際に、昨日グリオから言われた
アドバイスを思い出した。
グリオ「お前に与える課題は『ふざけ術』だ」
フォール「よし…って、固〜い挨拶はよしましょ!よろしく〜」
・・・
フォール「えっ…やった感じ…?」
隊員1「おう、よろしく頼んだ」
隊員2「ふぅ、固っ苦しいやつが入ったかと思った」
グリオ「ちゃんと伝えておいたさ。さ、君の席は
あそこだから。それより…その寝癖は何とか
ならなかったのか?」
フォール「これは…!」
(ヤバい、すっかり忘れてた!)
フォール「すぐに直してきます!」
化粧室ー
フォール「ふぃ〜、直った〜…よし、戻るか」
隊員3「ん?フォールか。寝癖…アッハハ!
ったく、初日から面白いやつだな!」
フォール「なっ…そんな笑わなくても!」
隊員3「
それより…お前、酒とか飲めるか?」
フォール「えっ、酒…?年齢的には大丈夫だけど…
飲んだことない…」
隊員3「それじゃ、飲みに行こうか!俺のダチも
連れて宴会しようぜ?」
フォール「グリオさんは?」
隊員3「グリオの頭はダメだ。ノリがわりぃ」
フォール「そうなんだ…じゃ、宴会!行く!」
隊員3「よし、仕事が終わったら案内してやる!」
フォール「は〜い」
隊員3「う〜ん…お前、ボケが分かりやすいんだよなぁ…
よし!俺が修行してやるよ!お前が完全にふざけられるように
つきっきりで指導してやる!」
フォール「はい!」
隊員3「俺はイーベット。厳しくいくから
覚悟しとけよ〜?」
フォール「は、はい!」
イーベット「おい、今のつっこめよ」
フォール「えっ…つっこむ?」
イーベット「ふざけ方の指導をやってんだ、
ツッコミも学ばねぇと」
フォール「いやいや、今のどこをつっこめと⁉︎」
イーベット「おっ、そうそう!よく気付いた!
ツッコミどころのない会話にツッコミを入れるのは
無理だろ?そういう無理難題につっこめ!」
フォール「いや、ツッコミの意味が変わってる!」
イーベット「ハッハハ、可愛い後輩だなお前は」
フォール「…もう」
夕方ー
イーベット「どうだ?楽しいだろ!」
フォール「すっごく楽しい!」
イーベット「そうか!ほれ、日本酒だ!飲め飲め!」
隊員1「おいおいイーベット、フォールには
少し早いっての!」
隊員2「今日が初酒だろ?なら、焼酎の方がいいぞ」
イーベット「その前にお前ら、自己紹介ぐらいは
したらどうだ?挨拶の時、声掛けただけだろ」
隊員1「あ、そうだった。僕はテイン」
隊員2「私はバーニラ。改めてよろしく」
フォール「はい。でも、グリオさんは愉快すぎるって
言ってたのに、案外普通でビックリしました」
バーニラ「え?そんなこと言ってたの?
グリオが落ち着きすぎなだけだよ、私達はいたって普通だよ」
テイン「まったく、グリオは相変わらずこういう会に
参加しねぇし、本当に頭の自覚があるのか?」
イーベット「さぁて、分からんぞ?もしかしたら
1人でこっそりパーティしてたりしてな」
フォール「そんなわけ…あるかも」
バーニラ「えぇっ⁉︎やっぱり、そうなの⁉︎」
フォール「だって、昨夜はグリオさんの部屋に
いたけど、ビールの空き缶とかピザの空き箱とかあったし…」
テイン「あの人がピザ…?まさか、彼女いるのか⁉︎」
イーベット「あぁ、なら四大のやつだな。
酒好きで食い意地のある水の長の…えっと…」
バーニラ「ダバンゴ…だっけ?あの人、宇宙海賊の船員でしょ?
ゼウス様も、何であんな人を長に選んだんだかわけ分かんない」
イーベット「だよなぁ…?」
グリオ「ん?なんだ、宴会でも開いてたのか。
誘ってほしかったな」
テイン「えっ、グリオはこういうの嫌いじゃ…?」
グリオ「おいおい、私がいつ宴会を嫌いと口にした?」
バーニラ「言ってはないですけど…私達の宴会には
ほとんど来ないから興味がないと思ってて…」
グリオ「なるほどな。だが当然だ。お前ら、
仕事を中途半端のままで宴会に行くから
仕事を私が終わらせているんだ」
バーニラ「えっ…私は普通に…テイン?」
テイン「いやいや、イーベットが1番仕事してないぞ!
寝坊して遅刻、なのにすぐ出て行って…」
イーベット「げっ…後輩の前でそういうこと言うなよ!
先輩としての威厳が…!」
グリオ「お前にもう威厳はないだろ!おふざけも
大概にしとけよ?」
フォール「えっ…ふざけちゃダメ?」
グリオ「コイツみたいにいつもふざけるのはダメに
決まってるだろ!まぁ、マジメちゃんもダメだがな」
フォール「…?」
バーニラ「つまり、メリハリをつけろってこと」
テイン「僕もよく言われたぞ。イーベットもな。
お前だけだぞ?まだバイト級のやつ」
バーニラ「フォールは入ったばっかだけど、
すぐに正社員級になれそう。ねっ、グリオも
そう思うよね!」
グリオ「お前の目は節穴か。コイツのどこを
見てそんなこと言ってるんだ?」
フォール「えっ……」
フォールはグリオの言葉に思わず戸惑った。
グリオ「…コイツは正社員なんかで収まるやつじゃない。
磨けば四大の長以上の実力を発揮するはずだ」
フォール「……えぇぇ⁉︎言い過ぎですって!
俺、全然まだ未熟者だし、第一俺の力はー」
グリオ「使い方次第だ。たしかに、光を奪う魔力。
だが…いや、これはお前が見つけなきゃいけない
答えだな。そのうちわかる」
フォール「は、はぁ…」
テイン「珍しいな、グリオがそれだけ人を褒めてんの。
僕には一切そういう言葉なかったのに」
グリオ「お前の魔力は元から使いやすかったからな。
だが、フォールのはそうじゃない。一見するとただの
恐ろしい力だ。だからこそ、面白い使い方を
見出してほしい。無名魔族の名のために」
イーベット「にしてもよぉ〜…ヒック!
もっと酒飲もうや〜!オレェ…ヒック!
まだ飲めます〜!」
バーニラ「あ…イーベットったら、こんなに飲んで…!
グリオ、コイツのネックフォン使って支払っちゃいましょ!」
グリオ「お、いいな。面白いことは大好きだ」
フォール「そういえば…!グリオさん、俺の家って⁉︎」
グリオ「ん?言ってなかったか。私の家だ」
フォール「えっ………えぇ〜⁉︎」
グリオ「冗談だ。ほら、デ・ジャポネの前の
アパート、お前の部屋の鍵だ」
フォール「変な冗談はよしてください。
ビックリしました…」
グリオ「お前もこれぐらいの冗談を言える時には
ここにはいないだろうな」
フォール「?何か言いました?」
グリオ「いや、何も。じゃ、今日はこれで
お開きにしようか。バーニラ、おあいそは
さっきの作戦で」
バーニラ「了解でーす!フォール、イーベットが
起きないように見張っててよ」
フォール「…あぁ、任せとけ!」
グリオ「…ふぅん、そんな顔するんだ」
フォール「だからさっきから何ヒソヒソ言ってるんですか?」
グリオ「だから何も?気のせいじゃないか?」
フォール「絶対気のせいじゃないと思うんだけどな…」
一方その頃、デ・ロワー
フラット「もう、そろそろ離してよ、エド。本当に
キャラが変わっちゃって…」
ナックル「ガッハッハ!前にも増して可愛くなっちまったな!
お前が変えたんだぜ?」
フラット「前からそう言ってるけど本当に
自覚してないからね⁉︎ていうか、こんなにスキンシップされるとは
思ってなかったよ!」
エド「フラット、あったかいっす〜!」
ノール「…アッツアツだな」
クレア「俺達は帰ってようや」
フラット「ちょ、僕も帰るって!」
スラリア「流石に見てるこっちも恥ずかしくなるもんね」
フラット「いや、そういうのいいから!」
スター「しょうがないね、神業・ドリームホール」
フラットを夢に繋がるゲートへスターは誘った。
フォール「えっ?グリオさん、デ・ジャポネの人じゃないって
本当か⁉︎じゃあ、どうして…」
グリオ「デ・ジャポネの元隊長。現隊長が病気で
倒れたから私が代わりに来ている。そろそろ退院のはずだから
私は帰ることになるな」
フォール「帰るって…どこに⁉︎」
グリオ「知らなかったか?私は四大・樹の長だ。
これで分かるか?」
フォール「東京に帰る…ってことか⁈」
グリオ「そうだ。お前も来たいなら実力をつけないとな」
フォール「……俺、もう帰らないと。おやすみ…なさい」
グリオ「…あぁ、おやすみ」
フォールはアパートへ、グリオは自宅へ分かれて行った。
グリオ「……まだ甘えたい時期だもんな。仕方ない、
少し手助けしてやるか」
フラット「え〜っと…ここは…?」
スターが導いた夢の世界をフラットは歩いていたはずだったが
いつの間にか真っ暗闇の中だった。
フラット「え〜…こんな夢あるの?誰の夢?」
フォール「ん?誰かいるのか?」
フラット「⁉︎だ、誰⁈」
フォール「すまんが、覚えてない」
フラット「えっ…もしかして幽霊…とか⁉︎」
フォール「いや…第一ここはどこなんだ?」
フラット「あっ…スターが言ってたっけ…」
スター「夢の中に、自分のことが分からない人がいたら
その人がその夢を見てる人だよ」
フラット「てことは…この人が…でも、夢から
起きるにはこの人を起こさないと。でも…
真っ暗すぎて顔も見えないんだよなぁ」
フォール「…もしかして…ここ…おいお前、
俺の顔見えてるか?」
フラット「いや、一寸先は闇って感じだよ、物理的に」
フォール「やっぱりか…ここは…!」
辺りの闇が晴れていく。全てが光に変わる前に
一瞬だけ、“あの街”がフォールの目に映った。
フラット「ん…あ、起きれた」
スター「ごめんね、変な夢に送っちゃった…」
フラット「全然全然!大丈夫だから!」
ノール「まったく、悪運が強いやつだ」
クレア「それで?どんな夢だったんだ?」
フラット「真っ暗で…夢の本人の顔さえ見えないくらい。
でも、その人はそこがどこか分かったみたい」
フォール「やっぱり…あそこだったのか。俺は、
今でも忘れられてないのか」
翌日ー
イーベット「よっ、今日も早いな」
フォール「そうだな、お前は相変わらず元気だな…?
おい、少し酒臭いぞ」
イーベット「ありゃ?気付かれてたか。まっ、
気楽にいこうぜ。人生、いつ死ぬか分からんぞ?」
テイン「そう言ってるけど、コイツ何も考えてないから
聞く耳持たなくていいぞ」
バーニラ「ね。本当、調子いいやつなんだもん。
グリオを怒らせたらどうなるか分かってんのに」
と、他愛の無い会話をしていたのだがー
グリオ「おい!大変だ!」
思い切りグリオがオフィスの扉を開けて騒いだ。
グリオ「このデ・ジャポネのある京都を中心に
隕石が…隕石が!」
バーニラ「えっ⁉︎隕石って…まさか落ちるとか⁉︎」
イーベット「…別に焦る必要はないだろ?
たまにあることだし…」
テイン「だよな?少し落ち着け」
イーベット「普通ならな。だが、突然今日になって
隕石の落下が明らかになった。どういうことか分かるか⁈」
バーニラ「じゃあ……もしかして⁉︎」
テイン「スペースアリジゴクってことか?」
フォール「ちょっと…わけが分からない…」
イーベット「お前は初めてか。宇宙空間を漂うアリジゴク、
それが地球をロックオンして猛スピードで向かってきてるわけだ。
だいたい…音速を超えるぐらいの勢いでな」
グリオ「そんなのがここに来るわけだ。しかも、
サイズは宇宙船並。これは私も初めての任務だ」
イーベット「じゃ、酒でも飲んで行きましょうか」
バーニラ「ハァ⁉︎こんな時に悠長に
酒飲んでる場合じゃないよ!」
テイン「ふざけるのも大概にしろ!」
イーベット「ただの冗談に決まってるだろ。
俺はああいうムードは大嫌いなもんで」
グリオ「とりあえず言えるのは時間がないということだ。
降下を止める余裕はない。私達の任務は
アリジゴクが大気圏に突入した際に剥がれ落とした
小型アリジゴクをまず討伐。住民の被害を最小限にとどめ、
その後、巨大アリジゴクを討伐。決死の覚悟で
当たってもらう」
イーベット「決死の覚悟…か。まっ、お気楽ご気楽に
いこうじゃありませんか」
バーニラ「死ぬかもしれない…久々に本気でやらないと」
テイン「苦難を強いられるが…僕達なら大丈夫!…
だといいけど」
フォール「……」
グリオ「緊張してるのか?」
フォール「…はい」
グリオ「まあ、当たり前だよな。安心しろ、
私がサポートする。お前も薄々気付いてるだろ?
その力をいかに使うか」
フォール「…はい!」
グリオ「よし!任務決行は1時間後!各ファイターは
配置につけ!」
全員「了解!」
アリジゴク1「ギャワァァァ!」
アリジゴク2「ガグゥゥゥゥ!」
フォール「来た…!」
グリオ「第一迷森『木喰』術・『木葉隠之陰謀』!」
アリジゴク1「バウ⁉︎」
バーニラ「キャアァァ!」
テイン「バーニラ⁉︎くそ、今助けー」
アリジゴクに捕まったバーニラを助けようと
テインは走り出したが、彼の後ろにもう一体、
アリジゴクが潜んでいた。
テイン「うわっ、えっ……嫌だ…嫌ー」
彼の抵抗する言葉を躊躇することなく、
アリジゴクは彼を一飲みにした。
フォール「テイン⁉︎グリオさん、早く!」
グリオ「…無理だ」
フォール「へ?」
イーベット「グリオの頭!諦めるのがちょっと早いんじゃないか?
俺がまだいるだろ?」
グリオ「イーベット…お前に何ができる⁈」
イーベット「俺の術が何か…知ってるだろ?」
グリオ「…お前の能力は下克上…この困難を
乗り越えたとしてアイツらは…!」
イーベット「そう、下克上。俺は何の取り柄もない
アイツらを下克上させた。俺は俺自身に
名誉を欲してない。アイツらに全てを託す」
グリオ「イーベット⁉︎お前、何をー」
イーベット「2人のこと、任せたぞ、フォール」
イーベットは右手でフォールの頭を撫でて
左手で肩を叩いた。
フォール「えっ…何で俺に…」
イーベット「俺もお前には期待してる。それだけだ。
お前の力があればこんな異変、すぐに片付くと思うからな」
グリオ「イーベット、何をする気か聞いている!」
イーベット「この事実全てをひっくり返す、
とでもいったところか?」
グリオ「なっ…お前の魔力はそこまで高くない!
無理に高技術の魔力を使えばー」
イーベット「俺はあの2人を見捨てることはできない。
なんて、いつもふざけてる俺が言うのもおかしな話だ。
だからこのことは絶対に言うな。あの2人が死ぬより、
俺1人が死んだほうがマシさ」
グリオ「お前…正気なのか⁉︎」
イーベット「…この際だから言うしかないよな。
俺、ふざけてばかりだったけど、ちゃんとした理由がある。
俺は、つまらない時を過ごしたくねぇ。仲間にも
過ごしてほしくねぇ。だから、こんなシーンで
おっ死ぬのはカッコ悪いしつまんねぇだろ?」
イーベット「そんな理由で死ぬ気か⁈」
イーベット「あ〜!もう、フォール!
この分からず屋に教えといてくれよ!じゃあな!
最終下克上『逆転』術・『オールリバース』!」
辺り全ての空間がブラックホールに吸い込まれるように
ねじれにねじれた。そして、イーベットの体からは
強すぎるあまりに魔力の塊が溢れていた。
そして、時は過ぎー
グリオ「ん…終わった…のか…!イーベット⁉︎」
イーベットは呆然と立っていた。しかし、
辺りに散らばった魔力の塊や、イーベットにまとわりついた魔力が
一斉に彼を魔物に変えた。
フォール「なっ…⁉︎」
イーベット「ゴロ…ス……ミナ…ゴロス…!」
グリオ「魔力の使いすぎで力に生を奪われたか…
こんな形でお前と戦うとは…」
フォール「…俺がやります」
3節 決心
フォール「俺がやります」
グリオ「えっ?今…なんて」
フォール「俺はイーベットに託された。だから、
俺がかたをつけます!」
グリオ「…いいのか?」
フォール「はい!俺、探したいんです!俺のこの力を
どう活用すればいいかを!」
グリオ「…そうか」
フォール「イーベット、俺が相手だ!この街を…
壊しやしない!」
イーベット「ゴワス……スベテ…ゴワス!」
腕を触手のようにイーベットは操り、フォールの首を
締めようとした。
フォール「うわっと!あっぶな…こりゃ、本気で…!
そうだ、俺の本気は街を壊す…なら壊してもいいものから
光を奪えばいいのか!壊してもいいもの…」
イーベット「ゴロス!」
フォール「どわぁ!そんなの探す暇がない!」
と、フォールが焦っていると、風が吹いて
1枚の枯葉が舞った。
フォール「…これだ!枯葉から光を奪って…!
第一暗黒『木喰』術・『無数葉之影踏』!」
いくつもの枯葉が光を奪われ、その光が
魔物と化したイーベットを包み込み、
やがて破裂した。
グリオ「……やった…のか?」
イーベット「……あぁ……」
フォール「イーベット!」
イーベット「…すまんな…助け…られなかった…
やつら…アリジゴクじゃなかった…チックショー、
俺としたことが…無駄だった」
グリオ「…っ!」
フォール「無駄なんかじゃない!俺、やっと……
やっとこの力を活用できた…!なのに…
よりによって人殺しに…!」
イーベット「フォール…人殺しじゃねぇ…お前は、
救ったんだ…俺も…市民も…この街も。
少し、手貸せ」
フォール「えっ…」
少し迷うも、フォールは右手でイーベットの左手を握る。
すると、イーベットは右手で握り返してー
イーベット「俺の手、あったかいだろ?
よく言われたもんだ、俺の手はあったかいってな」
フォール「…?」
イーベット「だから何だって話だよな。俺の体は
魔力に耐えきれなかったみたいだが、俺の魂は
お前が救ってくれたのは他でもない事実だ。
人殺しは…っ!お前じゃなく、俺のほうだ。
あの2人を…救えず、お前を悲しませた、な」
グリオ「何こんな時だけマジメでいられる!
お前は本当にこれでいいのか⁈」
イーベット「グリオの頭、さっきも…言ったろ?
俺は俺自身の名誉は欲していない。アンタと一緒さ」
フォール「……約束しただろ!俺が完璧に
ふざけられるよう、厳しく指導するって!
あの約束は何だったんだ!」
イーベット「…あれも、おふざけってことにしといてくれ。
そうすれば、お前は俺のこと嫌いになれるだろ?」
イーベットは笑ってフォールにそう言った。
フォール「……嫌いになんか…なれるわけないだろ!
大っ嫌いだよ!お前なんか…!」
イーベット「なら、俺の頬に落ちてくる雫は何だろな?
あったかくて……気持ちいい……」
最後の力と言わんばかりに震えたイーベットの左手が
フォールの頬を伝い、濡れた瞳をゆっくりと拭った。
フォール「イーベット…?」
拭い切るのと同時に、その左手は重力に従って
地面を叩いた。
フォール「……イーベット……」
グリオ「…フォール、大丈夫か?」
フォール「……“グリオ”、秋だな」
グリオ「?あ、あぁ、秋だな」
フォール「秋といったら、米の収穫。そして、
祭りをして酒を飲む。よし、酒飲もうぜ!」
グリオ「フォール……イーベットはそんな震えた声で
酒は飲まん。もっとハキハキと……でも、
ありがとう。デ・ジャポネは課長が戻るまで
営業停止にするか」
数日後ー
課長「そうか…テイン、バーニラ、イーベット…
皆、この街を守るために…」
グリオ「はい。これで報告は終わりです。それでは、
私は四大グループの方にー」
課長「待った。フォール君、君も正社員として
四大グループで働かないか?」
フォール「俺が…?バカ言うな、俺は…そうだな、
普通にデ・ロワーでいい。有名どころで俺でも
問題はないだろ?」
グリオ「いいのか⁈折角のチャンス…」
課長「まあ、本人がそう希望するなら、
なんの問題もないのはたしかだ。それじゃ、
デ・ロワーに報告書出しておくから
東京に行くリニアの切符でもー」
フォール「俺は電車で行く。ゆったりと旅しながら行くさ。
俺はそういう旅、大好きだしな」
グリオ「それだと1週間はかかるぞ」
フォール「だから、俺はそういう旅が好きなんだ。
酒も飲めて一石二鳥だろ?」
グリオ「まったく、アイツの余計な所を見習ったもんだ」
5日後ー
フラット「よし!片付け終了!」
ノール「こんなにいらない書類が残ってるなんて、
結構ペーターって面倒くさがる方?」
その頃、デ・ロワー入り口ー
フォール「えっと…ここだな」
ペーター「いや、俺とナックラーだけで片付けなんて
手が回らなかっただけだよ。それにナックラーは
ミスばっかするから余計に書類が増える」
ナックル「俺のせいか⁉︎すまん!」
エド「でも、いきなり何すか?片付けやるなんて
普通言わないっすよ」
その頃、食堂ー
フォール「チェ、酒はねぇか」
クレア「人数が増えたせいでこのオフィス、
結構狭く感じるだろ?そこで、新しいデスクを
買うためにもスペースを広くしようってことで
この棚をどかすことにしたんだ」
スター「あれ、その中にお花の種仕舞ってたんだけど
どこに置いたの?」
ナックル「それなら机の上だぜ。ほら、そこ」
スター「あ、本当だ。ありがとね、ナックラー!
じゃあ中庭に埋めてくる!」
廊下ー
フォール「ヤベ…迷った…何階だっけな…」
スター「フンフーン、フンフフーン」
フォール「えっ、子供…?知ってるわけ…」
スター「?おじさん、何してるの?」
フォール「おじ…⁉︎これでもまだ若いんだぞ!
っと、そうじゃなくてだな…お嬢ちゃん、
ファイター課がどこか知ってる…わけないよな、
こんなガキじゃー」
スター「へぇ〜、スターのことただの幼い少女だって
思ってるんだ〜?」
フォール「げっ⁉︎ま、まずい⁉︎トンズラするか!」
フォールは一気に廊下を駆け抜けていった
スター「…おじさん、ファイター課なら
この上だよ〜」
フォール「ん…上…?何でお前が知ってー」
階段から廊下を見下ろしたが、その声が聞こえたはずの場所に
スターはどこにもいなかった。
フォール「…アイツも、なのか」
数分後ー
フォール「あ、ここか…酒、あるかな…ん?」
部屋の中ー
ノール「あとは…この棚か」
スラリア「でも、全然この引き出し出てこなくて…!」
クレア「貸してみろ。グ〜ッ!な、何だこりゃ⁉︎」
フラット「磁石で無理矢理引き出すとか?」
ペーター「こんな引き出しを引っ張れるほどに強い磁石が
あるわけないだろ?」
フォール「掃除でもしてんのか?しょうがない」
フォールは扉をコンコンとノックする。
ペーター「誰だ?今日は客の予定なんてないはず…」
ペーターが扉に向かう前にフォールが開けた。
フォール「初めまして!アカデミー京都支部、
デ・ジャポネから来ました、フォールです!」
ペーター「ちょ、君!こちらが開けるまでは
勝手に入らないように!で、フォールだっけ?
君のことは聞いてるが明後日だろ、こっちに来るのは」
フォール「あれ、そうでしたっけ?四大の方からは
今日ぐらいには着けるようにと言われたんだが…」
ペーター「…推薦書だと君は酒癖が悪いと書いてあったから
もしかしたらどっかで酒飲んで、こっちに来るのは
時間がかかるとでも思われたんじゃないのか?」
フラット「酒癖が悪いって…どんな」
ナックル「酒好きか!バルシアと気が合いそうだな!」
そのナックルの笑顔を最後にフォールは夢から覚めた。
フォール「…そうか。俺は…この力で…そうだ、
壊してどうする!裏切りじゃねぇか…!
この力をくれた…アイツらまで!」
力一杯右手をギュッと握り締めた。手のひらからは
血が垂れていた。
フォール「…俺は俺だ。俺なりにやらせてもらう…!」
翌朝ー
フラット「いよいよイベント!特訓はできた⁈」
エド「バッチリっすよ!」
クレア「俺の進化した弓術、見せてやるよ」
スラリア「いい音色を作れたよ。楽しみにしてて」
スター「スターの癒しの風、もっと気持ち良くなったよ!」
ペーター「四大のやつらは?」
フラット「それが…帰っちゃったんですよ。何か…
ゼウス様が緊急事態だって」
クレア「あぁ、渋谷で巨大魔力を探知したってな」
ペーター「き、君達は行かないのかい⁈」
バジー「行く必要がないんですの。魔力のもとが
全て低級魔族だったので」
ペーター「そ、そうだったのか…」
フラット「なので僕達は僕達でイベントをー」
「そんな余裕でいられるとは…」
ノール「ちょっと、あなた誰?扉の前にいられても
邪魔なんだけど」
扉の向こうでノールと誰かが話していた。
「ちょ、雰囲気壊すな!」
クレア「おいおい、何の騒ぎだ?」
ノール「あ、この変な仮面してるやつ、知ってる?
なーんか、怪しいだけでどっかで会ってる気が…」
「一応言っておくが、低級魔族の大量発生は
俺がやったことだ」
クレア「…はぁ?」
スラリア「誰?お客さん?」
「もういいや、俺の名前は闇帝。そして、今ここに
お前ら神軍と我ら魔軍とでこの上界の領主を定める戦乱を
起こすことを宣言する!」
フラット「えっ…宣戦布告⁉︎」
闇帝「この度我らが進軍させた低級魔族を、
ただの低級魔族と見てたら大間違いだ。まあ精々、
悲報を待ち侘びることだな」
ケーベス「おいフラット!」
メダイ「すぐに渋谷!行かなきゃまずいよ!」
コータス「このままだと、渋谷が魔族に…!」
フラット「まさか…⁉︎」
闇帝「フフッ、もう時は満ちたか。言っておくが、
この件はお前らの追っているやつらとは無関係だ。
俺、闇帝様が1人でやっていることだ」
スラリア「…何やってるの、フォール!」
闇帝「⁉︎フォール…?誰のことだ、俺は闇帝だとー」
スラリア「あたし達がその声を忘れるとでも
思ってるわけ⁉︎」
闇帝「だったら何だという⁉︎お前の言うフォールも
所詮は魔族の者!親族に戻った思えなんぞに
とやかく言われる理由はねぇ!」
スター「……忘れちゃったんだ、じゃあ仕方ないよ」
闇帝「まあ、俺はこれで。渋谷はもう頂いたも同然だからな」
ケーベス「早く行くぞ!」
コータス「…もう手遅れだ。四大からの連絡も途絶えた。
終わりだな、渋谷は」
闇帝「どうなってるか、気になるだろ?
見てこいよ、お前らは招待客だ、手出しはしない」
フラット「…いい。自分達で確かめる」
闇帝「まあ、いいけど。自力で渋谷まで行けるか?
既に我が魔軍はさらに進軍している!破れることなどない!」
コータス「⁉︎ベングルから連絡きた!」
ペーター「出てみろ」
コータス「了解!」
応答ボタンをコータスは即座に押した。
ベングル「大変だ!グリオが…グリオが魔獣に!」
フラット「魔獣⁉︎嘘…」
闇帝「だから言っただろ?ただの低級魔族と
思ってたら大間違いだと」
ノール「どういうことだ!」
闇帝「やつらは、魔族の血を少しでもひいてる者を
魔族に変える。まあ、お前達は神の血を引いちまってるし、
そんなことにもならねぇけどな」
スター「ねえ!じゃあ早く行こう!グリオが!」
闇帝「…安心しろ。魔獣は俺が可愛がってやるよ」
闇帝と名乗る男はそう言うと、闇の中に溶け込んだ。
フラット「…とにかく、行くしかないね。まだ間に合うかも!」
全員「了解!」
渋谷ー
ライ「そう気を落とすなでござる。ベングル殿の心中も
分からぬもないでござるが、当分このままというわけにも
いかぬでござろう?」
ベングル「だけどよ…!アイツがいなくなったら四大グループは
どうなっちまうんだよ!」
ライ「…ダンステード殿が残ってるでござる。希望は
残ってるでござるよ」
フラット「おーい!」
ベングル「⁉︎フラット…」
スラリア「うわっ、ここ渋谷だよね…?魔獣だらけ…」
ノール「闇世界みたいだな…」
クレア「魔獣…これが」
ベングル「グリオは…闇帝とかいうやつに連れてかれた。
何されるんだ…!」
フラット「それは…
たぶん大丈夫!そう信じてよ!」
ライ「フラット殿…」
フラット「信じることがスタートライン!
結果見るまでは信じよ!答え見るまでは信じるのみ!」
闇帝「いつまでそう言えるかな?」
ベングル「⁉︎闇帝…!」
闇帝「さっ、退いてもらうか。渋谷を守る者達は
力を失せ、
今からこの地を魔界に繋げる。我らが闇世界の領地として
扱わせてもらいますゆえ、それでは」
闇帝がそう告げると、渋谷は闇に染まった結界に
包まれてしまった。
フラット「嘘…!」
クレア「してやられたな」
スラリア「ねぇ…これからどうするの?魔獣と、
アザゼル達を相手にするのは…」
闇帝「ご心配なく。この魔獣はお前達の追っている奴らを
お前達に仕掛けたりはしないと約束しよう」
そう言うと、闇帝もその中に入っていった。
ノール「…フラット、信じるのか?」
フラット「…どうとも言えないけど…動きを
よく観察しよう。でも…スラリア、さっき闇帝を
フォールって呼んだけど、何だったの?」
スラリア「あ、あれは何となく…よく分からなかった。
自分でも、何であれをフォールって呼んだのか」
スター「えっ?あれフォールじゃないの?
声とか口調とか完全にフォールだと思ったんだけど…」
フラット「声は仮面で反響してたし、口調なんて
似てる人もいくらだっているから…それがフォールと
錯覚させたってことかな?」
スター「錯覚…?」
エド「フラット、スターには難しい言葉じゃ伝わらないっすよ。
錯覚っていうのは、勘違いのことっすよ」
スター「えっ?スターの勘違いだったの?」
クレア「まぁ、あれがフォールだったら
さすがに見限るわ」
エド「えっ、見限るんすか⁉︎」
フラット「見限ることはしないけど……説教じゃ済まされないかも」
クレア「本当、お前らは優しいやつだな」
ノール「でも…」
全員「…でも?」
ノール「腑に落ちない点がある。あの闇帝というやつ、
目的が分からない。この東京を闇世界の領地にしたところで
神界が黙ってるわけが…」
フラット「神界って…本当にあるの?」
クレア「神話だけじゃねぇのか?」
ノール「じゃあ、私達に引き継がれてる神力は
なんだって言うんだ?」
エド「でも、神は全滅したって言われてるっすよ!」
ノール「何言ってる。それはおとぎ話だ」
エド「あ、あれおとぎ話っすか⁉︎」
クレア「ったく、だが聞いたことないな、
神界の存在は…」
ノール「?神界はすぐ行けるぞ?行ってみるか?」
スラリア「あ、あたしはいい!絶対いい!」
クレア「スラ?」
スラリア「あそこは…行きたくない」
ノール「あっ、スラリアはそうか。じゃあ、
ちょっと待っててくれ。私達は行ってるから」
スラリア「えっ…じゃ、じゃああたしにも
付き合って!いいでしょ?」
フラット「ちょっと待って?イベントは?」
クレア「こんな大事件が起きてやってる場合か!」
ノール「ペーターにも中止にするよう促しといた。
心配はいらない」
フラット「じゃあ…今からどこに行くの?」
ノール「死神を祀る教会だ。神の血を引くものは
神像の前に立つと神界に行けると言われてる。
私も流石に迷信だとは思ってたが、あの教会が
言ってた予言が当たったからな。行ってみる価値はある」
スラリア「…うん。それに…あたしも、戻らないと…」
クレア「…戻る?」
スラリア「うん。あたしの実家、あそこだから。
月にあったのは母さんの。だから…」
ノール「えっ、実家⁉︎あそこの⁉︎」
スラリア「うん…あれ、知ってたんじゃなかったの?」
ノール「…行くぞ、どこに付き合えばいい?」
スラリア「…?ふ、服屋。帽子とか…サングラスとか
買いたいから…お婆様に会うのはちょっと…ね」
クレア「お婆様…?」
フラット「聖母の…えっと、誰だっけ?」
ベングル「聖母ワンダー・リア。死神の力を失った今でも
死を待つ教会と呼ばれるタナトス教会で
未練なくあの世に行ける手助けをしている」
ライ「ベングル殿、拙者達は今、四大グループに戻り、
今後のことについてまとめなくてはならぬでござる」
ベングル「それもそうだな。お前達はお前達で
神界にでも行ってこい!」
フラット「わ、分かった…?」
スラリア「本当にごめんね!あたしの為に
時間使わせちゃって!」
ノール「はあ、だからお嬢様って嫌なんだ」
クレア「ノール⁉︎」
エド「な、何すか今の言い方⁉︎」
ノール「私、教会のお嬢様は嫌いなんだ、ダメか?」
フラット「ま、まあまあ!今は神界にね!」
スラリア「本当にごめん…」
クレア「な〜に、俺達がそんなこと気にするやつかよ。
それにお前に似合いそうなの、選んでやるよ」
スラリア「本当⁉︎お願い!」
クレア「任せとけ!」
服屋ー
マドール「あら、いらっしゃい」
クレア「スラリアに似合いそうな帽子あるか?」
マドール「う〜ん…そうねぇ〜…ニット帽かしら?
色は…赤色かしら。アスカちゃん、在庫は?」
アスカ「羽付なら。それでもよろしいですか?」
マドール「逆にナイスよ!」
クレア「代金は…うわっ、やっぱりブランド物だよなぁ」
マドール「ファイター割で半額よ」
クレア「あ、それならまあ…いいか」
スラリア「えっ、流石にあたしが払うよ!前も
あたしのプレゼントで…」
クレア「いいって。これはお前の復帰祝いだ」
スラリア「でも…」
エド「彼氏になって浮かれてるっすね」
スラリア「あ、ありがと…」
スター「アッツアツだね!」
クレア「だから茶化すな!」
マドール「フフッ、お似合いのカップルね」
スラリア「マドールさんまで!」
ノール「支払い済ませたなら行くぞ」
スター「ちょ、待ってよ〜!」
エド「なんか急に不機嫌っすよね、俺も向かってるっす」
マドール「あら、今からどこかへ行くのかしら?
渋谷が大変なことになったのに、呑気なものね」
フラット「いえ、今からタナトス教会に」
アスカ「えっ、誰か病気に⁉︎」
フラット「いや、そうじゃなくて神像に願いを…」
マドール「あら、意外と神様とか信じてるのかしら?」
アスカ「お師匠、フラットさんが神様みたいな人ですよ」
マドール「ただのジョークよ、本気にしないで」
フラット「それでは失礼します」
タナトス教会ー
スラリア「ここだよ。本当に変わってない。お婆様、
いなければいいんだけど…」
「ん?おや、お客様?」
ノール「あ、あなたがワンダーさんですか?」
ワンダー「いかにも、私はワンダー・リア。
このタナトス教会の聖母。私もいつ死ぬか分からない、
リア家の末裔である孫は行方不明でこの教会も
どうなってしまうか…あ、お客様には無関係の話じゃな。
どうぞお入りください。御案内は神主の者にお任せします」
神主「承知いたしました。皆様、ご用件は?」
スラリア「神像に祈りをしに来ました」
神主「あっ、どこかで拝見したことのあるような顔だと
思っておりましたが、デ・ロワーの方でしたか!
それではこちらにどうぞ」
6人は神主に連れられていった。
ワンダー「今の声は…まさかな」
神主「これこそ、タナトス様を祀っている神像です。
では、お好きなお祈りを込めてください」
クレア「じゃあ…俺から」
像の前で胸に手を当て、クレアは祈りを込める。するとー
?「お一人だけでなく、皆も祈りを込めなさい。同じ願いを
私に見せてみなさい」
フラット「!」
スラリア「今の…聞こえた?」
スター「うん!」
エド「同じ願いを見せろと言ってたっす!」
クレア「どういうことだ?」
ノール「私にも…聞こえたけど…願っていいのか?」
フラット「あ…えっと…」
神主「主の声が聞こえたのであればお祈りをする権利が
ある者です。どうぞお祈りください」
フラット「じゃあ…祈りを」
クレア(東京の平和を取り戻したい!)
ノール(神力を取り戻してまた戦う!)
スラリア(また皆で一緒に笑ってすごしたい)
スター(誰も傷つかない未来を作りたい)
エド(俺は……)
フラット(間違った道を歩む魔族を正したい)
?「…よく分かりました。あなた方の中で
私の元に来られる者は、スラリアだけです」
スラリア「えっ、あたしだけ⁉︎」
?「私の名はタナトス。私の神力を授けましょう。
我が神界に続く道、今のあなたになら見えるはず」
スラリア「…あっ!」
フラット「?どうかした?」
クレア「何かあんのか?」
スラリア「えっ…本当にあたしにしか見えてないんだ」
エド「何ブツブツ言ってるんすか?」
スラリアには神像に自分くらいの大きさの穴が
開いているのが見えていた。
スラリア「…行こう」
スラリアはその穴の中へ入って行った。しかし、全員の目には
スラリアが像の中に消えていったようにしか見えなかった。
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